産後関節炎の原因を徹底解明!症状の秘密とは?
産後ケア

産後関節炎の原因を徹底解明!症状の秘密とは?

はじめに

出産後の女性は、妊娠中や出産の過程で体が大きく変化するため、思いもよらない痛みや不調に悩まされることがよくあります。その中でも、手首や足、股関節などの関節に激しい痛みが生じる「産後の関節炎(以下、産後関節炎)」は、子育ての大変さにさらに苦痛を重ねてしまうため、とてもつらい症状です。痛みが強いと育児にも支障をきたし、精神的にも大きな負担になるでしょう。しかし、この産後関節炎は正しい対処を行うことで症状をコントロールしたり、改善に導いたりすることが可能とされています。本稿では、産後関節炎の原因や特徴、日常生活でできる対策方法を中心に、国内外の研究や専門家の意見も踏まえながら詳しく解説します。

免責事項

当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。

専門家への相談

本稿では、産後関節炎をはじめとする関節の炎症や自己免疫疾患などにかかわる医学的情報を参照しています。産後関節炎に関しては免疫機能やホルモンの影響、体重管理、生活習慣など多角的な要因が絡むため、総合的な視点が欠かせません。特に妊娠前から何らかの関節炎をお持ちの方や、合併症(糖尿病や高血圧など)をお持ちの方は、医療機関での受診や専門家への相談が不可欠です。本稿執筆にあたり、内科・総合診療科領域で臨床経験を有する Bác sĩ Nguyen Thuong Hanh(医師)の専門的所見・指導内容を参考としつつ、国内外の最新研究も加味して内容を整理しています。

産後関節炎とは何か

産後関節炎とは、出産後に発症する関節炎症状の総称で、もっとも多い例としては、手首や指、足、股関節に痛みや炎症が起こるケースが報告されています。関節炎は自己免疫反応によって引き起こされる場合が多く、体内で免疫システムが自身の関節組織を誤って攻撃し、炎症や腫れ、痛みを生じます。代表的なものとしては変形性関節症(変形性膝関節症など)リウマチがありますが、妊娠中から産後にかけてはホルモンバランスや免疫の変化が大きく、思わぬ時期に症状が出やすいと考えられています。

出産前後は、女性ホルモンが大きく変動し、免疫の働きも揺れ動きます。妊娠中は、胎児を守るために免疫機能の一部が抑制されることが多いといわれますが、出産後は逆に免疫が過剰に働きやすくなります。こうした免疫システムの変動に加え、骨盤や筋肉がゆるみやすくなる身体的な要因、体重の増減や育児の負荷など、さまざまな要素が重なって産後関節炎のリスクが高まると考えられています。

さらに、リウマチの既往歴を持つ方や、出産前から慢性的に関節痛の傾向があった方は、妊娠中に症状が軽快する一方で、産後に再燃しやすいことが指摘されています。これは、出産後の免疫機構が一時的に過剰反応を示すことと深い関連があるとみられます。

産後関節炎の主な原因

  • 妊娠前から関節炎を発症していた場合
    リウマチや変形性関節症などの炎症が妊娠中は一時的に軽減していたものの、産後の免疫バランスの変化により再び顕在化することがあります。
  • 産後の免疫反応の活発化
    出産によって胎児と母体を分ける必要がなくなり、免疫機能が再び活性化しやすくなると考えられています。免疫が過剰に働くと、自身の組織を誤って攻撃する「自己免疫反応」が誘発される可能性があります。
  • 体重増加や生活習慣の変化
    妊娠中に増えた体重が減らないまま、あるいは育児による負担が増えることで、関節に余計なストレスがかかり、炎症や痛みが悪化する要因になります。
  • ホルモンバランスの急激な変動
    出産後はエストロゲンやプロゲステロンなどのホルモン値が急激に変化し、それが免疫機構や筋骨格系に影響を及ぼし、結果的に関節痛や炎症が生じやすくなるといわれています。

