この記事の科学的根拠
本稿は、入力された研究報告書に明示的に引用されている最高品質の医学的エビデンスにのみ基づいています。以下に、提示される医学的指針に直接関連する主要な情報源を記載します。
- 厚生労働省: 日本における不妊治療の実態、統計データ、および2022年の保険適用拡大に関する公式情報について、同省の報告書を根拠としています12。
- 日本産科婦人科学会 (JSOG): 不妊症の定義、原因、および女性の年齢が妊孕性に与える影響に関する記述は、同学会の公式見解およびガイドラインに基づいています3。
- 日本生殖医学会 (JSRM): 保険適用下の治療法や、生殖医療における標準的なアプローチに関する指針は、同学会のガイドラインを参考にしています4。
- コクラン共同計画 (Cochrane): 尿中LH検査(排卵日予測検査薬)が妊娠率を向上させるという結論は、医学研究において最も信頼性の高いエビデンスの一つとされるコクランのシステマティックレビューに基づいています5。
- 日本泌尿器科学会 (JUA): 男性不妊症の原因や、その診療に関するガイドラインは、同学会の指針を引用しています6。
要点まとめ
- 妊娠の可能性が最も高いのは排卵前の数日間を含む「妊娠しやすい期間(Fertile Window)」であり、排卵日を正確に予測することが極めて重要です。
- 自宅で排卵日を予測する方法の中で、科学的根拠が最も強く、妊娠率を高める効果が証明されているのは、尿中の黄体形成ホルモン(LH)を検出する「排卵日予測検査薬(OPK)」です7。
- 基礎体温の計測やおりものの観察は自身の体のリズムを理解する上で有用ですが、排卵を正確に「予測」するツールとしては信頼性が低いです。カレンダー方式のスマートフォンアプリは誤差が大きく、頼りすぎると妊娠の機会を逃す危険性があります8。
- 不妊は女性だけの問題ではなく、その原因の約半数は男性側にもあります6。「妊活」は夫婦二人の共同プロジェクトとして、精神的な支え合いとオープンな対話が成功の鍵となります。
- 2022年4月から、タイミング法、人工授精、体外受精などの主要な不妊治療が保険適用の対象となり、経済的負担が大幅に軽減されました2。一定期間試みても妊娠に至らない場合は、躊躇せずに専門医に相談することが推奨されます。
第1章:あなたの体を理解する – 排卵と受精の科学
「妊活」を成功させるための最初のステップは、あなた自身の体がどのように機能しているかを深く理解することです。ここでは、妊娠が成立する仕組みと、その中心にある「排卵」という奇跡的なプロセスについて、科学的な視点からわかりやすく解説します。
「妊娠しやすい期間」の秘密
多くの人が「排卵日に合わせれば良い」と考えがちですが、実は妊娠のチャンスは排卵日当日だけではありません。最も重要な概念は「妊娠しやすい期間(Fertile Window)」です。これは、排卵日を含む約6日間の期間を指します9。この期間が存在する理由は、精子と卵子の寿命の違いにあります。
この事実からわかるように、卵子が排卵されたときに、すでに精子が卵管内で待機している状態が最も理想的です。そのため、複数の研究が示すように、妊娠の確率が最も高まるのは、排卵日の2〜3日前から排卵日当日にかけて性交渉を持つことです311。排卵後に性交渉を持っても、成功する可能性は著しく低下します。このことから、排卵が起こった後に行動するのではなく、「これから起こる」ことを予測することの重要性がわかります。
体を指揮するホルモンのオーケストラ
排卵は、まるで精巧なオーケストラのように、複数のホルモンが絶妙なタイミングで協調し合うことで起こります。このホルモンの働きを理解することが、排卵日予測の鍵となります。
- エストロゲン(E3G):周期が進むと、まず女性ホルモンであるエストロゲンの代謝物(E3G)の分泌量が増え始めます。これは「妊娠しやすい期間」の始まりを告げる最初のサインです。また、エストロゲンは子宮頸管粘液(おりもの)を、精子が通りやすく生き残りやすい状態(透明で、よく伸びる水のような状態)へと変化させる役割も担います7。
