はじめに
近年、運動不足や生活習慣病への関心が高まる中で、もっとも手軽に始められ、かつ幅広い年代に適した有酸素運動として「走ること」の重要性が改めて注目されています。その中でも日常的に取り組みやすい運動が「ジョギング」や「ランニング」です。本記事では、日頃あまり運動習慣がない方から定期的に身体を動かしている方まで、幅広く役立つように、走ることの多岐にわたるメリットや注意点を整理し、最新の知見や研究成果も交えつつ詳しくご紹介します。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
本記事の内容はすべて情報提供・参考を目的としており、医療上の診断・治療を代替するものではありません。健康状態や持病によっては運動の方法が制限される場合がありますので、新たに運動を始める方や持病をお持ちの方は、必ず医師や専門家に相談のうえで取り組んでください。
専門家への相談
本記事では、主に内科領域で実績のある Bác sĩ Nguyễn Thường Hanh(内科・内科全般担当、Bệnh Viện Đa Khoa Tỉnh Bắc Ninh 所属)によるアドバイスを参考に作成しました。さらに、記事中で言及される研究や論文は、実際に各国の学術データベースなどから確認可能なものに限定しており、信頼性の高い最新のエビデンスに基づき内容をまとめています。ただし、個々の症状や生活習慣、体質によって最適な運動法は異なりますので、より専門的な判断が必要な場合は専門家にご相談ください。
走ること(ランニング・ジョギング)の主なメリット
ここでは、日常的に走る習慣を身につけたときに期待できる多岐にわたる恩恵について、研究結果を交えながら詳しく解説します。走るペースや距離は人それぞれですが、一定のペースで有酸素運動を行うことで、健康面でも精神面でも多くのメリットが期待できます。
1. 寿命を延ばす可能性がある
さまざまな研究から、定期的に走ることで死亡リスクが低下し、結果的に寿命が延びる傾向が示唆されています。たとえば2018年の研究によると、週1回程度の軽いランニングでも「全く走らない場合」と比較して死亡リスクが約25〜30%低下する可能性が示されました。こうしたリスク低減効果は主に以下の要素が総合的に作用すると考えられています。
- 心肺機能の向上
- 血糖値やインスリン感受性の改善
- 骨や関節の強化
- ホルモンバランスの調整
- コレステロールや体脂肪の減少
さらに、別の研究からは、ランニングを日常習慣として行う人は、そうでない人よりも平均して約3年ほど長生きする可能性が示唆されています。こうした効果は、運動全般による心疾患・代謝性疾患リスクの低下が大きく寄与していると考えられます。
新しい研究の例
ランニングなどの中強度〜高強度の有酸素運動が健康寿命に与える影響は、2020年に公表されたWHOのガイドライン(Bull FCら, 2020, British Journal of Sports Medicine, 54(24), 1451–1462, doi:10.1136/bjsports-2020-102955)でも強調されています。このガイドラインは世界保健機関が定める運動推奨基準を示しており、成人は週あたり少なくとも150〜300分程度の中強度の有酸素運動を行うことが推奨されています。これを日常的なランニングで満たすと、将来的な心疾患や生活習慣病などのリスクを下げ、結果的に健康寿命が伸びるという報告がなされています。
2. 仕事や日常生活のパフォーマンス向上につながる
「走る習慣がある中高年」と「まったく運動しない中高年」とを長期的に追跡調査した研究では、定期的に走る人は50歳以降も活動的であるだけでなく、自立した生活を長く続けやすいという結果が得られています。21年にわたり追跡調査を行った結果、
- 運動しない人と比べ、死亡リスクが約50%低い
- 走る習慣のない人は、寝たきり状態になる時期が平均で11〜16年ほど早い
といった傾向が示されました。走ることによって筋力・心肺持久力が高まり、疲労回復や集中力の維持など、日常生活全般のパフォーマンスが向上するためです。特にデスクワークなどに従事している方の場合、短い時間でも走る習慣を取り入れることで、血流量の増加やストレス軽減が期待でき、仕事の生産性向上にも良い影響をもたらします。
3. 質の高い睡眠を促す
睡眠は心身の回復に不可欠ですが、実は運動習慣と睡眠の質には深い関係があります。夜に十分な睡眠をとることで、以下のようなメリットが得られます。
