免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
はじめに
妊娠を望む方にとって、日頃の体調管理や薬の使用に関する情報はとても重要です。なかでも「抗生物質を服用すると受胎しにくくなるのではないか」という噂を耳にしたことがあるかもしれません。実際には、こうした噂と科学的根拠とのあいだにどのような関係があるのでしょうか。本記事では、抗生物質が妊娠や生殖能力に与える影響について、現時点でわかっている情報を幅広く掘り下げながら解説します。さらに、妊娠中に抗生物質を服用する場合のリスクや注意点なども含め、日常生活で役立つ知識を詳しくご紹介します。
専門家への相談
本記事で取り上げる情報は、医療従事者が臨床で用いるガイドラインや信頼できる文献をもとにまとめています。また、感染症の治療や妊娠中の感染管理に明るい医師(以下、英語表記のまま)Nguyen Thuong Hanh からの医学的な見解も参考としています。ただし、個々の病状や体質によって適切な治療法は異なるため、実際の服薬や治療にあたっては必ず医師・薬剤師など専門家に相談してください。
抗生物質をめぐる一般的な理解と妊娠との関係
抗生物質は、体内の細菌による感染を抑えたり根絶したりする目的で使用される薬剤です。一般的には風邪やインフルエンザのようなウイルス感染症には効果がなく、細菌性感染症に対して処方されるケースが多く見られます。抗生物質が体内の有害な菌を抑える一方で、腸内細菌や膣内細菌など身体にとって好ましい菌にも影響を与える場合があり、そのためにさまざまな副作用が懸念されがちです。
妊娠を希望する方の中には、「抗生物質を飲むと女性ホルモンのバランスが乱れ、排卵や受精に影響するのではないか」「男性の精子に悪影響が及んで受胎率が下がるのではないか」などと心配する声もあります。しかしながら、これらの噂と科学的根拠には大きなギャップがあるのが現状です。本記事では、女性・男性それぞれの生殖能力に焦点を当て、最新の見解を整理します。
抗生物質と女性の生殖能力
抗生物質は本当に排卵や着床を阻害する?
女性においては、卵巣での排卵や子宮内膜の着床環境など、多様なホルモンや生理的メカニズムが妊娠に関わります。もし抗生物質がこれらのプロセスを直接阻害するのであれば、確かに受胎を妨げる一因となりえます。しかし、現在までに公表された研究結果では、「抗生物質の服用自体がホルモンバランスを乱し、排卵や着床を大幅に阻害する」という確固たる証拠は示されていません。むしろ「感染症による体調不良が性交渉の頻度やタイミングに影響し、結果的に妊娠の確率を下げている」可能性のほうが高いと考えられています。
実際に、抗生物質そのものが女性の卵胞ホルモンや黄体ホルモンに悪影響を与えるというデータは、現在のところ見当たりません。排卵日がずれる、もしくは月経周期が一時的に乱れると感じることがあるかもしれませんが、それが必ずしも抗生物質の直接的な影響とは限らず、病気やストレスなど他の要因が影響している場合も多いと報告されています。
抗生物質が女性の体調を整える可能性もある
一部の感染症(骨盤内感染症や性感染症など)を放置していると、子宮内膜や卵管などに悪影響を及ぼして妊娠率を下げるリスクが高まることが知られています。抗生物質はこうした感染症を治療する手段でもあるため、むしろ適切なタイミングで服薬することによって、生殖機能を守り、妊娠に適した健康状態を取り戻せる可能性もあります。したがって、「感染症の治療」と「抗生物質の正しい使い方」は、妊娠を望む女性にとってはむしろプラスに働く場合があるといえるでしょう。
抗生物質と男性の生殖能力
抗生物質は精子に影響を与えるのか
男性の生殖能力においては、精子の数・運動性・形態などが重要視されます。これらの質や量が低下すると、女性の卵子と結合しにくくなり、結果として受胎率が下がるおそれがあります。実は、女性に比べて男性の生殖機能への抗生物質の影響については、比較的多くの研究が行われてきました。その中で、テトラサイクリン系、ペニシリン系、エリスロマイシン系などの一部の抗生物質は、投与量や期間によっては精子の質を一時的に低下させる可能性が指摘されています。
