この記事のポイント
JAPANESEHEALTH.ORG 編集委員会
光皮膚科学 専門博士
本記事は、特定の製品の宣伝を目的とせず、科学的根拠に基づいた中立的な情報提供を目的としています。
1. なぜ紫外線対策は「全ての人」にとって重要なのか?
紫外線対策は、単なる美容上の問題ではなく、深刻な健康リスクから自身を守るための重要な医療行為です。日本では皮膚がんの罹患数が増加傾向にあり、2021年の統計では25,018例が報告されています6。このリスクは特に高齢になるほど高まりますが、その原因となる紫外線ダメージは、生涯を通じて蓄積されていきます。つまり、若いうちからの対策が将来の健康を大きく左右するのです。
1.1. 太陽光に含まれる3つの紫外線(UVA, UVB, UVC)
太陽光に含まれる紫外線のうち、地表に到達し私たちの肌に影響を与えるのは主に「UVA」と「UVB」の2種類です。UVCはオゾン層によってほぼ完全に吸収されるため、地上には届きません。
- UVA(紫外線A波): 地表に届く紫外線の約95%を占めます。波長が長く、雲や窓ガラスを透過して肌の奥深く、真皮層まで到達します。即時的な影響は感じにくいですが、じわじわとコラーゲンやエラスチンを破壊し、シワやたるみといった「光老化」の主な原因となります。
- UVB(紫外線B波): 波長が短く、エネルギーが強い紫外線です。主に肌の表皮に作用し、赤くヒリヒリする日焼け(サンバーン)やシミ、そばかすの原因となります。また、皮膚がんを引き起こすリスクが最も高いとされています。
1.2. 肌への短期的な影響:日焼け(サンバーンとサンタン)
一般的に「日焼け」と呼ばれる現象は、厳密には2つの異なる反応に分けられます。
- サンバーン (Sunburn): 主にUVBによって引き起こされる、肌の「やけど」です。皮膚が赤くなり、熱を持ってヒリヒリし、ひどい場合には水ぶくれができます。これは肌が炎症を起こしているサインです。
- サンタン (Suntan): 主にUVAによって引き起こされる、肌が黒くなる反応です。紫外線から肌細胞の核を守るために、メラニン色素が生成・沈着することで起こります。
1.3. 肌への長期的な影響:「光老化」という最大の敵
肌の老化の約80%は、加齢による自然な老化ではなく、長年にわたって紫外線を浴び続けることによって引き起こされる「光老化」が原因であると言われています。UVAが真皮層のコラーゲン繊維を破壊し、肌のハリや弾力を失わせることで、深いシワやたるみを生じさせます。UVBは表皮のターンオーバーを乱し、メラニンの過剰生成を促すことで、濃く消えにくいシミの原因となります。光老化は、一度進んでしまうと元に戻すのが非常に困難なため、予防こそが最善の策です。
1.4. 皮膚がんのリスク:日本の最新統計データ
前述の通り、国立がん研究センターのがん情報サービスによると、日本の皮膚がんの罹患数は年々増加しています6。特に、悪性黒色腫(メラノーマ)や有棘細胞がんは、紫外線への長期的な暴露が主要なリスクファクターとして知られています。紫外線対策は、見た目の美しさを保つだけでなく、文字通り生命を守るための重要な健康管理の一環なのです。
2. 日焼け止め指数の科学:SPFとPAを根本から理解する
日焼け止め選びの基本となるのが「SPF」と「PA」の表示です。これらの指数が、どのような科学的根拠に基づいて測定され、何を意味しているのかを正確に理解することが、製品を正しく見極めるための第一歩です。
2.1. SPF (Sun Protection Factor) とは? – UVBからの防御
SPFは「Sun Protection Factor」の略で、主にUVBによる肌の炎症(サンバーン)を防ぐ効果を示します。その定義は「日焼け止めを塗らない場合と比較して、サンバーンが起こるまでの時間を何倍に延長できるか」というものです。例えば、何も塗らない状態で20分で肌が赤くなる人がSPF30の日焼け止めを塗った場合、理論上はその30倍、つまり 20分 × 30 = 600分(10時間)まで日焼けを防げるということになります。
このSPF値は、国際標準化機構(ISO)が定めた「ISO 24444」という国際規格に基づき、実際に人の背中に紫外線を照射して測定されます4。1cm²あたり2mgという規定量を塗布し、どれくらいの紫外線量で肌が赤くなるかを評価する、信頼性の高い試験法です。
【重要】SPF値と紫外線カット率の非線形な関係
