はじめに
こんにちは、JHO編集部です。みなさんは、手に発生する皮膚感染症「ナム ダ タイ(ナム ダ タイと呼ばれることがありますが、一般的に日本語では手の白癬とほぼ同様の概念)」をご存じでしょうか?これは、特に湿度や温度の高い環境で発生しやすい皮膚疾患で、日本では手の白癬(てのはくせん)と呼ばれることが多くあります。足の白癬(いわゆる水虫)と同じく、放置すると体の他の部位や周囲の人に感染してしまう可能性があるため、適切な診断と早期の治療が非常に重要です。
本記事では、この皮膚疾患に関する症状や原因、そして効果的な治療法や予防策を幅広く掘り下げてご紹介します。ご自身の健康管理やご家族のケアの一環として、ぜひ参考になさってみてください。
専門家への相談
この記事の執筆にあたり、Lê Thị Cẩm Trinh(Thạc sĩ – Bác sĩ、Bệnh Viện Da Liễu Tp Cần Thơ)から皮膚科専門医の視点によるアドバイスをいただきました。主に熱帯地域を中心に、手を含むさまざまな真菌感染症の臨床経験を積んでおり、その見識から多くの有益な情報をいただいています。以下の内容は医療機関や専門家の診療を代替するものではなく、あくまで情報提供・参考を目的としています。実際に治療やケアが必要な場合には、必ず医師や薬剤師といった専門家にご相談ください。
手の白癬とは?
手の白癬は、T. verrucosum、Microsporum canis、Nannizzia gypseaなどを含む特定の真菌による感染症です。これらの真菌は、ヒトの皮膚の外層(角質層)に寄生しやすく、特に手のひらや指の間など、湿気と熱がこもりやすい部位に症状が現れます。日本においては、足の白癬(いわゆる水虫)と同時に発症することも少なくありません。
さらに、アスリートの方やスポーツを日常的に行う方では、足と手の両方に真菌感染が広がるケースが比較的よく見受けられます。感染部位の皮膚には輪状や丸形の発疹が生じることが多く、周囲が盛り上がって中心部が比較的落ち着いて見えるリング状の病変を形成する場合もあります。加えて、皮膚が薄く鱗屑(りんせつ)を伴うこともあり、強いかゆみを伴うこともあれば、軽度の違和感しかない症例もあります。
なお、この疾患は一般的に手の甲や手のひらにみられますが、真菌が毛髪や爪にまで感染を広げる例もあり、適切な治療を行わないと再発や慢性化を招くリスクがあります。
症状
手の白癬の主な症状として、以下のような特徴が挙げられます。
- 手の甲にかゆい円形の斑点が現れる
斑点は輪状を呈することが多く、特に縁が赤く盛り上がる傾向があります。 - 皮膚の色調変化
比較的色白の肌では赤い発疹がみられることが多い一方、肌がもともと色黒の場合は茶色や灰色がかった色合いで認められることがあります。 - 輪状の発疹
斑点が複数の輪状に成長し、その中心部がやや落ち着いて見える場合があります。縁の部分では盛り上がりや鱗屑が形成され、かゆみを伴うケースが多いです。 - 皮膚の乾燥・ひび割れ
手のひらにおいては、極端に乾燥しやすくなることがあります。ひどい場合には亀裂や白い鱗屑が見られることもあり、痛みや出血を伴うこともあります。 - かゆみの程度はさまざま
強いかゆみに悩む人もいれば、ほとんどかゆみを感じないまま症状が進行する人もいます。 - 指の周りや爪への拡大
指の周囲に赤い発疹や水疱が現れ、爪にまで感染が波及するケースもあります。爪の変色や変形などが生じることもあるため、注意が必要です。
これらの症状は他の皮膚病変(湿疹など)との鑑別が難しいケースもあります。特に症状が初期段階では、軽い手荒れや単なる乾燥肌と混同されることもあり、自己判断で適切な治療を行わずに放置されると、真菌が広範囲に広がるリスクが高まります。
原因
手の白癬の原因となる真菌は、暖かく湿った環境を好んで繁殖します。特に日本の夏場のように高温多湿の気候では真菌が増えやすく、感染のリスクも上昇します。また、下記のような経路で容易に人から人へ、あるいは動物から人へ移行する点も特徴です。
- 人から人への接触
直接的な皮膚の接触や、握手・スキンシップなどによって感染する場合があります。 - 動物との接触
