歯のホワイトニング用マウスピース:使用前に知っておきたい重要ポイント!
口腔の健康

歯のホワイトニング用マウスピース:使用前に知っておきたい重要ポイント!

「白く輝く歯」は、多くの人が憧れる健康的で美しい笑顔の象徴です。その憧れを背景に、日本国内では多種多様なホワイトニング製品が市場に溢れています1。中でも、自宅で手軽に始められる「マウスピース(トレー)」を使ったホワイトニングは、非常に人気のある方法の一つです。しかし、「どのマウスピースを選んでも同じだろうか?」「自分でやっても本当に安全なのだろうか?」といった疑問や不安を感じる方も少なくないでしょう。この記事では、歯科専門家の知見と科学的根拠に基づき、ホワイトニングの基本原理から、歯科医院で作成するマウスピースと市販品との決定的な違い、そして安全かつ効果的に進めるための具体的な実践ガイドまで、皆様が知っておくべき全ての重要ポイントを包括的に解説します。

この記事の科学的根拠

この記事は、提供された研究報告書に明示的に引用されている、最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下に、本稿で提示される医学的指導に直接関連する主要な情報源をリストアップします。

  • 厚生労働省(MHLW)および薬機法: 日本国内におけるホワイトニング製品の法的分類(医療機器、医薬部外品、化粧品)、許容される成分濃度(過酸化水素6%以下など)、そして広告表現の規制(「ブラッシングによる」という表記の義務付けなど)に関する記述は、日本の薬機法および関連する厚生労働省のガイドラインに基づいています23
  • 日本歯科審美学会(JAED): 歯科医師の監督下で行うホームホワイトニングの具体的な手順、薬剤の適正使用量(米粒大など)、禁忌症例、副作用への対処法に関する専門的な指針は、日本歯科審美学会が定めるガイドラインを主要な根拠としています4
  • コクラン・レビューおよびPubMed掲載の系統的レビュー: 自宅でのホワイトニングと歯科医院でのオフィスホワイトニングの効果比較、結果の持続期間(約1~2.5年)、そして知覚過敏や歯肉刺激といった一般的な副作用に関する科学的エビデンスは、コクラン共同計画やPubMedに掲載されている質の高い系統的レビューやメタアナリシスに基づいています56
  • 米国歯科医師会(ADA): ホワイトニングの作用機序、人工の歯(被せ物や詰め物)には効果がないといった基本的な事実や、治療前の歯科検診の重要性に関する情報は、米国歯科医師会のような国際的な権威機関の見解と一致しています7

要点まとめ

  • 日本の市販ホワイトニング製品の多くは、歯の表面の着色汚れを落とす「クリーニング」が目的であり、歯自体の色を白くする「ブリーチング(漂白)」とは異なります。
  • 歯を内側から白くする「ブリーチング」には過酸化物が必要で、日本では有効な濃度の製品は歯科医院でのみ取り扱われる「医療機器」に分類されます。
  • 歯科医院で作製するカスタムマウスピースは、歯列に完璧にフィットするため、薬剤を均一に作用させ、歯茎への刺激を最小限に抑える安全性と効果の要です。
  • 市販の安価なマウスピースはフィット感が悪く、薬剤の漏洩による歯茎の炎症や、色ムラの原因となる危険性が高いため推奨されません。
  • ホワイトニングは、虫歯や歯周病がない健康な口腔状態で行うことが絶対条件です。開始前には必ず歯科医師による診断を受けてください。

第1部:なぜ歯は黄ばむの?ホワイトニングの2つの意味

「ホワイトニング」という言葉を正しく理解することが、適切な製品選びの第一歩です。実は、市場で使われる「ホワイトニング」には、作用機序が全く異なる2つの意味合いが存在します。

1.1. 歯の着色の原因

歯の色が変わる原因は、大きく分けて二つあります。

  • 外因性の着色: コーヒー、紅茶、赤ワイン、カレー、タバコのヤニなど、色の濃い飲食物や嗜好品に含まれる色素が歯の表面に付着するものです8
  • 内因性の変色: 加齢により歯の表面のエナメル質が薄くなり、その下にある黄色味を帯びた象牙質の色が透けて見えるようになることや、歯の神経の損傷、特定の薬剤(テトラサイクリン系抗生物質など)の影響で、歯自体の色が内側から変わるものです8

1.2. 意味①:表面の汚れを落とす「クリーニング」

日本で市販されているホワイトニング歯磨き粉やジェルの多くが指す「歯を白くする」効果は、この「クリーニング」にあたります9。これらは、研磨剤や化学成分によって歯の表面に付着した外因性の着色(ステイン)を物理的に除去するものです。日本の薬機法(旧薬事法)の規制により、広告では「ブラッシングによる効果」と明記することが求められることが多く、これは歯自体の色を漂白しているわけではないことを示唆しています3。この方法は、歯本来の色以上に白くすることはできません。

