母乳の質を高めるハーブティーは本当に効果があるのか?【医師監修】科学的根拠に基づく徹底解説と安全な選び方
小児科

母乳の質を高めるハーブティーは本当に効果があるのか?【医師監修】科学的根拠に基づく徹底解説と安全な選び方

「母乳、足りているかな…」「もっと赤ちゃんのために良い母乳を出したい」。出産後、多くの日本の母親が抱えるこの切実な悩み。インターネットや友人同士の会話で、「母乳促進ハーブティー」や「授乳中におすすめのお茶」という言葉を目にする機会は少なくありません1。実際に、ある調査では授乳中の母親の76%が母乳不足を感じていたと報告されており、この不安がいかに普遍的であるかがわかります1。こうした中、古くからの伝統に基づいたハーブティーは、心強い味方のように感じられるかもしれません2。しかし、その人気と裏腹に、「本当に効果があるのか?」「赤ちゃんに影響はないのか?」という疑問は尽きません。科学的な研究では、多くのハーブティーの有効性や安全性に関する質の高いデータはまだ限定的であると指摘されています1。この記事では、JAPANESEHEALTH.ORG編集部として、E-E-A-T(経験、専門性、権威性、信頼性)の原則を厳守し、科学的根拠(エビデンス)と日本の公的機関や専門家の見解に基づき、母乳促進ハーブティーの効果と安全性を徹底的に分析します。母親たちが情報に惑わされることなく、安心して自身と赤ちゃんにとって最善の選択をするための、信頼できる情報を提供することを目指します。

本記事の監修医師
奥 起久子 医師
東京北医療センター 小児科 / 川口市立医療センター NICU科 医師
資格:国際認定ラクテーション・コンサルタント(IBCLC)29


この記事の科学的根拠

本記事は、論文、学術研究、および日本の主要な公的保健機関から得られた最高品質の医学的エビデンスに厳密に基づいています。提示される医学的指針は、以下に示す情報源に直接由来するものです。

  • 厚生労働省(MHLW)および医薬基盤・健康・栄養研究所(NIBN):日本におけるハーブや健康食品の安全性に関する公式見解は、これらの機関の情報に基づいています26
  • 日本産科婦人科学会(JSOG)および日本助産師会(JMA):日本の臨床現場における母乳育児支援の標準的なアプローチは、これらの学会が発行する診療ガイドラインに基づいています27
  • 査読付き科学ジャーナル:個々のハーブの有効性と安全性に関するデータは、PubMed Central(PMC)などで公開されている査読付きの臨床研究やレビュー論文に基づいています13

この記事の要点まとめ

  • 母乳の量を増やす最も自然で強力な方法は、赤ちゃんに頻繁に吸ってもらうことです。これが母乳分泌の基本原則です。
  • 多くの「母乳促進ハーブティー」について、その有効性を裏付ける質の高い科学的根拠は、現時点では限定的です。
  • 日本の厚生労働省などの公的機関は、多くのハーブについて授乳中の安全性が確認できていないとして、慎重な姿勢を示しています。
  • ハーブティーは母乳不足の主たる解決策ではなく、ノンカフェインの水分補給やリラックスタイムのための補助的なツールと捉えることが賢明です。
  • 新しいハーブやサプリメントを試す前には、必ず医師や国際認定ラクテーション・コンサルタント(IBCLC)などの専門家に相談することが不可欠です。

第1部 母乳育児とハーブの科学的基礎

第1章 母乳が作られる仕組み:体の自然なシステムを理解する

ハーブティーの効果を考える前に、まず母乳がどのように作られるのか、その基本的な体のメカニズムを理解することが不可欠です。母乳育児は、母親の体が持つ素晴らしい自然な機能であり、その主役は2つのホルモンです。

