【科学的根拠に基づく】産後の心と体の全トラブル解説:公的支援「産後ケア事業」の活用法まで完全ガイド
産後ケア

【科学的根拠に基づく】産後の心と体の全トラブル解説:公的支援「産後ケア事業」の活用法まで完全ガイド

出産という大仕事を終えた安堵感も束の間、多くの母親は心身に次々と現れる変化に戸惑い、終わりの見えない不安に苛まれることがあります。「この痛みは普通なの?」「気持ちが落ち込むのはなぜ?」「誰に相談すればいいの?」――。JAPANESEHEALTH.ORG編集部は、こうした産後の母親が抱える切実な悩みに寄り添い、信頼できる情報を提供することを使命としています。産後とは、世界保健機関(WHO)によれば出産後6週間(42日間)までの期間を指し1、この時期の適切なケアが母親の長期的な健康を左右します。この記事では、科学的根拠に基づき、産後に起こりうる身体的・精神的な問題のすべてを徹底的に解説し、さらに日本の公的支援制度である「産後ケア事業」を最大限に活用する方法まで、具体的かつ実践的な情報をお届けします。一人で抱え込まず、正しい知識を力に変えて、あなたらしい母親としての一歩を踏み出しましょう。

この記事の科学的根拠

この記事は、入力された研究報告書に明示的に引用されている最高品質の医学的証拠にのみ基づいています。以下は、参照された実際の情報源と、提示された医学的指導との直接的な関連性を含むリストです。

  • 世界保健機関(WHO): この記事における産後の期間定義や、産後出血(PPH)の危険な兆候に関する指針は、WHOが発行した勧告に基づいています14
  • 日本産科婦人科学会(JSOG): 産後異常出血の管理や静脈血栓塞栓症(VTE)の予防に関する具体的な臨床指針は、JSOGの「産婦人科診療ガイドライン」に基づいています6
  • The Lancet誌に掲載された研究: 産後出血の最も一般的な原因(子宮弛緩)や、長期的な健康問題(性交痛、腰痛など)の有病率に関するデータは、The Lancet誌に発表された複数の研究に基づいています57
  • 厚生労働省(MHLW)および日本の研究: 産後うつ病のスクリーニング(EPDSの使用)、産後ケア事業の利用基準、および日本の母親が直面する具体的な悩み(睡眠不足、肩こり・腰痛)に関する情報は、厚生労働省のガイドラインおよび国内の調査報告に基づいています81517

要点まとめ

  • 産後の身体的トラブル(骨盤底の問題、産後出血、乳腺炎など)には具体的な対処法があり、危険な兆候を知ることが重要です。
  • 産後うつ病は10~15%の母親が経験する一般的な病気であり、「マタニティブルーズ」とは異なります。エジンバラ産後うつ病質問票(EPDS)は、助けを求めるための有効な第一歩です。
  • 日本の公的支援「産後ケア事業」は、心身の不調や育児不安を抱えるすべての母親が利用できるサービスであり、宿泊型、日帰り型、訪問型の選択肢があります。
  • 産後出血(PPH)を経験した女性は、将来の心血管疾患や血栓塞栓症のリスクが高まる可能性があり、長期的な健康管理が推奨されます12
  • 専門家への相談をためらわないでください。多くの母親が同じ悩みを抱えており、適切な支援を求めることは、あなたと赤ちゃんの健康にとって最も賢明な選択です。

即時自己評価:「これは普通?それとも危険?」産後のセルフチェックリスト

産後の回復過程では、何が正常な変化で、何が医師の診察を必要とするサインなのかを区別することが非常に重要です。このチェックリストは、ご自身の状態を客観的に把握し、適切な行動をとるための第一歩です。

一般的・正常な範囲の症状

以下の症状は、多くの女性が経験する産後の正常な回復過程の一部です。ただし、症状が長引いたり、不安に感じたりする場合は、一人で悩まず医療機関に相談しましょう。

  • 悪露(おろ): 出産後の子宮からの分泌物。最初は赤く、徐々に茶色、黄色、そして白色へと変化し、数週間続きます。
  • マタニティブルーズ: 出産後数日から1週間程度に見られる一時的な気分の落ち込み、涙もろさ、不安感。通常は自然に改善します14
  • 会陰部の痛み: 会陰切開や裂傷があった場合、座ったり歩いたりする際に痛みを感じることがあります。
  • 疲労感: 出産による体力消耗と、新生児の世話による睡眠不足からくる強い疲労感。

