免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
はじめに
日常生活のなかで気づかないうちに、気分の落ち込みや意欲の低下など“こころの健康”に関する悩みを抱える方は少なくありません。現代社会では、仕事や学業、人間関係、経済的なプレッシャーなど多くの要因が重なり、知らず知らずのうちにストレスが蓄積します。その結果、精神的な不調が深刻化し、いわゆる「心の病」に進展するケースも存在します。しかし、多くの方が精神疾患や心の不調を“口に出しにくい悩み”として扱い、周囲に相談する機会を逃してしまいがちです。こうした状態を放置すると、健康状態がさらに悪化したり、周囲の理解を得られず生きづらさを感じたりするリスクが高まります。
本記事では、比較的よく見られる8つの精神・神経に関連する疾患について、その特徴や症状をわかりやすくご紹介します。また、もし大切な家族や友人がこれらの症状で悩んでいる場合、どのように理解し、支え合うことができるかという視点も含めて解説します。日頃からこころの健康を保つポイントを知り、早めの受診や専門家への相談につなげる一助となれば幸いです。
専門家への相談
本記事の内容は、信頼できる国際機関(たとえば世界保健機関: WHOなど)が示す情報をベースにしており、多くの専門家が取り組んでいる内容を平易にまとめたものです。特に、以下に挙げる参考文献や情報源から最新の知見が得られています。とはいえ、ここで取り上げるのは一般的・代表的な情報であり、すべての個別症状や治療方針をカバーしているわけではありません。症状が続く、あるいは不安が大きい場合は、なるべく早く医師や臨床心理士などの専門家に相談することをおすすめします。
病院で扱う「精神・神経の病」とは?
私たちが日常で「メンタルヘルス」や「心の病」と呼んでいるものは、医学的には“精神疾患”“神経疾患”と捉えられることが多く、正式には「精神・神経に関連する障害」と位置づけられます。これは、思考や感情、行動などの面で大きな変化が起こり、日常生活に支障をきたす状態を指します。身体の病気と同様に、治療法や対処法を適切に用いれば回復へ向かうことが期待できます。しかし、症状が徐々に進行し、本人も家族も気づきにくいという特徴があるため、早期発見・早期介入がとても大切です。
早期に気づきたいサイン(初期症状)
こころの不調が進むほど、回復には時間と労力が必要になります。そのため、「もしかして」と思った段階でなるべく早く専門家を受診することが重要です。以下は、代表的な初期のサインです。
- 自傷行為や他者を傷つけたいという思考が続く
- 強い悲しみや恐怖、不安、怒りが長く続く
- 感情の起伏が激しく、衝動的な行動が増える
- 理由のはっきりしない記憶障害や混乱が起こる
- 幻覚や妄想など、現実感覚とのズレが生じる
- 睡眠リズムや食事の量が極端に変化する
- 仕事や学業、家事など日常的な作業が困難になる
- 集団活動を避け、人との交流を断つようになる
- 無謀な行為や法律に反する行為を繰り返す
- アルコールや薬物などの物質を乱用する
こうしたサインは症状の一部例にすぎませんが、連続して起こる場合は深刻化を疑う指標になります。本人はもちろん、周囲の人が早期に気づいて医療につなぐことが大切です。
現代社会でよく見られる8つの精神・神経疾患
世界保健機関(WHO)によると、以下のような疾患は現代社会で特に患者数が多い、あるいは深刻な影響が認められる病気として挙げられています。
1. うつ病(うつ状態)
うつ病は最も一般的な精神疾患の一つとされ、WHOでは全世界で約2億6,400万人が罹患していると推定しています。典型的な症状としては、
- 2週間以上続く深い悲しみや虚無感
- 興味・関心の喪失
- 自己評価の極端な低さや強い罪悪感
- 身体的苦痛(頭痛や倦怠感など)
- 幻覚・妄想がみられるケースもある
家族に同じ疾患を抱える人がいる(遺伝要因)、強いストレスのあるライフイベントの経験、性格的な要因、アルコールなどの嗜好品の乱用など、さまざまな要因が発症リスクを高めると考えられています。
治療法としては心理カウンセリングや認知行動療法など、薬を使わないアプローチが軽症〜中等症には有効な場合が多いとされます。一方で、中等症〜重症にあたる場合は抗うつ薬など薬物治療が併用されることも一般的です。
ある大規模国際研究(Santomauro DF, 2021, Lancet, 398(10312), 1700-1712, doi:10.1016/S0140-6736(21)02143-7)では、世界的にうつ病や不安障害がCOVID-19流行下で大きく増加したことが示されています。日本国内でも感染症の流行や社会情勢の変化でストレス要因が増しており、うつ病の早期発見・早期治療の重要性がさらに強調されています。
2. 双極性障害(躁うつ病)
双極性障害は、気分が高揚する「躁状態」と深く落ち込む「うつ状態」を交互に繰り返す特徴をもつ疾患です。躁状態では活動的になりすぎたり、自信過剰になったり、不眠でもハイテンションが続いたりすることがあります。いっぽうで、うつ状態にはいると極端に無気力になり、集中力や判断力が低下するなど、生活全般に支障をきたすほど気分が落ち込むのが特徴です。
