【産婦人科医・助産師監修】産後の腹痛はいつまで?後陣痛・帝王切開の痛みを管理する科学的アプローチ
産後ケア

【産婦人科医・助産師監修】産後の腹痛はいつまで?後陣痛・帝王切開の痛みを管理する科学的アプローチ

ご出産、誠におめでとうございます。出産は奇跡のような体験ですが、その後の回復期間には多くの試練が伴います。中でも、多くの母親が経験するのが「産後の腹痛」です。この痛みは何なのか、正常な過程なのか、そして何より、どうすれば安全に乗り越えられるのか――。この記事では、産婦人科医および助産師の監修のもと、産後の腹痛を管理するための包括的かつ科学的根拠に基づいた情報をお届けします。出産方法による痛みの違い、つまり経膣分娩後の「後陣痛(こうじんつう)」から、帝王切開後の複雑な痛みまでを深く掘り下げ、国内外の最新の診療指針に沿った効果的な対処法を解説します。皆様が心身ともに穏やかな産褥期(さんじょくき)を過ごせるよう、信頼できる情報を提供することをお約束します。

医学的レビュー担当者:
本稿は、JAPANESEHEALTH.ORGの厳格な編集基準に基づき、産婦人科領域の専門家による監修を受けています。内容の正確性と信頼性を確保するため、浅野 仁覚(あさの きみさと)医師(産婦人科専門医)および当機関の助産師チームがレビューを行いました。2


この記事の科学的根拠

この記事は、入力された研究報告書で明示的に引用されている最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下は、参照された実際の情報源と、提示された医学的指導との直接的な関連性を示したリストです。

  • 米国産科婦人科学会(ACOG): 本稿における産後の疼痛管理に関する「段階的かつ多角的なアプローチ」の推奨は、ACOGが発表した診療意見書に基づいています。1
  • コクラン共同計画(Cochrane): 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の有効性に関する記述は、後陣痛の緩和に関するコクランの系統的レビューの結果を引用しています。2
  • 日本産科婦人科学会(JAOG): 子宮復古不全などの産後合併症に関する日本の臨床的視点は、JAOGの診療ガイドラインを参照しています。3
  • 日本のこども家庭庁: 日本国内で利用可能な公的支援策に関する記述は、「産後ケア事業」に関する公式文書に基づいています。4

要点まとめ

  • 産後の腹痛の多くは、子宮が元の大きさに戻るための「後陣痛」という正常な生理現象です。特に経産婦や授乳中に強く感じられます。
  • 帝王切開後の痛みは、傷の痛み、後陣痛、内部組織の癒着など、複数の要因が絡む複雑なものです。
  • 痛みの管理は、温めるなどの非薬物療法から始め、必要に応じてアセトアミノフェンやイブプロフェンなどの安全な鎮痛薬を使用する「科学的アプローチ」が推奨されます。
  • 激しい痛み、38度以上の発熱、悪臭のある悪露(おろ)などは危険なサインです。速やかに医療機関に連絡してください。
  • 日本には、自治体が提供する「産後ケア事業」という公的な支援制度があります。宿泊型や日帰り型、訪問型のケアを受けられるため、積極的に活用を検討しましょう。

産後の腹痛:なぜ起こるのか?正常な回復過程と注意すべきサイン

出産後の体は、妊娠前の状態に戻ろうと劇的に変化します。その過程で生じる腹痛は、ほとんどが正常な回復の一部ですが、中には注意が必要なものもあります。ここでは、痛みの主な原因を正しく理解することから始めましょう。

1. 「後陣痛(こうじんつう)」:子宮が回復するための自然な痛み

後陣痛は、妊娠によって大きくなった子宮が、元の大きさに収縮する(子宮復古)際に生じる痛みです。これは、胎盤が剥がれた後の子宮内膜からの出血を止めるためにも不可欠な、極めて重要な生理現象です。5

  • 時期とピーク: 痛みは通常、出産直後から始まり、2~3日目にピークを迎え、その後徐々に和らいでいきます。ただし、軽い痛みは数週間続くこともあります。6
  • 痛みが強くなる要因:
    • 経産婦(けいさんぷ): 2人目以降の出産では、子宮の筋肉の緊張が初産婦よりも弱まっているため、より強い収縮が必要となり、後陣痛も激しくなる傾向があります。6
    • 授乳(じゅにゅう): 赤ちゃんがお乳を吸う刺激で、母親の体内では「オキシトシン」というホルモンが分泌されます。このホルモンは母乳の分泌を促すだけでなく、子宮の収縮も強力に促進するため、授乳中に特に鋭い痛みを感じることがあります。7

