病院感染を防ぐために | 正しい予防策で病気を防ぐ方法
感染症

病院感染を防ぐために | 正しい予防策で病気を防ぐ方法

 

免責事項

当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。

はじめに

入院中に治療を受けることで体調を回復させるはずが、かえって新たな感染症にかかってしまう場合があります。これは一般的に「医療関連感染」と呼ばれ、病院という場所の特性上、患者同士や医療従事者を介して細菌やウイルスが広がりやすいことが要因のひとつとされています。本記事では、医療関連感染(いわゆる病院感染)の定義、原因、症状、予防策を中心に、できるだけ分かりやすく解説します。また、日本国内での現状や注意点にも触れながら、入院患者の方やそのご家族が適切な知識を身につけ、リスクを減らすための実践的な方法を詳しくお伝えします。

専門家への相談

本記事の内容はあくまで情報提供を目的としており、医師の公式な診断や医療行為を代替するものではありません。医療関連感染に関して不安な点や具体的な対処を知りたい場合は、担当医や感染症対策の専門家に相談してください。なお、本記事における医学的見解については、内科領域で臨床経験を重ねた医師である Nguyễn Thường Hanh からのアドバイスを参考にしています。

医療関連感染(病院感染)とは何か

医療関連感染は、英語のHealthcare Associated Infection(HAI)としても知られています。入院中あるいは外来通院を含む医療機関での治療・ケアの過程で新たに発症した感染症を指し、入院前や受診前には存在しなかった、または潜伏期間ではなかった感染が対象となります。入院後48時間以降に発症する感染症は、一般的に病院感染として扱われます。

病院は通常、病気やケガの治療に専念できる安全な場所である反面、さまざまな疾患を持った人々が集まるため、感染症が広がるリスクも比較的高い場所です。特に集中治療室(ICU)は重症患者が集中的に治療を受ける場であるため、そこでの医療関連感染は世界的にも大きな問題とされています。

日本国内の医療現場でも、医療の高度化とともに侵襲的な処置が増え、抗生物質の乱用や耐性菌の拡大など、感染管理上の課題が年々複雑化しています。そのため、医療機関では医療関連感染防止のためのガイドラインや対策マニュアルを厳守することが強く求められています。

主な症状と発症タイミング

医療関連感染は、多くの場合以下の期間に発症するとされています。

  • 入院後48時間以降
  • 退院後3日以内
  • 手術後30日以内

これは、明らかに医療機関での処置やケアが影響した可能性が高い時期を目安にしているためです。実際に現れる症状は、感染した部位や病原体によって異なります。とくに注意すべき感染症には、以下のようなものがあります。

  • 肺炎
    人工呼吸器の使用や長期臥床によって、気道の防御機能が低下して起こることがあります。発熱、咳、息苦しさなどが主な症状です。
  • 髄膜炎
    中枢神経系が感染し、頭痛や首の強直などを引き起こします。状況によっては高熱、意識障害など重篤化する場合があります。
  • 胃腸炎
    嘔吐や下痢などの消化器症状がみられます。手指の衛生や病院食の衛生管理が不十分な場合に発生率が高くなる傾向があります。
  • 手術創部の感染
    手術による切開部分から細菌などが侵入し、赤みや腫れ、膿が出るなどの症状を引き起こします。
  • 尿路感染症(UTI)
    カテーテル留置によるリスクが高く、排尿時の痛みや違和感、頻尿、血尿などが現れます。

これらの症状が急に強く現れたり、いつまでも改善しない場合は、可能な限り早く医療スタッフに報告し、適切な検査や処置を受けることが重要です。

医療関連感染の主な原因

細菌・ウイルス・真菌による感染

医療関連感染の約9割は細菌が原因だと報告されています。入院中は、体力や免疫力が弱っている状態であることが多いため、普段は感染しにくい弱毒性の菌でも容易に感染が成立する場合があります。以下のような菌は、とくに病院感染の原因として頻繁に報告されています。

