【専門医・ガイドライン準拠】無精子症 完全ガイド|原因と検査、最新治療(micro-TESE)、保険適用と費用まで
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【専門医・ガイドライン準拠】無精子症 完全ガイド|原因と検査、最新治療(micro-TESE)、保険適用と費用まで

精液の中に精子が存在しない「無精子症」という診断は、多くの男性とそのパートナーにとって、計り知れない衝撃と不安をもたらします。しかし、この診断は決して「子供を授かる可能性がゼロである」ことを意味するものではありません。近年の医療技術の進歩、特に2022年からの保険適用拡大により、治療への道は以前よりも大きく開かれています。本稿は、日本泌尿器科学会(JUA)および米国泌尿器科学会(AUA)などが示す最新の科学的根拠に基づき、無精子症と診断された方々が直面するであろうあらゆる疑問に答えることを目的とした、包括的で信頼性の高い完全ガイドです。一般男性の約100人に1人、男性不妊症の原因の10~15%を占めるこの状態について1、その原因から最新の検査法、最先端の治療法である顕微鏡下精巣内精子採取術(micro-TESE)、そして最も現実的な問題である費用と保険適用、さらには生涯にわたる健康との関連性まで、正確かつ深く掘り下げて解説します。この記事が、暗闇の中にいると感じている方々にとって、一筋の光となり、次の一歩を踏み出すための確かな支えとなることを、JHO編集委員会は心から願っています。

本記事の科学的根拠

この記事は、入力された研究報告書で明示的に引用されている最高品質の医学的証拠にのみ基づいています。以下に示すリストは、実際に参照された情報源と、提示された医学的指導との直接的な関連性を示したものです。

  • 日本泌尿器科学会(JUA): 本記事における非閉塞性無精子症(NOA)に対する顕微鏡下精巣内精子採取術(micro-TESE)の強い推奨や各種検査の指針は、同学会が発行する『男性不妊症診療ガイドライン 2024年版』に基づいています2
  • 米国泌尿器科学会(AUA)/米国生殖医学会(ASRM): 国際的な標準治療との比較分析、特にmicro-TESEの推奨度や遺伝子検査の基準に関する記述は、両学会が共同で発行する『Diagnosis and Treatment of Infertility in Men』ガイドライン(2024年改訂)を典拠としています3
  • 厚生労働省(MHLW): 2022年に改定された保険適用範囲や、TESE/micro-TESE等の治療に関する具体的な診療報酬点数に関する記述は、同省が公開する公式資料に基づいています4
  • 学術論文(Andrology, 2025): 無精子症が単なる妊よう性の問題だけでなく、がんリスクや死亡率の上昇といった全身の健康状態を示すバイオマーカーであるという画期的な知見は、査読付き学術誌に掲載されたシステマティックレビューを根拠としています5
  • 順天堂大学 辻村晃教授: 日本のガイドラインでmicro-TESEが強く推奨される背景(日本人特有の症例プロファイルなど)に関する深い解説は、『男性不妊症診療ガイドライン 2024年版』の作成委員長である辻村教授の専門的見解に基づいています2

要点まとめ

  • 無精子症は精液中に精子がない状態を指し、「閉塞性(OA)」と「非閉塞性(NOA)」の2種類に大別されます。
  • 診断は複数回の精液検査、ホルモン検査、遺伝子検査などを用いて正確に行われ、原因を特定することが治療方針の鍵となります。
  • 非閉塞性無精子症(NOA)に対しては、顕微鏡下精巣内精子採取術(micro-TESE)が日本のガイドラインで強く推奨される標準治療です。
  • 2022年4月より、TESE/micro-TESEを含む不妊治療の多くが保険適用となり、経済的負担が軽減されました。高額療養費制度も利用可能です。
  • 無精子症は、がんや心血管疾患のリスク上昇と関連があり、生涯にわたる健康管理の指標(バイオマーカー)としての側面も持ちます。
  • 診断による心理的負担は大きく、パートナーとの密なコミュニケーションや専門的なカウンセリングの活用が重要です。

第1章:無精子症の2つのタイプ:閉塞性(OA)と非閉塞性(NOA)

無精子症と一言で言っても、その原因によって大きく二つのタイプに分類されます。精巣で精子は正常に作られているものの、精子の通り道(精路)が塞がっている「閉塞性無精子症(Obstructive Azoospermia, OA)」と、精巣での精子を作る能力(造精機能)そのものが低下している「非閉塞性無精子症(Non-Obstructive Azoospermia, NOA)」です。この二つを正確に鑑別することが、適切な治療方針を決定する上で極めて重要です。

