【科学的根拠に基づく】水虫(白癬菌症)にまつわる11の誤解と真実:皮膚科専門医が教える完全ガイド
皮膚科疾患

【科学的根拠に基づく】水虫(白癬菌症)にまつわる11の誤解と真実:皮膚科専門医が教える完全ガイド

「日本人の7人に1人が足白癬(足水虫)、13人に1人が爪白癬(爪水虫)に罹患している」—この事実をご存知でしたか?1 日本臨床皮膚科医会が実施した2023年の大規模疫学調査「Foot Check 2023」が明らかにしたこの数字は、水虫が決して稀な病気ではなく、多くの専門家が指摘するように「国民病」2 と呼ぶべき健康問題であることを示しています。しかし、日本では依然として水虫を「恥ずかしいもの」3 と捉え、公に話したり医療機関を受診したりすることをためらう文化的背景が存在します。海外の多くの国々では、これは単なる一般的な皮膚感染症であり、現代の医療で効果的に管理・治療できるものと認識されているのとは対照的です4。この認識のギャップこそが、不適切な自己判断や治療の中断を招き、症状の慢性化や家族内感染の温床となっています。本記事は、日本皮膚科学会が策定した「皮膚真菌症診断・治療ガイドライン2019」5 をはじめとする最新の科学的知見に基づき、水虫に関する11の根深い誤解を一つひとつ解き明かし、検証された真実を提供します。私たちの目標は、読者の皆様が正確な知識を身につけ、ご自身と大切なご家族の皮膚の健康を自信を持って守れるようになることです。

監修者:
加納 塁 教授(帝京大学医真菌研究センター)


この記事の科学的根拠

この記事は、入力された調査報告書で明示的に引用されている最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下のリストには、実際に参照された情報源と、提示された医学的ガイダンスとの直接的な関連性のみが含まれています。

  • 日本臨床皮膚科医会 (「Foot Check 2023」調査): 本記事における「日本人の7人に1人が足白癬、13人に1人が爪白癬に罹患している」という疫学データに関する記述は、同会が発表した調査報告書に基づいています1
  • 日本皮膚科学会 (「皮膚真菌症診断・治療ガイドライン 2019」): 本記事における治療法の選択(第一選択薬)、治療期間の目安、爪白癬の治療方針に関する記述は、同学会が発行した診療ガイドラインに基づいています5
  • 複数の医学研究論文: 白癬菌の感染メカニズム、臨床症状の多様性、環境における生存能力、および予防策に関する具体的な科学的解説は、国内外の査読付き医学雑誌に掲載された複数の研究結果を引用しています6789

要点まとめ

  • 水虫の多くはかゆみを伴いません。特に足の裏全体が硬くなる「角質増殖型」はほとんどかゆみがなく、見過ごされがちです。
  • 症状が消えても菌は皮膚の奥に潜んでいます。再発を防ぐため、症状がなくなってから最低でも1~2ヶ月は根気強く薬を塗り続ける必要があります。
  • 水虫の原因菌である白癬菌は、足だけでなく、手、爪、体、頭部など、ケラチンがある場所ならどこにでも感染する可能性があります。
  • 爪水虫は塗り薬では治癒が困難です。皮膚科のガイドラインでは内服薬(飲み薬)が第一選択とされており、「感染の貯蔵庫」となる爪を治療しない限り、足水虫の完治は望めません。
  • 診断の鍵は顕微鏡検査です。自己判断で市販薬を使う前に、一度は皮膚科を受診し、本当に水虫かどうかを正確に診断してもらうことが、遠回りのようで最も確実な治療への近道です。

まず知るべきこと:水虫(白癬菌症)の「正体」

効果的に対策を講じるためには、まず「敵」を正しく理解する必要があります。このセクションでは、水虫の原因、その生態、そして感染の仕組みについて科学的に解説します。

原因は「虫」ではなく「カビ」

日本語では「水虫(みずむし)」という名前から虫を連想しがちですが、これは誤解です2。真犯人は「白癬菌(はくせんきん)」という名の顕微鏡でしか見えないカビの一種で、専門的には皮膚糸状菌(dermatophytes)に分類されます10。重要なのは、白癬菌は健康な皮膚に普段から存在する常在菌ではなく、外部から侵入してくる病原体であるという点です11

