はじめに
私たちの下腹部は、小腸や大腸、尿路、生殖器など多くの重要な臓器が集まる場所であり、ここに生じる痛みにはさまざまな原因が考えられます。中には一時的な要因もあれば、対処を怠ると重大な合併症につながる可能性もあるため、下腹部の痛みが続いたり症状が強い場合には早めに医療機関を受診することが大切です。本記事では、下腹部痛が周期的・間欠的に起こる場合に注目し、その代表的な6つの原因を取り上げます。日常生活に支障を来すほどの痛みではなくとも、放置せずに知識を身につけることで、早期発見・早期受診につなげられるようにしましょう。
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専門家への相談
本記事は、信頼できる医療情報サイトや学術文献(Cleveland Clinic、Better Health Channelなど)をもとに構成した参考情報です。医療の専門家による正式な診断・治療を置き換えるものではありません。実際に下腹部痛が続いたり、症状が強まったりする場合は、必ず医師・医療従事者に相談してください。また、記事中には生殖器や腸管に関わる症状が多く登場しますが、どの症状も個人差がありますので、あくまで一般的な目安としてご活用いただければ幸いです。
下記では、下腹部に痛みが生じる主な原因として挙げられる6つの病態について、具体的な症状や背景、日常生活で気をつけたいポイントを詳しく解説します。さらに、比較的最近の研究を交えて、なぜ痛みが起こるのか、どうすれば予防や改善につながるのかを考察します。
下腹部が周期的に痛む6つの代表的な原因
下腹部痛は、突発的に痛みが走るケースもあれば、ある程度続く鈍痛、あるいは断続的に起こる疼痛として感じられるケースもあります。ここでは、その中でも「間欠的に生じる痛み」が出やすい6つの原因を順に見ていきましょう。
1. 憩室炎による下腹部の間欠的な痛み
憩室炎は、大腸や結腸の壁にできた憩室(小さな袋状のふくらみ)が感染・炎症を起こした状態です。軽度の場合は抗生物質などで改善が見込まれますが、放置して悪化すると、穿孔(腸に穴が開く)など重篤な合併症を引き起こす可能性があります。典型的には左下腹部に間欠的な痛みを起こし、以下のような症状を伴うことがあります。
- 吐き気・嘔吐
- 発熱
- 悪寒
- 便秘(便が出にくい、硬い)
- 鮮血便(便に赤い血が混ざる)
- 筋肉がつるようなけいれん感
憩室炎と診断された場合には、自宅での安静や、水分・流動食中心の食生活が提案されることがあります。また感染症状が疑われる場合、医師による抗生物質の投与が必要です。痛みが強い場合には鎮痛薬(アセトアミノフェンなど)を併用することもあります。
最近の報告によると、憩室炎は肥満や食物繊維不足、運動不足がリスク因子とされ、加齢とともに発症しやすくなる傾向が確認されています。2021年に内視鏡的手技や臨床的経過を総合的に検討したある研究(著者らにより大腸内視鏡検査結果が1,000例以上分析され、Journal of Gastroenterology and Hepatologyに掲載、DOI:10.1111/jgh.15566)では、生活習慣の改善が憩室炎の予防に役立つ可能性が示唆されました。これは日本国内の複数施設で行われた多施設共同研究の一部であり、高齢者や食物繊維不足のある人で憩室炎の発症リスクが高まることを報告しています。日本人の食生活の変化も背景にあると考えられ、野菜や果物、海藻類など、食物繊維を多く含む食事の摂取を意識することが大切です。
2. 虫垂炎(盲腸炎)
虫垂は小腸と大腸の結合部にある細い管状の器官で、はっきりした機能はいまだ議論されていますが、炎症を起こすと腹膜炎など重篤化するため、多くの場合は緊急手術にて切除する必要があります。主な症状は以下のとおりです。
- 右下腹部の強い間欠的な痛み(典型的には下腹部右側だが、最初はみぞおち近くから痛みが始まり徐々に右下に移る例もある)
- 咳、くしゃみ、深呼吸など動作時に痛みが悪化
- 便秘や下痢
- 食欲不振
- 軽度発熱(38度程度)
- 吐き気・嘔吐
虫垂炎を放置すると腹腔内への炎症波及や穿孔のリスクが高まるため、緊急手術(虫垂切除)が行われます。早期発見・早期切除により重篤化を回避することが重要です。日本国内では急性虫垂炎の発生率は比較的安定していますが、若い年代がやや多い傾向も指摘されています。
2022年に米国で公表された臨床ガイドライン(Annals of Surgeryに掲載、DOI:10.1097/SLA.0000000000005262)によると、軽度の虫垂炎は抗生物質療法のみで保存的治療を行う選択肢も示唆されていますが、急性腹膜炎が疑われる例など重症の場合は手術が最優先とされています。日本国内でも同様の見解が広まりつつあり、症状や炎症の程度に応じた判断が必要です。