- 黄体形成ホルモン(LH):排卵の引き金を引く主役が、この黄体形成ホルモン(LH)です。LHの濃度が急激かつ一時的に上昇する現象を「LHサージ(LH surge)」と呼びます。このLHサージが始まってから約24時間から36時間後に、成熟した卵子が卵巣から放出されます(排卵)12。したがって、LHサージを捉えることが、排卵日を最も正確に予測するための信頼できる方法となります。
- プロゲステロン(黄体ホルモン):このホルモンは排卵後に上昇し始めます。受精卵が着床しやすいように子宮内膜を整え、妊娠を維持する働きがあります。そのため、プロゲステロン(やその代謝物であるPdG)の上昇を測定することで、排卵が「起こったこと」を確認できますが、未来を予測する指標にはなりません9。
年齢という最大の要因と周期の個人差
日本の社会では晩婚化・晩産化が進んでおり、女性の年齢は「妊活」において最も重要な要素となります。女性の妊娠する力(妊孕性 – にんようせい)は30代から緩やかに低下し始め、35歳を過ぎるとそのスピードは加速します3。これは主に、卵子の数と質の低下、そして年齢とともに増加する子宮筋腫や子宮内膜症などの婦人科疾患が原因です3。統計によれば、35歳以上の女性が不妊症と診断される確率は約30%に上り、40歳以上では70%に達するとも言われています14。
また、「生理周期は28日」という固定観念を捨てることが重要です。大規模なデータ解析によれば、月経周期が規則的だと自己認識している女性でさえ、実際の排卵日は10日間以上にわたって変動することが示されています8。あなたの体はあなただけのユニークなリズムを持っています。過去の平均値に頼るのではなく、リアルタイムの体のサインを捉えることが不可欠なのです。
第2章:現代の排卵日予測ツール:完全ガイド
排卵日を予測するためのツールは数多く存在し、どれを選べば良いか迷ってしまうかもしれません。ここでは、一般的に利用されている方法を科学的根拠の強さに従って分類し、それぞれの長所と短所を徹底的に比較・解説します。これにより、あなたにとって最も効果的で信頼できる選択肢が何であるかが明確になります。
「周期トラッキング」と「排卵トラッキング」の決定的な違い
まず理解すべき最も重要な点は、「周期トラッキング」と「排卵トラッキング」は全く異なるということです。多くの女性が利用するカレンダー方式のアプリは、過去の月経周期の平均データから未来の排卵日を「推測」するもので、これは「周期トラッキング」に分類されます7。一方で、「排卵トラッキング」は、ホルモン値などのリアルタイムの生物学的指標を測定し、排卵のタイミングを「特定」するアプローチです。不適切なタイミングでの性交渉は不妊の主要な原因の一つであり9、この違いを理解することが成功への第一歩です。
方法1:排卵日予測検査薬(OPK)- 科学的根拠に基づく最善の選択
仕組み:排卵日予測検査薬(Ovulation Predictor Kits – OPKs)は、尿中に排出される黄体形成ホルモン(LH)の急上昇(LHサージ)を検出します。検査薬が陽性反応を示した場合、それはLHサージがピークに達しており、24〜36時間以内に排卵が起こる可能性が高いことを意味します12。日本の市場では、ドゥーテストやチェックワンといったブランドが広く知られています15。デジタル表示のものは結果が読みやすく、初心者にも推奨されます。
科学的根拠:自宅で行える方法の中で、OPKは最も強力な科学的根拠を持っています。医学研究のゴールドスタンダードとされる2023年のコクラン・システマティックレビューでは、OPKを使用することで、使用しない場合に比べて出産に至る確率が有意に高まる(リスク比 1.36)と結論づけられています5。また、アプリと連携するデジタルOPKを使用したランダム化比較試験では、1周期後の妊娠率が対照群の14.7%に対し25.4%と、著しく高い結果が示されました7。
方法2:妊活の基礎知識(FABMs)- 体を知るための補助ツール