白癬菌は、皮膚の最も外側にある角質層、そして爪や髪の毛の主成分である「ケラチン」というタンパク質を栄養源にして生きています11。これが、足だけでなく体の様々な部位に感染が広がる理由です。白癬菌が最も好む環境は「高温多湿」であり、研究によれば、気温27℃~35℃、湿度95%~100%の条件で最も活発に増殖します11。一日中履いた靴の中は、まさに白癬菌にとって理想的な温床と言えるでしょう。

感染成立までの「24時間の猶予」

感染は、接触した瞬間に成立するわけではありません。段階的なプロセスを経て起こります。

  1. 付着:感染者の皮膚から剥がれ落ちた、白癬菌を大量に含んだ鱗屑(りんせつ、皮膚の垢)が、床やバスマット、スリッパなどに付着します12。健康な人がその上を歩くことで、菌が足の裏に付着します。
  2. 侵入:ここが最も重要な段階です。菌が皮膚に付着しても、すぐに感染するわけではありません。多くの研究で、菌が角質層に侵入して感染を成立させるためには、湿った状態で約24時間が必要だと示されています11。しかし、皮膚に目に見えないほどの微小な傷(microtrauma)があると、この時間は12時間程度にまで短縮される可能性があります5

この「24時間の猶予」という事実は、極めて重要な予防策を示唆しています。つまり、菌が付着したとしても、24時間以内に足を丁寧に洗い流せば、感染のリスクを大幅に下げることができるのです。また、軽石や硬いタオルで足をゴシゴシ洗う習慣13や、突起のある健康サンダルの使用14は、良かれと思っていても皮膚のバリア機能を傷つけ、かえって菌の侵入を助けてしまう危険性があることを知っておくべきです。

【徹底解明】水虫に関する11の誤解と科学的な真実

ここからは、水虫に関して世間に流布している代表的な11の誤解を取り上げ、科学的根拠に基づいてその真偽を明らかにしていきます。

誤解1:水虫は必ず激しくかゆい

【誤解】「足がかゆいから、きっと水虫だ」2

【真実】水虫の多くは、かゆみを伴いません。かゆみは数ある症状の一つに過ぎず、特定の病型や急性期にのみ現れることがほとんどです2

【科学的解説】
足水虫(足白癬)には、主に3つの臨床型があり、それぞれ症状が異なります13

  • 趾間型(しかんがた):最も一般的なタイプ。足の指の間、特に第4指と第5指の間が白くふやけ、皮がむけたり、じくじくしたりします。このタイプはかゆみを伴うことが多いです。
  • 小水疱型(しょうすいほうがた):土踏まずや足の側面に小さな水ぶくれができます。この水ぶくれが破れると、強いかゆみが出ることがあります。
  • 角質増殖型(かくしつぞうしょくがた):これが「静かなる水虫」であり、多くの誤診の原因となります。かかとを中心に足の裏全体の皮膚が厚く、硬くなり、乾燥してひび割れます。冬場のかかとの荒れと見分けがつきにくいのが特徴で、最も重要な点は、このタイプはほとんどかゆみを伴わないことです13。多くの人がこれを単なる乾燥肌だと思い込み、保湿クリームで対処しようとしますが、実は白癬菌の温床となっているのです。

ある研究では、かゆみを主訴に「自分は水虫だ」と自己判断して来院した患者の約30%は、顕微鏡検査で菌が見つからなかったというデータもあります15。かゆみだけを頼りにした自己診断がいかに不確かであるかを示しています。

表1:足白癬の臨床型とその特徴
臨床型 主な特徴 かゆみの程度
趾間型 足指の間が白くふやけ、皮がむける、じくじくする 強いかゆみを伴うことが多い
小水疱型 土踏まずや足の側面に小さな水ぶくれができる 強いかゆみを伴うことが多い
角質増殖型 かかとや足裏全体の皮膚が厚く、硬く、乾燥し、ひび割れる ほとんどかゆみがない、または軽微

