はじめに
産後、母乳育児を行いながら体重を落としたいと考える方は多いかもしれません。実際、妊娠中に増えた体重を気にしつつも、「授乳があるから無理なダイエットは赤ちゃんに影響するのでは?」と不安を抱える方も少なくありません。一般的に、授乳そのものがエネルギーを消費して減量に役立つといわれる一方で、なかには授乳期に体重が減りづらかったり、むしろ増えてしまう方もいます。本記事では、母乳育児中に安全かつ無理なく体重を減らすために、どんな点に気をつければよいのか、またどんな生活習慣が効果的なのか、可能な限り詳しく掘り下げて解説します。ここでは産後のお母さんが気になる「母乳育児と体重管理」の実態を整理しながら、実生活で活かせる工夫や注意点、さらに近年の研究で示唆されている知見も含めてご紹介していきます。
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専門家への相談
本記事では、母乳育児や産後の健康管理をめぐる複数の研究・文献を参考にしています。たとえば、国内外の育児関連団体や保健機関が推奨するガイドライン、加えて複数の医学論文や臨床試験の結果に基づき、できるだけ正確で信頼性の高い情報をお伝えするよう努めています。なお、本記事はあくまでも一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の診断や治療、専門的なアドバイスに代わるものではありません。産後の体調や持病、授乳の状況などは個人差が大きいため、ご自身に合った方法や改善案を見つけるには、医師や管理栄養士、助産師など専門家に相談することをおすすめします。
以下では、授乳と産後ダイエットにかかわる研究の紹介や実践例をまとめていますが、これらはあくまで「参考情報」という位置づけです。産後の身体はデリケートですので、無理に食事制限や運動を行うことで、母乳や体調に悪影響が及ばないよう、必要に応じて必ず専門家のサポートを受けてください。
母乳育児は本当に体重を落とす助けになるのか?
母乳育児がもたらすエネルギー消費
母乳をつくるには、多くのエネルギーが必要です。一般的に、授乳によって1日あたり約300~500キロカロリーを消費するといわれています。これは食事制限や運動で消費するカロリーに近い数字であり、理論上は授乳期に自然と減量が期待できる根拠の一つです。実際、「母乳育児を行う女性は、授乳しない女性よりも産後6か月以内の体重減少が早い」という調査結果も報告されています。とくに最初の数か月は赤ちゃんにミルクを与える頻度も高いため、多くのエネルギーを消費する可能性があります。
ところが、誰もが等しく体重を減らせるわけではありません。授乳すると空腹感が高まり、食事量が増えてしまう方もいるため、授乳に伴う消費カロリーが上回らず、逆に体重が落ちにくくなるケースもあります。加えて、産後は赤ちゃんのお世話で忙しく、細切れの睡眠しか取れないことが多くなり、それが食欲増進にもつながることがあるのです。
授乳期に体重が減らない要因
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食欲の増進
授乳によるエネルギー消費が増えると同時に、体がエネルギーを補給しようとするため、空腹感に襲われやすくなる方もいます。このタイミングで高カロリーな食品を多くとると、かえって体重が増えてしまうおそれもあります。 -
活動量の低下
産後すぐは赤ちゃんの授乳やおむつ替え、夜泣き対応などでまとまった睡眠時間が取れず、疲労感も強まります。疲れが続くと日中の活動量や外出機会も減りがちで、消費エネルギーがさらに下がる可能性があります。 -
睡眠不足とホルモンバランス
慢性的な睡眠不足は食欲や満腹感をコントロールするホルモンに影響を与え、つい食べ過ぎにつながるケースが報告されています。特に授乳期は不規則な生活になりやすいため、自律神経やホルモン分泌の乱れにも注意が必要です。 -
個人差
産後の体の回復ペースや基礎代謝、ホルモン状態は個人差が非常に大きく、一概に「授乳で必ず体重が落ちる」とは限りません。もともとの体質や妊娠中の体重増加量にも左右されます。
なお、2023年に日本国内で行われた前向きコホート研究(BMC Pregnancy and Childbirth, 23(1), 489. doi:10.1186/s12884-023-05951-w)によれば、産後6か月間の授乳実践者のうち、一定数の母親が「授乳期にも体重が思うように落ちず、むしろ横ばいまたは増加を感じた」と報告しています。その研究では、食生活や睡眠リズム、心理状態などの相互作用が強く、体重の変化は一様ではなかったとされています。こうした結果から、授乳期に減量を期待できる場合がある一方、生活習慣全体を見直さないと体重維持すら難しい場合もあると考えられます。
授乳期に安全かつ効果的に体重を管理するヒント
