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痔核の脱出:原因から最新治療、費用まで【専門医監修エビデンス集】

痔核(じかく)、いわゆる「いぼ痔」の脱出は、多くの人が悩む一般的な疾患ですが、その重症度に応じた多様な治療選択肢が存在します。本稿では、日本の診療ガイドラインと国際的な科学的根拠(エビデンス)に基づき、生活習慣の改善から、ALTA療法のような低侵襲治療、そして根治を目指す手術療法までを網羅的に解説します。各治療法の利点、欠点、費用、保険適用について正確な情報を提供し、患者さん一人ひとりが最適な治療を選択するための一助となることを目指します。

この記事の科学的根拠

本記事は、日本の公的機関・学会ガイドラインおよび査読済み論文を含む高品質の情報源に基づき、出典は本文のクリック可能な上付き番号で示しています。

  • 日本の診療指針: 日本大腸肛門病学会の「肛門疾患診療ガイドライン2020年版」を治療の基本方針としています。1
  • 国際的なエビデンス: Cochrane Libraryなどのシステマティックレビューに基づき、各治療法の有効性と安全性を客観的に評価しています。2

要点まとめ

  • ALTA療法(ジオン注)は、術後の痛みが少なく日帰りも可能なため、脱出する内痔核に対する日本の低侵襲治療の主流です。34
  • 結紮切除術は、根治性が最も高く再発が少ない日本の標準手術ですが、術後の痛みが強いという欠点があります。15
  • PPH法は、術後の回復が早いものの長期的な再発率が高く、日本では施行される機会が減少傾向にあります。67
  • 食物繊維の摂取は、全ての痔核治療の基本であり、出血や症状の改善に有効であることが科学的に示されています。2
  • 標準的な痔核治療は公的医療保険の適用対象であり、自己負担額の目安はALTA療法で約2~3万円、結紮切除術で約2~4万円です。38

痔核の脱出とは?症状と重症度分類

排便時に何かが出てくる、あるいは常に出たままになっている。その正体は多くの場合、肛門の内側にある静脈叢(じょうみゃくそう)がこぶ状に腫れた「内痔核」です。その気持ち、とてもよく分かります。なぜなら、この症状は多くの人が経験するものの、場所が場所だけに、なかなか相談しづらいからです。

科学的には、この「脱出」の程度が治療法を決める上で最も重要な物差しとなります。これは、建物の階数によって避難経路が変わるのに似ています。低い階なら階段で十分ですが、高層階からは特別な避難器具が必要になるかもしれません。同様に、痔核もその「階数」、つまり重症度によって最適な「避難経路」、つまり治療法が変わるのです。そのため、まずはご自身の状態がどの段階にあるかを知ることが、解決への第一歩となります。「日本大腸肛門病学会, 2020, ガイドライン」1

Goligher分類による重症度評価

内痔核の重症度は、脱出の程度に応じて国際的に用いられるGoligher(ゴリガー)分類によって、Ⅰ度からⅣ度の4段階に分けられます。これは治療方針を決定する上で非常に重要な指標となります。1

  • Ⅰ度: 排便時に出血するが、脱出はしない。
  • Ⅱ度: 排便時に脱出するが、自然に元に戻る。
  • Ⅲ度: 排便時に脱出し、指で押し込まないと戻らない。
  • Ⅳ度: 常に脱出したままで、指で押し込んでも戻らない。

このセクションの要点

  • 内痔核の重症度は、排便時の「脱出」が自然に戻るか、手で戻す必要があるか、常に出たままか、によって4段階に分類されます。
  • このGoligher分類は、患者さんと医師が治療方針を決定するための共通の物差しとして、極めて重要です。

保存的治療:生活習慣の改善と薬物療法

「手術はなるべく避けたい」「まずは自分でできることから試したい」。そう考えるのは、ごく自然なことです。実際に、全ての痔核治療は手術が前提ではなく、生活の中に改善のヒントが隠されています。その背景には、痔核の多くが排便時の「いきみ」という物理的な圧力によって悪化するという単純な原理があります。