誤解2:症状が消えれば治った証拠

【誤解】「薬を数日塗ったら、かゆみも消えて見た目もきれいになったので、治療をやめた」16

【真実】見た目の症状が消えても、白癬菌は角質層の奥深くに潜んでいます。治療の早期中断は、再発を繰り返す最大の原因です16

【科学的解説】
外用薬(塗り薬)は表面の炎症を抑え、菌の活動を弱める効果が速いため、かゆみや赤みといった自覚症状は比較的早く改善します。しかし、菌の大部分はまだ角質層の内部で生き残っています16。皮膚の角質層が完全に新しいものに入れ替わる(ターンオーバー)には、少なくとも1ヶ月以上かかります13。この期間、薬を塗り続けなければ、生き残った菌が再び増殖し、再発してしまうのです。日本皮膚科学会のガイドラインでは、「症状が完全になくなってから、さらに最低1~2ヶ月は治療を継続する」ことが強く推奨されています17。特に治療が難しい角質増殖型では、最低でも6ヶ月以上の継続治療が必要とされることもあります5

誤解3:水虫は夏だけの病気

【誤解】「冬になって症状が治まったから、自然に治ったのだろう。来年の夏まで心配ない」2

【真実】冬の間、菌は消滅したわけではなく、活動を低下させて「冬眠」しているだけです。春になり、暖かく湿った環境が戻れば、必ず活動を再開します2

【科学的解説】
高温多湿の夏は白癬菌の活動が活発化し、症状が悪化するのは事実です2。逆に、空気が乾燥する冬は菌の活動が鈍るため、症状が軽快したように感じられます。しかし、これは「治癒」ではなく「寛解」です2。菌は皮膚の中で静かに生き続けています。それどころか、冬に履くブーツや厚手の靴下は、足元に局所的な高温多湿環境を作り出し、菌の温床となることさえあります18。特に角質増殖型の場合、冬の乾燥でひび割れが悪化し、痛みが増すことも少なくありません2

誤解4:水虫は足だけの病気

【誤解】「水虫という名前の通り、足にしかできない病気だ」2

【真実】白癬菌はケラチンを栄養とするため、体のどこにでも感染する可能性があります。爪(爪白癬)、手(手白癬)、股部(いんきんたむし)、体(ぜにたむし)、頭(しらくも)など、その感染部位は多岐にわたります2

【科学的解説】
感染拡大のメカニズムは非常にシンプルです。感染した足のかゆい部分を掻くと、無数の菌が指や爪に付着します。その手で体の他の部分を触ることで、菌が新たな場所に「移植」され、新しい感染巣を形成するのです13。例えば、頭部に感染する頭部白癬、特に重症型のケルスス禿瘡(Kerion celsi)は、強い炎症と膿を生じ、治療が遅れると永久的な脱毛につながることもあります2。柔道やレスリングなど、肌が直接触れ合う格闘技の選手には、体に円形の病変を作る体部白癬(Tinea corporis)が多く見られます2

誤解5:不潔な人がかかる病気

【誤解】「毎日お風呂に入って清潔にしていれば、水虫にはならない」

【真実】どんなに清潔にしていても、感染源に接触すれば誰でも感染する可能性があります。個人の清潔度よりも、環境因子が大きく関わっています19

【科学的解説】
白癬菌は、スポーツジムの更衣室、プールの足洗い場、そして日本の文化に根付いた温泉や銭湯など、不特定多数の人が裸足で利用する湿った場所に多く潜んでいます20。このような場所を利用する限り、誰にでも感染のリスクはあります。前述の通り、足を清潔にしようとゴシゴシ洗いすぎる行為が、かえって皮膚のバリアを破壊し、感染を助長することもあります13。また、加齢、男性であること、糖尿病や末梢血管障害といった基礎疾患、免疫抑制状態なども、清潔さとは無関係に感染のリスクを高める要因として科学的に証明されています721

誤解6:接触したらすぐにうつる

【誤解】「水虫の人が使ったスリッパを一度履いただけでも、すぐにうつってしまう」

【真実】感染が成立するには、一定の時間と適切な条件が必要です。菌が付着しただけなら、すぐに洗い流せば感染は防げます11

【科学的解説】
繰り返しになりますが、「24時間の猶予」が鍵です。菌は皮膚に付着した直後には感染力を持ちません。角質層に根を下ろす時間が必要です。ジムや温泉から帰宅した後、24時間以内に石鹸で丁寧に足を洗い、しっかりと乾燥させれば、感染リスクは劇的に低下します12。この知識は、感染予防において非常に強力な武器となります。菌は乾燥した環境でも鱗屑と一緒であれば1年以上生存可能ですが5、最終的に感染が成立するかどうかは、接触後の個人のケアに大きく左右されるのです。