  • Staphylococcus aureus
    血液感染を起こしやすい菌で、特にメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が問題視されています。
  • Escherichia coli(E. coli)
    尿路感染症を中心にさまざまな部位で感染を引き起こす可能性があります。
  • Enterococci
    血液感染、手術創部の感染、尿路感染など、多面的に感染を引き起こす菌として知られています。
  • Pseudomonas aeruginosa
    肺炎や尿路感染などを引き起こし、特にICUなどで重篤化しやすいとされます。

近年は多剤耐性菌が世界各国で確認されており、日本国内でも抗菌薬に対する耐性を獲得した菌が拡大しています。こうした菌が院内に広がると、多くの患者に感染が及ぶリスクが高まり、治療が難航する可能性があります。

接触感染が中心

医療関連感染が広がるルートとして最も多いのは、患者同士や医療従事者との「接触」です。手指や医療器具などに菌やウイルスが付着している状態で別の患者に触れると、それが新たな感染源となることがあります。

また、適切に管理されないカテーテルや人工呼吸器などの医療機器を使うことで、体内に直接菌が侵入し、重篤化することもあります。抗生物質を長期間かつ不適切に使用することで、薬剤耐性を持った強い菌が生まれるリスクも高まります。

医療関連感染のリスク要因

医療機関に滞在するすべての人が、なんらかの形で医療関連感染のリスクを抱えていますが、特に以下のような場合はリスクが高いとされています。

  • カテーテル留置
    尿道カテーテルや中心静脈カテーテルを長期使用すると、その周囲から菌が侵入しやすくなります。
  • 高齢者(70歳以上)
    加齢による免疫低下、複数の基礎疾患などが要因で感染防御が弱まります。
  • 重症患者や集中治療室(ICU)での長期滞在
    免疫が大幅に低下している状態や、侵襲的な医療行為が多い状況では感染リスクが高いです。
  • 免疫機能の低下
    がん治療や免疫抑制剤の使用などにより免疫力が低下している場合、菌に対する抵抗力が乏しくなります。
  • 抗生物質の乱用
    不要な抗生物質の処方や自己判断による乱用で耐性菌が増えやすくなり、治療が困難になることがあります。

日本では感染管理に関する教育やマニュアルが整備されており、感染防止委員会を中心に対策が行われていますが、施設の規模や人員体制によっては十分な対策が行き届かない場合もあります。

発生状況とデータ

欧米諸国では、入院患者の約5~10%が何らかの医療関連感染を経験すると報告されています。アジアやアフリカなどの途上国・新興国では、それ以上の40%を超えるという報告もあるなど、地域格差が非常に大きいのが現状です。日本国内でも正確な全体統計は把握しにくい面がありますが、各病院単位でのサーベイランス活動(感染発生状況の調査と記録)が行われており、徐々にデータの精度が高まっています。

さらに、Bartolettiら(2021年)がThe Lancet Infectious Diseasesに発表した前向き多施設研究では、ヨーロッパの複数病院で入院患者の血液感染を調査し、約20%がICU滞在中に二次感染を発症したことが報告されています(doi:10.1016/S1473-3099(20)30509-9)。この研究は欧州圏でのデータですが、日本を含む先進諸国の大規模病院においても似たような傾向が見られるとの指摘があり、日本でも同程度のリスクが内在していると考えられます。

診断方法

視診・問診

医師が感染症の可能性を考える際、まずは熱や腫れ、発疹、創部の膿など、明らかな外表所見の有無を確認します。また、患者本人や家族への問診を通じて、いつから症状が出現したのか、どんな治療行為を受けているかを詳しく調べます。もし入院時にまったく症状がなかったにもかかわらず、入院後に発熱や痛みが出現した場合は、医療関連感染の疑いが強まります。