2. 帝王切開後の痛み:傷の痛みと内部の回復

帝王切開による出産後の痛みは、経膣分娩とは異なる複雑さを持っています。これには、皮膚や子宮の切開創そのものの痛み、後陣痛、そして内部組織の回復に伴う痛みが含まれます。日本の厚生労働省の公式統計によると、2020年には一般病院での分娩の27.4%、全分娩の21.6%が帝王切開で行われており、この問題の重要性がうかがえます。8

特に注意すべきは、手術後の「癒着(ゆちゃく)」のリスクです。これは、腹部の手術後に体内の組織や臓器が治癒過程で互いにくっついてしまう現象で、慢性的な腹痛や、稀ではありますが腸閉塞などのより深刻な問題を引き起こす可能性があります。9

3. その他の原因:便秘から感染症まで

産後の腹痛は、必ずしも子宮の収縮だけが原因ではありません。他の可能性も念頭に置くことが重要です。

  • 便秘: 産後はホルモンバランスの変化や会陰切開の痛み、腹筋の弛緩などにより、便秘になりやすく、これが腹痛の原因となることがあります。
  • 子宮復古不全: 子宮の収縮が順調に進まない状態で、長引く腹痛や悪露の異常を伴います。放置すると感染のリスクが高まるため、適切な診断と治療が必要です。3, 7
  • 感染症: 産褥熱(子宮内感染)や尿路感染症なども、腹痛と発熱を引き起こす原因となります。

【重要】危険な腹痛のサイン:いつ病院に連絡すべきか?

ほとんどの産後の腹痛は正常なものですが、以下のような「危険なサイン」が見られる場合は、自己判断せず、速やかに出産した病院やクリニックに連絡してください。これは、深刻な合併症の可能性を示唆している場合があります。

危険なサインのチェックリスト
症状 考えられる原因と注意点
38℃以上の発熱が続く 子宮内感染(産褥熱)や乳腺炎、腎盂腎炎などの可能性があります。
痛みが時間と共に悪化する、または耐え難い激痛 正常な後陣痛は徐々に軽快します。痛みが強まる場合は異常のサインかもしれません。10
悪露(おろ)の異常 悪臭がする、膿のようなものが混じる、一度少なくなったのに再び鮮血の量が増えるなどの場合は、子宮復古不全や感染が疑われます。11
排尿時の激しい痛みや頻尿 膀胱炎や腎盂腎炎などの尿路感染症の可能性があります。
吐き気や嘔吐を伴う激しい腹痛 帝王切開後の癒着による腸閉塞など、緊急性の高い状態が考えられます。9
ふくらはぎの腫れ、痛み、赤み 産後は血栓ができやすい状態です。深部静脈血栓症の可能性があり、肺塞栓症につながる危険な兆候です。

JHO編集部からの提言: ご自身の体の変化に不安を感じたら、決して一人で抱え込まないでください。「これくらいで連絡しては迷惑かも」とためらう必要は全くありません。産後の母親の健康を守ることは、医療者の最も重要な責務の一つです。


痛みを和らげる科学的アプローチ:家庭でできるセルフケアと医療的選択肢

痛みを効果的に管理することは、産後の回復を助け、赤ちゃんとの新しい生活を穏やかにスタートさせるために非常に重要です。米国産科婦人科学会(ACOG)などの専門機関は、科学的根拠に基づいた「段階的かつ多角的なアプローチ(stepwise multimodal approach)」を推奨しています。1 これは、まず安全な非薬物療法から試し、必要に応じて効果的な鎮痛薬を適切に組み合わせていく考え方です。

1. 薬を使わない方法(非薬物療法)

薬に頼る前に、家庭で安全に試せる方法がいくつかあります。これらは副作用の心配がなく、心身のリラックスにも繋がります。

  • 温める: 下腹部を湯たんぽや温かいタオルで優しく温めると、筋肉の緊張がほぐれ、痙攣性の痛みが和らぎます。低温やけどに注意し、心地よいと感じる温度で行いましょう。6
  • 楽な姿勢をとる: 横向きに寝て膝を抱える、うつ伏せになるなど、ご自身が最も楽だと感じる姿勢を見つけましょう。クッションや抱き枕を活用するのも効果的です。
  • 軽い運動とマッサージ: 無理のない範囲で室内を歩くことは、血行を促進し回復を助けます。また、お腹を優しく「の」の字にマッサージすることも痛みの緩和に繋がります。
  • リラクゼーション: 深呼吸や瞑想、好きな音楽を聴くなど、心身をリラックスさせる時間を持つことは、痛みの感じ方にも良い影響を与えます。