1.1 精子の通り道が問題「閉塞性無精子症(OA)」

閉塞性無精子症は、精巣内での精子形成は行われているにもかかわらず、精管の欠損、過去の感染症(精巣上体炎など)による閉塞、あるいは鼠径ヘルニア手術やパイプカット(精管結紮術)後の損傷などが原因で、精子が体外に射出されない状態を指します67

1.2 精子を作る能力が問題「非閉塞性無精子症(NOA)」

非閉塞性無精子症は、精巣における造精機能自体に障害がある状態です。その原因は多岐にわたり、クラインフェルター症候群などの遺伝的問題、ホルモン異常、幼少期の停留精巣、抗がん剤治療の影響などが挙げられますが、多くは原因が特定できない「特発性」です67

1.3 どちらのタイプか?鑑別のための初期評価

米国泌尿器科学会(AUA)と米国生殖医学会(ASRM)の共同ガイドラインによると、丁寧な身体所見と血液検査によるホルモン値の測定が、この二つのタイプを鑑別する上で非常に有効です3。一般的に、精巣のサイズが正常で、脳下垂体から分泌される卵胞刺激ホルモン(FSH)の値が正常範囲内であれば閉塞性(OA)が、精巣が小さくFSH値が高い場合は非閉塞性(NOA)が強く疑われます。

表1:閉塞性(OA)と非閉塞性(NOA)の鑑別ポイント
特徴 閉塞性無精子症(OA) 非閉塞性無精子症(NOA)
主な原因 精路の物理的な閉塞・欠損(感染症、手術後、先天性など)7 造精機能の障害(遺伝性、ホルモン性、特発性など)7
精巣のサイズ 正常範囲内であることが多い3 小さい(萎縮している)ことが多い3
血中FSH値 正常範囲内であることが多い3 高値を示すことが多い3
治療の第一目標 閉塞部位の再建、または精巣・精巣上体からの精子回収 精巣内に残存する可能性のある精子の回収(Micro-TESE)

第2章:診断への完全ガイド:最新ガイドラインに基づく精密検査

無精子症の診断と原因究明は、闇雲に行われるものではありません。最新の診療ガイドラインに沿って、段階的かつ体系的に進められます。ここでは、そのプロセスを詳細に解説します。

2.1 精液検査:確定診断への第一歩

無精子症の確定診断には、複数回(通常2回以上)の精液検査が不可欠です。採取した精液を遠心分離機にかけ、沈殿物の中に精子が一つも認められない場合に確定診断となります6。この基準は、世界保健機関(WHO)が定める国際基準(2021年版)にも準拠しています8

2.2 身体診察と超音波検査

専門医による触診は、非常に重要な情報をもたらします。精巣の大きさや硬さ、精管の有無、そして男性不妊の原因として比較的頻度の高い精索静脈瘤の有無などを確認します8。さらに、超音波(エコー)検査を用いることで、陰嚢内の状態や精路の閉塞が疑われる部位をより詳細に評価することが可能です9

2.3 ホルモン検査:原因を探る鍵

血液検査によって、脳下垂体から分泌されるホルモン(FSH、LH)と、精巣で作られる男性ホルモン(テストステロン)の値を測定します。FSHは精巣に「精子を作れ」と命令を出すホルモンであり、この値が著しく高い場合は、精巣の機能不全(NOA)が強く示唆されます。逆に、ホルモン値がすべて正常範囲内であれば、造精機能は保たれている可能性が高く、閉塞性(OA)を疑う根拠となります3

2.4 遺伝子検査:治療方針を左右する重要情報

特に非閉塞性無精子症(NOA)が疑われる場合、遺伝子検査は治療の成功率を予測し、将来の子供への遺伝的影響を考える上で極めて重要な情報を提供します。

  • 染色体核型分析: ヒトの染色体構成を調べる検査です。NOA患者さんの中には、性染色体が一本多いクラインフェルター症候群(47,XXY)の頻度が高いことが知られており、この検査によって診断が確定します10
  • Y染色体微小欠失検査(AZF検査): Y染色体上には、精子形成に不可欠な遺伝子領域(AZF領域)が存在します。この領域に欠失(遺伝子の一部が失われること)があると、造精機能に重篤な障害を引き起こします。特にAZFa領域またはAZFb領域の完全な欠失が認められた場合、後述する精子回収術を行っても精子が見つかる可能性は絶望的とされています。一方で、AZFc領域の欠失の場合は、50~75%の確率で精子を回収できると報告されており10、治療に臨む上での極めて重要な予後予測因子となります。このAZF検査は、日本において保険適用の対象となっています11