  • プロラクチン (Prolactin):このホルモンは「母乳製造ホルモン」とも呼ばれ、乳腺で母乳を作る働きを担います3。プロラクチンの分泌は、出産後に胎盤が排出されることで始まり、赤ちゃんが乳首を吸う刺激(吸啜刺激)によってさらに促進されます4
  • オキシトシン (Oxytocin):このホルモンは「母乳射出ホルモン」または「愛情ホルモン」として知られ、作られた母乳を乳首から押し出す役割を果たします2。オキシトシンもまた、赤ちゃんの吸啜刺激によって分泌されますが、それだけでなく、赤ちゃんのことを考えたり、泣き声を聞いたりするだけでも分泌が促されることがあります5

このメカニズムの核心は、「需要と供給の原則」です。赤ちゃんが母乳を飲めば飲むほど、その刺激が脳に伝わり、プロラクチンとオキシトシンが分泌され、次の母乳が作られます。研究では、24時間に8回以上の頻回授乳が、プロラクチン濃度を維持するために重要であると示唆されています5。つまり、母乳の量を増やすための最も強力で自然な方法は、赤ちゃん自身に頻繁に吸ってもらうことなのです。東洋医学的な視点では、胃腸の働きや血液の循環を整えることが、質の良い母乳の分泌につながると考えられています6。これは、母体の健康状態が母乳育児の基盤であるという現代の理解とも一致しており、バランスの取れた食事や十分な休息がいかに重要であるかを示しています。

第2章 ガラクトゴーグ(母乳分泌促進物質)とは何か?

「母乳促進ハーブティー」の文脈でよく登場するのが、「ガラクトゴーグ(Galactagogue)」という言葉です。日本語では「催乳薬」や「母乳分泌促進物質」と訳され、母乳の生成を誘発、維持、または増加させるために使用される物質全般を指します3。ガラクトゴーグは、主に以下の種類に分けられます。

  • 医薬品ガラクトゴーグ:メトクロプラミドやドンペリドンといった処方薬がこれにあたります。これらは特定の臨床状況下で使用されますが、口の渇き、胃腸障害、不整脈など、顕著な副作用を伴う可能性があります3
  • ハーブ性ガラクトゴーグ:フェヌグリークやフェンネルなど、植物由来の成分やその調合品です。この記事の主なテーマとなります3
  • 食品ガラクトゴーグ:特定の食品も母乳の分泌を助けると考えられています1

これらのハーブ性ガラクトゴーグが作用するメカニズムは、多くの場合、母乳製造ホルモンであるプロラクチンのレベルを高めることによるものと推測されています1。一部のハーブには、女性ホルモンであるエストロゲンに似た構造を持つ「フィトエストロゲン」が含まれており、これが作用している可能性も指摘されています。しかし、これらの作用機序の多くはまだ完全には解明されておらず、科学的な検証が進行中であるのが現状です1

第3章 科学的根拠(エビデンス)の現状:冷静な視点

ハーブティーの有効性を評価する上で、私たちは「伝統的な使用実績」と「科学的根拠」を区別する必要があります。多くのハーブは、何世代にもわたって経験的に使用されてきましたが、その効果を裏付ける質の高い科学的研究は、残念ながらまだ十分ではありません3。現在の研究には、以下のような限界点が指摘されています。

  • 根拠の質:多くが「経験的な伝統」や「逸話的な報告」に基づいており、厳密な科学的試験ではない3
  • 研究のばらつき:研究デザインが体系的でなかったり、品質が検証不可能であったりと、研究の質が不均一である3
  • 作用機序の不明確さ:なぜ効果があるのか(あるいは、ないのか)というメカニズムが解明されていない3

一方で、ハーブティーの利用が母親に与える心理的な影響は無視できません。ある質的研究では、ハーブ性ガラクトゴーグの使用が、母親の「自信と自己効力感」の向上と関連していることが示されました7。母乳育児に不安を抱える母親が、「赤ちゃんのために何か良いことをしている」と感じること自体が、ストレスを軽減し、リラックスにつながる可能性があります。この「安心感」は非常に重要です。ストレスはオキシトシンの分泌を妨げることが知られているため、リラックスすることは母乳の出をスムーズにする上で助けになります。また、温かいハーブティーを飲むという行為自体が、母乳生産に不可欠な水分補給となり、ほっと一息つく時間(セルフケア)にもなります2。したがって、ハーブティーの「効果」は、ハーブそのものの薬理作用だけでなく、①水分補給、②リラクゼーション効果、③母親の自信向上という心理的効果、これら3つの要素が複雑に絡み合って生まれるものかもしれません。この点を理解することが、ハーブティーと賢く付き合うための第一歩です。

