皮膚科疾患

日光性皮膚炎の全貌:紫外線(UV)の科学的理解から最新の予防・治療戦略まで

太陽光は生命の維持に不可欠なものですが、その中に含まれる紫外線(UV)は、私たちの皮膚の健康にとって重大な脅威となる可能性があります。日光性皮膚炎やその他の光線関連の皮膚疾患を効果的に予防し、管理するためには、まず紫外線の科学的な性質、そのリスクを数値で理解する方法、そして日常生活に潜む誤解を解くことから始めることが極めて重要です。この記事では、紫外線の基礎知識を固め、科学的根拠に基づいた防御戦略の土台を築いていきます。

この記事の科学的根拠

本記事は、日本の公的機関・学会ガイドラインおよび査読済み論文を含む高品質の情報源に基づき、出典は本文のクリック可能な上付き番号で示しています。

  • 日本の公的指針:環境省が発行する「紫外線環境保健マニュアル」は、国民の健康を守るための紫外線対策の基本となる指針です3
  • 国際的な医学レビュー:米国立医学図書館(NCBI)に掲載されている総説論文は、日焼け止めの科学的背景と光線防御に関する最新の知見を提供しています1
  • 規制当局の警告:医薬品医療機器総合機構(PMDA)からの安全情報15は、特定の医薬品による副作用のリスクについて、消費者が知るべき重要な警告を含んでいます16

要点まとめ

  • 日光による皮膚トラブルは、単純な日焼けから、アレルギー様の多形日光疹、さらには前がん病変である日光角化症まで多岐にわたります11
  • 紫外線対策の鍵は、日焼け止めだけでなく、紫外線が強い時間帯の外出を避ける、衣服や帽子で物理的に肌を覆うといった「多層的防御」にあります8
  • 日焼け止めの効果は、製品のSPF値以上に「十分な量を、こまめに塗り直す」という使い方に大きく左右されます21
  • 特定の痛み止めの貼り薬(ケトプロフェン含有)は、使用中止後も長期間にわたり重篤な光線過敏症を引き起こすリスクがあり、徹底した遮光が必須です16
  • 繰り返す重い症状に対しては、日本国内で保険適用となる「光線療法」など、積極的な治療の選択肢が存在します30

第1章 見えざる攻撃者:紫外線の科学的理解を深める

「曇りの日だから大丈夫」「冬だから日焼けはしない」といった思い込みで、知らず知らずのうちに肌にダメージを蓄積させていませんか?目に見えない紫外線だからこそ、その本当の脅威が分かりにくく、対策を怠りがちになるのは無理もありません。科学的には、私たちの肌に届く紫外線には主に2つの種類があり、それぞれ異なる影響を及ぼします。その違いを理解することが、効果的な対策の第一歩です。

紫外線の働きは、天気に例えると分かりやすいかもしれません。UVAは「じわじわと降り注ぐ長雨」のようで、ゆっくりと肌の奥深くまで浸透し、時間をかけてシワやたるみといった「光老化」という土砂崩れを引き起こします1。一方、UVBは「突発的な激しい夕立」のように、肌の表面に強いエネルギーで作用し、日焼け(サンバーン)という急性の炎症や、皮膚がんのリスクを高めるのです3。だからこそ、日々の天気予報と同じように、気象庁が発表する「UVインデックス」を確認し、目に見えないリスクを「見える化」する習慣が大切になります4

1.1 皮膚に到達する電磁波のスペクトル

地球に到達する太陽光に含まれる紫外線のうち、皮膚に影響を与えるのは主にUVAとUVBの2種類です。より波長の短いUVCはオゾン層に吸収されるため、地表にはほとんど到達しません1。この2つの紫外線の性質の違いを理解することは、「広域スペクトル(ブロードスペクトラム)」対応の日焼け止めの重要性を認識する上で極めて重要です。