第3章:治療法の最前線:挙児を目指すための選択肢

無精子症の治療目標は、子供を授かるために、いかにして精子を確保するかに集約されます。そのアプローチは、閉塞性(OA)か非閉塞性(NOA)かによって大きく異なります。

3.1 閉塞性無精子症(OA)の治療戦略

OAの場合、精子を作る能力は保たれているため、治療の選択肢は比較的明るいものとなります。

  • 精路再建術: 顕微鏡を用いて閉塞した精管同士、あるいは精管と精巣上体とを吻合し、精子の通り道を再建する手術です。この手術が成功すれば、自然妊娠や人工授精も視野に入ります1
  • 精子回収術と顕微授精(ICSI): 手術用の針で精巣や精巣上体から直接精子を採取し(TESEやMESAと呼ばれる手技)、体外受精の一種である顕微授精(ICSI)に用いる方法です12。精路再建が困難な場合や、早期の挙児を希望する場合に選択されます。

3.2 非閉塞性無精子症(NOA)の治療:Micro-TESE

NOAの場合、精巣全体で精子形成が停止しているように見えても、局所的にごく僅かに精子が作られている場所が残存している可能性があります。その「宝の島」を探し出すための最先端技術が、顕微鏡下精巣内精子採取術(microdissection TESE、通称micro-TESE)です。

3.2.1 Micro-TESEとは何か?

Micro-TESEは、手術用顕微鏡を用いて精巣の内部を数十倍に拡大しながら、精子が作られている可能性の高い、太く白濁した精細管(精子を作る管)を選択的に採取する手術です1。従来のTESE(単純な精巣内精子採取術)と比較して、精巣へのダメージを最小限に抑えつつ、精子の回収率を高めることができるため、現在のNOA治療における標準術式とされています。

3.2.2 なぜMicro-TESEが推奨されるのか?日米ガイドラインの視点

興味深いことに、micro-TESEに対する推奨度には、日米のガイドラインで温度差が見られます。AUA/ASRMの2024年改訂ガイドラインでは、NOAに対するmicro-TESEの推奨度は「中程度(Moderate Recommendation)」とされています13。一方で、日本のJUAが発行した『男性不妊症診療ガイドライン 2024年版』では、「行うよう強く推奨する」と、より高いレベルで推奨されています2。この違いについて、同ガイドラインの作成委員長である順天堂大学の辻村晃教授は、日本人NOA患者の精巣組織は、精子形成が完全に停止しているSertoli cell only(SCO)症候群の割合が高いといった人種的な背景があり、そのような厳しい条件下でも精子回収の可能性を最大化するために、より精密な探索が可能なmicro-TESEが不可欠である、という趣旨の解説をしています2。これは、日本の医療現場の実情に即した、極めて重要なローカライズされた判断と言えるでしょう。

3.2.3 Micro-TESEの成功率は?- 現実的な期待値

Micro-TESEによる精子回収の成功率は、原因によって大きく変動します。複数の研究を統合したメタアナリシスでは、NOA全体での成功率はおよそ50%前後と報告されていますが14、個々の状況によって異なります。日本の研究データも踏まえると、より現実的な期待値が見えてきます。

表2:原因別Micro-TESE精子回収率の比較(国際データと日本)
原因 精子回収率(国際/大規模研究) 精子回収率(日本/国内研究) 典拠
特発性(原因不明) 約50% 29.5% 1516
クラインフェルター症候群 約50-70% 約40%前後 15
AZFc欠失 50-75% 10
停留精巣後 約50% 15

注:日本のデータは限定的であり、施設や患者背景によって成功率は変動します。

3.3 特殊なケースの治療:ホルモン療法とその他の選択肢

非常に稀なケースですが、脳下垂体の機能不全によりFSHやLHが分泌されない「低ゴナドトロピン性性腺機能低下症」が原因のNOAの場合、ホルモン補充療法によって約90%という高い確率で精子形成が回復し、射出精液中に精子が出現することがあります1
残念ながら、micro-TESEを行っても精子が回収できなかった場合、挙児のためには、第三者から精子の提供を受ける非配偶者間人工授精(AID)や、特別養子縁組といった選択肢を考えることになります1

