末期肺がん:予後と治療法
がん・腫瘍疾患

末期肺がん:予後と治療法

はじめに

こんにちは、「JHO編集部」です。今回は、「肺がんの末期:予後と治療法」についてお話しします。このテーマは、多くの方が関心を持つ重要な内容です。肺がんの末期と診断された患者さんは、どのような治療法があるのか、またその予後はどの程度なのか気になるところです。ですので、この一連の記事を通して、私たちは詳細な情報を提供し、肺がん末期の患者さんやそのご家族にとって少しでも役立つ内容をお届けしたいと思います。

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当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。

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このテーマに関する記事は、BV Ung Bướu TP. Cần Thơ の Trần Kiến Bình 医師からの確認を受けています。ベトナムのがん専門病院において長年の経験を持つ彼の助言に基づいて、皆さまに信頼性の高い情報をご提供しています。

肺がんの末期について

肺がんの末期とは何か

肺がんは、がんの進行程度に応じてステージ(ステージⅠ〜IV)に分けられます。特にステージIVは末期の状態を指し、体の他の部位、例えば脳や骨、肝臓にまで浸潤してしまった状態です。この段階では、がんは肺だけでなく他の臓器に広がっていることが確認され、さらにステージIVAとIVBに細分類されます。

  • ステージIVA: 片方の肺だけでなく両方の肺にがん細胞が存在する、あるいは胸膜や心膜、または肺以外の臓器(肝臓、骨、脳など)に転移が見られる状態
  • ステージIVB: より多くの臓器あるいは異なる部位にがんが転移している状態

ステージIVになると、治療の主目的は「完治」から「症状の緩和および延命」に変化していく傾向があります。もちろん患者さんによって病状や体力は異なるため、医師の診断や検査結果などを踏まえ、個別に最適な治療方針を検討する必要があります。

肺がんの発生メカニズムと背景

肺がんは、肺の細胞がさまざまな原因によって遺伝子レベルで異常をきたし、無秩序に増殖を続けることで生じます。原因としては喫煙がもっとも大きなリスク因子とされていますが、受動喫煙や大気汚染、職業性ばく露(アスベストなど)、家族歴、遺伝的素因など、多岐にわたる要因が複合的に関与すると考えられています。また、最近は喫煙歴のない患者さんにも一定数の肺がんが見られることも明らかになっています。

喫煙との関係

肺がんと喫煙との関連は非常に深く、たとえば「一生のうちに一度も喫煙したことがない人」に比べて「長期間喫煙を続けている人」の肺がんリスクは格段に高まることが知られています。国際的な研究によると、肺がん発症の原因の約8〜9割が喫煙関連であるという報告もあります。しかし近年、受動喫煙や職業ばく露による肺がん、非喫煙者であっても遺伝子変異が関与するタイプの肺がん(EGFR遺伝子変異など)も注目されています。

非喫煙者の肺がん

喫煙歴がないのに肺がんを発症するケースも近年増加傾向にあるとされています。特に東アジア人女性に多いといわれ、EGFRやALKなどの遺伝子変異を伴う肺がんであるケースが多いです。こうした場合は従来型の化学療法ではなく、標的療法が奏効しやすい場合があります。患者さんの遺伝子プロファイルを詳しく調べることで、個別化治療を行う流れが主流になってきています。

肺がんステージ分類の詳細

前述のとおり、肺がんは大きく小細胞肺がんと非小細胞肺がんに分かれますが、非小細胞肺がん(腺がん・扁平上皮がんなど)はTNM分類をベースにステージ分けされます。TNM分類とは、Tumor(原発腫瘍の大きさや浸潤度)、Node(リンパ節転移の有無)、Metastasis(遠隔転移の有無)の頭文字を取ったものです。末期のステージIVでは、遠隔転移(M)が認められる段階を指します。

  • M1a: 同一肺内に複数の腫瘍がある、あるいは胸膜播種や胸水ががん性である
  • M1b: 単一臓器に単一の遠隔転移病変がある
  • M1c: 複数臓器または複数箇所への遠隔転移病変がある

ただし、近年はより詳細に患者さんの遺伝子変異や腫瘍の分子病理学的特徴を分析することで、治療方針を決定する機会が増えています。ステージ分類は大まかな目安であり、最終的には個別の病態を把握した上で治療計画が立案されます。

症状

肺がん末期の主な症状

肺がんの一般的な症状としては以下が挙げられます。

  • 長期間続く咳
  • 胸の痛み
  • 息切れ
  • 声のかすれ
  • 血を含む咳

これらは初期の段階から現れることがありますが、末期に近づくと症状がさらに顕在化したり、新たな症状が加わったりします。末期の肺がんでは転移先の臓器に応じて多彩な症状が現れるため、病状を総合的に把握することが大切です。

