はじめに
出産後は、赤ちゃんのお世話に専念する日々が続き、心身ともに大きな変化や負担を感じやすい時期でもあります。そんな中、「髪を整えて気分を変えたい」「出産前のように髪のオシャレを楽しみたい」と考える母親も少なくありません。とりわけ、ヘアカラー(髪の毛の染色)はイメージチェンジに手軽で効果的な方法の一つです。しかし、「母乳育児中にヘアカラーしても大丈夫なのか?」「赤ちゃんや母乳への悪影響はないか?」と心配する方も多いでしょう。本記事では、授乳中のヘアカラーに関して、国内外で報告されている情報をもとに詳しく解説しながら、注意点や安全性に関する研究・推奨事項について取り上げていきます。さらに、授乳期の母親がヘアカラーを検討するにあたり役立つ情報として、髪を染める適切なタイミングや、安全性が高いとされるヘアカラー商品の例も紹介します。母乳育児中だからこそ気をつけたい視点を押さえつつ、ヘアアレンジを楽しむ際におさえておきたいポイントを幅広くご紹介します。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
専門家への相談
本記事では、母乳育児中におけるヘアカラーの可否や注意点を解説するうえで、海外の専門家としてTiến sĩ – Bác sĩ Sandy Dorcelus, DO(Bệnh viện NYU Langone – Long Island)が言及している見解を参考にしています。これは、アメリカの医療機関であるNYU Langoneに所属する実在の医師が示唆した情報に基づく内容です。また、公的医療機関・国際的な公衆衛生組織などから公表されている知見もできるだけ取り入れつつ、授乳中の母親にとって安心・安全なヘアケアに関する情報を整理して解説します。ただし、最終的には個々の体質や生活環境によっても対応は異なるため、疑問や不安があれば必ずかかりつけの医師や助産師など専門家に相談することをおすすめします。
授乳中にヘアカラーをしてもいいの?
まず、多くの伝統的な考え方では「授乳期はできるだけ髪を染めるべきではない」「赤ちゃんが小さいうちは母親の化学物質への接触を極力控えるべき」という意見があります。日本でも昔から、産後は母体を休める意味も含め、化学薬品を使った美容施術を避けるようにアドバイスする風習があります。しかしながら、現時点では「ヘアカラーが母乳を通じて赤ちゃんに有害な影響を及ぼす」という科学的根拠は十分には示されていません。
実際、アメリカを中心としたいくつかの研究では、ヘアカラーに含まれる化学物質が母乳に直接移行する可能性は極めて低いと報告されています。たとえば、アメリカの医師Tiến sĩ – Bác sĩ Sandy Dorcelus, DO(Bệnh viện NYU Langone – Long Island)は、「市販されている一般的なヘアカラー剤の成分が授乳中に大量に血液へ吸収されることはほとんどなく、母乳への移行はさらにごくわずか」という見解を示しています。また、ヘアカラー剤に含まれる化学物質自体も、髪や頭皮の表面に付着する形で作用し、母体の血流に大きく溶け込むわけではないともされています。
さらに、2008年の論文ではありますが、米国国立医学図書館(PubMed)に掲載されている論文(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18417263/)でも、ヘアカラーによって皮膚から吸収される化学成分の量は非常に少ないと指摘されています。厳密には妊娠期の使用リスクを調査した内容であり、直接授乳期の話ではないものの、「一般的な使用であれば重大な危険性が確認されていない」という点で示唆的なデータといえるでしょう。したがって、「授乳中だから絶対にヘアカラーをしてはいけない」というわけではありません。
一方、各種ガイドラインや専門家は、多くの場合「念のため慎重に扱うべき」とも勧告しています。特に出産直後~生後半年ほどは、母親の体力が回復途上であり、赤ちゃん自身もまだ抵抗力が弱く、アレルギー反応などに対するリスクを考慮したほうが安心です。世界保健機関(WHO)の2022年発行の産後ケアに関するガイドライン「WHO recommendations on maternal and newborn care for a positive postnatal experience」でも、産後数カ月の間は母体と新生児の健康状態に気を配りつつ、環境中の化学物質への接触はなるべく低減することが望ましいとされています(2022年、ISBN: 9789240045989)。ヘアカラーに限らず、うがい薬や塗り薬など化学成分を含む製品全般への注意喚起も示唆されており、これは赤ちゃんの安全確保だけでなく、母体の健康を守る目的もあるといえます。
