はじめに
出産後に授乳を行うことは、多くの母親にとってかけがえのない貴重な体験です。しかし一方で、「授乳中の腰痛」に悩む方も少なくありません。妊娠期から分娩に至るまで、母体には大きな負担がかかり、産後すぐに赤ちゃんへの授乳が始まることで、さらに身体が休む暇なく酷使されることがあります。とりわけ腰痛は、家事や育児に支障が出るだけでなく、母親自身の心身の疲労を増幅させる要因にもなります。本記事では、授乳期における腰痛の主な原因と、その対処法や予防法について、できるかぎり多面的に考察していきます。日常生活の中で実践しやすいケア方法や、具体的なストレッチのコツを詳しく解説するとともに、信頼できる研究結果を示しつつ、痛みを和らげるポイントを整理していきます。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
出産直後はホルモンバランスが大きく変化し、授乳姿勢の不安定さも相まって、腰への負担が増大しやすくなります。授乳時間は一日を通して何度も訪れ、しかも授乳に集中するあまり、自分の姿勢が崩れてしまいがちです。「授乳中は、ただでさえ疲れているのに、さらに腰が痛い」という声をよく聞きますが、これには医学的にも納得できる背景があります。骨盤底筋や腹筋、背筋などが出産前後で弱体化していると、わずかな時間の前傾姿勢でも腰に大きな負担がかかってしまうのです。さらに新生児期は赤ちゃんが頻繁にお腹を空かせるため、必然的に授乳回数が多くなります。このような繰り返しが、慢性的な腰痛を招く大きなきっかけとなります。
本記事では、こうした腰の痛みに対する具体的なケア法・ストレッチ法・日常的な注意点などを詳しく述べていきます。また、授乳中の腰痛にまつわる最新の研究動向も交え、産後ママが無理なく実践できる方法を整理します。授乳の「姿勢」がすべてのカギを握るといっても過言ではありませんが、栄養状態や水分補給、睡眠、精神的ストレスの管理など、多角的にアプローチすることも非常に重要です。腰痛がひどくなると、そのまま慢性化につながるケースもあるため、早めの対策を心がけましょう。
専門家への相談
本記事では、産後ケア全般における医学的観点を補うために、医療機関で実際に内科や総合診療科の分野を担当するBác sĩ Nguyễn Thường Hanhの知見(執筆時に参考とした文献や記事等)を踏まえて内容を整理しています。なお、ここで記載する情報は一般的な知見と参考文献に基づいてまとめたものであり、個々の医療行為を指示するものではありません。症状が長引く場合や強い痛みを伴う場合は、必ず医療機関や専門家に相談してください。
授乳時の腰痛が起こる主な原因
授乳中の腰痛の原因は多岐にわたりますが、以下に代表的なものを挙げます。これらの要因が複合的に作用することにより、産後の母体にさらなる負担がかかり、痛みが生じやすくなると考えられています。
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妊娠期からの体重増加・重心バランスの変化
妊娠中に増えた体重や、出産後もしばらく残る体重増加が腰に負担をかけます。さらに妊娠中はお腹が大きくなるにつれて重心が前方に移動し、無意識に腰を反らせた姿勢になりやすくなります。その結果、腰椎部分への負荷が持続的に高まり、産後にも影響が残りやすいとされています。 -
育児での抱っこ・重い物の持ち運び
新生児を日々抱きかかえたり、家事や買い物などで荷物を運んだりする機会が急増します。特に授乳以外の場面でも赤ちゃんを抱っこし続けることが多いと、上半身や肩・背筋が疲労し、結果として腰にも影響が及びやすくなります。 -
産前・出産時の痛みやトラウマの名残
妊娠期や分娩時に大きな痛みを経験している場合、その影響から身体全体が緊張し、腰を庇うような姿勢が癖になっているケースが見受けられます。出産後しばらくしても腰に違和感や痛みが残ることも珍しくありません。 -
既往の腰部障害・慢性腰痛
妊娠以前に何らかの腰痛や腰椎椎間板ヘルニアなどを経験していた場合、産後の身体が弱まっている時期に再び症状が出やすくなります。授乳中は姿勢を固定したまま長時間過ごすことが多いため、慢性的な腰痛が悪化する可能性もあります。 -
授乳姿勢の問題