たとえば、ペニシリン系の中でも特定の成分は、精子形成を一時的に阻害する可能性を示す報告もあります。しかしこれらの研究の多くは、実験室レベルや動物モデルが中心で、さらにヒト対象の試験であっても被験者数が少ないケースが多いのが現状です。また、病気の重症度が高くて長期的に服用しなければならない特殊例も含まれるため、実臨床の一般的な範囲で服用する際には、あまり大きな影響は認められない場合もあるという見解もあります。
感染症を治療することでむしろ受胎のチャンスが高まる
男性が細菌感染症(前立腺炎や泌尿生殖器系の炎症など)を放置すると、精子の生産過程にダメージを与え、妊娠率の低下につながるリスクがあります。抗生物質による治療を受けることで、感染症が改善され、精子の質が回復しやすくなるという報告も少なくありません。したがって、「抗生物質そのものが生殖能力を下げる」というイメージだけで判断するのではなく、「そもそも感染症が妊娠率を大きく下げている」可能性にも目を向ける必要があります。
また、2022年に医学専門誌で発表された分析(Antibiotics: potential hazards to male fertility のデータなど)では、重症化した感染症を放置した場合の男性不妊リスクが改めて取り上げられ、適切な抗生物質治療によって改善するケースが一定数あることが示唆されています。感染症が慢性化すれば生殖機能が損なわれるだけでなく、パートナーにも感染を広げるおそれがあるため、専門医による正しい評価と治療が重要です。
抗生物質は妊娠自体を阻害するのか?
時期や体調による影響
一部の報告では、抗生物質の種類によっては子宮頸管粘液(頸管粘液)の分泌タイミングがわずかに影響を受けることがあると指摘されています。しかし、これをもって「抗生物質が直接受胎を阻害する」という結論を導くだけの十分なエビデンスはないのが現状です。むしろ、感染症の治療によって子宮頸管や骨盤内の炎症が改善されると、妊娠に適した生殖器官の環境が整いやすくなるという研究結果もあります。
感染症そのものが受胎率を下げている可能性
高熱や炎症を伴う感染症にかかると、性交渉の頻度やタイミングが自然に減ることがあります。また、病気によるストレスがホルモンバランスに影響するケースもあり、結果として妊娠率が一時的に下がることは否めません。こうした状況で抗生物質が処方される場合、「妊娠できなくなる」というよりは「感染症の治療を最優先し、その後に受胎を考える」という見方が正確といえるでしょう。
妊娠中の抗生物質使用に関するリスクと注意点
妊娠が成立した後は、胎児の成長段階や母体の状態によって薬物が及ぼす影響が変わってきます。とくに妊娠初期(おおむね妊娠12週ごろまで)は胎児の器官形成が活発に行われるため、多くの薬剤の使用には慎重が求められます。抗生物質についても、一般に安全とされる種類やそうでない種類が存在し、自己判断での服用は大きなリスクを伴う恐れがあります。
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比較的安全とされる例
医師が必要と判断した場合に限り、セフェム系(セファレキシンなど)やマクロライド系(エリスロマイシン、アジスロマイシンなど)、クリンダマイシンなどが比較的安全とされるケースが報告されています。ただし、いずれにしても投与量や投与期間は個人差が大きく、必ず専門家の指示が必要です。 -
服用に注意が必要な例
テトラサイクリン系は歯や骨の発育に影響を及ぼす可能性があるため、妊娠中には避けたほうが望ましいとされています。また、一部の抗生物質は胎児の臓器形成や機能に悪影響を与えるリスクがあり、重篤な奇形を引き起こすケースが報告された例もあります。妊娠が判明した段階や妊娠を計画している段階で、すでに服用している薬がある場合は、早めに医師に相談してください。
妊娠中の重度感染症にどう対処すべきか
妊娠中に感染症が悪化すれば、母体の健康だけでなく胎児の発育にも重大なリスクが及びます。たとえば、細菌性の腎盂腎炎や重度の呼吸器感染症などは早期治療が望まれ、医師が必要と判断すれば抗生物質を使用するケースがあります。これは「薬剤のリスクよりも、感染症が及ぼすリスクのほうが大きい」と考えられるためです。このように、妊娠中でも抗生物質が適切に役立つシーンはあり得るため、「妊娠しているから一切使えない」と思い込むのは危険です。