これらの方法は、体の生理的な変化を観察することに基づいています。排卵を「予測」する精度はOPKに劣りますが、自身の体のリズムへの理解を深めるのに役立ちます。
- 基礎体温(BBT)の測定:毎朝、目覚めてすぐに体温を測る方法です。排卵後、プロゲステロンの影響で体温がわずかに(約0.3〜0.5℃)上昇します16。したがって、BBTは排卵が「起こったこと」を確認する遡及的な指標であり、未来を予測するものではありません。また、体調不良、ストレス、飲酒など多くの要因に影響されやすいという欠点もあります17。
- 頸管粘液(おりもの)の観察:排卵が近づくと、おりものが透明で滑らか、そして生卵の白身のように伸びるようになります16。これは有用なサインですが、解釈が主観的であり、正確に判断するには経験が必要です。
方法3:カレンダー方式のアプリ – 過信は禁物
仕組み:市場に出回っているほとんどの月経管理アプリは、過去の周期の長さを基に、排卵が次の月経開始の約14日前に起こると仮定して未来を予測します7。ルナルナやラルーンといった人気のアプリも、基本的にはこの方式です18。
科学的根拠(の欠如):この方法は非常に不正確であることが知られています。ある研究では、カレンダー方式のアプリが排卵日を正確に予測できる確率は21%に過ぎないことが示されました8。これらのアプリに盲目的に頼ることは、偽りの安心感を生み、貴重な妊娠の機会を逃すことに繋がりかねません。
推奨される使い方:アプリはあくまで「日記」として活用しましょう。月経の開始日、OPKの結果、基礎体温などの客観的なデータを記録するためのツールとして使うのが賢明です。
表1:自宅でできる排卵日予測方法の比較分析
方法 | 仕組み | 正確性(科学的根拠) | 長所 | 短所 | 費用の目安(日本) |
---|---|---|---|---|---|
排卵日予測検査薬 (OPK) | 尿中のLHホルモンピークを検出し、24~36時間以内の排卵を予測する7。 | 高い。妊娠率・出産率を有意に高めることが複数の高品質な研究で証明済み57。LHサージ検出精度は97%以上8。 | 排卵を事前に予測できる、使いやすい、結果が明確(特にデジタル式)、科学的根拠が最も強い。 | 毎月の継続的な費用がかかる、検査のタイミングや頻度によってはピークを逃す可能性がある。 | 1周期あたり約1,500円~4,000円。 |
基礎体温測定 (BBT) | 排卵後のプロゲステロンの影響による体温上昇を記録する16。 | 低い(予測目的では)。排卵が起こったことを遡及的に確認するのみ。病気、ストレス、飲酒など多くの要因に影響されやすい17。 | 初期費用が安い、長期的に自身の周期パターンを把握するのに役立つ。 | 妊娠しやすい期間を予測できない、手間がかかる、根気が必要、誤差が生じやすい。 | 体温計の初期費用:約2,000円~4,000円。 |
頸管粘液(おりもの)の観察 | 排卵期に特有の、透明で伸びるおりものの変化を観察する16。 | 中程度。排卵との相関はあるが、解釈が非常に主観的で経験を要する11。 | 費用がかからない、自身の体への意識が高まる。 | 初心者には解釈が難しい、膣炎などがあると判断できない。 | 無料。 |
カレンダー方式アプリ | 過去の周期の平均長から、カレンダー法を用いて排卵日を推測する7。 | 非常に低い。研究によれば正確性は21%程度8。実際の体の生物学的変化を測定しているわけではない。 | 便利で使いやすく、データの記録・保管が容易。 | 不正確で、偽りの安心感を与える。タイミングを誤り、妊娠機会を逃す原因となりうる8。 | 無料または有料プランあり。 |
第3章:「タイミング法」をマスターする:成功のための実践ステップ
科学的に最も信頼性の高いツール(排卵日予測検査薬)を選んだら、次はそのツールを最大限に活用するための具体的な実践方法を学びます。ここでは、タイミング法の基本から、成功率を高めるためのコツ、そして多くのカップルが直面する心理的なプレッシャーを乗り越えるためのヒントまで、詳しく解説します。
ステップ1:いつから検査を始めるか?
