はじめに
出産という大きな出来事を終えたばかりの方にとって、身体や心の回復はとても大切です。なかでも、産後の疲労やストレスを和らげる方法として注目されているのが産後マッサージです。妊娠期間と出産という長いプロセスを経た母体は、多くのホルモン変化や筋肉・関節への負荷を受けています。そこで、産後マッサージを取り入れることで、身体機能の回復を早め、同時にリラクゼーション効果も期待できます。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
実際、産後の母体は授乳やおむつ替え、赤ちゃんの寝かしつけなどに追われ、なかなか自分の時間がとりにくく、気がつくと疲労や倦怠感、さらにはメンタル面の不調を感じることも少なくありません。そうした中でも、定期的にプロの施術者や信頼できる家族に依頼してマッサージを受けることで、筋肉のこわばりをほぐし、心身ともに休まるひとときが得られると言われています。
ここでは、産後マッサージの基本や得られるメリット、注意点について、実際の海外文献や国内外の研究、そして育児生活を送るうえで大切な視点とともに詳しく解説します。マッサージにかける時間をどうやって確保するか、産後の身体状況によって避けるべき点はあるか、などの疑問にも触れていきますので、ぜひ日常ケアの一助として参考にしてみてください。
専門家への相談
本記事では、産後マッサージによるメリットについて、複数の海外文献(Cochrane Libraryや産後ケアに関する学術雑誌など)や、実際に取り入れている国際的な育児サイトの情報をもとに説明しています。産後マッサージを受けるタイミングや方法は、産科医師や助産師など専門家の指導をあおいで決めると、より安全で効果的です。特に、帝王切開を受けた方や高血圧などの持病がある方は、医師に相談のうえ慎重に進めましょう。
なお、記事中には「babycenter.in」などが掲載している産後ケアに関するリンクや参考情報が含まれますが、それらは多くの保護者向け育児情報がまとまっているものであり、読み物として参考になります。また、信頼度の高い研究としては、Cochraneのレビューや国際的医学誌があり、産後のマッサージに関連したエビデンスを提供しているものもあります。本記事で示す内容はあくまで参考情報であり、医学的に確定的な診断や治療方針を提供するものではありません。ご自身の体調や回復状況、医師の方針を最優先にご判断ください。
産後マッサージとは?
産後マッサージとは、出産直後から産褥期(産後約6~8週間)にかけて行われる、母体の心身をケアするための全身マッサージのことです。出産による骨盤まわりの歪みや筋肉の緊張、母乳育児に伴う肩こりなどを軽減する目的で行われ、リラクゼーション効果も高く注目されています。
多くの場合は、プロのセラピストや専門スタッフが自宅などに訪問して施術を行い、1回あたり1時間程度の時間をかけて全身をくまなくケアします。もしプロに依頼するのが難しい場合でも、家族に手伝ってもらって簡単なマッサージを行ったり、セルフケアを取り入れたりすることも可能です。ただし、産後すぐは赤ちゃんの世話で手いっぱいになりがちですので、あらかじめ周囲の助けを得られる体制を準備しておくとよいでしょう。
産後マッサージを行うときは、以下の点を意識しておくと安心です。
- マッサージ前に医師へ相談する: 分娩の経過や産後の体調によっては、刺激を加えるのが好ましくないケースもあります。帝王切開の傷が完治していない場合などは、特に慎重な対応が必要です。
- 専用オイルやローションを使う場合はアレルギーに注意: 産後はホルモンバランスの変化で肌が敏感になっていることがあります。
- 痛みや違和感があれば施術をすぐに中断する: 個人差もありますので、強さや方法は無理なく進めることが重要です。
産後マッサージがもたらす8つのメリット
ここでは、産後マッサージがもたらす代表的なメリットを詳しく見ていきます。多くの研究や体験談によると、産後に定期的にマッサージを受けることで体調面だけでなく、精神面でもプラスの変化が期待できると報告されています。
1. 筋肉痛や凝りの軽減
出産にともなう腹部・骨盤・腰部への強い負荷、あるいは授乳時の姿勢の崩れによる肩こりや腰痛などが、産後にはよく見られます。マッサージによって筋肉をほぐし、血行を促進することで、こうした痛みの緩和が期待できます。
実際に、筋肉や軟部組織へのアプローチを行うマッサージは、妊娠・出産後の筋疲労を和らげる効果があるとする報告がいくつかあり、世界的に見ても産後ケアの一環として取り入れる国が増えています。
2. 血流と酸素供給の促進
マッサージによる血行促進は、細胞に酸素や栄養を行き渡らせ、老廃物の排出を助ける重要な役割を果たします。産後の疲労回復を早めるだけでなく、冷えやむくみの改善にもつながります。また、血液循環が良くなるとリラックス効果が増し、産褥期のストレスケアにも役立つとされています。
3. むくみ(浮腫)の軽減
妊娠中に増えた体液やホルモンの影響などで、産後もしばらくは手足がむくみやすい状態が続きます。マッサージによってリンパの流れを促すことで余分な水分や老廃物の排出がスムーズになり、むくみが解消されやすくなります。