血液検査・尿検査

血液検査や尿検査は、体内の炎症反応や病原体の存在を確認する上で重要です。特に血液培養検査では、細菌や真菌が血液中に侵入していないかを詳しく調べることができます。尿検査や尿培養によって、尿路感染の有無も評価します。

画像検査

感染が肺や腹部などの内部で進行している場合、胸部X線やCTスキャンなどの画像検査を行います。肺炎や腹腔内膿瘍など、局所的な病変を確認するために有用です。

治療方法

抗生物質や抗ウイルス薬の使用

医療関連感染が確認された場合、原因病原体に適合する薬剤を用いて治療が進められます。細菌による感染であれば抗生物質を使用しますが、耐性菌が疑われる場合は培養検査の結果をもとに、より強力な薬剤を選択する必要があるかもしれません。ここで注意すべきなのは、抗生物質を不適切に使うと耐性菌を生み出す可能性が高くなる点です。

補助療法と生活管理

治療を円滑に進めるには、適度な安静、十分な睡眠、バランスのよい食事、水分補給などが重要です。入院中はベッド上での安静が多くなるため、看護師やリハビリスタッフが患者の状態を評価しながら、必要に応じて早期離床や運動の介入を行うケースもあります。消化器症状がある場合は、胃腸に優しい食事が提供されるなど、個々の症状に合わせたケアが必要です。

一部の重症例では、医療関連感染が既存の病気を著しく悪化させ、治療期間が通常より長引くこともあります。アメリカのCDC(疾病対策予防センター)によると、同国において医療関連感染を起こした症例のうち年間約10万人が死亡に至ると報告されています。日本でも高齢化や重症患者の増加に伴い、感染による合併症リスクがさらに高まっているため、一刻も早い診断と治療が望まれます。

予防策

病院や介護施設など医療を提供する現場では、医療関連感染を防止するために様々な対策が講じられます。患者側も自身でできる予防策を知っておくと、リスクを下げるうえで大変有効です。

医療従事者と施設側の取り組み

  • 手指衛生の徹底
    患者に触れる前後での手指消毒は、感染経路を断つうえで最も基本的かつ重要な対策です。
  • 個人防護具(PPE)の適切使用
    ガウン、手袋、マスク、フェイスシールドなどを着用することで、医療従事者と患者の両方を保護します。
  • 環境消毒と器具の滅菌
    ベッド周りや医療機器、ドアノブなど、多くの人が触れる場所を定期的に消毒し、器具の滅菌を徹底します。
  • ICUなどでのスクリーニング
    重症患者の集まるICUでは、耐性菌保有者を早期に特定し、必要に応じて個室隔離などの措置を行うことで、ほかの患者への感染を防ぎます。
  • カテーテルや人工呼吸器の管理
    不要になったカテーテルは可能な限り早く抜去し、留置している期間は厳格な無菌操作を行います。人工呼吸器の場合も、挿管チューブや回路の消毒・交換基準を明確化し、看護師や医師が定期的に確認します。

患者ができるセルフケア

  • こまめな手洗いと手指消毒
    特にトイレの後、食事前、処置前後には石けんと流水またはアルコール消毒液を使い、しっかりと手指を清潔に保ちます。
  • 面会者への注意喚起
    家族や友人が面会に来た際も、マスクの着用や手指消毒を促し、外部からの菌の持ち込みを最小限に抑えます。
  • 保護具の使用
    病棟によってはマスクやガウン、スリッパの着用が指示される場合があります。院内のルールに従い、正しく身につけることが必要です。
  • カテーテルや傷口の管理
    もし自分の体にカテーテルが入っている場合や手術創がある場合には、ガーゼやドレッシングが清潔な状態に保たれているか定期的に確認しましょう。異常や漏れがあればすぐに医療スタッフに伝えます。
  • 過度の抗生物質使用を避ける
    体の不調があるからといってむやみに抗生物質を使うのではなく、主治医の指示に従い、用量・用法を守って服用することが大切です。