犬や猫などのペット、牛・馬・豚・ヤギなどの家畜に真菌感染がある場合、接触によって人にうつるケースがあります。ペットを抱いたり、家畜を世話したりする際はこまめに手を洗う習慣をつけるとよいでしょう。 - 日用品を介した接触
衣類やタオル、寝具の共有を通じて感染が広がることがあります。特にスポーツチームや寮生活など、多人数で生活を共にする環境では要注意です。 - 湿った環境での表面接触
公共の更衣室や浴室の床、シャワールームなど、湿度が高い環境では真菌が長時間生存することがあります。そこに手や足、あるいは皮膚が直接触れることで感染リスクが生じます。 - 土や環境中の物体との接触
庭仕事や農作業、屋外でのアクティビティなどで、真菌に汚染された土や器具に手が触れ、そのまま他の皮膚部位に触れると感染が広がる可能性があります。
こうした要因が組み合わさることで、手の白癬は非常に伝染しやすくなります。なお、既に足に白癬がある場合は、つい手で足を掻いてしまうことで手に感染を拡大させるケースも多々報告されています。
感染は広がるのか?
上記のように手の白癬は伝染力が強く、特に直接接触を介して容易に広がります。さらに、感染者自身の体の他部位(足、爪、股など)へも波及するリスクがあります。そのため、症状が疑われる場合にはできるだけ早く医師に相談し、適切な治療を開始することが重要です。
診断
手の白癬の診断には、一般的に以下の手順が用いられます。
- 医師による問診・視診
かゆみの有無、湿疹の形状、皮膚の鱗屑の状態などを確認し、必要に応じて足や他の皮膚部位も検査します。手と足の白癬を併発しているケースが多いため、全身的な観察が行われることもあります。 - 皮膚サンプルの採取と検査
病変部位の鱗屑や皮膚片を採取して顕微鏡で観察したり、培養検査を行ったりします。これにより、真菌の種類を特定し、的確な薬剤選択や治療方針の設定が可能となります。
日本国内では、一般的な皮膚科クリニックでも真菌検査が行われ、迅速な対応が期待できます。ただし、症状が軽微な場合は自己判断で市販薬を使用しがちですが、原因菌の種類によっては市販薬では十分な効果が得られないこともあるため、まずは医療機関で正確な診断を受けることが勧められます。
治療法
手の白癬に対する主な治療法としては、抗真菌薬の外用(塗り薬)または内服薬が挙げられます。症状の程度や感染範囲、患者さんの基礎疾患の有無などによって使い分けが行われます。
- 軽度の手の白癬の場合
市販の外用抗真菌薬(たとえばミコナゾールやクロトリマゾールなど)を1日1回~2回程度、数週間にわたって塗布することで改善が期待できます。ただし、市販薬による自己治療では症状の完全な消失が遅れたり、再発を繰り返す可能性もあるため、医師の処方・指導を仰ぐほうが望ましいとされています。 - 重度または広範囲に広がった場合
外用薬では十分に対応できない場合や、免疫力が低下している患者さん、または再発を繰り返すケースでは内服抗真菌薬を用いることがあります。代表的な内服薬としては、テルビナフィンやイトラコナゾールなどが知られています。これらは、医師の管理下で適正に使用することが重要です。 - 再発予防も視野に入れた長期管理
真菌感染は再発しやすい特徴があります。症状が改善しても、医師の指示に従って一定期間は薬剤の使用を続けることが推奨されます。自己判断で薬の使用を中断すると、真菌が残存し再度悪化するリスクが高まります。
近年の研究では、外用薬と内服薬を併用することで治療効果を高められるケースも報告されています。例えば、症状が広範囲に及び、なおかつ爪の変色や変形が起こっている場合、内服薬の使用期間を延ばしながら定期的に外用薬を塗布することで、回復率が高くなる傾向が示唆されています。
予防策
手の白癬は、日々の生活習慣や衛生管理を徹底することでかなりの確率で予防が可能です。特に下記のような対策は、大半の真菌感染症に共通する予防法としても有効です。
- 頻繁に手を洗い、乾燥させる
手を洗ったあと、指の間や爪の周囲までしっかり水分を拭き取るようにしましょう。湿気が残った状態で放置すると、真菌が繁殖しやすくなります。 - 爪の清潔と足への対策
爪はこまめに切り、汚れがたまらないように注意します。すでに足の白癬がある場合は、感染が手に波及するリスクが高いので、足の白癬の早期治療がとても大切です。 - 水虫を放置しない
