授乳中にコラーゲンは安全？日本の専門機関が解説する科学的根拠とリスク

【最重要】授乳中のコラーゲンサプリメント：日本の公的機関の公式見解

授乳中のコラーゲンサプリメント摂取を考える際に、最も信頼すべき情報は、個人の体験談やメーカーの宣伝文句ではなく、国民の健康保護を責務とする公的機関の見解です。この点において、日本の主要な専門機関は一致して慎重な姿勢を示しています。

厚生労働省所管機関・食品安全委員会の勧告：「安全性に関する十分なデータがないため、使用は避けるべき」

厚生労働省が所管する国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所は、健康食品の安全性に関するデータベースにおいて、コラーゲンについて以下のように明確に記述しています。

「妊娠中、授乳中の方については、安全性についての十分なデータがないため、サプリメントのようなかたちで多量に使用することは避けましょう」¹。

これは、現在利用可能な科学的情報の範囲では、授乳中の母親や母乳を飲む乳児に対するコラーゲンサプリメントの安全性が確立されていないことを意味します。同様に、内閣府に設置されている食品安全委員会も、コラーゲンに関する質疑応答の中で、「安全性については、アレルギーを誘発する可能性が示唆されており、妊娠中・授乳中の安全性に関するデータが不十分なことから、使用を避けるべきです」と回答しており、複数の公的機関が足並みを揃えて注意を促していることがわかります²。厚生労働科学研究の報告書においても、鶏コラーゲンを含む様々なサプリメントについて、授乳中の安全性データが不足しているため「使用を避けること」と結論付けられています¹⁶。

なぜ「安全」と言い切れないのか？科学的根拠（エビデンス）の現状

公的機関が「使用を避けるべき」と勧告する背景には、医学および栄養学における「安全性の証明」に対する厳格な考え方が存在します。単に「これまで大きな問題が報告されていない」ということと、「科学的に安全性が確認されている」ということは、全く意味が異なります。

世界的な研究の状況：授乳期に特化した高品質な研究は存在しない

授乳中のサプリメント摂取に関する安全性の根拠不足は、日本だけの問題ではありません。信頼性の高い医学研究の指標とされるコクランレビューにおいても、授乳中の女性に対する複数の微量栄養素補給の効果や安全性を評価するための質の高い研究が不足していると結論付けられています¹¹。これは、授乳中の母親と乳児は倫理的な観点から臨床研究の対象になりにくく、データが集まりにくいという現実を反映しています。医学の世界では、「害があるという証拠がない」ことは「安全であるという証拠」にはならず、積極的な安全性の証明がなければ、特に影響を受けやすい集団（妊婦、授乳婦、乳幼児）への使用は推奨されません。

「効果あり」とされる研究の注意点：一般向けデータと授乳中の安全性は別問題

一方で、「コラーゲンサプリメントは肌の老化や創傷治癒に有望である」とする研究報告も存在します⁹¹⁰。消費者が目にする宣伝の多くは、こうした一般成人を対象とした研究に基づいています。しかし、これらの研究を解釈する際には、極めて重要な注意点があります。それは、これらの研究は授乳中ではない健康な成人を対象としており、授乳中の女性や乳児に対する安全性を評価したものではない、という点です。特定の加水分解コラーゲン製品を妊婦や産後の女性に投与し、「安全で忍容性が高い」と結論付けた小規模な業界資金による研究も存在しますが¹⁵、これはサンプルサイズが小さく、結果の解釈に偏りが生じやすい「非盲検試験」であるなど、科学的証拠としての質には限界があります。一般向けの有効性データをもって、授乳中の安全性を保証することはできないのです。

メーカーによる見解の違い：なぜ情報が混乱しているのか？

公的機関が慎重な姿勢を示す一方で、市場には様々な見解を持つ製品が溢れており、消費者の混乱を招いています。各メーカーの姿勢は、主に2つのタイプに分類できます。

タイプA：「摂取は控えてください」「医師にご相談ください」と案内する企業

多くの責任あるメーカーは、公的機関の見解に沿った対応を取っています。製品のウェブサイトや顧客サポートでは、「妊娠中・授乳中の方のご使用はお控えください」あるいは「お召し上がりいただく前に、医師にご相談ください」といった案内をしています⁵⁶⁸。これは、消費者の安全と企業の法的責任を最優先に考えた、誠実な姿勢と言えます。

