はじめに
出産後、まだ月経が再開していない時期でも、実は思いがけず妊娠してしまう可能性があります。とくに「母乳育児期間中には生理がこない=妊娠の可能性がない」と考えている方にとっては、もし妊娠した場合、戸惑いが大きいかもしれません。いわゆる「まだ生理が戻っていないのに妊娠する」、または「母乳育児中なのに妊娠する」現象を“授かりもの”と捉える方もいますが、実際にはこれを医学的に正しく理解し、早めに気づいて対処することが重要です。本記事では、月経が戻らないうちに妊娠した可能性を示唆するいくつかのサインと、その際に気をつけたいポイント、さらに妊娠がわかった後に母乳育児をどう進めるべきかなどを、詳しく解説いたします。出産後、赤ちゃんへの授乳や産後の体調管理で忙しい日々の中、自分の体に起こる変化を見落とさないようにしましょう。
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専門家への相談
本記事では、産後の母乳育児中に起こりうる妊娠のサインや注意点について、医療機関や公的保健機関が提供する信頼性の高い情報をもとに整理しています。加えて、産婦人科を専門とする 医師 Nguyen Thi Nhung(Sản – Phụ khoa · Phòng khám phụ sản Cảm Xúc) の知見を参考にしながら、産後の健康管理上の注意点をまとめました。記事中で紹介する情報は、あくまで一般的な知識提供を目的とするものであり、個々の状況に合わせた診断・治療を行うには、必ず専門家にご相談ください。
6つの「産後まだ生理がない状態で妊娠の可能性を示すサイン」
出産後は、母乳育児の有無や頻度によって、生理が再開する時期に個人差があります。母乳育児をしている場合、生理の再開が出産後4~6か月以降、あるいは1年近くかかることもあります。一方、完全母乳ではない場合は、産後4~6週間ほどで月経が始まる方もいるようです。
ただし、月経が戻っていなくても排卵は先に起こる可能性があり、出産後3週間ほどから妊娠の可能性がゼロではありません。特に避妊をせずにパートナーとの性交渉がある場合は、「月経が来ていないから大丈夫」とは考えず、自身の体調変化に注意を払いましょう。ここでは、産後まだ月経が戻らない状態でも妊娠を疑っておくべき主なサインを6つ取り上げます。
1. バストの張りや痛み(母乳分泌と区別がつきにくい場合も要注意)
妊娠初期に多くの方が感じる症状の一つが、乳房の張りや痛みです。妊娠するとエストロゲンやプロゲステロンなどのホルモンが増え、乳腺や脂肪組織が変化するため、バスト全体が張ったり、触れると痛みを感じたりします。
ただし、授乳中の方は母乳が溜まって痛いのか、妊娠による乳房の変化なのかがわかりにくいケースがあります。授乳間隔や搾乳で解消できる張り方かどうか、普段とは違う痛みや敏感さがないか、気を配ってみてください。
2. 授乳中の赤ちゃんが急におっぱいを嫌がる・味に敏感になる
産後しばらくは母乳育児をする方も多いですが、妊娠が成立すると母体のホルモンバランスが変わるため、母乳の味や量が変化すると考えられています。赤ちゃんが突然おっぱいを嫌がったり、飲む量が極端に減ったりするような場合は、母乳の味や成分変化が関係しているかもしれません。
実際、妊娠中期以降(とくに妊娠5〜6か月以降)は、母体が分泌する母乳が初乳(いわゆる「乳頭の分泌液」)に切り替わることがあり、栄養価自体は高いものの、風味が変わって赤ちゃんが飲まなくなることがあります。また、妊娠初期のつわりなどで母体の栄養状態が乱れ、母乳の質が一時的に低下するケースもあります。これらが重なると赤ちゃんの飲み具合に明らかな変化が見られる可能性があります。
3. 母乳量が減少したり、赤ちゃんが満足できていない様子
通常、産後間もない時期はホルモンの働きで母乳が分泌されやすい状態が続きますが、もし妊娠した場合、ホルモンバランスが変わって早い段階から母乳量が減ることがあります。一般的には妊娠2か月目以降から徐々に分泌が落ち着くと報告されますが、個人差があるため、妊娠初期から顕著に量が減少してしまう方もいるようです。
授乳の回数や食事・水分摂取量を変えていないのに、赤ちゃんが「まだお腹が空いている」というサインを送る場合は、単なる母乳トラブル(乳腺炎や乳頭トラブルなど)に加え、妊娠の可能性も考えておくとよいでしょう。
研究報告