第2部 主要な母乳促進ハーブの徹底分析

日本で販売されている母乳促進ハーブティーに含まれる代表的なハーブについて、有効性と安全性に関する科学的知見を個別に詳しく見ていきましょう。

第4章 フェヌグリーク(Fenugreek / コロハ)

フェヌグリークは、世界で最も広く使われている母乳促進ハーブの一つです。

  • 有効性:伝統的に母乳の量を増やすために利用されてきました9。多くの逸話的報告や調査でその有効性が示唆されており7、一部の研究では女性の母乳生産量を著しく増加させたと報告されています。しかし、科学文献全体としてはまだ「非常に限定的」であり、より厳格な評価が必要とされています1
  • 安全性と副作用(最重要項目)
    • 日本の公的機関の見解:厚生労働省のeJIMや国立健康・栄養研究所(NIBN)は、「授乳中に食物に含まれる量よりも大量に摂取した場合の安全性については、ほとんどわかっていません」と明確に述べています9。これは極めて重要な情報です。
    • 妊娠中の使用:先天異常のリスクとの関連性が指摘されており、妊娠中の使用は安全ではありません9
    • 副作用:下痢、吐き気などの消化器症状、メープルシロップのような体臭が報告されています7。血糖値を下げる可能性があるため、糖尿病の母親は注意が必要です10。また、アレルギー反応や、まれに肝毒性の報告もあります9

結論:フェヌグリークは、効果の可能性が示唆される一方で、明確な副作用と公的機関からの注意喚起が存在するハーブです。自己判断での使用は避け、必ず医師や専門家に相談の上で慎重に利用を検討すべきです。

第5章 フェンネル(Fennel / ウイキョウ)

フェンネルは、日本の多くの市販ハーブティー(例:AMOMA、MARIEN)に配合されている非常に人気の高いハーブです11

  • 有効性:伝統的に母乳分泌を促進するとされ13、使用者調査でも頻繁に名前が挙がります12。アネトールなどのエストロゲン様成分が作用すると考えられていますが13、ヒトでの有効性を証明する質の高い科学的根拠は限られています。
  • 安全性と副作用
    • 科学的懸念:一部の科学レビューでは、フェンネルの主成分であるアネトールが、高濃度で神経系への毒性や、流産誘発作用を示す可能性が指摘されています25
    • 注意喚起:ある情報源は、「授乳中のフェンネル摂取には危険性が指摘されています」と述べ、ホルモン感受性の疾患を持つ人は摂取を控えるべきだとしています14
  • 分析:ここには、「市販製品での広範な利用」と「科学文献における安全性の懸念」という大きな矛盾が存在します。消費者は人気ブランドに配合されていることから安全だと考えがちですが、専門的な情報源は注意を促しています。JAPANESEHEALTH.ORGとしては、この情報の非対称性を埋めることが責務です。

結論:フェンネルは広く利用されていますが、潜在的なリスクに関する懸念も存在します。お茶として通常の量を飲む分には大きな問題はないと考えられますが、高濃度の抽出物やオイルの使用は避け、不安な場合は専門家に相談することが賢明です。

第6章 タンポポ(Dandelion / たんぽぽ)

日本では「たんぽぽコーヒー」として親しまれ、産後の飲み物として人気があります15

  • 有効性:母乳分泌を促進すると言われることがありますが、「その効果を示すじゅうぶんな医学的根拠はまだありません」16。主な利点は、ノンカフェインであること、そして鉄分など産後の回復に役立つ栄養素を含む点にあります15
  • 安全性と副作用
    • 日本の公的機関の見解:厚生労働省は、食品に含まれる量であればおそらく安全としつつも、「授乳中の多量摂取に対する安全性については充分なデータがないので、使用を避ける」としています17
    • アレルギー:キク科植物にアレルギーのある人は、アレルギー反応を起こす可能性があります17

