はじめに
歯の治療の中でも、とくに神経(歯髄)まで及ぶ問題は放置すると激しい痛みや大きな合併症を引き起こす可能性があります。その代表例が根管治療(いわゆる「歯の神経を取る」治療)です。本記事では、根管治療がなぜ必要になるのか、どのような手順で行われるのか、治療中に痛みはあるのかなど、さまざまな疑問を包括的に解説します。さらに、治療後の歯を長く健康に保つためのケアや注意点についても詳しく述べます。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
多くの方は「神経を取る治療は痛そう」「どれくらい時間がかかるのだろう」など不安を抱えるかもしれません。しかし、近年の歯科医療の進歩や麻酔技術の発達により、適切な処置を受ければ痛みを最小限に抑えることが可能とされています。この記事を通じて、痛みに関する懸念がある方にも、治療に前向きに取り組んでいただける知識をお届けできればと思います。
専門家への相談
本記事で扱う情報は、歯科医療における一般的な知見や公的機関・歯科専門組織などのガイドラインをもとにまとめています。加えて、本記事にはThạc sĩ – Bác sĩ Albert Lê Khôi Việtによる専門的なアドバイスが含まれています。実際の症状や状況は個人差が大きく、複雑な要因がからむ場合もありますので、治療の判断や細部の検討には必ず歯科医師や医療専門家に直接相談してください。
根管治療とは何か
根管治療とは、歯の内部にある歯髄(しずい)と呼ばれる神経や血管などの軟組織が炎症を起こしたり、感染を起こしたりした場合に、その歯髄組織を取り除き、内部を洗浄し、最終的に詰め物(充填)をして封鎖する治療です。一般には「歯の神経を取る治療」と呼ばれ、重度のむし歯や歯髄炎症などで歯髄が回復不可能な状態になったときに行われます。
歯髄は歯の中心部にあるため、本来は歯を守るエナメル質や象牙質などの層によって外部の細菌や刺激から保護されています。しかし、深いむし歯などによってこれらの保護層が破壊されてしまうと、細菌が歯髄内に侵入し、感染(炎症)を起こします。そこで歯髄の除去が必要になるケースでは、根管治療が唯一の救済策となる場合が多いのです。
歯髄が感染したまま放置すると、強い痛み、歯根の先端に膿がたまる、顎の骨にまで炎症が広がるなどの深刻な状態へ発展し、最終的には歯そのものを失う恐れもあります。逆に、適切な時期に根管治療を受ければ、その歯を残せる可能性が高まります。
いつ根管治療が必要か
軽度の歯髄炎(可逆性歯髄炎)
比較的軽度の炎症の場合、歯髄がまだ回復できる可能性があります。この段階では、むし歯による一時的な歯のしみや痛みを感じることがありますが、痛みの程度はそれほど強くはなく、熱い・冷たい・甘い・硬いものを噛んだときに痛む程度にとどまります。歯科医院でむし歯を削ったうえで詰め物(コンポジットレジンなど)をすることで、歯髄が温存されるケースも少なくありません。
重度の歯髄炎(不可逆性歯髄炎)
むし歯や細菌感染がさらに進行し、歯髄が元に戻らないほど損傷している状態です。激しい痛みが続く、夜間にずきずき痛む、何もしていなくても痛みが引かない、といった症状が典型例です。強い痛みによって眠れない・食事ができないなど生活に支障をきたすこともあります。この段階になると、歯髄内の神経をすべて除去し、根管内部をきれいに洗浄・消毒しない限り、症状が改善しないため根管治療が不可欠となります。
炎症が根尖や顎骨にまで波及している場合
さらに放置した結果、炎症や感染が歯の根の先(根尖部)や顎の骨(歯槽骨)にまで広がって膿がたまったり、歯ぐきが腫れたりすることがあります。歯が浮いたように感じ、少しでも触れると激痛が起こるケースもあります。こうした重症例では緊急で根管治療を行うことが望ましいです。場合によっては根管治療だけでなく外科的処置が必要になることもあるため、専門的な診断を早急に受ける必要があります。
根管治療でどんなことをするのか
1. 診察・レントゲン検査
まず歯科医師による診察を行い、レントゲン撮影などでむし歯や感染の広がり具合、歯根の本数や長さ、歯や周囲組織の状態を詳しく確認します。ここで感染や炎症がどの程度進行しているかを把握することが、適切な治療方針を立てるうえで非常に重要です。