最も多いのは、授乳時の姿勢の悪さです。赤ちゃんに乳首をくわえさせようと、つい前かがみになったり、背もたれのない場所に腰掛けてしまったりするなど、母親自身が不自然な姿勢をとり続けることで、腰に大きな負担がかかります。適切な抱き方やサポートグッズを利用することで軽減できるケースが多いため、まずはここを見直すことが大切です。
このように、授乳姿勢に限らず産後の身体の変化全般が絡み合って腰痛が起こりやすいのが特徴です。
授乳時の腰痛を軽減する9つの対策
ここからは、実際に授乳時の腰痛を緩和・予防するための方法を9つ挙げて解説します。それぞれを組み合わせることで、より総合的な効果が得られる可能性があります。
1. 授乳姿勢に注意を払う
授乳姿勢の悪さは腰痛を誘発する大きな要因です。赤ちゃんを乳房へ近づけようとして、自分が前屈みになっていないかを必ずチェックしましょう。もし前傾姿勢になってしまっているようであれば、体をしっかりと支えてあげられるクッションや授乳クッションを使い、赤ちゃんの頭を高く持ち上げる形に調整してください。
ポイント:
- 授乳クッションを使うとき、母親の膝や腰にクッションがフィットしているか確認する
- 足が床につかず腰が沈み込むような椅子より、背もたれのあるしっかりした椅子に座る
- 授乳時間が長くなってきたら、無理に同じ姿勢を続けずに適宜体勢を変える
2. こまめにクッションを活用する
赤ちゃんとの距離が遠いまま授乳すると、必然的に母親の体が前に倒れ、背中から腰にかけて負荷がかかります。そこで、授乳クッションや背中に挟むクッションなどを効果的に使い、自分がなるべく背筋を伸ばした姿勢をキープできるよう工夫しましょう。赤ちゃんの重みを軽減するための抱っこ紐や専用の枕もあるため、状況に応じて試してみてください。
3. しっかりとした椅子で座る
ソファのように柔らかく沈む椅子に座ると、腰が曲がりやすくなるだけでなく、骨盤周辺が安定しにくくなります。理想は背もたれがしっかりした椅子に座り、足の裏が床につき、膝の高さが腰よりわずかに高いか同じくらいになるよう調整することです。また、背もたれと腰の間にクッションを挟んで腰部をサポートすると、姿勢が崩れにくくなるでしょう。
4. ウォーキングで筋力を維持する
産後すぐは体力が落ちていますが、無理のない範囲で散歩やウォーキングを取り入れると、全身の血行が促進され、背中や腰回りの筋肉が強化されます。育児の合間を縫って1日15分程度歩く時間を確保してみましょう。ちょっとした外出や買い物のときに、姿勢を意識しながら散歩をするだけでも、腰痛予防に役立ちます。
5. 赤ちゃんが眠っている間に休息をとる
産後は寝不足になりがちですが、疲労の蓄積は慢性的な腰痛の悪化を招きます。赤ちゃんが寝ている間に、家事を詰め込みたくなる気持ちは分かりますが、まずは自分の休養を優先しましょう。短い時間でも横になって休むことで、腰への負担を軽減できます。
6. 立ったまま授乳する方法を試す
座った状態での授乳がつらい場合、ベビーキャリアや抱っこ紐を使いながら、立ったまま授乳する方法もあります。立っている方が重心を取りやすいと感じるケースもあり、腰にかかる負担が軽くなる人もいます。ただし、赤ちゃんがきちんと母乳を吸えているか、乳頭への負担はないか注意しながら行いましょう。
7. 水分補給を十分に行う
授乳中は体内から水分が多く失われます。水分不足は疲労感や倦怠感、筋肉のこわばりなどを招き、腰痛にも影響する可能性があります。意識して水やお茶、スープなどをこまめに取り、1日あたり6〜8杯程度を目安にすることが望ましいでしょう。
8. 温冷療法を活用する
腰が痛む部分にアイスパックで冷却を20分ほど行ったあと、しばらく休んで今度は温めるという温冷交互のアプローチは、急性・慢性どちらの腰痛にも一定の効果が報告されています。交互に血管が収縮・拡張することで痛みが軽減しやすいとされます。授乳の合間など、比較的時間に余裕のあるときに取り入れてみてください。
9. ストレスや不安を溜めこまない
産後はホルモンバランスの変化などから、心が不安定になりやすい時期です。精神的なストレスや不安は、筋緊張を高めて痛みを増幅させる要因になります。家族やパートナーに協力してもらって休息を増やしたり、必要であれば専門家に相談したりして、不安を一人で抱えこまないようにしましょう。
授乳中におすすめのストレッチ・エクササイズ
ここからは、授乳中の腰痛対策に有効とされるストレッチをいくつか紹介します。短時間でできる動きが多いので、無理のない範囲で継続することを心がけてください。
