新生児の肌トラブル完全ガイド:原因・ケア・受診の目安
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新生児の肌トラブル完全ガイド:原因・ケア・受診の目安

生まれたばかりの赤ちゃんの肌は、きめ細やかでスベスベしているというイメージがあるかもしれません。しかし、実際には大人の肌とは大きく異なり、非常にデリケートで、さまざまな肌トラブルを起こしやすい状態にあります。この記事では、新生児の肌が持つ生理的な特徴から、よく見られる肌トラブルの種類、そしてご家庭でできる日々の正しいスキンケア、専門医への受診が必要なサインまでを、包括的に、そして深く掘り下げて解説します。保護者の皆様が抱える不安を和らげ、赤ちゃんの健やかな肌を育むための一助となることを目指します。

要点まとめ

  • 新生児の肌は、大人の肌に比べて非常に薄く、水分を保つ力が弱い「未熟なバリア機能」が特徴です。そのため、外部からのわずかな刺激にも敏感で、乾燥しやすい傾向にあります1
  • 新生児ニキビ、乳児脂漏性皮膚炎、あせも、おむつかぶれなど、新生児期には特有の肌トラブルが多く見られますが、その多くは正しいスキンケアで予防・改善が可能です。
  • スキンケアの基本は「優しく洗うこと」と「十分に保湿すること」です。特に、入浴後5分以内の保湿は、肌の潤いを守るために非常に効果的です1
  • 湿疹が長引く、かゆみが強い、あるいは悪化する場合は、アトピー性皮膚炎の可能性も考えられます。早期に専門医の診察を受けることが、症状の改善と将来のアレルギー疾患予防につながる可能性があります5
  • ホームケアを2~3日続けても改善しない、発疹が広がる、赤ちゃんがひどく不機嫌になるなどの場合は、ためらわずに小児科や皮膚科を受診しましょう。

1. 新生児の肌はとってもデリケート

生まれたばかりの赤ちゃんの肌は、見た目の印象とは裏腹に、構造的にも機能的にも未熟です。その繊細さの背景には、特有の生理的な特徴があります。

A. 新生児の肌の特徴と未熟なバリア機能

新生児の皮膚の一番外側にある角層は、成人の女性と比較して水分量が4分の1程度しかないという報告もあり、特に乾燥しやすい状態にあります。これは湿度が高い季節であっても同様です。さらに重要なのは、皮膚のバリア機能がまだ十分に発達していないという点です1。バリア機能とは、外部からの刺激物質(アレルゲン、細菌、化学物質など)の侵入を防ぎ、同時に体内の水分が過剰に蒸発するのを防ぐ、皮膚の大切な役割です。この機能が未熟であるため、新生児の肌は外部からのわずかな刺激にも敏感に反応しやすく、また、乾燥しやすい傾向にあるのです。
一方で、生まれてしばらくの間の新生児の肌は、母親の女性ホルモンの影響で皮脂の分泌が盛んです。そのため、一時的に肌が脂っぽく感じられることがあります。この皮脂の多さが、新生児ニキビや乳児脂漏性湿疹といった早期の肌トラブルの一因となることがありますが、この活発な状態は生後3ヶ月頃には落ち着き、その後は肌本来の乾燥しやすさが顕著になります。この変化はスキンケアの必要性を見誤らせる可能性があり、一見脂っぽく見えても、内部のバリア機能は未熟なため、継続的な保湿ケアが重要となります。

B. なぜ新生児は肌トラブルを起こしやすいのか

新生児が肌トラブルを起こしやすい背景には、生理的な要因と環境的な要因が複雑に絡み合っています。まず、母親由来のホルモンによる一時的な皮脂分泌の増加は、未発達な毛穴を詰まらせやすくします。また、皮膚のバリア機能が未熟であるため、外部からの刺激に対して非常に脆弱です1。汗腺の機能も未熟なため、あせもなども起こりやすくなります。
次に、環境的な要因も大きく影響します。汗やよだれ、食べこぼしなどの汚れ、おむつの中の高温多湿な環境、衣類との摩擦、空気の乾燥など、すべてがデリケートな肌には大きな負担となります。さらに、無菌状態に近い子宮内から、多くの常在菌やアレルゲンが存在する外の世界へと適応していく過程自体が、肌にとって一つのストレスとなり得ます。このように、新生児の肌トラブルは、単一の原因ではなく、赤ちゃんの成長過程における生理的な特徴と、取り巻く環境要因との相互作用によって引き起こされることが多いのです。

