本記事では、JAPANESEHEALTH.ORG編集部が、医学専門家の知見に基づき、手白癬の全貌を徹底的に解説します。日本皮膚科学会の最新ガイドラインに準拠した正確な診断方法から、市販薬の正しい選び方、専門医による治療法、そして近年世界的な問題となりつつある「薬剤耐性菌」という新たな脅威に至るまで、科学的根拠に基づいた信頼できる情報のみをお届けします。この記事を読めば、あなたの長年の悩みの原因が明らかになり、健康な手を取り戻すための正しい一歩を踏み出せるはずです。
この記事の科学的根拠
この記事は、入力された研究報告書で明示的に引用されている最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下の一覧には、実際に参照された情報源と、提示された医学的指導との直接的な関連性のみが含まれています。
- 日本皮膚科学会皮膚真菌症診療ガイドライン2019: 本記事における診断の基準(KOH直接鏡検法)、標準的な治療法(外用薬・内服薬の選択、治療期間)、および予防に関する推奨事項は、日本皮膚科学会が発行したこのガイドラインに基づいています1。
- 帝京大学による研究(原田氏ら、2023年): 日本国内におけるテルビナフィン耐性白癬菌の存在と広がりに関する記述は、帝京大学医学部真菌研究センターによるこの研究報告に基づいています2。
- 日本臨床皮膚科医会による調査(Foot Check 2023): 日本における白癬の有病率(約6人に1人)に関するデータは、この大規模疫学調査の結果を引用しており、疾患の重要性を強調するために使用されています3。
- 国際的な系統的レビュー(Hart R氏ら、2022年): アリルアミン系(テルビナフィンなど)とアゾール系抗真菌薬の有効性を比較する記述は、ランダム化比較試験(RCTs)を対象としたこの系統的レビューの科学的証拠に基づいています4。
- StatPearlsによる総説(Chamorro MJ氏ら、2024年更新): 「two-foot, one-hand症候群」という典型的な臨床像や、手湿疹との鑑別診断に関する国際的な標準知識は、この医学教育文献に基づいています5。
要点まとめ
- 手白癬(手の水虫)の最も一般的な原因は、自身の足白癬(足の水虫)からの自家感染です。「two-feet, one-hand症候群」が典型的な症状です5。
- 手湿疹と症状が似ていますが、手白癬は通常片方の手にのみ発症し、かゆみが少ないか、ないことが多いのが特徴です。確定診断には皮膚科での顕微鏡検査が不可欠です1。
- 治療の基本は抗真菌薬の外用です。症状が消えても、日本皮膚科学会のガイドラインでは最低4週間は治療を続けることが推奨されています6。自己判断でステロイド薬を使用すると症状が悪化するため厳禁です7。
- 近年、世界的に抗真菌薬テルビナフィンが効きにくい「耐性菌」が問題となっており、日本国内でもその存在が報告されています2。標準治療で改善しない場合は、耐性菌の可能性も考慮する必要があります。
- 家族への感染を防ぐには、タオルや足ふきマットの共用を避け、足白癬を含めて根本的な治療を完了させることが極めて重要です8。
手白癬(手の水虫)とは?足の水虫との深い関係
手白癬(Tinea manuum)とは、皮膚糸状菌(ひふしじょうきん)と呼ばれるカビ(真菌)の一種が、手の皮膚の最も外側にある角層(かくそう)に感染して起こる病気です9。原因となる菌は、足の水虫(足白癬、Tinea pedis)や爪の水虫(爪白癬、Tinea unguium)と同じ白癬菌(はくせんきん)、主にトリコフィトン属の菌です。
この病気の最大の特徴は、足白癬との密接な関連性です。手白癬の患者さんの多くは、同時に足白癬にも罹患しています。足を掻いたり、お風呂で洗ったりする際に、足にいる白癬菌が手に付着し、そのまま感染してしまう「自家感染」が最も一般的な感染経路です6。そのため、臨床現場では「two-feet, one-hand syndrome(片手両足型)」という典型的なパターンがよく知られています。これは、両足と、利き手で足を掻くことが多いことから片方の手にのみ症状が現れる状態を指します5。手に症状がある場合、必ず足の状態も確認することが診断の重要な鍵となります。
手白癬の主な症状:単なる手湿疹とどう見分けるか?
