白濁した粘液便:注意すべき8つの消化器疾患とは?
消化器疾患

白濁した粘液便:注意すべき8つの消化器疾患とは?

はじめに

便に白っぽい粘液が混ざっていると気づくと、多くの方が「何か重い病気かもしれない」と不安になりがちです。もともと、消化管の内部には粘液が存在し、組織を保護したり潤滑する役割を担っています。健康な状態でも少量の粘液が便に混ざることはありますが、その量が増えたり、頻繁に見られたり、さらに血液の混入や腹痛、便通異常などが伴う場合は、消化器系のトラブルが潜んでいる可能性があります。本記事では、白っぽい粘液が便に混ざる原因として考えられる代表的な消化器疾患や対処のポイント、生活習慣の見直しなどについて、より深く掘り下げて解説します。

免責事項

当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。

専門家への相談

本記事で取り上げる内容は、便に白っぽい粘液が見られるケースに注目したものです。粘液の増加や色の変化にはさまざまな要因があり、なかには大きな疾患が隠れていることもあります。医療機関では、便潜血検査、内視鏡検査、血液検査などを行い、症状の根本原因を探ります。もし日常的に便通に異常が続いたり、血液が混じった便を何度も確認したり、強い腹痛を覚える場合は、早めに消化器内科や肛門科など専門の医師に相談することが大切です。

白っぽい粘液が便に混ざるのは何が原因?

人の体内では、鼻腔、口腔、肺、腸管など多くの場所で粘液が分泌され、組織を保護したり潤滑する働きを担っています。とくに大腸(結腸)や直腸では、粘液が便をスムーズに肛門へ運ぶための潤滑剤として分泌されており、健康な方でも微量であれば便に粘液が混ざるのはごく自然な生理現象です。しかし、次のような症状・状況がみられる場合には、消化器系の病気を疑う必要があります。

  • 便に混ざる粘液量が明らかに多い、あるいは白色~灰白色で異常に濃厚
  • 粘液以外にも血液が混ざる
  • 便の回数や性状が突発的に変化し、下痢や便秘が続く
  • 腹痛、腹部けいれん感、体重減少などほかの症状を伴う

以下では、こうした「白っぽい粘液混じりの便」を引き起こすおもな病気を解説します。


白っぽい粘液便を引き起こす8つの消化器疾患

1. 痔(じ)

排便時に強くいきむ習慣があると、肛門周辺に負担がかかり、痔核(いわゆる“いぼ痔”)ができやすくなります。痔を患うと、肛門付近の粘膜が傷つきやすくなるため、便に粘液が混ざったり、出血をともなうことがあります。とくに便秘が続く人や妊娠中・出産後の女性は、排便時にいきみやすいことから痔を起こしやすく、便に粘液や少量の血液が付着して出てくるケースがみられます。

2. 肛門周囲膿瘍や痔ろう

白っぽい粘液が混ざる便の原因として、肛門周辺の感染症も考えられます。肛門付近で化膿を起こしている「肛門周囲膿瘍」が破裂すると、排便時に分泌物(膿や血液、粘液など)が便に付着して排出されることがあります。さらに膿瘍が慢性化して「痔ろう」(肛門と皮膚をつなぐ管のような病変)が形成されると、粘液・膿・出血などが常に出やすい状態に陥り、白っぽいドロッとした粘液が便や下着に付着しやすくなります。肛門痛や発熱などの症状を伴う場合は、早めの受診が重要です。

3. 大腸・直腸のがん

大腸がんや直腸がんといった消化器の悪性腫瘍でも、便に白っぽい粘液が混じることがあります。腫瘍が腸管内部を刺激・狭窄すると、正常な粘液分泌が乱れたり、出血を起こしたりして、便が粘液や血液を含むようになります。とくに「便に血液が混じる」「血便が断続的に出る」「体重が急激に減る」「腹部の痛みや違和感が長期にわたって続く」といった場合には、がんの可能性を念頭に置く必要があります。近年、日本でも大腸がんは増加傾向にあるため、定期的な検診や内視鏡検査が推奨されています。

関連研究(2021〜2024年)
近年の研究では、大腸内視鏡による早期発見が大腸がんの予後改善に大きく寄与することが示されています。たとえば、2021年にClinical Gastroenterology and Hepatology誌に掲載された研究(Gupta S.ら、doi:10.1053/j.gastro.2021.01.221)では、適切な年代からのスクリーニングやポリープ切除が、将来的な大腸がん発症リスクの大幅な減少につながるとの報告が示されました。検診を受けることで、こうした症状を早期に発見できる可能性が高まります。