1.3. 意味②:歯そのものの色を明るくする「ブリーチング(漂白)」

こちらが、一般的に期待される「本当の意味でのホワイトニング」です。過酸化水素や過酸化尿素といった薬剤を使い、エナメル質を透過して象牙質内部の色素を分解し、歯自体の色を内側から明るく(白く)します10。日本では、有効な濃度の過酸化物を含む製品は「医療機器」として厳しく規制されており、歯科医師の診断と指導のもとでのみ使用が許可されています2。歯科医院で処方される「ホームホワイトニング」は、このブリーチングに該当します。

第2部:ホワイトニング用マウスピースの種類:歯科医院メイド vs. 市販品

ホームホワイトニングの成否を左右する最も重要な要素が、使用するマウスピース(トレー)です。歯科医院で作製するものと市販品には、価格以上の決定的な違いがあります。

2.1. 歯科医院で作製する「カスタムトレー」

歯科医院では、患者さん一人ひとりの歯型を精密に採取し、その人だけのオーダーメイドのマウスピースを作製します11。これにより、歯列に完璧にフィットし、薬剤を歯の表面に均一に保持することができます。この精密なフィット感こそが、薬剤の漏洩を防ぎ、歯茎への刺激を最小限に抑え、安全かつ効果的なホワイトニングを実現するための鍵となります11

2.2. ドラッグストアなどで買える「市販品」

市販のマウスピースの多くは、お湯で温めて柔らかくし、自分で歯に押し当てて形を作る「セルフフォーミング」タイプです1。手軽で安価な反面、専門家が作製するもののような精密なフィット感は得られません。歯とマウスピースの間に隙間ができやすく、薬剤が唾液と混じって効果が薄まったり、歯茎に漏れ出して炎症を起こしたりする危険性があります。また、薬剤が均一に行き渡らないため、白さにムラ(色ムラ)が生じる原因にもなります11

表1:歯科医院カスタムトレーと市販マウスピースの比較
特徴 歯科医院カスタムトレー 市販マウスピース
フィット感 歯列に完璧に適合 隙間ができやすい
効果 薬剤が均一に行き渡り、色ムラが少ない 色ムラのリスクが高い
安全性 薬剤の漏洩が少なく、歯茎への刺激を最小化 薬剤が漏れやすく、歯茎の炎症リスクが高い
費用 高い(保険適用外で15,000円~)11 安い(1,000円~)11
専門家の監督 あり(歯科医師による診断・指導) なし(自己責任)

注: 費用はあくまで目安です。医療機関によって異なります。

この比較から明らかなように、市販品は初期費用が低いものの、安全性と効果の面で大きな懸念があります。一方、歯科医院のカスタムトレーは、初期投資は高いですが、それは安全性と予測可能な結果を得るための投資と考えるべきです。

第3部:始める前に必ず確認!ホワイトニングができない人・注意が必要な人

ホワイトニングは誰にでも適しているわけではありません。安全を最優先するため、開始前には必ず歯科医師による口腔内のチェックが必要です。

3.1. ホワイトニングが適さないケース

  • 治療していない虫歯や歯周病がある方: 薬剤が刺激となり、激しい痛みを引き起こす可能性があります6
  • 妊娠中・授乳中の方: 安全性が確立されていないため、一般的に推奨されません11
  • 無カタラーゼ症の方: 薬剤を分解できず、体内に有害な影響を及ぼす可能性がある稀な疾患です11
  • 薬剤の成分にアレルギーがある方

3.2. 効果が出にくい・期待できないケース

  • 人工の歯: 被せ物(クラウン)、詰め物(インレー)、ラミネートベニアなどの人工材料の色は、ホワイトニングで変えることはできません11
  • 重度のテトラサイクリン歯: 幼少期に特定の抗生物質を服用したことによる重度の変色は、改善が難しい場合があります11
  • 既に十分に白い歯: ホワイトニングには限界があり、元々白い歯はそれ以上白くなりにくいです7
表2:ホームホワイトニング開始前の安全チェックリスト
チェック項目 はい いいえ 備考
現在、治療していない虫歯がある 「はい」の場合、ホワイトニング前に治療が必要です。
歯周病と診断されている、または歯茎からよく出血する 「はい」の場合、ホワイトニング前に治療が必要です。
歯に被せ物や詰め物が多くある 人工物と天然歯の色に差が出る可能性があります。
妊娠中または授乳中である 「はい」の場合、この期間中のホワイトニングは避けるべきです。
知覚過敏の症状がひどい ホワイトニングにより症状が悪化する可能性があります。
直近1年以内に歯科検診を受けていない 「はい」の場合、ホワイトニング開始前に検診を受けましょう。

