【産婦人科学会ガイドライン準拠】流産後の心と体の回復、次の妊娠への完全ガイド|不育症・心のケアも解説
妊娠準備

【産婦人科学会ガイドライン準拠】流産後の心と体の回復、次の妊娠への完全ガイド|不育症・心のケアも解説

流産を経験することは、身体的にも精神的にも、言葉では言い表せないほど辛い体験です。複雑な感情の渦中で、正確で信頼できる医学情報を求めることは、回復への大切な第一歩となります。JAPANESEHEALTH.ORG編集部として、私たちはこの深い悲しみに寄り添い、確かな情報を提供することを使命と感じています。世界的に権威のある医学雑誌「The Lancet」が指摘するように、流産は決して稀なことではなく、その影響は個人のみならず社会全体に及ぶ重要な健康課題です4。本記事は、あなたが再び前を向くための一助となることを願い、日本産科婦人科学会(JSOG)1や日本産婦人科医会(JAOG)2、そして国際的な医療機関の公式な指針に基づき、信頼できる情報を網羅した「完全ガイド」として作成されました。体の回復過程から、次の妊娠に向けた準備、さらには「不育症」という専門的な問題や、日本で利用可能な心のケア(グリーフケア)に至るまで、あらゆる側面からあなたを支える情報をお届けします。

この記事の科学的根拠

この記事は、提供された研究報告書に明示的に引用されている最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下に、参照された実際の情報源と、提示された医学的指導との直接的な関連性を示します。

  • 日本産科婦人科学会 (JSOG): 本記事における流産の定義、原因、および管理に関する指針は、同学会が公表した公式見解に基づいています。これにより、日本の臨床現場に即した情報を提供しています1
  • 日本産婦人科医会 (JAOG): 不育症の診断基準や推奨される検査に関する専門的な解説は、同医会の公式見解を基に構成されています2
  • 厚生労働省 (MHLW): 流産・死産を経験した女性への心理社会的支援の必要性や、日本国内のグリーフケアの現状に関するデータは、同省の調査研究事業報告書から引用しています3
  • The Lancet: 流産がもたらす身体的、心理的、経済的負担の大きさについての学術的背景は、権威ある医学雑誌「The Lancet」に掲載された総説論文に基づいています4
  • 米国産科婦人科学会 (ACOG): 早期流産後の管理選択肢や、次回の妊娠に向けた準備に関する国際的な推奨事項は、同学会の診療指針を参考にしています5
  • 欧州ヒト生殖医学会 (ESHRE): 反復流産(不育症)に関する最新の国際的なガイドライン、特に生活習慣の要因や治療法に関するエビデンスは、同学会の包括的な指針から情報を得ています6

要点まとめ

  • 流産後の体の回復には個人差がありますが、通常4〜8週間で生理が再開します。体の声に耳を傾け、無理をしないことが最も重要です。
  • 流産の原因の多く(約80%)は胎児の偶発的な染色体異常であり、母親の責任ではありません。自分を責める必要は全くありません1
  • 次の妊娠は、心身の準備が整ってからが望ましいとされています。不育症(2回以上の流産・死産)と診断された場合でも、適切な検査と治療により、多くの方が無事に出産を迎えています2
  • 心の回復も体の回復と同じくらい大切です。悲しみや不安は自然な感情であり、一人で抱え込まず、専門の相談窓口やサポートグループを利用することが推奨されます3

第1部:流産後の体の回復

流産後の体は、大きな変化を経験しています。ホルモンバランスが元に戻り、子宮が回復するには時間が必要です。この過程を正しく理解し、自分の体をいたわることが、心身の健康を取り戻すための第一歩となります。

1.1. 流産とは:医学的な定義と種類

まず、流産とは何かを医学的に正しく理解することが大切です。日本産科婦人科学会(JSOG)は、流産を「妊娠22週未満で妊娠が中断すること」と定義しています1。妊娠12週未満の流産を「早期流産」、12週以降22週未満を「後期流産」と分類し、流産の約8割以上が早期流産です。流産はその進行状態によって、いくつかの種類に分けられます。

流産の主な種類(JSOGの定義に基づく)1
種類 特徴
稽留(けいりゅう)流産 胎児が子宮内で亡くなっているが、出血や腹痛などの自覚症状がなく、子宮内に留まっている状態。
進行流産 出血や腹痛が始まり、流産が進行している状態。子宮の内容物が一部排出された「不全流産」と、すべて排出された「完全流産」がある。
化学的流産(生化学的妊娠) 妊娠検査薬で陽性反応が出た後、超音波検査で胎嚢が確認される前にごく早期に流産すること。医学的には流産の回数に含めないことが多い。

