この記事の科学的根拠
この記事は、下記に示す国内外の権威ある機関のガイドラインや研究報告といった、質の高い医学的エビデンスのみに厳密に基づいています。提示されるすべての医学的ガイダンスは、これらの信頼できる情報源に由来するものです。
- 厚生労働省 (MHLW) および 日本小児科学会 (JPS): 日本国内の予防接種スケジュール2、新生児医療における感染対策3、およびRSウイルス4やエコーウイルス11型5といった特定の感染症への対応に関する推奨事項は、日本の医療現場における標準治療の基盤として、本記事の核をなしています。
- 世界保健機関 (WHO): 新生児敗血症の世界的な脅威6や、重篤な細菌感染症の管理に関する国際的な指針7は、日本国内の状況をより広い科学的文脈で理解するために引用されています。
- 米国疾病予防管理センター (CDC): B群溶連菌(GBS)感染予防策の有効性を示す具体的なデータ8など、大規模な疫学データに基づく知見は、日本の推奨事項の科学的妥当性を補強するために活用されています。
この記事の要点
- 新生児期(生後28日未満)において、38.0℃以上の発熱は医学的な緊急事態であり、直ちに医療機関の受診が必要です1。
- 「ぐったりしている」「哺乳力が著しく低下した」「呼吸が速い、苦しそう」といった症状は、敗血症などの重篤な感染症を示唆する危険なサインです3。
- B群溶連菌(GBS)感染症は、妊婦健診でのスクリーニングと分娩時の抗生剤投与で、その発症リスクを劇的に低減できます9。
- RSウイルス感染症に対し、妊婦へのワクチン接種4や乳児への抗体製剤(ニルセビマブ)10といった新しい予防手段が登場しています。
- 予防接種は、赤ちゃんを重篤な感染症から守る最も効果的な手段です。生後2か月の誕生日が、ワクチンデビューの最適なタイミングです11。
まずはこれを確認:新生児の「危険なサイン」を見分ける
多くの感染症は似たような初期症状で始まります。しかし、中には一刻を争う「危険なサイン」が隠れていることがあります。以下のチェックリストは、保護者様が「これは普通ではないかもしれない」と気づくための最初のステップです。これらのサインが一つでも見られた場合、特に生後3ヶ月未満の赤ちゃんでは、ためらわずに夜間や休日であっても医療機関に連絡し、受診してください。
緊急受診を要する危険なサイン
- 発熱・低体温: 生後3ヶ月未満で38.0℃以上の熱がある1。または、体を温めても体温が36.0℃未満と低い状態が続く5。
- 意識・行動の変化: ぐったりして元気がない、ぐにゃぐにゃで力が入らない、つねっても反応が鈍い、または普段と違い、激しく泣き続けてあやすことができない5。
- 哺乳力の低下: 母乳やミルクを飲む力が極端に弱い、または2回以上続けて全く飲まない3。
- 呼吸状態の異常: 呼吸が速い(安静時に1分間に60回以上)、息をするたびに「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という音がする、息を吸うときに胸や喉がへこむ(陥没呼吸)、または呼吸が一時的に止まる(無呼吸)9。
- 皮膚の色調変化: 顔色や唇、皮膚が青白い(チアノーゼ)、土気色、またはまだら模様になっている3。
- その他の症状: 嘔吐を繰り返す、けいれん(ひきつけ)を起こした。
判断ガイド:「これは救急?」迷ったときのフローチャート
緊急のサインに当てはまるか判断に迷う場合、以下の質問に沿って考えてみてください。
- 赤ちゃんの月齢は3ヶ月未満ですか?
- はい → 2に進んでください。
- いいえ → 3に進んでください。
- 直腸(またはそれに準ずる方法)で測った体温が38.0℃以上ですか?
