はじめに
日常生活で無意識に触れているさまざまな物や場所には、多種多様なウイルスや細菌などの病原体が付着していることがあります。特に、咳やくしゃみなどによる飛沫や、手指に付着した病原体がドアノブやテーブル、家電製品などに残ると、そこを別の人が触れた際に病原体が手に移り、さらに口や鼻に触れたときに体内に取り込まれて感染リスクが高まります。一見すると衛生的に見える物品や場所でも、想像以上に多くの病原体が潜んでいる可能性があるため、適切な手洗いや消毒、清掃が欠かせません。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
本記事では、身近によく触れる16種類の物について、その背景や汚染リスク、対策のポイントを詳しく解説していきます。長年にわたり多くの感染症が話題となってきましたが、近年は特にウイルス性肺炎や胃腸炎などのリスクが注目されています。そこで、最新の研究動向も交えながら、どのような原因でこれらの物品が汚染されやすいのか、そしてどのように予防に取り組むべきかをわかりやすくまとめました。
専門家への相談
本記事における医学的な知見の参照元として、医師Nguyễn Thường Hanh(内科・総合内科、Bệnh Viện Đa Khoa Tỉnh Bắc Ninh勤務)が提示した一般的な予防策・衛生管理の注意点などをもとに、また公衆衛生に関する国際的に信頼されている複数の情報源を参照しています。記事で挙げる具体的な対策は、あくまで参考情報であり、個々の症状や体調に合わせたケアには必ず医師や専門家の判断が必要です。
16種類の「触れやすい」物と潜む病原体
以下では、私たちが日常的に触れる16種類の物品を取り上げます。それぞれの物にどのような病原体が潜みやすいか、汚染が生じる背景にはどんな要因があるのかを詳しく掘り下げ、その上で基本的な対策をご説明します。なお、ここで挙げる病原体はすべてに共通ではないものの、一般的に見つかりやすい細菌やウイルスが多いため、日々の習慣として注意しておくことが望ましいとされています。例えば、E.coli(腸管出血性大腸菌)やさまざまなウイルスは、特に下痢などの胃腸症状や呼吸器症状を引き起こしやすいといわれています。
1. 携帯電話
携帯電話は日常的に肌身離さず持ち歩くため、多くの人にとって最も身近な“汚染源”のひとつとされています。研究によれば、携帯電話の表面はトイレの便座よりも多くの細菌が付着している場合があることが示唆されており、汚れた手で触れればウイルスや細菌が付着しやすくなります。実際に、腸管出血性大腸菌(E.coli)や呼吸器系ウイルスの残存が確認されたケースも存在します。
- 対策:できる限りトイレに持ち込まない、日々の生活の中でもこまめにアルコールなどの消毒液を染み込ませたやわらかい布やペーパータオルで拭くことを習慣にしましょう。特に人混みや病院などへ持ち歩いた後は、しっかりと表面を拭き取ると安心です。
近年の研究(例)
2021年に公表された感染症関連の研究(Ren SYら「Stability and infectivity of coronaviruses in inanimate environments」World J Clin Cases, 9(20):5227-5238, doi:10.12998/wjcc.v9.i20.5227)では、新型コロナウイルスを含むコロナウイルス群が硬いプラスチック表面や金属面などで一定時間生存し得ると指摘されており、携帯電話のようなツルツルとした表面をもつ電子機器類でも感染リスクを否定できないことを示唆しています。日本国内でも、携帯端末を使った決済や情報表示が当たり前になってきた現在、端末の衛生管理はこれまで以上に重要になっています。
2. リモコン(リモートコントローラー)
テレビやエアコン、扇風機、照明など、家電を操作するためのリモコンは、家族みんなで共有することが多い物品です。手垢やホコリがたまりやすく、加えてテーブルや床、ソファなど不特定多数の場所に放置されることもあり、カビや細菌にとって“過ごしやすい”環境になりがちです。
- 対策:使い終わったら、なるべく所定の場所に置く癖をつけておくことが望ましいです。定期的にアルコール消毒液を染み込ませたペーパータオルで拭き取る、ボタン周辺にホコリが詰まった場合は綿棒などで除去するのがおすすめです。