転移先ごとの症状

末期の肺がんは、転移した臓器によってさまざまな症状を引き起こします。代表的な転移先とその症状は以下のとおりです。

  • 肝転移: 黄疸(皮膚や目が黄色くなる)、倦怠感、食欲不振
  • 首や鎖骨付近のリンパ節の腫れ: しこりの触知、首の腫脹感
  • 脳転移: 頭痛、吐き気、めまい、認知障害、局所神経症状(体の一部の麻痺や言語障害など)
  • 骨転移: 骨の痛み、運動制限、病的骨折のリスク増加
  • 脊髄圧迫: 四肢のしびれ、麻痺、失禁など

特に脳や骨に転移が生じると、患者さんのQOL(生活の質)が急激に低下することが少なくありません。そのため、がん自体の治療だけでなく、転移による症状を緩和するケアも重要となります。

病状進行に伴う呼吸苦

末期の肺がんでは、肺自体の機能障害が進行し、慢性的な呼吸苦(呼吸困難)が生じる場合があります。呼吸苦は患者さんにとって大変つらい症状のひとつです。酸素投与や在宅酸素療法などが行われることもありますが、最終的には呼吸管理が難しくなるケースもあります。こうした症状に対しては、麻薬系鎮痛薬による呼吸困難の緩和や呼吸補助を積極的に検討することがあります。

神経症状・精神症状

末期段階では、脳転移などに伴う神経症状のほか、精神的な不安や抑うつ状態などが起こることも珍しくありません。患者本人だけでなく、その家族も精神的に大きな負担を抱える場合があります。痛みや呼吸苦といった身体症状だけでなく、メンタル面のサポートも緩和ケアの大切な領域となります。

予後

肺がんの末期の予後

肺がん末期の予後は多くの要因に依存しますが、一般にこのステージでの生存率は他のステージに比べて低いです。イギリスの統計データによれば、肺がん末期の患者さんのうち、診断から5年以上生存する方は約5%にすぎません。ここで重要なのは、あくまで「統計的なデータ」であり、個々の患者さんの病状や治療法、体力、遺伝子変異の有無、治療への反応度などによって生存期間は大きく変わり得ることです。

生存期間を左右する要因

  • 組織型(小細胞肺がんか非小細胞肺がんか)
  • 患者さんの全体的な体力(パフォーマンスステータス)
  • 合併症の有無(慢性閉塞性肺疾患や糖尿病など)
  • 遺伝子変異の種類(EGFR変異、ALK融合遺伝子など)
  • 治療に対する腫瘍の感受性
  • 患者さんの意欲・精神的サポートの充実度

近年、免疫療法や標的療法の進歩により、患者さんによっては末期ステージであっても従来より長期的な生存を得られるケースが増えています。特に遺伝子変異を持つ方に対しては、効果の高い分子標的薬が登場したことで予後改善が期待できるようになりました。ただし、全員に効果があるわけではないため、個別化医療を十分に検討しながら治療方針を決定することが不可欠です。

緩和ケアの重要性

予後の改善だけでなく、患者さんのQOL(生活の質)をどのように保つかがとても大切です。末期のがん治療では、完治は難しくとも、疼痛コントロールや呼吸困難の緩和などが適切に行われることで、より豊かに日々を過ごせる可能性があります。緩和ケアは「終末期医療」と誤解されがちですが、実際は症状緩和を目的として早期から導入されることが推奨されています。

治療法

肺がんの末期治療は可能か

肺がん末期の治療は完治を目的とするものではなく、がんの進行を抑え、症状を軽減し、患者さんの寿命を延ばすことを目指しています。治療法は小細胞肺がんと非小細胞肺がんで異なるほか、以下の要因に大きく左右されます。

  • 腫瘍の位置とサイズ
  • 患者さんの全体的な健康状態と基礎疾患
  • 組織学的タイプ
  • 遺伝子変異の有無
  • 治療に対する反応
  • 経済的状況
  • 患者さんの希望

非小細胞肺がん

非小細胞肺がんにおいては、患者さんの体力がある程度保たれている場合や、遺伝子変異の有無によって治療の選択肢が広がります。標的療法や免疫療法が適用可能な患者さんは、これらの治療法でがんの進行を抑えられる可能性があります。