医師への相談を検討すべき症状

以下の症状が見られる場合は、緊急性はないものの、次回の健診を待たずに医療機関(出産した病院やクリニック)に電話で相談することを推奨します。

  • 2週間以上続く気分の落ち込み: マタニティブルーズの範囲を超え、悲しみや絶望感が続く場合(産後うつの可能性)。
  • 軽度の乳腺炎の兆候: 乳房の一部が赤くなる、熱を持つ、しこりができるが、発熱はない状態。
  • 改善しない尿失禁: 産後6~8週間経っても、咳やくしゃみで尿が漏れる症状が改善しない場合。

【警告】緊急の医療機関受診が必要な危険な兆候

以下の症状は、生命に関わる合併症の可能性があります。直ちに救急車を呼ぶか、緊急外来を受診してください。この情報は、日本産科婦人科学会(JSOG)および世界保健機関(WHO)のガイドラインに基づいています46

  • 大量の出血: 1時間にナプキンが完全に濡れてしまうほどの出血、またはゴルフボールより大きな血の塊が出る4
  • 38℃以上の発熱: 産褥熱などの重い感染症の可能性があります。
  • 激しい頭痛や視覚の変化: かすみ目、光がチカチカするなどの症状を伴う激しい頭痛(産後子癇の可能性)。
  • ふくらはぎの痛みや腫れ: 片方の足だけに痛み、腫れ、熱感がある場合(深部静脈血栓症の可能性)。
  • 自分自身や赤ちゃんを傷つけたいという考え: これは精神科的緊急事態であり、即時の介入が必要です。

詳細解説①:多くの母親が直面する身体的な課題(身体的な問題)

出産は女性の身体に大きな変化をもたらします。ここでは、多くの母親が経験する具体的な身体的問題とその科学的根拠に基づいた対処法を詳しく解説します。

骨盤底と会陰のケア

The Lancet Global Health誌に掲載された研究によると、産後の女性の8~31%が尿失禁を経験し、19%が便失禁を経験すると報告されています7。これは、出産時に骨盤底筋群が引き伸ばされるために起こります。

  • 症状: 咳、くしゃみ、笑った時などの尿漏れ(腹圧性尿失禁)、便意やガスを我慢できないこと。
  • メカニズム: 骨盤の底でハンモックのように内臓を支えている骨盤底筋が、出産の際に過度に伸展し、緩んでしまうことが原因です。
  • 自分でできること: 最も効果的な対策は「骨盤底筋体操(ケーゲル体操)」です。信頼できる複数の情報源によると、毎日継続することが重要です24。様々な姿勢(仰向け、座位、立位)で行い、日常生活に組み込むことが成功の鍵です28
    1. まず、仰向けに寝て膝を立て、リラックスします。
    2. 尿やガスを我慢するような感覚で、膣と肛門をゆっくりと5秒間引き締めます。このとき、お腹やお尻に力が入らないように注意します。
    3. その後、ゆっくりと5秒間緩めます。
    4. この動作を10回繰り返し、1セットとします。1日に3セット行うことを目指しましょう。
  • 医師に相談するタイミング: 産後6~8週間経っても症状が改善しない場合や、生活に支障をきたす場合は、産婦人科や泌尿器科に相談してください。

産後出血(悪露)と子宮の回復

産後の悪露は、子宮が妊娠前の状態に回復する過程で起こる正常な現象です。しかし、その量が異常に多い場合は、危険な産後出血(PPH)の可能性があります。PPHの最も一般的な原因は、子宮の収縮が不十分な「子宮弛緩」であり、The Lancet誌の系統的レビューによれば、PPH症例の70.6%を占めるとされています5