猫のポーズ
- 四つん這いになり、手のひらは肩幅、膝は腰幅に開く。
- 息を吸いながら背中を丸めるように頭を下げ、腰を引き上げる。
- そのまま数秒キープし、息を吐きながら元の姿勢に戻る。
- 5~10回程度繰り返す。
この動きは背骨の柔軟性を高め、腰回りの緊張をほぐす効果が期待できます。
チャイルドポーズ
- 正座の状態から、ゆっくりと上体を前方に倒して両手を前へ伸ばす。
- 額を床につけ、肩や背中をリラックスさせる。
- 深呼吸を繰り返しながら、可能な範囲で伸ばしきる。
- つらくない範囲で10~20秒キープし、ゆっくりと起き上がる。
腰から背中全体を伸ばし、リラックス効果も得られます。
胸の筋肉を伸ばすストレッチ
- 床にバスタオルを横向きにクルクル巻いておく。
- そのバスタオルの上に仰向けで寝転び、タオルが背骨に沿うように位置づける。
- 両腕は左右に広げ、ひじを床につける。
- ゆっくり深呼吸を繰り返し、胸が開く感覚を味わう。
授乳姿勢で前かがみが多くなると、胸の筋肉が縮こまりがちです。これを開放することで肩こりや腰痛予防につながります。
後方への前屈ストレッチ(ひじ同士をつかむ)
- まっすぐに立ち、後ろで両ひじをつかむ。
- 息を吸い、吐きながら上半身を前に倒す。
- 10~15秒程度キープし、ゆっくりと元に戻る。
腰痛だけでなく肩や背中の凝りの緩和にも効果があります。
産後の腰痛に関する最新の研究
産後の腰痛をめぐっては、近年さまざまな視点から研究が行われています。特に授乳時の痛みや筋骨格系のリハビリテーションに関しては、日本国内外の研究者による発表が増えてきました。
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産後運動が腰痛に与える影響
2022年にBMC Pregnancy and Childbirth誌に掲載された研究(Zhang Yら, 2022, 22(1):356, doi:10.1186/s12884-022-04692-5)では、産後の運動(軽いストレッチやウォーキングなど)を継続的に取り入れることで、産後3か月~6か月の時点での腰痛発生率が有意に低下したことが報告されています。研究では複数の無作為化比較試験をメタ分析し、運動を行ったグループは行わなかったグループに比べて痛みが和らぎ、日常活動の質も向上したと示されています。 -
授乳期の職業的要因と腰痛の関連
2023年にJournal of Advanced Nursing誌で発表された前向きコホート研究(Ng SKら, 2023, 79(3):913-922, doi:10.1111/jan.15544)では、育児と仕事を両立する女性約800名を対象に調査を行い、授乳期の姿勢や座りっぱなし時間が長い労働環境は腰痛リスクを増大させる可能性があると指摘されています。この研究では、適切な休憩や在宅勤務の活用による体勢の改善が、腰の負担軽減に寄与することが示唆されました。
産後の腰痛に対する運動・姿勢管理の重要性は、日本でも産科・助産師領域で繰り返し強調されています。これらの研究からもわかるように、簡単なストレッチやウォーキング、あるいは普段の姿勢を見直すだけでも、授乳期の慢性的な腰痛予防・改善に大きく寄与することが期待できます。
心身両面からのケアの重要性
授乳による腰痛は身体的要因だけではなく、産後のメンタルヘルスとも密接に関連しています。睡眠不足やホルモンバランスの乱れ、産後うつなどの精神的ストレスは筋肉の過度な緊張を招き、腰痛をより強く感じさせることがあります。そのため、ストレッチや姿勢の改善といった身体的対策だけでなく、気持ちを楽に持てるような環境づくりや周囲からのサポートも同時に行うことが重要です。
たとえば以下のような工夫が挙げられます。
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家族・パートナーへの協力要請
家事や育児をすべて一人で抱え込まない。特に腰痛が強いときは、短時間でも交代してもらうだけで身体を休ませられます。 -
産後ケア教室や母親教室への参加
同じ境遇のママ同士で情報交換をすることで、効果的なセルフケアの知恵が得られたり、精神面でのサポートを得られる場合があります。 -
