はじめに
かゆみや皮膚の赤みを伴う乾燥した皮膚が長引き、さらに関節にも痛みや腫れといった異常が出現する――もしこうした症状を抱えている場合、乾癬(かんせん)と呼ばれる皮膚の病変とともに関節リウマチ様の痛みが起こる可能性があります。実は、乾癬と関節の炎症が一緒に進行する病気として知られているのが、乾癬性関節炎(かんせんせいかんせつえん)です。これは慢性の炎症性疾患の一つであり、関節や周辺組織を侵すことで、進行すると関節の機能障害や変形につながる恐れがあります。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
乾癬そのものは皮膚のかさつきや厚み、白い鱗屑(りんせつ)を伴う赤い斑状の発疹を特徴とし、日本を含め世界中の多くの人が経験する皮膚疾患とされています。乾癬を発症している方のおよそ30%は関節炎を合併すると推定されており、特に30~50歳の方に多いと報告されています。しかも、この乾癬性関節炎が進行してしまうと、炎症が広範囲に及び、関節の破壊や変形が進んでしまう可能性があります。
本記事では、乾癬性関節炎の11の典型的な症状と、その症状を軽減する方法に加え、日常生活の工夫や研究の最新知見について詳しく解説します。関節の痛みと皮膚の症状を同時に抱えている方はもちろん、乾癬と診断されているがまだ関節には異常を感じていない方にとっても、早期発見・早期治療のための一助となれば幸いです。
専門家への相談
本記事の内容は、慢性炎症性疾患の分野を専門とする多くの研究や、医療機関が提供する公的情報源(後述の「参考文献」を参照)に基づいてまとめています。また、臨床現場で多くの患者さんを診療しているBác sĩ Nguyễn Thường Hanh(Nội khoa – Nội tổng quát, Bệnh Viện Đa Khoa Tỉnh Bắc Ninh)によるアドバイスや、近年の研究で示されている最新知見も踏まえて解説しています。
ただし、本記事で述べる情報はあくまで参考情報であり、最終的な診断や治療方針の決定には、必ず医師などの専門家の診断や助言が必要です。ご自身の症状について疑問や不安がある場合は、早めに医療機関を受診するようにしてください。
乾癬性関節炎とは
まず、乾癬性関節炎とはどのような病気なのでしょうか。乾癬という皮膚病変を抱えた方の中で、関節炎(炎症による関節の腫れや痛み)が起こる状態を指します。皮膚症状が先に現れ、のちに関節症状が加わる場合が多いですが、人によっては関節の痛みが先行し、あとから皮膚病変に気づく例もあります。乾癬は自己免疫機序によって生じると考えられ、皮膚のターンオーバーが異常に活性化することで、硬い鱗屑をともなう赤い発疹が形成されます。これと同様に、関節部分にも免疫の暴走が起こり、炎症が慢性的に続くことで、筋骨格系にダメージを与えるというわけです。
乾癬性関節炎は日本国内だけでなく、世界的にも長期的な合併症や関節破壊を生じうる疾患として注意が高まっています。近年、乾癬性関節炎の病態や治療法の研究が進み、生物学的製剤をはじめとした新しい治療の選択肢も増えてきました(Lindo A, Ogdie A (2023) “Pathophysiology and Treatment of Psoriatic Arthritis: Focus on Biologic Therapeutics,” Drugs, 83(1):21-37, doi:10.1007/s40265-022-01766-1)。こうした研究成果により、症状のコントロールや関節破壊の進行を抑える可能性が広がっている一方、早期の段階で治療を開始しないと不可逆的な変形が進んでしまうリスクがあるため、症状の把握と早期受診が非常に重要です。
11の代表的な症状
乾癬性関節炎の症状は多岐にわたります。症状は個人差が大きく、ある時期に症状が軽快しても、あるタイミングで再燃し悪化することがあります。以下では、代表的な11の症状をピックアップして解説します。どの症状も初期には見逃しがちですが、早い段階で気づくことが、関節破壊を最小限に食い止めるカギとなります。
1. 関節の痛みとこわばり
もっとも多くの患者さんが訴えるのが、関節の痛みやこわばりです。膝や足首、手指、足指、腰などに違和感や痛みがあり、朝起きた直後、動き始めに特に強く感じられる場合が多く報告されています。乾癬性関節炎の痛みやこわばりは、日によって強弱があり、調子のよい日がある一方で、突然ひどく痛むこともあります。「少し落ち着いたから大丈夫」と放置すると、炎症がひそかに進むことがあるため注意が必要です。