なぜ授乳中の母親はヘアカラーを控えたほうがよいとされるのか
「授乳中のヘアカラーは問題ない」「害は少ない」という調査結果がある一方で、「できれば最初の数カ月は控えたい」と助言される理由はいくつかあります。
- 薬剤成分による皮膚刺激やアレルギー
とくに頭皮や髪が産後で弱っている母親の場合、ヘアカラー剤に含まれる化学物質に反応しやすくなることがあります。具体的にはアレルギー発症、頭皮トラブル、かゆみ・赤みなどが起こりやすいとされます。 - 母体の体力低下
出産直後の母体は、ホルモンバランスや睡眠不足などで免疫が下がりやすい時期です。ヘアカラー剤のにおい(刺激臭)をかぐだけでも気分が悪くなる人もいます。 - 赤ちゃんへの接触リスク
たとえヘアカラー成分が母乳中に移行しにくくても、染めた直後の髪を赤ちゃんが触ったり、髪に付着した成分を間接的に吸い込むなどの可能性がゼロではありません。とくに化学薬品臭の強い染料は、赤ちゃんが不快に感じる場合もあります。 - 髪質の変化によるダメージ
出産後は抜け毛や薄毛、髪のキューティクルのダメージなどが起こりやすい時期とも言われます(HAIR LOSS IN NEW MOMS アメリカ皮膚科学会 参照)。そんな中でヘアカラーを行うと、髪の傷みがさらにひどくなる場合も考えられます。
これらの理由から、専門家や産後ケアの現場では、少なくとも産後すぐ~数カ月は避け、身体が回復してからゆっくりと取り組むほうがリスクを減らせるとされます。
産後、どれくらい経てば髪を染めてもいいの?
「出産後6カ月ごろ以降が一つの目安」とよく言われますが、実際に明確な決まりがあるわけではありません。母体の回復状態や赤ちゃんの健康状態にもよります。
多くの専門家や産科医は「少なくとも産後半年ほどが経てば、ホルモンバランスが徐々に安定し、赤ちゃんの免疫も多少整ってくるため、化学薬品への接触リスクをやや抑えられる」といった観点から、6カ月前後をひとつの目安としています。アメリカ産科婦人科学会(ACOG)も、妊娠中に比べれば授乳期のほうが薬剤成分の影響は少ないが、産後直後は母体もデリケートであるとして「生後数カ月は注意が必要」とコメントしています(2022年の会報でも類似の見解が示唆されています)。また、WHOの産後ケアガイドライン(前述)でも、母子ともに安定するのが一般的に産後6週~半年であるため、できるだけそれまで待つほうが望ましいと示唆されています。
髪色を変えたいときに意識したいポイント
授乳期でも髪を染めること自体は大きな問題ではないとされますが、母親自身と赤ちゃんの安全を考慮して、以下のようなポイントを押さえておくと安心です。
-
品質の高い薬剤を選ぶ
安全性がしっかり確認されたヘアカラー剤を使用することで、化学物質の過度な吸収や刺激を抑えられます。とくにアンモニアなど刺激臭が強い成分を含むものより、近年は植物由来の成分や低刺激処方のヘアカラーが増えているので、そうした商品を選ぶとよいでしょう。 -
肌テスト(パッチテスト)を徹底する
出産後は肌が敏感になる人も多いので、以前使っていたカラー剤でも新たにアレルギー反応が起こる可能性があります。説明書に従って、首筋や腕の内側など目立たないところに薬剤を少量塗り、数日観察するテストを実施しましょう。 -
染める際は赤ちゃんが触れないようにする
ヘアカラー剤を塗布している間に赤ちゃんが髪を触ってしまうと、赤ちゃんの手指や口に薬剤が付着する恐れがあります。使用する部屋やタイミングを工夫し、家族や周囲の協力を得ながら行うのがおすすめです。 -
におい・換気対策
染毛中は化学薬品のにおいが部屋に充満しないよう、窓を開けたり換気扇を使ったりして十分な換気を確保しましょう。赤ちゃんのいる部屋とは別の場所で行い、終わったあともしばらくは部屋の空気を入れ替えることを心がけます。 -
染めた後はしっかり洗い流す
頭皮や髪に薬剤が残ると、赤ちゃんが触れたときにトラブルにつながる可能性があります。説明書どおりにシャンプーやすすぎを十分に行い、薬剤をしっかり落としましょう。 -
美容室で施術する場合は相談を
授乳中であることや、髪や頭皮が敏感になっていることを美容師に伝え、できるだけ刺激の弱い薬剤を使用してもらう、施術時間を短縮してもらうなどの配慮を依頼すると安心です。
授乳期に試したい「安全性が比較的高い」5つのヘアカラー製品
ここでは、授乳期に使いやすいとされるヘアカラー剤を5つ紹介します。いずれも比較的低刺激で、化学成分の含有量が少ない点が特徴ですが、完全にトラブルが起こらないわけではありません。各製品の公式説明や成分表をよく確認し、パッチテストを行うなど安全策を講じたうえで使用してください。