  • UVA(長波長紫外線、320-400 nm):全紫外線の約95%を占め、波長が長いため皮膚の深部、真皮層まで到達します。米国立医学図書館(NCBI)の報告によると1、UVAは活性酸素種の生成を介して間接的にDNAに損傷を与え、コラーゲンやエラスチンといった皮膚の弾力性を保つ線維を破壊します。これにより、シワやたるみといった「光老化」の主要な原因となります。また、雲や窓ガラスを透過する性質があるため、曇りの日や屋内でも注意が必要です2
  • UVB(中波長紫外線、290-320 nm):主に皮膚の表皮に作用し、そのエネルギーはUVAよりも強力です。UVBは、日焼け(サンバーン)として知られる急性の炎症反応(赤み、痛み)を引き起こします1。さらに、皮膚細胞のDNAに直接吸収され、DNA損傷を直接引き起こすことで、皮膚がんのリスクを著しく高めます。一方で、体内でビタミンDを合成するために不可欠な役割も担っていると、環境省は指摘しています3

1.2 脅威の定量化:日本のUVインデックス活用法

目に見えない紫外線の脅威を、誰もが理解し行動に移せるように標準化した指標が「UVインデックス」です。日本では気象庁がUVインデックスの観測値および予測情報を提供しており4、これを日常生活に取り入れることで、リスクに基づいた合理的な対策を講じることが可能になります。環境省が発行する「紫外線環境保健マニュアル」では、世界保健機関(WHO)の基準に基づき、UVインデックスのレベルに応じた具体的な対策を推奨しています3。この指標の活用は、紫外線のリスク評価を日々の天気予報を確認するのと同じくらい身近で実践的なものに変えます。

1.3 紫外線の俗説を科学的に検証する

紫外線対策を妨げる最大の要因の一つが、広く信じられている誤解です。環境省のマニュアルでは、これらの俗説を明確に否定しており3、科学的根拠に基づいた正しい知識の普及が重要です。

  • 俗説1:「曇りの日は日焼けしない」は誤りです。薄い雲の場合、紫外線の80%以上が透過します。紫外線は雲によって散乱されるため、快晴の日よりも曇りの日の方が紫外線量が多くなることさえあります3
  • 俗説2:「水中にいれば安全」は誤りです。水は紫外線をほとんど防ぎません。水深50cmでも地表の40%の紫外線が到達します。さらに、水面からの反射によって紫外線曝露量は増加します3
  • 俗説3:「冬の紫外線は危険ではない」は誤りです。冬の紫外線は夏に比べて弱いものの、雪による反射率は約80%にも達し、曝露量をほぼ2倍に増加させます。特にスキー場などの高地では注意が必要です3
  • 俗説4:「暑さを感じなければ日焼けしない」は誤りです。日焼けを引き起こすのは紫外線であり、熱を感じさせる赤外線ではありません。涼しい日でも紫外線が強いことはあり、体感温度と紫外線量は必ずしも相関しません3
  • 俗説5:「日焼け(サンタン)は健康的だ」は誤りです。皮膚が褐色になる日焼けは、紫外線によるDNA損傷から細胞核を守るためにメラニン色素を生成している、皮膚の防御反応の現れです。それは健康の証ではなく、皮膚がダメージを受けたというサインに他なりません5

このセクションの要点

  • 紫外線には、肌の奥深くに届きシワの原因となる「UVA」と、肌表面に作用し日焼けや皮膚がんのリスクとなる「UVB」の2種類が存在します。
  • 「曇りの日」や「冬」でも紫外線量は多く、対策は一年中必要です。UVインデックスを確認する習慣をつけましょう。

第2章 太陽が敵になるとき:光線過敏症のスペクトルを理解する

日光を浴びた後に出る痒みやブツブツを、単なる「日光アレルギー」だと自己判断し、毎年繰り返していませんか?日光による皮膚トラブルは見た目も様々で、どれが危険なサインなのか見分けるのは難しいものです。実は、これらの症状は、医学的には全く異なる複数の疾患を含んでいます。

その背景には、光に対する体の反応が、即座に起こる即時型反応と、数日経ってから現れる遅延型反応に分かれるという仕組みがあります。例えば、日光蕁麻疹は、光を浴びて数分で現れる即時型のアレルギー反応です11。一方で、多くの人が「日光アレルギー」と感じる多形日光疹は、紫外線によって体内で作られた何らかの物質に対する、数日遅れの免疫反応と考えられています9。だからこそ、発症時間や症状のパターンからご自身の症状がどのタイプに近いかを知り、特に治りにくいザラザラした湿疹は放置せず皮膚科を受診することが大切です。