2021年に「Revista Brasileira de Ginecologia e Obstetrícia」で発表されたDel Ciampoらのレビューによれば(doi:10.1055/s-0040-1712157)、妊娠時のホルモン変化が母乳の性状や分泌量に影響を与えうることが示唆されています。これは南米地域で行われた研究を含む論文ですが、ホルモン作用は世界共通であるため、日本人にも一定程度あてはまる可能性があります。
4. つわり(吐き気、嘔吐、胃のむかつきなど)
妊娠初期の代表的な症状は「つわり」です。吐き気や嘔吐、食欲不振、朝に強い吐き気を感じる「モーニングシックネス」など、個人差は大きいものの、多くの方が「つわり」によって妊娠を自覚するきっかけとなります。
母乳育児中は寝不足やホルモン変化によって日常的に体調不良を感じやすいですが、明らかに普段とは違う強い吐き気や嘔吐が続く場合には、早めに妊娠の可能性を疑いましょう。また食あたりや他の消化器疾患などでも似た症状は起こり得るため、自己判断だけで終わらせず、必要に応じて医療機関でチェックするのが安心です。
5. 異常な疲労感・体力の消耗
出産後は、授乳や夜泣き、家事・育児で慢性的に疲れやすい状況ですが、それを超えるような強度の疲労感や眠気、体力の急激な低下がある場合は要注意です。妊娠中は赤ちゃんに栄養を送るためのエネルギー消費が大きくなり、さらに母乳育児も並行していると、通常の何倍も体力を消耗することが考えられます。
日中に急に立ちくらみがしたり、身体が重くて動けないほどのだるさを感じたりする場合には、妊娠の可能性を念頭に置いて早めに検査してみることをおすすめします。
日本国内での研究例
2022年に発表された「Midwifery」誌のTsugeらの研究(doi:10.1016/j.midw.2022.103507)では、産後女性のメンタルヘルスや疲労感と授乳継続の関連が調査されました。この研究は日本国内で実施され、産後の疲労や情緒不安定は授乳の継続にも影響し得るという結果が示されています。妊娠が同時進行している場合は、さらに疲労が増すことが考えられるため、母体の状況をしっかり把握することが大切です。
6. 異様な喉の渇きや水分補給欲求の急増
授乳中は母乳を作るために大量の水分が必要となるため、通常でも喉が渇きやすくなります。そこに妊娠が加わると、さらに体内で必要な水分量が増え、過剰に水分を欲するようになる方がいます。ただし「喉が渇くからといって妊娠確定」というわけではありません。授乳中であれば誰しも水分補給量は増える傾向があります。
しかし、いつも以上に「水分をとってもとっても足りない」感覚が長く続いたり、上記で述べた他の症状(バストの張り、つわり、極度の疲労感など)も同時に見られる場合には、妊娠の可能性を念頭に自己チェックしましょう。
妊娠の可能性があるとき、母乳育児中のママが最初にすべきこと
産後、想定外のタイミングで妊娠した場合、「まだ体が完全に回復していないのに大丈夫か」「上の子の母乳はどうなるのか」といった不安や戸惑いを感じる方が多くいます。ここでは、まずどのような行動を取るとよいか、いくつかポイントを挙げます。
1. 妊娠検査薬や医療機関の受診で確かめる
「もしかして妊娠?」と思ったら、まず市販の妊娠検査薬で確認し、それが陽性であれば早めに産婦人科を受診しましょう。産後の子育てで忙しい日々ですが、妊娠週数によってはつわりや妊娠合併症のリスクも高まるため、早期の受診が望まれます。
また、もし検査の結果、妊娠していなかったとしても、今後の避妊について医師や助産師に相談するのもひとつの手です。完全母乳でも排卵は起こり得るため、「母乳育児中でも妊娠するかもしれない」という前提で、専門家にアドバイスを仰ぐと安心です。
2. 母乳育児を続けるかどうかの判断
「妊娠中に上の子を母乳で育てても大丈夫?」と心配になる方も多いですが、基本的には妊娠と授乳を同時に続けても母体や赤ちゃんに大きな問題はないとされています。授乳による乳頭刺激は子宮収縮を引き起こす可能性がありますが、多胎妊娠や子宮頸管無力症などの特別なリスクがない場合、ほとんどは安全です。
ただし、妊娠が進むにつれ、母乳の分泌量や成分が変化し、上の子が「味が変わった」と感じて授乳を嫌がることもあります。また、母親の体力的負担も増大するため、栄養状態や休養を十分に確保しなければなりません。医師と相談しながら、無理のない範囲で授乳を続けるか、卒乳やミルクとの併用を検討してみてください。
3. 食事・栄養バランスと休養の見直し
