発達障害・自閉症の子どもの社会参加を支える:保護者と支援者のための包括的ガイド
小児科

発達障害・自閉症の子どもの社会参加を支える:保護者と支援者のための包括的ガイド

お子様の発達について、他の子と少し違うかもしれないと感じたり、集団生活での困難さに直面したりすることで、保護者の方々が不安や孤立感を抱えることは決して少なくありません。発達障害は、生まれつきの脳機能の違いによるものであり、決して親の育て方や本人の努力不足が原因ではありません1。現代の日本社会では、発達障害への理解と支援の輪が着実に広がりつつあります。この記事は、発達障害、特に自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)のあるお子様が、その子らしい豊かさ(ウェルビーイング)を実現し、社会の一員として安心して暮らしていくために、保護者や支援者の方々が知っておくべき正確な情報、利用できる公的支援、そして具体的な関わり方のヒントを、科学的根拠に基づいて包括的に解説します。一人で悩まず、正しい知識をコンパスとして、お子様の可能性を最大限に引き出すための一歩を共に踏み出しましょう。

要点まとめ

  • 発達障害は、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)などを含む、生まれつきの脳機能の違いによる障害です。その特性や困難さの表れ方は一人ひとり異なり、「個性」の延長線上にある多様な状態として理解することが重要です12
  • 日本には、「発達障害者支援法」という法律に基づき、国、都道府県、市区町村が連携する多層的な支援体制が整備されています。これには、相談窓口となる「発達障害者支援センター」や、保育所などを巡回して支援する専門員の配置などが含まれます13
  • 支援の基本は、早期発見・早期支援と、一人ひとりの子どもの特性やニーズに合わせた個別のアプローチです。環境を分かりやすく整える「構造化」や、本人の自己肯定感を育む関わり方が、子どもの安心感と成長につながります45
  • 子どもの成長には、家庭が安心できる基盤であることが不可欠です。保護者自身のケアも大切にし、一人で抱え込まず、学校、医療機関、地域の支援機関といった「支援の三角形」で連携していくことが、子どもと家族双方のウェルビーイング(幸福)にとって極めて重要です6

1. 発達障害とは?:多様な「育ち方の個性」を理解する

発達障害は、育て方や環境が原因で起こるものではなく、生まれつきの脳機能の発達の違いによって生じるものです1。これらの障害は、多くの場合、幼少期にその特性が明らかになります。日本の「発達障害者支援法」では、具体的に「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害(LD)、注意欠如・多動性障害(ADHD)その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの」と定義されています1。重要なのは、これらの障害が「スペクトラム(連続体)」であるという視点です。つまり、障害の特性やその程度は一人ひとり大きく異なり、明確な境界線を引けるものではありません2。また、知的障害を伴う場合や、複数の発達障害を併せ持つことも珍しくありません2

1.1. 自閉スペクトラム症(ASD)の主な特性

国立精神・神経医療研究センター(NCNP)によると、自閉スペクトラム症(ASD)は、①相互的な対人関係やコミュニケーションの困難さと、②限定的・反復的な行動、興味、活動という2つの大きな特性によって定義されます2。言葉の発達に遅れが見られる場合もあれば、知的な遅れがなく、むしろ特定の分野で非常に優れた知識を持つ「アスペルガー症候群」と呼ばれるタイプもあります1。しかし、言葉の遅れの有無にかかわらず、相手の気持ちを察したり、その場の空気を読んだり、言葉の裏の意味を理解したりすることが苦手な傾向があります7。また、急な変化や慣れない場所に対して強い不安を感じたり1、特定の物事や手順に強いこだわりを見せたり、音や光、触覚などの感覚が過敏または鈍麻であったりすることも特徴の一つです48

1.2. 注意欠如・多動症(ADHD)の主な特性

注意欠如・多動症(ADHD)は、その名の通り、「不注意」「多動性・衝動性」を主な特性とします12。これらの特性は、学校や家庭など、複数の場面で見られます。「不注意」の特性としては、集中力が続かない、忘れ物や紛失物が多い、ケアレスミスが多い、話を聞いていないように見える、などが挙げられます1。「多動性・衝動性」の特性としては、じっとしていられない、席を離れてしまう、おしゃべりが過ぎる、順番を待てない、他の人の会話や活動に割り込んでしまう、といった行動が見られます1。成人期になると、身体的な多動性は落ち着くことが多いですが、不注意や衝動性は持続し、計画性のなさや感情のコントロールの難しさとして表れることがあります2