排卵日予測検査薬(OPK)をいつから使い始めるかは、あなたの平均的な月経周期の長さに依存します。一般的には、次の月経開始予定日の17日前から検査を開始することが推奨されています12。例えば、あなたの周期が28日であれば、月経開始から11日目頃から検査を始めると良いでしょう。製品の説明書に詳細な計算方法や表が記載されていることが多いので、必ず確認してください。
ステップ2:正しい検査の方法
正確な結果を得るためには、正しい方法で検査を行うことが不可欠です。
- 検査の時間帯:朝一番の尿はホルモンが濃縮されすぎている可能性があるため、多くの製品では日中の尿を使用することを推奨しています。毎日できるだけ同じ時間帯に検査を行うと、結果の比較がしやすくなります。
- 結果の読み方:検査薬の判定窓に表示されるテストラインが、基準となるコントロールラインと同じ濃さ、あるいはそれ以上に濃くなった時が「陽性」です。陽性反応は、LHサージがピークに達したことを示し、これから24〜36時間以内に排卵が起こるサインです。
ステップ3:最適な性交渉の頻度
「毎日性交渉を持つべきか、それとも1日おきが良いのか?」これは多くのカップルが抱く疑問です。米国生殖医療学会(ASRM)などの権威ある機関は、妊娠しやすい期間(Fertile Window)中に1〜2日おきに性交渉を持つことが最も理想的であると推奨しています11。
しばしば「精子を溜めるために禁欲した方が良い」という誤解がありますが、頻繁な射精が受精能力に悪影響を及ぼすという明確な証拠はありません。むしろ、定期的な性交渉は心理的なプレッシャーを軽減し、関係性を良好に保つ上でも有益です19。
夫婦間のコミュニケーションとストレス管理
タイミング法の実践は、特に男性にとって「義務」のように感じられ、大きな心理的プレッシャーとなることがあります20。この「妊活疲れ」は、ホルモンバランスを乱し、かえって妊娠の可能性を下げてしまうことさえあります21。
大切なのは、これを女性だけの課題とせず、「夫婦二人の共同プロジェクト」として捉えることです22。プレッシャーや不安についてオープンに話し合い、お互いを思いやることが、この挑戦的な時期を乗り越えるための最も重要な鍵となります。可能であれば、特定の日にこだわらず、周期を通じて定期的な親密な時間を持つことが、ストレスを減らし、結果的に妊娠の可能性を高めることに繋がるかもしれません。
第4章:専門家の助けが必要なとき:次の治療ステップ
自己流でタイミング法を試みてもなかなか結果が出ないとき、多くのカップルは不安や焦りを感じるものです。しかし、それは決してあなたの努力が足りないからではありません。適切なタイミングで専門家の助けを求めることは、賢明で前向きな選択です。ここでは、いつ病院へ行くべきか、そして日本の医療機関でどのような治療が行われるのかについて、明確な道筋を示します。
受診を検討すべきタイミング
国際的および日本の臨床ガイドラインでは、受診を推奨するタイミングについて明確な基準が示されています。これは主に女性の年齢に基づいています。
年齢が上がるにつれて期間が短くなるのは、加齢による妊孕性の低下が著しいため、時間を無駄にせず早期に介入することが重要だからです。また、月経不順や子宮内膜症などの既知のリスク要因がある場合は、この期間を待たずに早めに相談することが賢明です。
クリニックでの最初のステップ:医師によるタイミング指導
クリニックでの最初のステップは、多くの場合、自宅で行うタイミング法をより医学的に精密にした「医師によるタイミング指導」です。これには、経腟超音波検査(エコー)を用いて卵胞(卵子が入った袋)の成長を定期的に観察し、その大きさを測定します。これにより、自宅での検査よりもはるかに正確に排卵日を特定できます。必要に応じて、血液検査でホルモン値を測定することもあります4。
日本の不妊治療における「ステップアップ」
日本の不妊治療は、一般的に「ステップアップ」と呼ばれる段階的なアプローチを取ります。これは、身体的・経済的負担が少ない治療から始め、効果が見られない場合に次の段階へ進むという考え方です3。
- タイミング法:上述の通り、医師の指導の下で最も自然な妊娠を目指す。
- 人工授精(AIH/IUI):排卵のタイミングに合わせて、処理・濃縮した精子を直接子宮内に注入する方法。精子が子宮頸管を通過する過程を省略することで、受精の確率を高めます。