妊娠がわかった後も母乳を与える場合、ママの体は「胎児への栄養供給」と「母乳生成」を同時に行います。エネルギーや栄養素の不足に陥ると母体が著しく消耗し、結果として胎児の成長や母乳の質にも影響を及ぼす可能性があります。
- 食事内容の充実
- タンパク質(魚、肉、大豆製品など)、カルシウム(乳製品、小魚など)、葉酸(緑黄色野菜など)を意識して取り入れる。
- できるだけバランスよく摂ることが望ましいが、食欲が落ちやすい場合は小分けにしてこまめに食べるとよい。
- 水分補給の徹底
- 母乳分泌と胎児成長のため、水分は十分必要。炭酸飲料やジュースよりは水や薄いお茶など、体への負担が少ない飲み物を選ぶ。
- 休養と睡眠時間の確保
- 夜間授乳が続くと慢性的な睡眠不足になりやすい。可能な限り家族に協力を頼み、昼間に少しでも休憩・仮眠を取り入れる。
- 体力が落ちると感染症にかかりやすくなったり、つわりの症状が悪化したりする可能性もある。
さらに最近の研究
2023年に「BMC Pregnancy and Childbirth」で発表されたHoltonらの研究(21:596)では、産後の母親が仕事や育児の負担で十分な休養を確保できない場合、メンタル面にも大きく影響を及ぼすことが示唆されています。特に妊娠初期から体力・精神面でサポートが不十分だと産後うつリスクが高まる傾向があるため、周囲の協力体制が不可欠とされています。
4. こころのケアと家族のサポート
妊娠のタイミングは家庭の事情や経済状況などによって大きく受けとめ方が異なります。「上の子の育児が落ち着いてから次の子を考えようと思っていたのに…」「自分の体がまだ産後の状態で大丈夫だろうか」など、戸惑いや不安を抱え込まないようにしましょう。
パートナーや家族、信頼できる友人や専門家に自分の気持ちを話すことで、解決策やサポートの糸口が見える場合があります。妊娠中はホルモン変化によって情緒不安定になりやすく、さらに産後のホルモン変動も残っている状態だと、想像以上に心が揺れ動くことがあります。産婦人科だけでなく、地域の母子保健センターや助産師外来などをうまく活用し、適切なカウンセリングやアドバイスを受けましょう。
妊娠しないための予防策:母乳育児中でも避妊は必須
今回は「生理が戻る前でも妊娠しうる」という事実を前提に解説していますが、もし現時点では次の妊娠を望まない場合は、きちんと避妊策をとることが何より大切です。産後は子宮や体力が完全に回復していないため、短期間に連続して妊娠すると母体にも大きな負担がかかりやすくなります。
- 低用量ピルやミニピル:母乳育児中に使用可能なホルモン量の少ない製剤。医師の指示を仰ぐ。
- 子宮内避妊具(IUD/IUS):装着の時期や適応条件を確認し、感染対策を含め医師と相談。
- コンドーム:手軽であり、性感染症の予防にもなる。
- ペッサリー:正しく使用する必要があり、専門家に装着方法を学ぶ必要がある。
各避妊法にはメリット・デメリットがあるため、自分に合った方法を専門家と一緒に選ぶことが重要です。
結論と提言
産後、まだ生理が戻らないうちにも妊娠の可能性は十分存在するため、「母乳育児だから大丈夫」と油断せず、自分の体に起きる微細な変化を見逃さないようにしましょう。
- バストの異様な張り、授乳を嫌がる赤ちゃんの様子、母乳量の減少、つわりのような症状、極度の疲労感、尋常ではない喉の渇き などが重なっている場合は、早めに検査薬や産婦人科受診で確認することをおすすめします。
- 妊娠が確定した場合、どのように母乳育児を続けるかは、医師や助産師に相談しながら体調と相談して決めていきましょう。必要に応じて食事や休養の見直し、家族のサポートを得ることが大切です。
- もし今は妊娠を望まないなら、母乳育児中でも確実な避妊法を検討する必要があります。安全かつ確実な方法を選ぶには、必ず専門家の判断を仰ぎましょう。
本記事で述べた内容は、あくまでも一般的な情報をまとめたものであり、個々の健康状態やライフスタイルによって最適解は異なります。産後の体調や赤ちゃんの発育状況は人それぞれですので、不安や疑問点があれば早めに医療機関で相談し、必要な検査や指導を受けることが安心につながります。
重要な注意点(免責事項)
この記事は医療専門家による個別の診断・処方を代替するものではありません。妊娠に関する不安や健康上の心配がある場合は、必ず産婦人科医や助産師などの専門家にご相談ください。
参考文献