3. パソコンのキーボード
自宅やオフィスなど、パソコンのキーボードは手からの汚れがダイレクトに付着しやすい代表例のひとつです。特に仕事中にデスクで食事をする人は、食べかすや手に付着した油分・水分がキーボードの隙間に入り込むことで病原体の繁殖を助長するおそれがあります。
- 対策:パソコンの電源を落としたうえで、キーボード用の小型ブラシなどを使って隙間にたまったゴミを取り除きます。仕上げにアルコールを軽く含んだ布やコットンでキーの表面を拭き、完全に乾燥させてから使用するようにすると効果的です。
4. 食器洗い用のスポンジ
食器の汚れや油分を落とすスポンジは、家の中でもトップクラスに多くの細菌が付着しているというデータがあります。使用後に水でゆすいでも、そのまま置いておくと湿気がこもり、雑菌が増殖しやすい環境になります。
- 対策:こまめに新しいスポンジへ交換することが大切です。もし使い続ける場合は、洗った後によく絞り、できるだけ風通しの良い場所で乾燥させるか、塩素系漂白剤を適度に薄めた水溶液に10分程度浸けてからすすぐ方法も有効です。
5. 歯ブラシホルダー(歯ブラシ立て)
歯磨き後、ブラシに残った水滴が滴り落ちることで歯ブラシホルダー部分に雑菌や歯垢由来の細菌がたまりやすくなります。特に湿度の高い洗面所では細菌が繁殖しやすく、不衛生な状態が続くとブラシを清潔に保つことが難しくなってしまいます。
- 対策:歯ブラシを使い終わったらできるだけ水気を切り、日光に当てられる場合は乾きやすいところで自然乾燥させると効果的です。ブラシ立て自体も定期的に消毒や洗浄を行い、数カ月ごとに歯ブラシそのものを交換することが推奨されます。
6. ペット用おもちゃ
犬や猫などペットが口にくわえたり、外で転がして遊んだりするおもちゃには、唾液や土壌中の細菌が多数付着している可能性があります。新型コロナウイルスについては、現時点で犬猫への感染や犬猫からヒトへの感染は一般的には認められていないとされていますが、ほかの細菌やウイルスが付着する可能性は否定できません。
- 対策:ゴム製やプラスチック製のものは定期的に薄めた消毒液で洗い流し、水できちんとすすぐのが望ましいです。布製やぬいぐるみタイプなら、洗濯できるものはしっかり洗剤で洗ってから乾燥させましょう。
7. 財布やハンドバッグ
財布やハンドバッグは、外出中にさまざまな場所に置かれたり、手で触れたりと意外なほど汚染リスクが高いアイテムです。汚れたテーブルや椅子の上に置いたり、公共交通機関の座席や床に直接接触する場合もあります。
- 対策:家に帰ってきたら、極力専用のフックや棚に掛け、床やソファの上に放置しないようにすることがベストです。革製品であれば専用クリーナーで拭き取り、合皮・布製ならアルコール除菌シートなどで拭くと衛生的です。さらに、つるりとした表面の素材のほうが汚れが溜まりにくい傾向にあるため、購入時に素材を考慮するのも一案です。
8. キッチン用の布巾(台拭き)
キッチンカウンター、テーブル、コンロまわりなどをふき取るための布巾は、さまざまな食品カスや調味料、水気を吸収することで雑菌の温床になりやすいです。
- 対策:洗剤で洗うのはもちろん、薄めた漂白剤に浸ける、あるいは洗ったあとにしっかり天日に干すなどの工夫が有効です。特に夏場は雑菌の繁殖が早いので、こまめな洗浄や交換を心がけましょう。
9. 洗濯機
洗濯機は衣類をきれいにするための家電ですが、洗濯槽の内部が湿った状態のまま放置されるとカビや雑菌が繁殖しやすくなり、逆に病原体を衣類に付着させるリスクがあります。さらに、洗浄温度が低いままの短時間コースでは、ウイルスや耐久性の高い細菌を十分に死滅できない場合もあります。
- 対策:定期的に洗濯槽クリーナーなどで内部を洗浄し、月に1回程度は高温洗浄モード(可能な機種の場合)を活用するとより効果的です。洗濯終了後はフタを開けて内部を乾燥させるようにしましょう。
10. オフィスの共有物(冷蔵庫の取っ手など)
職場の共用冷蔵庫や電子レンジ、給湯室の蛇口などは、多くの人の手が頻繁に触れるポイントです。特に冷蔵庫の取っ手や電子レンジのドア、タイムカードを押す機械、コピー機のボタンなども雑菌が付きやすいことで知られています。
- 対策:これらを使用した後には必ず手洗いする、あるいはアルコール消毒液を使う習慣をつけるとリスク軽減に役立ちます。職場によっては共用部分を定期的に消毒しているところもありますが、やはり自分自身で注意することが最も大切です。