2. 腫れ(関節の腫脹)
炎症によって関節周辺が腫れ上がることがあります。皮膚に触れると熱感(ほてり)を感じるケースも珍しくありません。関節内で炎症が長く続くと、関節包や軟骨が損傷を受け、機能障害につながる恐れがあります。腫れが引いたとしても、徐々に内部の組織が変性していく場合があるため、早めの対策が大切です。
3. 爪のくぼみ(ピッティングネイル)
乾癬性関節炎を特徴づける所見の一つが、爪の表面に小さなくぼみ(ピッティング)が多数現れることです。爪が厚くなり、ザラザラとした質感になったり、爪の色が黄色っぽく変色したりすることもあります。特に手指や足指の関節に強い炎症がある場合、爪への変化も観察されやすいとされています。
4. 爪の剥離(オンコリシス)
爪が爪床(そうしょう)と呼ばれる指先の皮膚から剥がれてしまう状態も、乾癬性関節炎では起こり得ます。これはオンコリシス(onycholysis)と呼ばれ、爪の先端から少しずつ剥離することで、爪全体が浮き上がるように見えるのが特徴です。ピッティングネイルとオンコリシスが同時に生じるケースも報告されており、爪に異変を感じるなら早めに専門医へ相談しましょう。
5. 腰痛
炎症が脊椎や仙腸関節(腰と骨盤をつなぐ関節)に及んだ場合、腰の痛みやこわばりとしてあらわれることがあります。ときに脊椎炎へと発展するケースもあり、首や背中の動きが制限されることもあります。日常的に腰痛を抱えている方は多いですが、皮膚症状(乾癬)とあわせて腰の不調を感じる場合、乾癬性関節炎の可能性を念頭に置く必要があります。
6. 手足の指全体が腫れる(ソーセージ指)
乾癬性関節炎では、関節ごとに腫れるのではなく、指全体がまるでソーセージのように太く腫れるケースがあります。医学用語ではダクチリティス(dactylitis)と呼ばれ、手指や足指の1本全体が腫れるのが特徴です。ほかの関節炎ではあまり見られないサインの一つであり、乾癬性関節炎を疑う有力な手がかりとなります。
7. 目の炎症(ぶどう膜炎・結膜炎など)
乾癬性関節炎の方は、眼の炎症を併発する場合があります。充血、痛み、視界のぼやけ、違和感などが起こる場合には、結膜炎やぶどう膜炎を疑う必要があります。原因は免疫系の異常による眼組織への炎症が考えられますが、早期に適切な治療を行わないと視力に影響が及ぶリスクがあるため、眼の症状も見逃さないようにしましょう。
8. 足裏やかかとの痛み
足底腱膜炎やアキレス腱付着部炎として現れることがあり、かかとや足裏が強く痛む場合は要注意です。歩行時に足を地面につけると鋭い痛みが走ったり、朝起床時にとくに強い痛みを感じたりすることがあります。こうした症状は一般的な足底腱膜炎とも見分けが付きにくいため、皮膚症状の乾癬を患っている方は、関節炎症が関与していないかを必ず確認してもらいましょう。
9. 肘の痛み
足裏やかかとだけでなく、肘の付着部炎として痛みが生じることもあります。テニス肘やゴルフ肘に似た症状が出る場合もあり、手を伸ばしたり重いものを持ち上げたりする動作の際に痛みが増す場合には、乾癬性関節炎の一症状である可能性があります。特に日常生活の反復動作で違和感が続くなら要注意です。
10. 可動域の制限
痛みや腫れ、こわばりが続くことで、肩や肘、膝、股関節などの可動域が徐々に狭まり、動かしづらさが顕著になることがあります。腕をまっすぐ伸ばしたり、屈曲させたり、膝をしっかり曲げたりといった基本的な動作が困難になり、日常生活に支障をきたすケースも少なくありません。この状態を放置すると、関節周囲の筋力が低下し、さらに動かしづらくなる悪循環に陥るため、早期のリハビリテーションが望まれます。
11. 倦怠感や疲労感
慢性炎症が続くため、身体がだるい、疲れやすい、睡眠不足といった全身的な疲労感を覚える患者さんが少なくありません。仕事や家事に集中できなかったり、軽い運動でも息切れや全身の倦怠感が強くなったりすることがあります。ときには微熱が出る場合もあり、単なる「疲れ」や「体調不良」と片付けてしまうと、病気のサインを見逃してしまうことになります。
症状を軽減するためのポイント
乾癬性関節炎は現時点で完全に根治できる治療法が確立しているわけではありません。しかし、適切な治療と生活習慣の改善により、痛みや炎症を抑え、関節破壊を予防することは可能です。ここでは、日常生活で実践できる対策や専門的な治療を受ける上でのポイントをまとめます。
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医療従事者の指示を守る