2. 新生児によく見られる肌トラブル:種類、症状、見分け方

新生児期には、特有のさまざまな肌トラブルが見られます。その多くは一過性で自然に治まるものですが、中には適切なケアや治療が必要な場合もあります。ここでは、代表的な肌トラブルを詳しく解説します。

A. 乳児湿疹 (Infantile Eczema – 包括的な用語として)

「乳児湿疹」とは、乳児期に見られるさまざまな湿疹の総称として広く使われる言葉です2。顔や耳、体幹など、特に皮脂の分泌が盛んな部位や、汗やよだれで湿りやすい部位にできやすい傾向があります2。赤いブツブツやカサカサしたものなど症状は多岐にわたりますが、原因や状態に応じたケアが大切です。以下に、乳児湿疹の中でも特に代表的なものを挙げます。

1. 新生児ニキビ(新生児ざ瘡) (Neonatal Acne / Acne Neonatorum)

症状と原因: 生後2~4週頃から、顔面(特に頬、額、あご)に赤い小さなブツブツや、白い点(面皰)として現れます。これは、母親から受け継いだホルモンの影響で、赤ちゃんの皮脂腺が一時的に活発になるために起こります。新生児の約30%に見られる一般的な症状です3
ケアと経過: 通常、特別な治療をしなくても生後数ヶ月で自然に治り、痕が残ることも稀です。大切なのは、肌を清潔に保つこと。入浴時に優しく洗い、余分な皮脂や汚れを落としましょう。ベビーオイルや保湿クリームの塗りすぎは、かえって毛穴を詰まらせて悪化させることがあるため注意が必要です。非常に稀ですが、症状が広範囲で長引く場合には、医師の指示のもとで治療が行われることもあります3

2. 乳児脂漏性皮膚炎 (Infantile Seborrheic Dermatitis)

症状と原因: 生後1~2ヶ月頃の赤ちゃんに多く見られ、頭部(「揺りかごの帽子」とも呼ばれる)、眉毛、額、耳の周りなど、皮脂の分泌が盛んな部位に、黄色っぽいフケや、ややベタついた感じの黄色~白色のかさぶた(痂皮)ができます。ホルモンの影響による皮脂の過剰分泌に加え、皮膚の常在菌であるマラセチアというカビの一種が関与していると考えられています。
ケアと経過: 通常、生後8~12ヶ月頃までに自然に治ることが多いです。入浴時にベビーシャンプーで優しく洗い、固着したかさぶたは、入浴前にワセリンやオリーブオイルなどでふやかしておくと、無理なく落としやすくなります。無理にかさぶたを剥がすと皮膚を傷つけてしまうため、注意しましょう。赤みやかゆみが強い場合は、ステロイド外用薬や抗真菌薬が必要になることもあるため、医師に相談しましょう3

3. 新生児中毒性紅斑 (Erythema Toxicum Neonatorum)

症状と原因: 生後2~3日頃から現れる、新生児の約半数に見られる非常に一般的な発疹です3。虫刺されのように見えることもありますが感染症ではなく、赤い斑点(紅斑)の中央に、小さな白いまたは黄色い丘疹や膿疱を伴うのが特徴です。赤ちゃんが子宮外の新しい環境に適応する過程で起こる生理的な反応の一つと考えられています。
ケアと経過: 見た目が派手なため心配になるかもしれませんが、かゆみや痛みはなく、赤ちゃん自身は不快感を感じていません。特別な治療は必要なく、通常1~2週間程度で自然に消えていきます。オイルやクリームなどを塗ると、かえって刺激になることがあるため、そのまま様子を見守りましょう。

4. ミリア(稗粒腫) (Milia)

症状と原因: 生まれた時、あるいは生後まもなくから、顔面(特に鼻、頬、額、あご)にできる、直径1~2mm程度の白~黄色っぽい小さなプツプツです。これは、皮膚の未熟な構造により、毛穴の奥に角質(ケラチン)が詰まってできるもので、新生児の40~50%に見られると言われています。
ケアと経過: 痛くもかゆくもなく、健康上の問題もありません。特別な治療は不要で、数週間から数ヶ月のうちに自然に消えていきます。無理に潰したり、こすったりすると、炎症や感染の原因になることがあるため、触らずに様子を見ましょう。