  • 正常な経過: 悪露は、出産直後は鮮血ですが、徐々に量が減り、色も赤褐色→黄色→白色へと変化し、通常は産後3~4週間で落ち着きます。
  • 危険な兆候: WHOのガイドラインでは、1時間にナプキンが完全に濡れる、または大きな血の塊が出る場合は、PPHの兆候として即時の医療介入を求めています1
  • 長期的な影響: 注目すべきは、2025年のメタアナリシスで、PPHを経験した女性は、長期的に心血管疾患のリスクが1.76倍、血栓塞栓性イベントのリスクが2.10倍に増加することが示された点です12。この知見は、PPHが単なる一過性のイベントではなく、将来の健康への警鐘であることを示唆しており、研究者らは積極的な長期的フォローアップを提唱しています12

母乳育児の課題

日本の母親を対象とした調査では、初めての出産の場合、母乳育児に関する悩みを抱える傾向が高いことが示されています8。また、産後ケア事業を利用する最も一般的な理由の一つが、母乳育児に関する不安です19

  • 一般的な問題: 乳首の痛み、乳房の張り(緊満)、乳腺炎など。
  • 解決策: 正しい抱き方と吸わせ方(ラッチオン)を学ぶことが基本です。乳房の緊満には、授乳前に温湿布、授乳後に冷湿布を適用し、必要であれば手で搾乳して圧を和らげます1
  • 産後ケア事業との連携: これらの問題は、専門家である助産師から実践的な指導を受けることで大幅に改善します。産後ケア事業は、まさにこのための専門的な支援を提供する場です。

疲労、貧血、腰痛

2021年の日本の調査で、産後の母親が抱える最も辛い悩みは「睡眠不足」であることが明らかになっています8。この極度の疲労は、他の身体的問題と密接に関連しています。

  • 産後貧血: 妊娠中および分娩時の失血により、鉄欠乏性貧血は産後に悪化しがちです。CMAJ(Canadian Medical Association Journal)に掲載された論文によると、鉄欠乏は産後うつ病のリスク増加と関連しています9。日本の栄養指導でも、鉄分の豊富な食事の重要性が強調されています10
  • 腰痛: 妊娠中の姿勢の変化や、出産、育児中の無理な姿勢が原因となります。簡単なストレッチや、赤ちゃんを抱き上げる際の姿勢に気をつけることが有効です。

これらの一般的な身体的問題への対処法を以下の表にまとめました。

表1:産後の一般的な身体的問題:症状と解決策
問題 一般的な症状 家庭での管理法(科学的根拠に基づく) 医師に相談すべき時
尿失禁 咳、くしゃみ、笑い、運動時の尿漏れ。 骨盤底筋体操(ケーゲル体操)を毎日行う。1日3回、各5~10回繰り返すことから始める24 6~8週間経っても改善しない、または著しい不快感を伴う場合。
会陰部の痛み 膣と肛門の間の領域の痛み、疼き、または不快感。 温座浴(シッツバス)、冷却パックの使用、パラセタモールなどの市販の鎮痛剤の服用1 痛みが激しい、悪化する、または感染の兆候(膿、悪臭)がある場合。
乳房の緊満 乳房が硬く、腫れ、痛み、熱感を伴う。 頻回授乳、授乳前の温湿布、授乳後の冷湿布、圧抜きのための手絞り1 発熱、乳房の赤い筋、またはインフルエンザ様症状(乳腺炎の兆候)がある場合。
乳腺炎 乳房の一部が赤く、腫れ、痛みを伴い、発熱や倦怠感を伴う。 患側の乳房からの授乳または搾乳を続け、安静にし、水分を多く摂る。 抗生物質が必要になる可能性があるため、直ちに医師に連絡する。
貧血 極度の疲労感、めまい、顔色が悪い、息切れ。 鉄分が豊富な食品(赤身肉、鶏肉、魚、レンズ豆、ほうれん草)と、鉄の吸収を高めるビタミンCが豊富な食品を摂取する11 症状が重い、または食事療法で改善しない場合。

詳細解説②:心の健康(心の健康)

産後の心の健康は、身体の健康と同じくらい重要です。しかし、多くの女性が助けを求めることをためらいます15。ここでは、産後の精神的な課題を正しく理解し、適切な支援につながるための情報を提供します。