1.3. 「ウェルビーイング」の視点と「過剰適応」への注意

発達障害のある子どもを支援する上で、近年日本でも重視されているのが「ウェルビーイング(Well-being)」という考え方です9。これは、単に身体的・精神的に健康であるだけでなく、社会的に満たされ、人生に幸福や生きがいを感じている状態を指します。支援の目的は、子どもの「できないこと」を訓練して克服させることだけではありません。むしろ、その子の特性を理解し、強みを伸ばしながら、安心して自分らしく生きていける環境を整えることで、その子のウェルビーイングを高めることが目指されます10
一方で、注意が必要なのが「過剰適応(かじょうてきおう)」という問題です。これは、発達障害のある人が、周囲に合わせようと無理をしすぎて、本来の自分を過度に抑えつけてしまう状態を指します11。特にASDのある人に見られる、困難さを隠すための「社会的カモフラージュ」は、精神的に大きな負担となり、やがては燃え尽き症候群や二次的な精神疾患につながる危険性があります11。周囲がその子の「できること」や「頑張り」だけを見て、背景にある困難さや目に見えない努力に気づかないと、無意識のうちに過剰適応を強いてしまうことになりかねません。強みを認めつつも、困難さに対する配慮と支援を継続することが不可欠です。

表1:主な発達障害(ASD・ADHD)の概要
障害名(日本語) 診断上の主な特徴 具体的な行動特性の例 理解における注意点
自閉スペクトラム症
(Jihē Supekutoramu Shō)
相互的な対人関係・コミュニケーションの困難さ、限定的・反復的な行動や興味2 言葉の遅れ、比喩や皮肉が分からない、視線を合わせるのが苦手、急な変化への強い不安、特定の物事への強いこだわり、感覚の過敏さまたは鈍麻14 知的障害の有無にかかわらず存在する。特性の表れ方は個人差が非常に大きい「スペクトラム」である1
注意欠如・多動症
(Chūi Ketsujo・Tadō Shō)
年齢や発達に不相応な不注意、および/または多動性・衝動性の持続2 不注意: 集中困難、忘れ物が多い、ケアレスミス、整理整頓が苦手1
多動・衝動性: じっとしていられない、おしゃべりが止まらない、順番が待てない1
本人のやる気やしつけの問題ではなく、脳機能の違いによるもの。成人期には多動性が減ることもあるが、不注意や衝動性は残りやすい2

2. 日本における支援の仕組み:一人で悩まないための羅針盤

日本では、発達障害のある人とその家族を支えるため、法律に基づいた多層的な支援体制が全国的に整備されています。これらの仕組みを知ることは、保護者が孤立せず、適切な支援につながるための第一歩です。

2.1. 法的基盤:発達障害者支援法

2005年4月に施行された「発達障害者支援法」は、日本の支援体制の根幹をなす法律です1。この法律は、発達障害が社会的に十分に理解されておらず、本人や家族が様々な困難に直面している状況を踏まえ、乳幼児期から成人期までの一貫した支援体制を整備し、個々の特性に応じた支援を提供することを目的としています。国民の発達障害への理解を深めることも、この法律の重要な柱の一つです1

2.2. 地域における支援の中核機関

実際の支援は、厚生労働省の方針のもと、各地域で具体的な形となって展開されています。保護者の方が直接関わる可能性のある主要な機関は以下の通りです。

表2:日本における主な発達障害支援機関・制度
支援機関・制度の名称 主な実施主体 主な役割・提供サービス 参照元
発達障害者支援センター
(Hattatsu Shōgaisha Shien Sentā)
都道府県・指定都市 発達障害に関する様々な相談に応じる総合的な窓口。本人や家族からの相談、発達支援、就労支援、情報提供などを行う23 2, 3
児童発達支援センター/事業所
(Jidō Hattatsu Shien Sentā / Jigyōsho)
市区町村、社会福祉法人など 障害のある未就学児を対象に、日常生活における基本的な動作の指導や、集団生活への適応訓練などを提供する療育の場69 6, 9
巡回支援専門員整備事業
(Junkai Shien Senmon’in Seibi Jigyō)
市区町村 専門員が保育所や放課後児童クラブなどを定期的に訪問し、障害の早期発見や子どもへの関わり方について、現場の職員や保護者に助言を行う3 3
発達障害者支援地域協議会
(Hattatsu Shōgaisha Shien Chiiki Kyōgikai)
都道府県・指定都市 地域の医療、保健、福祉、教育、労働などの関係機関が連携し、支援体制の課題や整備について協議する場3 3