ここからは、母乳育児中に体重を管理するうえで、どのような点に注意し、どんなアプローチを試せるのかを詳しく見ていきます。ただし、どの方法も基本的には「赤ちゃんへの栄養と、お母さん自身の健康を最優先にする」ことが前提であり、過度な制限や無理な運動は控えましょう。
1. 栄養バランスの良い食事
授乳期の食事は、質・量ともにバランスが大切です。過剰なカロリー制限は母体の栄養不足を招くだけでなく、母乳の質や分泌量にも影響を与える可能性があります。具体的には以下の点を意識してみてください。
- タンパク質の確保
魚や鶏肉、大豆製品、卵などを適量摂取し、筋肉量や免疫機能を維持できるよう心がけます。 - 食物繊維の摂取
野菜、果物、海藻、きのこ、全粒穀物などを積極的にとり、便通改善や血糖値の急上昇を抑える効果を期待します。 - 良質な油脂の選択
揚げ物や菓子に使われるトランス脂肪酸を多く含む油は控え、オリーブオイルやごま油など、比較的ヘルシーとされる脂質を適量摂ることが望ましいです。 - 精製糖や加工食品の過剰摂取を避ける
甘味飲料やスナック菓子などの頻繁な摂取はカロリー過多を招きます。甘いものが欲しいときはフルーツを活用する、調理法を工夫して満足感を得るなどを検討しましょう。
2022年に発表された総説研究(Journal of Obstetric, Gynecologic & Neonatal Nursing, 51(1), 75–88. doi:10.1016/j.jogn.2021.10.006)では、産後に適度なタンパク質と食物繊維を中心にした食事を意識すると、母体の体力回復と適正体重の維持・減量が促される一方、極端な低炭水化物ダイエットは疲労感や母乳量の減少などマイナス面が現れるリスクがあると報告されています。日本人の食生活に合わせて、主食や汁物、主菜・副菜をバランスよく取り入れることが基本的には望ましいでしょう。
2. 適度な運動の取り入れ方
産後しばらくは体力や筋力が落ちている場合が多いため、激しい運動を急に始めると体への負担が大きくなります。まずは医師や助産師に相談し、以下のような軽めの活動を検討してみてください。
- ウォーキング
赤ちゃんをベビーカーに乗せて近所を散歩する、少し遠くのスーパーまで歩くなど、日常生活の延長でできる範囲から始めます。 - 軽い筋トレやストレッチ
自宅でできるスクワットや体幹トレーニング、ヨガなどで筋肉をほぐし、基礎代謝の維持を目指します。背中や腰への負担を避けつつ行えるメニューが理想的です。 - 赤ちゃんと一緒に動く
抱っこひもで赤ちゃんを抱えながら軽く家の中を歩く、あるいは赤ちゃんのお世話の合間に5分程度のストレッチを取り入れるなど、小まめに体を動かす工夫をします。
多くの研究で、産後2~3か月頃から徐々に軽度~中程度の運動を再開すると、筋力回復だけでなく精神的ストレスの軽減にも効果があると示唆されています。一方、無理にハードな運動を行うと母乳の分泌量低下や、体力の消耗につながる可能性があるので注意が必要です。
3. こまめな食事と水分補給
母乳育児期は特に水分補給が大切で、こまめに水やお茶などを飲むよう心がけましょう。脱水状態になると母乳量の減少につながりやすく、さらに疲労感や便秘などを助長するおそれがあります。食事に関しても、1日3食しっかり食べつつ、間食を上手に活用することで過度な空腹感を防ぎ、食べ過ぎを予防できます。
- 3食+2回の軽めの間食
朝昼晩の食事がどうしても不規則になりがちな場合、ヘルシーな間食(ヨーグルト、ナッツ、果物など)をとりいれて空腹をコントロールする手もあります。 - 水やお茶を意識的に飲む
授乳中は自覚がなくても水分を消耗します。2リットル前後を目安に、水やカフェインレスのお茶などで補給すると良いでしょう。
4. 十分な休息と睡眠の確保
産後の生活リズムは、赤ちゃんの授乳間隔や夜泣きで崩れがちですが、なるべく短い時間でも仮眠をとり、疲れをためないようにします。睡眠不足が続くと食欲を抑制するホルモンの分泌が低下し、逆に食欲を増進させるホルモンが増える傾向があるといわれています。
- 赤ちゃんが寝ているときに一緒に寝る
日中でも赤ちゃんが寝ているタイミングで少しでも横になると、体の回復に役立ちます。 - 家族や周囲のサポートを得る
育児を一人で抱え込まず、パートナーや両親、地域のサポートを積極的に利用することで、家事や買い物の負担を軽減し、休息時間を増やします。
5. 体重の変動を過度に気にしすぎない
授乳期はホルモンバランスやライフスタイルの変化が大きいため、一時的に体重が増減しても過度な不安を抱く必要はありません。数字だけでなく、「疲れやすくないか」「肌や髪の調子はどうか」「母乳の出具合は良好か」といった総合的なコンディションを意識してみましょう。短期的に減量を目指すのではなく、ゆるやかに健康的な生活習慣を根づかせるほうが長期的にはプラスになります。
授乳期に薬やサプリメントで減量する際の注意点
産後、早急に体重を落とそうとして、減量サプリやダイエット薬を検討する方もいるかもしれません。しかし、授乳期に安易な薬やサプリを使用すると、母乳に成分が移行するリスクや、母体の栄養状態を損なうリスクが指摘されています。