専門家(医療機関・カウンセラー)への相談
産後うつや不安感が強い場合は、メンタルケアの専門家に相談することで、気持ちの整理や適切なアドバイスを得られます。
おすすめのセルフケアと生活習慣の見直しポイント
ここでは、授乳期の腰痛を軽減・予防するための日常生活での工夫をまとめます。ちょっとした習慣の変化が、腰痛の緩和につながる場合が少なくありません。
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適切な抱っこ方法を身につける
授乳姿勢だけでなく、赤ちゃんを抱き上げる際の姿勢にも注意が必要です。腰を丸めず、膝を曲げて重心を低くしながら赤ちゃんを抱き上げるようにしましょう。 -
寝具の見直し
出産前に使っていた寝具が合わなくなるケースもあります。柔らかすぎる布団やマットレスは腰が沈みすぎて負担を増やすことがありますので、適度な硬さのものを選びましょう。 -
温かいお風呂・シャワーで血行促進
入浴やシャワーなどで背中や腰を温めることで筋肉がほぐれやすくなり、痛みの軽減につながります。 -
バランスのとれた食事で栄養を補給
母乳を与えていると、カルシウムや各種ビタミン、ミネラルなどが不足しやすくなるケースがあります。野菜や海藻、魚、大豆製品など幅広い食材を摂るよう心がけましょう。栄養不足によって筋肉や骨が弱ると、腰痛が悪化しやすいからです。 -
筋力トレーニングを無理のない範囲で
腰だけでなく、骨盤底筋や腹筋をサポートする筋肉を鍛えることは、腰痛予防に効果的とされています。ただし、帝王切開後や会陰切開の回復状況によっては運動を控える必要があるため、念のため産科医や助産師に相談してから始めると安心です。
結論と提言
授乳中の腰痛は、多くの産後女性が直面する共通の課題です。妊娠中から続く身体の変化や育児による負担、そしてホルモンバランスの乱れなど、さまざまな要因が重なって腰痛が引き起こされやすくなります。しかし、授乳姿勢の改善やクッションの活用、ウォーキングや軽めのストレッチを習慣化するなど、日常生活のなかでできる対策も多数存在します。
また、近年の研究では、産後運動や姿勢管理が授乳期の腰痛軽減に寄与することが明確に示されています。特に無理のないストレッチや骨盤底筋エクササイズなどを続けることで、痛みの軽減と体力回復を同時に図れる可能性が高いです。一方で、心身のストレス管理にも目を向けることが重要と考えられます。
身体面と精神面の両面でケアを行い、必要に応じて家族や医療専門家のサポートを得ることで、慢性的な腰痛に悩まされるリスクを大幅に下げることが期待できます。もし痛みが強くなったり、長期化したりするような場合は、自己判断に頼らず医師の診断を受けることが大切です。
この記事は信頼できる情報をもとに作成しておりますが、医師の診断・治療に代わるものではありません。痛みが強い、あるいは長期化する場合は専門家にご相談ください。
参考文献
- What Is Back Pain? (アクセス日:2019年7月26日)
- Back Pain during Breastfeeding: Causes & Tips to Relieve Pain (アクセス日:2019年7月26日)
- Yoga to Relieve Neck and Back Pain From Breastfeeding (アクセス日:2019年7月26日)
- Zhang Yら (2022) “Effectiveness of postpartum exercises in alleviating postpartum low back pain: A systematic review and meta-analysis.” BMC Pregnancy and Childbirth, 22(1):356. doi: 10.1186/s12884-022-04692-5
- Ng SKら (2023) “Predictors of postpartum back pain in working women: A prospective cohort study.” Journal of Advanced Nursing, 79(3):913-922. doi: 10.1111/jan.15544
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