これらの機関は、それぞれが独立して機能するのではなく、相互に連携(れんけい)しながら支援ネットワークを構築しています。例えば、児童発達支援センターは、子どもが地域の保育所や幼稚園へスムーズ移行できるよう、移行先の施設と支援内容を共有する「後方支援」の役割を担います6。また、巡回支援専門員は、保育所の先生方と協力して、個々の子どもへのより良い関わり方を考えてくれます3。保護者の方は、まずお住まいの市区町村の役所(子育て支援課など)や、都道府県の発達障害者支援センターに問い合わせることで、これらの支援ネットワークへの入り口を見つけることができます。

3. 社会参加への道のり:子どもたちが直面する困難

発達障害のある子どもたちが社会で生きていく上では、その特性に起因する様々な困難が伴います。これらの課題は、単に「わがまま」や「空気が読めない」といった言葉で片付けられるものではなく、脳機能の違いから生じる、本人にとっては切実な困難です17。これらの挑戦を理解することは、効果的な支援の第一歩となります。

3.1. コミュニケーションと対人関係の壁

発達障害、特にASDのある子どもたちは、言葉そのものだけでなく、非言語的なコミュニケーション(アイコンタクト、表情、身振りなど)の理解や使用に困難を抱えることがあります8。相手の意図を察したり、会話の間を読んだり、冗談や皮肉を理解したりすることが苦手なため、知らず知らずのうちに相手を不快にさせてしまったり、一方的に自分の興味のあることばかりを話してしまったりすることがあります12。これにより、友人関係を築く上でつまずいてしまうケースは少なくありません。

3.2. 感覚の過敏さ・鈍麻さという見えない困難

感覚の特性も、社会生活を送る上で大きな障壁となり得ます。例えば、聴覚が過敏な子は、教室のざわめきや給食の食器の音といった、他の人が気にならないような音でも耐え難い苦痛を感じることがあります4。また、視覚が過敏な場合は、蛍光灯のちらつきや多くの情報が目に入ってくる場所が苦手だったり、触覚が過敏な場合は、特定の衣服の素材や人に触られることを極端に嫌がったりします8。これらの感覚の問題は、外からは見えにくいため、「我慢が足りない」「神経質すぎる」と誤解されがちですが、本人にとっては深刻な困難であり、パニックや不適応行動の引き金となります。

3.3. こだわり・常同行動と変化への不安

特定の物事や手順に対する強いこだわりや、同じ行動を繰り返す「常同行動」もASDの特性の一つです2。決まったルートで登校する、毎日同じ服を着たがるなど、これらの行動は本人に安心感と予測可能性を与えます8。しかしその裏返しとして、予定の急な変更や、いつもと違う出来事に対して非常に強い不安やストレスを感じ、混乱してしまうことがあります1。こうした困難を理解せず、無理に変更を強いると、子どもの不安を増大させるだけになってしまいます。

4. 科学的根拠に基づく支援戦略:子どもと環境に働きかける

子どもの社会参加を支えるためには、本人の努力だけに頼るのではなく、科学的根拠に基づいた支援戦略を子どもと環境の双方に対して行っていくことが重要です。ここでは、日本でも実践されている代表的な支援方法を紹介します。

表3:主な療育・教育的支援アプローチの概要
支援アプローチ(日本語) 主な原則・手法 主な目的 主な対象 参照元
環境の構造化
(Kankyō Kōzōka)
時間や空間、活動内容を、視覚的な手がかり(絵カード、スケジュール表など)を用いて、子どもにとって分かりやすく、見通しが持てるように整理する。 混乱や不安を減らし、子どもが安心して活動に取り組めるようにする。自立的な行動を促す。 主にASDのある子ども 4, 6
応用行動分析
(Ōyō Kōdō Bunseki – ABA)
行動を分析し、「ほめる」などの肯定的な働きかけ(強化)によって、望ましい行動を増やし、不適切な行動を減らしていく。 コミュニケーション、社会的スキル、学習スキルなどを段階的に教える。問題行動の低減。 主にASDのある子ども 6, 12
ソーシャルスキルトレーニング
(Sōsharu Sukiru Torēningu – SST)
ロールプレイング(役割演技)などを通じて、挨拶、順番を待つ、断り方といった具体的な社会的スキルを練習する。 対人関係を円滑にし、集団生活への適応を促す。 社会的スキルに困難のある子ども(ASD, ADHDなど) 6, 13
ペアレント・トレーニング
(Pearento Torēningu – PT)
保護者が子どもの特性と行動の背景を理解し、肯定的な関わり方(ほめ方、指示の出し方など)を学び、実践する。 子どもの望ましい行動を増やし、親子関係を改善する。保護者のストレスを軽減する。 発達障害のある子どもの保護者(特にADHD, ASD) 2, 14

