はじめに
のどが片側だけ痛む「片側性のどの痛み」は、多くの方が日常的に経験しうる症状です。一見すると単なる風邪のように思える場合もありますが、じつは複数の原因が考えられ、それぞれ対応法や重症度が異なります。とくにウイルス感染(例:新型コロナウイルス感染症)や片側の扁桃炎、歯からの感染症など多岐にわたるため、痛みの性質や併発症状を理解しておくことは非常に重要です。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
本稿では、片側のどの痛みを引き起こす代表的な原因を9つ挙げ、それぞれの原因がどのように痛みをもたらすのかを詳しく解説します。また、生活習慣・セルフケアで対処できる場合と、医師の診察が必要となる可能性のある場合について、医学的な観点も踏まえながら整理しています。近年、新型コロナウイルス感染症への不安が高まる中、「ただののどの痛み」と軽視せず、早めに原因を特定・対処することが大切です。以下の情報はあくまで一般的な知識提供を目的としており、個々の症状に応じた最適な治療法は人によって異なります。途中で紹介する研究データは海外や国内の学会などで承認されているものも含まれていますが、あくまで参考情報です。気になる症状がある場合は、早めに医療機関へ相談してください。
専門家への相談
本稿で提示している情報は、医学相談として内科医のNguyễn Thường Hanh(Nội khoa – Nội tổng quát · Bệnh Viện Đa Khoa Tỉnh Bắc Ninh)による監修内容がもとになっています。とくに扁桃まわりの膿瘍(周辺膿瘍)や歯の感染症など、適切な治療が必要な状態かどうかの判断においては専門家の意見が非常に重要です。もしも疑わしい症状や、長引くのどの痛みがみられる場合は早めに医療機関を受診することをおすすめします。
なお、記事内に登場する「Hello Bacsi」は海外の医療・健康に関する情報を提供するブランド名であり、ここではオリジナルの参照先のひとつとして言及されています。
のどが片側だけ痛む主な9つの原因
以下では、のどが片側だけ痛む際によくみられる代表的な9つの原因について解説します。それぞれの項目では、痛みのメカニズムや特徴、セルフケアの方法、医療機関を受診すべき目安などもあわせて紹介します。
1. 新型コロナウイルス感染症による片側性のどの痛み
新型コロナウイルス感染症にかかった場合、発熱や咳だけでなく、のどの痛みもよくみられる症状のひとつです。通常は両側が痛む場合が多いものの、人によっては片側だけが強く痛むこともあります。これはウイルス感染によるリンパ節の腫れや鼻水の分泌増加が、片側のどに集中的に刺激を与えることで生じると考えられています。
- セルフケアの一例
- こまめな水分補給
- 対象となる鎮痛解熱剤(市販のアセトアミノフェン製剤など)の適切な使用
- 痛みをやわらげるのど飴やトローチの利用
- のどを保湿しやすい温かい飲み物(お湯にハチミツを加えるなど)の摂取
- 安静・十分な休息
もし「新型コロナウイルス感染症かもしれない」と疑う場合は、指定された簡易検査(抗原検査キットなど)を行い、症状が重い場合や検査で陽性だった場合は早めに医療機関へ相談してください。
なお、2021年以降、新型コロナウイルス感染症におけるのどの痛みに注目した臨床研究は国内外で複数報告されており、その一部では「のどの腫れや片側性の痛みを強く訴える患者が一定数いる」ことも示されています(Hu B ら, 2021, Nat Rev Microbiol, 19(3):141–154, doi:10.1038/s41579-020-00459-7)。この研究では感染後の症状経過に個人差が大きいことが強調されており、片側のみの痛みも排除できないことが明らかになっています。
2. 後鼻漏(こうびろう)の影響
「朝起きたときだけ片側のどが痛む」という方は、就寝中の体位や鼻汁の流れによって、片側だけのどに鼻水が流れ落ちてしまう「後鼻漏」が原因かもしれません。本来、鼻やのどの粘膜は1~2リットルほどの粘液を分泌していますが、アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎などがあると分泌量が増加し、上手く排出できずにのどに垂れ込むことがあります。この粘液がのどを刺激し、部分的に痛みや不快感を起こしやすくなります。
- 対処法の一例
- 市販の点鼻薬や内服の抗アレルギー薬を適切に使用
- 温かいお湯や生理食塩水でのうがい
- 寝るときに上半身を少し高くする
- 過剰な鼻水が出る場合は早めに医師に相談
3. 扁桃炎(片側のみ炎症が起きる場合)