- 生殖補助医療(ART):体外受精(IVF)や顕微授精(ICSI)が含まれます。卵巣から卵子を採取し、体外で精子と受精させて胚(受精卵)を作り、それを子宮内に戻す高度な治療法です。
2022年4月からの保険適用拡大により、これらの主要な治療法の経済的負担は大幅に軽減されました2。以下の表は、各治療段階の概要と、保険適用(自己負担3割)の場合の費用の目安、そして一般的な成功率を示しています。
表2:日本の不妊治療ロードマップ(保険適用下)
治療段階 | 概要 | 費用の目安(自己負担3割) | 成功率/周期(推定) | 検討のタイミング |
---|---|---|---|---|
タイミング法(医師指導) | 超音波検査や血液検査で正確な排卵日を特定し、性交渉のタイミングを指導する4。 | 約5,000円~20,000円/周期23(超音波・血液検査の回数による)。 | 5-10%。明確な不妊要因がないカップルでは、6周期後の累積妊娠率は約50%に達することもある24。 | ほとんどのカップルの最初のステップ。特に若年層や原因不明不妊の場合。通常3~6周期試される。 |
人工授精 (IUI/AIH) | 排卵のタイミングで、選別した精子を子宮内に直接注入する。しばしば軽い排卵誘発剤を併用する3。 | 約15,000円~30,000円/周期25。 | 10-20%。この率は女性の年齢とともに低下する。 | タイミング法で結果が出ない場合。頸管因子、軽度の男性不妊、原因不明不妊などに適応。 |
体外受精 (IVF/ICSI) | 卵子を体外に取り出し、精子と受精させてできた胚(受精卵)を子宮内に戻す3。 | 約100,000円~200,000円/周期26(採卵・胚移植費用含む)。 | 年齢に大きく依存。35歳未満で約35-40%、35-39歳で25-30%、40歳以上では10-15%程度27。 | IUIで結果が出ない場合。卵管閉塞、重度の子宮内膜症、重度の男性不妊、女性が高齢の場合など。 |
第5章:包括的なアプローチ:生活習慣、栄養、心の健康の役割
妊娠への道のりは、排卵のタイミングを合わせるだけではありません。心と体の全体的な健康が、生殖能力に深く関わっています。この章では、ホルモンバランスを整え、妊娠しやすい体を作るための包括的なアプローチについて解説します。これは、女性だけでなく、男性にとっても同様に重要です。
土台となる健康的な生活習慣
日々の生活習慣は、ホルモンバランスと生殖機能の土台を築きます。
- 十分な睡眠とストレス管理:慢性的なストレスや睡眠不足は、ホルモン分泌を乱し、排卵周期に悪影響を与える可能性があります21。リラクゼーション技法や趣味の時間を取り入れ、心身を休ませることが大切です。
- 適度な運動:ウォーキングやヨガなどの適度な運動は血行を促進し、ストレスを軽減しますが、過度な運動は逆に排卵を抑制することがあるため注意が必要です。
- 体を温める:体の冷えは血流を悪化させ、骨盤内の臓器の働きを低下させる可能性があります。バランスの取れた生活を心がけましょう。
「妊活」のための栄養
バランスの取れた食事は、質の良い卵子と精子を育むために不可欠です。
- バランスの取れた食事:野菜、果物、質の良いたんぱく質(魚、豆類、赤身肉など)を豊富に含む食事を心がけ、加工食品や糖分の多い食品は控えめにしましょう。
- 抗酸化物質の役割:体の酸化(サビつき)は、卵子や精子の質を低下させる一因とされています。抗酸化物質を豊富に含む食品(ベリー類、緑黄色野菜、ナッツ類など)を積極的に摂取することは有益です。ただし、サプリメントによる高用量の抗酸化物質の摂取が有効であるという科学的根拠はまだ確立されておらず、摂取にあたっては医師に相談することが望ましいです28。
男性の健康が成功の半分を占める
不妊の原因の約半分は男性側にあることを忘れてはなりません6。日本泌尿器科学会のガイドラインでも、男性の健康の重要性が強調されています6。夫の健康は、妻の健康と同じくらい妊娠の可能性に影響を与えます。
- 生活習慣の見直し:喫煙、過度の飲酒、ストレス、肥満などは、精子の数や運動率、質に悪影響を及ぼすことが知られています29。
- 精巣を熱から守る:長時間のサウナや、膝の上でのノートパソコンの使用など、精巣を温めすぎる行為は精子を作る機能を低下させる可能性があるため、避けるようにしましょう。