B. あせも(汗疹) (Heat Rash / Miliaria / Sudamina)

症状と原因: 高温多湿な環境や、衣類の着せすぎなどで汗をたくさんかいたときに、汗を出す管(汗管)が詰まることで起こります。首の周り、肘や膝のくぼみ、背中、おでこなど、汗をかきやすい部分によく見られます。症状としては、小さな赤いブツブツ(紅色汗疹)や、透明な小さな水ぶくれ(水晶様汗疹)が現れ、かゆみを伴うこともあります。
ケアと経過: 涼しい環境を保ち、通気性の良い衣類を選ぶことが基本です。こまめに汗を拭き取ったり、シャワーで洗い流したりして、肌を清潔に保ちましょう。症状が軽い場合は、これらの対策で数日で改善することが多いです3。かゆみが強い場合は、医師に相談しましょう。

C. おむつかぶれ(おむつ皮膚炎) (Diaper Rash / Diaper Dermatitis)

症状と原因: おむつが当たる部分の皮膚に起こる非常に一般的な炎症です。主な原因は、尿や便に含まれるアンモニアや酵素が長時間皮膚に接触することによる刺激です。また、おむつによる摩擦やムレも原因となります。症状としては、皮膚が赤くなったり、ただれたり、ブツブツができたりします。カンジダというカビの一種が原因で、鮮やかな赤い発疹や、その周りに小さな衛星のような発疹が見られることもあります。
ケアと経過: こまめなおむつ交換が最も重要です。おしりは、ぬるま湯で優しく洗い流し、しっかり乾かしてから新しいおむつをつけます。皮膚を保護するために、ワセリンや亜鉛華軟膏などのバリアクリームを塗布します。時々おむつを外して、おしりを空気にさらすのも効果的です。2~3日しても良くならない、悪化する、カンジダ感染が疑われる場合は、医師の診察を受けましょう。

D. 乾燥肌とそれに伴うかゆみ (Dry Skin and Associated Itching)

症状と原因: 新生児の肌はバリア機能が未熟で水分を保つ力が弱いため、乾燥しやすい状態にあります。特に空気が乾燥する季節や、入浴後のケアが不十分な場合に、肌がカサカサしたり、白く粉を吹いたようになり、かゆみを引き起こします。汗が蒸発する際に肌の水分も一緒に奪われるため、汗をかいた後でも乾燥することがあります。
ケアと経過: 日頃からの保湿ケアが最も重要です。入浴後だけでなく、1日に数回、低刺激の保湿剤(ローション、クリーム、ワセリンなど)を全身に優しく塗りましょう。保湿をしてもかゆみが続く場合は、他の原因も考えられるため、医師に相談しましょう。

E. よだれかぶれ・食物によるかぶれ (Drool Rash / Rashes from Food Contact)

症状と原因: よだれの量が増えてくる時期や、離乳食が始まる頃に、口の周りやあご、頬などに赤いブツブツやただれができることがあります。これは、よだれや食べこぼしに含まれる消化酵素などが皮膚を刺激したり、頻繁に拭き取ることによる摩擦が原因です。
ケアと経過: こまめによだれや食べこぼしを優しく拭き取ることが大切です。拭く際は、濡らした柔らかいガーゼなどで、こすらずに押さえるようにしましょう。食後やよだれが多い時は、ワセリンなどの保護剤を塗って皮膚を守るのも効果的です。食物アレルギーとの区別が難しい場合もあるため、症状が続く場合は医師に相談しましょう。

