はじめに
近年、さまざまな要因によって引き起こされる消化器系のトラブルが増加傾向にあるなか、特に多くの方が経験するのが胃潰瘍や胃炎、いわゆる胃の粘膜が傷ついた状態です。一般的に「胃潰瘍」「消化性潰瘍」とも呼ばれますが、こうした疾患によるみぞおち周辺の痛みや胸やけ、胃のむかつきなどは日常生活に大きな支障をきたすことがあります。とくに症状が進行したり再発を繰り返す場合には、適切な治療が重要となります。本記事では、胃潰瘍の治療、特に現在よく使用される薬剤や、効果を高めるための生活面での工夫、薬を安全に使用するための注意点などを整理し、詳しくご紹介いたします。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
専門家への相談
本稿では、医療機関で一般的に処方される薬剤や治療法に関する情報について、複数の医学的資料をもとに整理しています。また、ベトナムの大規模病院であるBệnh viện Bạch Mai(消化器分野の情報を提供)をはじめ、Mayo Clinic、Hopkins Medicine、NIDDK、AAFPなどの海外有力医療機関が公表している情報を参考にしながら、多角的に解説しています。さらに、もし胃潰瘍の原因となりやすいヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)の除菌治療に関しては、最新のガイドラインや研究報告を加味してまとめています。ただし、記事内で言及されている薬剤の使用可否や具体的な処方は、必ず医師・薬剤師などの専門家による判断が必要です。特に妊娠中、授乳中、小児、高齢者、基礎疾患をお持ちの方は、必ず担当医に相談してください。
胃潰瘍・胃炎とは
胃の内側は粘膜で保護されていますが、何らかのきっかけでこの粘膜が継続的にダメージを受けると、やがて炎症や潰瘍を形成し、みぞおち付近や上腹部に痛み、胸やけ、胃のむかつき、嘔気、げっぷなどの症状を起こすことがあります。原因としては以下が代表的です。
- ヘリコバクター・ピロリ(H. pylori)の感染
- 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の長期使用
- ストレス過多による胃酸分泌の過剰亢進
- 不規則な食事習慣やピリ辛食品・アルコール類の過剰摂取
- 喫煙
日本では健康診断や内視鏡検査の普及により、胃潰瘍や胃炎が早期に見つかるケースも増えています。しかし放置すると、粘膜の傷が深く広がって出血や穿孔など重篤な合併症を引き起こす恐れがあります。そのため、早期診断と適切な治療が非常に重要です。
胃潰瘍の治療薬:主な種類と特徴
医療機関で処方される胃潰瘍の治療薬には、目的や作用機序によってさまざまなグループがあります。大きく分けると、以下の目的をもって選択されます。
- 胃酸の分泌を抑える(潰瘍部位へのダメージを軽減し、自然治癒を促す)
- すでに高まった胃酸を中和する(一時的に症状を緩和)
- 粘膜を保護・修復する
- 原因菌(H. pylori)を除菌する
ここでは、現在よく使われている代表的な薬の種類をご紹介します。
1. 胃酸分泌を抑制する薬(PPI・H2RA)
胃酸分泌抑制薬には、プロトンポンプ阻害薬(Proton Pump Inhibitors; PPI)やH2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)があります。いずれも胃酸の産生を抑えることで潰瘍の治癒を促進し、胸やけやみぞおちの痛みなどの症状を改善させます。
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PPIの例:オメプラゾール、ランソプラゾール、エソメプラゾール、ラベプラゾール、パントプラゾール など
これらは胃酸分泌の最終段階を阻害するため、強力に胃酸を抑える効果があります。一般に、潰瘍治療の中心的存在として広く使用されます。
ただし、高用量・長期服用では骨粗鬆症リスクがあるとも報告されているため、医師の指示に従った適切な用量・期間を守る必要があります。 -
H2受容体拮抗薬(H2ブロッカー):ファモチジン、シメチジン、ニザチジン など
胃酸分泌に関与するヒスタミンH2受容体をブロックし、胃酸の分泌を減らす役割を果たします。症状が比較的軽度であったり、PPIが使えない状況で処方されるケースも多いです。
PPIほど強力ではないものの、長期的な再発予防にも用いられる場合があります。
近年の研究動向