2. 麻酔と洗浄
根管治療中の痛みを抑えるために、局所麻酔を行います。近年の歯科麻酔は針や麻酔液などの技術が向上し、患者が感じる痛みを最小限に抑えることが可能になりました。麻酔後は、むし歯部分や周辺の汚れ・細菌を取り除きながら、根管内部にアプローチします。
3. デンタルラバーダム(ラバーダム)の装着
細菌が多く存在する口腔内から歯を隔離し、治療中に唾液や道具が入らないようにするため、ラバーダム(デンタルラバーダム)と呼ばれるゴムのシートを患歯周囲に装着します。これにより、治療中の安全性が高まり、治療後の感染リスクを低減できます。
4. 根管内の清掃・消毒・形成
歯髄が入っていた根管内を細い器具(リーマーやファイル)を使って丁寧に削っていき、感染している歯髄組織を除去します。その後、根管を拡大・形成しながら内部をしっかり洗浄し、消毒液(次亜塩素酸ナトリウムなど)を用いて細菌を減らす工程を行います。細心の注意を払って少しずつ進めるため、このプロセスには時間がかかる場合があります。
5. 根管充填(詰め物)
根管内部をきれいにしたら、空洞を根管充填材(ガッタパーチャ)などで密封します。内部に細菌が入り込まないよう、確実に封鎖することが極めて重要です。根管を封鎖しないまま放置すると、再度感染が進むリスクがあります。最後に、詰め物の上から補綴物(かぶせ物)や詰め物をして歯を補強し、噛む機能を回復させます。
根管治療は痛いのか?――よくある疑問
治療中の痛み
「神経を取るから痛そう」と考える方も多いですが、実際のところ、治療中は局所麻酔を十分行うため、痛みはほとんど感じない場合が多いです。むしろ、放置していると激しい痛みが続く不可逆性歯髄炎より、根管治療を受けたほうが痛みは軽減するとされています。
治療後に麻酔が切れたあと、歯ぐきや歯の周囲に軽い痛みや違和感を覚えることもありますが、これは治療後の炎症反応による一時的なものです。ほとんどの場合、市販の鎮痛薬や処方された痛み止めで対処でき、数日以内に症状が落ち着きます。
治療後の再感染や痛み
治療後しばらくしてから、歯や歯ぐきにまた痛みや腫れを感じる場合は、根管内にまだ残存した細菌が増殖している可能性や、新たに感染が起こった可能性があります。そうした場合はすぐに歯科医院を受診し、追加の洗浄・再治療(再根管治療)が必要かどうかを確認することが大切です。
治療にかかる回数・期間
通常は2~3回ほど通院し、1回あたり約45~60分程度かかることが多いです。しかし、歯の状態や患者の体調、根の形態、炎症の広がりなどで回数や所要時間が変動します。根管が複雑に湾曲している臼歯(奥歯)は前歯よりも時間がかかることが多いでしょう。
根管治療の費用
根管治療の費用は、公的健康保険を利用するかどうか、また治療を行う歯科医院の方針や設備、治療材料の種類によって異なります。日本国内の場合、健康保険が適用される治療内容なら、自己負担は3割程度(国民健康保険・社会保険などに加入の場合)。
ただし、保険診療でカバーされない材料や特別な処置を選択すると、自由診療扱いになり、自己負担額が大きくなることがあります。また、歯の状態によっては被せ物(クラウン)を作製する場合もあり、その費用も考慮しなければなりません。治療開始前に費用の目安をしっかり確認し、不明点は歯科医院に相談しておくと安心です。
治療後に気をつけること
根管治療後の歯は神経を失っているため、血流がほぼなく、痛みを感じにくい特徴があります。適切に充填・修復されていれば、歯としての機能は十分に保てるのですが、神経がない分、外部からの刺激や力に対する感覚が鈍くなりがちです。そこで、以下のポイントに注意する必要があります。
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過度の噛みしめに注意
神経がないので痛みの信号が減り、強く噛みしめても気づきにくいことがあります。無意識に歯を食いしばる癖がある方は、歯ぎしり用のマウスピースなどを検討すると良いでしょう。 -
定期検診で再感染を防ぐ
根管治療を終えた歯は、再感染により炎症がぶり返すリスクがあります。定期的に歯科医院でX線撮影や口腔内のチェックを受け、異変があれば早期に対処することが重要です。 -
クリーニングとセルフケア