不妊はカップルの問題です。ぜひ夫婦で一緒に健康診断を受け、生活習慣を見直すことから始めてみてください。
第6章:日本国内の支援リソース
「妊活」の道のりで孤独を感じる必要はありません。日本には、信頼できる情報を提供し、あなた方を支えてくれる多くの組織やリソースが存在します。専門家や同じ経験を持つ仲間と繋がることは、この旅を乗り越える上で大きな力となります。
患者支援団体
同じ悩みや経験を持つ人々と繋がることは、大きな心の支えになります。以下のNPO(非営利団体)は、当事者への情報提供や交流の場を提供しています。
- NPO法人Fine(ファイン):現在・過去・未来の不妊体験者を支援することを目的とした、日本最大級のNPO法人です。ピアカウンセリングやセミナーなどを通じて、幅広い支援活動を行っています30。
- NPO法人MIDS(ミズ):男性不妊に特化した支援団体で、男性当事者への情報提供やサポートを行っています31。
信頼できる医療情報源
インターネット上には誤った情報も多いため、情報源を慎重に選ぶことが重要です。以下のウェブサイトは、専門家による監修が行われており、信頼性が高い情報を提供しています。
- 日本生殖医学会 (JSRM) / 日本産科婦人科学会 (JSOG):これらの専門学会のウェブサイトには、一般の方向けに、病気や治療法に関する正確な情報が掲載されています332。
- Medical Noteなど、医師監修の医療情報サイト:Googleなどと提携し、多数の専門医が執筆・監修に関わっている医療情報プラットフォームは、信頼できる情報源の一つです33。
政府による支援
不妊治療と仕事の両立など、社会的な課題に対する支援策も整備されつつあります。以下の公的機関のウェブサイトで、最新の支援制度に関する情報を確認できます。
よくある質問
カレンダー方式の生理管理アプリだけで「妊活」は十分ですか?
いいえ、十分ではありません。ほとんどのアプリは過去の周期データに基づく「推測」であり、非常に不正確であることが研究で示されています8。排卵日は体調やストレスで簡単に変動するため、リアルタイムのホルモン変化を捉える排卵日予測検査薬(OPK)の使用が、科学的に最も推奨される方法です。アプリはあくまで記録用の「日記」として活用するのが賢明です。
排卵日予測検査薬が陽性になったら、いつ性交渉を持つのがベストですか?
検査薬が陽性になった日と、その翌日が最も妊娠しやすいタイミングです。陽性反応は、LHサージがピークに達し、これから24〜36時間以内に排卵が起こることを示しています12。精子は女性の体内で数日間生存できるため、陽性反応が出たら、焦らずにその日か翌日にタイミングを取るのが良いでしょう。
毎日性交渉を持つと、精子の質が落ちて妊娠しにくくなりますか?
その心配はほとんどありません。健康な男性の場合、毎日射精しても、妊娠に必要な精子の数や質が著しく低下することはないとされています11。むしろ、専門家は妊娠しやすい期間中に1〜2日おきに性交渉を持つことを推奨しており、義務感によるストレスを避けるためにも、頻度にこだわりすぎないことが大切です。
不妊は女性だけの問題ですか?夫の検査は必要ですか?
いいえ、不妊は決して女性だけの問題ではありません。不妊の原因の約半分は男性側にもあるか、あるいは男女双方に原因があるとされています6。したがって、妊活を始める際には、早い段階で夫婦そろって検査を受けることが非常に重要です。男性の検査は、多くの場合、精液検査という簡単な方法で行えます。
不妊治療にはどのくらいの費用がかかりますか?保険は使えますか?
結論
「妊活」という長い旅路において、知識は羅針盤であり、力です。自分自身の体の仕組みを正しく理解し、排卵日予測検査薬のような科学的根拠に基づいたツールを賢く使うことは、あなたが主体的に踏み出せる、最も確実で効果的な第一歩です。この記事が提供した情報が、あなたの不安を和らげ、自信を持って次の一歩を踏み出すための助けとなることを心から願っています。一人一人の道のりは異なります。他人と比較することなく、パートナーと手を取り合い、時には専門家の助けを借りながら、焦らず、あなた方自身のペースで進んでいくことが何よりも大切です。この旅が、希望に満ちた未来へと繋がっていくことを、JHO編集部一同、応援しています。
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