はじめに
腎臓は血液から老廃物や余分な水分をろ過し、それらを尿として体外へ排出する非常に重要な役割を担っています。しかし慢性的な損傷や基礎疾患によって腎機能が大きく低下し、最終的に末期腎不全(いわゆる腎臓病の最終段階)へ至ると、腎臓はほとんど機能しなくなります。この段階を放置すると、体内の老廃物や余分な水分が蓄積してさまざまな合併症を起こし、命に関わる重大な状態になる可能性が高いのです。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
本記事では、腎臓病が末期段階に至ったときに現れやすい症状や診断方法、治療法、さらに患者さんの生活の質を向上させるためのポイントなどを、できるだけ詳しく解説します。特に日本国内では慢性腎臓病(CKD)が以前から大きな問題とされており、高血圧や糖尿病などの基礎疾患を抱える方も多いため、腎不全の末期に至らないよう、早めの対策や適切なケアが欠かせません。近年は透析技術や移植医療の進歩により、末期腎不全に対する治療選択肢が増えてきていますが、命に関わる病気であることに変わりはありません。できるだけ早く正しい情報を把握し、専門医のサポートを受けながら健康管理を行うことが大切です。
専門家への相談
本記事に示す情報は、医療機関の診療や学術的根拠にもとづいたものです。特に末期腎不全は合併症も多岐にわたり、個人の基礎疾患や生活環境によって治療方針が変わる可能性が高い病態です。そのため、ここで紹介する対策や治療法はあくまで一般的な参考情報であり、実際の治療判断には専門家(腎臓内科医や泌尿器科医など)の診察が必須です。また、本記事で言及している医療情報は以下の信頼性の高い文献・ガイドラインをはじめ、海外および国内の医学論文、並びに厚生労働省や国際的な腎臓病関連学会の知見をもとにしています。
なお、記事中でも触れますが、末期腎不全の治療に関しては医療者による個別の指示やサポートが極めて重要です。特に高血圧・糖尿病などを抱える場合は、腎機能の経過をこまめにチェックし、薬剤調整や生活習慣の改善を継続的に行うことで、病状進行を抑えることが期待されます。
末期腎不全(腎臓病の最終段階)とは
慢性腎臓病は、腎機能の悪化程度に応じて1〜5期(ステージ)に分類されます。一般的にステージ5、つまり腎機能が90%以上損なわれた状態を末期腎不全(End-Stage Renal Disease, ESRD)と呼びます。この段階になると腎臓の糸球体ろ過量(GFR)が14mL/分/1.73㎡以下(あるいはそれに近い値)となり、もはや腎臓が十分に血液をろ過できなくなります。日本人に多い原因としては、以下のような要因がしばしば指摘されています。
- 糖尿病:高血糖状態が長期にわたって続くと、糸球体が傷害されて慢性腎臓病へ進展しやすい
- 高血圧:血管にかかる圧力の持続的上昇は腎臓の細小血管を破壊し、腎機能を低下させる
- 糸球体疾患(慢性糸球体腎炎 など):日本を含む多くの国で、腎臓病全体のうち一定の割合を占める
また、食習慣や遺伝的素因、その他自己免疫疾患や薬剤性腎障害など、腎機能を蝕む要素は多岐にわたります。これらを背景に腎不全が徐々に進行し、最終的に自力では老廃物の排出や水・電解質バランスの維持ができなくなるのが末期腎不全です。
近年発表されたKDIGO(Kidney Disease: Improving Global Outcomes)2021年版ガイドライン(Kidney Int Suppl. 2021; 11:1–115, doi:10.1016/j.kisu.2020.09.004)では、ステージ1〜4の段階で積極的に高血圧や血糖管理を行い、適切な薬物治療と生活習慣管理を続けることが末期腎不全の発症予防に重要だと示されています。実際に日本でも高血圧治療のガイドラインが年々更新されており、早い段階で積極的に介入することで腎症の進行を食い止める試みが数多く行われています。
末期腎不全の主な症状
腎機能が極端に低下すると、体内の老廃物(クレアチニンや尿素窒素など)が血中に蓄積しやすくなり、以下のような全身症状が生じることがあります。
- 尿量の著しい減少:ときに尿がほとんど出なくなる
- 疲労感や倦怠感:老廃物や毒素の蓄積により常にだるさを覚える
- 食欲不振や吐き気:特に朝方や食事時に吐き気をもよおすことが多い