表1:新生児によく見られる肌トラブル一覧
肌トラブル名 主な症状 好発部位 主な原因 基本的なケア・対処法 受診の目安
新生児ニキビ 赤いブツブツ、白い点 顔(頬、額、あごなど) 母体ホルモンの影響による皮脂分泌増加、毛穴の未発達 清潔保持、優しく洗浄。オイルやクリームの塗りすぎに注意。 症状が強い、長引く、化膿する。
乳児脂漏性皮膚炎 黄色っぽいフケ、ベタついたかさぶた、赤み 頭部、眉、額、耳周りなど皮脂の多い部位 皮脂の過剰分泌、マラセチア菌の関与 ベビーシャンプーで優しく洗浄。オイル等でふやかしてからかさぶた除去。 赤みやかゆみが強い、広範囲、改善しない。
新生児中毒性紅斑 赤い斑点の中央に白い点や水疱様のもの 全身(手のひら、足の裏を除く) 新環境への生理的反応 特別な治療は不要、自然治癒。 発熱や元気がないなど他の症状を伴う場合。
ミリア(稗粒腫) 1~2mmの白~黄色い小さなプツプツ 顔(鼻、頬、額、あごなど) 毛穴への角質貯留 特別な治療は不要、自然治癒。潰さない。 非常に多数出現する場合、炎症を伴う場合。
あせも(汗疹) 小さな赤いブツブツ、透明な水疱 首周り、肘・膝のくぼみ、背中など汗をかきやすい部位 汗管の詰まり 涼しい環境、通気性の良い衣類、こまめな汗の処理、清潔保持。 かゆみが強い、広範囲、化膿する、数日しても改善しない。
おむつかぶれ 赤み、ただれ、ブツブツ、悪化するとジュクジュク おむつが当たる部分 尿・便の刺激、摩擦、ムレ、カンジダ感染など こまめなおむつ交換、優しく洗浄・乾燥、保護クリーム塗布、通気。 2~3日で改善しない、悪化する、水疱や膿疱、カンジダ感染が疑われる(鮮紅色、衛星病巣)。
乾燥肌 カサカサ、粉を吹く、かゆみ 全身、特に露出部やこすれやすい部位 皮膚バリア機能の未熟、水分保持力の低下 こまめな保湿(1日2回以上、入浴後5分以内など)。 保湿しても改善しない強いかゆみ、赤みや湿疹を伴う。
よだれかぶれ・食物かぶれ 口周り、あご、頬の赤み、ブツブツ、ただれ 口の周り よだれや食物の刺激、拭き取りによる摩擦 こまめに優しく拭き取り、清潔保持。保護クリーム塗布。 症状が強い、広範囲、ただれがひどい、食物アレルギーが疑われる。

3. アトピー性皮膚炎との違いと早期ケアの重要性

新生児期や乳児期早期に見られる湿疹の中には、アトピー性皮膚炎の初期症状である可能性も考えられます。アトピー性皮膚炎は、適切な対応が求められる慢性的な皮膚疾患であり、他の一般的な乳児湿疹とは区別して考える必要があります。

A. 乳児湿疹とアトピー性皮膚炎の見極めポイント

「乳児湿疹」は広義の言葉ですが、その多くは一過性で、かゆみも比較的軽度か、全くないこともあります。一方、アトピー性皮膚炎は、良くなったり悪くなったりを繰り返す、慢性的な経過をたどる皮膚疾患です。日本皮膚科学会の診断基準によれば、主な特徴は、1) かゆみがあること、2) 特徴的な湿疹と分布(乳児期では顔、頭、首などに左右対称性に見られることが多い)、3) 慢性・反復性の経過(乳児では2ヶ月以上症状が続くこと)です2。また、家族にアトピー素因がある場合も参考になります。乳児期のアトピー性皮膚炎は、生後2~4ヶ月頃から症状がはっきりしてくることが多く、強いかゆみと乾燥を伴うことが特徴です。

B. アトピー性皮膚炎の予防に向けた最新の考え方

アトピー性皮膚炎の発症を完全に予防する方法はまだ確立されていませんが、近年の研究により、早期からのスキンケアが発症リスクを低減させる可能性が示唆されています。

早期からの保湿ケア

2014年に日本の国立成育医療研究センターから、新生児期からの毎日の保湿剤塗布がアトピー性皮膚炎の発症リスクを3割以上低下させたと報告されました4。その後の追跡研究では、この予防効果は全てのお子さんに普遍的に当てはまるものではないという見解になっていますが4、保湿ケアが皮膚のバリア機能を維持し、アトピー性皮膚炎の治療および管理の基本として強く推奨されていることに変わりはありません。

皮膚バリア機能と「経皮感作」の考え方

近年、「経皮感作」というメカニズムが注目されています。これは、湿疹などで皮膚のバリア機能が低下した状態から食物などのアレルゲンが侵入し、体内でそのアレルゲンに対する免疫反応(感作)が成立してしまうというものです5。この経皮感作が、食物アレルギーの発症に関与していると考えられています。一方で、適切な時期にアレルゲンとなる食物を経口摂取することで、免疫寛容が誘導されることも知られています5

