口腔ウェルネスと輝く肌:見過ごされてきた関連性を解明する専門家ガイド
口腔の健康

口腔ウェルネスと輝く肌:見過ごされてきた関連性を解明する専門家ガイド

美しい肌を求める旅は、多くの場合、顔のスキンケアで終わると考えられがちです。しかし、最新の科学的研究は、私たちの口の中に、肌の健康と輝きを左右する重要な鍵が隠されていることを示しています。口腔の健康、特に歯と歯茎の状態が、ニキビ、アトピー性皮膚炎、さらには治療が難しいとされる皮膚疾患にまで、深遠な影響を及ぼす可能性があるのです。本稿では、JAPANESEHEALTH.ORG編集部が、口腔と皮膚の間のこの見過ごされてきた「見えざるつながり」について、科学的エビデンスに基づき、包括的かつ実践的に解説します。全身の炎症から口腔内細菌のバランス、そして専門的なケアの重要性まで、あなたの美容とウェルネスに関する考え方を一新する知見を提供します。

要点まとめ

  • 全身性炎症の関連:歯周病など口内の慢性的な炎症は、炎症性物質を血流に放出し、体全体の炎症レベルを高めます。この「炎症負荷」が、ニキビやアトピー性皮膚炎など、多くの炎症性皮膚疾患を誘発または悪化させる主要な原因となります12
  • 口腔マイクロバイオームの影響:口腔内細菌のバランスの乱れ(ディスバイオシス)は、病原性細菌の増殖を招きます。これらの細菌やその産生物が血流を介して皮膚に到達し、皮膚のマイクロバイオームを乱したり、免疫反応を引き起こしたりして、肌トラブルの一因となることがあります56
  • 特定の皮膚疾患との直接リンク:特に、顎周りの治りにくいニキビは歯の膿瘍(外歯瘻)が原因である可能性があり、また掌蹠膿疱症(PPP)は歯性病巣感染が強力な引き金となることが多くの研究で示されています3411
  • ホリスティックケアの重要性:日々の丁寧な口腔ケアは、皮膚の健康を守るための最も基本的なステップです。さらに、バランスの取れた食事、十分な水分補給、ストレス管理といったライフスタイル全体が、口腔と皮膚双方の健康を支える上で相乗効果を生み出します。
  • 専門家との連携:持続的な皮膚の問題を抱えている場合、皮膚科医だけでなく歯科医にも相談することが不可欠です。両分野の専門家が連携することで、根本的な原因を特定し、より効果的な治療へと繋がります2023

1. 口腔:皮膚の健康への隠れた影響因子

私たちの口は、単に食事や会話のための器官ではありません。それは体全体の健康、特に皮膚の状態を映し出す鏡であり、しばしば肌トラブルの隠れた発生源となります。口腔内の環境がどのようにして遠く離れた皮膚に影響を及ぼすのか、そのメカニズムは主に「口腔マイクロバイオームの不均衡」と「歯周病による慢性炎症」という二つの大きな要因に集約されます。

口腔マイクロバイオーム:バランス、ディスバイオシス、そして皮膚への影響

私たちの口の中には、数百万もの微生物からなる複雑な生態系、すなわち口腔マイクロバイオオームが存在します1。健康な状態では、これらの微生物は共生関係を保ち、口腔の健康を維持しています。しかし、このバランスが崩れる「ディスバイオシス」が起こると、特定の病原性細菌が過剰に増殖し、口腔内だけでなく全身に広範囲な影響を及ぼし始めます。特に歯周病に関連するポルフィロモナス・ジンジバリスやトレポネーマ・デンティコーラのような悪玉菌は、全身の炎症を引き起こすことが知られています1。研究では、この口腔内のディスバイオシスが湿疹(アトピー性皮膚炎)と関連していることも示唆されています5。これらの増殖した細菌は血流を通じて体内を巡り、皮膚の微生物バランスを直接的に乱し、ニキビなどの問題を引き起こす可能性があるのです6。口腔マイクロバイオームは、いわば体内の炎症ポテンシャルを知らせる「炭鉱のカナリア」のような役割を果たしており、その不均衡は、見過ごせない皮膚トラブルのシグナルとなり得るのです。