「マタニティブルーズ」と「産後うつ病」の違いを理解する

この二つを区別することは非常に重要です。日本産婦人科医会の情報によれば、産後うつ病は10~15%の母親が経験する治療が必要な病気です14。日本の報告では、産後3ヶ月以内の大うつ病性障害の有病率は7.1%でした15

  • マタニティブルーズ: 出産後数日から1~2週間以内に起こる、一時的で軽度な気分の変動です。特別な治療をしなくても自然に軽快します。
  • 産後うつ病(PPD): 2週間以上、ほぼ毎日、強い抑うつ気分、興味や喜びの喪失、不眠、食欲不振、罪悪感、集中力の低下などの症状が続きます。これは専門的な治療を必要とします。

EPDSによる自己スクリーニング

日本の周産期メンタルヘルスに関するコンセンサスガイドでは、すべての産後女性に対して、理想的には1ヶ月健診時にエジンバラ産後うつ病質問票(EPDS)を用いたスクリーニングを強く推奨しています15。このツールは、産後うつ病の疑いを特定するために推奨されており、カットオフスコアを9点以上とした場合、感度75~82%、特異度93~95%と報告されています15

重要な注意点: EPDSは診断ツールではなく、あくまでスクリーニングツールです15。点数が高いからといって必ずしも産後うつ病であるとは限らず、不安や他の問題を示している可能性もあります。逆に点数が低くても、うつ病の可能性がゼロとは言えません。この結果は、医師との対話を開始するための「きっかけ」と捉え、最終的な診断は専門家に委ねることが不可欠です。

支援を求める方法

助けを求めることは弱さではなく、賢明な行動です。以下のステップで行動しましょう。

  1. パートナーや家族に話す: 自分の気持ちを正直に打ち明けることが第一歩です。
  2. かかりつけの産婦人科や地域の保健センターに電話する: 専門家はあなたの話を聞く準備ができています。
  3. EPDSの点数を伝える: 客観的な情報として、スクリーニング結果を伝えましょう。
  4. 「産後ケア事業」について尋ねる: 厚生労働省のガイドラインでは、EPDSの結果がサービスの利用基準の一つとされています17。これは、スクリーニング結果が具体的な支援に直結する可能性があることを意味します。
  5. 症状が重い場合: かかりつけ医に相談し、精神科医や心療内科医への紹介を求めましょう16

産後の不安と精神病

産後うつ病に加えて、強い不安障害を発症することもあります。また、非常に稀ですが、産褥精神病は幻覚や妄想を伴う精神科的緊急事態であり、即時の入院治療が必要です14。ガイドラインでは、精神病の兆候が見られた場合は、その日のうちに精神科医への紹介が必要であると強調されています15

詳細解説③:回復のための実践ガイド:栄養と運動

心身の回復を促すためには、日々の生活習慣が基盤となります。ここでは、栄養と運動に関する具体的なプランを提案します。

産後の栄養計画

厚生労働省や国立健康・栄養研究所の指針に基づき、バランスの取れた食事が推奨されています1130。特に「主食、主菜、副菜」をそろえることが基本です29

  • 重点的に摂取したい栄養素:
    • 鉄分: 産後貧血の予防と改善のために。赤身肉、魚、ほうれん草、レンズ豆など11
    • カルシウム: 骨の健康と母乳育児のために。乳製品、小魚、豆腐、緑黄色野菜など。
    • 葉酸とタンパク質: 体の修復とエネルギー産生のために。
  • 1日の食事プラン例:
    • 朝食: 全粒粉パン、卵、ヨーグルト、フルーツ
    • 昼食: ご飯、焼き魚(主菜)、ほうれん草のおひたし(副菜)、味噌汁
    • 夕食: ご飯、豚肉の生姜焼き(主菜)、野菜サラダ(副菜)、わかめのスープ

優しい運動

無理のない範囲で体を動かすことは、血行を促進し、気分転換にもつながります。

  • 骨盤底筋体操: 前述の通り、毎日継続することが最も重要です。
  • 簡単なストレッチ: 肩こりや腰痛の緩和のために、肩回しや背伸びなど、気持ちの良い範囲で行いましょう。
  • 本格的な運動の再開時期: 激しい運動の再開は、通常1ヶ月健診で医師の許可を得てからにしましょう。

詳細解説④:システムを使いこなす:「産後ケア事業」あなたのためのガイド

多くの母親がその存在を知らなかったり、「自分よりもっと大変な人のためのもの」と思い込み、利用をためらっています21。しかし、産後ケア事業は、母子保健法に基づき、すべての市町村が提供に努めるべきとされている公的な支援制度です18。このセクションでは、「認識とアクセスのギャップ」を埋めることを目指します。

産後ケア事業とは?