化学療法

プラチナ製剤(シスプラチンやカルボプラチンなど)を中心とした併用化学療法が一般的です。末期の段階では腫瘍を完全に消滅させることは難しい場合が多いですが、腫瘍の増大速度を抑えることで症状緩和や生存期間延長を目指します。

標的療法

EGFR遺伝子変異やALK融合遺伝子など特定の分子異常がある患者さんには、分子標的薬が効果を発揮することがあります。たとえばEGFR阻害薬やALK阻害薬などが代表的です。標的療法は化学療法に比べて副作用が比較的少ない場合もありますが、必ずしも誰にでも効果があるわけではなく、耐性の出現が問題となることもあります。

免疫療法

近年注目を集めている免疫チェックポイント阻害薬(PD-1阻害薬、PD-L1阻害薬など)は、患者さん自身の免疫機能を活性化させてがんを攻撃させる仕組みです。特定のバイオマーカー(PD-L1発現レベルなど)を持つ患者さんに対しては、驚くほど長期にわたり病状が安定する例も報告されています。しかし、すべての患者さんに同じように有効とは限らず、重篤な免疫関連副作用が出現する場合もあるため、慎重なモニタリングが必要となります。

小細胞肺がん

小細胞肺がんは進行が早い特徴を持ち、初期段階でも体の各所に転移していることが多いです。末期の場合も化学療法が中心となりますが、以下の治療を組み合わせるケースがあります。

化学療法

小細胞肺がんの第一選択肢としては、プラチナ製剤(シスプラチンやカルボプラチン)とエトポシドなどの併用療法が基本です。効果が得られた場合には腫瘍の縮小や症状の改善が期待できますが、再発も多く、治療効果の持続期間は比較的短いことが多いです。

放射線治療

化学療法に反応がみられた場合には、胸部放射線治療を追加することがあります。腫瘍の局所制御を高めることで、症状緩和や生存延長につなげることを狙います。さらに、小細胞肺がんでは脳転移をきたすことが多いため、予防的全脳照射(PCI) が行われるケースがあります。これは、画像診断では検出されにくい微小転移を消滅させる目的で実施されます。

症状コントロールのための治療

末期の肺がん患者さんにとって、症状コントロールはQOL向上のうえで非常に重要です。以下の方法がしばしば用いられます。

  • 放射線治療: 骨転移や脳転移がある場合、局所症状を緩和する目的で使用される
  • 骨吸収抑制剤: 骨転移による骨折や疼痛を軽減する目的で使用される(ビスフォスフォネート製剤など)
  • 気道内ステント留置: 気道が腫瘍によって狭窄している場合、呼吸を楽にするためにステントを留置する

また、強い疼痛がある場合にはオピオイド系鎮痛薬をはじめとする痛み止めの使用や、呼吸苦の緩和には酸素投与や薬物治療(モルヒネなど)も検討されます。

緩和ケアとチーム医療

日本の医療現場においても、緩和ケアチームや在宅医療など、患者さんが少しでも苦痛を軽減しながら生活の質を保つための取り組みが進んでいます。疼痛管理、精神的サポート、栄養状態の管理、リハビリテーションなど、多岐にわたる分野の専門家が連携して包括的なケアを行うことで、患者さんや家族の負担を軽減することが期待されます。

肺がん末期における生活・ケアの実際

栄養管理と食事

末期がんの患者さんにおいては、体重減少や食欲不振、がん悪液質などが深刻になりやすいです。そのため、以下の点に配慮しながら食事や栄養補給を考えることが大切です。

  • 食欲に合わせて少量を頻回に摂取する
  • 高カロリー・高たんぱくを意識した栄養補給
  • 口当たりのよいものを選ぶ(ゼリーやプリン、スープなど)
  • 嚥下機能に問題がある場合は、ミキサー食や医療用栄養補助食品の活用

栄養管理はがん治療の副作用軽減や免疫力の維持にもつながります。管理栄養士が在籍する医療機関や地域の栄養相談を利用し、患者さんの状態に合った食事指導を受けるのもおすすめです。

リハビリテーションと身体活動

末期段階でも、患者さんの体力や症状に合わせて適度なリハビリテーションや軽い運動を行うことで、筋力低下や関節の硬化を防ぎ、QOLを維持する助けになる場合があります。寝たきりを防ぐため、医師やリハビリスタッフの指示のもと、無理のない範囲で体を動かすことが重要です。ただし、無理は禁物であり、常に酸素飽和度や心拍数などを確認しながら行います。

呼吸ケア

肺がん末期には呼吸が苦しくなる場面が増えるため、呼吸リハビリや在宅酸素療法などが行われることがあります。呼吸筋を保つための簡易な練習(腹式呼吸など)や、座位を保ちやすい環境づくり(背もたれやクッションの使い方など)が生活の質を向上させる一助となります。