2.1 急性の日焼けから前がん病変まで

「日光性皮膚炎」という言葉は、日常的に使われる一方で、医学的には多種多様な疾患を含む総称です。利用者が自身の症状を正しく理解し、適切な行動(セルフケアか、医療機関への受診か)を選択できるように、代表的な疾患を解説します。

  • 急性の日焼け(日光皮膚炎):一般的に「日焼け」として知られる状態で、過度の紫外線、特にUVBに曝露されたことによって生じる一種の放射線熱傷です1。症状は、曝露から数時間後に現れる皮膚の赤み(紅斑)、痛み、腫れが主で、重症の場合には水疱を形成することもあります8
  • 多形日光疹(PMLE):多くの人が「日光アレルギー」と考えている症状の多くは、この疾患である可能性が高いと考えられます。春先や、久しぶりに強い日光を浴びた休日など、そのシーズンで最初の強い日光曝露から数時間~数日後に、痒みを伴う赤い丘疹や小水疱が、日光に当たった部位に出現するのが典型的です910。夏にかけて日光を浴び続けると症状が出にくくなる「ハードニング現象」が特徴です10
  • 日光蕁麻疹:日光曝露後、数分以内という非常に短い時間で、曝露部位に痒みを伴う膨疹(蚊に刺されたような盛り上がり)が出現する即時型の反応です。皮疹は通常、数時間以内に跡形もなく消退します11
  • 日光角化症(前がん病変):長年にわたる慢性的な紫外線曝露の蓄積によって生じる、皮膚の前がん病変です。主に高齢者の顔面、頭部、手の甲など、慢性的に日光に晒される部位に、ザラザラとした手触りの、赤みや褐色を帯びた鱗屑(かさぶた)を伴う局面として現れます12。放置すると一部が有棘細胞癌という皮膚がんに進行するリスクがあるため、早期の診断と治療が極めて重要です13

受診の目安と注意すべきサイン

  • 日光を浴びた後、数時間から数日経ってから、痒みを伴う赤いブツブツが毎年春先に繰り返し出る場合(多形日光疹の可能性)。
  • 顔や手の甲に、長年治らないザラザラした手触りの赤いシミやカサつきがある場合(日光角化症の可能性)。
  • 日光を浴びて数分で蕁麻疹が出現し、特にめまいや息苦しさを伴う場合(アナフィラキシー様の可能性、緊急の受診が必要)。

第3章 医薬品という要因:日本の薬剤性光線過敏症に関する特別報告

普段使っている痛み止めの貼り薬が、ひどい皮膚炎の原因になる可能性があることをご存知ですか?薬を使った後、ずっと経ってから症状が出ることがあるため、原因が薬だとは夢にも思わない方が多いのが実情です。これは「薬剤性光線過敏症」と呼ばれ、日光に対する皮膚の過敏な反応は、必ずしも体質的なものだけが原因ではありません。

その背景には、薬の成分が紫外線エネルギーを吸収し、化学構造が変化する仕組みがあります。変化した成分がアレルゲンとなり、免疫システムを刺激することで、アレルギー反応として湿疹が引き起こされます(光アレルギー性反応)211。特に、日本では市販薬としても広く流通しているケトプロフェンという成分を含んだ外用薬について、医薬品規制当局が繰り返し注意喚起を行っています15。だからこそ、特にケトプロフェン外用薬(モーラステープなど)を使用した経験がある方は、使用中止後も最低4週間は使用部位の徹底した遮光が必要です。

3.1 日本で特に注意すべきケトプロフェン外用薬

日本において特に注意が必要なのが、非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)である「ケトプロフェン」を含有する外用薬(テープ剤、ゲル剤など)です。これらの製品は腰痛や関節痛に広く使用されていますが、重篤な光線過敏症のリスクがあることから、日本の規制当局である医薬品医療機器総合機構(PMDA)が、繰り返し詳細な注意喚起を行っています15

このリスクの核心は、その反応の遅延性にあります。皮膚に残存した成分が、使用中止後も長期間にわたり光線過敏症の「時限爆弾」として機能し続けるのです。PMDAが発する警告の要点は以下の通りです。