抗生物質の服用タイミングと妊活への影響
「今、抗生物質を飲んでいるが妊娠を試みてよいか」の疑問
感染症の治療中に、ちょうど排卵日が近づいていたり、子作りのタイミングを考えていたりする方もいるでしょう。その場合、「飲んでいる抗生物質が受胎に影響するのでは?」と不安に思うかもしれません。実際には、処方された期間中に服用を中断すると、感染症が再燃して長引く可能性があります。治療をきちんと完了しないことで、より深刻な合併症を招き、結果的に妊娠が難しくなる場合も考えられます。
どうしても心配な場合は、先に感染症をしっかりと治療したうえで、生殖医療専門医や婦人科医に相談するのが望ましいと考えられます。自己判断で薬をやめるのではなく、必ず医師の指示を仰ぎましょう。
感染症予防と日頃の健康管理の重要性
妊娠を望む段階で、できるだけ感染症のリスクを下げるための日常的な予防策も大切です。たとえば手洗い・うがいの励行、人混みを避ける、十分な睡眠と栄養バランスを保つなど、基本的な健康管理を行うだけでもリスクは軽減されます。抗生物質が必要になるほどの感染症にかかりにくくなることで、服薬に伴う不安も減らせるでしょう。
実際に確認されている研究と新たな見解
男性の生殖機能に関する近年の研究
2022年以降、男性不妊に関連する研究が世界各国で進められています。米国Cleveland Clinicでは、抗生物質の連用と精子クオリティの関係についての調査を行い、感染症が重度の場合、適切な薬剤を選択し治療したほうが妊娠率が改善したという報告もなされています(Drugs and Male Fertility 参照)。この調査では被験者の年齢層や既往症を詳細に分析し、「感染症による炎症を抑えることが精子の運動性回復や数の増加に貢献する」と結論づけられています。
また、感染症が慢性化しているグループは、抗生物質治療を受けずに放置した場合、精子のDNA損傷リスクが高まるという結果も示唆されました。すなわち、抗生物質の使用は“条件付き”ではあるものの、積極的に検討すべき治療手段になり得るということです。
抗生物質服用と女性の妊娠準備に関する海外文献
女性の生殖能力に関連するデータを検討した海外の報告(Prolonged Antibiotic Use など)では、長期的かつ高容量の抗生物質使用が排卵周期を一時的に乱す可能性がある一方で、投与中にしっかり栄養や休養を確保することで、大きな影響が出ずに済むケースも多いとされています。さらに、基礎疾患がある女性(自己免疫疾患や糖尿病など)は感染症にかかりやすいため、抗生物質の使用機会が増える可能性があります。このような方々では、医師に状況を伝えて十分な経過観察をしながら妊娠を計画することが重要です。
一方で、抗生物質の必要性が高いほど強い感染症に罹患しているともいえます。感染症そのものが、子宮や卵巣の機能障害、体力低下などを通じて妊娠率を著しく下げるリスク因子となるため、やはり「正しく治療を受ける」ことが妊娠準備の一環といえるでしょう。
妊娠中に抗生物質を服用する場合の実際
安全性が比較的確立されている薬剤とリスクのある薬剤
先述のとおり、妊娠中の抗生物質使用は種類と投与時期によってリスクが大きく異なります。比較的安全とされるマクロライド系・セフェム系の抗生物質であっても、自己判断で漫然と使って良いわけではありません。医師の処方に基づき、必要最小限の期間と用量で治療が行われることが原則です。反対に、テトラサイクリン系や一部のフルオロキノロン系は、胎児の骨や歯の発達に悪影響を与える可能性があるため、妊娠中は原則的に避けられます。
妊娠を継続するうえでの注意点
抗生物質による副作用の一つとして、腸内環境や膣内環境の変化が挙げられます。腸内細菌叢が乱れれば、下痢や食欲不振につながるかもしれません。また膣内の菌バランスが崩れると、かえって別の感染症(真菌感染など)のリスクが高まることがあります。こうした理由から、妊娠中に抗生物質を服用する際は、医師や薬剤師に副作用や注意点をしっかり確認し、必要に応じて整腸剤や膣内環境を整える対策などを組み合わせることが推奨されています。