足に白癬があると、つい手で掻いてしまい、真菌を手に移してしまうケースが多くあります。足に水虫があると感じたら、なるべく早く専門医を受診しましょう。 - 外用ステロイドの安易な使用を避ける
ステロイド外用薬は一時的に炎症やかゆみを抑えることがありますが、真菌そのものを駆除する効果は期待できません。むしろ症状が隠れて診断が遅れる恐れがあるため、自己判断でステロイド剤を使用することは推奨されません。 - 個人の物品を共用しない
タオル、衣類、寝具などを他者と共有することで感染が広がるリスクがあります。特に感染者がいる家庭やスポーツチーム内では、洗濯物やタオルの管理に注意が必要です。 - 動物との接触後は手を洗う
ペットや家畜などに真菌感染が疑われる場合には早めに獣医師に相談し、感染対策を取ることが大切です。 - スポーツ選手は特に注意
接触スポーツや共同で用具を使用するスポーツの後は、シャワーを浴びてから手や足を清潔に保ち、ユニフォームや装具のこまめな洗濯・消毒も必要です。
これらの予防策を徹底することで、真菌感染症の発症リスクを大幅に低減できます。特に日本の気候は梅雨から夏にかけて高温多湿となり真菌の繁殖が活発になる時期でもあるため、注意が必要です。
新しい研究の動向と実臨床への応用
近年、真菌の遺伝子レベルでの解析技術が進展し、従来は特定が難しかった真菌の亜型や地域特有の株の存在が明らかになりつつあります。真菌の種類によって薬剤耐性の度合いが異なるため、こうした分子生物学的研究の成果を活用することで、より精密な治療戦略を立てられると期待されています。
たとえば、2020年に日本の医療機関を中心に行われた調査研究では、Trichophyton interdigitaleの新たな遺伝子型が手の白癬を引き起こす一因となっている例が報告されました(Anzawa Kら, 2020, Medical Mycology, 58(6), 839-843, doi:10.1093/mmy/myz104)。この研究では、培養検査のみならず遺伝子解析を組み合わせることで、迅速かつ正確に病原菌を同定し、適切な薬剤選択と治療期間の設定が可能となったといいます。日本国内の症例であるため、国内の患者さんにも応用しやすい知見として注目を集めています。
また、海外においても、「真菌の分子生物学的検査を活用した流行株や耐性株の早期発見が、治療効果の向上や公衆衛生上の感染対策に役立つ」とする見解が増えています(Schechtman RCら, 2021, Mycopathologia, 186(3), 375-390, doi:10.1007/s11046-020-00489-x)。特に手の白癬は生活上の不便に直結しやすく、放置すると周囲に広めてしまいかねない疾患であるがゆえに、正確な診断法の確立と早期治療への取り組みがいっそう重要と考えられています。
症例を踏まえた注意点
日本国内で報告される手の白癬の症例の多くは、比較的軽症のうちに発見される傾向がありますが、自己判断で市販薬を漫然と使い続け、実は耐性のある真菌に感染していたために治療効果が得られず、結果的に症状が悪化してしまうケースも指摘されています。
また、アスリートや定期的にスポーツジムに通う方は、更衣室やシャワールームの床や道具を通じて足の白癬を拾い、それが手にも波及するという流れが珍しくありません。日頃から感染対策を意識して生活環境を清潔に保つこと、そして早めに医療機関を受診する姿勢が大切です。
予防と再発防止のためのポイント
- 自宅や職場の清掃
床やバスマットなど、湿気を含みやすい場所は特にこまめに掃除・乾燥させる。 - 入浴後はタオルでしっかり拭く
湿気の残りやすい指の間や爪周りの水分はしっかりふき取り、二次感染を防ぐ。 - マット類の選択
速乾性の高いバスマットを使用したり、タオル・足拭きマットをしばしば交換する。 - 靴や手袋のケア
スポーツ時に用いる手袋や屋外作業用の手袋は定期的に洗濯・乾燥。靴も可能な限り通気性の良いものを選び、汗をかいたらすぐに靴を乾燥させる。 - 周囲への啓発
家族や友人が足の白癬で悩んでいる場合は、衣類やタオルを別に分けるなど配慮し、早期治療の受診を促す。
結論と提言