湿疹の早期治療の重要性

したがって、もし赤ちゃんに湿疹が現れた場合は、それを放置せず、早期に適切な治療(必要であればステロイド外用薬など)を行い、炎症を抑え、皮膚のバリア機能を速やかに回復させることが非常に重要です1。これは、単に皮膚の不快な症状を和らげるだけでなく、アレルゲンによる感作のリスクを低減し、将来的な食物アレルギーの発症などを予防する可能性につながると期待されています5

4. 毎日の正しいスキンケア:予防と対策の基本

新生児のデリケートな肌を守り、肌トラブルを予防・改善するためには、毎日の正しいスキンケアが何よりも大切です。ここでは、沐浴・入浴、保湿ケア、おむつケア、そして衣類や生活環境に至るまで、具体的なポイントを解説します。

A. 沐浴・入浴 (Bathing)

基本的には1日1回、毎日行い、肌を清潔に保ちましょう1。赤ちゃん用の低刺激性の石鹸やボディソープをしっかりと泡立て、保護者の手で直接、優しくなでるように洗います。ガーゼは肌への摩擦刺激になることがあります。首や脇の下など、しわの部分は丁寧に洗い、洗浄剤が残らないようにシャワーで十分にすすぎましょう1。お湯の温度は38~39℃のぬるま湯が目安で、長湯は避けます1。入浴後は、清潔で柔らかいタオルでこすらずに優しく押さえるように水分を拭き取ります1

B. 保湿ケア (Moisturizing Care)

保湿は、皮膚のバリア機能を高めるために非常に重要で、生まれた直後から始めるのが理想的です1。少なくとも1日2回(朝と入浴後など)、特に皮膚が水分を吸収しやすい入浴後5分以内(遅くとも10分以内)に保湿剤を塗るのが最も効果的です1。肌の乾燥が気になるときにはこまめに保湿しましょう1。赤ちゃん用の低刺激性の保湿剤を保護者の手のひらで温め、赤ちゃんの肌に優しく、たっぷりと塗り広げます。肌の状態や季節に合わせて、ローション、クリーム、軟膏などを使い分けると良いでしょう。

C. おむつケア (Diaper Care)

おむつはこまめにチェックし、汚れたらすぐに交換します。おしりを拭く際は、ぬるま湯で湿らせた柔らかい布や、アルコールや香料が含まれていない低刺激性のおしりふきで、ゴシゴシこすらずに優しく拭き取ります1。拭いた後は、おしりが完全に乾いてから新しいおむつをつけ、必要に応じてワセリンなどの保護クリームを薄く塗布します。

D. 衣類と生活環境 (Clothing and Living Environment)

肌に直接触れる衣類は、綿100%など、柔らかく通気性の良い素材を選びましょう1。洗濯洗剤は赤ちゃん用の低刺激性のものを使用し、すすぎは十分に行います。室内の湿度は50~60%程度に保ち、厚着させすぎないように注意しましょう1。汗をかいたらこまめに着替えさせることが大切です。寝具もこまめに洗濯し、清潔に保ちましょう。

表2:毎日のスキンケア:実践ポイント
スキンケア項目 具体的なポイント(推奨されること) 注意点(避けるべきこと・留意点)
沐浴・入浴 ・1日1回、38~39℃のぬるま湯で。
・低刺激性のベビー用洗浄剤を使用し、よく泡立てる。
・保護者の手で優しくなでるように洗う。
・皮膚のしわの部分も丁寧に洗う。
・洗浄剤が残らないよう十分にすすぐ(シャワー浴が望ましい)。
・柔らかいタオルでこすらず押さえるように拭く。
・熱すぎるお湯、長湯は避ける。
・ガーゼやスポンジでゴシゴシこすらない。
・洗浄剤の使いすぎ、すすぎ残し。
保湿ケア ・入浴後5分(~10分)以内に、全身にたっぷりと塗る。
・1日2回以上(朝の着替え時、入浴後など)こまめに保湿する。
・低刺激性、無香料、無着色のベビー用保湿剤(ローション、クリーム、ワセリンなど)を使用する。
・手のひらで温めてから優しく塗り広げる。
・塗る量が少なすぎる、塗る回数が少ない。
・肌が乾燥してから塗る。
・強く擦り込むように塗る。
おむつ交換 ・汚れたらすぐに交換する。
・ぬるま湯や低刺激性のおしりふきで優しく拭く。
・拭いた後はしっかり乾かす(自然乾燥または優しく押さえ拭き)。
・必要に応じて保護クリーム(ワセリン、亜鉛華軟膏など)を塗る。
・時々おむつを外して空気に触れさせる。
・汚れたおむつを長時間つけたままにする。
・ゴシゴシ強く拭く。
・アルコールや香料の強いおしりふきを使用する。
・湿ったまま新しいおむつをつける。
衣類・環境 ・衣類は綿など柔らかく通気性の良い素材を選ぶ。
・洗濯洗剤は低刺激性のものを使用し、よくすすぐ。
・室内の湿度は50~60%に保つ。
・厚着させすぎず、汗をかいたらこまめに着替える。
・寝具は清潔に保つ。
・チクチクする素材、熱がこもりやすい素材の衣類。
・洗剤のすすぎ残し。
・過度の乾燥や高温多湿な環境。
・赤ちゃんの髪の毛が顔や首に触れて刺激になること。

