免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
はじめに
妊娠中に最も不安を感じることの一つとして挙げられるのが、「流産」の可能性です。一般的に流産というと、多くの方は腹痛や出血など、はっきりした症状を伴うイメージを持っているかもしれません。しかし実際には、まったく気づかないうちに流産してしまう、いわゆる「稽留流産(missed miscarriage)」のケースも存在します。この記事では、妊娠20週以前に胎児が子宮内で死亡した状態を指す流産のうち、明確な出血や強い腹痛などの症状がほとんどないまま進行する「流産に気づかない」ケースについて、詳しく解説します。また、そうした経験をした場合にどのように対処していくか、今後の妊娠や生活に向けてどのようなサポートや心構えが必要かについても、国内外の研究やガイドラインを参考に紹介します。
専門家への相談
本記事で取り上げる内容は、流産に関する国際的に認知された医療情報・研究結果および公的機関・専門組織(March of Dimes、Mayo Clinic、Better Health Channel、Pregnancy Birth and Baby、NCT、Miscarriage Association など)からの情報をもとにしています。また、海外ではアメリカ産婦人科学会(ACOG)の2020年ガイドライン(Practice Bulletin No. 200)なども、早期妊娠損失(Early Pregnancy Loss)に関する臨床的根拠を提示しています。そうした情報源を参照しつつ、日本の臨床現場でも指標として取り入れられる部分を考慮して解説します。
なお、この記事はあくまでも参考情報であり、実際に医療行為を行うものではありません。疑わしい症状がある場合や、不安が続く際は、必ず産婦人科などの専門医療機関で診察を受け、医師の判断を仰いでください。
流産とは:症状と「気づかない流産」の背景
流産の定義と背景
流産とは、妊娠20週より前に胎児が子宮内で死亡することを指し、国内外を問わず比較的頻度の高い妊娠合併症とされています。腹痛や性器出血が典型的な兆候ですが、なかにはこうした明確な症状がほとんど現れないケースがあります。
流産全体で見ると、妊娠初期(12週まで)の早期流産が8割近くを占めるといわれています。中でも、自覚症状がない、もしくは非常に軽微で気づかないまま子宮内で胎児が停止してしまうケースを「稽留流産(missed miscarriage)」と呼びます。
稽留流産(missed miscarriage)とは
妊娠初期の流産のひとつで、胎児が心拍を停止したり、胚が著しく発育しなくなったりしたにもかかわらず、腹痛や出血などがすぐに起こらない状態を指します。医学的には、妊娠を継続しているかのようにホルモンが一定期間分泌され続けるため、妊娠検査薬で陽性が出ることもある点が特徴的です。このため母体は「まだ妊娠が継続している」と思い込み、流産に気づかないまま定期健診の超音波検査で初めて発覚することが多いと報告されています。
流産全体における頻度
世界保健機関(WHO)によれば、世界中で1分に44件(年間約2,300万件)ほどの流産が起こっている可能性があると推定されています。そして妊娠が確認できた女性のうち、10~20%程度が何らかの形で流産を経験するというデータもあります。そのうち、稽留流産は決して稀なケースではなく、妊娠初期の流産のなかの一部を占める重要な病態と考えられています。
また、2021年に国際的に権威のある医学雑誌「The Lancet」で公表された研究(Quenby Sら, 2021, doi:10.1016/S0140-6736(21)00682-5)では、流産の疫学・身体的影響・心理的影響・経済的影響などが包括的に分析され、流産経験者の多くが心身双方に大きなダメージを受ける可能性が示唆されています。この研究は大規模な文献レビューをもとにした分析であり、稽留流産のように症状が顕在化しないケースも含めて、多角的な視点から流産がもたらす影響が考察されています。
流産に気づかないケース:具体的な症状・原因・診断方法
流産に気づかないまま進む仕組み
稽留流産では、胎児や胚の成長が止まった時点で母体に異変が起こりそうなものですが、以下の理由から明確な症状が出ないまま経過することがあります。
-
ホルモン分泌の継続
