皮膚炎の完全ガイド:症状・原因・種類別の最新治療法を皮膚科専門医が解説
皮膚科疾患

皮膚炎の完全ガイド:症状・原因・種類別の最新治療法を皮膚科専門医が解説

繰り返すかゆみ、赤み、湿疹。「これってただの肌荒れ?それとも皮膚炎?」と、不安に感じている方は少なくないでしょう。皮膚炎は、多くの人が経験する身近な皮膚疾患ですが、その種類は多岐にわたり、原因や治療法も様々です。放置してしまうと症状が悪化し、生活の質(QOL)を著しく低下させることもあります。この記事は、JAPANESEHEALTH.ORG編集部が、日本の最新の診療ガイドラインや科学的根拠に基づき、皮膚炎に関する最も信頼でき、包括的な情報を提供することを目的としています。皮膚科専門医の監修のもと、皮膚炎の基本的な知識から、アトピー性皮膚炎、接触皮膚炎、脂漏性皮膚炎といった主要な種類別の詳細な解説、そして最新の治療法までを網羅します。あなたの肌が発するサインを正しく理解し、最適なケアを見つけるための「決定版」ガイドです。

要点まとめ

  • 皮膚炎と湿疹は臨床現場ではほぼ同義で使われ、皮膚の炎症を指す一連の症状(赤み、ぶつぶつ、かゆみ等)を特徴とします17
  • 皮膚の「バリア機能」の低下が、乾燥、アレルゲン、刺激物などの侵入を許し、免疫系の過剰反応を引き起こすことが皮膚炎の根本的な原因です6
  • アトピー性皮膚炎は日本の「国民病」とも言われ、患者数は増加傾向にあり、特に若年層のQOLに深刻な影響を与えています95
  • 治療は、ステロイド外用薬や保湿剤によるスキンケアが基本ですが、重症例ではデュピルマブ(デュピクセント®)などの生物学的製剤やJAK阻害薬といった新しい全身療法も選択肢となります4
  • 症状が市販薬で改善しない、範囲が広い、または原因が特定できない場合は、自己判断せず皮膚科専門医に相談することが極めて重要です2

第1部:皮膚炎の基本を理解する

皮膚炎という言葉は広く知られていますが、その正確な定義や、似たような言葉「湿疹」との違いについては、曖昧な理解の方が多いかもしれません。このセクションでは、皮膚炎の最も基本的な概念と、なぜそれが起こるのかというメカニズムについて、科学的根拠に基づいて解説します。

1-1. 皮膚炎と湿疹の違いとは?

多くの方が疑問に思う「皮膚炎」と「湿疹」の違いですが、結論から言うと、現在の日本の皮膚科臨床の現場では、この二つの言葉はほぼ同じ意味で使われています1。皮膚炎は皮膚に炎症が起きている状態全般を指す広い言葉であり、湿疹はその代表的な一形態です。湿疹は、その経過中に多彩な症状(発疹)が現れるという特徴があります。
この特徴は「湿疹三角(または湿疹皮膚炎三角)」という概念で説明されることがあります17。これは、皮膚の炎症が①紅斑(こうはん:赤み)、②丘疹(きゅうしん:小さなぶつぶつ)や漿液性丘疹(しょうえきせいきゅうしん:じゅくじゅくしたぶつぶつ)、水疱(すいほう:水ぶくれ)、③膿疱(のうほう:膿をもったぶつぶつ)、④結痂(けっか:かさぶた)、⑤鱗屑(りんせつ:皮膚がカサカサして剥がれ落ちる)といったように、時間とともに変化していく様子を示したものです。つまり、「湿疹」とは、こうした一連の皮膚症状のプロセスを指す言葉であり、「皮膚炎」という大きな枠組みの中に含まれる、最も典型的な病態なのです。