歯周病:全身的(および皮膚の)影響を伴う局所感染

歯肉炎や歯周炎といった歯周病は、歯茎の細菌感染によって引き起こされる慢性的な炎症性疾患です。これは単なる口の中の問題に留まりません。歯周病にかかった歯茎では、常に炎症が起きている状態となり、そこからサイトカイン(TNF-α、IL-1など)と呼ばれる炎症性物質が絶えず血流に放出されます12。この結果、体全体の「炎症レベル」が上昇し、C反応性タンパク(CRP)といった炎症マーカーの値が高まります1。この全身に広がった炎症は、もともと炎症性の性質を持つ多くの皮膚疾患(ニキビ、湿疹、乾癬など)の発症や悪化の引き金となります。事実、ある研究では、定期的な歯科検診を受けていない人ほど、皮膚の炎症反応が強いことが報告されています。さらに、歯周病は歯茎のコラーゲンを破壊しますが、これは加齢や炎症によって皮膚のコラーゲンが失われるプロセスと類似しており、口腔の健康が肌のハリや弾力にも間接的に影響を与えうることを示唆しています7

口腔ケア製品:潜在的な刺激物およびアレルギー感作物質

日々の口腔衛生に不可欠な歯磨き粉やマウスウォッシュですが、その一部の成分が、意図せずして皮膚トラブルの原因となることがあります。特に、研磨剤、発泡剤(ラウリル硫酸ナトリウムなど)、強力な香料、フッ化物などは、口の周りのデリケートな皮膚に刺激を与え、乾燥、赤み、発疹を引き起こす可能性があります。歯磨き後に口の周りに残った歯磨き粉の残留物が、接触皮膚炎の原因となるケースは少なくありません。このリスクを最小限に抑えるためには、どの製品を選ぶかだけでなく、顔のスキンケアとどのような順番で行うかが重要になります。専門家は、潜在的な刺激物を洗浄された清潔な肌に残さないために、「まず歯を磨き、その後に洗顔する」という順序を推奨しています。

2. 絡み合う全身的要因:ホルモンとストレスの二重の影響

口腔と皮膚の関係は、口の中の局所的な問題だけに起因するわけではありません。私たちの体全体をコントロールするホルモンの変動や、現代社会で避けては通れないストレスもまた、口腔と皮膚の両方に同時に影響を与え、問題をより複雑にしています。

ホルモン変動:歯周組織と皮膚の完全性への影響

思春期、妊娠中、更年期など、人生の特定のステージで起こるホルモンバランスの変化は、皮膚に影響を与えることでよく知られています。例えば、思春期のアンドロゲンは皮脂の分泌を促しニキビの原因となりますが、同時に歯肉の血流を増加させ、歯肉炎を悪化させやすくします。また、妊娠中のエストロゲンやプロゲステロンの増加は「妊娠性歯肉炎」を引き起こし、歯周病への感受性を高めることが知られています2。更年期にエストロゲンが減少すると、皮膚が乾燥し薄くなるだけでなく、歯肉の免疫力が低下し、歯周病のリスクが高まります。このように、ホルモンは皮膚と口腔の防御機能の両方を同時に脆弱にすることがあります。その結果、ホルモンの影響で悪化した口腔内の炎症が、さらに全身の炎症負荷を高め、既にホルモンの影響で敏感になっている皮膚に追い打ちをかけるという「負の相乗効果」を生み出してしまうのです。

ストレス軸:口腔免疫の低下と皮膚疾患の悪化

慢性的な心理的ストレスは、免疫系、ホルモンバランス、そして自律神経系に深刻な影響を及ぼす「万病のもと」です。ストレスを感じると、体はコルチゾールというホルモンを分泌します。これは短期的には有益ですが、慢性的に分泌が続くと免疫力を低下させ、歯肉炎や歯周病を悪化させる原因となります。さらに、ストレスは唾液の分泌を減少させます。唾液には自浄作用や抗菌作用があるため、その量が減ると口の中で細菌が増殖しやすくなります。同時に、ストレスによるホルモンバランスの乱れは皮脂の過剰分泌や皮膚のターンオーバーの乱れを引き起こします。このように、ストレスは口腔と皮膚の問題を同時に増悪させる強力な因子です。ストレスで口腔衛生状態が悪化すると、そこから生じる全身性の炎症が、さらに体と皮膚にとっての生理学的ストレスとなり、精神的なストレスを増大させるという悪循環に陥る可能性があります。