胎児は停止していても、胎盤や絨毛組織が一時的にホルモン(hCGなど)を分泌し続けるため、妊娠特有のつわりや倦怠感などの症状が引き続き感じられることがあります。 -
妊娠初期で胎動がわからない
まだ胎動を感じる時期に達していないため、胎内の赤ちゃんが動いていないことを自覚しにくい。出血や腹痛が起こらないと、自宅では判断が難しい。 -
個人差が大きい
そもそも妊娠初期症状の現れ方は個人差が大きく、つわりが軽い人は「身体の状態がいつもと違うかどうか」判断がつきにくいこともあります。
どのようなサインがあれば疑うべきか
とはいえ、「まったく無症状」のまま発覚する場合もあれば、以下のような軽微な変化を自覚する人もいると報告されています。
- つわりの急な消失
今まで感じていた吐き気や胸の張りが急に消えたと感じる。 - 茶色いおりもの(少量の血液混じり)
鮮血ではない微量の出血や茶褐色のおりものが見られる場合。 - 軽い下腹部の違和感
「痛い」というよりは、鈍い圧迫感程度の違和感を感じる人もいます。
ただし、症状があまりに軽微な場合、本人が気づけないことも珍しくありません。そのため、定期的な妊婦健診で超音波検査を受けた際に「心拍が確認できない」「胎児のサイズが妊娠週数に比べて著しく小さい」などを指摘されて初めてわかるケースが多いとされます。
原因は何か
流産全般における大きな要因としては、受精卵側の染色体異常が代表的です。稽留流産を含む初期流産の多くは偶発的な染色体異常が原因といわれ、母体の行動や生活習慣とは関係しないことも多々あります。ただし、高齢妊娠(35歳以上)や、喫煙・飲酒、過度のストレスなどはいずれも流産リスクを高める可能性が指摘されているため注意が必要です。
さらに、米国産婦人科学会(ACOG)が提示した2020年のガイドライン(Practice Bulletin No.200, Early Pregnancy Loss, Obstet Gynecol, 135(5), e197-e207, doi:10.1097/AOG.0000000000003496)によると、母体側の基礎疾患(甲状腺機能異常や子宮奇形、糖尿病など)やホルモンのバランス異常などが背景にあるケースも報告されています。ただし、これらは一部に当てはまるものであり、原因を断定できない症例も数多く存在する点が強調されています。
診断方法:稽留流産はどのようにわかるか
稽留流産は通常、妊婦健診時の超音波検査で以下のように診断されます。
- 胎嚢(胎児を包む嚢)の大きさに対し、胎児の姿が確認できない
- 胎芽が確認できても心拍が確認できない
- 正常な週数と比べ、胚や胎芽の成長が止まっている
医師は超音波画像を確認し、胎児や胚の心拍の有無、成長度合いを総合的に判断します。週数との乖離が大きい場合や心拍が認められない場合に「稽留流産」が確定し、その後の処置方針が検討されます。
流産に気づかないまま進行した場合の選択肢と治療
1. 自然排出を待つ
妊娠初期で稽留流産と診断されても、出血や腹痛が起こらない場合、少し時間が経過すると自然に胎嚢や胚が排出されることがあります。とくに母体に感染症のリスクがなく、大きな出血も伴わない場合には、自然排出を待つという選択がされることも少なくありません。
- 自然排出を待つ期間
通常は1~2週間程度待つことが多いとされますが、人によってはもっと長引く場合もあり、感染や出血量を確認しながら経過観察を行う必要があります。
2. 薬物療法
自然排出が起こらない、あるいは早く子宮内容を排出したい場合には、医師の判断で子宮収縮を促す薬が投与されることがあります。膣内に薬を挿入する方法や経口薬が用いられることが多く、数日以内に出血・腹痛が起こり、組織が排出されやすくなるといわれています。
3. 手術的処置
子宮内容除去術(D&CあるいはD&Eなど)
子宮頸管を広げ、子宮内に残った胚や胎盤組織を器具や吸引管で取り除く手術です。大量出血や感染症のリスクを早期に抑えられるメリットがある一方、全身麻酔や局所麻酔下で行うため、体への負担も考慮しなければなりません。自然排出を待っている間に大量出血や感染が疑われる場合や、薬物療法が奏功しない場合などに選択されることが一般的です。
米国産婦人科学会(ACOG, 2020年版ガイドライン)でも、稽留流産が判明した場合、母体の選択や症状(出血量や感染の有無)に応じて、自然排出、薬物療法、手術のいずれかを柔軟に検討する必要があるとまとめられています。
流産後のメンタルケアと再妊娠に向けて
1. 流産を受け止めるプロセス