1. ハーブ系ヘアカラー Herbatint
特徴
- アンモニア、アルコール、パラベンを含まないヘアカラー
- 8種類のオーガニックハーブエキスが配合されており、髪にハリとツヤを与え、白髪もカバーしやすい
- 酸化剤に含まれる過酸化水素(Hydrogen Peroxide)の濃度が低い(約3%以下)ため、刺激臭や頭皮への負担を最小限に抑える設計
メリット
- 成分が比較的優しいため、産後のデリケートな頭皮でも使いやすい
- 染まりやすく色持ちも良い
- 海外の検査基準をクリアしており、一定の品質保証がある
デメリット
- 価格がやや高め
- 流通量が限られる場合があり、店舗によっては入手困難なことも
2. Clairol Natural Instincts
特徴
- 約28回のシャンプー(洗髪)で色落ちする、セミパーマネント(半永久)カラー
- 80%が植物由来成分(アロエ、ココナッツなど)で構成
- パラベンやアンモニアを含まない処方
メリット
- 低刺激ながら艶のある仕上がり
- 髪が乾燥しにくく、コシのある手触りが期待できる
- アメリカ発のブランドで、実績や認知度が高い
デメリット
- 完全な白髪染めとしてはカバー力がやや弱い
- 半永久カラーのため、色持ちは永久染毛ほど長くはない
3. LUSHのヘンナ入り染毛ブロック
特徴
- カカオバター、ヘンナ(Lawsonia Inermis)、インディゴなど天然由来の染料成分が主体
- 髪に塗ってから放置する時間が長め(2~4時間程度)だが、化学物質を抑えた自然派のカラーを目指す方に人気
- 髪がしっとり潤う仕上がりが特徴
メリット
- ほのかなハーブの香りと、保湿力に定評がある
- ベジタリアンやヴィーガンにも配慮したブランドコンセプト
デメリット
- 塗布や放置に手間と時間がかかる
- 発色がやや抑えめで、暗めの色調にしか染まりにくい
4. Naturtint Permanent Hair Colour
特徴
- イギリスで開発された永久染毛タイプのヘアカラー
- オーガニック由来のアルガンオイル、アビシニアンオイルなどを配合し、髪の補修やツヤ出しを重視
- アンモニア、パラベンなどの刺激物質を使用しない処方
メリット
- 白髪のカバー力が高い
- 染めた後も髪がパサつきにくく、保湿性が高い
- カラーバリエーションが豊富
デメリット
- 入手経路によって値段の変動が大きい
- 髪質や頭皮との相性により、アレルギーのリスクがゼロではない
5. Ogatic ハーブ系粉末ヘアカラー
特徴
- ベトナム産のヘナ(Lawsonia Inermis)やトラガクサなどの植物葉を粉末にして調合
- 化学成分を極力使用せず、天然のハーブだけで染め上げるスタイル
- 髪に塗布してから30分~数時間置き、しっかり洗い流すと自然な色味が得られる
メリット
- 原料がほぼハーブのみのため、肌への刺激が少ない
- 髪に弾力を与え、染めながらトリートメント効果も期待できる
- 比較的手頃な価格で試しやすい
デメリット
- 粉末が舞いやすく、染める際に周囲が汚れやすい
- 人によっては頭皮に刺激を感じることがある
- 白髪が多い場合は、複数回の塗り重ねが必要なことも
まとめとアドバイス
以上のように、母乳育児中にヘアカラーをすることは医学的・科学的観点から見ても必ずしも大きなリスクとは言い切れませんが、産後の母体と赤ちゃんへの配慮から、可能であれば出産後6カ月以降に行うのが望ましいとされます。とりわけ最初の数カ月は、赤ちゃんの体がまだ非常に繊細で、母体のホルモンバランスや体力も安定しにくい時期です。無理せずゆとりを持った時期を選び、低刺激のカラー剤を使用する、パッチテストを徹底する、十分に換気をするなど、安全策をできる限り講じることが大切です。
もしどうしても早い段階でヘアカラーをしたい場合は、赤ちゃんに直接触れさせない工夫をしたり、赤ちゃんが就寝中に家族の協力を得て手早く仕上げるなど、接触リスクを減らすよう注意しましょう。美容室に行く場合は、授乳中である旨と頭皮の状態をしっかり伝え、できるだけ低刺激の薬剤を使ってもらうよう相談するのも有効です。さらに、髪のダメージを抑えるためにトリートメントやヘアケアにも力を入れて、出産後の髪質変化(抜け毛や乾燥など)を軽減していくと安心です。
注意
本記事は、母乳育児中のヘアカラーに関する情報を提供するためのものであり、医学的な診断や処方を目的としたものではありません。実際の症状や体調、赤ちゃんの状態などは個人差が大きいことから、心配がある方は必ずかかりつけの産婦人科医や助産師など医療従事者に相談してください。
参考文献
- Is it safe to dye my hair during pregnancy?