1.2. 流産の主な原因:自分を責めないでください

流産を経験した多くの女性が、「自分のせいではないか」と深く悩み、自分を責めてしまいます。しかし、これは大きな誤解です。JSOGによると、早期流産の原因の約80%は、胎児自身の染色体異常によるものであり、これは受精の段階で偶然発生するものです1。つまり、お母さんの妊娠中の仕事、運動、食事などが原因で起こることは、ほとんどありません。この事実を知ることは、不必要な罪悪感から心を解放するために非常に重要です。

1.3. 生理の再開:いつから?どんな状態?

流産後、体が正常な状態に回復しているかどうかの大きな目安となるのが、生理の再開です。一般的に、流産後4週間から8週間ほどで最初の生理が訪れることが多いとされています8。ただし、これはあくまで目安であり、個人差が大きいことを理解しておく必要があります。流産後の最初の生理は、普段の周期と比べて以下のような違いが見られることがあります。

  • 出血量:普段より多かったり、逆に少なかったりすることがあります。
  • 期間:生理が続く日数が長くなったり、短くなったりすることがあります。
  • 生理痛:痛みが強くなる、あるいは軽くなるなど、変化が見られることがあります。
  • 周期の乱れ:最初の数周期は、排卵がなかったり(無排卵月経)、周期が不安定になったりすることもあります。

これらの変化は、ホルモンバランスが正常に戻る過程で起こる一時的なものであることがほとんどです。しかし、不安な点が続く場合は、遠慮なく医師に相談しましょう。

1.4. 医師の診察が必要なサイン

多くの場合、体は自然に回復しますが、時には医療的な介入が必要な場合もあります。米国産科婦人科学会(ACOG)などの国際的なガイドラインでも、合併症を防ぐために注意すべき兆候が示されています5。以下のチェックリストに当てはまる症状が見られる場合は、速やかに医療機関を受診してください。

受診を推奨する症状チェックリスト

  • 38度以上の高熱が続く
  • 下腹部の激しい痛みが治まらない
  • 出血量が非常に多い(例:1時間に2枚以上の夜用ナプキンが濡れる状態が2時間以上続く)5
  • おりものから悪臭がする
  • 流産後3ヶ月を過ぎても生理が再開しない

第2部:次の妊娠に向けて

体の回復と同時に、多くの人が次の妊娠について考え始めます。焦る気持ちと不安な気持ちが入り混じるこの時期、正しい知識を持って一歩ずつ進むことが大切です。

2.1. 妊活の再開時期:いつから可能?いつが推奨される?

「いつから次の妊娠を目指せますか?」これは最も多く寄せられる質問の一つです。生理的に見ると、流産後約2週間で排卵が起こり、妊娠が可能になることもあります。しかし、多くの医療専門家は、少なくとも1〜3回の正常な生理周期を見送ることを推奨しています8。これは、子宮内膜が完全に回復し、ホルモンバランスが安定するのを待つためです。また、精神的な回復のためにも、この期間は重要です。国際的な研究では、流産後すぐに妊娠しても、次の妊娠結果に悪影響はないとする報告もありますが5、最終的な判断は、ご自身の体調や心の状態を医師と相談しながら決めるのが最善です。

2.2. 健康な妊娠のための準備

次の妊娠に向けて、心身の状態を整えることは、健やかな妊娠の可能性を高める上で役立ちます。欧州ヒト生殖医学会(ESHRE)やACOGは、次のような準備を推奨しています56

  • 葉酸の摂取:妊娠前から1日400マイクログラムの葉酸を摂取することで、胎児の神経管閉鎖障害の危険性を低減できます。
  • 適正体重の維持:肥満や痩せすぎは、排卵障害や妊娠合併症の危険性を高める可能性があります。バランスの取れた食事と適度な運動を心がけましょう。
  • 生活習慣の見直し:喫煙や過度なアルコール摂取は、妊娠の可能性を低下させ、流産の危険性を高めることが知られています。禁煙し、飲酒は控えましょう。カフェインの過剰摂取も避けることが望ましいです。
  • 基礎体温の記録:基礎体温を測ることで、排卵の有無や周期の安定性を把握しやすくなります。

第3部:繰り返す流産「不育症」について

残念ながら、流産を繰り返してしまう方もいらっしゃいます。2回以上の流産・死産を経験した場合、「不育症」の可能性を考慮し、専門的な検査や治療を検討することがあります。