手白癬の症状は多様で、しばしば手湿疹や手荒れ、その他の皮膚疾患と間違えられます。しかし、いくつかの特徴的なパターンを知ることで、見分けるヒントになります10。
手白癬の臨床病型
- 角化型(かくかがた): 最も多く見られるタイプです。手のひら全体、特に指紋の線(手掌紋)に沿って皮膚が乾燥し、硬くなり、粉をふいたように白っぽく剥がれ落ちます(鱗屑:りんせつ)。通常、かゆみはほとんどなく、あっても軽度です。このため、単なる手荒れと勘違いして長年放置されるケースが少なくありません11。
- 小水疱型(しょうすいほうがた): 手のひらの縁や指の側面に、かゆみを伴う小さな水ぶくれ(水疱)ができます。手湿疹と非常によく似ていますが、手白癬の場合は片方の手に限局することが多いです。
- 輪状・丘疹型(りんじょう・きゅうしんがた): 手の甲や指の間に、円形または輪状の赤い発疹(紅斑)ができます。発疹の縁はわずかに盛り上がり、中心部は治癒しているように見えるのが特徴で、「ぜにたむし(体部白癬)」と同様の見た目になります12。
鑑別診断:他の病気との比較
正確な治療のためには、手白癬を他の類似した皮膚疾患と区別することが極めて重要です。特に手湿疹との鑑別は、治療法が全く異なるため必須です。以下の表は、主な鑑別点のまとめです。
特徴 | 手白癬 (Tinea Manuum) | 手湿疹 (Hand Eczema) | 掌蹠膿疱症 (Pustulosis) | 乾癬 (Psoriasis) |
---|---|---|---|---|
主な症状 | 乾燥、皮むけ、時に水疱。通常は片手のみ。 | 赤み、強いかゆみ、水疱、じくじく。通常は両手対称。 | 膿疱(うみを持った水疱)、赤み。 | 厚い銀白色の鱗屑(フケ)、はっきりした赤み。 |
かゆみ | ないか、あっても軽度なことが多い。 | 強いかゆみを伴うことが多い。 | かゆみや痛みを伴うことがある。 | かゆみを伴うことがある。 |
発生部位 | 通常は片手に多い(両足にも白癬があることが多い)。 | 通常は両手に左右対称に発生。 | 手のひらや足の裏。 | 手、肘、膝、頭皮など全身に及ぶことがある。 |
原因 | 白癬菌(真菌)。 | 刺激物、アレルギー、アトピー素因など。 | 不明(喫煙、金属アレルギーなどが関与)。 | 免疫系の異常。 |
検査 | 顕微鏡検査(KOH法)で菌が見つかる。 | 菌は見つからない。 | 菌は見つからない。 | 菌は見つからない。 |
なぜ手に水虫が?主な原因と感染経路
手白癬の感染源は、私たちの身の回りに潜んでいます。感染経路を理解することは、予防の第一歩です。
- 自家感染: 前述の通り、これが最も一般的な原因です。足白癬や爪白癬にかかっている人が、無意識に患部を掻くことで、手に白癬菌が付着し感染します6。
- ヒトからの接触感染: 白癬に罹患している他の人との直接的な皮膚接触(例:握手)や、感染者が触れた物を介して間接的に感染することがあります。例えば、家族内でタオルや足ふきマット、スリッパを共用することは高い危険性を伴います8。
- 動物からの感染: 犬や猫などのペット、あるいは牛などの家畜が皮膚糸状菌に感染している場合があり、それらの動物と接触することで人に感染することがあります13。
- 環境からの感染: 柔道場やレスリングのマット、ジムの共用具など、菌が付着した表面に触れることで感染する可能性があります。
また、感染が成立しやすくなる要因(危険因子)として、高温多湿な環境、多汗症、手に傷がある場合、糖尿病やステロイド治療中などで免疫機能が低下している状態などが挙げられます14。
診断のゴールドスタンダード:皮膚科では何をするのか?