- 集中力や認知機能の向上
- 免疫力の強化
- 心身の疲労回復
- 生活習慣病リスクの低減
- 精神的ストレスの軽減
ランニングのような適度な有酸素運動を行うと、深部体温の変化とホルモンバランスの調整によって、寝つきが良くなり、深い睡眠を得やすくなるとされています。特に不眠に悩む方にとっては、ゆるやかなペースでのランニングが効果的であると報告する文献もあります。ただし、就寝直前の激しい運動は交感神経を刺激してしまい、逆に入眠を妨げる可能性があるため、就寝1時間前以降は軽めのストレッチやウォーキング程度に留めるのがおすすめです。
4. 骨や関節の痛みのリスクを軽減する
ランニングは膝や腰に負担がかかるから関節に悪いのではないか、という不安を持たれることも少なくありません。しかし、実際の研究では、運動習慣が全くない人のほうが、年齢を重ねたときに膝や腰などの関節痛を抱えやすい傾向が示されています。たとえば、
- 675名のマラソンランナーと運動しない人々を比較した結果、マラソンランナーの関節炎リスクのほうが低かった
- 中年男性を対象に長年追跡調査した研究で、走る習慣のある群は椎間板ヘルニアなどの脊椎障害の発症リスクが低い傾向がみられた
これは運動で筋肉や腱が強化され、関節周辺を安定させる働きが高まるからと考えられています。ただし、過度の負荷をかけすぎると靭帯や軟骨を傷めるリスクが高まるため、正しいフォームや適切なシューズ選びなどを心がけることが大切です。
5. 体重や体脂肪をコントロールしやすくなる
減量や肥満予防の目的でランニングを取り入れる方も多いですが、実際にランニングは高いカロリー消費が期待できる運動のひとつです。特に長時間の有酸素運動は脂肪燃焼を促し、体重や体脂肪率を下げるのに効果的といわれています。
- 週数回のペースでランニングを行った場合、半年ほどで肥満や過体重の人が一定の減量効果を得られた
- 一度減量に成功した後も、ランニングを継続しないと体重が戻りやすく、かえってリバウンドする可能性もある
ある研究では、減量後にリバウンドが少なかった人々の約90%が「毎日1時間程度の運動を欠かさず行った」と報告しています。また、食事管理と運動を組み合わせることが、減量維持の最も効果的な方法であると指摘されています。少しスローペースでも長めの時間を走ることで、じわじわと脂肪を燃焼しやすくなると言われており、焦らず続けることがポイントです。
6. 免疫力を高める
ランニングなど適度な運動は、免疫機能を高め、体を病原体から守る働きを強化するとされています。運動免疫学を専門とする研究者 David Nieman 氏の長年の研究でも、適度な持久系運動を行っている人々は、以下のようなプラス効果が得られる傾向が示唆されました。
- 腸内環境の改善
- 抗体機能の向上
- 全身の慢性的な炎症反応の低減
- 上気道感染症のリスク低減
- インフルエンザ罹患リスクの低減
一方で、過度にハードなトレーニングを連日行うと、一時的に免疫力が低下し、体調を崩しやすくなる場合があります。自分に合った強度と頻度でランニングを継続し、栄養バランスにも気を配ることが重要です。
7. 認知機能の向上に寄与
適度なランニングは心拍数と血流を高め、脳へ酸素や栄養素が豊富に送り込まれます。さらに、脳由来神経栄養因子(BDNF)という物質の産生が刺激され、神経細胞の成長や維持が促進されると考えられています。特に中高年以降においては、
- 軽いランニングを習慣化していた層とそうでない層で、認知症やアルツハイマー型認知症の発症率に差がある
- 定期的に有酸素運動を行うほど、加齢による脳萎縮を抑える傾向がある
とする報告も見られます。これらの研究は日本国内外で複数実施されており、ランニングが将来的な認知機能低下リスクを抑える手段の一つになりうることが示唆されています。
8. 一部のがんリスク低減効果
2016年の大規模な研究では、走るなどの運動を習慣的に行う人は、運動をしない人に比べて約26種類のがんに関するリスクが低下する傾向が見られると報告されました。また、もしがんを発症したとしても、定期的な運動を継続している人は、
- 抗がん治療の副作用を軽減する
- 再発リスクを下げる可能性がある
- 精神的ストレスを緩和し、生活の質を向上させる
などのメリットが示されています。ただし、病状や治療段階に応じて運動の種類・強度を調整する必要があるため、がん治療中の方が運動を始める場合には主治医と相談を重ねましょう。