これらの支援法は、一つの方法だけが万能というわけではありません。例えば、SSTで社会的スキルを学んでも、実際の教室が感覚的に過酷な環境であれば、子どもはそのスキルを発揮することができません15。そのため、子どものスキルを育てるアプローチ(ABA, SST)と、環境を調整するアプローチ(構造化)を組み合わせ、一人ひとりの子どもの状態に合わせて個別支援計画を立てていくことが極めて重要です6。また、これらの療育アプローチは、子どもの行動を無理やり「普通」に矯正するためのものではなく、子どもが社会でより生きやすくなるためのスキルと自信を育むことを目的としています12

薬物療法について

薬物療法は、発達障害そのものを「治す」ものではありません。しかし、特にADHDの不注意や多動性・衝動性の症状が、環境調整や行動アプローチだけでは管理が難しく、本人の学校生活や社会生活に著しい支障をきたしている場合に、症状を緩和する目的で検討されることがあります2。ASDの場合、薬は中核的な症状ではなく、併存する強いこだわり、かんしゃく、不眠、または不安やうつといった二次的な精神的問題に対して用いられることがあります2。薬の使用は、必ず専門医がその必要性、効果、副作用を慎重に判断した上で行われます。

研究段階にあるアプローチ(注意点)

近年、発達障害の症状緩和に関連して、様々な栄養素や天然成分に関する研究が報告されています。例えば、コエンザイムQ10(ユビキノール)1617やタウリン1819が酸化ストレスを軽減する可能性、あるいはイチョウ葉エキス(Ginkgo Biloba)がADHDの補助療法として有効である可能性を示唆する研究もあります20。しかし、これらの研究の多くはまだ予備的な段階にあり、その有効性や安全性は確立されていません。保護者の方が自己判断でこれらのサプリメントをお子様に与えることは、予期せぬ健康被害を招く危険性があるため、絶対におやめください。いかなる治療やサプリメントの使用も、必ず主治医に相談することが不可欠です。

健康に関する注意事項

  • この記事で紹介している情報は、一般的な知識を提供するものであり、個別の医学的診断や治療に代わるものではありません。お子様の発達に関して気になる点がある場合は、必ず小児科医、児童精神科医、または地域の保健センターなどの専門機関にご相談ください。
  • 薬物療法やサプリメントの利用は、専門医との十分な相談のもと、その利益とリスクを慎重に比較検討した上で決定されるべきです。保護者の方の自己判断での使用は絶対におやめください。

5. 未来へ向けて:私たちができること

発達障害のある子どもたちが、その子らしく輝き、安心して社会に参加できる未来を築くためには、家族、学校、医療機関、そして地域社会全体が一丸となって取り組むことが求められます。それは、特別な誰かのための特別な取り組みではなく、多様性を尊重し、誰もが生きやすい社会を作るための、私たち一人ひとりに関わる課題です。

5.1. 保護者の方へ:最大の理解者であり、最高の味方として

まず、お子様の診断名にとらわれず、その子自身の「個」を見てください。何が得意で、何に喜びを感じ、何に困難を抱えているのか。そのユニークなプロフィールを深く理解することが、すべての支援の出発点です4。そして、一人で抱え込まないでください。日本の支援制度は、保護者の方々を支えるためにあります6。地域の支援センターに電話を一本かけること、ペアレント・トレーニングに参加して同じ悩みを持つ仲間と繋がること214、それが大きな力になります。お子様にとって、保護者の皆様が心身ともに健康でいることが、何よりの安全基地となるのです。

5.2. 教育・保育関係者の方へ:インクルーシブな環境の創造者として

子どもたちが日中の大半を過ごす保育所や学校は、社会参加の土台を築く上で最も重要な場所です。環境の構造化や視覚的支援といった工夫は、発達障害のある子だけでなく、クラスのすべての子どもにとって分かりやすく、安心できる環境づくりにつながります6。巡回支援専門員などの外部の専門家と積極的に連携し3、保護者と密なコミュニケーションを取りながら、一人ひとりの子どものニーズに応じた合理的配慮を提供していくことが、インクルーシブ教育の実現に向けた鍵となります。

5.3. 地域社会の一員として:正しい理解と温かい眼差しを

発達障害のある人の行動は、時として「変わっている」「自分勝手」と誤解されることがあります17。しかし、その背景には、本人にはどうすることもできない脳機能の違いや、感覚の困難さがあります。スーパーマーケットでかんしゃくを起こしている子どもを見かけた時、それは「しつけがなっていない」のではなく、音や光の洪水に耐えられなくなっているのかもしれません。私たちの社会が、こうした「目に見えない困難」に対する正しい知識と想像力を持つことが、当事者と家族を追い詰めることなく、温かく包容する(インクルージョン)社会への第一歩です6。発達障害は、誰にとっても無関係なことではありません。多様な人々が共に生きる社会の一員として、私たち一人ひとりに何ができるのかを考え続けることが求められています。