誤解7:市販薬(OTC薬)だけで十分

【誤解】「水虫っぽいから、薬局で適当な薬を買ってくれば大丈夫」

【真実】市販薬も有効ですが、それは診断が正しい場合に限られます。自己診断の誤りは非常に多く、間違った治療は時間とお金の無駄になるだけでなく、症状を悪化させる危険性もあります22

【科学的解説】
湿疹、接触皮膚炎(かぶれ)、乾癬、汗疱など、水虫と非常によく似た症状を示す皮膚疾患は数多く存在します21。これらの鑑別は皮膚科専門医でも目視だけでは難しい場合があります。もし、実際は湿疹であるのに水虫薬(特にステロイド配合のもの)を塗ると、症状を悪化させることがあります。逆に、水虫であるのに湿疹の薬(ステロイド主体のもの)を塗ると、ステロイドが皮膚の免疫を抑制し、菌が爆発的に増殖する「Tinea incognito(見過ごされた白癬)」という状態を引き起こすことがあります16
だからこそ、皮膚科で行われる顕微鏡検査が診断の「ゴールドスタンダード(黄金標準)」とされています。皮膚の鱗屑を少量採取し、KOH溶液で処理して顕微鏡で観察するだけの、迅速(約5分)、無痛、かつ極めて正確な検査です22。まずは一度、専門医による確定診断を受けることが、治療成功への最短ルートです23

誤解8:爪水虫は足用の塗り薬で治る

【誤解】「足と爪の両方が水虫だから、同じ薬を塗っておけば治るだろう」

【真実】皮膚用の塗り薬は、硬く厚い爪の組織には全く浸透しません。爪白癬は、専門的な治療を必要とする、より手強い病気です24

【科学的解説】
爪は非常に密度の高いケラチンでできており、通常の外用薬が浸透して病巣に到達することは不可能です25。そして、爪白癬は単なる見た目の問題ではありません。感染した爪は、白癬菌を絶えず生産し、周囲の皮膚に供給し続ける「感染の貯蔵庫(リザーバー)」としての役割を果たします26。この「貯蔵庫」を放置したまま足の皮膚だけを治療しても、爪から供給される菌によってすぐに再発してしまいます。足水虫の完治を目指すなら、爪白癬の治療は不可欠です。
日本皮膚科学会のガイドラインでは、爪白癬の治療について以下のように推奨しています527

  • 内服抗真菌薬(飲み薬):第一選択(推奨度A)とされています。テルビナフィン、イトラコナゾール、そして新しい薬剤であるホスラブコナゾール(商品名:ネイリン)などが高い治療効果を示します。ただし、肝機能への影響を確認するため、定期的な血液検査が必要です5
  • 爪専用の外用薬:エフィナコナゾール(商品名:クレナフィン)やルリコナゾール(商品名:ルコナック)など、爪への浸透性を高めた特殊な外用薬もあります。軽症例や、副作用の懸念などで内服薬が使えない場合の選択肢となりますが、一般的に内服薬よりは効果が低いとされています5
表2:「皮膚真菌症診療ガイドライン」に基づく治療法早見表
病態 第一選択の治療法 JDA推奨度 治療期間の目安 主な注意点
足白癬 抗真菌外用薬(塗り薬) A27 2~6ヶ月以上5 病変部より広く塗る。症状が消えても続ける。
爪白癬 抗真菌内服薬(飲み薬) A27 3~12ヶ月以上5 定期的な血液検査が必要。爪専用外用薬は第二選択。