日常でできる対策と感染予防
感染症予防の徹底が最優先
妊娠前・妊娠中にかかわらず、基本的な感染症予防対策が何よりも重要です。手洗い・うがいはもちろん、バランスのよい食事と十分な睡眠、ストレス管理など、生活習慣を整えることが感染リスクを下げる大きなポイントになります。インフルエンザやその他ワクチンの接種が推奨される場合もあるので、適宜かかりつけ医と相談して早めの予防策を講じましょう。
医師との連携と定期的な検査
定期的に産婦人科や内科などで検診を受けることも大切です。妊活中であれば、排卵周期やホルモンバランスなどを測定したり、男女ともに感染症スクリーニングを受けたりすることで、問題があれば早期に発見しやすくなります。もし感染症が疑われた場合には、なるべく早期に診察を受け、必要に応じて抗生物質を含む適切な治療を受けましょう。
結論と提言
ここまでの内容を踏まえると、「抗生物質を飲むこと自体が受胎を阻害する」という明確な証拠は現在のところ見つかっていません。むしろ重度の感染症や慢性化した感染症を放置することが、妊娠を難しくする大きな要因となる可能性が高いと考えられます。また、妊娠が成立した後も、適切な治療が必要な場合には医師の指示のもとで抗生物質を使用することは珍しくありません。要は「自己判断で薬を勝手に中断したり避けたりするのではなく、専門家と連携して感染症を早期に治療する」ことが妊娠への近道になります。
一方で、すべての抗生物質が安全というわけではありませんし、長期大量使用による精子や卵子への影響を検討する研究も続けられています。妊娠を計画している方、あるいはすでに妊娠中の方は、下記の点を念頭に置きましょう。
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体調不良がある場合は早めに受診
病気や感染症を放置しない。自己判断で市販薬や抗生物質を服用するのではなく、必ず医師に相談し、必要に応じた治療を受ける。 -
処方された抗生物質は最後まで飲み切る
途中で服用をやめると、菌が完全に死滅せず再燃する可能性がある。治療が長引けば妊娠への影響も大きくなる恐れがある。 -
妊娠の可能性がある場合は主治医に伝える
受診時に「妊活中である」「妊娠の可能性がある」などの情報を医師や薬剤師にしっかり伝えることで、より安全な薬剤を選択してもらえる。 -
感染予防と健康的な生活習慣を心がける
十分な睡眠、バランスの良い食事、ストレス管理、適度な運動で免疫力をサポートし、不要な感染リスクを下げることが大切。 -
男女ともに検査を受ける
妊活を本格的に進めるなら、男性側も定期的な検査を受け、自身の感染症リスクや精子の健康状態を把握しておくと良い。
最終的には、各個人の体調・病歴・ライフスタイルなどを踏まえた上で、医師や薬剤師など専門家と連携して治療計画を立てることが欠かせません。
参考文献
- Can Antibiotics Stop You from Getting Pregnant? (アクセス日:2019年10月27日)
- Yes, You Can Get Pregnant Like That! (アクセス日:2019年10月27日)
- Can I Take Amoxicillin While I’m Pregnant? (アクセス日:2019年10月27日)
- Antibiotics: potential hazards to male fertility (アクセス日:2022年2月21日)
- PROLONGED ANTIBIOTIC USE (アクセス日:2022年2月21日)
- Drugs and Male Fertility (アクセス日:2022年2月21日)
重要なご案内(本記事の最後に記載ください)
本記事の内容は信頼性の高い文献や医療情報をもとにまとめられていますが、あくまでも一般的な情報提供を目的としたものです。個々の症状や体質、感染症の種類、既往歴などによっては最適な治療法が異なる場合がありますので、具体的な服薬や治療方針に関しては必ず医師や薬剤師など専門家へご相談ください。本記事は医療行為の代替を意図するものではなく、あくまで参考情報としてご活用ください。