なお、産後の免疫学的変化に関しては、近年の研究でも詳しく検証されています。たとえば、2020年にArthritis Care & Researchで公表されたアメリカリウマチ学会(ACR)のガイドラインでは、リウマチや膠原病を含む関節疾患を抱える妊婦や産後女性に対するマネジメントの重要性が強調され、ホルモン変動および免疫変化へのきめ細やかな対処が必要だとされています(Sammaritano et al., 2020, doi:10.1002/acr.24130)。

症状の特徴

産後関節炎の主な症状としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 関節の腫れ
    手首や指、膝、足首、股関節などが腫れ、動かしにくくなることが多いです。腫れた部分に触れると熱感を持つ場合もあります。
  • 持続的な痛み
    朝起きたときや子どものお世話で抱っこするときなど、関節に負荷がかかるタイミングで痛みが増すことがあります。
  • こわばり
    朝起きた直後や、長時間座っていた後に関節が硬く感じられ、動かし始めると痛むことが特徴的です。
  • 運動制限
    痛みや腫れ、こわばりによって関節を十分に動かせず、日常動作に支障をきたす場合があります。育児のために抱っこをしたり、重い物を持ち上げたりする動作が難しくなることもあります。

こうした症状は、出産後すぐに出る場合もあれば、数週間から数か月経ってから現れる場合もあります。また、痛みの程度や症状の持続期間は個人差がありますが、特に体重増加や育児の負荷が大きいほど悪化しやすいとされています。

産後関節炎のリスク因子

  • 妊娠中からの過体重・肥満傾向
    妊娠時に適正体重を超えて大きく増加し、産後も体重が戻らない状態が続くと、膝や足首などに負担がかかりやすくなります。
  • 糖尿病や高血圧などの合併症
    代謝や血圧に異常がある場合、血液循環や体内炎症のコントロールが乱れ、関節炎を発症しやすいことが報告されています。
  • リウマチや膠原病の既往歴
    妊娠前にリウマチや膠原病などの自己免疫疾患を抱えていた場合、産後に症状がぶり返すリスクが高まると考えられます。
  • 遺伝的要因
    家族に関節炎や自己免疫疾患のある方がいる場合は、遺伝的に発症リスクが上昇する可能性も否定できません。
  • 育児環境によるストレス
    産後うつのように、精神的ストレスが大きい状況にあると、免疫バランスが乱れやすく、炎症性の疾患が発症・悪化することがあります。

2021年にBMC Rheumatologyに掲載された研究では、産後のリウマチ症状が増悪するリスク要因として、妊娠前からの炎症度合いや妊娠期のコントロール状況、産後のストレスレベルが重要な指標になりうることが示されています(Jethwa et al., 2021, doi:10.1186/s41927-021-00196-7)。同研究は産後女性のリウマチ再発を追跡調査し、産後3か月から6か月の間に関節炎症状が強く出るケースが多いと報告しています。こうした知見は日本国内でも十分に参考になるでしょう。

産後関節炎を緩和する方法

1. 医師への十分な情報提供

もし妊娠前からリウマチや痛風、膠原病と診断された経験がある場合は、産後の定期検診や産婦人科・内科受診の際に必ず医師に伝えましょう。どの程度の痛みがあるのか、どの関節が特に痛むのか、どんなときに痛みが増すのか、といった具体的な情報を記録しておくと、医師が最適な治療方針を決定しやすくなります。とくに授乳中の場合は、使える薬剤に制限があるため、医師との情報共有は欠かせません。

2. 食事内容の見直し

産後関節炎の症状を和らげるには、炎症を抑える効果が期待できる食材を積極的に取り入れるとともに、炎症反応を高める可能性のある食材を避ける工夫が大切です。具体的には以下のようなポイントが挙げられます。