手白癬の治療は、まず正確な診断から始まります。自己判断で市販薬を使う前に、皮膚科専門医の診察を受けることが強く推奨されます。なぜなら、もし症状の原因が手白癬ではなく手湿疹であった場合、水虫薬は効果がないばかりか、かぶれを引き起こす可能性があるからです。逆に、手湿疹用のステロイド薬を手白癬に使うと、一時的にかゆみが治まっても菌を増殖させ、症状を悪化・長期化させてしまう「Tinea incognito(タムシインコグニート、菌が隠れた状態)」を引き起こす危険性があります7。
皮膚科で行われる標準的な診断手順は以下の通りです。
- 問診と視診: 医師は症状がいつから始まったか、かゆみの有無、家族に水虫の人がいるか、ペットを飼っているかなどを詳しく尋ねます。そして、手の症状だけでなく、感染源となりやすい足や爪の状態も必ず確認します。
- 顕微鏡検査(KOH直接鏡検法): これが手白癬診断における「ゴールドスタンダード(最も信頼性の高い基準)」です1。症状が出ている部分の皮膚の表面(鱗屑)をメスやハサミで少量こすり取り、スライドガラスに乗せます。そこに水酸化カリウム(KOH)溶液を滴下して角質を溶かし、顕微鏡で白癬菌の菌糸や胞子が存在するかを直接確認します。この検査は数分で結果が分かり、その日のうちに確定診断が可能です。
- 真菌培養検査: 顕微鏡検査で菌が見つからないものの臨床的に強く疑われる場合や、治療に抵抗性を示す場合に、原因菌の種類を特定するために行われます。採取した皮膚の一部を特殊な培地で培養し、菌が発育するかを数週間かけて観察します15。
- 新しい診断法:白癬菌抗原定性検査: 近年、日本で開発され、2022年から保険適用となった新しい迅速診断法です。顕微鏡検査と同様に採取した検体を用い、菌の抗原を検出します。顕微鏡での確認が難しい場合でも、約15分で客観的な結果が得られる利点があります1617。
手白癬の治療法:市販薬と処方薬の完全ガイド
治療の基本原則:根気よく、広めに、症状が消えても続ける
手白癬の治療は、日本皮膚科学会のガイドライン1に基づき、以下の3つの原則を守ることが成功の鍵となります。
- 根気よく毎日続ける: 薬は毎日欠かさず塗ることが重要です。
- 広めに塗る: 症状が出ている部分だけでなく、その周囲にも菌が潜んでいる可能性があるため、一回り広く塗布します。
- 症状が消えても続ける: 見た目がきれいになっても、角質層の奥深くには菌が生き残っています。再発を防ぐため、症状が消失した後も最低4週間は治療を継続することが強く推奨されています6。
市販薬(OTC医薬品)の賢い選び方と注意点
軽症で、以前に皮膚科で手白癬と診断されたことがある場合に限り、市販薬(OTC)での対応も選択肢の一つです。しかし、初めての症状や、診断に自信がない場合は、まず皮膚科を受診してください。市販薬には様々な有効成分があり、特徴が異なります。
有効成分(系統) | 代表的な商品名 | 特徴・剤形 | こんな人におすすめ |
---|---|---|---|
テルビナフィン塩酸塩 (アリルアミン系) | ラミシールAT® | 殺菌力が高い。クリーム、液剤など剤形が豊富。 | 早く効果を実感したい人。 |
ブテナフィン塩酸塩 (ベンジルアミン系) | ブテナロック®Vα | 殺菌力が高く、角質層に長く留まる性質がある。 | 1日1回の使用で済ませたい人。 |
ラノコナゾール (イミダゾール系) | ピロエース®Z | 幅広い種類の真菌に効果がある。かゆみ止め成分配合品も多い。 | 強いかゆみを伴う場合。 |
ビホナゾール (イミダゾール系) | タムシチンキ®など | 1日1回タイプで、比較的安価な製品が多い。 | コストを抑えたい人。 |
注:上記は一例です。製品の選択や使用にあたっては、薬剤師または登録販売者にご相談ください。
【警告】自己判断でのステロイド配合薬の使用は絶対に避けるべきです。
市販薬の中には、かゆみを抑えるためにステロイド成分が配合されているものがあります。しかし、手白癬に対してステロイドを使用すると、免疫を抑制してしまい、白癬菌そのものを殺すどころか、むしろ菌の増殖を助長する結果となります。これにより、症状が見かけ上は改善したように見せかけ(Tinea incognito)、診断を困難にし、治療を著しく長引かせる原因となるため、絶対に避けてください75。
皮膚科で処方される専門的な治療薬
市販薬で改善しない場合、症状が広範囲に及ぶ場合、爪白癬を合併している場合などは、皮膚科での専門的な治療が必要です。