結論:タンポポ茶は、実績のある母乳促進剤としてではなく、産後の栄養補給とリラックスタイムに適したノンカフェイン飲料として捉えるのが最も適切です。公的機関の助言通り、過剰な摂取は避けましょう。

第7章 その他の主要なハーブ

  • ルイボスティー(Rooibos Tea):ノンカフェインでミネラルが豊富なため、妊産婦向けの健康茶として広く販売されています15。しかし、母乳分泌促進効果(ガラクトゴーグ作用)はありません。国立健康・栄養研究所は、「妊娠中や授乳中の摂取に関する安全性データは見当たらない」としており、その有効性も認められていません18。通常の水分補給として適量を楽しむ分には問題ないと考えられます。
  • カモミール(Chamomile):リラックス効果を期待してブレンドティーによく配合されます2。母乳促進効果はありません。厚生労働省は、「授乳中のカモミール摂取の安全性についてはほとんどわかっていません」と述べています19
  • ラズベリーリーフ(Raspberry Leaf):「安産のお茶」として有名で、産後の回復をサポートするとも言われます20。しかし、情報源は「完全な科学的根拠はありません」と指摘しており21、授乳中の安全性も確立されていません。
  • ネトル(Nettle):栄養価が高いとされ、人気のブレンドティーにも含まれています2。しかし、提供された情報の中には、日本の公的機関による授乳中の安全性や有効性に関する具体的なデータは見当たりませんでした22。情報が不足していること自体が、注意すべき点です。
  • モリンガ(Moringa):近年注目されているハーブです。あるランダム化比較試験では、統計的に有意な差はなかったものの、モリンガを摂取したグループはプラセボ群より47%多く母乳を生産したと報告されています8。ヒトでの研究で副作用は報告されていませんが8、さらなる大規模な研究が待たれます。

第8章 主要ハーブの有効性・安全性サマリー

以下の表は、これまで議論してきたハーブに関する情報をまとめたものです。特に「日本の公的機関の見解」を重視し、製品選びの参考にしてください。

表1:主要な母乳促進ハーブの有効性・安全性サマリー
ハーブ名 (和名/英名) 主な伝承・主張 科学的有効性の概要 日本の公的機関による安全性見解 (MHLW/NIBN) 主な副作用・注意点
フェヌグリーク 母乳量を増やす 一部の研究で有効性を示唆するが、全体的なエビデンスは限定的1 大量摂取の安全性は不明9 消化器症状、血糖値低下、アレルギー。妊娠中は禁忌9
フェンネル 母乳分泌を促進 ヒトでの質の高いエビデンスは限定的。動物研究で示唆あり。 明確な見解なし。しかし一部で成分(アネトール)の毒性への懸念が指摘されている25 ホルモン感受性疾患のある人は注意。高濃度での摂取は避ける14
タンポポ 母乳分泌を促進 有効性を示す十分な医学的根拠はない16。ノンカフェイン飲料として有用。 大量摂取の安全性データが不十分なため使用を避ける17 キク科アレルギーの人は注意17
ルイボスティー 妊産婦向けの健康茶 母乳促進効果はない。有効性は認められていない18 安全性データは見当たらない18 通常の飲用は安全とされるが、過剰摂取の安全性は不明。
カモミール リラックス効果 母乳促進効果はない。 安全性についてはほとんどわかっていない19 キク科アレルギーの人は注意。
ラズベリーリーフ 産後の回復をサポート 完全な科学的根拠はない21 授乳中の安全性に関する公的データは不足。 妊娠初期・中期は使用に注意が必要とされる。
ネトル 栄養補給 母乳促進に関する特異的なデータは不足。 授乳中の安全性に関する公的データは不足22 情報不足。
モリンガ 母乳量を増やす 有効性を示唆する予備的な研究あり。さらなる検証が必要8 公的データは不足。 ヒト研究での副作用報告はなし8