3.1. 不育症とは?定義と頻度

不育症とは、妊娠はするものの、流産や死産を繰り返してしまい、結果的に生児を得られない状態を指します。日本産婦人科医会(JAOG)は、これを「2回以上の流産・死産を繰り返した場合」と定義しています2。これは、欧州ヒト生殖医学会(ESHRE)の最新のガイドラインとも一致する定義です6。なお、妊娠検査薬で陽性になったものの、超音波で胎嚢が確認できなかった「化学的流産」は、通常、不育症の流産回数には含まれません2

3.2. 不育症の検査と原因

不育症の原因は多岐にわたりますが、適切な検査によって約半数で原因を特定できるとされています。原因が分かれば、それに応じた治療が可能になります。JAOGやESHREが推奨する主な検査項目は以下の通りです26

  • 子宮形態異常の検査:超音波検査やMRI検査などで、子宮の形に異常がないか(中隔子宮など)を調べます。
  • 内分泌(ホルモン)異常の検査:甲状腺機能や糖尿病など、ホルモンバランスの乱れがないかを血液検査で確認します。
  • 夫婦の染色体検査:ご夫婦どちらかに、流産しやすい染色体構造の異常(均衡型転座など)がないかを調べます。
  • 抗リン脂質抗体症候群の検査:血液が固まりやすくなり、胎盤の血流を悪化させる自己免疫疾患の有無を調べます。

これらの検査は、専門の医療機関で受けることができます。費用は検査内容によって異なり、一部は保険適用の対象となります。

3.3. 不育症の治療と今後の見通し

不育症と診断されても、決して希望を失う必要はありません。原因に応じた適切な治療を受けることで、次回の妊娠で無事に出産できる可能性は大きく高まります。例えば、子宮の形態異常があれば手術で修正したり、抗リン脂質抗体症候群であれば低用量アスピリンやヘパリン療法を行ったりします。たとえ原因が特定できない場合でも、何も治療をしなくても次回の妊娠で出産に至る確率は高いことが知られています。不育症に関する正しい知識を持ち、専門医と協力して治療に取り組むことが非常に重要です。


第4部:心のケアとサポート

流産は、目に見える体の傷だけでなく、心にも深い傷を残します。この見えない傷を癒すためには、適切な心のケア(グリーフケア)が不可欠です。

4.1. グリーフケアの重要性:悲しむことは自然なことです

グリーフケアとは、喪失体験によって引き起こされる深い悲しみ(grief)に寄り添い、その人が自分自身の力で立ち直っていく過程を支援することです。厚生労働省が2021年に行った調査では、流産・死産を経験した女性の93%が精神的な苦痛を感じており、その多くが「誰かに話を聞いてほしかった」と回答しています3。悲しい、辛い、悔しいといった感情は、決して否定されるべきものではなく、自然な反応です。これらの感情を無理に抑えつけたり、「早く忘れなきゃ」と自分を追い詰めたりする必要はありません。東京新聞の記事で紹介されている専門家、大竹麻美氏が指摘するように、多くの女性は自分の体験が「なかったことにされて」しまうことに傷ついています7。自分の感情を認め、悲しむための時間と空間を確保することが、回復への第一歩です。

4.2. 日本国内で利用できるサポート窓口

あなたは一人ではありません。日本国内には、流産を経験した方々を支えるための様々な相談窓口や支援の仕組みがあります。

  • 地域の相談窓口:厚生労働省の報告書によると、多くの自治体で保健センターなどを中心に、不妊・不育症に関する専門の相談窓口が設置されています3。助産師や保健師が、親身に話を聞いてくれます。
  • ピアサポートグループ:同じ経験を持つ人々と気持ちを分かち合う場です。例えば、「関西天使ママサロン」のような当事者が運営するNPO法人が、お話会などを通じて支援活動を行っています7。同じ痛みを知る仲間との出会いは、大きな支えとなり得ます。
  • 医療機関での相談:かかりつけの産婦人科の医師や看護師、助産師も、あなたの心身の状態を最もよく理解している存在です。遠慮なく気持ちを打ち明けてみましょう。
  • 母性健康管理指導事項連絡カード:流産後の心身の不調により仕事に影響が出る場合、医師に「母性健康管理指導事項連絡カード」を記入してもらい、職場に提出することで、休憩時間の延長や業務の軽減などの配慮を求めることができます1

よくある質問

Q1: 流産は、将来の妊娠能力に影響しますか?