よくある質問

うちの子、もしかして発達障害?と思ったら、まずどこに相談すればよいですか?
まず最初の相談窓口として、お住まいの市区町村の保健センターや子育て支援担当課が挙げられます。そこでは保健師や専門の相談員が話を聞き、必要に応じて地域の専門機関を紹介してくれます。また、かかりつけの小児科医に相談するのも良い方法です。より専門的な相談や診断については、都道府県や指定都市が設置している「発達障害者支援センター」や、児童精神科のある医療機関が窓口となります23
診断を受けることのメリットとデメリットは何ですか?
メリット:診断名がつくことで、子どもが抱える困難さの原因が明確になり、保護者や周囲の人がその子の特性を理解しやすくなります。また、「児童発達支援」などの公的な福祉サービスや、学校での合理的配慮を受けやすくなるという利点もあります6。本人にとっても、自分の「苦手」の理由が分かり、自己理解につながることがあります。
デメリット:診断名によって「障害児」というレッテルを貼られてしまうのではないか、将来に不利になるのではないか、という不安を感じる保護者の方もいらっしゃいます。しかし、診断はあくまでその子の特性を理解し、適切な支援につなげるためのツールです。診断を受けるかどうか、またそれを誰に伝えるかは、専門家と相談しながら慎重に決めることができます。
療育(りょういく)とは具体的に何をするのですか?
療育とは、障害のある子どもたちが、将来の自立と社会参加を目指すために行われる、治療と教育を組み合わせた支援のことです。児童発達支援センターなどで行われ、一人ひとりの発達段階や特性に合わせて個別支援計画が作られます6。内容としては、ABA(応用行動分析)やSST(ソーシャルスキルトレーニング)といった手法を用いて、コミュニケーション能力や対人関係スキルを高める訓練をしたり、遊びや運動を通して身体機能の発達を促したり、日常生活のスキルを学んだりします613。保護者への支援も、療育の重要な一部です。
発達障害は治りますか?
発達障害は病気ではなく、生まれ持った脳機能の特性であるため、「治る」という概念は当てはまりません2。しかし、早期からの適切な療育や環境調整によって、困難さを軽減し、本人が持っている能力を最大限に伸ばし、社会生活での適応能力を高めることは十分に可能です。支援の目的は、障害を「なくす」ことではなく、本人がその特性と上手につきあいながら、自分らしく幸せな人生を送れるようにサポートすることです。
きょうだい(兄弟姉妹)には、どのように説明・対応すればよいですか?
きょうだいへのケアは非常に重要です。発達障害のある兄弟姉妹がいることで、親の関心がそちらに集中し、寂しさや我慢を感じることがあります。また、なぜ兄弟の行動が許されるのか理解できずに不公平感を抱くこともあります。きょうだいにも、年齢に応じた分かりやすい言葉で、障害の特性(「悪気があるわけじゃないんだよ」「大きな音が苦手なんだ」など)を説明し、理解を求めることが大切です。そして、きょうだい自身と一対一で向き合う時間を意識的に作り、「あなたのことも大切に思っている」というメッセージを伝え続けることが、きょうだいの心の安定につながります6

結論

発達障害のある子どもを育てる旅は、時に険しく、先の見えない不安に駆られることもあるかもしれません。しかし、あなたは決して一人ではありません。日本には、法律に裏打ちされた多層的な支援の仕組みがあり、あなたとあなたのお子様を支えようとする専門家や地域社会が存在します。最も重要なことは、発達障害を「欠点」ではなく「違い」として捉え、その子の持つ無限の可能性を信じることです。この記事で紹介した知識を羅針盤として、利用できるリソースを最大限に活用し、学校や専門家と手を携えてください。そして、何よりもまず保護者自身の心と体の健康を大切にしてください。社会全体が多様な「育ち方の個性」を尊重し、温かく支え合うことで、すべての子どもたちが自分らしく輝ける、真にインクルーシブな未来を築くことができると、私たちは信じています。

免責事項
この記事は医学的アドバイスに代わるものではなく、症状がある場合は専門家にご相談ください。

参考文献

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  29. Ameblo. (42)自閉症児を理解するということ [インターネット]. [引用日: 2025年6月9日]. 以下より入手可能: https://ameblo.jp/fujinakniigat/entry-12832792626.html
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