病院で処方された薬(消炎鎮痛薬や免疫調整薬、場合によっては生物学的製剤など)は、定められた用法・用量を守りましょう。自己判断で中断すると、炎症が再燃するリスクが高まります。近年の研究(Mease PJ, Armstrong AW (2020) “Managing Patients with Psoriatic Disease: The Diagnosis and Pharmacologic Treatment of Psoriatic Arthritis in Patients with Psoriasis,” Dermatol Ther (Heidelb), 10(6):2215-2231, doi:10.1007/s13555-020-00458-x)では、早期に適切な薬物療法を導入するほど、関節破壊の進行を抑えられる可能性が高いと報告されています。 -
定期的に受診する
乾癬性関節炎は慢性疾患であり、症状が落ち着いている時期もあれば、再燃して悪化する時期もあります。定期的に主治医の診察を受け、血液検査や画像検査(X線、MRIなど)を通じて炎症の程度を確認することが重要です。特にコントロールが不十分な場合は、薬の変更やリハビリテーションの強化などを検討してもらう必要があります。 -
温熱療法・冷却療法を活用する
関節の痛みが強い場合は、温罨法(おんあんぽう)や冷罨法(れいあんぽう)が有効とされます。温めると血流が促進されて筋肉のこわばりがやわらぎ、冷やすと炎症による腫れや痛みが一時的に軽減されるというメリットがあります。症状に応じて使い分けましょう。 -
関節に負荷をかけすぎない工夫
重い荷物を持ち上げる、長時間にわたるデスクワーク、同じ姿勢をとり続けるといった行為は、関節に大きなストレスを与えます。家事や仕事を行う際には、こまめに休憩を入れ、身体をいたわることを意識しましょう。サポーターや杖などを活用するのも一つの方法です。 -
適度な運動習慣
負荷が軽く、関節に衝撃を与えにくい運動――たとえばウォーキング、自転車エクササイズ、水泳など――は、筋力維持と関節の可動域改善に有用です。強い痛みを感じる日は無理をせず、調子が良いときに少しずつ運動の量を増やしていきましょう。最近の研究(Orbai AM, Wampler Muskardin T (2020) “Psoriatic arthritis: current trends and future directions,” Curr Opin Rheumatol, 32(4):404-412, doi:10.1097/BOR.0000000000000728)でも、定期的な運動が痛みや炎症の軽減に寄与する可能性が示されています。 -
体重管理
体重が増えると膝や足首に大きな負荷がかかり、関節痛が悪化しやすくなります。栄養バランスのとれた食事や適度な運動を心がけ、BMIを適正範囲に保ちましょう。特に肥満傾向がある場合、5~10%程度の体重減少でも症状が改善することがあると報告されています。 -
無理のない休息と睡眠
疲労やストレスは免疫バランスを崩し、炎症を悪化させる一因となり得ます。長時間の労働や集中を避け、適度な休息を入れるとともに、良質な睡眠を確保しましょう。どうしても忙しいときは、短時間でも横になって身体を休ませたり、ストレッチを行ったりして回復を促すことが大切です。
結論と提言
乾癬性関節炎は、乾癬の皮膚症状に加えて関節に強い炎症と痛みが現れる慢性疾患です。初期症状がさほど強くない段階でも、放置すると関節破壊が進み、日常生活に支障をきたす可能性があります。爪の異変(ピッティングネイルや爪の剥離)、ソーセージ指、腰痛やかかとの痛みなど、気になる症状を見つけたら早めに受診することで、関節へのダメージを最小限に抑えられます。
治療方針としては、まずは薬物療法(DMARDs、生物学的製剤など)による炎症コントロールを中心に行い、必要に応じてリハビリテーションや物理療法も組み合わせます。適度な運動や体重管理、関節への負荷軽減、規則正しい生活習慣が症状緩和に重要であることは、近年の研究でも示唆されています。
特に以下のポイントを意識するとよいでしょう。
- 痛みがあっても放置せず、早期受診で診断と治療を受ける
- 主治医の処方を自己判断で止めず、定期的な検査を行う
- ウォーキングや水泳など、関節にやさしい運動を取り入れ、無理のない範囲で継続する
- バランスの良い食事を心がけ、体重管理を行う
- 肩や膝、腰などに過度な負担をかけず、適度に休息をはさむ