躁とうつの間で変動が激しい場合から、躁状態だけ現れるタイプ、あるいは軽い躁状態(軽躁)を繰り返すタイプなど、症状の幅は広いとされています。WHOの推計では、全世界でおよそ4,500万人が双極性障害を抱えているといわれます。検査法としては問診を中心に、場合によって血液検査や画像検査でほかの疾患を除外します。気分安定薬(リチウム製剤など)や抗うつ薬、抗てんかん薬を用いることがあり、長期にわたる経過観察や心理的支援が必要とされます。
3. 統合失調症
統合失調症は、現実と主観が混同するほどの幻覚や妄想が生じる病気で、世界中で発症が確認されています。思考や感情、言動がまとまりにくくなり、人によっては奇異な行動をとるケースもみられます。代表的な症状には以下のようなものがあります。
- 被害妄想や誇大妄想などの妄想
- 実在しない声や映像が見える幻覚
- 考えのまとまりが失われ、話が飛躍する
薬物療法(抗精神病薬)が基本的な治療法で、あわせてリハビリテーションを通じて社会復帰を目指します。家族や支援者のサポートも重要で、生活面での支援や精神的ケアを長期的に行うことで、症状の安定を図ることが可能です。
4. 認知症
認知症は、記憶力の低下や判断力・言語能力の低下など、脳の機能障害が徐々に進行していく疾患です。原因としてはアルツハイマー病や脳卒中後の障害など、さまざまな要素が挙げられます。
主な特徴としては、
- 最近の出来事を思い出せない、過去の出来事と混同する
- 道具の使い方がわからなくなる、場所の見当がつかなくなる
- 適切にコミュニケーションができなくなる
現在の医学では、認知症の進行を完全に止める治療は確立されていません。しかし、一部の薬物療法によって進行を緩やかにしたり、周辺症状(妄想・幻覚など)を軽減したりすることが可能です。家族が介護をする場合は、医療機関や介護支援サービスと連携しながら、本人の尊厳と生活の質を維持する工夫が求められます。
5. 知的能力障害(いわゆる「知的発達の遅れ」)
「知的能力障害」は18歳未満の発達段階で知的能力が遅滞した状態と定義されることが多く、「IQ検査などで一定水準以下」を示す場合に診断されることがあります。日常生活においては、以下のような課題がみられやすいとされます。
- 自己管理(食事・衛生など)の困難
- 対人コミュニケーションの難しさ
- 学習や作業能力の遅れ
知的能力障害は程度の差が大きく、早期に適切な教育環境や社会支援を受けることで、本人の潜在能力を最大限に引き出せる可能性もあります。医師や専門カウンセラー、教育機関、療育センターなどが協力しながら、障害特性や生活環境にあわせたケアを行うのが望ましいでしょう。
6. 自閉スペクトラム症(ASD)
自閉症スペクトラム障害(ASD)は、対人コミュニケーションや社会性、興味や行動のパターンに特徴的な偏りがみられる疾患です。一般的に「自閉症」「アスペルガー症候群」「高機能自閉症」などと呼ばれたものも含む概念であり、近年では「自閉スペクトラム症」という用語が使われます。
たとえば、
- 相手の感情を読み取りにくい、人との距離感がつかめない
- 表情やアイコンタクト、ジェスチャーが少ない
- 特定のテーマや物事に強い興味を示す一方、ほかには無関心
- 突然の変化に対応できず、パニックになることがある
ASDの症状は幼少期からみられる場合が多く、大人になってからも社会生活や就労に困難を抱えるケースがあります。医療的には薬物療法というよりも、行動療法や心理療法、環境調整などを通じて特性にあわせた支援を行うことが中心です。また、家族の理解とサポートが重要で、定期的なカウンセリングなどで本人や保護者が専門知識を学びつつ対策を継続することが推奨されます。
7. 注意欠如・多動症(ADHD)
ADHD(Attention Deficit Hyperactivity Disorder)は、主に小児期に発症するとされる発達障害の一つです。特徴としては、
- 落ち着きがなく、衝動的
- 集中力を維持できず、ケアレスミスが多い
- 順序立てて計画することが苦手
12歳までに症状が現れるとされますが、成長するにつれ症状の現れ方が変化するケースもあります。成人になってからも不注意や衝動性が残り、仕事や人間関係に影響を及ぼす場合がありますが、薬物療法や行動療法、環境調整によって生活の質を向上させられる可能性があります。医師や心理士、教育現場など多方面との連携が欠かせません。
8. コミュニケーション障害
コミュニケーション障害は言語や非言語表現の難しさを伴い、以下の4つに大きく区分されます。
- 言語障害:語彙や文法などの習得が困難
- 発音障害:特定の音や言葉を正しく発せない
- どもり(吃音):幼少期から始まる流暢さの障害
- 社会的コミュニケーション障害:場面や相手に応じたやりとりができない