4. 潰瘍性大腸炎

潰瘍性大腸炎は、大腸粘膜が広範囲にわたってただれたり潰瘍を形成する慢性的な炎症性疾患(炎症性腸疾患:IBD)の一種です。主な症状としては、血液や粘液が混じった下痢、腹痛、しぶり腹(何度も便意を催すが出ない状態)などがあります。炎症が進んで腸粘膜が大きく傷つくと、粘液分泌が増えて白っぽい粘液や膿が便に混ざることがあります。難治性の病気であり再発しやすいため、専門医の指導のもとで薬物療法や食事管理を継続することが重要です。

5. 過敏性腸症候群(IBS)

過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome:IBS)は、便秘型・下痢型・交替型(便秘と下痢を繰り返す)などさまざまなタイプがあります。ストレスや自律神経の乱れ、腸内環境の変化などが要因とされ、便の性状や頻度が不安定です。下痢型または交替型の場合、腸粘膜への刺激が強まって粘液分泌が増加するため、白っぽい粘液が便に付着することがあります。IBSそのものは生命を脅かす重篤な病気ではありませんが、症状が慢性的に続くと日常生活の質(QOL)を大きく下げる要因となるため、適切な対処が重要です。

関連研究(2021〜2024年)
IBSに関する最近のアメリカ消化器病学会(AGA)のクリニカルアップデート(Chey WD.ら、Clinical Gastroenterology and Hepatology. 2021;19(1):114-124. doi:10.1016/j.cgh.2020.03.064)では、心理的アプローチや食事療法(低FODMAP食など)、プロバイオティクスなどの「統合的治療法」を組み合わせることで症状の改善が期待できると示されています。日本国内でも同様の治療指針が取り入れられ、患者一人ひとりの症状や背景に合わせた総合的なケアが推奨されています。

6. 腸管感染症(ウイルス・細菌・寄生虫)

便に白い粘液が増える一因として、腸管感染症が挙げられます。食材や水が細菌やウイルス、寄生虫に汚染されていたり、不十分な加熱や不適切な衛生環境などが原因で感染すると、腸粘膜が炎症を起こします。その結果、下痢や腹痛、発熱に加えて白っぽい粘液が便に混ざる場合があります。たとえば細菌性赤痢(Shigella)、サルモネラ菌感染症(Salmonella)、カンピロバクター菌感染症(Campylobacter)などで粘液便や血便が見られ、重症化すると脱水や電解質異常を引き起こす可能性があります。

7. 慢性的な便秘

便秘が長期間続くと、硬い便が直腸や肛門を傷つけるだけでなく、腸内を刺激して粘液の分泌を増やす場合があります。また、便秘が続くことで強くいきむ習慣が定着し、結果的に肛門周辺の負担が増して粘液混じりの便が出るケースもあります。便秘は軽視しがちですが、痔や肛門周囲のトラブルを悪化させる要因にもなり、日常生活の快適さや健康を損なうリスクがあるため、早めの対処が望まれます。

8. クローン病

クローン病も潰瘍性大腸炎と同じく炎症性腸疾患(IBD)の一種であり、口から肛門まで消化管のあらゆる部分に慢性的な炎症や潰瘍を引き起こすことがあります。とくに小腸・大腸を中心として潰瘍が生じやすく、下痢・血便・粘液便・腹痛などの多彩な症状を伴うのが特徴です。クローン病は再発と寛解を繰り返す場合が多く、症状が進むと潰瘍部が拡大して粘液や膿、血液が便に混ざる量が増加する可能性があります。

関連研究(2021〜2024年)
炎症性腸疾患に関しては、2022年にClinical Gastroenterology and Hepatology誌で発表されたMa C.らの研究(doi:10.1016/j.cgh.2020.12.037)において、クローン病患者に対する生物学的製剤(たとえばウステキヌマブなど)の有効性が示唆されています。炎症をコントロールすることで、血便や粘液便などの症状緩和につながるとされており、日本国内でも同様の治療法が導入されています。


白っぽい粘液便への対処方法

便に混ざる粘液が一時的で、ほかに明らかな不調を感じない場合は、生活習慣や食事内容を見直すことが有効なケースもあります。しかし、下記のような場合は早めに医療機関を受診して検査を受けることが大切です。