アメリカの消化器学会では、H. pylori感染が確認された場合にまず除菌を優先するほか、NSAIDsの使用歴がある患者や再発リスクが高い患者にはPPIを併用することが推奨されています。2022年にThe American Journal of Gastroenterologyに掲載されたガイドライン(Cheyら, 2022, doi:10.14309/ajg.0000000000001639)では、ピロリ除菌療法とPPIの適切な組み合わせが再発防止に有効であるとまとめられています。
2. 胃酸を中和する薬(制酸薬)
制酸薬は文字どおり過剰に分泌された胃酸を中和し、症状を一時的に和らげる働きをします。アルミニウムやマグネシウム、カルシウムなどの成分が含まれ、食後や就寝前に服用することで、みぞおちの痛みや胸やけを鎮める場合があります。ただし、根本的な治癒をもたらすわけではないため、多くの場合はほかの薬剤(PPIやH2ブロッカーなど)と併用されます。
- 一般に大量かつ頻回に服用するため、下痢や便秘などの副作用が出る場合もあります。
- 制酸薬のみで治療を続けても、根本原因が解決されないと潰瘍が再発する恐れがあります。
3. 胃粘膜保護薬・修復薬
胃粘膜保護薬は、潰瘍部位や周辺の粘膜を物理的・化学的に保護し、再生を促進する作用を持ちます。代表的な薬剤として、スクラルファートやレバミピド、テプレノンなどがあります。
- スクラルファートやミソプロストール:潰瘍部のたんぱく質と結合して膜を形成し、胃酸や消化酵素から守る。
- レバミピド:粘液量や粘液中の糖蛋白質を増やし、H. pyloriの粘膜への付着を抑える効果も報告されている。
- テプレノン:粘膜修復を促進し、潰瘍瘢痕化の速度を上げる。
さらに、NSAIDsを長期的に使用する患者に対して、粘膜保護薬を予防的に処方することで、新たな潰瘍形成を抑制するケースもあります。
4. 抗菌薬(H. pylori除菌)
もしH. pyloriの感染が確認された場合、抗菌薬(抗生物質)の組み合わせ投与による除菌が重要になります。通常は複数の抗生物質とPPI、または制酸薬などを合わせて服用し、2週間ほど継続して使用することが一般的です。以下のような抗生物質が併用されます。
- アモキシシリン
- クラリスロマイシン
- メトロニダゾール
- テトラサイクリン
- レボフロキサシン など
H. pylori除菌では、耐性菌問題がしばしば課題となります。特にクラリスロマイシンに対する耐性率が地域差・個人差で高まっているとの報告があるため、医師は
患者の喀痰・糞便検査や内視鏡所見、過去の服用歴を考慮して最適な組み合わせを決定します。
新たな除菌治療に関する研究
2023年に発表されたHelicobacter誌の多施設共同研究(Tsudaら, 2023, doi:10.1111/hel.12929)によれば、早期胃がん治療後にH. pylori除菌を行うことで、胃粘膜病変の新規発症リスクが有意に低下するとの報告がありました。日本人を含む東アジア地域では感染率が高い傾向が指摘されているため、除菌治療に取り組むメリットは大きいとされています。
胃潰瘍治療薬の使用時の注意点
1. 医師の指示を厳守する
胃潰瘍治療は、基本的には数週間から数か月ほどで潰瘍面の修復が期待できます。しかし、処方された薬を自己判断で中断したり減量したりすると、完治せずに症状が再発しやすくなったり、耐性菌を生むリスクを高める可能性があります。特に抗生物質の場合は、指示通り決められた期間すべてを服用し、飲み忘れや自己中断がないようにすることが極めて重要です。
- 毎日の服薬時間や服用タイミング(食前・食後・就寝前など)を守る
- 「症状が治まったから」と勝手にやめない
2. 副作用や相互作用への注意
長期的に服用する場合、副作用や薬物相互作用が起こることがあります。たとえばPPIの長期服用では、骨密度が低下するリスクが示唆されています。また、複数の薬剤を同時に飲むことで、肝機能や腎機能に負担がかかる場合もあります。以下のような症状が見られたら、早めに医療機関を受診しましょう。
- 黒色便、吐血(コーヒーかす様の嘔吐物)
- 強い腹痛、持続する下痢や嘔吐
- 重い倦怠感や発熱
3. 定期的な受診と検査
定期健診や再診で内視鏡検査や血液検査を受け、薬の効果を評価したうえで治療方針を見直すことが大切です。中には抗生物質を変える必要があるケースや、ほかの基礎疾患との兼ね合いで投薬プランを修正するケースもあります。
4. 生活習慣の改善で治療効果を高める
薬の効果を最大限引き出し、再発を防ぐには生活習慣の見直しが欠かせません。
- バランスの良い食事を心がける:食物繊維が豊富な野菜や果物、タンパク質源をバランスよく摂取
- 刺激の強い食品(香辛料、アルコール、炭酸飲料など)は控える
- 一定の時間に食事をとり、夜食や暴飲暴食を避ける