消化管を川の流れに例えるなら、便は川を下る船です。食物繊維は、この船がスムーズに進むための「十分な水量」を確保するような役割を果たします。水量が足りないと船は川底に引っかかり、無理に押す力(いきみ)が必要になります。だからこそ、まず生活習慣、特に食事を見直すことが、根本的な解決への近道となるのです。実際に、複数の臨床試験を統合した国際的な研究機関Cochrane Libraryの2005年の解析では、食物繊維を多く摂ることで、痔による出血や全体的な症状が約半分に減少することが示されています2

生活指導と食事療法

全てのグレードの痔核治療の基本として、食物繊維の豊富な食事(野菜、果物、海藻、きのこ類など)と十分な水分摂取が推奨されます。これにより便が軟らかくなり、排便時のいきみを減らすことができます。これは、「日本大腸肛門病学会, 2020, ガイドライン」1でも、国際的なエビデンス2でも一貫して支持されている最も重要な対策です。

今日から始められること

  • 毎日の食事に、野菜サラダや具だくさんの味噌汁など、食物繊維が豊富な一品を加えてみましょう。
  • 朝起きた時にコップ一杯の水を飲むなど、意識的に水分を摂る習慣をつけましょう。
  • 市販の軟膏や坐剤を使用する場合は、薬剤師に相談し、症状に合ったものを選び、長期間の使用は避けましょう。

低侵襲治療(外来・日帰り):ゴム輪結紮術と硬化療法

保存的治療で改善しない場合でも、すぐにメスを入れるわけではありません。「仕事が休めない」「入院は避けたい」という現代人のニーズに応えるため、医療は大きく進歩しています。特に日本では、注射によって痔核を固めて小さくするALTA療法(アルタりょうほう)が広く普及しています。

この治療法は、例えるなら、壁に開いた穴を特殊な充填剤で埋めてしまうようなものです。メスで壁を壊すのではなく、原因となっている部分に直接働きかけて縮小させるため、体への負担(侵襲)が非常に少ないのが特徴です。その結果、術後の痛みがほとんどなく、日帰りや短期の入院で治療を終えることが可能になりました。「京都民医連中央病院」3などの多くの医療機関で実施されており、2023年の学術レビューでもその有効性が報告されています4

硬化療法(ALTA療法・ジオン注)の日本における位置づけ

ALTA療法(販売名: ジオン注)は、4つの段階(四段階注射法)に分けて薬剤を正確に注射することで、痔核への血流を減らし、線維化を促して痔核を縮小・硬化させる治療法です。グレードⅡ度からⅣ度の脱出を伴う内痔核に有効で、術後の痛みが極めて少ないため、日本では低侵襲治療の主流となっています。「日本大腸肛門病学会, 2020, ガイドライン」1でも有用な選択肢とされています。

今日から始められること

  • ご自身の痔核がALTA療法の対象となるか、まずは日本大腸肛門病学会のウェブサイトなどで専門医を探し、相談してみましょう。
  • ALTA療法は全ての施設で受けられるわけではないため、事前に医療機関のウェブサイトなどで実施しているか確認することが重要です。

手術療法:結紮切除術とPPH法

「手術」と聞くと、強い痛みや長い入院生活を想像し、不安になるかもしれません。その気持ちはもっともです。しかし、手術にも様々なアプローチがあり、それぞれに目的と特徴があります。科学的には、最も確実な結果を求めるのか、それとも術後の快適さを優先するのか、というトレードオフが存在します。

この選択は、家のリフォームに似ています。結紮切除術(けっさつせつじょじゅつ)は、問題のある柱や壁を基礎から完全に取り除く「本格的な改築」です。工事は大変ですが、最も頑丈で長持ちします。一方で、PPH法は、たるんだ壁紙を特殊な器具で引き上げて固定するような「簡易的なリフォーム」です。見た目は早くきれいになりますが、根本的な構造は変わらないため、またたるんでくる可能性があります。どちらが良いかは、家の状態と住人の希望によって決まります。同様に、痔核の手術も、患者さんの状態とライフスタイルに合わせて最適な方法を慎重に選ぶことが大切です。「J Korean Soc Coloproctol, 2012, レビュー」5