- はい → 【緊急行動】 これは医療的な緊急事態です。様子を見ずに、ただちに救急外来を受診するか、救急車(#7119または119)に連絡してください。
- いいえ → それでも上記の「危険なサイン」に当てはまる項目(哺乳力低下、呼吸異常など)がありますか?あれば同様に緊急行動が必要です。なければ、かかりつけ医に相談してください。
- 月齢が3ヶ月以上でも、上記の「危険なサイン」のいずれかに当てはまりますか?(例:ぐったりしている、呼吸が苦しそうなど)
- はい → 【緊急行動】 やはり緊急性が高い状態です。すぐに医療機関を受診してください。
- いいえ → 機嫌は良く、水分も取れているようであれば、診療時間内にかかりつけ医に相談することを検討してください。しかし、保護者の直感で「いつもと全く違う」と感じる場合は、その直感を信じて医療機関に相談することが重要です。
【重要度順】知っておくべき新生児の10大感染症
ここでは、新生児期に特に注意すべき10の疾患を、その重篤度や頻度、予防の重要性などを考慮して選び、解説します。いくつかの疾患は症状が似ていますが、それぞれに特徴と対処法があります。
新生児感染症 症状比較チャート
下記の表は、代表的な疾患の症状を比較したものです。あくまで一般的な傾向であり、実際の症状は個人差が大きいことをご理解ください。確定診断は必ず医師が行います。
症状 | 新生児敗血症 | RSウイルス感染症 | 細菌性髄膜炎 | 川崎病 |
---|---|---|---|---|
発熱 | 高熱(>38℃)または低体温(<36℃)3 | 軽度から中等度の発熱が典型的だが、高熱も12 | 突然の高熱13 | 5日以上続く高熱、解熱剤が効きにくい14 |
呼吸状態 | 多呼吸、呼吸困難、無呼吸発作3 | 咳、鼻水から始まり、喘鳴(ゼーゼー音)へ移行14 | 正常な場合も、敗血症合併時は多呼吸 | 通常は正常 |
機嫌・行動 | 嗜眠(眠りがち)、ぐったり、または極度の不機嫌3 | 呼吸困難による不機嫌 | 激しい不機嫌、甲高い泣き声、大泉門の膨隆13 | 非常に不機嫌で、あやしても泣き止まない |
発疹 | 点状出血や皮膚のまだら模様が出ることあり | 特異的な発疹はない | 髄膜炎菌が原因の場合、出血性の発疹 | 全身性の不定形な赤い発疹 |
その他の特徴的所見 | 哺乳力低下、嘔吐、腹部膨満5 | 激しい咳、多量の鼻水 | けいれん、項部硬直(新生児では気づきにくい) | 両眼の充血、真っ赤な唇、いちご舌、首のリンパ節腫脹、手足の指先の皮むけ14 |
1. 新生児敗血症(新生児敗血症)
- どんな病気?: 細菌が血液中に侵入し、全身に広がって重篤な炎症反応を引き起こす、命に関わる状態です。免疫系が未熟な新生児は特に脆弱で、感染が急速に広がり、多臓器不全に至る危険性があります3。多くの重篤な感染症の最終的な共通経路とも言えます。
- 症状: 最も注意すべき症状は、前述の「危険なサイン」そのものです。具体的には、急な高熱または低体温、ぐったりして元気がない、哺乳力の著しい低下、呼吸が速い、皮膚の色が悪い(蒼白、まだら模様)などが挙げられます35。
- 原因・感染経路: B群溶連菌(GBS)、大腸菌などが主な原因菌です。産道で感染する(早発型)か、出生後に環境から感染する(遅発型)場合があります。
- 治療・対処法: 診断が疑われた時点で、直ちに入院となり、強力な抗生物質の点滴投与が開始されます。一刻も早い治療開始が予後を左右します。
- 予防: GBSの母体スクリーニングと予防内服(後述)が重要です。また、周囲の人の徹底した手指衛生も予防につながります。
2. B群溶連菌(GBS)感染症(B群溶連菌感染症)
- どんな病気?: GBSは、新生児における早発型敗血症および髄膜炎の主要な原因菌の一つです15。この感染症の最も重要な特徴は、「予防可能」であるという点です。
- 症状: 生後数時間から数日以内に発症する早発型では、呼吸困難、無呼吸、血圧低下など、敗血症の症状が急速に現れます9。生後1週間以降に発症する遅発型では、発熱や哺乳不良、時には髄膜炎の症状が見られます。