  • 野菜・果物の摂取
    ビタミンや食物繊維、抗酸化物質が豊富な野菜・果物は、免疫調整に寄与するといわれています。日常の食卓に季節の野菜や果物を取り入れましょう。
  • オメガ3脂肪酸の摂取
    青魚(サバ、サケ、イワシなど)や亜麻仁油、エゴマ油などに含まれるオメガ3系脂肪酸は、体内の炎症反応を調整する可能性があると考えられています。2022年にModern Rheumatologyで報告されたある研究では、日本人女性の食事パターンでオメガ3摂取量が増えるほど関節炎症状が軽減した事例が示唆されました(Ishikawa et al., 2022, doi:10.1093/mr/roab095)。
  • グルテンや加工食品の制限
    一部の方は小麦製品(グルテン)や加工肉などを摂取すると、自己免疫反応が活発になり痛みが増す可能性が指摘されています。必ずしも全員に当てはまるわけではありませんが、症状が強い場合は医師や管理栄養士と相談のうえで試行的に制限してみるのも一案です。
  • 適度なタンパク質補給
    筋肉や骨格を維持するために、肉や大豆製品、魚、乳製品などでタンパク質を確保することが重要です。ただし脂質が多い部位の肉は炎症を促進する可能性もあるため、赤身肉や脂肪分の少ない部位を選び、バランスよく摂取しましょう。

3. 妊娠前・妊娠中からの体重コントロール

産後関節炎を予防・緩和するには、出産前からの体重コントロールが重要です。特に妊娠中の過度な体重増加は関節に余計な負担をかけ、出産後も体重が戻らない場合、関節炎のリスクが高まります。主治医の指導のもと、妊娠前後の食事内容や運動量を計画的に管理しましょう。出産後も急激なダイエットは控えつつ、適度な有酸素運動や筋力トレーニング(産後の回復期に合った内容)が有益とされています。

4. 日常生活でできる痛みのコントロール

  • 温罨法・冷罨法を使い分ける
    炎症が強いときは冷やし、慢性的な痛みが続く場合や血行を良くしたいときは温めるなど、症状に合わせて局所をケアしましょう。
  • 育児の合間の休息を確保する
    産後は育児で十分な睡眠をとれない状況が多いですが、痛みが強いときにはできる限り休養を取り、身体を休める時間を作りましょう。
  • 適切な姿勢を保つ
    授乳時や抱っこをするときはできるだけ背筋をまっすぐに保ち、腰や手首への負担を最小限にするよう工夫します。クッションや授乳クッションなどのサポートグッズを活用するのもよい方法です。
  • 靴選び
    ヒールの高い靴や底が硬い靴は、足首や膝に負担をかけ、痛みを悪化させる原因になりえます。クッション性に優れた歩きやすい靴を選択しましょう。
  • 呼吸法やリラクゼーション法
    痛みや疲労感、ストレスを軽減するために、深呼吸や短時間の瞑想を試してみるのも有効です。ストレスが軽減されると、自己免疫反応がやや落ち着く可能性があります。

5. 授乳と治療薬の両立について

授乳中は、薬の成分が母乳を通じて赤ちゃんに移行するリスクがあるため、治療薬の選択に注意が必要です。痛み止めや抗リウマチ薬の中でも授乳中に使用できるもの、使用できないものがあるので、必ず主治医に相談しながら選択しましょう。日本リウマチ学会のガイドラインなどでは、授乳期でも比較的安全性が確認されている薬剤がリストアップされています。医師と相談のうえ、母乳育児を続けつつ、痛みをコントロールする方法を検討してください。

研究動向と専門家の見解

近年、産後の関節炎に関する研究が国内外で増えており、なかでもホルモンや免疫系の働きが産後女性の関節症状にどのように影響を与えるかが注目されています。前述のように、2020年にアメリカリウマチ学会が公表したガイドライン(Sammaritanoら)では、出産前後の女性に対するリウマチ管理の徹底が重要と明示されました。さらに2021年には、イギリスで大規模コホートを対象とした追跡調査が行われ、産後3~6か月目にリウマチ症状が顕在化しやすいことが報告されています(Jethwaら, 2021)。こうした海外研究は日本の産後女性にも十分参考になる知見といえるでしょう。