5. こんなときは専門医へ:受診の目安と伝えたいこと

毎日のスキンケアを丁寧に行っていても、肌トラブルが改善しなかったり、悪化したりすることがあります。判断に迷う場合は、ためらわずに小児科医や皮膚科医に相談することが大切です。

一般的な受診の目安(レッドフラッグサイン):
– 家庭でのケアを2~3日続けても症状が改善しない、あるいは悪化している。
– 発疹の範囲が広い、炎症が強い、赤ちゃんが非常にかゆがったり痛がったりして機嫌が悪い。
– 皮膚がじゅくじゅく(浸出液が出ている状態)している。
– 小さな水ぶくれや膿疱が多発している。
– 生後3ヶ月未満の赤ちゃんが発熱している。

受診の際には、いつから、どこに、どのような発疹が出たか、かゆみや痛みの有無、家庭でのケア内容、発疹以外の症状(発熱、機嫌など)、家族のアレルギー歴などを整理して伝えると、医師が診断しやすくなります。可能であれば、発疹の状態がわかる写真を撮っておくのも良いでしょう。

6. 専門医による治療法

専門医は、視診や問診を通じて正確な診断を行い、それに基づいて適切な治療法を選択します。感染症が疑われる場合は、皮膚の一部をこすり取って調べる検査などが行われることもあります。

処方されることのある薬剤と正しい使い方

診断結果に基づき、必要に応じて以下のような薬剤が処方されることがあります。医師や薬剤師の指示を守り、正しく使用することが非常に重要です。

  • ステロイド外用薬: 炎症を抑える効果が高く、アトピー性皮膚炎や症状の強い湿疹などに用いられます。赤ちゃんには通常、作用の弱いランクのものが選択されます。医師の指導のもとで適切に使用すれば、安全かつ効果的に炎症を抑えることができます1。自己判断で中止したりせず、必ず医師に相談しましょう。
  • 抗真菌薬(外用薬): カンジダ菌などによる感染症(カンジダ性おむつ皮膚炎など)に対して処方されます。
  • 抗菌薬(抗生物質): 細菌感染を伴う場合や、その疑いがある場合に用いられます。
  • 非ステロイド性抗炎症薬・鎮痒薬(外用薬): 炎症が軽度で、かゆみが主な症状の場合に用いられることがあります。
  • 保湿剤: 治療薬と併用して処方されることがよくあります。皮膚のバリア機能を整え、乾燥を防ぎます。

健康に関する注意事項

  • 本記事に記載されている情報は、一般的な知識を提供するものであり、個別の医学的診断や治療に代わるものではありません。
  • 赤ちゃんの肌に何らかの異常が見られた場合、またはケアについて不安がある場合は、自己判断せず、必ず小児科医や皮膚科医などの専門家にご相談ください。
  • 特に生後3ヶ月未満の赤ちゃんの体調変化には注意が必要です。発熱や普段と違う様子が見られる場合は、速やかに医療機関を受診してください。