3. 科学的エビデンス:特定の皮膚疾患との関連性

口腔の健康と皮膚疾患の関連性は、もはや単なる推測ではありません。ニキビや掌蹠膿疱症(PPP)をはじめ、様々な皮膚疾患と口腔の問題を結びつける科学的エビデンスが次々と報告されています。

尋常性痤瘡(ニキビ):口腔細菌との隠れた関連

多くの人を悩ませるニキビ、特に成人になってからできる、従来の治療に抵抗性のあるニキビは、口腔内の問題が背景にあるかもしれません。一つの可能性として、口腔内細菌の関与が挙げられます。例えば、ニキビの原因菌として知られるキューティバクテリウム・アクネス(旧名プロピオニバクテリウム・アクネス)は、口腔内の環境が悪化すると過剰に増殖し、これが皮膚の炎症に関与する可能性が指摘されています6。より直接的な関連として、「外歯瘻(がいしろう)」と呼ばれる状態があります。これは、重度の虫歯や歯の根の先にできた膿の袋(根尖病巣)が、骨を溶かして皮膚表面にトンネルを作り、排膿することで生じます1112。外見上は、顎のラインやあごの同じ場所に繰り返しできる治りにくいニキビやおできのように見えるため、しばしば皮膚科治療だけでは改善しません。歯の痛みなどの自覚症状がない場合もあり、原因不明の頑固なニキビに悩んでいる場合は、歯科でのレントゲン検査が根本原因の特定に繋がることがあります。

掌蹠膿疱症(PPP):歯性病巣感染の決定的役割

掌蹠膿疱症(PPP)は、手のひらや足の裏に無菌性の膿疱が繰り返しできる、難治性の慢性炎症性皮膚疾患です。このPPPの病因として、近年最も重要視されているのが「病巣感染」という概念であり、特に歯周病や根尖病巣といった「歯性病巣感染」が強力な誘因または悪化因子であることが、多くの研究で強く示唆されています4。病巣感染とは、体の一部にできた慢性の感染巣(例:歯周膿瘍)から、細菌そのものやその毒素、あるいは異常な免疫反応が全身に広がり、遠く離れた臓器(この場合は皮膚)に二次的な疾患を引き起こす現象です3。PPPの場合、歯の感染巣で活性化した免疫細胞(T細胞やB細胞)がサイトカインを放出し、皮膚を標的とする抗体を産生することで、特徴的な皮膚症状を引き起こすと考えられています4。実際、金属アレルギー治療などに反応しなかったPPP患者が、原因となっている歯の治療(抜歯や歯周治療)を行ったところ、皮膚症状が劇的に改善したという症例報告が数多く存在します315。PPPと診断された、あるいはその疑いがある場合、皮膚科での治療と並行して、徹底的な歯科検査を受けることが極めて重要です。

新たな関連性:アトピー性皮膚炎、乾癬、その他の疾患

口腔と皮膚の関連性は、ニキビやPPPに留まりません。ある大規模なシステマティックレビューでは、様々な炎症性・自己免疫性皮膚疾患と口腔の健康状態との間に関連があることが示されています19

  • アトピー性皮膚炎(湿疹): 歯肉炎、歯痛、口腔感染症との関連が報告されています。従来の治療に抵抗性の一部の症例が、歯の根の感染症を治療した後に改善したケースもあります1
  • 乾癬: 口腔内のレンサ球菌の負荷と強い関連があり、扁桃摘出術で症状が改善することがあります。これは口腔・咽頭が細菌の巣となっていることを示唆します。また、乾癬患者は歯周炎を発症するリスクが高く、歯周炎の治療が乾癬の症状を軽減することも報告されています1
  • 扁平苔癬: 特に口腔内に症状が出る場合、歯周炎の有病率と強い相関があります。口腔衛生状態の改善が、症状の緩和につながることが示されています1
  • アフタ性口内炎: 口腔衛生不良や特定の口腔細菌と相関していることがわかっています1