SPF値が高いほど防御効果も高くなりますが、その効果は比例(リニア)ではありません。下のグラフが示すように、紫外線カット率はある時点から伸びが非常に緩やかになります。
- SPF15: UVBカット率 約93.3%
- SPF30: UVBカット率 約96.7%
- SPF50: UVBカット率 約98.0%
このように、SPF30とSPF50のカット率の差はわずか1.3%です。SPF30以上であれば、すでに非常に高いレベルでUVBを防げていることを意味します。この事実を知ることで、いたずらに高いSPF値を追い求めるのではなく、後述する「正しい使い方」がいかに重要であるかが理解できるはずです。
2.2. PA (Protection Grade of UVA) とは? – UVAからの防御
PAは「Protection Grade of UVA」の略で、シワやたるみの原因となるUVAを防ぐ効果の度合いを示します。これは日本独自の指標であり、「+」の数が多いほど防御効果が高いことを意味します。
- PA+ : UVA防御効果がある (PPD 2以上4未満)
- PA++ : UVA防御効果がかなりある (PPD 4以上8未満)
- PA+++ : UVA防御効果が非常にある (PPD 8以上16未満)
- PA++++ : UVA防御効果が極めて高い (PPD 16以上)
このPA値もまた、「ISO 24442」という国際規格に基づき、人の肌にUVAを照射して、肌が黒くなる反応(PPD: Persistent Pigment Darkening, 即時型黒化)を指標に測定されています4。光老化を防ぐためには、SPF値だけでなく、このPA値も重視することが非常に重要です。
2.3. 日本の規制と表示ルール:「SPF50+」と「医薬部外品」
日本の市場で販売されている日焼け止めには、独自の表示ルールが存在します。
- なぜ「SPF60」ではなく「SPF50+」なのか?: 日本化粧品工業会は、SPF値が50を超える製品については、一律で「SPF50+」と表示するという自主基準を設けています3。これは、前述の通りSPF50を超えると紫外線防御率の差がごくわずかになり、消費者に過度な期待を与えないようにするための配慮です。したがって、「SPF50+」はSPF51かもしれないし、SPF80かもしれません。
- 「化粧品」と「医薬部外品」の違い: 日本では、日焼け止めは「化粧品」または「医薬部外品」に分類されます7。「医薬部外品」は、厚生労働省が認可した有効成分が一定濃度以上配合されており、「日やけによるしみ・そばかすを防ぐ」といった、より積極的な効果を謳うことが許可されています。多くの高SPF/高PA製品が「医薬部外品」として販売されているのはこのためです。
3. 【シーン・肌質別】あなたに最適な日焼け止めの選び方:専門家の推奨
科学的な背景を理解した上で、次はあなたのライフスタイルや肌の悩みに合わせて、最適な製品を選ぶための具体的な方法を見ていきましょう。
3.1. 基本原則:日本皮膚科学会の公式推奨
日本の皮膚科学の専門家集団である公益社団法人日本皮膚科学会は、シーンに応じた日焼け止めの選び方について、以下のようなガイドラインを示しています1。
利用シーン | 推奨SPF値 | 推奨PA値 | 具体例 |
---|---|---|---|
日常生活 | SPF10~20 | PA+ ~ PA++ | 散歩、通勤、買い物など |
屋外での軽い活動 | SPF20~40 | PA++ ~ PA+++ | 屋外での軽いスポーツ、レジャーなど |
炎天下でのレジャー | SPF40~50+ | PA+++ ~ PA++++ | 海水浴、スキー、ゴルフなど |
この表からわかるように、専門家は必ずしも常に最高値の製品を推奨しているわけではありません。肌への負担も考慮し、生活シーンに合わせて適切な強さの製品を使い分けることが、賢い選択であるとしています。
3.2. なぜ市場は「SPF50+」で溢れているのか?専門家の視点
日本皮膚科学会の推奨値と、実際の市場動向との間には、大きなギャップが存在します8。市場調査によれば、日本の消費者に最も人気があるのは「SPF50+/PA++++」という国内最高値の製品です。この「専門家推奨と市場実態の乖離」はなぜ起こるのでしょうか? JHO編集委員会は、その背景に複数の要因が絡み合っていると分析しています。