第3部 日本における規制と臨床現場の視点

第9章 日本の公的機関の公式な見解

日本で健康に関する情報を判断する際、最も信頼すべき情報源は厚生労働省(MHLW)と、その傘下の研究機関である国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所(NIBN)です。これらの機関は、「健康食品」の安全性に関する情報を提供し、国民の健康被害を防ぐことを目的としています26。彼らの基本的なスタンスは、特定の製品の有効性を評価・保証するものではなく、あくまで安全性に関する情報を提供するという点にあります22。これは非常に重要で、市販の製品が「安全」であることと「効果がある」ことは同義ではないことを意味します。これまでの分析で見てきたように、多くのハーブに対して、これらの公的機関は「授乳中の安全性に関する十分なデータがない」という慎重な見解を示しています。これは、「危険だ」と断定しているわけではありませんが、「安全だと確認できていない」ということを意味します。母親と、そして母乳を介して影響を受ける可能性のある赤ちゃんにとって、この「未確認」という事実は、選択をする上で最も重視すべき点の一つです。

第10章 日本の医療専門家からのガイダンス

では、産科や助産院の臨床現場では、ハーブティーはどのように考えられているのでしょうか。公益社団法人 日本産科婦人科学会(JSOG)や公益社団法人 日本助産師会(JMA)が発行する診療ガイドラインは、日本の周産期医療の基準となるものです27。これらのガイドラインを精査すると、母乳育児支援の基本として挙げられているのは、以下の項目です27

  • 出産後早期からの頻回授乳
  • 正しい抱き方と吸わせ方(ラッチオン)の指導
  • 母親の十分な栄養と水分補給
  • 乳腺炎などのトラブルへの適切な対処

注目すべきは、これらのエビデンスに基づいた公式ガイドラインにおいて、母乳分泌を増やすための主要な介入方法として、ハーブティーが推奨されていないという事実です27。日本助産師会が発行した『乳腺炎ケアガイドライン2020』では、民間療法(例:キャベツの葉の湿布)に対して、安全性への懸念から第一選択としないよう提案しているほどです27。これは、日本の医療専門家が、ハーブティーを母乳不足に対する第一選択の解決策とは見なしていないことを強く示唆しています。彼らが優先するのは、まず母乳分泌の生理学的なメカニズムに基づいた基本的なケアであり、それでも解決しない場合には、個々の状況に応じた専門的な介入です。この「専門家の実践と、世間の流行とのギャップ」を理解することは、賢明な判断を下すために不可欠です。

第11章 日本で信頼できる専門家と相談先を見つける

母乳育児に関する悩みは、一人で抱え込む必要は全くありません。日本には、科学的根拠に基づいたサポートを提供してくれる専門家がいます。

  • 国際認定ラクテーション・コンサルタント(IBCLC):IBCLCは、母乳育児支援に関する高度な知識と技術を持つ専門家として国際的に認められた資格です28。科学的根拠に基づいたケアを提供してくれます。お住まいの地域のIBCLCは、日本ラクテーション・コンサルタント協会(JALC)のウェブサイトから検索できます29
  • 助産師:地域の助産院や、出産した産科施設の母乳外来は、最も身近な相談先です。日本助産師会のウェブサイトからも地域の助産所を探すことができます20。日本では、桶谷式のように独自の手技で知られる母乳育児支援も広く行われています30
  • 小児科医・産科医:赤ちゃんの体重増加や健康状態、母親自身の体調に不安がある場合は、かかりつけの医師に相談することが第一です。

近年では、森田麻里子医師(もりたま先生)のように、科学的根拠に基づいた分かりやすい情報発信を行う専門家も増えています31。信頼できる情報源を見極め、積極的に専門家の助けを借りましょう。

第4部 アクションプラン:責任ある「おすすめランキング」と選択の指針

第12章 E-E-A-Tに準拠した情報活用のための指針

本記事は、専門家の監修のもと作成されています。読者の皆様が健康に関する情報を評価する際にも、以下の点を意識することをお勧めします。

  • 監修者の確認:その情報は、資格を持つ専門家(医師、助産師、IBCLC、管理栄養士など)によって書かれているか、または監修されていますか?32
  • 情報源の明記:主張の根拠となる科学論文や公的機関の報告書が明記されていますか?
  • 断定的な表現の回避:「絶対に効く」「100%安全」といった断定的な表現ではなく、「~の可能性がある」「~と報告されている」といった慎重な言葉遣いがされていますか?
  • 医療相談の推奨:最終的に、専門家への相談を促していますか?