A1: ほとんどの場合、1回の流産がその後の妊娠能力に影響を与えることはありません5。流産の原因の多くは偶発的なものであり、体が回復すれば再び健康な妊娠が可能です。ただし、流産後に子宮内に感染が起きたり、癒着が残ったりする稀なケースでは影響が出る可能性もゼロではありません。そのため、流産後の検診をきちんと受けることが重要です。

Q2: 不育症の検査費用は、保険適用の対象になりますか?

A2: はい。2022年度の診療報酬改定により、不育症の原因を調べるための主要な検査(抗リン脂質抗体検査、子宮形態検査、夫婦染色体検査など)の多くが保険適用の対象となりました2。これにより、経済的負担が軽減され、より多くの方が検査を受けやすくなっています。詳細については、受診する医療機関にご確認ください。

Q3: パートナーや家族に、自分の気持ちをどう伝えたらいいですか?

A3: 流産に対する悲しみの感じ方や表現方法は人それぞれであり、パートナーとの間に温度差が生まれることも少なくありません。大切なのは、非難するのではなく、「私は今、こう感じている」という自分の気持ちを素直に伝えることです。この記事を一緒に読んでもらうのも、お互いの理解を深める一つの方法かもしれません。また、厚生労働省の調査では、男性側も支援を必要としていることが示唆されており、カップルでカウンセリングを受けることも有効です3

結論

流産という辛い経験を乗り越える道のりは、決して平坦ではないかもしれません。しかし、正しい知識を持つことで、不必要な不安や罪悪感から解放され、ご自身のペースで心と体を回復させることができます。本記事で解説したように、(1) 体は時間をかけて着実に回復すること、(2) 次の妊娠への準備は焦らず心身の状態を整えることが大切であること、(3) 流産を繰り返す「不育症」には専門的な検査や治療法があること、そして (4) 悲しみを乗り越えるために心のケアと社会的なサポートを活用することが極めて重要であることを、どうか心に留めておいてください。

あなたの回復への旅は、あなただけのものであり、そのペースを尊重することが何よりも大切です。この記事の情報が、あなたの暗闇を照らす小さな光となり、信頼できる医師と相談しながら次の一歩を踏み出すための土台となることを、JAPANESEHEALTH.ORG編集部一同、心から願っています。あなたの健康が、私たちの最優先事項です。

免責事項本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的助言に代わるものではありません。健康に関する懸念や、ご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

  1. 公益社団法人 日本産科婦人科学会. 流産・切迫流産 [インターネット]. [引用日: 2025年7月21日]. Available from: https://www.jsog.or.jp/citizen/5707/
  2. 日本産婦人科医会. 不育症について教えて下さい [インターネット]. 2019年11月27日. [引用日: 2025年7月21日]. Available from: https://www.jaog.or.jp/qa/confinement/jyosei191127/
  3. 厚生労働省. 令和2年度子ども・子育て支援推進調査研究事業 流産・死産等を経験した女性への心理社会的な支援に関する調査研究 報告書 [インターネット]. 2021年. [引用日: 2025年7月21日]. Available from: https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000903116.pdf
  4. Quenby S, Gallos ID, Dhillon-Smith RK, et al. Miscarriage matters: the epidemiological, physical, psychological, and economic costs of early pregnancy loss. Lancet. 2021;397(10285):1658-1667. doi:10.1016/S0140-6736(21)00682-6
  5. American College of Obstetricians and Gynecologists. ACOG Practice Bulletin No. 200: Early Pregnancy Loss. Obstet Gynecol. 2018;132(5):e197-e207. doi:10.1097/AOG.0000000000002899. PMID: 30157093
  6. European Society of Human Reproduction and Embryology. ESHRE Guideline: Recurrent Pregnancy Loss [Internet]. 2023 Jan. [cited 2025 Jul 21]. Available from: https://www.eshre.eu/-/media/sitecore-files/Guidelines/Recurrent-pregnancy-loss/2022/ESHRE-RPL-Guideline–Update-2022-Final-Version-January-2023_v2.pdf
  7. 東京新聞. 見過ごされてきた流産・死産のケア 「なかったこと」にしないで [インターネット]. 2022年10月11日. [引用日: 2025年7月21日]. Available from: https://sukusuku.tokyo-np.co.jp/birth/58486/
  8. ベネッセ. 【医師監修】流産後の妊娠のタイミングは? 妊娠しやすい体づくり… [インターネット]. [引用日: 2025年7月21日]. Available from: https://st.benesse.ne.jp/ninshin/content/?id=22728
この記事はお役に立ちましたか?
はいいいえ