- 「塗布量ギャップ」への無意識の補償: 後ほど詳しく解説しますが、ほとんどの人は日焼け止めの推奨される塗布量よりもはるかに少ない量しか塗っていません。効果が十分に発揮されていないことを、無意識のうちに高いSPF値で補おうとする心理が働いていると考えられます。
- 「美白(Bihaku)」文化の影響: 日本の消費者、特に女性は、単に「日焼けを防ぐ」という防御的な意識だけでなく、「肌の白さを保ちたい、より白くなりたい」という積極的な美意識を持っています9。この文化的背景が、最大限の防御効果を求める消費者心理につながっています。
- メーカー側のマーケティング戦略: 高い数値は、消費者にとって分かりやすい「性能の指標」となります。そのため、メーカー側も最高値の製品を主力として開発・販売する傾向があります。
【JHOからのアドバイス】
もしあなたが、後述する「正しい使い方」で推奨される量よりも少なく塗りがちであると自覚しているならば、日常生活であっても高いSPF値の製品を選ぶことには一定の合理性があります。ただし、その場合でも「最高値だから安心」と考えるのではなく、「少ない分を数値で補っている」という意識を持つことが重要です。そして、肌への負担を考慮し、帰宅後は丁寧に洗い流すことを徹底してください。
3.3. 肌質・悩みで選ぶ
肌の状態に合わせて適切な成分や処方の製品を選ぶことで、肌トラブルを避け、より快適に紫外線対策を続けることができます。
- 敏感肌・アトピー性皮膚炎の方へ:
- 「紫外線吸収剤フリー(ノンケミカル)」処方を推奨: 日焼け止めには、紫外線を化学的に吸収して熱などのエネルギーに変換する「紫外線吸収剤」と、物理的な膜で紫外線を散乱・反射させる「紫外線散乱剤」の2種類があります。敏感肌の方は、化学反応による刺激が起こる可能性のある吸収剤を避け、散乱剤(主成分:酸化亜鉛、酸化チタン)のみを使用したノンケミカル処方の製品を選ぶと安心です。
- パッチテストの重要性: 製品を使用する前には、必ず二の腕の内側などでパッチテストを行い、赤みやかゆみが出ないかを確認しましょう。
- ニキビ肌の方へ:
- 「ノンコメドジェニックテスト済み」表示を確認: これは、ニキビの元(コメド)ができにくいことを確認した製品であることを示します。ニキビを悪化させにくい処方を選ぶことが重要です。
- 油分の少ないテクスチャーを選ぶ: 油分の多いクリームタイプよりも、サラッとした使用感のジェルタイプやミルクタイプがおすすめです。
- 乾燥肌の方へ:
- 保湿成分配合の製品を選ぶ: ヒアルロン酸、セラミド、コラーゲンといった高保湿成分が配合された製品は、紫外線を防ぎながら肌のうるおいを保つ手助けをしてくれます10。
- 子供・赤ちゃんへの使用:
- 日本小児皮膚科学会の見解を参考に: 同学会は、子供の紫外線対策に関する統一見解を発表しています11。それによると、生後6ヶ月以降からの使用が推奨され、低刺激性で、石鹸で簡単に落とせる製品が望ましいとされています。
- 学校・保育園での対応: プールの授業や運動会など、日本の学校特有の行事では、耐水性のある製品の使用を許可し、塗り直しを促すなどの配慮が必要です。子供自身が使いやすいスプレータイプなども活用しましょう。
3.4. テクスチャーと剤形で選ぶ
毎日快適に使い続けるためには、使用感も重要な選択基準です。日本の高温多湿な夏を考慮すると、ベタつかずサラサラしたテクスチャーが好まれる傾向にあります12。
タイプ | 長所 | 短所 | おすすめの使用シーン |
---|---|---|---|
ミルク | 伸びが良く、しっとりとした使用感。耐水性が高い製品が多い。 | 製品によってはややベタつきを感じることがある。 | 顔・からだ用、レジャーシーン。 |
ジェル | みずみずしく、サラッとした軽い使用感。白浮きしにくい。 | アルコール配合が多く、乾燥肌や敏感肌には刺激になることがある。 | 日常使い、ベタつきが苦手な方。 |
クリーム | 保湿力が高く、肌への密着度が高い。 | 油分が多く、重めのテクスチャー。ベタつきや化粧崩れの原因になることも。 | 乾燥肌の方、秋冬の季節。 |
スプレー | 手が届きにくい背中や髪、塗り直しに便利。 | ムラになりやすく、吸い込むリスクがある。十分な量を塗布しにくい。 | 日中の塗り直し、髪・頭皮のUVケア。 |
スティック | 手を汚さずに直接塗れる。密着性が高く、部分使いに最適。 | 広範囲に塗るのには向かない。衛生面に注意が必要。 | 鼻筋や頬骨など、焼けやすい部分への重ね付け。 |