これらの疾患に共通するのは、口腔が慢性的な炎症や特定の細菌の「貯蔵庫」として機能し、全身の免疫システムを乱すことで、皮膚症状を引き起こしたり悪化させたりする可能性があるという点です。これは、多くの慢性皮膚疾患の管理において、口腔ケアが価値ある補助療法となりうることを意味しています。

表1:口腔の健康因子と関連する皮膚疾患の概要
口腔の健康因子/問題 関連する皮膚疾患 主要な提案メカニズム 主要な裏付け資料/エビデンス
歯周病 ニキビ、掌蹠膿疱症、アトピー性皮膚炎、扁平苔癬、天疱瘡、類天疱瘡、乾癬、アフタ性口内炎 サイトカイン/CRPを介した全身性炎症、細菌の移行/産生物、変化した免疫応答/交差反応性 日本の記事12
口腔細菌ディスバイオシス ニキビ、アトピー性皮膚炎、アフタ性口内炎 全身性炎症、細菌の移行/産生物、皮膚マイクロバイオームの変化 日本の記事156
特定の細菌(P. gingivalis, C. acnes, 口腔レンサ球菌) ニキビ(C. acnes)、乾癬(レンサ球菌)、扁平苔癬(P. gingivalisなど) 細菌産生物による直接的な影響、免疫応答の誘発、交差反応性 日本の記事1614
歯の膿瘍/病巣感染 ニキビ(外歯瘻)、掌蹠膿疱症 瘻孔からの直接的な排膿、全身性炎症、免疫応答の変化 3411
口腔衛生不良 アフタ性口内炎、扁平苔癬の悪化 プラーク蓄積の増加、細菌負荷の増加 1
歯磨き粉の刺激物 口囲皮膚炎 直接的な皮膚刺激 日本の記事

4. プロアクティブ戦略:皮膚の活力を高めるための口腔衛生

口腔と皮膚の密接な関係を理解すれば、日々の口腔ケアが単に虫歯や歯周病を防ぐだけでなく、美肌を目指す上での重要な戦略であることがわかります。ここでは、皮膚の健康を積極的に高めるための具体的な口腔衛生とライフスタイルの推奨事項を提案します。

基本的な口腔ケア:ブラッシング、歯間清掃、舌ケア

最も重要かつ基本的なステップは、機械的なプラーク(歯垢)除去です。プラークは細菌の塊であり、炎症の根本原因です。これを徹底的に取り除くことが、口腔と皮膚の健康を守る第一歩となります。

  • ブラッシング: 1日2回以上、特に就寝前は必須です。1回あたり2分以上かけて、歯と歯茎の境目を丁寧に磨きましょう。
  • 歯間清掃: 歯ブラシだけでは届かない歯と歯の間は、プラークが最も蓄積しやすい場所です。デンタルフロスや歯間ブラシを毎日使用し、歯周病の温床となる汚れを確実に除去しましょう。
  • 舌ケア: 舌の表面も細菌の重要な貯蔵庫です。舌ブラシや柔らかい歯ブラシで、奥から手前に優しく清掃することで、口臭予防と口腔内全体の細菌負荷の軽減に繋がります17

ライフスタイル統合:食事、水分補給、ストレス管理の相乗効果

口腔ケアと合わせてライフスタイルを見直すことで、口腔と皮膚の健康に相乗効果をもたらします。

  • 食事: 糖分や酸性度の高い食品・飲料は、虫歯や歯周病のリスクを高めるだけでなく、全身の炎症を促進し、皮膚にも悪影響を及ぼします。これらを制限し、ビタミン、ミネラル、食物繊維を豊富に含むバランスの取れた食事を心がけましょう。
  • 水分補給: 十分な水分摂取は、抗菌作用や自浄作用を持つ唾液の分泌を促します。唾液は口腔内の天然の防御システムであり、その機能を維持することは細菌の増殖を抑制するために不可欠です19
  • ストレス管理: 十分な睡眠を確保し、リラクゼーション技法を取り入れるなどして、慢性的なストレスを管理しましょう。これは、免疫機能やホルモンバランスを正常に保ち、口腔と皮膚の双方のリスクを軽減します。