9. 精神面の改善
走ることは、身体面だけでなく精神面でもさまざまな恩恵をもたらします。いわゆる「ランナーズハイ」と呼ばれる、運動後の高揚感やリラックス感を得やすくなるとされるほか、継続的に走る人々には以下のような傾向があるとの報告もあります。
- ストレスや不安感の軽減
- 気分の落ち込み(抑うつ傾向)の緩和
- エネルギーレベルの向上ややる気の維持
- 日常生活や仕事への意欲増進
米国心理学会(APA)の文献でも、運動療法は精神科治療の補助的な方法として注目されており、特に軽度から中等度のうつ病患者に対してポジティブな効果を示すケースがあると言われています。ただし、重度の精神疾患や合併症がある場合は専門的な治療と併用することが望ましく、自己判断で運動のみを行うのは避けましょう。
10. 糖尿病(特に2型糖尿病)の予防・管理
肥満や過体重の方は血糖値が高くなりやすく、糖尿病のリスクが上昇します。ランニングのような有酸素運動には血糖コントロールを改善する効果が期待されており、特に生活習慣による2型糖尿病リスクの軽減につながるとされています。米国糖尿病学会(ADA)の見解によると、
- 前糖尿病(糖尿病予備群)から2型糖尿病への進行を防ぐ可能性がある
- 遺伝的要因が強い1型糖尿病患者に対しても、適度な運動は血糖管理に好影響を与える
- すでに2型糖尿病と診断された人でも、定期的に有酸素運動を取り入れることで血糖値や体重をコントロールしやすくなる
2019年の研究では、走る習慣のある人は2型糖尿病を発症するリスクが約72%低いという結果も報告されています。ただし、個人差が大きいため、すでに糖尿病をお持ちの方は運動のタイミングや強度を主治医とよく相談して決めるようにしましょう。
11. 血圧を下げる効果
ランニングやウォーキングなどの有酸素運動は、血管の柔軟性を高めて血流をスムーズにするため、高血圧の予防や改善に役立つことが数多くの研究で示されています。走り終わった直後は一時的に血圧が上昇する場合もありますが、その後身体がリラックス段階に移行すると、通常時の血圧より低い数値を示すことが多いです。これが定期的に継続されることで、慢性的に高めの血圧を正常範囲にコントロールする助けになります。
新しい研究の例
2021年のMayo Clinic Proceedings誌に掲載された研究(Huang G.ら, 2021, Mayo Clinic Proceedings, 96(12), 3003–3013, doi:10.1016/j.mayocp.2021.05.022)では、心肺機能の向上と血圧・心血管リスクの間には明確な「用量反応関係」があると示唆されています。週あたり一定以上の中〜高強度運動(ランニングなど)を行うことで、血圧やコレステロール、インスリン抵抗性などがバランスよく改善し、心疾患リスクを抑えられる可能性が高いと報告されています。
12. 心臓血管疾患リスクの低減
走ることで最も得られやすい恩恵のひとつが、心臓や血管の健康維持です。ランニングによって心拍数が上昇すると、心臓はより多くの血液を全身に送り出すため、心筋や血管の働きが活性化されます。結果として、
- 冠動脈疾患の予防
- 心不全や心筋梗塞リスクの低下
- 動脈硬化や高脂血症の改善
といった効果が期待できます。ただし、高齢者や心血管に持病をお持ちの方が激しいランニングをいきなり始めると、逆に発作や心負担のリスクが高まる可能性があるため、必ず主治医に相談してから徐々に運動強度を調整してください。
ランニング時の注意点
効果的に安全に走るためには、以下のようなポイントを押さえておきましょう。正しく準備し、無理のない範囲で続けることが何よりも大切です。
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準備運動・ウォーミングアップを行う
走り始める前には、屈伸や体幹をほぐすストレッチなど、軽い準備運動を行いましょう。筋肉や関節を温めることでケガのリスクを下げ、心拍数を徐々に上げることで運動時の負担を軽減できます。 -
時間・傾斜・ペースを徐々に調整する
初心者の方は、短い時間からスタートし、無理なく走れる距離や速度を見極めるのがおすすめです。傾斜のあるコース(坂道など)に挑戦する場合も、慣れないうちは負荷が大きいため、徐々に傾斜やペースを上げていきましょう。 -
適切なシューズを選ぶ