- 原因・感染経路: GBSは成人の腸内や腟内に常在する菌で、通常は無害です。しかし、分娩時に産道から赤ちゃんに感染することがあります。
- 治療・対処法: GBS感染が疑われる場合は、敗血症に準じて抗生物質の点滴治療が行われます。
- 予防: 日本産科婦人科学会などのガイドラインでは、妊娠後期(35~37週)にGBSのスクリーニング検査を受けることが推奨されています9。検査で陽性となった場合、分娩中に母親に抗生物質を点滴することで、赤ちゃんへの感染を劇的に減らすことができます。米国CDCのデータによれば、この予防策により、新生児GBS感染症のリスクは200人に1人から4000人に1人へと大幅に減少します8。これは、親が積極的に関与できる、極めて効果的な予防策です。
3. RSウイルス感染症(RSウイルス感染症)
- どんな病気?: 非常にありふれた呼吸器系のウイルスで、2歳までにほぼ全ての子どもが一度は感染すると言われています16。年長児や大人では軽い風邪で済みますが、特に生後6ヶ月未満の乳児や、早産児、心臓や肺に基礎疾患のある赤ちゃんが感染すると、細気管支炎や肺炎といった重篤な呼吸器疾患を引き起こすことがあります12。
- 症状: 初期は鼻水や咳といった風邪様の症状で始まりますが、次第に咳がひどくなり、「ゼーゼー」「ヒューヒュー」といった喘鳴(ぜんめい)が聞こえるようになります14。重症化すると、呼吸困難や無呼吸発作を起こすことがあります。特に非常に幼い新生児では、咳や鼻水といった典型的な症状がなく、不機嫌や無呼吸が最初のサインであることもあり、注意が必要です17。
- 原因・感染経路: 感染者の咳やくしゃみによる飛沫感染、またはウイルスが付着した手指や物品を介した接触感染で広がります。感染力は非常に高いです16。
- 治療・対処法: 特効薬はなく、治療は症状を和らげる対症療法が中心です。鼻水の吸引、加湿、水分補給などを行います。呼吸困難が強い場合は、入院して酸素投与や点滴が必要になることもあります16。
- 予防: 周囲の人の手洗いや、おもちゃなどの消毒が基本です18。近年、画期的な予防手段が登場しており、非常に重要なトピックとなっています。
- 母親へのワクチン接種: ファイザー社のワクチンが、妊婦に接種することで、胎盤を通じて赤ちゃんに抗体を移行させ、生後6ヶ月までのRSVによる下気道疾患を防ぐ目的で、日本でも2024年1月に承認されました4。
- 乳児への抗体製剤(モノクローナル抗体): ニルセビマブ(商品名:ベイフォータス®)は、ウイルスに直接結合して無力化する抗体を赤ちゃんに注射する薬です。1回の注射でシーズン中の予防効果が期待できます。日本小児科学会は、全ての新生児・乳児を対象とすることに加え、特にリスクの高い赤ちゃん(早産児、心肺疾患、ダウン症候群など)への接種を推奨するガイドラインを発表しています10。
これらの新しい予防法の登場は、RSウイルス感染症対策における大きな進歩であり、かかりつけ医と相談する価値のある重要な情報です。
4. 細菌性髄膜炎(細菌性髄膜炎)
- どんな病気?: 脳と脊髄を覆う髄膜(ずいまく)に細菌が感染し、炎症を起こす病気です。これは小児科における最も緊急性の高い疾患の一つで、死亡率が高く、たとえ救命できても、難聴、発達の遅れ、てんかんなどの重い後遺症を残す可能性があります13。
- 症状: 新生児や乳児では症状が非典型的であることが多く、診断を難しくします。突然の高熱、激しい不機嫌(火が付いたように泣き叫び、あやしても泣き止まない)、嘔吐、けいれんなどが見られます。頭のてっぺんにある大泉門(だいせんもん)がパンパンに張って膨らんでくることも重要なサインです13。項部硬直(首が硬くなって前に曲げられない)といった古典的な症状は、乳児でははっきりしないことが多いです。
- 原因・感染経路: 新生児期の主な原因菌は、B群溶連菌(GBS)と大腸菌です13。年長児では、肺炎球菌やインフルエンザ菌b型(Hib)が主な原因となりますが、これらはワクチンで予防可能です。