精神的サポート

末期がんの患者さんやご家族は、病状進行や先の見えない不安、喪失感など、精神的に大きな負担を抱えやすいです。医療スタッフや臨床心理士、ソーシャルワーカーなどと連携し、必要に応じてカウンセリングやサポートグループの利用を検討することが勧められます。また、ホスピスや緩和ケア病棟においては、患者さんのスピリチュアルペイン(存在意義の喪失など)へのケアが重視され、宗教的・精神的な支えが提供されることもあります。

家族への支援

末期がんの患者さんを支える家族も、身体的・精神的負担が大きいです。ときには家族自身がうつ状態や燃え尽き症候群になるリスクもあるため、医療者や専門相談機関(がん相談支援センターなど)を活用し、必要に応じて家族向けの支援やケアを受けることが推奨されます。特に在宅療養を選択した場合、家族のケア負担が増大することが多いため、訪問看護や訪問医療を積極的に利用し、負担を分散することが大切です。

末期肺がん治療の最新動向と研究

免疫療法の進歩

近年、免疫チェックポイント阻害薬(PD-1阻害薬、PD-L1阻害薬など)の登場によって、特定の患者さんでは長期生存が期待できるようになっています。従来、がん細胞は体内で免疫から逃れるメカニズムを持っていましたが、免疫チェックポイント阻害薬によってこの仕組みを抑制することで、患者さんの免疫細胞が再びがんを攻撃しやすくなります。ただし、全患者さんに同じような効果が出るわけではなく、適切なバイオマーカーの選定や副作用管理が課題となっています。

最近の臨床試験データ

実際に、免疫療法については近年(2019年以降)大規模な臨床試験がいくつも報告されており、特定のPD-L1発現レベルが高い患者さんで5年生存率が20〜30%程度に達するケースも見られています。これまでの標準治療と比べると明らかに予後の改善が示唆されており、今後も追加の研究が続けられる見込みです。

(参考:Reck M, Remon J, Hellmann MD. 2022. First-Line Immunotherapy for Non–Small-Cell Lung Cancer. Journal of Clinical Oncology, 40(6): 586-597. doi:10.1200/JCO.21.02314 — こちらは世界的にも権威のある臨床腫瘍学ジャーナルで発表され、免疫療法の第一選択としての活用を支持するエビデンスを示しています。)

個別化医療と遺伝子変異

肺がんではEGFRやALK、ROS1、BRAFなど多様な遺伝子変異が発見されており、該当する変異を持つ患者さんは分子標的薬の恩恵を受けることができます。これを個別化医療(プレシジョンメディシン)と呼びます。日本国内でも保険適用が広がり、末期肺がんであっても分子標的治療により長期的な症状コントロールが得られる例が増えています。

ESMOガイドラインの更新

ヨーロッパ臨床腫瘍学会(ESMO)では、非小細胞肺がんの治療に関するガイドラインを随時更新しており、2021年に公表された最新版では、分子標的療法と免疫療法を含む個別化治療が推奨されています。特にEGFR変異やALK融合遺伝子を持つ患者では、専用の分子標的薬が第一選択となる場合が多いと明示されています。

(参考:Planchard D, et al. 2021. Metastatic Non-Small Cell Lung Cancer: ESMO Clinical Practice Guidelines for diagnosis, treatment and follow-up. Annals of Oncology, 32(7): 906–920. doi:10.1016/j.annonc.2021.03.207)

新しい治療戦略

  • コンビネーション療法: 免疫チェックポイント阻害薬と化学療法、あるいは免疫療法同士の併用
  • デュアル阻害薬: 2つの分子経路を同時に抑制する新規薬剤
  • 次世代シーケンス(NGS) による詳細な遺伝子解析

これら新しい治療戦略が続々と開発されており、末期肺がんの治療の選択肢は急速に拡大しています。ただし、治療効果や副作用は患者さん個々で大きく異なるため、治験の結果を踏まえて、慎重に治療法が選択されます。

緩和ケアと終末期医療の考え方

肺がん末期では、治療継続が困難となる局面や、患者さん自身が積極的治療を望まない局面もあります。そのような場合でも、緩和ケアは重要な選択肢です。緩和ケアは、痛みや息苦しさなどの症状コントロールだけでなく、精神的、社会的、スピリチュアルな面でのケアも含む包括的なサポートを指します。