結紮切除術(LE):日本の標準的根治術

結紮切除術(Ligation and Excision)は、脱出する痔核の根元を縛って(結紮)、その先のこぶを切除する方法です。根治性が最も高く、再発率が低いことから、日本の進行痔核に対する標準手術(ゴールドスタンダード)とされています。「日本大腸肛門病学会, 2020, ガイドライン」1。ただし、術後の痛みが他の方法に比べて強いことが欠点であり、その点を比較したCochrane Libraryの2005年の解析でも指摘されています9

PPH法(ステープラー痔核固定術)の評価と現状

PPH法は、特殊な自動吻合器を用いて、たるんだ直腸粘膜を円周状に切除・縫合し、脱出した痔核を上方に引き上げて固定する手術です。結紮切除術に比べて術後疼痛が少なく、社会復帰が早い利点があります。しかし、複数のランダム化比較試験を統合した「Dis Colon Rectum, 2007, システマティックレビュー」6によると、1年以上の経過で見た場合に脱出が再発する確率が結紮切除術よりも有意に高い(オッズ比3.48)ことが示されています。そのため、現在の日本の臨床現場では、実施される傾向が減少しています。「安藤外科」7

自分に合った選択をするために

結紮切除術(LE): 根治性を最も重視し、再発のリスクを最小限にしたい方に適しています。術後の一定期間の痛みを許容できる方が対象となります。

PPH法: 長期的な再発リスクを理解した上で、術後の痛みや早期の社会復帰を最優先したい場合に検討されますが、現在日本では主流の選択肢ではありません。

安全性、副作用、合併症のリスク

どんなに効果的な治療法でも、リスクがゼロということはありません。治療を選択するということは、その効果(ベネフィット)と潜在的なリスクを天秤にかけることです。その気持ち、よく分かります。事前にリスクを正確に知っておきたいと思うのは当然のことです。

このバランス感覚は、天気予報を見て傘を持っていくかどうか決めるのに似ています。降水確率が90%なら、ほとんどの人が傘を持っていきます。しかし、10%ならどうでしょう。濡れるリスクを許容して、身軽さを選ぶ人もいるでしょう。医療におけるリスクも同様で、発生頻度や重症度は治療法によって異なります。例えば、結紮切除術後の痛みは比較的高頻度で起こりますが、多くは一時的なものです。一方で、まれではあっても、より深刻な合併症の可能性も存在します。これらの情報を総合的に理解し、ご自身の価値観に照らし合わせて判断することが、後悔のない選択につながります。「日本大腸肛門病学会, 2020, ガイドライン」1

外科的治療の合併症

外科的治療には、術後の出血、強い疼痛、創傷治癒の遅延、そしてまれに肛門が狭くなる肛門狭窄(こうもんきょうさく)などの合併症リスクが伴います。特に、前述の通り結紮切除術は術後の痛みが強いことが知られています9。「J Korean Soc Coloproctol, 2012, レビュー」5でも、これらのリスク管理の重要性が議論されています。

受診の目安と注意すべきサイン

  • 我慢できないほどの激しい痛みや、排便と関係のない持続的な出血がある場合。
  • 脱出した痔核が戻らなくなり、激しく腫れて痛む「嵌頓(かんとん)痔核」が疑われる場合。
  • 発熱を伴う肛門の腫れや痛みがある場合。

よくある質問

お尻を見せるのが恥ずかしくて病院に行けません。

そのお気持ちは非常によく分かります。しかし、肛門科の医師や看護師は毎日多くの患者さんを診察しているプロフェッショナルであり、プライバシー保護にも最大限配慮しています。一時的な羞恥心よりも、長引く痛みや不快感から解放されるメリットの方がはるかに大きいと考える方がほとんどです。勇気を出して一歩を踏み出すことが、解決の始まりです。

手術は痛いですか?仕事はどのくらい休む必要がありますか?