第4章:日本の医療制度と費用:2022年保険適用後のリアル

治療の選択肢と同じくらい、あるいはそれ以上に患者さんの頭を悩ませるのが費用の問題です。2022年4月、日本の不妊治療を巡る状況は、保険適用の大幅な拡大によって劇的に変化しました。

4.1 2022年4月からの保険適用:何がどう変わったか

これまで多くが自費診療であったり、自治体の助成金に頼っていたりした不妊治療が、公的医療保険の対象となりました。これにより、無精子症に関連する多くの検査や治療も、原則3割の自己負担で受けられるようになったのです17。ただし、保険適用には治療開始時の女性の年齢が43歳未満であることや、胚移植の回数に制限があることなど、一定の条件が設けられています18

4.2 無精子症治療の自己負担額 – 具体的な計算

厚生労働省が定める診療報酬点数に基づき、主な検査・治療にかかる自己負担額の目安を以下に示します。これは、患者さんが実際に窓口で支払う金額を具体的にイメージする上で役立ちます。

表3:無精子症関連治療の保険点数と自己負担額(3割負担)の目安
診療項目 保険点数 自己負担額(3割)
Y染色体微小欠失検査 – (保険適用) 約24,000円11
精巣内精子採取術(単純TESE) 12,400点 37,200円4
精巣内精子採取術(顕微鏡下TESE / Micro-TESE) 24,600点 73,800円4
顕微授精(ICSI)1個 4,800点 14,400円4
顕微授精(ICSI)2~5個 6,800点 20,400円4

注:上記は手術や手技そのものの費用であり、実際にはこれに加えて診察料、麻酔料、薬剤料、入院費などが別途かかります。

4.3 高額療養費制度の活用法

保険診療においては、一個月の医療費の自己負担額が一定の上限を超えた場合に、その超過分が払い戻される「高額療養費制度」を利用できます1719。所得によって上限額は異なりますが、これにより高額になりがちな治療の経済的負担をさらに軽減することが可能です。詳しくは、ご加入の健康保険組合や厚生労働省のウェブサイトで確認することをお勧めします。

第5章:妊よう性だけではない:無精子症と生涯にわたる健康リスク

近年の研究は、無精子症が単に子供ができにくいという問題に留まらず、その男性の生涯にわたる健康状態を示す重要な「バイオマーカー」である可能性を強く示唆しています。この知見は、診断を受けた後の生き方を考える上で、非常に重要な視点を提供します。

5.1 不妊は全身の健康状態を映す鏡

2025年に医学雑誌『Andrology』に掲載されたシステマティックレビューによると、男性不妊、特に非閉塞性無精子症(NOA)の男性は、妊よう性に問題のない男性と比較して、様々な健康上の問題を抱える危険性が高いことが明らかになりました5。この事実は、無精子症の根底にある遺伝的要因や内分泌環境の異常が、精子形成だけでなく全身の健康にも影響を及ぼしている可能性を示しています。

5.2 具体的な健康リスク:がん、心血管疾患、死亡率

同レビューでは、NOA男性における具体的な健康リスクが数値で示されています。最も衝撃的なのは、全体のがん発症リスクが約2.9倍に上昇するという報告です。その他にも、精巣がん、糖尿病、心血管疾患のリスク増加、そして全体的な死亡率の上昇との関連も指摘されています5

5.3 なぜリスクが高まるのか?考えられるメカニズム

これらのリスクが高まる明確なメカニズムはまだ解明されていませんが、精子形成と全身の健康維持に関わる共通の遺伝子の異常や、テストステロンをはじめとするホルモンバランスの乱れなどが、その背景にあるのではないかと考えられています。

5.4 診断を「健康を見直す機会」に

この事実は、決して不安を煽るものではありません。むしろ、無精子症という診断を、自身の身体と真摯に向き合い、生涯にわたる健康管理を始めるための重要な「きっかけ」と捉えるべきです。この診断を機に、泌尿器科医やかかりつけ医と連携し、定期的な健康診断を含む包括的な健康評価と、継続的なモニタリングを開始することが強く推奨されます。

第6章:心理的サポートとパートナーシップ:困難を乗り越えるために

無精子症という診断は、身体的な問題だけでなく、深刻な心理的・社会的な苦痛を伴います。多くの患者さんの体験談は、その衝撃の大きさを物語っています2021。この困難な時期を乗り越えるためには、適切なサポートとパートナーとの強い絆が不可欠です。