産後の母親の心身のケア、育児サポートを提供し、母親が安心して育児に取り組めるように支援するプログラムです。これは危機介入ではなく、すべての母親が利用できる「予防的」なツールです。

私は対象者?

利用の理由は非常に幅広く、「近くに支援者がいない」「育児に強い不安がある」「授乳がうまくいかない」といった、多くの母親が共感できるものです19。あなたが少しでも「助けがほしい」と感じるなら、利用する資格があります。

どんな種類があるの?

主に3つのタイプがあります17。2019年度の厚生労働省の報告によると、宿泊型は8,107人、訪問型は9,810人の母親に利用されました19

  • 宿泊型: 病院や助産院などに宿泊し、24時間体制のケアを受けます。
  • 通所型(デイサービス): 日中に施設を訪れ、専門家の指導を受けたり、他の母親と交流したりします。
  • 居宅訪問型: 助産師などが自宅を訪問し、個別のケアを提供します。

どうやって申し込むの?

以下の方法で問い合わせてみましょう。

  1. お住まいの市区町村の役所(子育て支援課など)に連絡する。
  2. 新生児訪問に来た保健師に尋ねる。
  3. 出産した病院のスタッフに相談する。

費用はどのくらい?

自己負担額は、自治体や所得によって大きく異なりますが、多くの場合、数千円程度で利用できます20

実際に利用した母親の声

浜松市の報告書によると、利用者の88%が「大変満足」または「満足」と回答しています21。多くの母親が「助産師さんの専門的なアドバイスで授乳の悩みが解決した」「ゆっくり休む時間が取れて心に余裕ができた」「『よくやっているよ』と言ってもらえて安心した」と語っています2122。この「感情的な肯定」こそが、この事業の隠れた価値です。

このプログラムの詳細を、以下の表でさらに明確にします。

表2:あなたのための産後ケア事業ガイド
サービスの種類 説明 どのような人向けか 典型的な活動内容 推定費用(自己負担) 申し込み方法
宿泊型 病院や助産院などの施設に宿泊し、24時間体制のケアと休息を得る17 完全な休息、集中的な授乳サポート、または自宅での支援がない母親。 母親の健康管理、授乳指導、育児相談、食事提供、中断されない休息時間17 様々だが、通常は1泊数千円から1万円以上。所得に応じた助成あり20 市区町村役場または保健センターに連絡。
通所型 日中に施設を訪れ、支援を受けたり他の母親と交流したりする17 専門的なアドバイスが必要、家から出て気分転換したい、他の母親とつながりたい母親。 授乳指導、育児クラス、グループカウンセリング、ベビーマッサージ、短い休息17 通常1日1,000円から5,000円程度。自治体による20 市区町村役場または保健センターに連絡。
居宅訪問型 助産師や看護師が自宅を訪問し、個別化されたケアと支援を提供する17 家を空けるのが難しい、慣れた環境で支援を受けたい母親。 母子の健康評価、自宅での授乳支援、沐浴指導、カウンセリング17 通常1回1,000円から3,000円程度20 市区町村役場または保健センターに連絡。

よくある質問

産後ケア事業は、本当に誰でも利用できるのですか?

はい、利用できます。産後ケア事業の目的は、特定の困難な状況にある家庭だけでなく、産後のすべての母親と赤ちゃんを支援することです18。「家族からの支援が十分に得られない」「育児に不安がある」といった理由で利用が可能です17。多くの方が「自分よりもっと大変な人がいるはず」と遠慮しがちですが、この事業は予防的な観点から、すべての母親が心身ともに健やかに過ごすために設けられています。少しでも不安や負担を感じたら、お住まいの自治体にためらわずに問い合わせてみてください。

EPDSの点数が高かったのですが、必ず産後うつ病ということでしょうか?