- 禁煙:喫煙は胃粘膜の防御機構を損ない、治癒を遅らせる
- ストレスケア:睡眠不足や精神的ストレスは胃酸分泌を亢進しやすい
このように、薬物療法と併せて毎日の生活の中で胃に負担をかけない工夫を続けることが、潰瘍治癒および再発予防の重要なポイントとなります。
おすすめの治療方針と注意点
胃潰瘍の主な治療目標は「潰瘍を完治させ、合併症と再発を防ぐ」ことです。そのためには以下を意識しましょう。
- 原因除去:H. pylori感染があれば除菌治療を優先。NSAIDs使用が続いているなら主治医と相談し、可能なら代替薬へ切り替えを検討する。
- 適切な薬剤選択:PPIまたはH2ブロッカーを中心とし、必要に応じて制酸薬や粘膜保護薬を併用する。
- 継続的モニタリング:服薬期間中も定期的に受診し、効果不十分な場合や副作用が強い場合は速やかに主治医へ報告する。
これらの基本的な流れをしっかり守るだけでも、症状の改善率が高まり、重篤な合併症を防ぐ可能性が大きく高まります。
結論と提言
胃潰瘍や胃炎などの消化性潰瘍は、適切な治療薬と生活習慣の改善によって高い確率で完治が期待できる疾患です。とくにH. pylori感染がある場合は、除菌療法によって潰瘍の回復だけでなく再発率の低下も期待できます。さらに、PPIやH2ブロッカーなどの胃酸抑制薬や、制酸薬、粘膜保護薬などを適切に組み合わせることで症状を緩和しつつ粘膜を修復し、予後を大きく改善できます。
一方で、自己判断で薬を中断したり、不適切な薬剤を長期で使うことはリスクを伴い、病態の悪化や再発に繋がりかねません。胃粘膜は生活習慣によっても左右されるため、栄養バランスの整った食事や禁煙、ストレスマネジメントなど、日常的なケアにも注力することが重要です。
最終的に、胃潰瘍に限らず消化器の病気はひとりひとり原因や体質が異なるため、必ず専門家の診断と処方に基づいて対処することが大切です。
重要な注意点:
この記事の情報は参考として提供しているものであり、正式な診断・治療方針を示すものではありません。症状や体質は個人差があるため、実際に薬を使用する際は必ず医師や薬剤師など専門家に相談してください。
参考文献
- Các thuốc điều trị viêm loét dạ dày – Bệnh viện Bạch Mai (アクセス日:2022年2月16日)
- Peptic Ulcer Treatment – Mayo Clinic (アクセス日:2022年2月16日)
- Peptic Ulcer Disease Treatment – Hopkins Medicine (アクセス日:2022年2月16日)
- Treatment for Peptic Ulcers (Stomach Ulcers) – NIDDK (アクセス日:2022年2月16日)
- Diagnosis and Treatment of Peptic Ulcer Disease and H. pylori Infection – AAFP (アクセス日:2022年2月16日)
- Chey WD, Leontiadis GI, Howden CW, Moss SF. ACG Clinical Guideline: Treatment of Helicobacter pylori Infection. The American Journal of Gastroenterology. 2022;117(5):599-638. doi:10.14309/ajg.0000000000001639
- Tsuda M, Asaka M, Kawai T, et al. A multicenter prospective cohort study of Helicobacter pylori–eradicated patients after endoscopic resection of early gastric cancer. Helicobacter. 2023;28(3). doi:10.1111/hel.12929
医療機関への受診をおすすめします
本記事で取り上げた薬剤や治療法は、あくまで医療現場で一般的に行われている処方の一例です。症状が長引いたり、自己判断で対処が難しいと感じたら、放置せずに早めに医療機関へ足を運び、専門家の診察を受けるようにしましょう。個々の体質や既往歴などに合わせて適切な治療が選択されれば、胃潰瘍の完治や再発防止に向けて大きく前進できます。
免責事項:
当記事は医学的知見をもとにした一般的な情報提供であり、個別の診断・処方を代替するものではありません。体調や病状には個人差がありますので、必ず医師や薬剤師などの専門家にご相談ください。