2. 薬による治療(薬物療法):ACOGガイドラインに基づく選択

非薬物療法だけでは痛みが辛い場合、鎮痛薬の使用を検討します。特に授乳中の母親にとって、薬の選択は慎重に行う必要があります。幸い、多くの研究により、授乳中でも安全に使用できる薬が特定されています。

科学的根拠の核心: 2020年に行われたコクラン共同計画の系統的レビューでは、後陣痛に対して非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)がプラセボ(偽薬)よりも明らかに効果的であり、場合によってはオピオイド系鎮痛薬よりも優れた鎮痛効果を示し、副作用も少ない可能性があると結論付けています。2

  • 第一選択薬(安全性が高い選択肢):
    • アセトアミノフェン(カロナールⓇなど): 鎮痛作用があり、授乳中でも安全に使用できる薬の代表格です。母乳への移行が非常に少ないことが知られています。1
    • 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs): イブプロフェン(ブルフェンⓇなど)やロキソプロフェン(ロキソニンⓇなど)は、痛みの原因物質を抑えることで強力な鎮痛効果を発揮します。これらも母乳への移行が少なく、ACOGのガイドラインで推奨されています。1
  • 第二選択薬(慎重な使用が必要な選択肢):
    • オピオイド系鎮痛薬: トラマドールやコデインなど、より強力な鎮痛薬ですが、眠気や呼吸抑制などの副作用のリスクが母子ともにあります。これらは、第一選択薬で効果が得られない重度の痛みに対して、医師の厳密な管理下でのみ使用が検討されます。1

重要: 市販薬であっても、産褥期に自己判断で薬を使用するのは避けてください。必ず医師や薬剤師に相談し、ご自身の健康状態と授乳の有無を伝えた上で、適切な薬を適切な用法・用量で使用することが絶対条件です。


あなたが利用できる日本の公的支援:「産後ケア事業」とは?

産後の心身の不調や育児の不安を抱える母親を社会全体で支えるため、日本には「産後ケア事業」という素晴らしい制度があります。これは、多くの母親が直面する孤立や疲労といった「痛み」を和らげるための、非常に実践的な支援策です。

この事業は、国のこども家庭庁が主導し、各市区町村が実施主体となって運営されています。4, 12 法律にもとづいており、産後1年未満の母子で、心身の不調や育児不安などがある方を対象としています。

提供されるサービスは主に以下の3種類です。

  1. 宿泊型(ショートステイ): 病院や助産所などの施設に母子で宿泊し、24時間体制で心と体のケア、授乳指導、育児相談などを受けられます。母親がゆっくりと休息を取るための絶好の機会です。12
  2. 日帰り型(デイサービス): 日中に施設を訪れ、専門家のサポートを受けながら他の母親と交流することもできます。数時間でも育児から解放され、リフレッシュする時間を持つことができます。12
  3. 訪問型(アウトリーチ): 助産師や保健師が自宅を訪問し、個別の相談やケアを提供します。外出が困難な場合に特に有用です。12

具体的な行動への呼びかけ: この貴重な支援を利用しない手はありません。お住まいの市区町村のウェブサイトで「産後ケア事業」と検索するか、役所の母子保健担当窓口に問い合わせてみてください。利用料金や申し込み方法は自治体によって異なりますが、多くの場合は低料金で利用できるよう補助が出ています。


よくある質問

Q1: 産後の腹痛は、初産婦と経産婦で本当に違いますか?

はい、大きく異なります。一般的に、経産婦(2人目以降の出産を経験した女性)の方が後陣痛を強く感じる傾向があります。これは、出産を重ねることで子宮の筋肉の収縮力が初産の時よりも弱まっており、元の大きさに戻るためにより強力な収縮が必要になるためです。そのため、痛みもより強く、長く感じられることがあります。6

Q2: 市販の鎮痛薬を自己判断で購入しても良いですか?

いいえ、推奨されません。アセトアミノフェンやイブプロフェンなどの成分を含む薬は市販されていますが、産褥期、特に授乳中は、必ず医師や薬剤師に相談することが極めて重要です。専門家はあなたの健康状態や授乳状況を考慮し、最も安全な薬の種類と正確な用法・用量を指導してくれます。自己判断での服用は、予期せぬ副作用のリスクを高める可能性があります。1

Q3: 帝王切開の傷の痛みは、いつまで続きますか?