アメリカ産科婦人科学会(ACOG)
アクセス日: 2024年7月9日 - Is it safe to use hair dye when I’m pregnant or breastfeeding?
イギリス国民保健サービス(NHS)
アクセス日: 2024年7月9日 - Safety of hair products during pregnancy
国立医学図書館(アメリカ)
アクセス日: 2024年7月9日 - HAIR LOSS IN NEW MOMS
アメリカ皮膚科学会(AAD)
アクセス日: 2024年7月9日 - Postpartum care: What to expect after a vaginal birth
Mayo Clinic
アクセス日: 2024年7月9日
※本記事の内容は、国際的な研究機関や公的医療機関の情報をもとにまとめていますが、最終的な判断やケア方法は個人の体質や状況によって異なります。疑問や不安がある場合、または違和感やトラブルが生じた場合は、必ず専門家に相談してください。特に日本では、各医療機関や自治体によって母乳育児中のアドバイスが異なる場合もありますので、地域の保健指導やかかりつけ産婦人科の指示に従うことが重要です。
産後のケアに関する追加の研究動向
2022年に世界保健機関(WHO)が公表した「WHO recommendations on maternal and newborn care for a positive postnatal experience」(ISBN: 9789240045989)では、産後の母体の健康管理や環境因子への注意が改めて提言されており、化学物質との接触に関しても慎重になるよう示唆されています。これは髪染めだけでなく、育児日用品に含まれる化学成分や、住環境の清掃用品など全般への注意喚起を含むものです。日本の母乳育児中の生活習慣にも通じる内容であり、産後ケア全体を見直すうえでも参考になります。
おすすめのケア方法と最終的なアドバイス
-
ヘアケアをこまめに
抜け毛や乾燥など、産後特有の髪のトラブルを防ぐため、低刺激性のシャンプーやトリートメントを積極的に活用しましょう。頭皮マッサージを取り入れるのも効果的です。 -
必要に応じて専門家に相談を
美容室での施術を検討している場合は、事前に授乳中であることを告げ、髪や頭皮の状態を確認したうえで施術内容や使用薬剤を相談するのがおすすめです。 -
赤ちゃんへの安全確保を優先
ヘアカラー中は赤ちゃんの近くで施術しない、終了後もしっかり洗い流す、染毛直後は赤ちゃんに髪を触らせないなどの配慮を徹底しましょう。 -
ヘアカラー以外の方法で気分転換
髪を切る、ヘアアレンジを楽しむ、産後向けヘアアクセサリーを取り入れるなど、化学薬品に頼らないオシャレ方法も検討してみると良いでしょう。
最後に、今回紹介した情報はあくまでも「参考」にすぎません。授乳中のヘアカラーが身体や赤ちゃんに与える影響は、個々の体質や薬剤との相性によって異なります。「産後すぐにヘアカラーをしたい」という人もいれば、「もう少し様子を見たい」という人もいるでしょう。いずれの場合でも、心配な症状や疑問があるときには、必ず産婦人科や小児科の専門家に相談し、自分と赤ちゃんの健康を第一に考えながらベストな選択をしてください。
重要な注意点
この記事は一般的な情報提供を目的としています。医師・助産師など有資格の専門家による個別の診察・指導・治療を置き換えるものではありません。特に授乳中は体調や育児環境が大きく変化しやすい時期ですので、不安や気がかりがある場合は必ず専門家に相談してください。