よくある質問

新生児ニキビやミリアは、潰してもいいですか?
いいえ、絶対に潰さないでください。新生児ニキビやミリア(稗粒腫)は、特別な治療をしなくても数週間から数ヶ月で自然に消えていくことがほとんどです。無理に潰したり、こすったりすると、デリケートな皮膚を傷つけ、そこから細菌が侵入して炎症や感染を起こし、痕が残ってしまう原因になることがあります。触らずに清潔を保ち、自然に治るのを待ちましょう。
保湿剤はどんなものを選べば良いですか?ローションとクリームはどう使い分ければいいですか?
まず、赤ちゃん用の「低刺激性」「無香料」「無着色」のものを選ぶことが基本です。ローションは水分が多く、さっぱりとした使用感なので、夏場や広範囲に塗りやすいのが特徴です。一方、クリームは油分が多く、よりしっとりとした使用感で保湿力が高いため、乾燥が強い部位や冬場に適しています。ワセリンなどの軟膏は、さらに保護力が高く、特に乾燥がひどい部分や、よだれかぶれ・おむつかぶれの保護に効果的です。季節や赤ちゃんの肌の状態に合わせて使い分けるのが良いでしょう。アトピー性皮膚炎のリスクが気になる場合は、セラミドなど角層の水分を補給する成分が含まれた保湿剤がより効果的である可能性が示唆されていますが4、迷う場合は医師や薬剤師に相談して、赤ちゃんに合ったものを選びましょう。
乳児湿疹とアトピー性皮膚炎はどう違うのですか?
「乳児湿疹」は乳児期に見られる湿疹の総称で、その中には新生児ニキビのように一過性で自然に治るものも多く含まれます。一方、「アトピー性皮膚炎」は、良くなったり悪くなったりを繰り返す慢性の経過をたどる、かゆみの強い湿疹です。日本皮膚科学会の診断基準では、①かゆみ、②特徴的な発疹と分布、③慢性の経過(乳児では2ヶ月以上)が主な特徴とされています2。乳児湿疹が2ヶ月以上長引く、強いかゆみがある、家族にアレルギー体質の方がいるなどの場合は、アトピー性皮膚炎の可能性も考えられるため、専門医の診察を受けることをお勧めします。
ステロイドの塗り薬は、赤ちゃんに使っても安全ですか?
医師の指導のもとで、適切な強さのものを、適切な量・期間で使用すれば、赤ちゃんにとっても非常に安全で効果的な薬です1。ステロイド外用薬は、湿疹の炎症を速やかに抑え、かゆみを和らげ、かくことによる悪化を防ぐために重要な役割を果たします。特に湿疹の炎症を放置することは、皮膚のバリア機能をさらに低下させ、将来の食物アレルギー発症のリスクを高める可能性も指摘されています5。漠然とした不安から自己判断で使用を中止したり、量を減らしたりすると、かえって症状が長引いてしまうことがあります。必ず医師の指示に従い、不安な点があれば相談しながら治療を進めましょう。
おむつかぶれがなかなか治りません。どうすれば良いですか?
おむつかぶれが長引く場合、いくつかの原因が考えられます。まず、基本的なケア(こまめな交換、優しい洗浄、十分な乾燥、保護クリームの使用)が徹底できているか再確認しましょう。それでも改善しない場合は、通常の刺激による皮膚炎ではなく、カンジダというカビ(真菌)の一種が増殖している可能性があります。カンジダ性皮膚炎は、おむつが当たる部分に鮮やかな赤い発疹が出て、その周りに小さな衛星のようなブツブツが広がるのが特徴です。この場合は、通常の保護クリームだけでは治らず、抗真菌薬の塗り薬が必要になります。2~3日ケアをしても改善しない、悪化する、またはカンジダ感染が疑われる場合は、小児科や皮膚科を受診してください。

結論

新生児の肌は、その繊細さゆえにさまざまなトラブルに見舞われやすいものです。しかし、赤ちゃんの肌の特性を理解し、日々のスキンケアを正しく行うことで、多くのトラブルは予防・改善することができます。本稿で詳しく解説してきたように、毎日の優しい洗浄、こまめな保湿、清潔保持は、赤ちゃんの肌を守るための基本であり、継続することで皮膚のバリア機能をサポートし、健やかな肌を育むことにつながります。
新生児期に見られる肌トラブルの多くは一過性ですが、中にはアトピー性皮膚炎や感染症など、専門的な治療が必要となるケースも存在します。赤ちゃんの肌の状態を日々よく観察し、気になる症状があれば、早めに専門医に相談することが重要です。特に、湿疹などの炎症に対しては、早期に適切な治療を開始することが、将来的なアレルギー疾患の発症リスクを低減できる可能性も示唆されています5。スキンケアは、単に肌の問題に対処するだけでなく、赤ちゃんの快適さを高め、愛情を伝える大切な育児の一環です。本稿が、赤ちゃんのすこやかな肌を育むための一助となれば幸いです。

免責事項
この記事は医学的アドバイスに代わるものではなく、症状がある場合は専門家にご相談ください。

参考文献

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