- 体重減少や体力低下:栄養摂取量が減り、筋力も落ちやすい
- 皮膚の乾燥・かゆみ:リンや窒素化合物の蓄積が皮膚症状を悪化させる
- 皮膚色の変化:全身的な代謝異常によって、肌がくすんだり黄褐色になる
- 骨や関節の痛み:腎機能低下によるミネラルバランス異常で骨がもろくなる
- 集中力の低下・意識障害:高アンモニア血症などが原因で思考力が低下し、重症化すると錯乱に至る場合もある
さらに以下のような症状を訴える場合もあります。
- 出血傾向(皮下出血や鼻血など):血液中の凝固因子や血小板機能の異常
- しびれ感やむくみ:電解質異常、循環障害による末梢神経への影響
- 口臭・金属様の味覚異常:尿素などの代謝産物が唾液に混じる
- 月経不順(女性)や性欲低下(男性・女性):ホルモンバランスの乱れ
こうした症状は日常生活の質を著しく低下させ、さらに悪化すると生命の維持そのものが難しくなってきます。放置すれば致命的な合併症を招くおそれがあるため、早期に発見・診断を受けることが不可欠です。
受診と診断の進め方
もしも上記のような症状に身に覚えがあり、生活に支障をきたしている、または高血圧や糖尿病などの基礎疾患があり腎機能低下のリスクが高い方は、できるだけ早く医療機関を受診しましょう。特に以下のケースでは早期受診が強く推奨されます。
- 尿量の異常(極端に少ない、排尿が難しいなど)
- 夜間頻回に目が覚めて睡眠不足になっている
- 継続的な悪心・嘔吐をともなう食欲不振
- 日常的な疲労感や集中力低下が著しい
受診後、医師は身体診察のほか、血液検査(クレアチニン、尿素窒素、電解質など)、尿検査(尿蛋白、潜血、尿沈渣)、推定GFR(eGFR)の測定などを行って腎機能の状態を評価します。GFR値が14mL/分/1.73㎡以下、もしくはそれに近いほど低下している場合は末期腎不全と診断される可能性が高くなります。
末期腎不全が引き起こすリスクと合併症
腎不全末期まで進行した場合、正しい治療や管理をしないと下記のような合併症が発症する危険が高まります。
- 電解質異常:特にカリウムやリンなどの蓄積によって心不整脈や骨粗鬆症を起こしやすい
- 貧血:エリスロポエチン分泌の低下による赤血球生成障害
- 骨・関節疾患:ミネラルバランス異常や二次性副甲状腺機能亢進症により骨が脆くなる
- 心血管系合併症:高血圧や動脈硬化が進み、心不全や心筋梗塞、脳卒中など重大な合併症を招く
- 水分過剰:浮腫や胸水・肺水腫につながり呼吸困難などを引き起こす
- 神経障害:尿毒素が中枢神経や末梢神経を冒し、けいれん発作や意識障害を生じる場合がある
場合によっては、肝機能障害や栄養障害、出血性胃潰瘍、認知機能の著しい低下、けいれん発作など重篤な状態に陥ることもあります。末期腎不全の治療では、これらの合併症を防ぐこと、あるいは早期に発見して対処することが非常に重要です。
末期腎不全の治療法
腎移植
もっとも理想的な治療法として挙げられるのは、健康な腎臓を移植する腎移植ですが、ドナー(提供者)との適合性や待機期間の問題があり、全ての患者さんにすぐ適用できるわけではありません。移植後は拒絶反応を抑えるための免疫抑制療法が必要となり、感染症リスクへの対策なども不可欠です。
透析療法
腎移植が難しい場合や待機中の方にとって、命を支える大きな治療手段が透析療法です。透析には大きく分けて次の2種類があります。
-
血液透析(HD)
専門の透析機器を用いて血液を体外に循環させ、老廃物や余分な水分をろ過して血液を戻します。通常は週に3回程度、1回あたり3〜4時間かけて医療機関で行うことが多いです。血管確保のために内シャント(動脈と静脈をつなぐ手術)を腕に作製するのが一般的ですが、急性期や血管状態が悪い場合は大腿や頸部の大きな血管にカテーテルを留置して行うこともあります。 -
腹膜透析(PD)
自身の腹膜(お腹の内側を覆う膜)を透析膜の代わりに利用して透析液と物質交換を行う方法です。腹腔内にカテーテルを留置して透析液を出し入れすることで、血液中の老廃物や余分な水分を除去できます。通院頻度が比較的少なく自宅で行える利点がある反面、管理不十分な場合は腹膜炎を起こす危険があるため、衛生管理が大切になります。
透析療法は治癒をもたらすものではなく、腎臓の機能を人工的に代替する延命治療の位置づけですが、適切に行うことで日常生活を維持しやすくなり、重篤な合併症を防止できます。