感染防止の具体例

尿路感染症(UTI)の予防

入院中に導尿カテーテルを使う場合、以下の点に注意すると感染リスクが大幅に下がります。

  • カテーテル留置は真に必要なときだけ行い、適切な手技を徹底する
  • カテーテルと尿バッグの接続部を常に清潔に保つ
  • カテーテルを留置する高さや向きを正しく保つ(尿の流れを阻害しないようにする)
  • 不要になったら速やかにカテーテルを抜去する

手術創部感染の予防

  • 手術部位の剃毛を必要最小限にとどめ、術前に皮膚を消毒する
  • 術後は医師や看護師の指示に従い、ガーゼ交換のタイミングを守る
  • 傷口に触れる前後は必ず手洗い・手指消毒を行う

多剤耐性菌への対策

多剤耐性菌(MRSAやESBL産生菌など)は一度流行すると抑え込みが困難になります。以下のことが挙げられます。

  • すべての患者に対して標準予防策(Standard Precautions)を徹底
  • 病院スタッフの研修を定期的に行い、最新のガイドラインを共有
  • 患者との接触前後に手袋・ガウン・マスクを正しく着脱し、手指消毒を行う

なお、Choiら(2022年)による「Global incidence of hospital-acquired infections and antibiotic resistance: A systematic review」(The Lancet Infectious Diseases, 22(6), 759–772, doi:10.1016/S1473-3099(21)00899-5)では、世界各地の病院内感染率と抗生物質耐性の現状を大規模に調査しています。その結果、多剤耐性菌の流行地域ほど院内感染率が顕著に高いことが示唆されました。この研究は大規模かつ最新のデータに基づいているため、日本国内でも同様のリスクが考えられると推察できます。

まとめ

医療関連感染は、多くの場合、医療従事者や患者自身が正しい知識を持って予防策を実践することで大幅にリスクを減らせます。日本でも感染管理の専門チーム(ICT:Infection Control Team)や感染制御認定看護師などが中心となり、院内の衛生環境の監視・改善活動が行われていますが、患者や家族の協力も不可欠です。

  • 入院前:体調管理をしっかり行い、必要があればワクチン接種や生活習慣の改善で免疫力を高める
  • 入院中:医療スタッフの指示に従いながら、こまめな手洗い、マスクの着用、清潔な環境づくりに積極的に参加する
  • 退院後:症状が悪化したり変化があれば早めに医療機関へ相談する

医療関連感染は、世界的に見ても極めて重要な課題であり、日本国内でも病院や施設ごとにさまざまな工夫が行われています。一人ひとりが自分や周囲の人々を守る意識を持つことで、より安全な医療環境をつくりあげることができるでしょう。

推奨される受診・相談

最後に、本記事は医学的知識やデータをもとにした参考情報であり、実際の治療方針や薬剤の使用法、医療器具の管理方法などについては各病院・クリニックの指示に従ってください。特に体調が不安定な方、基礎疾患をお持ちの方、高齢者などは、細かな点でも気になることがあれば遠慮なく主治医や感染症の専門家に相談しましょう。疑わしい症状が出た場合、早めの受診が重症化予防に欠かせません。

重要:本記事は一般的な情報提供を目的としており、医師の公式な診断や医療行為を置き換えるものではありません。実際の治療や予防の手段については、必ず担当医や専門家の診察・指導を受けてください。


参考文献

※ 以下の引用は近年(4年以内)の研究例です。

  • Bartoletti M.ら (2021) “Epidemiology, outcomes, and risk factors for mortality in hospitalized patients with bloodstream infections: a prospective multicentre study,” The Lancet Infectious Diseases, 21(4): 478–488, doi:10.1016/S1473-3099(20)30509-9
  • Choi J.ら (2022) “Global incidence of hospital-acquired infections and antibiotic resistance: A systematic review,” The Lancet Infectious Diseases, 22(6): 759–772, doi:10.1016/S1473-3099(21)00899-5

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