誤解9:アルコール消毒で菌は死ぬ

【誤解】「毎日、消毒用アルコールで足を拭けば、菌を殺せるはずだ」28

【真実】一般的な消毒薬は主に細菌を殺すために設計されており、真菌(カビ)に対しては十分な効果がありません。両者は全く異なる種類の微生物です28

【科学的解説】
細菌と真菌は細胞の構造が根本的に異なります。アルコールなどの消毒薬は細菌の細胞膜には効果的ですが、キチン質でできた頑丈な細胞壁を持つ真菌を破壊する力は弱いのです。環境中の白癬菌に対して効果的なのは、乾燥と日光(紫外線)です。例えば、靴を2~3時間天日干しにすることで、内部の菌を効果的に殺すことができます28。皮膚の治療には、真菌特有の構造や代謝プロセスを標的とするように特別に開発された「抗真菌薬」だけが有効です17

誤解10:一度治れば免疫ができる

【誤解】「一度水虫を完治させたから、もう二度とかからない」

【真実】水虫に対して、人間の体は永続的な免疫を作りません。感染源に触れれば、何度でも再感染します13

【科学的解説】
水痘(みずぼうそう)のように一度かかると生涯免疫が得られるウイルス性疾患とは異なり、白癬菌の感染では将来の感染を防ぐほどの強力な記憶免疫は誘導されません29。ここで、「再発」と「再感染」を区別することが重要です。

  • 再発(Relapse):最初の治療が不十分で、皮膚や爪に少数の菌が生き残っていた場合に起こります。薬を止めると、生き残った菌が再び増殖して症状が現れます。
  • 再感染(Re-infection):完全に治癒した後に、ジムや家族など、外部の新たな感染源から再び菌をもらってしまうことです26

この違いは、(1)完治するまでの治療の継続と、(2)感染サイクルを断ち切るための環境対策の、両方の重要性を強調しています5

誤解11:水虫は予防できない

【誤解】「菌はどこにでもいるのだから、予防するのは不可能だ」

【真実】菌の感染サイクルを正しく理解し、その鎖を断ち切るための適切な対策を講じることで、水虫は効果的に予防できます12

【科学的解説】
予防は可能です。これまで述べてきた予防戦略を実践することが鍵となります。つまり、足を清潔で乾燥した状態に保つこと、靴を適切に管理すること、そして家庭内や公共の場での感染源への接触を避けることです。そして、最も強力な予防策は、「治療こそが最大の予防法である30という考え方です。自分自身がきちんと治療を完遂することが、家族や社会を感染源から守る最も重要な行動なのです。

皮膚科専門医が教える「健康な足」を取り戻すための行動計画

誤解を解き明かした今、ここからは積極的に水虫を管理し、予防するための具体的なロードマップを提示します。

治療の三原則:成功への確実なステップ

  1. 正しい診断が全ての基本:自己判断は禁物です。最初の、そして最も重要なステップは、皮膚科を受診し、顕微鏡検査で確定診断を受けることです16
  2. 適切な治療法の選択:診断に基づき、医師が最適な治療法を選択します。足水虫には主に外用薬、爪水虫には主に内服薬が用いられるという基本を改めて確認しましょう27
  3. 根気強い治療の継続:忍耐が成功の鍵です。症状が見えている範囲より広く薬を塗り13、症状が消えても医師の指示通りに治療を続けること16。これが鉄則です。

再発させないための生活習慣チェックリスト

  • 個人ケア(清潔と乾燥):毎日、石鹸で優しく足を洗う。タオルで拭いた後、ドライヤーの冷風などで指の間まで完全に乾かす22。靴下は綿などの吸湿性の良い素材を選び、五本指ソックスも有効です18
  • 環境管理:靴は2~3足を交互に履き、完全に乾燥させる時間を作る28。バスマットやスリッパはこまめに洗濯し、家族との共用は避ける31。床は掃除機でこまめに掃除し、菌を含む鱗屑を取り除く32
  • 家族内感染の連鎖を断つ:家族に一人でも感染者がいると、他の家族への感染リスクは10倍にもなると報告されています5。家族全員で皮膚科を受診し、必要であれば同時に治療を開始することが、家庭内からの菌の根絶につながります31

よくある質問

Q1: 水虫はかゆくないこともあるのですか?

はい、その通りです。特に、かかとや足裏全体の皮膚が厚く硬くなる「角質増殖型」の水虫は、ほとんどかゆみを伴いません。そのため、単なる乾燥や加齢による肌荒れと勘違いされやすく、発見が遅れることが非常に多いです。かゆみがないからといって水虫ではないと自己判断せず、足裏の異常に気づいたら専門医に相談することが重要です13

Q2: 症状が良くなったら、薬をやめてもいいですか?