切開創の急性期の痛みは、通常、術後数日から1週間でピークを越え、数週間かけて大幅に軽減します。しかし、皮膚のつっぱり感や軽い痛み、かゆみなどは数ヶ月続くこともあります。もし痛みが長引いたり、癒着が疑われるような慢性的な腹痛が出現したりした場合は、定期健診を待たずに医師の診察を受けることが重要です。9

結論

産後の腹痛は、出産という大仕事を終えた体が懸命に回復しようとしている証です。後陣痛や帝王切開後の痛みは、その種類や程度は違えど、多くの母親が経験する正常な過程の一部です。しかし、その痛みをただ我慢する必要はありません。本稿で解説したように、温罨法(おんあんぽう)などのセルフケアから、科学的根拠に基づいた安全な薬物療法まで、痛みを管理する効果的な選択肢が存在します。

最も重要なことは、ご自身の体の声に耳を傾け、「普通ではない」と感じる危険なサインを見逃さないことです。そして、決して一人で悩まず、信頼できる医師や助産師、そして「産後ケア事業」のような公的な支援制度を積極的に頼ってください。あなたの心身の健康は、あなた自身のためだけでなく、大切な赤ちゃんの未来にとってもかけがえのないものです。この情報が、あなたの産褥期を少しでも穏やかで快適なものにする一助となることを心から願っています。

免責事項本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的助言に代わるものではありません。健康に関する懸念がある場合や、ご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

  1. American College of Obstetricians and Gynecologists. ACOG Committee Opinion No. 742: Postpartum Pain Management. Obstet Gynecol. 2018 Jul;132(1):e35-e43. doi: 10.1097/AOG.0000000000002683. PMID: 29781876. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29781876/
  2. Deussen AR, Wladek C, Tuteja A, et al. Relief of pain due to uterine cramping/involution after birth. Cochrane Database Syst Rev. 2020 Oct 21;10(10):CD004908. doi: 10.1002/14651858.CD004908.pub3. PMID: 33078388. Available from: https://www.cochranelibrary.com/cdsr/doi/10.1002/14651858.CD004908.pub3/full
  3. 日本産科婦人科学会, 日本産婦人科医会. 産婦人科診療ガイドライン―産科編2023. [インターネット]. 2023年. [引用日: 2025年7月22日]. Available from: https://www.jsog.or.jp/activity/guideline/jsog-guideline
  4. こども家庭庁. 産後ケア事業について. [インターネット]. 2024年. [引用日: 2025年7月22日]. Available from: https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/0238af12-b583-4c09-9a67-0f2f7cb19c1c/028b6e96/20241120_councils_shingikai_seiiku_iryou_0238af12_04.pdf
  5. ガーデンヒルズウィメンズクリニック. 出産後に起こる陣痛「後陣痛」とは?メカニズムや緩和方法について【医師監修】. [インターネット]. [引用日: 2025年7月22日]. Available from: https://gh-womens.com/blog/archives/4821
  6. みやぎ生活協同組合. 【産婦人科医監修】後陣痛はいつまで続く?痛みのピークや和らげる対処法も紹介. [インターネット]. 2023年. [引用日: 2025年7月22日]. Available from: https://www.column.miyagi.coop/cat3/125
  7. 川崎医科大学. 産後の身体の変化. [インターネット]. [引用日: 2025年7月22日]. Available from: https://h.kawasaki-m.ac.jp/cgi-image/8225/8225_KBphJXGGOxLgJiKdbPaUYRmwyEFxKhFnRTPVNpHvWDBGhswKrq.pdf
  8. 厚生労働省. 令和2年(2020)医療施設(静態・動態)調査・病院報告の概況. [インターネット]. 2022年. [引用日: 2025年7月22日]. Available from: https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001118039.pdf
  9. ステムセル研究所. 帝王切開後にみられる後遺症7つ|原因や症状・対処法などを詳しく解説. [インターネット]. 2024年. [引用日: 2025年7月22日]. Available from: https://stmc.jp/article/caesarean-section-sequelae/
  10. トモニテ. 【医師監修】産後すぐの腹痛の原因は? [インターネット]. [引用日: 2025年7月22日]. Available from: https://tomonite.com/articles/4880
  11. キッズリパブリック. 出産後の子宮はどうなるの?ー見逃さないでほしい異常サインー. [インターネット]. [引用日: 2025年7月22日]. Available from: https://www.kidsrepublic.jp/pediatrics/premama/detail/190611.html
  12. こども家庭庁. 産後ケア事業ガイドライン. [インターネット]. 2024年. [引用日: 2025年7月22日]. Available from: https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/d4a9b67b-acbd-4e2a-a27a-7e8f2d6106dd/c9cfc841/20241030_policies_boshihoken_tsuuchi_2024_80.pdf
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