11. 会社やオフィスのコップ・マグカップ
オフィスに置いてあるコップやマグカップは、共用のスポンジや洗剤で洗うことが多く、そこに付着している雑菌やウイルスが広がりやすいといわれます。洗ったつもりでも、実際には付着したままの可能性もゼロではありません。
- 対策:可能なら自分専用のスポンジや洗剤を使う、あるいは使用後に熱湯で一度すすぐなどの追加対策が効果的です。外部からの来客用のコップは使う頻度が少ない分、長期間洗わずにしまわれているケースもあるので注意が必要です。
12. お金(紙幣・硬貨)
お金はさまざまな場所を通過し、多数の人から人へと渡り歩くため、その紙幣や硬貨には非常に多くの細菌やウイルスが付着している可能性があります。国際的にも、お金に付着した細菌に関する研究報告が多数あり、「紙幣1枚に数千~数万単位の細菌が付着している可能性がある」との見解もあるほどです。
- 対策:現金を使った後は石けんでの手洗いを徹底するのが最も効果的です。電子マネーやクレジットカードを利用する場合でも、カードやカードリーダーに触れた手をケアすることも視野に入れましょう。
13. ATMのボタン
ATMのタッチパネルやボタンも、多くの人が日々使用するため、さまざまな病原体が付着していると考えられます。食品や動物由来の細菌、腐敗した生物から移行したバクテリア等が検出された事例も報告されています。
- 対策:ボタンを押した後は、できるだけ速やかにアルコール消毒液などで手を拭くか、流水と石けんで手を洗うように心掛けましょう。
14. ショッピングカート
スーパーマーケットや大型ショッピングモールなどで使用するカートは、生鮮食品を乗せたり、子どもが長時間座ったりと、不特定多数の汚れや雑菌に触れる機会が多い代表例です。屋外のカート置き場では、ハエなどの昆虫が止まって細菌を運搬するケースもあり、意外と見過ごせない汚染源となっています。
- 対策:手袋を使うまではいかなくても、使う前にアルコールシートなどでハンドル部分を拭く、使用後は手洗いや手指消毒を行うのがベストです。
15. 公共の石けんディスペンサー
店舗やオフィスビルのトイレなどにある、共用の石けんディスペンサーには要注意です。多くの人が汚れた手でノズル部分を押して石けん液を出すため、その部分自体が汚染されているリスクも少なくありません。さらに、中の石けんも長期間補充されないままの状態で菌が繁殖するケースがあるといわれています。
- 対策:十分に流水ですすぐことに加えて、石けんを手に取る際にノズル部分に直接手を触れすぎない工夫も一案です。もし可能であれば、自宅から持参した携帯用のハンドソープや消毒ジェルを使うと安心感が高まります。
16. エレベーターのボタン
オフィスビルやマンションのエレベーターのボタンは、一日に何十人もの人が触れる場所です。特に混雑する時間帯では、同じボタンを短時間に大勢が連続して押すため、ウイルスや細菌が付着するリスクが高いとされています。
- 対策:できればボタンに直接指を当てないように工夫する(例えば関節部分やペン先などで押す)人もいますが、触れてしまった場合でも、手洗いやアルコール消毒をこまめに行うだけで感染リスクは大幅に下がります。特にインフルエンザや胃腸炎の流行期、あるいは風邪症状が流行しやすい季節などは意識的に対策を強化しましょう。
おすすめの衛生管理・予防策
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こまめな手洗い・手指消毒
最も基本かつ効果的な予防法です。外出先から帰宅したとき、トイレ使用後、料理前後、お金に触れた後、そして今回紹介した物品を使った後などは、必ず石けんと流水を使い、20秒以上かけて丁寧に洗うようにしましょう。 -
アルコール消毒液や除菌シートの活用
多くの人が触れる物品(ドアノブ、リモコン、携帯電話など)を定期的に拭き取ることで、目に見えない雑菌やウイルスの蓄積を防ぐことができます。アルコール消毒液は濃度が60~80%程度あるとより効果的とされています。 -
こまめな換気・湿度管理
部屋の空気が停滞すると、病原体が室内にとどまる時間が長くなる場合があります。窓を開けての換気や、エアコンのフィルター清掃、湿度を保つ対策なども含め、過度に乾燥しないよう配慮することが重要です。 -
個人用の物品を見直す