6.1 診断の衝撃と向き合う

「頭が真っ白になった」「男としての自信を失った」――これらは、診断を受けた多くの男性が経験する共通の感情です2022。予期せぬ診断による衝撃、喪失感、将来への不安は、決して特別なことではありません。まずは、その感情を否定せずに受け止めることが第一歩となります。

6.2 パートナーとのコミュニケーション

不妊治療は、決して一人で抱え込む問題ではありません。国内トップクラスの臨床実績を持つリプロダクションクリニックの石川智基医師は、カップルで一緒に診察を受け、情報を共有し、二人三脚で治療に取り組むことの重要性を強調しています23。治療の過程で生じる様々な感情や決断をオープンに話し合い、お互いを支え合う「チーム」としての意識を持つことが、この困難な旅路を乗り越える上で最も強力な力となります。

6.3 専門的な心理サポートの活用

精神的な負担が重いと感じる場合には、専門家の助けを求めることを躊躇しないでください。多くの不妊治療専門クリニックでは、臨床心理士や認定遺伝カウンセラーによるカウンセリングが提供されています。また、同じような経験を持つ人々が集う患者サポートグループに参加することも、孤独感を和らげ、有益な情報を得る上で助けとなるでしょう。

よくある質問

高熱が出ると無精子症になりますか?

インフルエンザなどで高熱が出ると、精子を作る機能は一時的に大きなダメージを受け、数ヶ月間にわたって精子の数や運動率が著しく低下することがあります。場合によっては一時的に無精子症の状態になることもありますが、これは可逆的な変化であり、通常は時間の経過とともに回復します24

ホルモン値(FSH/LH/テストステロン)の読み解き方を教えてください。

非常に簡潔に言うと、FSH(卵胞刺激ホルモン)は精巣への「指令役」です。精巣の機能が低下している(NOA)と、脳はより強く指令を出そうとするためFSH値は高くなります。逆に、精路が詰まっているだけ(OA)で精巣機能が正常な場合は、FSH値は正常範囲内となります。LH(黄体形成ホルモン)とテストステロン(男性ホルモン)は、主に男性機能に関連するホルモンですが、これらの値も総合的に評価して原因を推測します3

micro-TESE手術は痛いですか?日帰りできますか?

手術は、麻酔(局所麻酔、静脈麻酔、腰椎麻酔など施設により異なる)下で行われるため、術中の痛みはほとんどありません。術後は数日間、軽度の痛みが続くことがありますが、鎮痛剤でコントロール可能です。多くの医療機関では、日帰りまたは一泊程度の入院で手術を行っています22

生活習慣(食事、運動、サウナなど)で改善できますか?

残念ながら、確立された生活習慣の改善によって無精子症そのものが治癒するという強力な科学的根拠はありません。しかし、石川智基医師が指摘するように、禁煙、節度ある飲酒、バランスの取れた食事、適度な運動といった健康的な生活習慣は、これから行う治療の成功率を高め、全身の健康を維持する上で非常に重要です23。また、精巣は熱に弱いため、長時間のサウナやブリーフタイプのきつい下着は避けた方が良いと一般的に言われています3

手術で精子が見つからなかった場合、もう子供は望めませんか?

ご自身の精子で子供を授かることは、残念ながら困難になります。しかし、子供を持つことを諦める必要はありません。選択肢として、第三者から精子の提供を受けて体外受精を行う非配偶者間人工授精(AID)や、血の繋がりを越えて親子となる特別養子縁組といった道があります。これらの選択肢について、ご夫婦で十分に話し合い、必要であれば専門のカウンセラーに相談することが重要です1

結論

無精子症という診断は、人生における極めて困難な挑戦の一つです。しかし、本稿で詳述したように、この診断は決して終着点ではありません。正確な診断プロセスを経て原因を特定し、閉塞性であれば精路再建術、非閉塞性であればmicro-TESEという最先端の治療法に臨むことで、多くのカップルが子供を授かるという夢を叶えています。特に2022年からの保険適用拡大は、経済的な障壁を大きく下げ、治療へのアクセスを改善しました。さらに、無精子症を自身の全身の健康を見直す重要なきっかけと捉え、パートナーと手を取り合い、専門家やサポート機関の助けを借りながら、この挑戦に立ち向かっていくことが大切です。この情報が、あなたの次の一歩を照らす光となることを、JHO編集委員会一同、心より願っています。ご自身の状況については、必ず主治医の泌尿器科専門医と詳しく相談してください。

免責事項本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的助言を構成するものではありません。健康に関する懸念がある場合、またはご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

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