熱心な口腔ケアを実践した患者さんの中には、皮膚の状態が目に見えて改善する方がいます。これは、口腔内の炎症源を取り除くことが、全身の健康、ひいては皮膚の健康に直接的につながることを示す臨床現場での証拠です。

– グエン・トゥオン・ハン医師の臨床経験に基づく

5. 専門家との連携:不可欠な学際的アプローチ

セルフケアは非常に重要ですが、問題が複雑である場合や、セルフケアだけでは改善しない場合には、専門家の指導が不可欠となります。特に、口腔由来の因子が疑われる皮膚疾患の管理には、皮膚科医と歯科医の連携が成功の鍵を握ります。日本の令和4年の調査によると、成人の約半数(47.9%)が4mm以上の歯周ポケットを有しており、多くの人々が専門家の介入を必要とする活動性の歯周病を抱えていることが示唆されています20。これは、自覚症状がなくとも、皮膚に影響を与えうる潜在的な炎症源を抱えている人が少なくないことを意味します。効果的な管理のためには、以下のような学際的アプローチが理想的です。

  • 皮膚科医の役割: 持続する皮膚疾患、特に顎周りのニキビや掌蹠膿疱症の患者に対し、口腔が原因である可能性を考慮し、歯科受診を勧める。
  • 歯科医の役割: 口腔疾患の全身への影響(皮膚を含む)を認識し、患者の皮膚症状について問診する。レントゲン検査などで隠れた病巣感染を特定し、徹底的な歯周治療を行う。
  • 患者の役割: 皮膚科医には口腔の健康状態(歯茎の出血、歯の痛みなど)を伝え、歯科医には悩んでいる皮膚症状を伝える。両方の専門家からの情報を繋ぎ合わせ、自身の治療に積極的に参加する。

すべての医療提供者が日常的な臨床評価に口腔の健康評価を統合することの重要性を提唱する専門家もいます23。皮膚科医と歯科医の間のコミュニケーションと紹介経路を改善することは、最適な患者の転帰にとって不可欠です1

健康に関する注意事項

  • 歯茎からの出血、持続的な口臭、歯の痛みは、単なる口腔の問題ではなく、全身の健康に影響を及ぼす可能性のある炎症のサインです。決して無視せず、早めに歯科専門医に相談してください。
  • この記事で紹介した情報は、専門的な医学的アドバイスに代わるものではありません。皮膚や口腔に持続的な症状がある場合は、必ず皮膚科医または歯科医の診断と治療を受けてください。
  • 新しい口腔ケア製品を使用して皮膚に刺激を感じた場合は、直ちに使用を中止し、専門家に相談してください。

よくある質問 (FAQ)

本当に歯を治療すると、ニキビや肌荒れは良くなるのですか?

はい、その可能性は十分にあります。特に、特定の場所に繰り返しできる治りにくいニキビの場合、その原因が歯の根の先にできた膿の袋(根尖病巣)である「外歯瘻」の可能性があります1112。この場合、原因となっている歯を治療しない限り、皮膚科の治療だけでは完治は困難です。また、より広範な肌荒れやニキビも、歯周病による全身の慢性的な炎症が原因で悪化していることがあります26。歯周病を治療し、口腔内の炎症を抑えることで、全身の炎症レベルが下がり、結果として肌質が改善することは多くの臨床例で報告されています。

「病巣感染」とは具体的にどのようなものですか?