前述のコップやマグカップ、タオル、デスク周りの文房具類などは、できるだけ個人専用にするか、共有する場合でもこまめに洗ったり拭いたりする習慣を作ると安心です。 -
高温洗浄や天日干し
洗濯機や食器洗い機で高温洗浄できるモードがあるなら積極的に活用し、乾燥機や天日干しによる殺菌効果も期待しましょう。特にタオルや布巾などの布製品は、湿った状態で放置すると菌が繁殖しやすいため、しっかりと乾かすことが必須です。
結論と提言
私たちの生活圏には、多くの病原体が想像以上に潜んでいる可能性があります。なかでも、スマートフォンやリモコン、パソコンのキーボード、キッチン用具など、日常的に触れる物は汚染リスクが高まる一方、そのまま放置しがちでもあります。普段から汚れが見えないものほど意識的な清掃や衛生対策が重要です。
本記事で挙げた16種類の物品に共通しているのは、「手で触れる機会が極めて多い」「湿気や汚れが溜まりやすい」「複数の人が共有しがち」という点です。これらの特徴から、細菌やウイルスが付着・増殖しやすく、結果として病気の原因にもなり得ます。対策としては、手洗い・手指消毒の徹底や、定期的な拭き掃除・洗浄、乾燥、消毒剤の使用など、基本的な衛生管理の積み重ねが鍵となるでしょう。
また、2021~2023年にかけての研究(世界的に権威ある学術誌などから公表)では、新型コロナウイルスを含む種々のウイルスがプラスチックや金属などの表面で数時間から数日程度存続する可能性を指摘しており、携帯電話やキーボード、テーブルなどの表面除菌が感染症対策の一環としてより注目されています。日本でも同様に、感染症をめぐる状況は日々変化し、季節ごとのインフルエンザや胃腸炎、ノロウイルスなどさまざまな病原体への備えが欠かせません。
医療機関への相談を推奨
上記の内容はあくまでも参考情報であり、正確な診断や治療方針を決定するのは医療従事者の専門分野です。もし日常的な消毒や手洗いを実施しても体調不良が続く、気になる症状がある、あるいは具体的なアレルギーなどの悩みがある場合は、早めに医師の診察を受けてください。自己判断で対策を行い症状が悪化してしまう例もあるため、専門家のアドバイスを仰ぐことが何より大切です。
最後に、本記事で紹介した対策は一般的な衛生管理の一助になるものであり、環境や個人の体質によって最適な方法は異なります。感染症を防ぐためには、社会全体での清掃習慣やマナー向上も不可欠ですが、まずは身近な物の衛生管理を徹底することが、家族や周囲の人々を守る第一歩となるでしょう。
本記事は情報提供のみを目的としており、医療行為や診断の代替ではありません。具体的なケアや治療については、必ず医師・薬剤師などの専門家にご相談ください。
参考文献
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Germy Things You Touch Every Day
- https://www.webmd.com/cold-and-flu/ss/slideshow-germiest-things (アクセス日: 2020年2月7日)
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Germiest Places in Your Office
- https://www.webmd.com/cold-and-flu/ss/slideshow-germs-office (アクセス日: 2020年2月7日)
- 5 unexpectedly germy things you touch every day
- Ren SYら (2021) “Stability and infectivity of coronaviruses in inanimate environments.” World Journal of Clinical Cases, 9(20): 5227–5238, doi:10.12998/wjcc.v9.i20.5227
本記事は日常的な衛生対策としての参考情報をまとめたものです。記載の内容は、すべての状況に当てはまるわけではありません。少しでも不安がある場合は、専門医や公衆衛生の専門家に相談するようにしてください。今後の感染症の流行状況や研究の進展により、新たな推奨事項が出る可能性もありますので、最新の情報にも留意していきましょう。