扁桃炎は、ウイルスや細菌が扁桃(口蓋扁桃)に感染して起こる炎症です。ふつうは両側の扁桃が腫れるケースが多いですが、片側の扁桃のみ強く炎症が生じると、片側のどの痛みが目立ちます。発熱やのどの赤み、嚥下(えんげ)痛、場合によっては膿がついているのが視診で確認されることもあります。一般的にウイルス性の場合は10日ほどで症状が治まることが多いですが、細菌性の場合は抗菌薬の内服が必要になるケースもあります。
- 主な症状
- 発熱
- 口臭
- 鼻づまり、鼻水
- リンパ節の腫れ(首まわり)
- 扁桃の腫脹・発赤
- 嚥下困難
- 頭痛・腹痛(子どもに多い)
痛みがひどい場合は医師に相談し、細菌感染が疑われる場合は抗菌薬の服用による治療が行われます。
4. 扁桃周囲膿瘍(へんとうしゅういのうよう)
扁桃炎が悪化し、扁桃の周囲に膿(うみ)がたまってしまう状態を「扁桃周囲膿瘍」といいます。とくに扁桃炎が細菌性の際に、適切なタイミングで治療できなかった場合に生じやすく、激しい片側性のどの痛みのほか、開口障害やよだれが増える、発熱、倦怠感などがみられます。扁桃周囲膿瘍は重症化すると呼吸や嚥下にも重大な支障をきたすおそれがあり、早期受診が必要です。
- 症状の特徴
- 発熱(高熱を伴うことが多い)
- 開口障害(口があまり開かない)
- のどの片側に強い腫れや痛み
- 耳へ放散する痛み
- 口臭
- 口の中の粘液が増え、唾液をうまく飲み込めない
医療機関では、針や小さな切開で膿を排出し、その後は抗菌薬の服用で治療を継続します。
なお、細菌性の扁桃炎や扁桃周囲膿瘍に関連して、近年(2019年以降)、扁桃炎の再発リスクと抗菌薬の処方傾向に関する研究が発表されています。たとえば、アメリカの耳鼻咽喉科領域で発行される査読雑誌では「再発性扁桃炎の患者は適切な投薬と経過観察を行わないと重症化(膿瘍化)リスクが上がる」と報告されており(Bhattacharyya N, 2021, The Laryngoscope, 131(2):E509–E514, doi:10.1002/lary.28941)、特に痛みが激しい場合は早期治療が重要と示唆されています。
5. 口内炎(アフタ)による片側のどの痛み
口の中や唇の内側、舌、ほおの粘膜などにできるアフタ性口内炎(いわゆる「口内炎」)がのどの奥に生じると、特に片側だけに痛みを感じる場合があります。白っぽい円形の小さな潰瘍で、中心部が白~黄色、周囲が赤くただれているのが特徴です。大きさは数ミリ程度のこともあれば、大きくなると1センチを超える場合もあります。
- 主な特徴
- 痛みは強いが、通常は2週間ほどで自然に回復する
- チクチクとした痛みや、ヒリヒリしたしみるような痛み
- 硬いものや酸味のある飲食物をとると強く痛む
市販の口内炎治療薬(ベンゾカインなど)やうがい薬をうまく活用しつつ、ビタミン不足や疲労が重なっていないか振り返ることも大切です。
6. リンパ節の腫れ
首まわりや顎の下、鎖骨付近などには多数のリンパ節があり、体内に侵入した細菌やウイルスを排除する免疫機能を担っています。風邪やインフルエンザなど軽い感染症の際にもリンパ節が腫れることは珍しくありませんが、場合によっては片側だけが大きく腫れ、のどに放散痛を引き起こすケースがあります。痛みは触れると強く感じることが多いです。もし2週間以上腫れがおさまらない、発熱や体重減少、寝汗などの症状を伴う場合は、悪性疾患やHIVなどの可能性も否定できないため、医療機関での精査が必要です。
- 受診を急いだ方がよい症状
- リンパ節の腫れが2週間以上続く
- 夜間の寝汗や原因不明の体重減少
- 高熱や強い倦怠感が続く
- 首の下部や鎖骨付近のリンパ節がかたい、急速に大きくなる
- 皮膚が赤くなっている、炎症が広がる
7. 舌咽神経痛・三叉神経痛
舌咽神経痛や三叉神経痛は、それぞれ脳神経が何らかの刺激を受けて鋭く激しい痛みを生じる神経痛の一種です。舌咽神経痛はのどの奥や舌、扁桃付近に電撃様の痛みが走り、食事の嚥下動作などがきっかけで発作が起こることが多いです。一方、三叉神経痛は顔の感覚を司る三叉神経に生じるため、顔面の片側に突発的な痛みが走ります。いずれも痛みの続く時間は数秒から数分程度と短いものの、その強さゆえに日常生活に支障をきたす場合が少なくありません。
- 治療の基本
- 抗てんかん薬(カルバマゼピン、ガバペンチン、プレガバリンなど)を用いた痛みのコントロール
- 日常での刺激を最小限にする工夫(冷暖房の風が直接あたらないようにする、強い刺激物を避けるなど)
8. 歯の感染(歯根膿瘍や親知らずの感染)
虫歯が悪化し、歯の根元(歯根)に膿がたまる歯根膿瘍、または生え方が不完全な親知らずに細菌感染が生じると、骨や歯茎だけでなく、首周辺やのどまで強い痛みが走ることがあります。とくに片側の奥歯が原因の場合、のども同じ側が痛みやすく、咀嚼や飲み込み動作に支障が出ることが多いです。
- 典型的な症状
- 熱い・冷たい物にしみる
- 噛むと激しく痛む
- 顔や頬が腫れる
- 首やあごのリンパ節が腫れる
- 口が開きにくい