- 利尿作用や下剤作用のある薬
不要な水分を排出して体重計の数字を減らす効果があっても、実質的には体内の水分やミネラルが失われるだけです。その結果、母乳の量や質に悪影響を及ぼすおそれがあります。 - 神経刺激作用や食欲抑制作用のある薬
カフェインや特定の成分が高濃度で含まれている場合、動悸、不眠、神経過敏などの症状を引き起こし、授乳中の疲労やストレスを悪化させる可能性があります。 - 不明な成分を含むサプリメント
海外製や宣伝過多のサプリには、必ずしも安全性や有効性が実証されていないものもあります。成分表があいまいだったり、「授乳中でも安心」と書かれていても公的な機関の確認がない場合は慎重になりましょう。
こうした薬やサプリを使う前に、必ず医師や薬剤師へ相談し、リスクや副作用について確認することが必要です。実際、「産後にダイエット薬を使用した結果、母乳量が減ってしまった」「赤ちゃんが落ち着かなくなった」という経験談は少なくありません。中には信頼性のある成分や研究結果がある製品もありますが、自己判断での利用は避けましょう。
結論と提言
産後に母乳育児をしながら体重を落とすことは、理論上は可能ではあるものの、実際は多くの要因が絡み合うため一筋縄ではいきません。授乳自体が1日数百キロカロリーを消費し得る半面、空腹感や睡眠不足、活動量低下などで、体重管理が思うようにいかないケースも多くみられます。大切なのは、以下のポイントを総合的に実践していくことです。
- 栄養バランスのとれた食事
タンパク質、ビタミン、ミネラル、食物繊維などをしっかり摂取し、カロリーの過剰摂取を防ぎながら健康を維持する。 - 適度な運動
産後の体力や生活リズムに合わせてウォーキングや簡単なエクササイズを取り入れ、無理のない範囲で筋力や体力を回復させる。 - こまめな水分補給
授乳中はとくに水分消耗が大きいため、1日を通してこまめに水やお茶を飲むよう心がける。 - 適切な休息と睡眠
睡眠不足は食欲コントロールを乱しがち。短い時間でも仮眠を取り、疲労を軽減する。 - 薬やサプリメントの慎重な利用
授乳中の体と赤ちゃんへの安全性を最優先に考え、必ず専門家に相談してから選択する。
本記事で紹介した研究や実践例からもわかるように、短期間で大幅に体重を落とすことを目標にすると、母体や赤ちゃんの健康リスクを高めるおそれがあります。大切なのは「産後しばらくかけて、少しずつ元の体重や健康的な体型に戻す」ことを目指す姿勢です。もしも食事管理や運動をどのように進めるべきか迷った場合は、医師や管理栄養士、助産師などのアドバイスを受けて、より安全な方法を模索してみてください。
重要な注意点: 本記事はあくまでも一般的な情報提供を目的としており、個々の症状や状況に応じた医療上の助言、診断、治療を代替するものではありません。授乳中にダイエットを検討される方は、必ず専門家にご相談ください。
参考文献
- Does Breastfeeding Help You Lose Weight? (アクセス日:2019年2月25日)
- 7 Smart Ways to Lose Weight While Breastfeeding (アクセス日:2019年2月25日)
- Does Breastfeeding Really Help You Lose Weight (アクセス日:2019年2月25日)
- Weight Loss – for Mothers (アクセス日:2023年3月14日)
- Effects of breastfeeding on postpartum weight loss among U.S. women (アクセス日:2023年3月14日)
- Losing Weight While Breastfeeding (アクセス日:2023年3月14日)
(以下、信頼性が確認できた近年の研究例)
- Groth SW, Rhee H. 2022. “Postpartum Weight Retention and Weight-Related Behaviors in Women: A Systematic Review.” Journal of Obstetric, Gynecologic & Neonatal Nursing, 51(1), 75–88. doi:10.1016/j.jogn.2021.10.006
- Komada Y, Wakui T, Morita R, et al. 2023. “Factors associated with postpartum weight retention in postpartum women in Japan: a prospective cohort study.” BMC Pregnancy and Childbirth, 23(1), 489. doi:10.1186/s12884-023-05951-w
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