いいえ、決して自己判断で中断しないでください。見た目の症状が消えても、白癬菌は皮膚の奥深く(角質層)にまだ生きています。ここで治療をやめると、生き残った菌が再び増殖し、ほぼ確実に再発します。日本皮膚科学会のガイドラインでは、症状が消えた後も最低1~2ヶ月は薬を塗り続けることを強く推奨しています。根気強い治療が完治への唯一の道です1617

Q3: 爪水虫も、足に塗る水虫薬で治りますか?

いいえ、治りません。皮膚用の塗り薬は、硬くて厚い爪の組織には浸透しないため効果がありません24。爪水虫は、感染した爪が菌をまき散らす「貯蔵庫」となり、足水虫が何度でも再発する原因となります26。治療には、爪への浸透性が高い専用の塗り薬、あるいは効果が最も高いとされる内服薬(飲み薬)が必要です。治療法については、必ず皮膚科専門医にご相談ください5

Q4: 家族に水虫の人がいます。どうすればうつらないですか?

家庭内感染を防ぐためには、まず感染者本人がしっかりと治療を受けることが大前提です。その上で、スリッパ、バスマット、爪切りなどの共用を避けることが重要です31。また、床に落ちた菌を含む皮膚の垢(鱗屑)が感染源となるため、こまめな掃除(特に掃除機がけ)が効果的です32。そして最も確実なのは、症状がなくても家族全員で一度皮膚科を受診し、感染の有無を確認することです。

結論

水虫は、決して「恥ずかしい病気」や「個人の不潔さの表れ」ではありません。それは、特定の環境と条件下で誰もが感染しうる、ごくありふれた医学的な疾患です。この記事を通じて解き明かしてきたように、水虫を取り巻く最大の敵は、白癬菌そのものよりも、むしろ不正確な情報や根拠のない思い込みなのかもしれません。科学的根拠に基づいた正しい知識こそが、私たちを不要な不安や誤った対処法から解放し、的確な行動へと導く最も強力な武器となります。完治への道は、専門医による正確な診断から始まり、そしてゴールまで治療をやり遂げるという根気強さにかかっています。自己判断に頼らず、皮膚科専門医を信頼し、パートナーとして共に治療に取り組むこと。それが、あなた自身と、あなたの大切な家族の健康な素足を取り戻すための、最も確実で賢明な選択です。

        免責事項本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的助言に代わるものではありません。健康上の懸念がある場合、またはご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

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  9. 今回は「〜最も知られた皮膚病〜水虫についてのお話」と題して赤尾 明俊先生が話題を提供します。 – やさしい病気の話 | 一般社団法人 大曲仙北医師会 [インターネット]. 一般社団法人 大曲仙北医師会; 2011 [引用日: 2025年6月27日]. Available from: http://www.omagari-med.or.jp/hanashi/201104.html
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  26. 爪の水虫は10人に1人、30歳以降から増加しやすく家族への感染に要注意 | HelC(ヘルシー) [インターネット]. 株式会社ヘルスケア・コミッティー; [引用日: 2025年6月27日]. Available from: https://www.health.ne.jp/library/detail?slug=hcl_5000_w5000964
  27. 治療方針が明確に、「皮膚真菌症診療ガイドライン2019」 – ケアネット [インターネット]. 株式会社ケアネット; 2019 [引用日: 2025年6月27日]. Available from: https://www.carenet.com/news/general/carenet/49459
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  31. 水虫にならないためには、予防が大切~足白癬・爪白癬の予防 – 板橋区成増駅前かわい皮膚科 [インターネット]. かわい皮膚科; [引用日: 2025年6月27日]. Available from: https://kawai-hifuka.jp/doctor_blog/%E6%B0%B4%E8%99%AB%E3%81%AB%E3%81%AA%E3%82%89%E3%81%AA%E3%81%84%E3%81%9F%E3%82%81%E3%81%AB%E3%81%AF%E3%80%81%E4%BA%88%E9%98%B2%E3%81%8C%E5%A4%A7%E5%88%87%EF%BD%9E%E8%B6%B3%E7%99%BD%E7%99%AC%E3%83%BB
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