1. 外用薬(塗り薬)
市販薬と同じ成分でも濃度の高いものや、より新しい世代の抗真菌薬(例:ルリコナゾール、リラナフタートなど)が処方されます。医師の診断のもと、最も適した薬剤が選択されます。
2. 内服薬(飲み薬)
外用薬だけでは治療が難しい重症例、爪白癬の合併例、角化型で薬剤が浸透しにくい場合などに内服薬が用いられます。日本皮膚科学会のガイドラインでは、以下の薬剤が推奨されています118。
一般名(商品名) | 用法・用量(標準) | 治療期間(目安) | 主な注意点 |
---|---|---|---|
テルビナフィン (ラミシール®) | 125mgを1日1回 | 手:4-6週、爪:6ヶ月 | JDA推奨度A。第一選択薬の一つ。まれに肝機能障害が起こるため、定期的な血液検査が必要な場合がある。 |
イトラコナゾール (イトリゾール®) | パルス療法(1週間内服・3週間休薬を3サイクル) | 爪:3ヶ月 | JDA推奨度A。多くの薬と相互作用(飲み合わせ)があるため、服用中の薬は全て医師に申告することが必須。 |
ホスラブコナゾール (ネイリン®) | 100mgを1日1回、12週間 | 爪:3ヶ月 | 比較的新しい薬剤。治療期間が12週間と明確で、飲み忘れが少ない利点がある19。 |
【重要】治療の新たな世界的課題:テルビナフィン耐性白癬菌
もしあなたが標準的な治療法をきちんと守っているにもかかわらず、症状が一向に改善しない場合、その背景には「薬剤耐性菌」という新しい問題が潜んでいるかもしれません。これは、近年世界中の皮膚科医が警鐘を鳴らしている重要な課題です。
国際的な状況
2010年代後半から、インドを中心に、標準的な治療薬であるテルビナフィンが効かない白癬菌、特に「トリコフィトン・インドチネアエ(Trichophyton indotineae)」と呼ばれる新種の耐性菌による感染が爆発的に拡大しました20。この背景には、ステロイドと抗真菌薬を安易に混ぜた配合薬の乱用が指摘されています21。ステロイドが免疫を抑えることで、菌が中途半端に生き残り、耐性を獲得する機会を与えてしまったのです。この耐性菌はその後、欧米やアジア各国へと広がっています。
日本国内での状況
幸いなことに、2025年現在、前述のT. indotineaeによる大規模な流行は日本では確認されていません。しかし、決して安心はできません。帝京大学医学部真菌研究センターの原田和俊氏らの研究グループは、2023年に、日本国内の患者から分離された別の種類の白癬菌(Trichophyton rubrumなど)においても、テルビナフィンへの耐性化が起こり、それが国内で広がっていることを明らかにしました2。この耐性のメカニズムは、テルビナフィンが作用する標的酵素(スクアレンエポキシダーゼ)の遺伝子に変異が生じることによるものであることも突き止められています22。
臨床的な意味合い
これは、私たちにとって何を意味するのでしょうか?それは、「水虫は市販薬で簡単に治る」という常識が、必ずしも通用しなくなる時代が来るかもしれないということです。もし、あなたがテルビナフィンを含む薬剤で真面目に治療しても効果が見られない場合は、自己判断で治療を続けるのではなく、速やかに皮膚科専門医に相談してください。医師は耐性菌の可能性を考慮し、培養検査で菌種と薬剤感受性を確認したり、イトラコナゾールなどの異なる作用機序を持つ薬剤への変更を検討したりします4。
徹底的な予防と再発防止策:日常生活でできること
手白癬を一度治しても、生活習慣を見直さなければ再発のリスクは常にあります。以下の予防策を徹底しましょう。
- 足白癬の根治: これが最も重要です。足に菌がいる限り、手への再感染のリスクは無くなりません。足の治療も手と同様に、症状が消えてから最低1ヶ月は続けましょう6。
- 清潔と乾燥: 手足を毎日洗い、特に指の間まで丁寧に拭いて乾燥させることが基本です。
- 家族内感染の防止: 家族に白癬の人がいる場合は、全員で治療することが理想です。また、足ふきマット、スリッパ、爪切り、タオルの共用は避けましょう。これらは定期的に洗濯し、日光でよく乾かすことが有効です8。
- 公共の場での注意: スポーツジム、温泉、サウナ、プールなどの湿った床は白癬菌の温床です。裸足で歩くのは避け、個人用のサンダルを持参しましょう。利用後は速やかにシャワーを浴び、体をよく乾かしてください23。
- ペットの健康管理: ペットの毛が抜けたり、皮膚に異常が見られたりした場合は、動物病院で皮膚糸状菌の感染がないか確認してもらいましょう13。
