はじめに
目の健康を守るうえで、涙や涙の通り道が正常に働いているかどうかは非常に重要です。そのため、涙が排出される経路である涙嚢(るいのう)や涙道(るいどう)に炎症が起こると、私たちの日常生活に大きな支障をきたす可能性があります。特に、涙嚢炎(いわゆる「viêm túi lệ」)は、早期に適切な治療を受けないと深刻な合併症を引き起こすことがあるため、注意が必要です。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
本記事では、涙嚢炎の原因や症状、診断方法、そして主な治療法について、できるだけ詳しく解説していきます。この記事は一般的な参考情報としてまとめたものであり、特定の疾患に対する個別の診断や治療方針を提示するものではありません。しかし、涙嚢炎に対する理解を深め、ご自身やご家族の目の健康を守る一助になればと願っています。記事の最後には、専門的な診療を受けることの大切さを改めて述べますので、ご自身の症状に不安がある方は専門医に相談してください。
専門家への相談
本記事の内容は、医療機関での診断や治療の代替となるものではありません。特に、涙嚢炎は進行すると重症化しやすく、場合によってはほかの部位へ感染が波及し、生命に関わるリスクすら伴います。そのため、症状が疑われる場合には眼科や耳鼻咽喉科などの専門医を受診することが何よりも大切です。本記事では、長年にわたり内科・総合診療に従事してきた医師・内科専門医の「Nguyễn Thường Hanh」による医学的な見解(監修)を参考にしながら、涙嚢炎について詳しく解説しています。万が一、気になる症状がある場合は自己判断を避け、かならず医療機関にご相談ください。
以下では、涙嚢炎の原因やメカニズムを理解するために、涙の流れ方や涙道の役割から順を追って説明していきます。赤ちゃんや中高年に多いとされる理由、どんな症状がサインとなるのか、もし涙嚢炎にかかった場合にどのような治療を受けるのか、といった一連の情報を総合的に整理していきます。必要に応じて、最新の研究や海外の専門学会の文献を引用しながら進めますので、最後までお読みいただければ幸いです。
涙嚢炎とは何か
涙嚢と涙道の役割
私たちの目は、絶えず涙腺から分泌される涙によって保護されています。涙は角膜や結膜の表面をうるおし、異物を洗い流すだけでなく、眼球表面に必要な酸素や栄養素を運び、防御機能を維持する重要な役割があります。余分な涙は目頭寄りにある小さな穴(涙点)を通って涙小管を経由し、涙嚢に一時的に溜まります。その後、鼻涙管を経て鼻腔へ流れ込む仕組みです。これによって、涙は循環しながら古い涙が排出され、新しい涙が常に目の表面を守っています。
しかし何らかの原因で涙道が詰まる(閉塞する)と、涙嚢に涙がたまりやすくなり、細菌が繁殖しやすい環境になります。その状態が進行すると炎症や感染症を起こしてしまうのが涙嚢炎です。炎症が急激に起こった場合を急性涙嚢炎、長期間持続する場合を慢性涙嚢炎と呼びます。
病態の特徴
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急性涙嚢炎
急性涙嚢炎はある日突然、強い痛みや腫れ、発熱を伴うなどの症状で始まることが多いのが特徴です。目頭付近(鼻側)に痛みを感じ、押すと激痛が走り、膿が出るケースも少なくありません。痛みが強いため早めに眼科を受診する人も多い一方、自己判断で様子を見てしまい、症状が悪化することがあります。 -
慢性涙嚢炎
慢性涙嚢炎は、急性ほどの激しい痛みや発熱が目立たないものの、長期間にわたり涙や目ヤニが頻繁にたまる、朝起きると目頭付近が湿った感じがする、といった症状が続きます。そのため気づかないまま放置されるケースもあり、結果として何度も再発する原因にもなります。
涙嚢炎が起こる原因
涙道が詰まる要因は、年齢や生まれつきの構造的問題、ほかの疾患の合併など多岐にわたります。以下では代表的な原因を挙げ、その背景を解説します。
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先天的な涙道の異常
赤ちゃんに多いタイプの涙嚢炎は、鼻涙管が生まれつき狭かったり膜状の組織で塞がれたりしていることで発生します。新生児がいつも涙目であったり、目ヤニが多かったりする場合には、先天性の鼻涙管閉塞による涙嚢炎の可能性が考えられます。 -
炎症や感染症によるもの