タイプB：「問題ありません」と案内する企業

一方で、一部のメーカーは、製品のFAQ（よくある質問）などで「授乳中に摂取しても問題ありません」と回答している場合があります³⁴。こうした回答は、自社製品の成分が食品由来であることなどを根拠にしていることが多いですが、前述の通り、授乳中の女性と乳児を対象とした厳密な臨床試験によって安全性が確認されているわけではありません。消費者は、こうした情報を鵜呑みにせず、なぜ「問題ない」と主張できるのか、その科学的根拠が提示されているかを冷静に見極める必要があります。

産後の肌荒れ・抜け毛の本当の原因と、安全性が確認された対策

コラーゲンサプリメントへの関心の根底には、産後の肌や髪に対する切実な悩みがあります。しかし、その悩みの解決策は、安全性が不確かなサプリメントに求めるのではなく、まずその原因を正しく理解し、安全で根拠のある対策を講じることから始まります。

1. 根本原因：ホルモンバランスの急変、睡眠不足、栄養の偏り

産後の肌や髪のトラブルは、主に以下の3つの要因によって引き起こされます。

• ホルモンバランスの変動: 妊娠中に増加していた女性ホルモン（エストロゲンなど）が出産後に急激に減少します。エストロゲンには肌の潤いや弾力を保つ働きがあるため、その減少が乾燥、肌荒れ、抜け毛の直接的な原因となります¹²²⁴。
• 睡眠不足とストレス: 新生児の世話による慢性的な睡眠不足と育児のストレスは、自律神経の乱れを引き起こし、肌のターンオーバー（新陳代謝）を妨げ、バリア機能の低下を招きます²⁰。
• 栄養不足: 母乳を通じて赤ちゃんに多くの栄養を分け与えるため、母親自身が栄養不足に陥りやすくなります。特に、タンパク質、ビタミン、ミネラルが不足すると、新しい肌や髪を作るための材料が足りなくなります¹³。

これらの根本原因に対処することこそが、真の回復への近道です。

2. 医師も推奨する安全なセルフケア

専門家が推奨する、安全で効果的な対策は以下の通りです。

食事によるアプローチ：美肌を作るタンパク質・ビタミン・ミネラル

回復の基礎は、バランスの取れた食事です。特に以下の栄養素を意識的に摂取することが重要です。

• 良質なタンパク質: 肌、髪、爪の主成分です。肉、魚、卵、大豆製品（豆腐、納豆など）を毎食取り入れましょう。
• ビタミンC: 体内でのコラーゲン生成を助ける必須の栄養素です。果物（柑橘類、キウイ、イチゴなど）や野菜（パプリカ、ブロッコリーなど）から摂取できます。
• 鉄分と亜鉛: 抜け毛の予防や肌の新陳代謝に関わります。赤身の肉、レバー、ほうれん草、貝類などに多く含まれます。

栄養豊富な食事は、高価なサプリメントよりも確実な体の土台を作ります¹³。

スキンケアによるアプローチ：保湿と紫外線対策の徹底

産後の敏感な肌には、シンプルで優しいケアが基本です。

• 徹底した保湿: 肌のバリア機能が低下しているため、セラミドやヒアルロン酸など、保湿効果の高い成分を含んだ低刺激性の化粧水やクリームでしっかりと水分を補い、保護しましょう¹⁴。
• 紫外線対策: 紫外線を浴びると、肌の乾燥やシミ、しわが悪化する原因になります。季節を問わず、外出時には必ず日焼け止めを使用する習慣をつけましょう。

生活習慣によるアプローチ：可能な範囲での休息とストレス管理

言うまでもなく、産後の母親にとって十分な休息を取ることは困難です。しかし、体の回復には休息が不可欠です。赤ちゃんが眠っている時間に一緒に体を休める、パートナーや家族に協力を頼んで短時間でも一人の時間を作るなど、できる範囲での工夫が大切です²⁰。リラックスできる入浴や軽い散歩も、心身の回復を助けます。

よくある質問（FAQ）

結論

JHO（JapaneseHealth.org）編集部の徹底的な調査の結果、授乳中のコラーゲンサプリメント摂取に関する最も責任ある結論は、「安全性が科学的に確立されていないため、摂取は避けるべき」というものです。これは、日本の複数の公的保健機関が一致して示す見解に基づいています¹²。産後の美容に関する悩みは非常に切実なものですが、その解決策を安全性が不確かな方法に求めるべきではありません。むしろ、産後の体の変化の根本原因を理解し、栄養バランスの取れた食事、適切なスキンケア、そして可能な限りの休息という、安全で確立された方法に目を向けることが、母親と赤ちゃんの双方にとって最善の選択です。本記事の情報が、皆様が主治医や助産師と相談する際の確かな土台となり、より健康的で安心な産後生活を送る一助となることを心から願っています。