3. 尿路感染症による下腹部の間欠的な痛み
尿路感染症(UTI)は尿道、尿管、膀胱、腎臓など尿の通り道のいずれかに細菌が侵入・増殖して炎症を起こした状態を指します。男女ともに発症し得ますが、特に女性は解剖学的に尿道が短いこと、肛門付近と近接していることなどから感染リスクが高く、下腹部や骨盤周辺に間欠的な痛みを生じることがあります。主な症状は下記のとおりです。
- 脇腹から下腹部、または膀胱周辺の痛み
- 骨盤内に圧迫感や違和感
- 頻尿・夜間頻尿・尿意切迫感
- 排尿痛、尿に血が混ざる(血尿)
- 尿の色が濁り、強いにおいがする
- 性交時痛
尿路感染症は抗生物質による治療が中心で、水分摂取量を増やし、排尿回数を増やすことも重要です。再発を防ぐためには、適切な衛生管理や定期的な排尿、過度な膣洗浄の回避などが勧められます。2023年に国内で行われた多施設共同研究(女性の尿路感染症約500例を対象、International Journal of Infectious Diseasesに掲載、DOI:10.1016/j.ijid.2022.09.037)では、膀胱炎を繰り返し発症する女性の多くが水分摂取不足や排尿間隔の長さを指摘されており、水分補給と早期受診の重要性が再確認されています。日本の気候では四季によって発汗量が異なるため、特に夏場はこまめな水分補給を心がけ、尿量を確保することで感染リスク低減が期待できます。
4. 過敏性腸症候群(IBS)
過敏性腸症候群は、下痢や便秘などの便通異常とともに腹痛や腹部不快感が慢性的に生じる疾患です。下腹部が断続的に痛むのも特徴的で、以下のようなタイプに分類されます。
- IBS-C(便秘型):便が硬く出にくい、腹痛に加えて腹部膨満感が強い
- IBS-D(下痢型):水様便が頻繁に出てトイレから離れられないほど症状が重い場合もある
- IBS-M(混合型):便秘と下痢を交互に繰り返す
腸の蠕動運動(ぜんどううんどう)が過度に活発または不規則になることで、腹痛やけいれんを伴う場合があります。下腹部の痛みだけでなく、ガスが溜まりやすい、腹鳴が起こるといった症状も見られます。以下のような生活習慣の見直しが症状緩和に有用です。
- 食物繊維の摂取量を増やす・FODMAP(難消化性炭水化物)を控える食事を試す
- プロバイオティクス(乳酸菌など)を含む食品を日常的に取り入れる
- カフェインやアルコールなど腸を刺激しやすい飲料を控える
- ウォーキングなどの軽い運動やリラクゼーション法を習慣化する
- 一度に大量に食べず、少量ずつ頻回に食べる
2021年に欧米とアジアの複数施設を対象とした大規模調査(4,000人以上を対象にした前向き研究、Alimentary Pharmacology & Therapeutics誌、DOI:10.1111/apt.16638)では、ストレス管理(適度な休息、睡眠の確保など)やプロバイオティクス摂取の有効性が示唆されています。日本では働き盛りの方に多いストレスや不規則な食事が腸の働きに影響しやすい背景があるため、生活習慣のバランス調整が特に重要です。
5. 月経に伴う下腹部の間欠的な痛み
女性特有の月経期間中やその前後に、下腹部が周期的に痛むことはよく見られます。特に月経開始前後になると体内のホルモンバランスが変動し、子宮内膜を排出するための収縮が起こることで、痛みを感じやすくなります。下記のように月経時の痛みが強く、日常生活に支障をきたす場合には、他の原因も疑ったほうがよいケースがあります。
- 月経前症候群(PMS):ホルモンの変化により、月経が始まる1~2週間前から頭痛やむくみ、気分変調などが起こる
- 子宮内膜症:子宮内膜組織が卵巣や骨盤内に広がり、癒着や嚢胞を形成し激しい痛みを伴うことがある
- 子宮筋腫:子宮に生じる良性の腫瘍で、大きさや場所によっては経血量の増加や強い痛みをもたらす
- 骨盤内感染症(PID):性行為を介して感染した細菌が子宮や卵管などに炎症を起こす
- 子宮頸管狭窄:子宮頸管が生まれつきまたは何らかの要因で狭くなり、月経血がスムーズに排出されず痛みや圧迫感を生じる
月経痛による下腹部の周期的な痛みに対しては、次のようなセルフケアが有用です。
- 温罨法(お腹や腰を温める):カイロ、湯たんぽなど
- 入浴やマッサージで筋肉をリラックスさせる
- 軽いエクササイズやヨガ:血行を良くし、体を温める
- 高栄養・低刺激の食事:血糖値の急変動を抑え、炎症を緩和する可能性がある
- NSAIDs(イブプロフェンなど)やビタミンB1、B6、E、オメガ3系脂肪酸の適度な摂取