1-2. なぜ起こる?皮膚のバリア機能と炎症のメカニズム

皮膚炎がなぜ起こるのかを理解する上で、最も重要なキーワードが「皮膚のバリア機能」です6。私たちの皮膚、特にその最も外側にある「角層(かくそう)」は、わずか0.02mmという薄さでありながら、外部からの様々な刺激物(アレルゲン、化学物質、細菌など)の侵入を防ぎ、同時に体内の水分が蒸発するのを防ぐという、極めて重要な「砦」の役割を担っています。
このバリア機能は、角層細胞がレンガのように積み重なり、その隙間をセラミドなどの角質細胞間脂質がセメントのように埋めることで維持されています。しかし、遺伝的な要因(アトピー素因など)、乾燥、加齢、あるいは物理的な摩擦(掻き壊しなど)によってこのバリア機能が低下すると、皮膚は無防備な状態になります20。その結果、外部からの刺激物が容易に侵入し、それを異物と認識した免疫細胞が過剰に反応して、かゆみや赤みといった「炎症」を引き起こすのです。これが、多くの皮膚炎に共通する基本的な発症メカニズムです。したがって、皮膚炎の治療と予防において、この壊れたバリア機能を修復し、維持するための「保湿(スキンケア)」が不可欠な柱となります。

第2部:【種類別】皮膚炎の徹底解説

「皮膚炎」と一括りに言っても、その原因や症状、好発部位によって多くの種類に分類されます。ここでは、日本で特に多く見られる代表的な皮膚炎について、それぞれの特徴を比較し、最新の知見に基づいて詳しく解説していきます。

表1: 主要な皮膚炎の比較

特徴 アトピー性皮膚炎 接触皮膚炎 脂漏性皮膚炎
主な症状 強いかゆみを伴う湿疹が良くなったり悪くなったりを繰り返す、皮膚の乾燥4 原因物質が触れた部位に一致して生じるかゆみ、赤み、時に水疱8 頭皮、顔、胸などの皮脂分泌が盛んな部位に生じる、フケや黄色っぽいかさぶたを伴う赤み16
好発部位 肘や膝のくぼみ、顔、首など左右対称性に現れやすい4 原因物質が接触したあらゆる部位(例:金属アレルギーでのイヤリングの部位、植物での手足)8 皮脂の多い部位(頭皮、生え際、眉毛、鼻の脇、耳の後ろ、胸、脇の下)16
主な原因 遺伝的なアトピー素因、皮膚バリア機能の異常、免疫系の過剰反応が複合的に関与4 特定の化学物質、金属、植物などに対する「刺激」または「アレルギー反応」8 皮脂の過剰分泌と、皮膚常在菌であるマラセチア菌の増殖が関与24
発症の特徴 乳幼児期に発症することが多いが、成人で発症・再発することも稀ではない。慢性・再発性の経過をたどる4 原因物質に接触後、数時間から数日で発症する急性の経過が多いが、慢性化することもある8 乳児と思春期以降の成人に二つのピークがある16

2-1. アトピー性皮膚炎:日本の国民病を深く知る

アトピー性皮膚炎は、単なる皮膚疾患ではなく、患者さんの生活全体に大きな影響を及ぼす、日本における重要な健康課題の一つです。

日本における現状:厚生労働省の統計データ

厚生労働省の患者調査によると、日本におけるアトピー性皮膚炎の総患者数は2008年の約35万人から2017年には約51.3万人に増加しており、決して稀な病気ではありません9。かつては「子どもの病気」というイメージが強かったものの、データは成人患者の深刻な実態を浮き彫りにしています。ある調査では、患者の年齢構成は20代が10.2%、30代が8.3%と、社会の中核を担う若い世代で高い割合を占めています5。さらに深刻なのはその社会的影響で、重症の成人患者の13.7%が「アトピー性皮膚炎が原因で退職・離職を余儀なくされた」と回答しており、個人のキャリアだけでなく、日本の労働生産性にも影響を与えかねない問題となっています56

診断基準:日本皮膚科学会の定義

アトピー性皮膚炎の診断は、単一の検査だけで確定するものではなく、専門医が特徴的な症状や経過を総合的に評価して行います。日本皮膚科学会と日本アレルギー学会が共同で策定した「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2021」では、以下の3つの基本項目を全て満たすものをアトピー性皮膚炎と定義しています421

  1. そう痒(かゆみ):かゆみはアトピー性皮膚炎の最も特徴的で、患者さんを最も苦しめる症状です。
  2. 特徴的な皮疹と分布:湿疹は多彩な形態をとり(赤み、ぶつぶつ、じゅくじゅく、ごわごわした皮膚など)、年齢によって現れやすい部位が異なります(乳児期は頭・顔、幼児期以降は首や手足の関節のくぼみなど)。多くは左右対称性に見られます。
  3. 慢性・反復性の経過:症状が良くなったり悪くなったりを繰り返します。乳児では2ヶ月以上、その他では6ヶ月以上続くことが診断の目安となります。