パウダー | メイクの仕上げや、日中の化粧直しに使える。ベタつきを抑える効果も。 | 単体での紫外線防御効果は低い。汗で落ちやすい。 | メイクの仕上げ、日中の軽い塗り直し。 |
4. 【完全ガイド】日焼け止めの正しい使い方:効果を100%引き出す技術
どんなに高価で高性能な日焼け止めを選んでも、使い方が間違っていればその効果は半減、あるいはそれ以下になってしまいます。このセクションでは、製品のポテンシャルを100%引き出すための、科学的根拠に基づいた「正しい使い方」を徹底的に解説します。
4.1. 最大の問題点:「塗布量ギャップ」の衝撃的な事実
日焼け止め効果に関する最もクリティカルな問題、それは「塗布量ギャップ」です。SPFやPAの値は、皮膚1cm²あたり2mgという量を塗布して測定されています。しかし、日本皮膚科学会の調査によれば、多くの人が実際に塗っている量は、この規定量の半分以下(約0.8mg/cm²)に過ぎないことが指摘されています1。
塗布量が半分になると、SPF値は単純に半分になるのではなく、その平方根にまで低下するという研究報告があります。つまり…
あなたのSPF50は、実際にはSPF√50 ≈ SPF7程度の効果しか発揮していないかもしれません。
この衝撃的な事実は、日焼け止め選びにおいて「数値」以上に「塗り方」が重要であることを物語っています。正しい量を塗ることこそが、紫外線対策の成否を分ける最大の鍵なのです。
4.2. 正しい塗布量:顔と体、具体的な計量法
では、具体的にどれくらいの量を塗れば良いのでしょうか。視覚的に分かりやすい目安をご紹介します。
- 顔への塗布量:
- クリームタイプの場合: パール粒2個分。
- 液体(ミルク)タイプの場合: 1円玉2枚分。
- フィンガーユニット法: より正確な方法として、人差し指の第一関節から指先まで出した量を「1フィンガーユニット(1FTU)」とし、顔全体で「2FTU」を目安にする方法も推奨されています。
- 体への塗布量(全身):
4.3. 塗り方の手順とコツ
正しい量を、ムラなく均一に塗ることが重要です。
- 顔への塗り方(5点置き法): 1. 適量を手に取り、額、両頬、鼻、あごの5点に置きます。 2. 顔の中心から外側に向かって、指の腹全体を使い、優しく丁寧に伸ばします。こすりつけるのではなく、肌に置くように広げるのがコツです。
- 塗り忘れやすい部位への注意喚起: 以下の部位は特に塗り忘れが多く、うっかり日焼けしやすい場所です。意識して塗るようにしましょう。
- 耳、耳の後ろ
- 首、うなじ、デコルテ
- 手の甲、指
- 足の甲、アキレス腱
- 髪の生え際、頭頂部(特に髪が薄い方)
- 唇(UVカット機能のあるリップクリームを使用)
4.4. 塗り直しのタイミングと頻度
日焼け止めの効果は、時間と共に、また汗や摩擦によって低下します。一度塗ったら終わり、ではありません。
- 基本ルールは「2~3時間ごと」: WHOは、2時間ごとの塗り直しを推奨しています5。朝塗ったきりでは、昼過ぎには効果がほとんどなくなっている可能性があります。
- 汗をかいたり、水に入った後はすぐに: 汗をかいた後やタオルで肌を拭いた後、プールや海から上がった後は、たとえ2時間経っていなくても、その都度塗り直す必要があります。「耐水性」の製品であっても、効果が落ちるため塗り直しは必須です。
4.5. 正しい落とし方:製品タイプ別のクレンジング法
日焼け止めを肌に残したままにすると、毛穴詰まりや肌荒れの原因になります。製品のタイプに合わせて、その日のうちに必ず洗い流しましょう。
- 「石鹸(洗顔料)で落ちる」タイプ: パッケージにその旨が記載されています。普段お使いの洗顔料やボディソープで丁寧に洗えば落とすことができます。
- 「専用クレンジングが必要」なタイプ: 主に「ウォータープルーフ」や「耐水性」を謳う高機能な製品です。これらの製品は肌への密着性が高いため、通常の洗顔料だけでは落としきれません。必ずメイク落とし(クレンジング料)を使って、優しくなじませてから洗い流してください。
5. 紫外線だけではない!最新研究が示す新たな脅威と対策
近年の皮膚科学研究では、従来のUVA・UVBだけでなく、私たちの生活に身近な「光」も肌に影響を与える可能性が指摘されています。ここでは、最新の研究動向と対策について解説します。