これらは、個人の発達背景や学習環境によって程度が異なります。医療機関や療育の専門家の指導のもとで言語療法や学習支援を行うことで、症状の改善や社会参加の拡大が期待できます。
予防・ケアの基本
多くの精神疾患は、完全な意味での「予防法」が確立されていないといわれます。しかし、日常生活のなかでストレスを適度にコントロールしたり、体力づくりやバランスのよい食事・睡眠を心がけたりすることで、発症リスクを下げたり重症化を防いだりできる可能性があります。また、飲酒や薬物など依存性のある物質を控えることも大きな予防効果につながります。もし家族や身近な人が精神的な問題を抱えている場合は、以下のような関わり方が助けになります。
- 話をじっくり聞く:相手の気持ちを否定せずに受けとめる
- 偏見や差別の言葉を使わない:苦しむ本人がさらに孤立しないよう配慮する
- 医療機関や支援機関の情報を提供する:専門的なケアに早めにつなげる
- 日常的なサポート:通院の付き添い、家事や経済面でのフォローなど
まとめと提言
こころの病は、目に見える傷とは異なり、発見や理解が難しい一面があります。本人が気づかないまま悪化し、家族や社会とのコミュニケーションが滞り、孤立感を深めてしまう恐れもあります。早期に適切な治療を受ければ、多くの病気は回復あるいは症状のコントロールが可能とされています。もし周囲で似た症状を抱えている方がいれば、まずは「一人ではない」というメッセージを伝え、専門家の診察を受ける道を一緒に考えてみてください。
また、日頃からストレスケアのために運動や趣味の時間を確保したり、悩みを話せる相手やコミュニティを持つことも重要です。現代社会は情報過多で人間関係が複雑化しがちですが、身近な相談先や専門家とのつながりを作っておくことで、万一のときに大きな支えとなります。世界保健機関(WHO)が2022年に発表した「World Mental Health Report: Transforming Mental Health for All」では、医療従事者だけでなく、地域社会全体が協力してメンタルヘルスを支援する必要性が繰り返し強調されています。日本国内でも、自治体の保健所やメンタルヘルス相談窓口が整備されつつあるので、遠慮なく活用しましょう。
最後に、ここに記した情報はあくまでも「参考」であり、正式な診断や治療方針の決定には医師など専門家の判断が必要です。とくに長引く精神的な苦痛や生活への支障が大きい場合は、早めの受診・相談をおすすめします。
参考文献
- psychiatry.org/patients-families/what-is-mental-illness (アクセス日:2021年3月5日)
- who.int/news-room/fact-sheets/detail/mental-disorders (アクセス日:2021年3月5日)
- betterhealth.vic.gov.au/health/servicesandsupport/types-of-mental-health-issues-and-illnesses (アクセス日:2022年12月29日)
- nami.org/About-Mental-Illness/Mental-Health-Conditions (アクセス日:2022年12月29日)
- mentalhealthliteracy.org/mental-disorders/ (アクセス日:2022年12月29日)
- Santomauro DF, et al. “Global prevalence and burden of depressive and anxiety disorders in 204 countries and territories in 2020.” The Lancet. 2021;398(10312):1700–1712. doi: 10.1016/S0140-6736(21)02143-7
- World Health Organization. World Mental Health Report: Transforming Mental Health for All. 2022, Geneva. ISBN 9789240049338
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、医師など専門家によるアドバイスの代替にはなりません。ここで述べられた内容をもとにした自己判断や自己治療は大変危険です。ご自身や周囲の方が精神的な不調を感じた場合は、必ず医療機関や専門家にご相談ください。
医療上のアドバイスに関する留意点
本記事で取り上げた情報は、さまざまな研究や国際機関の発表を参考にまとめられたものですが、実際の症状や対処法は個人の状況によって大きく異なります。治療法の最終的な判断は、専門家による診断とカウンセリング、検査結果などを総合して決定されます。さらに、新しい知見や研究結果が随時報告されている分野でもあり、最新のガイドラインに基づく診療を受けることが理想的です。気になる症状がある場合は、決して自己判断に頼らず、できるだけ早めに医療機関を受診してください。