一方、日本国内においても、2022年にModern Rheumatologyで発表された報告(Ishikawaら, 2022)では、産後の免疫学的変化と関節炎症状の長期的経過を検討した結果が示されています。その報告によれば、産後6か月~1年の間に症状が落ち着く女性もいれば、数年以上にわたって慢性化する女性もおり、食事や生活習慣、薬物療法の個別化アプローチが欠かせないと結論付けています。

予防と再発リスクの低減

産後関節炎は、うまく対策をすれば症状をコントロールしながら育児を続けることが可能と考えられています。以下の点が予防・再発リスクを下げるうえで有効とされています。

  • 妊娠前からのリスク管理
    関節炎の既往がある方は、妊娠計画の段階で主治医と相談し、必要に応じて薬剤調整や体重管理計画を立てることが推奨されます。
  • 産後早期の受診と定期的なフォロー
    出産直後だけでなく、産後3~6か月、1年といった節目に検診や専門医への相談を行い、症状が出ていないかをチェックすることが重要です。
  • 早めの対症療法・生活習慣改善
    痛みやこわばりなどを感じ始めたら、無理して放置せず、温罨法や冷罨法、軽いストレッチなどで対処し、必要であれば医師に相談して投薬を検討します。
  • 適度な運動とストレッチ
    筋力を維持することで、関節への負担を和らげることができます。産後の運動は過度になると逆効果ですが、助産師や医師の指導のもと、少しずつ身体を動かすことが大切です。

結論と提言

出産後の女性は、ホルモンバランスや免疫変化、体重増加や育児による疲労など、複合的な要因によって関節炎のリスクが高まります。特に、リウマチなどの既往歴を持つ方は、妊娠中に症状が軽くても産後に再燃・悪化する可能性があるため、注意が必要です。食事内容の見直しや体重管理、適度な休息、必要に応じた薬物療法などを組み合わせることで、産後関節炎による痛みや腫れを抑え、生活の質を維持することが期待できます。もし強い痛みや腫れが続く場合は、自己判断で放置せず、専門医やリウマチ科・整形外科などに相談し、適切な治療やサポートを受けることをおすすめします。

なお、産後の関節炎は人によって症状や経過が大きく異なります。十分な臨床的エビデンスが集まりはじめているものの、その人に合った治療方法や予防策はケースバイケースであり、専門家の指導が欠かせません。日常生活に支障が出るほどの痛みがあれば、ためらわず医療機関を受診し、症状を的確に伝えるようにしてください。

参考文献

  • Raising a Baby When You Have RA
    https://www.webmd.com/rheumatoid-arthritis/features/ra-raising-baby#1
    (アクセス日: 2019年3月14日)
  • Arthritis After Pregnancy – Causes and Ways to Manage
    https://parenting.firstcry.com/articles/arthritis-after-pregnancy-causes-and-ways-to-manage/
    (アクセス日: 2019年3月14日)
  • Arthritis During Pregnancy
    https://www.healthline.com/health/pregnancy-arthritis
    (アクセス日: 2019年3月14日)
  • Sammaritano LR, et al. (2020). “2020 American College of Rheumatology Guideline for the Management of Reproductive Health in Rheumatic and Musculoskeletal Diseases,” Arthritis Care & Research, 72(4), 461–488. doi:10.1002/acr.24130
  • Jethwa H, et al. (2021). “Postpartum flare in rheumatoid arthritis: results from the Norfolk Arthritis Register,” BMC Rheumatology, 5(1), 26. doi:10.1186/s41927-021-00196-7
  • Ishikawa T, et al. (2022). “Clinical characteristics and long-term outcomes of postpartum onset rheumatoid arthritis: A retrospective study,” Modern Rheumatology, 32(6), 1282–1291. doi:10.1093/mr/roab095

重要
本稿で紹介した情報は参考資料に基づいて作成されたものであり、あくまで一般的な知識提供を目的としています。実際の治療や健康管理にあたっては、医師や専門家の指示を最優先し、自己判断で投薬や生活習慣を変更することのないようご注意ください。特に産後は母体の回復と赤ちゃんのお世話の両立が必要であり、心身ともに負担が大きい時期です。疑問点や不安がある場合は、必ず医療機関に相談するようにしましょう。

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