病巣感染とは、体のどこかにある限局した慢性の感染巣(これを「原病巣」と呼びます)が原因で、そこから離れた別の臓器に二次的な疾患が引き起こされる病態のことです3。歯科領域では、慢性的な歯周炎、歯の根の先の膿瘍(根尖病巣)、智歯周囲炎などが主な原病巣となります。これらの感染巣から細菌そのものや、細菌が出す毒素、あるいは感染に対する体の異常な免疫反応が血流に乗って全身を巡り、皮膚(掌蹠膿疱症など)、関節(リウマチ)、腎臓(IgA腎症)などに病気を引き起こすと考えられています4。自覚症状がほとんどないことも多く、原因不明の体調不良や皮膚疾患の背景に隠れていることがあります。

歯科検診はどのくらいの頻度で受けるべきですか?

症状がない場合でも、少なくとも年に1回は定期的な歯科検診を受けることが推奨されます。しかし、皮膚の健康との関連性を考慮すると、よりプロアクティブなアプローチとして、年に2回の検診が理想的です。日本の調査では、自覚がなくとも多くの成人が歯周病を抱えていることがわかっています20。定期検診は、初期の虫歯や歯周病を早期に発見・治療し、病巣感染のリスクを未然に防ぐだけでなく、専門的なクリーニングによって自分では取り除けないバイオフィルム(細菌の膜)を除去し、口腔内の炎症を低レベルに保つために極めて重要です。

ストレスで歯茎が腫れたり、肌が荒れたりするのはなぜですか?

ストレスは、自律神経系、内分泌系(ホルモン)、免疫系のバランスを乱すことで、口腔と皮膚の両方に直接的な影響を与えます。ストレスを感じると分泌されるコルチゾールというホルモンは、長期的には免疫力を低下させ、歯周病菌などに対する抵抗力を弱めます。また、唾液の分泌を抑制し、口の中の自浄作用を低下させます。これらが歯茎の腫れや歯周病の悪化につながります。同時に、ストレスによるホルモンバランスの乱れは、皮脂の過剰分泌や皮膚のバリア機能の低下を引き起こし、肌荒れやニキビを誘発します。つまり、ストレスは口腔と皮膚の防御システムを同時に攻撃する強力な悪化因子なのです。

口腔ケアで特に気をつけるべき生活習慣は何ですか?

日々の歯磨きに加えて、食生活が非常に重要です。特に、糖分を多く含む間食や清涼飲料水は、口腔内を酸性に傾け、虫歯や歯周病菌が繁殖しやすい環境を作ります。これらの摂取を控えることが、口腔と皮膚の炎症を抑える上で効果的です2。また、喫煙は歯周病の最も強力な危険因子の一つであり、血流を悪化させて歯茎の治癒を妨げ、PPPなどの皮膚疾患のリスクも高めることが知られています4。禁煙は、口腔と皮膚の健康のためにできる最も重要な生活習慣の改善の一つです。さらに、十分な水分補給を心がけ、唾液の分泌を促すことも大切です19

結論

これまでの科学的エビデンスは、口腔の健康と皮膚の状態との間に、深く、双方向の関連性、すなわち「口腔-皮膚軸」が存在することを明確に支持しています。口を単に独立した器官としてではなく、全身の健康、ひいては皮膚の健康の不可欠な一部として認識するパラダイムシフトが必要です。歯茎の出血や持続的な口臭は、皮膚に影響を及ぼしうる全身性炎症の警告サインかもしれません。逆に、治りにくい皮膚の問題は、口の中に隠れた原因があることを示唆している可能性もあります。

したがって、真の美肌とウェルネスを達成するための戦略は、顔の表面的なケアだけに留まるべきではありません。熱心な日々の口腔衛生、バランスの取れたライフスタイルの選択、そして皮膚科医と歯科医による専門的なケアを組み合わせたホリスティックなアプローチこそが、最良の結果をもたらします。口腔の健康に配慮することは、将来の歯を守るだけでなく、より健康的で輝く肌への重要な投資でもあるのです。この知識であなた自身を力づけ、日々のセルフケアを向上させ、医療提供者とより情報に基づいた対話を行うことで、口腔と皮膚、双方の健康を達成することができるでしょう。

免責事項この記事は医学的アドバイスに代わるものではなく、症状がある場合は専門家にご相談ください。

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