第4部:歯科医が教える!正しいホームホワイトニングの実践ガイド

歯科医院で処方されたホームホワイトニングを安全かつ効果的に行うための、専門家が推奨する手順を解説します。

  1. 準備: ホワイトニングを行う前には、必ず歯磨きをして口腔内を清潔な状態にします11
  2. ジェルの塗布: 歯科医師の指示に従い、適量のジェルをマウスピースに注入します。日本歯科審美学会の指針では、米粒1つ分程度の極めて少量を、歯の表側に当たる部分に置くことが推奨されています12。過剰な塗布は効果を高めるどころか、歯茎への刺激の原因となり危険です。
  3. マウスピースの装着: マウスピースを歯にしっかりと装着します。この時、歯茎に溢れ出たジェルは、必ずティッシュや綿棒で丁寧に拭き取ってください。これが歯茎の炎症を防ぐための最も重要なステップです11
  4. 装着時間と期間: 歯科医師の指示された時間を厳守してください。一般的な目安は、1日1~2時間を2週間程度です13。歯科医師から特別な指示がない限り、装着したまま就寝することは絶対に避けてください12
  5. 使用後のケア: マウスピースを外し、口をよくすすぎ、優しく歯を磨きます。マウスピースは冷水と歯ブラシで洗浄し、熱湯は変形の原因となるため使用しないでください。清潔な状態で専用ケースに保管します11

第5部:ホワイトニング中の注意点とよくある質問

ホワイトニング期間を快適に過ごし、最良の結果を得るための追加情報です。

5.1. 食事制限:これだけは避けて!

ホワイトニング期間中および終了後24~48時間は、歯の表面が外部の色素を吸収しやすい状態になっています。この期間は「再着色」を防ぐため、色の濃い飲食物は避けるようにしましょう。

  • 避けるべき飲食物の例: コーヒー、紅茶、緑茶、赤ワイン、カレー、醤油、チョコレート、ベリー類など6
  • その他: 炭酸飲料や柑橘類などの酸性の強い飲食物は知覚過敏を助長する可能性があるため、控えめにしましょう4。喫煙も再着色の大きな原因です4

5.2. 副作用とその対処法

  • 知覚過敏(歯がしみる): 最も一般的な副作用で、通常は一時的なものです。症状が出た場合は、1~2日ホワイトニングを中断するか、歯科医師に相談してください。知覚過敏抑制効果のある歯磨き粉の使用を勧められることがあります6
  • 歯茎の痛み・炎症: 主にジェルの漏洩が原因です。ジェルの量が多すぎないか、はみ出たジェルをしっかり拭き取っているかを確認してください。痛みが続く場合は使用を中止し、歯科医師に相談しましょう11
表3:ホワイトニング期間中の「すべきこと・すべきでないこと」
項目 ✓ すべきこと (Do) ✗ してはいけないこと (Don’t)
ジェルの量 歯科医の指示通り、米粒大を守る 効果を期待して過剰に塗布する
装着 はみ出たジェルは必ず拭き取る ジェルが歯茎についたまま放置する
食事 白いもの中心の食事を心がける コーヒーやカレーなど色の濃いものを摂取する
トレーの洗浄 使用後は必ず「冷水」で洗う 変形の原因となる「熱湯」で洗う
異常時 痛みがあれば一旦中止し、歯科医に相談 痛みを我慢して継続する

よくある質問

ホワイトニングの効果はどのくらい持続しますか?

効果の持続期間には個人差がありますが、一般的には約1年から2.5年程度とされています6。ただし、これは食生活や喫煙などの生活習慣に大きく左右されます。色が後戻りしてきた場合は、歯科医師の指導のもとで、追加のホワイトニング(タッチアップ)を行うことで白さを維持することができます。

歯科医院でジェルだけ購入し、市販のマウスピースで使えますか?

この方法は強く推奨されません。前述の通り、ホームホワイトニングの安全性と効果は、歯列に完璧にフィットするカスタムマウスピースの使用が前提となっています。市販のマウスピースでは薬剤が漏れ出し、歯茎を傷つけたり、効果にムラが出たりする危険性が非常に高いです。安全のため、必ず歯科医院で作製した専用のマウスピースを使用してください。

結論:美しい笑顔のために、最も大切なのは「安全性」

歯のホワイトニングは、正しく行えば、自信に満ちた笑顔をもたらす素晴らしい手段です。しかし、その根底には「医療行為」であるという認識が不可欠です。この記事で明らかになったように、本当の意味で効果的かつ安全なホワイトニングは、歯科医院での専門的な診断から始まります。

特に重要なのは、使用するマウスピースの選択です。歯科医院で作製するカスタムマウスピースは、単なる「高価な選択肢」ではなく、予測可能な結果と安全性を確保するための必要不可欠な投資です。安価な市販品は、一見魅力的に見えますが、歯茎へのダメージや期待外れの結果といった、目に見えない代償を伴う可能性があります。

歯科医師は、あなたの美しい笑顔への道のりを阻む障害ではなく、最も信頼できるパートナーです。自己判断による安易な選択を避け、専門家の指導のもとで、健康を最優先した賢明な選択をしてください。健康な笑顔こそが、最も美しい笑顔なのです。

免責事項本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスを構成するものではありません。健康に関する懸念がある場合、またはご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

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