薬物療法
末期腎不全に至った患者さんには、合併症の進行を防ぐための薬物療法が行われることがあります。特に以下のような薬剤が処方されることが多いです。
- 血圧管理薬:高血圧が腎機能をさらに悪化させるため、ACE阻害薬やARBなどを用いて血圧をコントロール
- 糖尿病治療薬:糖尿病が原因の場合、インスリン注射や一部の経口血糖降下薬で血糖値を安定化
- リン吸着薬:リンが過剰になると骨代謝に悪影響を与えるため、リンの吸収を抑える薬を用いる
- エリスロポエチン製剤:腎臓からのエリスロポエチン分泌低下による貧血を補正するために使用
- ビタミンD活性化製剤:骨・ミネラル代謝異常を改善する
さらに、感染症予防の観点からワクチン接種(肺炎球菌ワクチンやB型肝炎ワクチンなど)が推奨されるケースがあります。慢性腎不全の患者は免疫機能が低下しがちであり、特に透析中は血液や器具などを介しての感染リスクが高まるため、医師と相談のうえ計画的に予防することが望ましいとされています。
近年では、SGLT2阻害薬という糖尿病治療薬の腎保護効果が注目され、慢性腎臓病患者の進行抑制にも有用な可能性が示唆されています。実際に2021年以降、臨床試験(例:EMPA-KIDNEY試験 など)の結果として、一定の腎機能改善や末期腎不全への移行リスク低減を示唆するデータが報告されています。これらの薬剤を用いる際も、必ず専門医の判断のもと慎重に投与量や併用薬を決める必要があります。
食事療法・栄養管理
末期腎不全の治療では、薬や透析だけでなく日常的な食事管理も極めて重要です。体内に余分な水分や電解質が蓄積するのを防ぎ、合併症リスクを抑えるために、以下のような点に留意します。
- たんぱく質の制限:過剰なタンパク質は尿素の産生を増やし、腎臓に負担をかけます。必要最小限のタンパク質摂取量を医師や管理栄養士に相談して設定します。
- 塩分の制限:塩分(ナトリウム)過多は高血圧を助長し、むくみも生じやすくなります。加工食品や外食では塩分量が多いことがあるため注意が必要です。
- カリウム・リンの調整:果物(バナナ、オレンジなど)や乳製品、ナッツ類などカリウム・リンを多く含む食品は摂りすぎに注意します。
- 水分バランス管理:透析患者では、摂りすぎた水分の排泄が難しくなるため1日あたりの水分量を厳格にコントロールすることが求められます。
また、体重増加の管理(週に何キログラム以上は増やさないなど)も、透析スケジュールや血圧管理を安定させるために欠かせません。栄養状態が悪化しすぎると、感染症リスクや合併症が増える一方で、過剰摂取も腎臓への負担を増大させます。バランスのとれた食事を目指すため、専門家(管理栄養士など)と連携すると良いでしょう。
生活習慣の調整とセルフモニタリング
末期腎不全でも、適切な治療を受けながら日々の生活習慣を見直せば、症状コントロールや合併症予防に大きく役立ちます。
- 定期的な通院と検査:体調の変化に合わせて血液検査や画像検査を受け、GFRや電解質バランスをチェックする
- 血圧管理:日々の血圧測定や降圧薬の服用状況を正しく把握し、急激な変動を見逃さない
- 休養と睡眠の確保:腎不全になると疲れが溜まりやすいため、しっかり休むことが大事
- 適度な運動:無理のない範囲で軽いウォーキングやストレッチを取り入れ、筋力低下を防ぎ、循環機能を維持する
- 禁煙・節酒:喫煙は血管障害を起こしやすくし、腎機能悪化を招く恐れがある。過度な飲酒は血圧上昇や栄養バランスの乱れにつながる
透析中の方は透析前後での体重増加量を日々チェックし、急激な変化や異常なむくみ、血圧変動などを感じたら主治医に相談するように心がけます。
心のケアと社会的サポート
末期腎不全と診断されると、長期的な治療や生活制限への不安、将来への恐怖など精神面での負担が大きくなることがあります。日本においては、透析治療を受ける患者が日常生活や職業を両立させるための社会制度やサポートも充実してきていますが、具体的な手続きや制度利用方法を知らないケースも少なくありません。
- 医療ソーシャルワーカーへの相談:医療費助成や障害者手帳、介護保険など必要な制度の情報を得る
- 患者会やオンラインコミュニティ:同じ病気を抱える人との情報交換や精神的支えを得る