これらの視点は、信頼できる健康情報を見分けるための重要な指標となります。

第13章 責任ある視点からの「母乳促進ティー」おすすめガイド

多くのサイトが単純な人気順で「ランキング」を掲載していますが、JAPANESEHEALTH.ORGは、安全性と目的を最優先する観点から、そのような形式は無責任だと考えます。代わりに、目的別のカテゴリーガイドを提案します。これは「どれが一番か」ではなく、「どのような目的で、どの程度の注意を払って選ぶべきか」を示すためのものです。

表2:日本の母親のための目的別・責任ある授乳期ハーブティーガイド
カテゴリー 目的と位置づけ 代表的なハーブ・製品 キーメッセージと注意点
A:水分補給とリラックス目的 母乳促進効果を主目的とせず、授乳期の水分補給やリラックスタイムのためのノンカフェイン飲料として。 ・ルイボスティー
・たんぽぽコーヒー (適量)
・麦茶
「まず基本の水分補給として、安心して楽しめるお茶です。」
これらのお茶に直接的な母乳増量効果は証明されていません。過剰摂取は避け、あくまで嗜好品として楽しみましょう16
B:伝統的な利用・専門家への相談を前提に 伝統的に使用されてきたが、科学的根拠や安全性のデータが不十分。試す場合は、必ず事前に専門家へ相談。 ・フェンネル、ネトル、カモミール、ラズベリーリーフなどを含むブレンドティー
・例:AMOMA ミルクアップブレンド23, MARIEN 授乳・母乳育児ブレンド24
・モリンガ
「伝統的な利用実績はありますが、有効性・安全性は未確定です。自己判断で始めず、必ず医師やIBCLCに相談してください。」
特にフェンネルやカモミールは、公的機関が安全性に言及していない、またはデータ不足としている点を認識することが重要です14
C:作用の可能性と副作用・専門家の指導が不可欠 作用の可能性が示唆される一方、明確な副作用や公的機関からの注意喚起がある。専門家の厳格な指導下でのみ使用を検討。 ・フェヌグリーク 「作用が強い可能性がある一方で、リスクも伴います。健康状態の評価が不可欠なため、専門家の指導なしでの使用は絶対に避けてください。」
厚生労働省の見解を最優先し、安易な使用は厳に慎むべきです9
D:授乳中は避けるべきハーブ 母乳分泌を抑制する、または安全上の重大な懸念がある。 ・セージ(母乳分泌を抑制することが知られている13
・その他、安全性が確立されていないハーブ全般
「母乳育児に悪影響を与える可能性や、安全上の懸念があります。授乳中は避けましょう。」

第14章 心構えとコミュニケーションの推奨

母乳育児の旅路において、ハーブティーはあくまで脇役です。主役は、母親と赤ちゃんの絆、そして体の自然なメカニズムです。情報を探す際は、「~かもしれない」「~と言われている」といった言葉のニュアンスを読み取り、断定的な効果を謳う製品には注意してください。そして最も重要なことは、呼びかけ(Call-to-Action)です。この記事が最も強く伝えたいメッセージは、「このお茶を買いましょう」ではありません。それは、「もし母乳の量に不安を感じたら、まず最初に行うべき最も大切なことは、助産師、IBCLC、またはかかりつけの医師に相談することです」という一点に尽きます。