  • 血液が混じる
  • 便の形状が著しく変化(極端な下痢や便秘が続く)
  • 強い腹痛、発熱、嘔吐などがある
  • 体重減少が認められる
  • 症状が長引く、または繰り返し起こる

日常生活の改善ポイント

  • 十分な水分補給
    腸内の水分量が不足すると便が硬くなり、排便時に腸を刺激しやすくなります。水やお茶をこまめに摂取し、日中や運動後なども意識的に水分補給を心がけましょう。
  • 食物繊維とプロバイオティクス
    食物繊維を適度に取り、便をやわらかく保つことは粘液便の予防に役立ちます。また、ヨーグルトや発酵食品などに含まれるプロバイオティクスは腸内環境を整え、炎症や下痢を軽減する可能性があります。
  • ストレス管理
    過敏性腸症候群(IBS)をはじめ、ストレスは腸内環境や便通に大きく影響します。睡眠を十分確保し、適度な運動やリラクゼーションなどでストレスをコントロールすることが大切です。
  • 規則正しい排便習慣
    便意を感じたら我慢せず、できるだけ決まった時間にトイレへ行く習慣をつけると腸が動きやすくなります。便秘傾向の方は、朝食後に軽く腸を刺激するなど、生活リズムを整える工夫も有効です。

病院での診断と治療

医療機関では、状況に応じて下記のような検査・治療が検討されます。

  • 便検査・血液検査
    感染症や炎症の程度を調べ、隠れた出血や感染の有無を確認します。
  • 内視鏡検査(大腸カメラ)
    大腸内の炎症や潰瘍、ポリープ、腫瘍などの異常を直接観察し、必要に応じて組織を採取(生検)します。
  • 画像検査(CT・MRIなど)
    膿瘍や病変部位の広がり、周辺組織への影響などを把握します。
  • 薬物療法
    感染症であれば抗生物質、炎症性腸疾患にはステロイドや免疫調節薬、生物学的製剤などが処方されることもあります。
  • 外科的処置
    重度の痔、肛門周囲膿瘍や痔ろう、大腸がんなどの進行が見られる場合、手術が必要になるケースもあります。

予防・再発防止のためのアドバイス

  1. 定期的な検診や内視鏡検査を受ける
    特に家族に大腸がんの既往がある方や、慢性的な便通異常に悩んでいる方は早めの検査を心がけましょう。
  2. 適切な食事バランス
    野菜、果物、海藻、発酵食品、良質なたんぱく質をバランス良く取り入れ、腸内環境を整えることが重要です。
  3. 腸に負担をかけすぎない生活習慣
    アルコールの過剰摂取や喫煙、過度なカフェイン摂取などは腸の刺激になりやすいので注意が必要です。
  4. 日常的に適度な運動
    ウォーキングやヨガなど軽めの運動は、腸管の動きを促進し便通を整える効果が期待できます。
  5. ストレスマネジメント
    ストレスは自律神経を乱し、腸内環境悪化や便秘・下痢を誘発する原因になることがあります。自分に合ったリラクゼーション法を見つけ、定期的にリフレッシュを行いましょう。

結論と提言

白っぽい粘液が便に混ざるのは、日常生活でも起こりうる生理的現象である一方、痔や肛門周囲の感染症、大腸がん、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病)など、多岐にわたる疾患の初期症状である可能性も否定できません。とくに、血液が混ざったり、腹痛・下痢・便秘が長く続いたり、体重減少がみられる場合は、早期発見・治療が大切です。
生活習慣の改善だけで改善しないケースや、不安な症状が長引く場合には必ず消化器内科や肛門科などを受診しましょう。専門的な検査によって原因を突き止め、適切な治療を受けることが大切です。
なお、過敏性腸症候群(IBS)などの場合、食事療法やストレスケアによって症状の軽減が期待できますが、必要に応じて薬物治療も組み合わせながら根気強く向き合う必要があります。もし重篤な病気が原因であっても、早期に診断と治療を行うことで予後を大きく改善できる可能性があります。便の状態は健康状態を映し出す重要なサインのひとつです。普段からご自身の便通や粘液の有無、色調の変化などを観察し、少しでも気になる症状が続くようであれば早めに医師に相談することが望ましいでしょう。


参考文献

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