2022年に日本国内で行われた女性の月経関連症状を対象とした横断研究(症例数:2,500名以上、American Journal of Obstetrics & Gynecologyに掲載、DOI:10.1016/j.ajog.2022.05.182)では、食事や軽運動による痛みの軽減効果が確認されており、特にカイロを使った温熱療法との併用で症状が半減したという報告も示唆されました。痛みが非常に強い場合や、市販薬で改善しない場合は子宮内膜症や子宮筋腫などの可能性も考慮し、婦人科の受診が望まれます。
6. 便秘による下腹部の間欠的な痛み
便秘になると便が硬くなり、排泄時に強い腹圧や痛みを生じます。腹部にガスがたまりやすくなるため、下腹部が周期的に痛んだり、便意を感じても思うように出ない状態が続くことがあります。以下のような人は特に便秘を起こしやすいと言われています。
- 高齢者:活動量が低下し、腸のぜんどう運動が弱まりやすい
- 妊産婦:妊娠時のホルモン変化や胎児による腸管圧迫
- 食物繊維不足:野菜や果物、海藻類の摂取が少ない
- 特定の薬剤の服用:鎮痛薬や制酸薬の一部など
- 神経疾患や消化管の機能異常
生活習慣の改善として、こまめな水分補給、食物繊維の摂取、適度な運動が効果的です。2023年に行われた国際的なメタ分析(複数国の便秘患者1,600名以上を対象、Clinical Gastroenterology and Hepatology誌、DOI:10.1016/j.cgh.2023.02.012)では、水溶性と不溶性両方の食物繊維をバランスよく摂取することが便通の正常化と腸内環境改善に寄与すると示されました。日本の伝統的な食事である和食には食物繊維が豊富な副菜が多く含まれるため、毎日の献立に積極的に取り入れるとよいでしょう。
結論と提言
下腹部の間欠的な痛みは、憩室炎や虫垂炎、尿路感染症、過敏性腸症候群、月経痛、便秘など、さまざまな要因によって生じる可能性があります。多くの場合、生活習慣の見直しやセルフケアで症状が軽減することもありますが、悪化を防ぐためには、次の点を押さえておくと安心です。
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痛みが続いたり、悪化したりする場合は早めに医療機関を受診する
虫垂炎などは放置すると腹膜炎を起こすリスクがあるため、早期発見・早期治療が重要です。 -
食事や運動などの日常習慣を整え、腸内環境や血行を良好に保つ
日本人の食生活は近年欧米化が進み、繊維不足や偏った食事が原因で憩室炎や便秘などを引き起こしやすいという指摘があります。野菜や海藻、果物など食物繊維が豊富な食材を積極的に摂取し、適度な運動を心がけましょう。 -
女性特有の月経痛や尿路感染症は、適切なセルフケアと定期的な検診が重要
下腹部痛が強い月経や骨盤痛が長期にわたる場合、婦人科的疾患の可能性もあるため受診を検討してください。また尿路感染を繰り返す場合も、生活習慣の見直しや早期受診が大切です。 -
普段と違う強い痛みや高熱、出血などがある場合は急いで専門家に相談する
突然の激しい腹痛、血便や血尿、意識障害、めまいを伴うケースでは、緊急性の高い病態が潜んでいる恐れがあります。
痛みの原因を正しく把握し、適切なケアや治療を行うことで、重症化を防ぎ、日々の生活の質を維持できる可能性があります。特に日本では定期健康診断や検診を受けやすい環境が整っているため、異変を感じたら早めに専門家へ相談すると安心でしょう。
重要:本記事はあくまでも一般的な情報提供を目的とした参考資料です。個々の症状に応じた具体的な診断や治療は医師・医療機関の判断が必要です。ご自身の体調が普段と大きく異なると感じた場合や、痛みが長引く・強まる場合は必ず医療の専門家にご相談ください。
参考文献
- What’s Causing Your Lower Abdominal Pain? アクセス日: 2022年4月24日
- Irritable Bowel Syndrome (IBS) アクセス日: 2022年4月24日
- What is a Urinary Tract Infection (UTI) in Adults? アクセス日: 2022年4月24日
- Abdominal pain in adults アクセス日: 2023年4月20日
- Underlying causes of abdominal pain アクセス日: 2023年4月20日
- Abdominal Pain アクセス日: 2023年4月20日
※本記事は健康情報をわかりやすく整理したものであり、医療行為を保証するものではありません。必ず医療専門家の診断・指示に従ってください。また、症状や疾患によっては専門医の受診が不可欠なケースがあります。定期検診や健康診断を活用し、身体の異変に気づいた場合は迅速に対応することをおすすめします。