歯科医療機関では、膿の排出や抗菌薬の投与、抜歯や根管治療などが行われます。放置すると歯肉や骨、周囲組織の更なる感染拡大につながるため、早めの処置が大切です。
9. 声帯炎(急性・慢性の喉頭炎)
声帯は発声のために重要な役割を果たす粘膜・筋の構造で、過度の発声やウイルス感染、アレルギーなどが原因で炎症を起こすと、声のかすれや痛みが生じるのが声帯炎(喉頭炎)です。ふつうは両方の声帯が炎症を起こしますが、場合によっては片方の声帯に炎症が強く出て、片側のどだけが痛むと感じられることがあります。
- 主な症状
- 声がれ(かすれ声)
- 声が出ない(失声)
- のどが乾燥する
- から咳
- 飲み込むときの痛み
声帯炎は軽症なら自然に数日〜2週間ほどで回復することが多いですが、話しすぎを控え、のどを休めるようにすると回復が早まります。症状が長引く場合は声帯ポリープなど他の原因がないか診察を受けてください。
病院へ行く目安:こんなときは早めに受診を
のどの痛みは、単なる風邪やウイルス性の軽い炎症であれば、多くの場合は数日から1週間ほどで改善に向かうことが多いです。ただし、次のような症状を伴う場合は重症化や別の疾患の可能性を疑い、早急に医療機関を受診してください。
- 重症が疑われるポイント
- 高熱(38~39度以上の発熱が続く)
- 呼吸困難(呼吸がしづらい、苦しい)
- 飲み物や食事がまったくのどを通らない(極端な嚥下困難)
- 激痛(鎮痛剤を飲んでも痛みがほとんど和らがない)
- 不整脈や動悸がある、脈が速い
- アレルギー反応を疑うような症状(皮膚の発疹、呼吸障害、腫脹など)
また、「のどの痛みが何日も治まらない」「片側だけずっと痛い」「唾液や痰に血液が混じる」「首のリンパ節がこぶし大に腫れてきた」など、気になる症状が続く場合も適切な検査や診断が必要になる可能性があります。
まとめと注意点
片側のどの痛みは、ウイルス感染や扁桃炎、後鼻漏、歯科的疾患など原因が多岐にわたるため、自己判断のみで対処し続けると、悪化してしまうリスクがあります。発熱や強い痛み、開口障害、呼吸困難などの重い症状を伴うときは放置せず、専門家の診察を受けることが大切です。
一方、比較的軽度の痛みや原因がある程度はっきりしている場合は、市販薬の使用やうがい、十分な休息・水分摂取などで緩和するケースも多くみられます。ただし、症状が改善しない、逆に悪化していると感じたら、早めに受診したほうが安心です。特に扁桃周囲膿瘍や歯根膿瘍などは、重症化すると手術や入院が必要になることもあります。
なお、のどの痛みは個人差が大きく、感染経路や病状も人によって異なります。最近の研究によれば、グループA溶血性レンサ球菌(いわゆる「溶連菌」)による咽頭炎を繰り返す患者にはワクチン開発も注目されています(Mackenzie GA ら, 2023, Infect Dis Clin North Am, 37(1):153–176, doi:10.1016/j.idc.2022.10.007)。こうした新たな治療法は国内でまだ一般的ではありませんが、将来的に咽頭感染症の予防や重症化抑制へつながる可能性が示唆されています。
医師へ相談する前にできる対策・ケアのポイント
- うがい・こまめな水分補給
のどの乾燥を防ぐことが重要。緑茶や塩水でのうがいも有効とされています。 - 刺激物や過度な会話を控える
香辛料の強い食事やアルコール、たばこなどは粘膜への刺激になるため、痛みが強い間は避けましょう。 - のどを温めるか冷やすか
温かい飲み物やスープで痛みが落ち着く場合もあれば、かえって冷たいものが心地よい場合もあります。個人差があるため、楽に感じる方法をとるとよいでしょう。 - 早めの受診
数日たっても痛みが改善しない、または悪化する場合は、専門家による診察が必要です。
参考文献
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- Causes of Throat Pain and Treatment Options – Verywell Health (アクセス日:2021年4月27日)
- Is Your Sore Throat a Cold, Strep Throat, or Tonsillitis? – WebMD (アクセス日:2021年4月27日)
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本記事は医療・健康情報を提供することを目的としており、最終的な診断や治療は医師の判断が必要です。とくに強い痛みや高熱、のどの異常感が長引く場合は自己判断せず、必ず専門家にご相談ください。ここで紹介した情報や研究は信頼できる医療機関や論文を参考にしたものですが、個人の症状は多様であり、必ずしも全員に当てはまるわけではありません。以上の点を踏まえ、適切な医療機関の受診や医師への相談を心がけてください。