- 治療・対処法: 髄膜炎が疑われる場合、腰椎穿刺(ようついせんし)という検査で髄液を採取し、診断を確定します。治療は、診断が確定する前から強力な抗生物質の大量点滴静注を直ちに開始します。
- 予防: 生後2ヶ月から接種できるHibワクチンと小児用肺炎球菌ワクチンは、乳児期の細菌性髄膜炎を予防する上で絶大な効果を発揮します。GBSに対する母体スクリーニングも、GBSによる髄膜炎の予防に繋がります。
5. エコーウイルス11型(E11)感染症(エコーウイルス11型感染症)
- どんな病気?: エコーウイルスはエンテロウイルスの一種で、夏風邪の原因として知られていますが、時に重症化することがあります。特に注目すべきは、2023年末から2024年にかけて、日本小児科学会が新生児におけるエコーウイルス11型(E11)による重症感染症(劇症肝炎や多臓器不全)の多発と死亡例について、異例の注意喚起を行ったことです5。この最新の脅威に関する情報は、他の多くの医療情報サイトではまだ十分にカバーされておらず、本稿の重要な差別化要因です。
- 症状: 一般的には発熱、発疹などですが、新生児が感染した場合、敗血症様の症状から急速に肝不全や凝固障害などを伴う重篤な状態に至ることが報告されています19。
- 原因・感染経路: 主に糞口感染や飛沫感染で広がります。母親が分娩前後に感染していると、赤ちゃんに感染するリスクがあります。
- 治療・対処法: 特異的な治療法はなく、対症療法が中心となります。重症例では集中治療室での全身管理が必要です。
- 予防: 流行期の妊婦および新生児の周囲の人の、徹底した手指衛生が最も重要です。
6. 尿路感染症(UTI)(尿路感染症)
- どんな病気?: 腎臓、尿管、膀胱、尿道といった尿の通り道(尿路)に細菌が感染する病気です。特に生後6ヶ月未満の乳児において、「原因不明の発熱」の隠れた、しかし一般的な原因となります20。
- 症状: 乳児の尿路感染症は症状が非常に曖昧で、発熱と不機嫌だけ、ということがよくあります。おしっこの臭いが強い、色が濃いといった変化が見られることもありますが、唯一の症状が発熱であることも稀ではありません。このため、診断が見逃されがちです。
- 原因・感染経路: 多くの場合は、おむつの中にいる大腸菌などの細菌が尿道を逆行して膀胱や腎臓に侵入することで起こります。
- 治療・対処法: 尿検査で診断し、抗生物質で治療します。腎臓に感染が及ぶ腎盂腎炎(じんうじんえん)の場合は、点滴治療のための入院が必要になることがあります。
- 予防: おむつ交換の際に、前から後ろに向かって拭くことで、細菌が尿道口に付着するのを防ぐことが基本です。
7. ロタ・ノロウイルス胃腸炎(ロタ・ノロウイルス胃腸炎)
- どんな病気?: 激しい嘔吐と下痢を特徴とするウイルス性の胃腸炎です。特にロタウイルスは乳幼児に重症化しやすく、脱水症状で入院が必要になることも少なくありません21。
- 症状: 突然の嘔吐で始まり、続いて水のような下痢(ロタウイルスでは白っぽい便になることも特徴)と発熱が見られます。繰り返す嘔吐と下痢により、急速に水分が失われ、脱水症状に陥りやすいのが最も危険な点です。
- 原因・感染経路: 非常に感染力が強く、ウイルスに汚染された手指、食品、物品を介して経口感染します。
- 治療・対処法: ウイルスに対する特効薬はないため、水分と電解質を補給し、脱水を防ぐことが治療の中心です。経口補水液を少量ずつ頻回に与えることが推奨されます。飲んでもすぐに吐いてしまう、ぐったりして尿が少ないといった場合は、点滴が必要なため医療機関を受診してください。
- 予防: ロタウイルスワクチンは、重症化を予防するのに非常に効果的で、日本の定期接種に含まれています2。ノロウイルスに対してはワクチンがありませんが、食事の前やおむつ交換後の石鹸による手洗いが最も重要です。
8. 百日咳(百日咳)
- どんな病気?: クラシックなワクチン予防可能疾患ですが、特にワクチンをまだ接種できない低月齢の赤ちゃんにとっては、今なお非常に危険な病気です。百日咳菌によって引き起こされます。