副鼻腔炎(いわゆる「蓄膿症」)や鼻の中のポリープ、外傷などがきっかけで涙道が狭窄・閉塞を起こす場合があります。また、ブドウ球菌や肺炎球菌、インフルエンザ菌などの細菌感染によって直接的に炎症が起こることも報告されています。 -
ポリープや腫瘍の存在
鼻腔内や副鼻腔、あるいは涙道自体にポリープや腫瘍ができると、物理的に鼻涙管が押し潰されて閉塞を引き起こすことがあります。特に中高年以降になると腫瘍リスクが高まる可能性があるため、慢性的に涙目や目ヤニが続く場合はしっかりと検査することが望ましいです。 -
外傷や手術後の瘢痕
交通事故や転倒などで目周囲、鼻の骨に外傷を負った場合や、鼻の手術後の瘢痕によって鼻涙管が狭くなるケースもあります。 -
その他の誘因
- 高齢者の涙液分泌量の変化
- 鼻の構造異常(例:鼻中隔湾曲、鼻甲介の肥大など)
- 全身性疾患(糖尿病など)による免疫力低下
以上のように、涙道閉塞を生じる背景はさまざまです。これらがひとつでも当てはまると、涙道の通りが悪くなり、細菌繁殖による感染症である涙嚢炎へと進展しやすくなります。
症状と経過
涙嚢炎の主な症状は、涙が常に溢れる“涙目”と、鼻側の目頭付近(内眼角)の腫れ・痛み、発赤、膿や目ヤニが多くなることなどです。急性と慢性で特徴が異なるため、それぞれの症状を理解しておくと早期発見に役立ちます。
急性涙嚢炎の症状
- 目頭の激しい痛みと圧痛
特に目頭辺りを指で押すと強く痛みます。 - 目頭付近の腫れと発赤
皮膚が赤くなり、触ると熱を帯びているように感じます。 - 膿の排出
軽く押すだけで膿が出てくることがあり、痛みとともに不快感が増す原因になります。 - 発熱や全身倦怠感
細菌感染が強い場合には38℃前後の発熱を伴うこともあります。
急性涙嚢炎では発症が急なぶん症状が派手で、生活に支障をきたすほど強い痛みを感じやすいのが特徴です。適切な治療を受けずに放置すると、周辺部位へ感染が波及したり、膿瘍(のうよう)を形成して皮膚に穴があいたりする恐れがあります。
慢性涙嚢炎の症状
- 持続的な涙目
朝起きたときや日中でも常に涙が溢れやすく、不快感が続きます。 - 目ヤニの増加
炎症が軽度ながら慢性化していると、黄色っぽい目ヤニが頻繁に出るようになります。 - 痛みの程度は軽い
急性ほど激しい痛みはなく、腫れや熱感も少ないものの、違和感が長期化しがちです。
慢性涙嚢炎は、症状は軽度でも長期間にわたり治らず、場合によっては急性に転じることもあります。こうした症状を放置すると、後述のような重篤な合併症を引き起こすリスクがあるため、決して軽視できません。
診断方法
涙嚢炎の診断は、眼科や耳鼻咽喉科での視診や触診が中心となりますが、より正確な部位や原因を特定するために、いくつかの検査が行われることがあります。
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視診・触診
まずは目頭の腫れや発赤の有無、涙や膿が出ていないかなど外観を確認し、痛みの程度をチェックします。医師が指でそっと目頭を押し、膿が押し出されるかどうかを見ることがあります。 -
分泌物の培養検査
押し出された膿や目ヤニを採取し、培養検査を行うことで、どの細菌が原因になっているかを特定します。 -
色素消失テスト (dye disappearance test)
角膜表面に染色剤を点眼し、一定時間後にどのくらい染色剤が排出されているかを調べます。正常であれば比較的速やかに染色剤が消失しますが、涙道が閉塞している場合、いつまでも色素が目の表面に残ってしまいます。 -
画像検査(X線、CT、MRIなど)
腫瘍の有無や骨折、重篤な副鼻腔炎などの確認が必要な場合には、状況に応じて画像検査が行われることがあります。とくに副鼻腔や鼻腔内の病変が疑われるときは、耳鼻咽喉科的な評価も欠かせません。
合併症のリスク
涙嚢炎を放置したり、治療が遅れると、次のような合併症やリスクが生じる可能性があります。
- 慢性化
急性炎症を繰り返すことで慢性化し、常に涙目や目ヤニが止まらない状態へと移行するケースがあります。 - 周辺組織への感染波及
炎症が強く、菌が周囲の軟部組織や血流へ拡散すると、蜂窩織炎(ほうかしきえん)や敗血症といった重篤な状態に至る恐れがあります。 - 脳への波及
まれな例ですが、眼窩内の炎症がさらに深部へ広がると髄膜炎や脳膿瘍のリスクが指摘されています。特に赤ちゃんなど免疫力が低い場合は要注意です。 - 膿瘍形成