治療法によって大きく異なります。ALTA療法のような注射治療は、術後の痛みがほとんどなく、日帰りまたは一泊程度の入院で済み、デスクワークであれば翌日から復帰できる場合も多いです。3 一方で、結紮切除術は術後の痛みが数週間続くことがありますが、こちらも入院期間は短期化しています。ご自身の仕事内容やライフスタイルに合わせて、最適な治療法を医師と相談することが重要です。1

治療費はどのくらいかかりますか?保険は使えますか?

はい、日本で行われる標準的な痔核の手術やALTA療法は、公的医療保険の適用となります。73 自己負担額(3割負担の場合)の目安として、ALTA療法が約2~3万円、結紮切除術が約2~4万円程度です。さらに、医療費が高額になった場合には、高額療養費制度を利用して自己負担額の上限を抑えることも可能です。

手術しても再発するのではないですか?

治療法によって再発率は異なります。根治性が最も高いとされる結紮切除術の再発率は非常に低いですが、ゼロではありません。15 痔核の根本的な原因は生活習慣にあるため、治療後も便秘や下痢を避け、排便習慣を整えることが再発予防には不可欠です。

結論

痔核の脱出は、多くの選択肢の中から自分に合った治療法を選べる時代になっています。生活習慣の改善という土台の上に、痛みの少ないALTA療法から根治を目指す結紮切除術まで、多様な選択肢が存在します。重要なのは、症状を放置せず、正確な情報に基づいて専門医に相談することです。本記事で提供した、日本の診療ガイドライン1と国際的なエビデンス96に基づく情報が、あなたの不安を和らげ、最適な一歩を踏み出すための助けとなることを願っています。

免責事項

本コンテンツは一般的な医療情報の提供を目的としており、個別の診断・治療方針を示すものではありません。症状や治療に関する意思決定の前に、必ず医療専門職にご相談ください。

参考文献

  1. 日本大腸肛門病学会. 肛門疾患(痔核・痔瘻・裂肛)・直腸脱診療ガイドライン2020年版. 南江堂; 2020. [インターネット] リンク [有料] (引用日: 2025-09-19).
  2. Alonso-Coello P, Guyatt G, Heels-Ansdell D, et al. Laxatives for the treatment of haemorrhoids. Cochrane Database Syst Rev. 2005;(4):CD004649. [インターネット] リンク (引用日: 2025-09-19).
  3. 京都民医連中央病院. ALTA療法(ジオン注). [インターネット] リンク (引用日: 2025-09-19).
  4. Abe T, Hachiro Y, Eto K, et al. Surgical treatment for advanced hemorrhoids in the 21st century. Ann Coloproctol. 2023;39(1):3-11. [インターネット] リンク (引用日: 2025-09-19).
  5. Lohsiriwat V. Recent trends in the management of hemorrhoids. J Korean Soc Coloproctol. 2012;28(1):3-7. [インターネット] リンク (引用日: 2025-09-19).
  6. Tjandra JJ, Chan MK. Systematic review on the procedure for prolapse and hemorrhoids (stapled hemorrhoidopexy). Dis Colon Rectum. 2007;50(6):878-92. [インターネット] リンク (引用日: 2025-09-19).
  7. 安藤外科. PPH法(痔の手術). [インターネット] リンク (引用日: 2025-09-19).
  8. 辻仲つくば胃と大腸内視鏡・肛門外科クリニック. 痔核の手術と保険適用. 2025. [インターネット] リンク (引用日: 2025-09-19).
  9. Shanmugam V, Thaha MA, Rabindranath KS, et al. Rubber band ligation versus excisional haemorrhoidectomy for haemorrhoids. Cochrane Database Syst Rev. 2005;(3):CD005034. [インターネット] リンク (引用日: 2025-09-19).

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