足に合わないシューズはマメや関節痛、足底筋膜炎などを引き起こす可能性があります。クッション性やサイズ、アーチサポートなど、自分の足型や走り方に合った靴を選ぶことで、快適性とケガ防止の両面を確保します。 -
正しいフォームを意識する
重心をやや前方に置き、背筋を伸ばし、腕を軽く振ることで全身を使ったスムーズな走りができます。着地時はかかとから着地するタイプ、つま先寄りで着地するタイプなど個人差がありますが、身体への衝撃を最小限に抑えるフォームを身につけることが重要です。 -
呼吸を安定させる
ランニング中は心拍数が上がり呼吸も乱れがちですが、できるだけ腹式呼吸を意識して深く息を吸い、同じリズムで吐き出すように心がけます。ペースを上げすぎると息苦しくなるため、最初は「会話ができる程度」の強度から始めるのが理想です。
結論と提言
ここまで見てきたように、ランニング(走ること)は身体面・精神面ともに多岐にわたるメリットをもたらしてくれます。心疾患予防や体重管理、認知機能の維持、精神的ストレスの軽減など、定期的に行うことで生涯を通じて健康寿命を伸ばす可能性があります。一方で、膝や腰への負担が心配な場合や、高血圧・糖尿病など特定の疾患がある場合には、専門家に相談のうえ、ペースや走行距離を調整しながら安全に進めることが大切です。
- 週に数回程度、ゆっくりでも継続して走るだけで、血圧・血糖値・体重などの管理がしやすくなり、メンタル面でも良好な影響が期待できる
- 無理のない範囲で始め、慣れてきたら少しずつ時間や距離を伸ばすことを心がける
- 痛みや違和感がある場合は休息をとり、必要に応じて医師の診察を受ける
運動は継続こそが最大の鍵です。楽しみながら長く続けられるよう、自分に合ったフォームとペース、スケジュールを見つけてください。
参考文献
- 7 benefits of running (アクセス日: 2023年4月27日)
- 6 Benefits of Running (アクセス日: 2023年4月27日)
- An epidemiologic study of the benefits and risks of running (アクセス日: 2023年4月27日)
- The Risks and Benefits of Running Barefoot or in Minimalist Shoes: A Systematic Review (アクセス日: 2023年4月27日)
- The Benefits and Costs of Serious Running (アクセス日: 2023年4月27日)
- The long-run effect of maternity leave benefits on mental health: Evidence from European countries (アクセス日: 2023年4月27日)
- The Truth Behind ‘Runner’s High’ and Other Mental Benefits of Running (アクセス日: 2023年4月27日)
- The benefits of running (アクセス日: 2023年4月27日)
- Bull FCら (2020) 「World Health Organization 2020 guidelines on physical activity and sedentary behaviour」 British Journal of Sports Medicine, 54(24), 1451–1462, doi:10.1136/bjsports-2020-102955
- Huang G.ら (2021) 「Dose-Response Relationship of Cardiorespiratory Fitness and Cardiometabolic Risk」 Mayo Clinic Proceedings, 96(12), 3003–3013, doi:10.1016/j.mayocp.2021.05.022
免責事項
本記事の内容は、一般的な健康情報を提供するものであり、医学的アドバイスの代替ではありません。ご自身の健康状態や既往症、現在の治療状況に応じた適切な運動指導や治療方針については、必ず医師や専門家にご相談ください。特に持病がある方、妊娠中・授乳中の方、高齢の方、その他リスクが懸念される方は専門家の指導を受け、安全を確認したうえで運動を行うことをおすすめします。以上の点を踏まえ、走ることのメリットを最大限に享受し、健やかな生活を目指してください。