  • 重症化のリスク:症状は、単なるかぶれにとどまらず、強い痒みや腫れ、水疱を伴う激しい皮膚炎に発展し、全身に広がる例も報告されています16
  • 遅発性の発症:最も注意すべき点は、薬剤の使用中だけでなく、使用を中止してから数日、数週間、場合によっては数ヶ月が経過した後に症状が現れることがあるという事実です16
  • 必須の予防策(遮光):このリスクを避けるため、PMDAは以下の厳格な予防策を義務付けています。製品の使用中は天候にかかわらず塗布・貼付部位を衣服やサポーターなどで覆い、完全に紫外線を遮断し、使用を中止した後も、最低でも4週間は同様の遮光を継続することが必要です1617

受診の目安と注意すべきサイン

  • ケトプロフェン含有の外用薬(モーラステープ®など)を使用したことがある部位に、日光を浴びた後で赤み、痒み、水ぶくれが出た場合。
  • 新しい薬を飲み始めたり、塗り始めたりしてから、日光に当たった部位に皮疹が出るようになった場合。
  • 原因不明の皮疹が出た際は、使用中のすべての医薬品(市販薬、サプリメント含む)を医師や薬剤師に伝えることが重要です。

第4章 紫外線防御の決定版:多層的防御戦略

SPF50+の日焼け止めを塗っているのに、なぜか日焼けしてしまう…と悩んでいませんか?高い数値の製品を選べば安心だと思いがちですが、実は効果を左右する最大の要因は製品の性能ではありません。紫外線から皮膚を守るためには、単一の方法に頼るのではなく、複数の防御策を組み合わせた「多層的戦略」が最も効果的です。

この戦略の考え方は、城を守るのと同じです。まず「堀と城壁」として、紫外線の強い時間帯の外出を避け、衣服や帽子で物理的に肌を覆うことが基本です818。日焼け止めはその上で「兵士」の役割を果たしますが、その効果は量に大きく左右されます。研究によれば、私たちが普段塗る量は、製品が性能テストをされる際の基準量(1平方cmあたり2mg)の半分以下であることが多く、これにより防御効果は劇的に低下します21。だからこそ、「十分な量を、2時間ごとに塗り直す」という基本を徹底することが、防御の成否を分ける最も重要な要素となるのです。

4.1 第1層:行動的・物理的遮蔽

最も基本的かつ効果的な防御策は、紫外線を物理的に避けることです。日焼け止めはあくまで補助的な手段であり、行動や衣類による防御が基本となります。

  • 時間帯の選択:紫外線の強さがピークに達する午前10時から午後2時までの時間帯は、可能な限り屋外での活動を避けることが推奨されます14
  • 日陰の利用:日陰にいても空からの散乱光によって、直射日光の50%程度の紫外線を浴びる可能性があります3
  • 衣類・帽子・サングラス:長袖、長ズボンは最も確実なバリアです。衣類の紫外線防御効果を示す「UPF(Ultraviolet Protection Factor)」40以上のものが推奨されます7。顔、首、耳を保護するため、つばの広さが7cm以上ある帽子が推奨されます18

4.2 第2層・第3層:日焼け止めの正しい選択と実践

日焼け止めは、物理的遮蔽を補完する重要な防御層です。日本の製品に表示されているSPFとPAの値は、日本化粧品工業会(JCIA)が国際標準化機構(ISO)の規格に準拠して定めた信頼性の高い指標です2022

  • SPF (Sun Protection Factor): 主にUVBに対する防御効果を示します。
  • PA (Protection Grade of UVA): UVAに対する防御効果を「+」の数(4段階)で示します。

しかし、紫外線防御における最大の弱点は、その使用方法にあります。SPF値は、1平方センチメートルあたり2mgという、一般の人が実際に塗る量よりもはるかに多い量で測定されています。実際の研究では、人々が塗布する量はその基準の半分以下であることが示されており21、これにより防御効果は劇的に低下します。顔であればパール粒2個分を目安に、汗をかいたり、水に濡れたりした後はもちろん、屋外にいる場合は少なくとも2時間ごとに塗り直すことが標準的な推奨事項です723