治療した歯の周囲にプラークや歯石がたまると、歯ぐきの炎症や二次感染を引き起こしやすくなります。日々のブラッシング、デンタルフロスや歯間ブラシ、必要に応じて洗口液などを使ったセルフケアを丁寧に行いましょう。 -
硬いものの噛みすぎに注意
神経がない歯は、割れたり欠けたりしても痛みに気づきにくいことがあります。硬い食品や氷、あるいは金属製の箸やフォークなどをかむ癖がある方は注意が必要です。
根管治療の成功率と歯を守る意義
根管治療は、歯科医療の中でも難易度が高い部類に入りますが、適切な治療技術と感染制御を徹底すれば、高い成功率を期待できるとされています。世界的にも根管治療後の歯は、10年、15年、場合によってはそれ以上に機能を維持できる可能性があります。
一方で、もし歯の状態が悪化し、保存が不可能と判断されれば抜歯が必要になることもあります。歯を失うと、入れ歯やブリッジ、インプラントなどで補綴する選択肢がありますが、自分の天然歯を残せるに越したことはありません。特に噛み合わせの安定や顎骨の変形防止などの観点からも、自分の歯を最大限長く保つ意義は非常に大きいのです。
よくある質問と専門的なポイント
治療後に痛みがぶり返した場合
治療後すぐに痛みが出た場合は、術後の炎症反応であることが多いのですが、数日以上続くようであれば、再感染や充填不良などが起こっているかもしれません。その際は早めに歯科医院を受診し、追加の処置が必要かどうかを評価してもらうとよいでしょう。
神経を取った歯が変色することはある?
歯髄がなくなると、時間の経過とともに歯が暗く変色する場合があります。特に外傷を受けた歯や再治療を繰り返している歯は変色しやすい傾向があります。見た目が気になる場合は、セラミッククラウンを被せるなど審美面を考慮した方法も検討されます。
妊娠中でも根管治療はできる?
妊娠中にどうしても治療が必要な場合は、胎児への影響が少ない時期(安定期など)に治療を計画することが一般的です。レントゲン撮影や麻酔が必要な場合も防護具を使用するなど配慮が行われるため、歯科医師に事前に相談し、適切なタイミングで治療を行うことが望ましいです。
参考文献
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- Root canal treatment (アクセス日:2021年9月21日)
- What is a Root Canal? (アクセス日:2021年9月21日)
- Root canal treatment (アクセス日:2021年9月21日)
- Toothache (Pulpitis) in Children (アクセス日:2021年9月21日)
- Pulpitis Pain: What Causes Pulpitis? Symptoms, Pain Relief, Treatment (アクセス日:2021年9月21日)
結論と提言
根管治療(歯の神経を取る治療)は、深刻なむし歯や歯髄感染が起きた際に、歯を残すために不可欠な処置です。適切な麻酔と近年の歯科医療技術の進歩によって、治療時の痛みは過度に心配する必要がないほどコントロールできるようになっています。むしろ激しい痛みを伴う不可逆性歯髄炎を放置するリスクを考えると、早めの治療が望ましいでしょう。
治療後は再感染を防ぐための日常的な口腔ケアや定期検診が欠かせません。神経がない歯は自覚症状が出にくい分、過度な力やむし歯の再発に気づきにくい特性があります。丁寧なブラッシングやデンタルフロス、定期的な歯科受診によって、治療した歯を長期的に健康に保つことが十分可能です。
重要なのは、疑わしい症状を放置しないことです。痛みや腫れがある場合は早めに歯科医院を受診し、状態に応じて根管治療などの適切な処置を受けるようにしましょう。
本記事の情報は、国内外の公的機関や専門家が公開している知見、そしてThạc sĩ – Bác sĩ Albert Lê Khôi Việtによる医学的なアドバイスに基づいたもので、あくまで一般的な参考情報を提供することを目的としています。実際の症状や治療方針は個々の患者さんの状態によって異なりますので、何か気になる症状がある場合は必ず医師や歯科医師などの専門家に直接ご相談ください。以上が本記事の結論と提言ですが、読者の皆さまの健康に役立つ情報となれば幸いです。