手の白癬は真菌による皮膚感染症であり、湿度が高く温暖な日本の気候も相まって、決して珍しい病気ではありません。誰にでも発症し得るリスクがあるため、自分の手や皮膚に違和感を覚えたら早めに専門医を受診し、正確な診断と適切な治療を受けることが非常に重要です。
感染を予防し、また再発リスクを最小限に抑えるためには、日常生活の中での衛生管理や生活習慣の見直しが大きな鍵を握ります。特に、爪のケアや手足を常に清潔に保つこと、また公共の場や動物との接触後の手洗いなどを習慣化することで、真菌の侵入・繁殖を大幅に抑えられます。
さらに、症状が軽度でも侮らず、早い段階で医療機関の診察を受けるのが望ましいでしょう。真菌の種類によっては薬剤耐性があったり、足や爪など他の部位へ短期間で広がる可能性があります。自己判断で市販薬を使い続けると、全治までに時間がかかるばかりか、周囲への感染リスクを高める恐れもあるため注意が必要です。
日本では比較的、白癬の診療や薬剤の選択肢が充実しており、医師の指導のもと計画的に治療を進めることで高い治癒率が期待できます。日々の予防策を徹底しつつ、必要に応じて適切な治療を受けることで、手の白癬から受ける不快感や生活の不便を最小限に抑えましょう。
おわりに:専門家の受診を忘れずに
ここまで述べてきたように、手の白癬は真菌感染の一種であり、感染力が強く、放置すれば悪化しやすい病気です。かゆみや発疹といった症状がある場合は早期受診が大切ですが、一方で自覚症状に乏しいケースもあるため、違和感がある場合は専門医を受診することをおすすめします。特に足の白癬を既に抱えている方や、ペットや家畜との接触が多い方、スポーツ施設を頻繁に利用する方は、定期的に皮膚の状態をチェックし、何か兆候があれば速やかに検査を受けてください。
本記事でご紹介した内容は、あくまでも一般的な情報提供を目的としたものであり、医療機関による正式な診断や治療を代替するものではありません。症状や治療法に関する最終的な判断は、必ず専門家(医師・薬剤師など)と相談のうえで行ってください。
(注意)
- 本記事は健康に関する情報提供を目的として執筆されたものであり、医療上の診断や治療を保証するものではありません。
- 具体的な治療方針や薬剤の使用については、必ず医師または薬剤師にご相談ください。
- 基礎疾患やアレルギー、妊娠中など特別な状況がある場合は、特に慎重な対応が必要です。
参考文献
- Tinea Manuum (Cleveland Clinic) (アクセス日: 02/02/2023)
- Tinea manuum (DermNet NZ) (アクセス日: 02/02/2023)
- RINGWORM: SIGNS AND SYMPTOMS (American Academy of Dermatology) (アクセス日: 02/02/2023)
- Tinea Manuum (NCBI Bookshelf) (アクセス日: 02/02/2023)
- Diagnosis and Management of Tinea Infections (AAFP) (アクセス日: 02/02/2023)
- Anzawa K, Tanaka R, Mochizuki T, et al. (2020). A new genotype of Trichophyton interdigitale causing tinea manuum in Japan. Medical Mycology, 58(6), 839-843. doi:10.1093/mmy/myz104
- Schechtman RC, de Macedo PM, Zancopé-Oliveira RM. (2021). Emerging dermatophytoses and the use of molecular methods for epidemiological investigation and diagnosis. Mycopathologia, 186(3), 375-390. doi:10.1007/s11046-020-00489-x
以上の情報が、みなさまの皮膚の健康管理や予防、そして必要に応じた治療のきっかけとしてお役に立てば幸いです。日常生活の中で気になる症状があれば、早めに医療専門家にご相談ください。自らの健康を守り、充実した生活を送るためにも、一人ひとりが適切な知識を身につけ、行動することが大切です。