皮膚に穴が開き、膿が漏れ出すほど炎症が深刻化することがあります。
こうしたリスクを少しでも減らすためには、早期発見と早期治療が何よりも重要です。症状が軽いからと放置するのではなく、目頭の腫れや痛み、涙の異常を感じたら専門医の診断を受けるようにしましょう。
治療法
涙嚢炎の治療は、急性期か慢性期か、あるいは原因が何であるかによって異なります。ここでは代表的な治療法をいくつか紹介します。
薬物療法(抗菌薬・抗炎症薬)
- 抗菌薬の投与
細菌感染が主原因となる場合、内服薬・点滴・点眼薬といった形で抗菌薬が使われます。急性涙嚢炎では特に早期に抗菌薬を投与することが多く、症状が強ければ入院して点滴治療を行う場合もあります。 - 抗炎症薬・鎮痛薬
腫れや痛みが激しいときには、消炎鎮痛薬(NSAIDsなど)が処方されることもあります。 - 点眼薬・洗眼液
軽度の症例や慢性化した場合には、点眼薬や洗眼液を用い、眼表面や涙道周辺の衛生を保つようにすることがあります。
物理的な手技(涙道の通過性を回復させる処置)
- 涙道マッサージ(小児)
生まれつき鼻涙管が塞がりやすい赤ちゃんに対しては、専用のマッサージ法を指導し、母親や保護者が自宅で行うことで涙道の通りを促す方法があります。これで改善しない場合、抗菌の点眼薬と並行しながら医療機関での洗浄やブジーと呼ばれる器具を使った通管(涙道を通す処置)を検討します。 - 涙道ブジー(通管術)
鼻涙管が物理的に狭窄している場合、細い金属の管(ブジー)やカテーテルを入れて通り道を確保します。成人の場合、局所麻酔でこの処置を行うことが多いですが、狭窄の度合いが強いと何度か繰り返す必要があるかもしれません。
手術療法
- 涙嚢鼻腔吻合術(DCR)
長引く慢性涙嚢炎や重度の閉塞で、ブジーなどの保存的処置では改善が見込めない場合、涙嚢と鼻腔を直接つなぐ手術(涙嚢鼻腔吻合術)を行うことがあります。鼻の外側を切開する方法と、内視鏡(鼻内視鏡)を使って鼻腔内からアプローチする方法があります。内視鏡手術では傷跡が目立ちにくく、近年はこちらの手法が一般的になりつつあります。 - 涙嚢切除術
極めてまれなケースとして、炎症が制御できず、再発を繰り返す場合に涙嚢そのものを切除する場合も報告されています。ただし、涙嚢切除術は眼球への涙の循環を一部断念する処置にあたるため、慎重な検討が必要です。
症例と国内外の研究・知見
涙嚢炎の疫学的データは比較的限られているものの、特に小児の先天性鼻涙管閉塞による症例や、中高年女性に多い慢性涙嚢炎の傾向などが指摘されています。また、近年では鼻内視鏡手術の技術が進歩し、過去と比べて侵襲を抑えながらも高い治療効果が得られることが報告されています。
実際に、欧米の眼科専門誌では、内視鏡による鼻腔経路での涙嚢鼻腔吻合術を行ったグループと従来の外科的切開を行ったグループを比較した研究が2020年代に複数報告されており、合併症の発生率や術後の審美面で内視鏡手術が優位である傾向が示唆されています。こうした研究結果は日本国内でも注目されており、耳鼻咽喉科や眼科など複数の診療科が連携して治療に当たる体制が整えられつつあります。
さらに、慢性涙嚢炎の原因が副鼻腔や鼻の構造的異常にある例も多いため、眼科だけでなく耳鼻咽喉科的な評価・治療の重要性が高まっています。特に、日本人は鼻甲介の形状や鼻中隔弯曲などに起因する慢性的な鼻症状を抱える方が少なくないため、鼻泌尿器系の検査も合わせて行うことで総合的にアプローチすることが有効とされています。
治療の流れと再発予防
症状が軽度のうちに発見できれば、抗菌点眼薬や涙道洗浄などの比較的簡単な処置で改善することが多いです。しかし、慢性化していたり重症化していたりすると、通管術や外科的手術が必要になる場合があります。治療後も、感染を予防し涙道を清潔に保つためのケアを続けることが大切です。
- 定期的なチェック
涙の溢れ方が改善したか、腫れや痛みの再発がないかを定期的に医師に確認してもらうことで、早期に再発サインをキャッチできます。 - 鼻の症状への対処
副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎、ポリープなどの併存症がある場合、それらの治療も並行して行う必要があります。原因を取り除かないと再発リスクが高まります。 - 自己判断で薬を中断しない
症状がやや改善したように見えても、医師の指示より早く抗菌薬をやめてしまうと、細菌が再度増殖し、症状がぶり返すケースがあります。