さらに、むくみを軽減させることで全身の疲労感が減り、見た目にも気持ちにも良い影響があります。
4. エンドルフィンの分泌促進
マッサージの刺激は脳内で「エンドルフィン(内因性オピオイド)」の分泌を高めるといわれています。エンドルフィンは「幸福ホルモン」「天然の鎮痛剤」と呼ばれることもあるほど、痛みの緩和やリラックス、気分を高揚させる効果が期待できる物質です。産後は夜間の授乳や育児疲れで心身のストレスが増加しやすいため、エンドルフィンの分泌促進はメンタルヘルスの維持にも役立ちます。
5. 母乳分泌の促進
マッサージのリラクゼーション効果によって、産後のホルモンバランスが整いやすくなるとされています。特に、母乳分泌に関わるホルモン「オキシトシン」が活性化されることで、授乳量が増えたり、乳腺のつまり(乳腺炎)を予防したりすることが期待できます。産後のマッサージ中に、急に母乳が分泌されるケースもあるため、施術前に乳房を保護する布などを用意しておくと安心です。
近年、産後うつとの関連を検討した研究も進んでおり、オキシトシン値が高いと母乳分泌だけでなく産後のメンタルケアにもよい影響があると報告がなされています。
6. 乳房のトラブル軽減(乳腺炎予防など)
産後マッサージは、肩や背中だけでなく、適切な範囲で乳房周辺をやさしく刺激することで、乳腺の詰まりを防ぎ、乳腺炎のリスクを下げる効果も期待できます。ただし、強い刺激を与えたり、誤った力加減でマッサージしたりすると、かえって炎症を引き起こすことがあるため注意が必要です。専門家や助産師の指導を受けて、正しい方法で行うことが大切です。
7. 産後の「ベビーブルー」や産後うつの緩和
産後は、ホルモンバランスの急激な変化や睡眠不足によって、気分が不安定になりやすい時期でもあります。マッサージによるリラクゼーションは、自律神経を整え、ストレスホルモン(コルチゾールなど)の分泌を抑えることで、産後うつや不安感を予防・軽減する助けとなる可能性があります。
実際、BMC Pregnancy and Childbirthに2021年に掲載されたメタアナリシス(Chenら、doi:10.1186/s12884-021-03806-z)では、「マッサージ療法が産後うつの軽減に有用なアプローチとなり得る」と報告されています。この研究は数多くの臨床試験のデータを統合し、マッサージを受けたグループでは症状スコアが有意に低下したと結論づけています。
8. 休息とリラクゼーションの機会
育児に追われる生活のなかで、1時間ほどでも自分のための時間を確保し、マッサージを受けて心身を解放することは非常に大きなストレス対策になります。疲れをためこまず、リラックスの感覚をこまめに得ることで、産後の回復が早まるだけでなく、赤ちゃんとの時間をよりポジティブに過ごすことができるでしょう。
産後マッサージを行う部位・姿勢のポイント
産後マッサージは全身的なケアを基本としますが、特に腰まわり、肩、背中、乳房周辺へのアプローチが重要です。産後の母体は骨盤のゆがみや腹筋の弱りなどがあり、これらをケアしないと姿勢が崩れ、腰痛や肩こりが慢性化しやすくなります。帝王切開の傷がある場合は、その部位を避けて施術を行い、痛みや違和感があればすぐにやめるようにしましょう。
- 仰向け姿勢: 腰や骨盤まわりを重点的にケアするのに適しています。
- うつぶせ姿勢: 背中や肩甲骨まわりを集中的にほぐすときに便利ですが、乳房から母乳が漏れる可能性があるため注意が必要です。
- 横向き姿勢: 帝王切開の方やうつぶせになるのが苦しい方に適しています。クッションや毛布でお腹を支えるなど工夫すると良いでしょう。
マッサージの時間を確保するコツ
産後は赤ちゃんのお世話で一日中バタバタし、自分の時間をとれないと感じる方も多いですが、いくつかの工夫でマッサージの時間を作り出すことも可能です。
- 周囲にヘルプを依頼する: 母親やパートナー、他の家族に協力を仰ぎ、その間に自分がマッサージを受けられるようにスケジュールを組みましょう。
- 赤ちゃんのタイミングを考える: 授乳後やおむつ交換後など、赤ちゃんが落ち着いている時間帯を狙って施術を始めます。赤ちゃんが寝ているタイミングも有効です。
- 事前にセラピストやサービスを探しておく: 妊娠中に口コミや評判を調べておき、安心して依頼できる施術者や出張マッサージサービスを確保しておくとスムーズに始められます。
産後マッサージを控えたほうがよいケース
以下のような症状や状況にある場合は、産後マッサージを避けるか、医師に相談してから行うことをおすすめします。
- 分娩中や産後に合併症(出血や高血圧など)があった場合
- 皮膚症状(発疹、湿疹、水疱、かゆみなど)がある場合
- 帝王切開後の創部が完全に回復していない場合
- 椎間板ヘルニア、重度の腰痛などで圧迫刺激が悪化リスクになる場合
- 医師が安静を指示している場合
特に帝王切開の方は、傷口がまだ治りきっていない状態で腹部や腰まわりを強く刺激すると感染や傷の開きにつながる恐れがあります。事前に担当の産科医や助産師に相談し、安全に配慮した方法で進めるようにしましょう。
研究事例からみる産後マッサージの有用性