4.3 特別な配慮:子供の皮膚を守る

子供の皮膚は大人よりも薄くデリケートなため、より丁寧な紫外線対策が求められます。日本小児皮膚科学会は、低刺激性の製品を選べば、乳児期早期からの日焼け止めの使用は可能との見解を示しています25。肌への刺激が少ない「ノンケミカル」(紫外線散乱剤)タイプで、無香料、無着色、アルコールフリーの製品が推奨されます。使用後は、石鹸やボディソープで丁寧に洗い流すことが大切です2426

今日から始められること

  • 外出前にUVインデックスを確認し、「3(中程度)」以上なら対策を講じる習慣をつけましょう。
  • 日焼け止めは「少し多いかな?」と感じるくらいたっぷり塗り、2時間ごとに塗り直すことを徹底しましょう。
  • お子様には、刺激の少ない「ノンケミカル」タイプの日焼け止めを選び、帰宅後は優しく洗い流してあげましょう。

第5章 日本における臨床的管理と治療的介入

毎年繰り返すひどい日光過敏症に、「治らないもの」だと諦めていませんか?紫外線から逃げ続けるだけの生活は、大きなストレスになります。しかし、適切な予防策を講じていても症状が現れてしまった場合でも、日本には有効で、かつ健康保険を使ってアクセスしやすい治療法が存在します。

その一つが「光線療法」です。これは、紫外線によって起こる病気を、管理された特殊な紫外線を照射して治療するという、一見矛盾した方法です。この治療の仕組みは、体が「ワクチン」に慣れていくプロセスに似ています。春先に、症状を引き起こさない程度の弱い紫外線を計画的に繰り返し浴びることで、皮膚の免疫システムを徐々に慣れさせ、夏の強い日差しに対する過敏な反応を抑えるのです(ハードニング現象)9。だからこそ、症状に悩む方は、専門医のもとで、紫外線から逃げるだけでなく、積極的に症状をコントロールするという選択肢があることを知っていただきたいのです。

5.1 診断と薬物療法

光線過敏症の診断は、主に患者の詳細な病歴聴取と皮膚の視診に基づいて行われます27。診断が困難な場合は、原因となる光の波長を特定するための「光線テスト」などが行われることもあります28。急性期の症状を緩和するため、日本の健康保険制度の下で様々な薬物療法が利用可能です。炎症と痒みを抑える外用ステロイド薬が第一選択薬ですが、その他に内服抗ヒスタミン薬や、重症例では内服ステロイド薬も用いられます102829

5.2 光線療法:保険適用される積極的治療

紫外線による皮膚疾患を、管理された紫外線を照射して治療する「光線療法」は、多形日光疹(PMLE)のような再発性の光線過敏症や、アトピー性皮膚炎、乾癬といった多くの難治性皮膚疾患に対して、科学的根拠のある有効な治療法として確立されています9。日本では、光線療法(ナローバンドUVBなど)は厚生労働省によって承認され、健康保険が適用される標準的な治療法です。診療報酬点数も定められており31、患者の自己負担額(3割負担の場合)は、1回あたり約1,000円程度となり、経済的にもアクセスしやすい治療となっています30

今日から始められること

  • 繰り返す日光による皮膚症状に悩んでいる場合は、皮膚科専門医に相談し、正確な診断を受けましょう。
  • 重症または再発性の症状がある場合、「光線療法」が保険適用で受けられる可能性があることを医師に確認してみましょう。
  • 治療を受ける際は、自己負担額や通院頻度など、具体的な治療計画について事前にしっかりと説明を受けましょう。

第6章 日本の消費者保護と規制のランドスケープ

「最強」「絶対焼けない」といった広告に惹かれて製品を選び、期待外れの経験をしたことはありませんか?多くの情報の中から、本当に信頼できる製品を自力で見つけ出すのは大変なことです。しかし、日本では消費者を誤解から守るため、法律によって化粧品などの広告表現が厳しく規制されています。