いいえ、必ずしもそうではありません。EPDSはあくまでスクリーニング(ふるい分け)のためのツールであり、診断を下すものではありません15。点数が高い場合は、産後うつ病の可能性のほか、強い不安、適応障害など、他の精神的な不調を示している可能性もあります。重要なのは、この結果を「専門家に相談するきっかけ」と捉えることです。点数が高かったことをかかりつけの産婦人科医や地域の保健師に伝え、専門的な評価や面談につなげてもらうことが大切です。

産後の尿漏れは自然に治りますか? どのくらい続いたら相談すべきですか?

多くの場合、産後の尿漏れは骨盤底筋の回復とともに自然に改善していきます。骨盤底筋体操を毎日続けることで、回復を早めることができます24。しかし、もし産後6~8週間を過ぎても症状が改善しない場合や、日常生活に支障が出るほど気になる場合は、産婦人科や女性泌尿器科などの専門医に相談することをお勧めします。専門的な治療や理学療法が必要な場合もあります。

産後出血を経験しました。将来の健康のために気をつけることはありますか?

はい、注意が必要です。近年の大規模な研究により、産後出血(PPH)を経験した女性は、そうでない女性に比べて、将来的に心血管疾患(心臓病や脳卒中など)や血栓塞栓症(エコノミークラス症候群など)を発症するリスクが著しく高まることが示唆されています12。これは、PPHが体に与える炎症や血管へのストレスが長期的な影響を及ぼす可能性があるためと考えられています。かかりつけ医にPPHの既往があることを伝え、定期的な健康診断を受け、血圧やコレステロールの管理、健康的な生活習慣を心がけるなど、長期的な視点での健康管理を意識することが重要です。

結論

産後の期間は、喜びと同時に、心身ともに大きな挑戦が伴う時期です。しかし、あなたが経験している困難の多くは、多くの母親が共有する普遍的なものであり、決して一人で抱え込む必要はありません。この記事で解説したように、身体的な痛みや不快感、精神的な落ち込みには、科学的根拠に基づいた対処法が存在します。そして何よりも、日本には「産後ケア事業」という、あなたを支えるための強力な公的支援システムが整備されています。回復には時間が必要であり、助けを求めることは強さの証です。正しい知識を武器に、利用できる支援を最大限に活用し、あなたとあなたの赤ちゃんにとって健やかで幸せな新しい生活を築いていってください。

免責事項この記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスに代わるものではありません。健康に関する懸念がある場合、またはご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

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  28. 骨盤底筋体操(2&4体操)特設サイト – 東大病院 女性外科. [インターネット]. [引用日: 2025年7月3日]. Available from: https://www.gynecology-htu.jp/pfmexc/
  29. 食生活の10のポイント|妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針. [インターネット]. [引用日: 2025年7月3日]. Available from: https://www.nibn.go.jp/eiken/ninsanpu/point.html
  30. 妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針|国立健康・栄養研究所. [インターネット]. [引用日: 2025年7月3日]. Available from: https://www.nibn.go.jp/eiken/ninsanpu/
  31. 妊娠前から授乳期のお食事について – 茅ヶ崎市. [インターネット]. [引用日: 2025年7月3日]. Available from: https://www.city.chigasaki.kanagawa.jp/kosodate/1024747/1043496/1045778.html
  32. 妊娠中と産後の栄養について – 秩父市. [インターネット]. [引用日: 2025年7月3日]. Available from: https://www.city.chichibu.lg.jp/9156.html
  33. 妊娠期と産後の食事について – 坂井市. [インターネット]. [引用日: 2025年7月3日]. Available from: https://www.city.fukui-sakai.lg.jp/kosodate2/kosodate-kyouiku/ninsinsyussan/ninshin/20201007.html
  34. 産前・産後サポート事業ガイドライン 産後ケア事業ガイドライン – こども家庭庁. [インターネット]. [引用日: 2025年7月3日]. Available from: https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/d4a9b67b-acbd-4e2a-a27a-7e8f2d6106dd/c9cfc841/20241030_policies_boshihoken_tsuuchi_2024_80.pdf
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