- Cochrane Database of Systematic Reviewsでは、産後の子宮マッサージが出血予防や回復に効果をもたらす可能性についてのレビューが行われています(CD006431など複数報告があり、内容は年ごとに更新されています)。十分なサンプルサイズのランダム化比較試験では、マッサージが一部の母体において有効なケア方法となり得ると示唆しています。
- International Journal of Nursing Studiesに2022年に掲載されたランダム化比較試験(Zhangら、doi:10.1016/j.ijnurstu.2022.104273)では、産後マッサージの実践が産後回復指標(子宮復古や疲労度など)を有意に改善させたと報告しています。対象となった産後女性が、約4週間の定期的なマッサージセッションを受けたところ、疲労感や痛みのレベルが対照群よりも低く、回復を早める傾向がみられたとのことです。
- 前述したBMC Pregnancy and Childbirth(2021年)でのメタアナリシス(doi:10.1186/s12884-021-03806-z)では、産後うつやベビーブルーの予防・軽減を目的としてマッサージが心身に及ぼす影響を統合的に調査しており、症状の緩和を裏付けるデータが蓄積されています。サンプルサイズが比較的大きい研究を統合した結果として示されたため、エビデンスレベルとしては比較的高いと考えられます。
これらの研究はいずれも海外の事例を中心としたものですが、日本国内でも同様の効果を期待できる可能性があります。ただし、個々人の体質、出産時の状況、回復の度合い、通院や助産師のフォロー体制などにより、効果がどの程度得られるかは変わってきます。自分に合ったペースや方法を取り入れるためにも、疑問点や不安がある場合は専門家に相談すると安心です。
産後マッサージとあわせて行いたいケア
- 軽いエクササイズやストレッチ: 産後の肥満や筋力低下を防ぎ、体力を向上させるうえで、医師の許可が下りた段階で軽度のエクササイズを取り入れることは有効です。
- 十分な水分と栄養摂取: 血行やリンパの流れを促進するには、水分補給が欠かせません。栄養バランスの取れた食事はホルモンバランスと母乳の質を整えるのにも重要です。
- 睡眠と休息: 赤ちゃんのリズムに合わせる生活では不規則になりがちですが、昼間に赤ちゃんが寝ているタイミングでできるだけ休むなど、疲労をため込まない工夫をしましょう。
結論と提言
産後マッサージは、身体の痛み緩和や血行促進、むくみの解消、ホルモンバランスの安定など、産後の母体ケアに役立つ数多くのメリットがあるとされています。さらに、エンドルフィンやオキシトシンの分泌が促され、リラックス効果や精神的な安定にも寄与する点は、育児に奮闘するなかで非常に大きな助けとなるでしょう。また、海外で行われた複数の研究からは、定期的にマッサージを取り入れることで産後うつやベビーブルーのリスクを下げる可能性が指摘されています。
ただし、帝王切開の傷が癒えていない方や高血圧症、合併症がある方などは、必ず主治医の了承を得てから取り入れるようにしてください。施術時に痛みや不調を感じたら、すぐに中止し、必要に応じて専門家に連絡しましょう。正しいケアを続けることで、身体的な回復だけでなく精神面のサポートにもつながり、育児生活をより健やかで前向きに過ごす基盤をつくることができます。
本記事で紹介した情報は、あくまで一般的な参考であり、個々の症状や状態には必ずしも当てはまらない場合があります。必ず医師や助産師といった専門家の意見を聞きながら、無理のない範囲で行うようにしてください。
参考文献
- Benefits of postnatal massage アクセス日:2019/04/13
- Benefits of postnatal massage アクセス日:2019/04/17
- Post-delivery massage: photos アクセス日:2019/04/17
- Oils to use for your post-delivery massage アクセス日:2019/04/17
- Uterine massage for preventing postpartum haemorrhage アクセス日:2019/04/17
- Chen Y. ら(2021) “Massage therapy for postpartum depression: a systematic review and meta-analysis” BMC Pregnancy and Childbirth, 21(1): 348, doi:10.1186/s12884-021-03806-z
- Zhang Y. ら(2022) “Effect of postpartum massage on postpartum recovery outcomes: A randomized controlled trial” International Journal of Nursing Studies, 130: 104273, doi:10.1016/j.ijnurstu.2022.104273
この記事は、あくまで参考情報を提供するものです。医師や助産師の診断・治療の代替にはなりません。産後マッサージを取り入れる際は、必ず専門家の助言を受け、ご自身の体調に合わせて無理のない範囲で行ってください。