この法律は「薬機法」と呼ばれ、製品が「化粧品」か「医薬部外品」かによって、表示できる効果の範囲を明確に定めています。これは、レストランのメニューで「シェフのおすすめ」と「栄養機能食品」の表示が厳密に区別されているようなものです。単に「おいしい」と表現できるものと、「カルシウムを含み、骨の健康を助けます」と科学的機能に言及できるものとでは、法的な位置づけが全く異なります34。この知識を持つことで、私たちはマーケティングの言葉に惑わされることなく、製品ラベルを「解読」し、より賢い選択が可能になります。

6.1 薬機法による効能効果の範囲

薬機法では、製品が「化粧品」と「医薬部外品」のどちらに分類されるかによって、表示できる効能効果の範囲が明確に定められています32

  • 化粧品:物理的な紫外線防御効果に限られ、「日やけを防ぐ」および「日やけによるシミ・ソバカスを防ぐ」という表現のみが許可されています。ここで重要なのが、「日やけによる」という限定的な表現(しばり表現)です3335
  • 医薬部外品(薬用化粧品):厚生労働省が承認した有効成分を一定濃度配合した製品は、「メラニンの生成を抑え、シミ・ソバカスを防ぐ」という、作用機序に言及した表現が可能になります34

6.2 広告表現の解読

薬機法および業界の自主基準は、消費者の過度な期待を煽るような表現を厳しく制限しています。例えば、「最強」「100%カット」「絶対に焼けない」といった効果を保証するような表現や、「皮膚がんを防ぐ」といった医療的な表現、「医師が推薦する」といった専門家の推薦表現は固く禁じられています3335。これらのルールを知ることで、消費者は科学的根拠に基づかない、あるいは非合法な広告を見抜き、より賢明な製品選択を行うことができます。

このセクションの要点

  • 日本の「薬機法」は、日焼け止め製品の広告で使える表現を厳しく規制し、消費者を保護しています。
  • 製品ラベルに「医薬部外品」または「薬用」と書かれていれば、美白など特定の効果を持つ有効成分が配合されていることを示します。
  • 「最強」「絶対」といった表現や、医師の推薦を謳う広告は法律で禁止されており、注意が必要です。

よくある質問

曇りの日や冬でも、本当に日焼け止めは必要ですか?

はい、必要です。薄い雲は紫外線の80%以上を透過し、冬でも雪の反射によって紫外線量は夏の2倍近くになることがあります3。紫外線対策は一年中、天候に関わらず行うことが重要です。

毎年春先だけ日光で肌が荒れます。これは「日光アレルギー」ですか?

その症状は「多形日光疹(PMLE)」の可能性が高いです。これは真のアレルギーとは異なり、紫外線に対する免疫系の遅延型反応です9。夏にかけて症状が軽快する「ハードニング現象」が特徴で、毎年繰り返す場合は皮膚科専門医への相談をお勧めします。

子供にはどんな日焼け止めを選べばいいですか?

日本小児皮膚科学会は、低刺激性の製品であれば乳児期からの使用も可能としています25。肌への刺激が少ない「ノンケミカル」(紫外線散乱剤使用)タイプで、無香料・無着色・アルコールフリーの製品が推奨されます。日常生活ではSPF15~20、PA++程度で十分です20

日焼け止めを塗っているのに日焼けします。なぜですか?

最も大きな原因は、使用量が不足していることです。製品のSPF値を十分に発揮させるためには、一般的に考えられているよりもはるかに多い量(顔全体でパール粒2個分が目安)を塗る必要があります21。また、汗や摩擦で落ちてしまうため、2時間ごとの塗り直しが不可欠です7

結論

本記事では、日光性皮膚炎の科学的背景から、日本における具体的な予防・治療法までを包括的に検証しました。結論として、紫外線は多様なメカニズムを通じて皮膚に影響を及ぼす複雑な要因であり、それに対抗するには科学的知識に基づいた多層的なアプローチが不可欠です。UVインデックスを活用したリスク評価、自身の症状を正しく見極める知識、そして「十分な量を、こまめに」という日焼け止めの正しい実践が、健やかな肌を保つ鍵となります。また、万が一症状に悩まれた場合でも、日本には保険適用で利用できる有効な治療法が存在することを心に留めておいてください。

免責事項

本コンテンツは一般的な医療情報の提供を目的としており、個別の診断・治療方針を示すものではありません。症状や治療に関する意思決定の前に、必ず医療専門職にご相談ください。

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