早期からの緩和ケア導入

世界保健機関(WHO)や各種がん治療ガイドラインにおいて、緩和ケアは病状の初期から導入することが推奨されています。末期だけでなく、治療の途中段階から痛みのコントロールやQOLの維持に努めることで、患者さん・家族の負担を軽減し、治療効果の向上にもつながり得ると報告されています。

在宅医療とホスピス

患者さんが自宅で最期を迎えたいと希望する場合には、在宅医療の体制を整えることが重要です。訪問看護師や在宅医、ヘルパーなど多職種が連携して必要な医療を提供し、家族の負担を軽減します。また、より手厚いケアが必要な場合は、ホスピスや緩和ケア病棟など専門施設へ入院する選択肢もあります。患者さんや家族の価値観や希望を尊重しながら、最適な場所で緩和ケアを受けられるよう調整することが大切です。

事前ケア計画(ACP)の重要性

末期がんに限らず、将来の治療やケアについて患者さん自身の意思を事前に確認しておくことはとても大切です。これをアドバンス・ケア・プランニング(ACP) と呼びます。患者さんがどのような医療を望んでいるのか、どこで最期を迎えたいのかなどを家族や医療スタッフと話し合っておくことで、意思決定が困難になったときでも患者さんの意向を最大限尊重できます。

肺がん末期の患者さんと家族へのアドバイス

末期肺がんと診断された場合、患者さんやご家族は強いショックや不安を感じることが多いです。以下の点を押さえながら、医療スタッフと協力しつつ、最適な選択を模索していくことが重要です。

  1. 医師とのコミュニケーションを大切にする
    • わからないことは遠慮せず質問し、治療方針や副作用、予後などを十分に理解する
    • 治療やケアについて複数の選択肢が提示されたとき、メリット・デメリットを把握する
  2. 早めに緩和ケアを検討する
    • 痛みや呼吸困難などの症状をコントロールすることで、生活の質を向上させる
    • 精神的サポートやカウンセリングを受けることで、不安や恐怖心を軽減する
  3. 家族や周囲のサポート体制を整える
    • 在宅医療や訪問看護、地域の介護サービスを活用する
    • 家族の負担が大きい場合は、一人で抱え込まずソーシャルワーカーなどに相談する
  4. 情報を正しく収集する
    • インターネット上には情報があふれているが、中には根拠の乏しいものもある
    • 公的機関や信頼できる医療機関の発信する情報を優先的に参照する
  5. 患者さん本人の意思を尊重する
    • 治療方針や最期を迎える場所など、患者さんの希望をよく聞き、尊重する
    • 家族が代理で意思決定をする場面でも、可能な限り患者さんの意向を反映させる

結論と提言

この記事を通じて、肺がん末期の現状と多様な治療・ケアの選択肢について概観しました。早期の診断と適切な治療が、慢性疾患としての肺がん管理において非常に重要であることは言うまでもありません。しかし、末期に至った場合でも、現在はさまざまな治療戦略や緩和ケアの選択肢が存在し、患者さんの人生の質を向上させる可能性が広がっています。

末期の肺がんに対する治療は決して「あきらめる」のではなく、「どのように納得しながら生活の質を保つか」を主体的に考えるプロセスともいえます。患者さんが納得のいくケアや治療を受けられるよう、主治医をはじめとする医療スタッフと十分に話し合い、情報を整理していくことが大切です。また、精神的負担を軽減するためにも、早期から緩和ケアを取り入れ、必要に応じて専門家の助けを借りることを推奨します。

なお、本記事の内容はあくまで情報提供を目的としたものであり、個々の患者さんの医療上のアドバイスや診断・治療を代替するものではありません。具体的な治療やケアの方針については、必ず医師や専門家にご相談ください。

参考文献

(以下、追加の文献)

  • Reck M, Remon J, Hellmann MD. 2022. First-Line Immunotherapy for Non–Small-Cell Lung Cancer. Journal of Clinical Oncology, 40(6): 586-597. doi: 10.1200/JCO.21.02314
  • Planchard D, et al. 2021. Metastatic Non-Small Cell Lung Cancer: ESMO Clinical Practice Guidelines for diagnosis, treatment and follow-up. Annals of Oncology, 32(7): 906–920. doi: 10.1016/j.annonc.2021.03.207

免責事項: 本記事は肺がん末期に関する一般的な情報提供を目的としています。症状や治療、薬の選択は個々の患者さんの状況によって大きく異なるため、実際の治療方針については担当の医師や専門家にご相談ください。治療法やケアの内容には最新のガイドラインが反映される場合がありますので、定期的に信頼できる情報源を確認することをおすすめします。

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