治療の最前線:ガイドラインに基づく標準治療から新薬まで

アトピー性皮膚炎の治療目標は、症状がないか、あっても軽微で、日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としない状態を維持することです。そのために、「薬物療法」「スキンケア」「悪化要因の検索と対策」の3つを柱とした治療が行われます4

外用薬(塗り薬):治療の基本

炎症を抑えるための外用薬が治療の基本となります。主にステロイド外用薬とカルシニューリン阻害外用薬(タクロリムス軟膏など)が用いられます。

表2: 日本におけるステロイド外用薬のランク一覧

ステロイド外用薬は、その効果の強さによって5つのランクに分類されており、症状の重症度、塗る部位、年齢などを考慮して専門医が適切なランクを選択します4

ランク 強さ (Strength) 主な製品例(一般名)
I群 (Group I) 最も強い (Strongest) デルモベート® (クロベタゾールプロピオン酸エステル)
II群 (Group II) とても強い (Very Strong) アンテベート® (ジフルプレドナート)
III群 (Group III) 強い (Strong) リンデロン-V® (ベタメタゾン吉草酸エステル)
IV群 (Group IV) 普通 (Medium) アルメタ® (アルクロメタゾンプロピオン酸エステル)
V群 (Group V) 弱い (Weak) キンダベート® (クロベタゾン酪酸エステル)

ステロイド外用薬は適切に使用すれば非常に有効で安全な薬ですが、「副作用が怖い」という誤解から使用を躊躇する方もいます。しかし、専門医の指導のもと、適切な強さの薬を適切な量、適切な期間使用することが、症状を速やかに改善し、結果的に使用量を減らすことにつながります4
タクロリムス軟膏(プロトピック®など)は、ステロイドとは異なる作用で炎症を抑える薬で、特に顔や首など皮膚が薄く、ステロイドの長期使用に注意が必要な部位によく用いられます4
近年、治療の考え方として「プロアクティブ療法」が重要視されています。これは、湿疹が良くなった後も、週に数回、保湿剤に加えて炎症を抑える外用薬を塗り続けることで、症状の再燃(ぶり返し)を防ぐ治療法です4。この方法により、良好な状態を長期的に維持できることが分かっています。

全身療法:中等症から重症の患者さんへの新たな選択肢

外用薬だけでは十分にコントロールできない中等症から重症のアトピー性皮膚炎に対しては、近年、画期的な全身療法(内服薬や注射薬)が次々と登場し、治療の選択肢が大きく広がりました。これらの新薬は、アトピー性皮膚炎の病態の根幹にある免疫の異常に直接アプローチするものです。

表3: アトピー性皮膚炎の全身療法(新薬)の概要

薬剤名(製品名) 種類 作用機序 投与法
デュピルマブ (デュピクセント®) 生物学的製剤(抗体医薬) 炎症を引き起こすサイトカイン「IL-4」と「IL-13」の働きをピンポイントで抑える4 自己注射(皮下注射)
バリシチニブ (オルミエント®) JAK阻害薬(内服薬) かゆみや炎症に関わる様々なサイトカインの信号伝達を担う酵素「JAK1, JAK2」を阻害する4 経口(飲み薬)
ウパダシチニブ (リンヴォック®) JAK阻害薬(内服薬) 特に炎症に強く関わる「JAK1」を選択的に阻害する4 経口(飲み薬)
アブロシチニブ (サイバインコ®) JAK阻害薬(内服薬) かゆみの伝達にも関わる「JAK1」を選択的に阻害する4 経口(飲み薬)

これらの新薬は非常に高い効果が期待できる一方、免疫を抑制するため、使用には専門医による慎重な判断が必要です。日本の保険診療でこれらの薬を使用するためには、既存の治療で効果不十分であることや、一定以上の重症度(IGAスコアやEASIスコアなど、医師が評価する客観的な指標)を満たすことなど、厳格な基準が設けられています4

2-2. 接触皮膚炎(かぶれ):原因物質の見つけ方と対策

接触皮膚炎は、一般的に「かぶれ」として知られ、特定の物質が皮膚に触れることで発症します。これは大きく二つのタイプに分けられます8

  • 刺激性接触皮膚炎 (ICD): 強い酸やアルカリ、洗剤など、誰の皮膚に触れても炎症を起こす可能性のある物質によって生じます。
  • アレルギー性接触皮膚炎 (ACD): 特定の物質に対してアレルギー反応を持つ人のみに発症します。体の免疫システムがその物質を「敵」と誤認し、攻撃することで炎症が起こります。原因物質としては、ニッケルやクロムなどの金属、ウルシなどの植物、香料、防腐剤などが知られています。