よくある質問

母乳の量を増やすために、まず何をすべきですか?
科学的根拠に基づいた最も効果的な方法は、赤ちゃんの需要に応じて授乳回数を増やす「頻回授乳」です。赤ちゃんが乳首を吸う刺激が、母乳を作るホルモン(プロラクチン)と母乳を出すホルモン(オキシトシン)の分泌を促します5。1日に8回以上を目安に、赤ちゃんが欲しがるタイミングで授乳することが、母乳量を維持・増加させるための最も自然で強力な鍵となります。また、母親自身が十分な水分と栄養を摂り、できるだけリラックスすることも非常に重要です。
市販の母乳促進ハーブティーは安全ですか?
一概に「安全」とは言えません。日本の厚生労働省や国立健康・栄養研究所は、フェヌグリークやタンポポなど多くのハーブについて、「授乳中の安全性に関する十分なデータがない」として、注意を促しています917。人気商品に含まれているからといって、安全性が保証されているわけではありません。特にアレルギー体質の方や、何らかの持病がある方は、使用前に必ずかかりつけの医師や薬剤師、IBCLCに相談してください。
ハーブティー以外で、授乳中に安心して飲めるものはありますか?
はい、あります。授乳中は水分補給が非常に大切です。カフェインを含まない飲み物として、ルイボスティー麦茶たんぽぽコーヒー(たんぽぽ茶)などがおすすめです15。これらは母乳量を直接増やす効果は証明されていませんが、授乳中の母親が安心して水分を補給し、リラックスするのに役立ちます。ただし、どんな飲み物もバランスが大切ですので、過剰な摂取は避けましょう。

結論

本記事では、母乳促進ハーブティーに関する科学的根拠、日本の公的機関や専門家の見解を多角的に分析しました。結論として、以下の点を強調します。

  • 母乳分泌の主役は、あなたの体と赤ちゃんです。 頻回授乳という自然なプロセスが、何よりも強力な母乳促進の鍵となります。
  • ハーブティーの母乳増量効果に関する科学的根拠は、現時点では限定的です。 多くの製品の安全性は、日本の公的機関によって確認されていません。
  • ハーブティーは、主要な解決策ではなく、水分補給やリラックスのための補助的なツールとして捉えましょう。 その心理的な効果や、セルフケアとしての価値は認められます。
  • 安全第一。 新しいサプリメントやハーブティーを試す前には、必ず医療専門家に相談してください。特に、フェヌグリークのように明確な注意喚起があるハーブには慎重であるべきです。

母乳育児の悩みは、決して一人で抱えるものではありません。日本には信頼できる専門家によるサポート体制が整っています。正しい情報と専門家の支援を力に変え、自信を持って、あなたと赤ちゃんにとって最も心地よい授乳期を過ごされることを心から願っています。

免責事項
この記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医療アドバイスを構成するものではありません。健康上の懸念がある場合、または健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

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  24. マリエン薬局. 【送料無料定期便】授乳・母乳育児ブレンド. Available from: https://shop.marien.co.jp/products/nursing-tea-subscription
  25. Sim TF, Hattingh HL, Sherriff J, Tee LB. Exploring galactagogue use among breastfeeding women: Insights from an observational study. PLOS ONE. 2024;19(6): e0310867. doi: 10.1371/journal.pone.0310867. Available from: https://journals.plos.org/plosone/article/file?id=10.1371/journal.pone.0310867&type=printable
  26. 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所. 「 健康食品 」の安全性・有効性情報. Available from: https://hfnet.nibn.go.jp/
  27. 日本助産師会. 乳腺炎ケアガイドライン2020刊行に寄せて. 2020. Available from: https://www.midwife.or.jp/user/media/midwife/page/guilde-line/tab01/nyusenen_guideline_2020_2.pdf
  28. 助産院ひだまりははこ. 母乳外来. Available from: https://hidamarihahaco.jp/
  29. 日本ラクテーション・コンサルタント協会(JALC). IBCLC詳細情報-関東. Available from: https://jalc-net.jp/ibclc_kensaku/ibclc_search_area3s.html
  30. 桶谷式母乳育児推進協会. クローズアップ!相談室. Available from: https://oppa.oketani.or.jp/introduction
  31. コクリコ(講談社). 「母乳・ミルク・混合」結局どれがいいの? 東大医学部卒のママ医師が徹底解説. Available from: https://cocreco.kodansha.co.jp/cocreco/general/birth/2chrd
  32. たまひよ. 【専門家監修】母乳外来って「何する?」「おすすめは?」「いくらかかる?」その全容を解説!. Available from: https://st.benesse.ne.jp/ikuji/content/?id=33477
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