日常生活でのセルフケア
涙嚢炎の予防や再発防止のためには、日常生活でのケアも重要です。特に慢性涙嚢炎の場合、以下の点を心がけることで症状悪化を防ぎやすくなります。
- 目の清潔を保つ
目ヤニや涙が多く出るときはこまめに清潔なガーゼやティッシュで拭き取るようにします。その際、強い力でこするのは禁物です。 - 正しい洗顔方法
まぶた周辺に汚れがたまらないよう、洗顔時に石鹸でやさしく洗い流します。まつ毛の生え際にシャンプー成分が残らないようにも注意しましょう。 - 鼻のケア
慢性的な鼻炎や副鼻腔炎がある場合は、耳鼻咽喉科を受診して適切な治療を受けることが望ましいです。鼻うがいや加湿なども効果的な場合があります。 - 適度な休息と栄養バランス
体調不良や免疫力の低下は感染症を悪化させる一因となります。睡眠や食事のバランスを整えることで、全身の抵抗力を維持します。
結論と提言
涙嚢炎は、涙の排出路である涙道や涙嚢に何らかの閉塞や感染が起きることで発症し、場合によっては急性炎症として強い痛みや発熱がみられる一方、慢性炎症として長引く涙目や目ヤニ過多につながる病気です。原因は先天的な鼻涙管の狭窄や鼻・副鼻腔の構造的問題、外傷・手術歴、細菌感染など多岐にわたります。適切な治療を受けないと周囲組織へ感染が広がり、蜂窩織炎や脳への波及といった重篤な事態を引き起こすリスクも否定できません。
初期のうちに発見できれば、抗菌薬や点眼薬、涙道洗浄、マッサージなどの軽度な処置で改善することが期待できます。一方で、慢性化や再発を繰り返すケース、または構造的な問題が根底にあるケースでは通管術や涙嚢鼻腔吻合術(DCR)などの手術を検討する必要があります。近年は内視鏡技術の進歩により、外科的侵襲を最小限に抑えながら治療効果を高める報告も増えています。
もし涙嚢炎が疑われる症状(目頭の痛み・腫れ・発赤、膿が出る、慢性的な涙目など)がある場合は、自己判断で放置せず、早めに眼科や耳鼻咽喉科の専門医を受診してください。
また、再発予防には、日常的な目や鼻のケア、十分な休養、栄養バランスなど、全身的な健康管理も欠かせません。副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎などがある方は、それらの治療を並行して行うことが重要です。
参考文献
- Dacryocystitis (acute)
https://www.college-optometrists.org/clinical-guidance/clinical-management-guidelines/dacryocystitis_acute
アクセス日: 2022-02-09 - Dacryocystitis
https://www.osmosis.org/answers/dacryocystitis
アクセス日: 2022-02-09 - Acute dacryocystitis
https://www.ccjm.org/content/87/8/477
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https://eyewiki.aao.org/Dacryocystitis
アクセス日: 2020-06-26 - Dacryocystitis
https://www.college-optometrists.org/guidance/clinical-management-guidelines/dacryocystitis-acute-
アクセス日: 2020-06-26 - Dacryocystitis
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK470565/
アクセス日: 2020-06-26
この記事は参考情報です
本記事で紹介した内容は、あくまで一般的な情報提供を目的としています。自己判断で治療や薬の服用を開始したり中断したりすることは避け、症状が疑われる場合は必ず医師・医療機関に相談してください。特に、涙嚢炎は進行すると合併症を引き起こすリスクがあり、自己流の対処では不十分なケースも多く見られます。疑わしい症状があると感じたら、早めに専門家の判断を仰ぎましょう。
(本記事は医師・内科専門医の「Nguyễn Thường Hanh」による医学的な知見を踏まえて作成されていますが、あくまで参考資料としてご利用ください。)