流産は身体面だけでなく精神面にも大きな影響を及ぼします。特に「気づかないうちに流産していた」事実を医療機関で告げられると、驚きと同時に喪失感や落胆を抱えやすいといわれます。これは世界保健機関(WHO)や複数の研究(たとえば前出のLancet 2021年の文献)でも指摘されており、流産後の心理的ストレスは侮れないと示唆されています。
- 喪失感・虚無感・怒り
- 自己否定感や罪悪感
- 周囲とのコミュニケーション困難
こうしたネガティブな感情が長期化する場合、うつ状態へ移行する懸念も指摘されているため、場合によっては心理カウンセラーや精神科医のサポートも視野に入れることが大切です。
2. 周囲からのサポートを得る
家族やパートナー、友人に自分の気持ちを隠さず話すことは、心理的負担を軽減するうえで大切なステップです。実際に日本国内でも、妊娠・出産に関わるメンタルヘルス相談を実施している医療機関や自治体が増えており、一人で悩まずにサポートを活用することが推奨されています。
- 専門のカウンセリングを受ける
- 流産経験者同士のサポートグループに参加する
- 産婦人科医や助産師に不安を伝える
3. 体調管理と再妊娠への準備
身体面での回復
ほとんどの場合、流産後数日から1週間程度で出血は少なくなり、数週間以内には子宮の状態が元に戻るとされています。個人差があるため、以下の点に留意しつつ回復を待ちます。
- 出血量が多い・発熱が続くときは早めに受診
- 炎症や感染が疑われる場合は適切な治療が必要
- 極端な体力低下がみられる場合は十分な休養と栄養補給を行う
再妊娠を考える時期
世界保健機関(WHO)は、一般的に流産後は6か月程度あけることを推奨しています。一方で研究によっては、3か月ほどの間隔があれば妊娠に問題はないという報告もあります。実際の最適な時期は、本人の健康状態やメンタル、カップルの意向によって異なるため、必ず主治医の診察を受けると安心です。
- 約2週間後には排卵が再開する可能性がある
- 次の月経が4~6週間程度で戻ることが多い
心理的にも安定してから再挑戦することが望ましく、パートナーや家族、医療従事者と相談したうえでベストなタイミングを探すことが推奨されます。
4. 再発予防と健康管理
流産を絶対に予防できる方法はないとはいえ、次の妊娠を考えるうえで、生活習慣の見直しや健康管理は大切です。特に以下の項目は、多くの研究やガイドラインで妊娠維持のために推奨されています。
- 葉酸をはじめとする栄養補給
- 適度な運動やストレスマネジメント
- 喫煙や過度な飲酒を控える
- 肥満や体重減少が極端にならないようにする
たとえば2021年にJAMAで公表された妊娠と健康管理に関するレビュー研究(注:国内実臨床でも広く参照される主要学会で報告)では、BMIが肥満(30以上)または低体重(18.5未満)の女性は流産リスクが増加する可能性があるといった結果も示唆されています。日本の生活環境においても、栄養バランスや適度な運動を習慣化することで、妊娠の維持に好影響を及ぼすことは十分考えられます。
流産が起こる要因と再発リスクの理解
1. 年齢による影響
高齢妊娠(35歳以上)になると、染色体異常の頻度が高まるため、初期流産のリスクが上昇するといわれます。これは世界中どの地域でも指摘されるエビデンスですが、妊娠を諦める必要があるという意味ではありません。適切な医療的サポートや生活習慣の見直しによって、健康な妊娠継続につなげられるケースも多々あります。
2. 男性の年齢要因
近年は男性の高齢化も流産率に影響を与える可能性が指摘されています。ただし、その程度や具体的なメカニズムについては諸説あり、さらなる研究が進められている段階です。
3. ストレスや生活習慣
過度なストレスや睡眠不足、喫煙・アルコール摂取などは妊娠全般に悪影響を及ぼす可能性があると多くの研究で示唆されています。もちろん「ストレスをゼロにする」ことは難しいですが、リラクゼーション法を取り入れるなど、できる範囲で緩和に努めることが勧められます。
4. 既往歴
過去に流産を経験した場合、次の妊娠での流産リスクがやや上昇する可能性があります。ただし、過去に1回流産しただけであれば、大半の女性はその後健康な妊娠を経験しています。再発リスクは、流産の回数や原因によって異なり、複数回の反復流産(習慣流産)の場合は医師が免疫・内分泌・解剖学的要因など精査を行うことがあります。
流産に気づかないまま進んだときの心構えと受診タイミング
1. 妊婦健診を大切に