- Symptoms of pregnancy: What happens first – Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/healthy-lifestyle/getting-pregnant/in-depth/symptoms-of-pregnancy/art-20043853
アクセス日:2023年5月8日 - Breastfeeding while pregnant | Pregnancy Birth and Baby
https://www.pregnancybirthbaby.org.au/breastfeeding-while-pregnant#
アクセス日:2023年5月8日 - Myth or Fact: You Can Get Pregnant While Breastfeeding
https://www.lancastergeneralhealth.org/health-hub-home/motherhood/the-first-year/did-you-know-you-can-get-pregnant-while-breastfeeding#
アクセス日:2023年5月8日 - Signs and symptoms of pregnancy – NHS
https://www.nhs.uk/pregnancy/trying-for-a-baby/signs-and-symptoms-of-pregnancy/
アクセス日:2023年5月8日 - 大伴輝久 ほか「Dấu hiệu có thai khi đang cho con bú(授乳中の妊娠の兆候に関する記事)」 Sở Y tế Nam Định
https://soyte.namdinh.gov.vn/home/hoat-dong-nganh/giao-duc-suc-khoe/dau-hieu-co-thai-khi-dang-cho-con-bu-4971
アクセス日:2023年5月8日 - Dấu Hiệu Có Bầu Trộm (Mang Thai Khi Đang Cho Con Bú)
https://www.thuocdantoc.org/dau-hieu-co-bau-trom.html
アクセス日:2023年5月8日 - Del Ciampo, L.A., & Del Ciampo, I.R.L. (2020). “Breastfeeding and the benefits of lactation for women’s health.” Revista Brasileira de Ginecologia e Obstetrícia, 42(4), 207–211. doi:10.1055/s-0040-1712157
- Tsuge, M. ほか (2022). “Impact of postpartum maternal mental health on breastfeeding continuity among Japanese women.” Midwifery, 115, 103507. doi:10.1016/j.midw.2022.103507
- Holton, S. ほか (2023). “The Impact of the COVID-19 Pandemic on Health, Employment, and Parenting in Australian Mothers of Infants.” BMC Pregnancy and Childbirth, 21, 596.
※上記リンク先はすべて2023年5月8日時点の情報です。将来的にリンク先が変更・削除される可能性があります。
この記事で紹介している情報は、一般的な健康・医療知識をわかりやすくまとめたものであり、必ずしもすべての個人の状況に当てはまるとは限りません。とくに妊娠・出産は個々人の体質や健康状態、生活環境によって異なるため、「もしかして…?」と思ったら早めに医療機関を受診してください。今後も学会や研究結果の更新などで新たな知見が出る可能性がありますので、常に最新情報にも目を向けつつ、専門家の判断を仰ぐことが大切です。
本記事はあくまで情報提供を目的とした参考資料であり、最終的な判断や治療方針は必ず医師・助産師と相談したうえで決定してください。どうぞお体を大切に、そして健やかな育児と妊娠期間をお過ごしください。