原因を特定するために最も重要な検査が「パッチテスト」です8。これは、原因として疑われる物質を背中などの皮膚に貼り、48時間後、72時間後、場合によっては1週間後に皮膚の反応を判定する検査です。原因物質が特定できれば、その物質との接触を避けることが最も根本的な治療および予防策となります。

2-3. 脂漏性皮膚炎:フケだけではない、マラセチア菌との関係

脂漏性皮膚炎は、頭皮のフケや顔の赤み、かさつきとして現れることが多い皮膚炎です。その発症には、皮膚にもともと存在する常在菌の一種である「マラセチア菌」というカビ(真菌)が深く関わっていることが分かっています2425。マラセチア菌は、皮脂を栄養源として増殖します。何らかの理由で皮脂の分泌が過剰になったり、ホルモンバランスやストレス、不規則な生活などで皮膚の環境が変化したりすると、このマラセチア菌が異常に増殖します。その結果、菌の代謝物が皮膚を刺激し、炎症を引き起こすと考えられています16
したがって、治療は二つのアプローチを組み合わせることが基本となります1626

  1. 抗真菌薬の外用: マラセチア菌の増殖を抑えるための薬(ケトコナゾールなど)を塗ります。フケ用のシャンプーに抗真菌成分が含まれているものもあります。
  2. ステロイドの外用: 菌を抑えるだけでは治まらない皮膚の「炎症」を、短期的に弱いランクのステロイド外用薬で速やかに鎮めます。

第3部:皮膚炎と上手に付き合うための生活術

薬物療法と並行して、日々の生活習慣を見直すことは、皮膚炎の症状をコントロールし、再発を防ぐために非常に重要です。ここでは、科学的根拠に基づいた実践的なセルフケアについて解説します。

スキンケア:すべての基本は保湿から

皮膚炎治療の根幹は、低下した皮膚のバリア機能を補い、維持することです。その鍵となるのが保湿です3

  • 正しい入浴: 熱すぎるお湯(42℃以上)は、皮膚の保湿成分を奪い、バリア機能を損ないます。38~40℃程度のぬるめのお湯にしましょう3。体を洗う際は、ナイロンタオルなどでゴシゴシこすらず、石鹸をよく泡立てて手で優しく洗うことが大切です。
  • 入浴直後の保湿: 入浴後の皮膚は水分が蒸発しやすく、最も乾燥しやすいタイミングです。タオルで優しく水分を押さえるように拭いた後、できるだけ早く(5分以内が理想)全身に保湿剤を塗りましょう。
  • 保湿剤の選択: 保湿剤には様々な種類(ローション、クリーム、軟膏など)がありますが、最も重要なのは「自分が心地よく、毎日続けられるもの」を選ぶことです。

食事とアレルギー

「アトピー性皮膚炎は食べ物が原因」と信じ、自己判断で厳格な食事制限を行う方がいますが、これは必ずしも正しくありません。「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2021」では、食物アレルギーの関与が疑われる場合でも、医師の診断に基づかずに安易に原因と推定される食物を除去することは推奨されていません4。不必要な食事制限は、特に成長期の子供にとって栄養不足のリスクを伴います。食物アレルギーが疑われる場合は、必ず専門医に相談し、適切な検査(血液検査や食物経口負荷試験など)を受けた上で指導に従ってください。

ストレス管理と生活リズム

過労や睡眠不足、精神的なストレスが、免疫系のバランスを崩し、アトピー性皮膚炎を悪化させる一因となることが知られています4。完璧を目指す必要はありませんが、十分な睡眠時間を確保し、自分なりのリラックス方法を見つけるなど、心身のバランスを整えることを心がけることも、大切な治療の一環です。