- 症状: 最初は風邪のような症状ですが、次第に特徴的な激しい咳発作(スタッカート)が現れます。息つく間もなくコンコンと咳き込み、最後に息を吸い込むときに「ヒュー」という笛のような音(ウープ)が聞こえるのが特徴です。新生児や乳児では、咳発作の後に呼吸が止まってしまう(無呼吸発作)ことがあり、命に関わります22。
- 原因・感染経路: 咳やくしゃみによる飛沫感染でうつります。感染力が非常に強く、咳症状のある年長児や大人が家庭内の感染源となることが多いです。
- 治療・対処法: マクロライド系の抗生物質で治療します。早期に治療を開始することで、菌の排出を抑え、他者への感染を防ぐことができます。低月齢の乳児は入院管理が必要です。
- 予防: 予防接種が最も重要です。日本では四種混合(DPT-IPV)ワクチンに含まれており、生後3ヶ月から接種が始まります。赤ちゃんの周囲の大人(両親、祖父母など)が追加接種を受け、家庭内に菌を持ち込まない「コクーン戦略(繭戦略)」も推奨されます。
9. 先天性サイトメガロウイルス(CMV)感染症(先天性サイトメガロウイルス感染症)
- どんな病気?: 最も頻度の高い先天性(生まれつきの)感染症の一つです。サイトメガロウイルス(CMV)はありふれたウイルスですが、母親が妊娠中に初めて感染すると、胎盤を通じて赤ちゃんに感染し、様々な問題を引き起こす可能性があります。特に、難聴や発達の遅れの重要な原因として知られています5。
- 症状: 感染した赤ちゃんの多くは、出生時に無症状です。しかし、一部の赤ちゃんは、低出生体重、肝臓や脾臓の腫れ、黄疸、小頭症、特徴的な発疹などが見られます。無症状で生まれた場合でも、後に進行性の難聴や発達障害が現れることがあるため、「静かなる脅威」とも呼ばれます。
- 原因・感染経路: 妊娠中の母親が、感染者の唾液や尿などに含まれるウイルスに接触することで初感染し、胎児に垂直感染します。
- 治療・対処法: 抗ウイルス薬による治療がありますが、副作用のリスクもあり、適応は慎重に判断されます。難聴に対しては、早期発見と補聴器や人工内耳による療育が重要です。
- 予防: 妊娠中の女性は、特に上の子のおむつ交換や食事の世話の後に、石鹸と水でよく手を洗うことが予防の鍵となります。
10. 川崎病(川崎病)
- どんな病気?: この病気は厳密には感染症ではありませんが、全身の血管に炎症が起こる原因不明の疾患です。しかし、その症状が重い感染症と非常によく似ているため、小児科医が発熱した乳幼児を診察する際に、常に鑑別診断として念頭に置くべき重要な病気であるため、戦略的にこのリストに加えました。最も懸念される合併症は、心臓に栄養を送る冠動脈にこぶ(冠動脈瘤)ができることで、将来の心筋梗塞のリスクとなります14。
- 症状: 以下の6つの主要な症状のうち、5つ以上を満たすと典型的な川崎病と診断されます。
- 5日以上続く発熱
- 両方の眼球結膜の充血(目やには伴わない)
- 唇が真っ赤になったり、舌がイチゴのようにブツブツになる
- 体に不定形の発疹が出る
- 病気の初期に手足が硬く腫れ、熱が下がった後に指先の皮がむける
- 首のリンパ節が腫れる
ただし、全ての症状が揃わない「非典型例」も多く、診断が難しい場合があります。
- 原因・感染経路: 原因は不明ですが、何らかの感染症が引き金となって、特定の遺伝的素因を持つ子どもに異常な免疫反応が起こるのではないかと考えられています。
- 治療・対処法: 冠動脈瘤の合併症を防ぐために、できるだけ早く治療を開始することが極めて重要です。治療の基本は、免疫グロブリン大量静注療法とアスピリンの内服です。
- 予防: 原因不明のため、確立された予防法はありません。早期発見・早期治療が全てです。
究極のガイド:赤ちゃんの感染症を「予防」するためにできることすべて
多くの感染症は、日々の心がけと適切な医学的介入によって予防、あるいは重症化を防ぐことが可能です。ここでは、保護者様が実践できる最も重要な予防策を具体的に解説します。
日本の予防接種スケジュール:いつ、何を、なぜ?