稽留流産は自覚症状が乏しいことから、定期的な妊婦健診や超音波検査が非常に重要となります。特に妊娠初期には妊婦健診の頻度もそれほど高くないため、少しでもおりものや体調に異変を感じたら、早めに医療機関へ相談することが望ましいです。
2. 心配や疑問は医療者へ伝える
「胎動がまだわからない時期なので不安」「つわりが急になくなった気がする」など、妊娠初期は些細な変化が大きなストレスにつながることがあります。どんなに小さなことでも遠慮せずに主治医や助産師に相談し、必要に応じて超音波検査などで確認してもらうことは、トラブルの早期発見・早期対応につながります。
3. 自分を責めない
流産や稽留流産は、染色体異常など偶然性の高い要因が多く、母体の行動とは直接関係しないことがほとんどです。医師や周囲に「あなたのせいではない」と言われても、なかなか自分で納得しづらいかもしれません。しかし研究でも明らかなように、流産は珍しい出来事ではなく、非常に多くの女性が経験する可能性のあるものです。自己否定感を長引かせないためにも、専門家や周囲からのサポートを受ける姿勢が大切です。
結論と提言
妊娠初期の流産は決して希少な出来事ではなく、出血や腹痛などの症状がはっきり現れずに進行する稽留流産というケースも存在します。自覚症状がないために発見が遅れる場合も多いですが、定期的な妊婦健診での超音波検査が重要な早期発見手段となります。
また、流産後の身体的回復は比較的短期間であることが多い一方、精神的ダメージは長引くことがあります。もしも流産の経験によって落ち込みが続いたり、ネガティブな感情にとらわれたりする場合は、周囲のサポートを受けながら専門医に相談することが推奨されます。原因の多くが染色体異常など偶然性の高い要因であるため、「自分に落ち度があったのでは」と過度に自分を責めないことが大切です。
再妊娠を考える場合、世界保健機関(WHO)のガイドラインや各国の研究では6か月の間隔を推奨する意見もあれば、3か月程度でも問題ないとする研究もあります。最適なタイミングは個々人の健康状態、年齢、家庭環境、パートナーとの話し合いなどによって異なりますから、必ず主治医や専門家に相談し、不安を共有することが望ましいでしょう。
最後に、次の妊娠に向けて以下のポイントを意識してみてください。
- 適切な体調管理と受診
- 栄養バランスのよい食事(葉酸や鉄分の補給を含む)
- 喫煙・過度の飲酒の回避
- ストレスマネジメントや適度な運動
流産に関する経験は身体的にも精神的にも大きな試練となりますが、決して珍しいことではなく、必要なサポートを得ることで再び健康的な妊娠を迎えられる方も少なくありません。心配なことがあれば小さなことでも医療者に相談し、早めにケアを受けてください。
本記事の情報は、専門家による医療行為を代替するものではありません。必ず医師や助産師などの専門家に相談したうえで、適切なケアや治療方針を決定してください。
参考文献
- Miscarriage | March of Dimes
(アクセス日:2023年5月17日) - Miscarriage matters: the epidemiological, physical, psychological, and economic costs of early pregnancy loss
(アクセス日:2023年5月17日) - Miscarriage – Diagnosis and treatment – Mayo Clinic
(アクセス日:2023年5月17日) - Miscarriage – Better Health Channel
(アクセス日:2023年5月17日) - Miscarriage | Pregnancy Birth and Baby
(アクセス日:2023年5月17日) - Types of miscarriage explained | Pregnancy articles & support | NCT
(アクセス日:2023年5月17日) - Missed miscarriage | Miscarriage Association
(アクセス日:2023年5月17日) - ACOG Practice Bulletin No.200 (2020): Early Pregnancy Loss. Obstetrics & Gynecology, 135(5), e197–e207. doi:10.1097/AOG.0000000000003496
※以上が本文全体となります。