- 爪の異常や目の症状など、全身的なサインを見逃さない
乾癬性関節炎は再燃と寛解を繰り返すことが多い疾患であり、生活習慣の改善も長期的に取り組む必要があります。症状が軽減している時期でも、定期的なチェックや必要なリハビリ、薬の服用を続けることで再発のリスクを抑え、関節機能を守ることが可能になります。
参考文献
- About psoriatic arthritis.
https://psoriasis.org/about-psoriatic-arthritis#symptoms (アクセス日: 2021年6月25日) - Could you have psoriatic arthritis? Know the signs.
https://psoriasis.org/psoriatic-arthritis/know-the-signs (アクセス日: 2021年6月25日) - Psoriatic arthritis.
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/psoriatic-arthritis/symptoms-causes/syc-20354076 (アクセス日: 2021年6月25日) - Psoriasis.
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/psoriasis/symptoms-causes/syc-20355840 (アクセス日: 2021年6月25日) - Psoriatic arthritis symptoms.
https://arthritis.org/about-arthritis/types/psoriatic-arthritis/symptoms.php (アクセス日: 2021年6月25日) - What is psoriatic arthritis?
https://arthritis.org/about-arthritis/types/psoriatic-arthritis/what-is-psoriatic-arthritis.php (アクセス日: 2021年6月25日) - Psoriatic Arthritis
https://www.rheumatology.org/I-Am-A/Patient-Caregiver/Diseases-Conditions/Psoriatic-Arthritis (アクセス日: 2021年6月25日) - What is psoriatic arthritis?
https://www.versusarthritis.org/about-arthritis/conditions/psoriatic-arthritis/ (アクセス日: 2021年6月25日) - Psoriatic arthritis
https://medlineplus.gov/genetics/condition/psoriatic-arthritis/ (アクセス日: 2021年6月25日) - Lindo A, Ogdie A (2023) “Pathophysiology and Treatment of Psoriatic Arthritis: Focus on Biologic Therapeutics,” Drugs, 83(1):21-37. doi:10.1007/s40265-022-01766-1
- Mease PJ, Armstrong AW (2020) “Managing Patients with Psoriatic Disease: The Diagnosis and Pharmacologic Treatment of Psoriatic Arthritis in Patients with Psoriasis,” Dermatol Ther (Heidelb), 10(6):2215-2231. doi:10.1007/s13555-020-00458-x
- Orbai AM, Wampler Muskardin T (2020) “Psoriatic arthritis: current trends and future directions,” Curr Opin Rheumatol, 32(4):404-412. doi:10.1097/BOR.0000000000000728
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