特別な注意が必要な方へ:高齢者と糖尿病患者
高齢者や糖尿病を患っている方は、手白癬を含む真菌感染症に対して特に注意が必要です。これらのグループは、免疫機能の低下や血行障害などにより、感染しやすく、かつ重症化しやすい傾向があります。
特に日本の高齢化社会において、爪白癬は大きな問題です。爪が変形・肥厚することで痛みが生じ、歩行が困難になり、転倒の危険性を高めることが指摘されています24。また、見た目の変化が自尊心を傷つけ、温泉やデイサービスなどの社会活動への参加をためらわせるなど、生活の質(QOL)を著しく低下させる可能性があります25。
糖尿病患者の場合、末梢神経障害により足の感覚が鈍くなっているため、小さな傷に気づきにくいことがあります。白癬によって生じた皮膚のひび割れは、細菌が侵入する格好の入り口となり、重篤な二次感染症である「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」を引き起こす危険性があります26。ご自身やご家族がこれらの条件に当てはまる場合は、毎日の足と手の観察を習慣づけ、異常があればすぐに医療機関を受診することが極めて重要です。
よくある質問(FAQ)
Q1: 手の水虫は温泉やプールでうつりますか?
A: 温泉やプールの水自体から直接感染する可能性は非常に低いです。しかし、多くの人が利用する脱衣所の床や足ふきマットは湿っており、感染者から剥がれ落ちた皮膚(鱗屑)に潜む白癬菌が存在する可能性があります23。そこを裸足で歩くことで足に菌が付着し、結果的に手への感染につながることは考えられます。予防のためには、公共の場では個人用のサンダルを使用し、利用後は速やかに手足を洗浄・乾燥させることが大切です。
Q2: 家族にうつさないためには、どうすればいいですか?
A: 家族内感染を防ぐためには、まず患者さん自身が治療を徹底し、菌をなくすことが第一です。その上で、以下の対策が重要です8:(1)タオル、足ふきマット、スリッパ、爪切りなどを共用しない。(2)患者さんが使った後のお風呂の床は、軽くシャワーで洗い流す。(3)部屋をこまめに掃除し、剥がれ落ちた皮膚(鱗屑)を取り除く。鱗屑中の菌は数ヶ月間生存することがあります。
Q3: 薬を塗り始めてからどのくらいで効果が出ますか?
Q4: 治ったと思ったら、また再発しました。なぜですか?
A: 再発の主な原因は、(1)治療の中断:症状が消えたことで自己判断で薬をやめてしまい、生き残っていた菌が再び増殖するケース。(2)再感染:自宅のマットやスリッパ、あるいは公共の場から再び菌をもらってしまうケース。(3)感染源の未治療:手だけを治療しても、原因である足白癬や爪白癬が未治療のままだと、そこから何度でも手に感染します。まれなケースとして、前述の薬剤耐性菌の可能性も考えられます。再発を繰り返す場合は、必ず皮膚科専門医にご相談ください。
結論
手白癬(手の水虫)は、単なる手荒れと見過ごされがちですが、その正体は白癬菌というカビによる感染症です。正しい診断と治療を行えば克服できる病気ですが、それには正確な知識が不可欠です。本記事で解説したように、手白癬は足からの自家感染が主な原因であり、手湿疹との鑑別、症状が消えても治療を継続する根気強さ、そして家族や周囲への感染を防ぐための生活習慣の改善が重要な鍵となります。
さらに、テルビナフィン耐性菌という新たな世界的課題は、安易な自己判断の危険性と、専門医による的確な診断・治療選択の重要性を改めて浮き彫りにしています。手の異常に気づいたら、決して放置したり、不確かな情報で自己治療したりせず、信頼できる皮膚科専門医に相談してください。正しい知識を武器に、しつこい手白癬を克服し、清潔で健康な手を取り戻しましょう。
参考文献
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- 日本臨床皮膚科医会, 日本臨床寄生虫学会. 足白癬・爪白癬の実態と潜在罹患率の大規模疫学調査(Foot Check 2023)第1報. 日本臨床皮膚科医会雑誌. 2024;41(1):66-73. Available from: https://www.jstage.jst.go.jp/article/jocd/41/1/41_66/_article/-char/ja/
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