5.1. ブルーライト(高エネルギー可視光線)の肌への影響
ブルーライトは、スマートフォンやPC、LED照明などから発せられる、可視光線の中でも特にエネルギーの強い光です。複数のレビュー論文によれば、ブルーライトへの長期的な暴露は、肌の酸化ストレスを増加させ、シミやくすみの原因となる色素沈着を引き起こす可能性が示唆されています14。特に、肌の色が濃い人種でその影響が顕著であるという報告もあります。
【対策】
最新の研究では、日焼け止めの成分の中でも「酸化鉄」が、ブルーライトを効果的にカットすることが示されています15。酸化鉄は、色付きの日焼け止めやファンデーション、BBクリームなどに着色料として配合されている成分です。PC作業が多い日などは、こうした色付きの製品をうまく活用することも一つの有効な対策と言えるでしょう。
5.2. 近赤外線(NIR)の肌への影響
近赤外線(NIR)は太陽光の約50%を占め、UVAよりもさらに深く、皮膚の深層部(真皮、一部は皮下組織)にまで到達します。2003年に発表された権威ある研究では、近赤外線が皮膚の温度を上昇させることで「マトリックスメタロプロテイナーゼ-1(MMP-1)」という酵素の産生を促し、この酵素がコラーゲンを分解してしまうメカニズムが示されました16。つまり、近赤外線は「熱」によるダメージを通じて、シワやたるみといった光老化を促進する新たな要因として注目されています。
【対策】
現在、一部の製品では近赤外線カットを謳うものも登場していますが、その効果測定方法や有効性については、まだ科学的なコンセンサスが確立されている段階にはありません。しかし、抗酸化成分を配合したスキンケア製品を併用することなどが、熱によるダメージを軽減する上で役立つ可能性が期待されています。今後の研究動向に注目が集まります。
5.3. 最新の日焼け止め技術:次世代フィルターの登場
日焼け止め成分そのものも、日々進化を続けています。例えば、2024年にハーバード大学の研究者らが発表した「次世代酸化亜鉛」は、従来の微粒子酸化亜鉛に比べてUVB吸収能力が格段に高く、肌ダメージの原因となる活性酸素種(ROS)の生成を80%も低減させ、さらに白浮きしにくいという画期的な特徴を持っています17。このように、科学技術の進歩により、将来的にはより安全で効果が高く、かつ使用感の優れた日焼け止めが登場することが期待されます。
6. よくある質問(FAQ):専門家があなたの疑問に答えます
Q1. 去年使った日焼け止めは、今年も使えますか?
Q2. 日焼け止めと化粧下地、ファンデーションはどの順番で塗ればいいですか?
Q3. 「ウォータープルーフ」と「ウォーターレジスタント」の違いは?
Q4. ビタミンD不足が心配です。日焼け止めを塗っても大丈夫?
7. まとめ:賢い紫外線対策で、生涯にわたる肌の健康を
この記事を通じて、日焼け止めに関する科学的な知識を深くご理解いただけたことと思います。最後に、最も重要なポイントを再確認しましょう。
- 数値を過信せず、使い方をマスターする: SPF50+の製品も、塗る量が少なければ効果は激減します。正しい量を、ムラなく、こまめに塗り直すことこそが、紫外線対策の真髄です。
- シーンと肌質で使い分ける: 毎日の通勤と、夏のレジャーでは必要な防御力も、肌が求める快適さも異なります。あなたのライフスタイルと肌のコンディションに合わせた製品を複数持ち、使い分けるのが理想的です。
- 紫外線対策は一年中: 紫外線は曇りの日でも、冬でも降り注いでいます。特に光老化の原因となるUVAの量は年間を通じてあまり変わりません。紫外線対策を、季節を問わない毎日の習慣にしましょう。
紫外線対策は、今日の美容のためだけでなく、10年後、20年後のあなたの肌の健康、そして生命を守るための投資です。この記事が、あなたが科学的根拠に基づいた賢い選択をするための一助となれば幸いです。ただし、アレルギーや特定の皮膚疾患など、個別の健康に関するご相談は、必ず皮膚科専門医にご相談ください。
この記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスに代わるものではありません。健康上の問題や症状がある場合は、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。
参考文献
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