- カウンセリングや心理面のサポート:治療や将来に対する不安を専門家に相談して軽減する
心の安定は治療継続にも良い影響を与えるため、孤立しないよう積極的に周囲にアドバイスを求める姿勢が望まれます。
まとめと今後の展望
末期腎不全は多くの場合、糖尿病や高血圧、慢性糸球体腎炎などが長期にわたってコントロール不良のまま進行し、最終的に腎機能が失われた状態です。ここまで至ると、腎移植または透析療法などの腎代替療法が欠かせず、合併症の管理も徹底する必要があります。しかし近年は、より高度な透析機器や腹膜透析システムが開発され、生活の質(QOL)の向上を目指す取り組みが進んでいます。また、SGLT2阻害薬を含む新しい薬剤や治療法の研究も活発で、末期腎不全への進行を抑える可能性が示唆されるなど、今後さらに選択肢が広がる見込みです。
ただし、たとえ医療技術が進歩しても、生活習慣の管理や基礎疾患のコントロールを怠れば腎機能は容赦なく悪化します。「もしかして腎臓が悪いかも?」と感じる自覚症状があれば、早めに医療機関を受診すること、さらに腎機能が低下する前の段階から高血圧・糖尿病などをきちんと管理しておくことが、末期腎不全を回避する最も有効な手段です。
末期腎不全と診断された方でも、適切な透析や薬物療法・食事管理を継続することで多くの方が生活をある程度維持でき、合併症も軽減して長く生きる可能性があります。一方で、合併症予防や精神的ケア、社会的サポート体制といった包括的なアプローチが欠かせません。何よりも「自分の病気を正しく理解し、必要に応じて専門家と連携しながら治療を進める」姿勢を忘れないことが大切です。
おすすめの受診と専門的アドバイスについて
末期腎不全は決して一人で抱え込むべき病気ではありません。次のような場合や不安がある場合は、積極的に専門医や関連する診療科に相談することを強くおすすめします。
- 既に高血圧・糖尿病など慢性疾患を抱えている
- 尿検査や血液検査で腎機能異常を指摘された
- 尿量減少、むくみ、疲労感など腎不全を示唆する症状が頻繁に起こる
- 透析治療での生活や腎移植の可能性・準備について情報がほしい
- 心理的・経済的サポートや制度利用など、生活面での不安を抱えている
腎臓内科・泌尿器科をはじめ、管理栄養士や医療ソーシャルワーカーなど多職種による支援を受けながら、長期的に病状と向き合うことが大事です。
参考文献
- End-stage renal disease.
- End Stage Renal Disease (ESRD).
-
End-stage kidney disease.
- https://medlineplus.gov/ency/article/000500.htm (アクセス日:2021年5月25日)
- End-stage kidney disease.
-
「慢性腎臓病(CKD)末期の治療」
- https://benhvienvietduc.org/dieu-tri-benh-man-giai-doan-cuoi-2.html (アクセス日:2023年3月30日)
-
Kidney Disease: Improving Global Outcomes (KDIGO) 2021 Clinical Practice Guideline for the Management of Chronic Kidney Disease.
- Kidney Int Suppl. 2021; 11:1–115. doi:10.1016/j.kisu.2020.09.004
- Thạc sĩ – Bác sĩ Võ Duy Tâm(Nam khoa・Trung tâm Sức khỏe Nam giới Men’s Health)
注意事項(免責)
本記事は、信頼できる医学的情報と複数の専門的ガイドラインをもとに作成していますが、最終的な診断や治療方針の決定は、必ず主治医や専門家との相談のうえで行ってください。個々の病状や体質によって最適な治療法や薬剤は異なるため、ここで述べた内容は参考情報にすぎません。また、高血圧や糖尿病、その他慢性疾患をお持ちの方は、定期的に主治医と相談しながら腎機能の経過観察を行い、早期に適切な介入ができるよう備えてください。本記事はあくまで情報提供を目的としたものであり、正式な医療行為の代わりにはならないことをご了承ください。