予防接種は、科学が人類にもたらした最大の恩恵の一つであり、赤ちゃんを危険な感染症から守る最も効果的で安全な方法です。日本の厚生労働省は、科学的根拠に基づいた定期接種スケジュールを定めています2。生後2ヶ月の誕生日を迎えたら、それはワクチンデビューの合図です11。複数のワクチンを同時に接種する「同時接種」は、多くの国で安全かつ効果的であることが確認されており、日本小児科学会も推奨しています。これにより、赤ちゃんは最短期間で必要な免疫を獲得することができます11。
接種開始時期 | ワクチン名 | 主な対象疾患 |
---|---|---|
生後2ヶ月から | ヒブ(Hib)ワクチン | 細菌性髄膜炎、喉頭蓋炎 |
小児用肺炎球菌ワクチン | 細菌性髄膜炎、敗血症、肺炎 | |
B型肝炎ワクチン | B型肝炎(将来の肝硬変・肝がん) | |
ロタウイルスワクチン(経口) | ロタウイルス胃腸炎の重症化 | |
生後3ヶ月から | 四種混合ワクチン(DPT-IPV) | ジフテリア、百日咳、破傷風、ポリオ |
生後5ヶ月から | BCGワクチン | 結核(特に小児の重症結核) |
日常生活での衛生管理
単純ですが、手指衛生は感染予防の基本であり、最も強力な武器の一つです。特にRSウイルスなどの接触感染する病原体18や、医療関連感染で問題となるMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)3の伝播を防ぐ上で、その重要性は計り知れません。
- 手洗い: 家族全員が、帰宅時、調理前、食事前、そして何よりおむつ交換の後には、石鹸と流水で丁寧に手を洗うことを習慣にしましょう。
- 咳エチケット: 咳やくしゃみをする際は、ティッシュや腕の内側で口と鼻を覆いましょう。
- 環境消毒: 家族に感染症の人がいる場合、ドアノブ、手すり、おもちゃなど、よく手が触れる場所をアルコールなどで定期的に消毒しましょう。
- 人混みを避ける: 生後間もない赤ちゃんは、特に感染症が流行する季節には、不要不急の外出や人混みを避けることが賢明です。
妊婦さんにできること:GBSスクリーニングの重要性
前述の通り、B群溶連菌(GBS)は新生児の重篤な感染症の原因となります。しかし、これは妊娠中の簡単な検査で予防への道筋をつけることができます。妊娠35~37週頃に行われるGBSスクリーニング検査は、綿棒で腟の入り口と肛門周囲を軽くこするだけの、痛みのない検査です。もし陽性(菌が発見された)と判定されても、それはお母さんが悪いわけでも、病気であるわけでもありません。単に、分娩時に赤ちゃんを守るための「情報」を得たということです。陽性の場合は、陣痛が始まった時点から分娩が終わるまで、抗生物質の点滴を受けることで、赤ちゃんへの感染リスクを98-99%も減少させることができます89。これは、妊娠中にできる、赤ちゃんの命を守るための非常に重要な行動です。
よくある質問(FAQ)
赤ちゃんの熱が何度になったら、病院に行くべきですか?
ただの風邪とRSウイルスの違いは何ですか?
同時接種は赤ちゃんに負担ではないですか?本当に安全ですか?
親の直感はどのくらい信じて良いですか?
結論
新生児期の感染症は、その多くが非特異的な症状で始まるため、保護者様にとって大きな不安の種です。しかし、本稿で詳述したように、「危険なサイン」を正しく認識し、迅速に行動すること、そして予防接種や衛生管理といった予防策を徹底することで、そのリスクを大幅に減らすことが可能です。特に、生後3ヶ月未満での38.0℃以上の発熱は医療的な緊急事態であるという認識、GBSスクリーニングの重要性、そして最新のRSV予防策といった知識は、現代の保護者にとって不可欠な武器となります。最も大切なことは、一人で悩まず、判断に迷った際には専門家を頼ることです。あなたのお子様の様子を最もよく知る保護者様の観察と直感、そして私たち医療専門家の知識を組み合わせることで、かけがえのない小さな命を共に守っていくことができると、JHO編集委員会は強く信じています。
本記事は情報提供を目的としたものであり、専門的な医学的アドバイスに代わるものではありません。健康上の懸念がある場合、または健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。
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