日本の気候と皮膚炎

日本の気候も皮膚炎に影響を与えます。夏場の高温多湿は、汗による刺激や細菌・カビの増殖を促し、症状を悪化させることがあります。一方、冬場の乾燥した空気は、皮膚の水分を奪い、バリア機能の低下を招きます2。また、春先のスギやヒノキの花粉は、アレルギー性鼻炎だけでなく、皮膚に付着することでアトピー性皮膚炎の悪化因子となることも指摘されています524。季節ごとの特徴を理解し、スキンケアを調整することが大切です。 日本の春に特有のスギやヒノキの花粉は、皮膚に付着することでバリア機能を低下させ、アトピー性皮膚炎の症状を悪化させることがあります3。季節ごとの特徴を理解し、スキンケアを調整することが大切です。

第4部:専門医に相談するタイミング

多くの皮膚トラブルは、市販薬(OTC医薬品)で対応できる場合もあります。しかし、以下のような場合は自己判断を続けず、速やかに皮膚科専門医のいるクリニックや病院を受診することが強く推奨されます。

  • 市販薬を5~6日使用しても症状が改善しない、あるいは悪化する場合2
  • 症状の範囲が広い、または日常生活に支障が出るほど症状が強い場合。
  • 強いかゆみ、痛み、あるいは患部がじゅくじゅくして黄色いかさぶたが付くなど、細菌感染(とびひなど)が疑われる場合。
  • 原因がはっきりしない湿疹が続く場合(アレルギー検査などが必要な可能性があります)。
  • アトピー性皮膚炎の診断を受けているが、現在の治療で症状が十分にコントロールできていない、または新薬などのより高度な治療について相談したい場合。

日本の医療保険制度では、まずは地域の皮膚科クリニック(診療所)を受診し、必要に応じて、より専門的な検査や治療が可能な総合病院や大学病院へ紹介してもらうのが一般的です525。 日本の医療保険制度では、まずは地域の皮膚科クリニック(診療所)を受診し、必要に応じて、より専門的な検査や治療が可能な総合病院や大学病院へ紹介してもらうのが一般的です。正しい診断が、適切な治療への第一歩です。

よくある質問 (FAQ)

皮膚炎は他の人にうつりますか?
アトピー性皮膚炎、接触皮膚炎、脂漏性皮膚炎といった一般的な皮膚炎は、感染症ではないため、他の人にうつる(伝染する)ことはありません27。ただし、皮膚炎によって生じた掻き傷などから細菌が感染し、「とびひ(伝染性膿痂疹)」などを併発した場合は、その細菌が他の人にうつる可能性があります。肌を清潔に保ち、掻き壊さないことが重要です。
ステロイドの外用薬を使い続けると、皮膚が薄くなったり黒ずんだりしませんか?
ステロイド外用薬の副作用として、皮膚萎縮(皮膚が薄くなる)や色素沈着(黒ずみ)などが知られています。しかし、これらの副作用は、非常に強いランクのステロイドを長期間(数ヶ月~数年)、不適切に広範囲へ使用した場合などに起こりうるものです。皮膚科専門医の指導のもと、症状に合わせて適切なランクの薬を適切な期間使用する限り、副作用のリスクは最小限に抑えられます4。むしろ、炎症を中途半端に長引かせることの方が、皮膚へのダメージが大きくなる場合があります。
アトピー性皮膚炎は大人になれば治りますか?
多くのアトピー性皮膚炎は、成長とともに症状が軽快し、自然に治っていく(寛解する)傾向があります。しかし、一部は成人まで症状が続いたり、一度治まった後に成人になってから再発したりすることもあります4。近年の治療法の進歩により、成人アトピー性皮膚炎も良好にコントロールできるようになってきているため、諦めずに専門医に相談することが大切です。
デュピクセント®やJAK阻害薬などの新薬は誰でも使えますか?
いいえ、誰でも使えるわけではありません。これらの新薬は、既存の治療法(ステロイド外用薬やプロトピック軟膏など)を一定期間、適切に使用しても十分な効果が得られない、中等症から重症のアトピー性皮膚炎患者さんが対象となります4。使用できるかどうかは、皮膚科専門医が患者さんの重症度やこれまでの治療歴などを総合的に評価して慎重に判断します。
金属アレルギーが疑われる場合、どうすればよいですか?
アクセサリーや時計、下着の金具などが触れる部分に繰り返し湿疹ができる場合、金属アレルギーが疑われます。原因を特定するためには、皮膚科でパッチテストを受ける必要があります8。原因となる金属が分かれば、その金属を含む製品を避けることで症状を防ぐことができます。
頭のフケがひどいのですが、これも脂漏性皮膚炎ですか?
頭皮のフケの原因は様々ですが、脂漏性皮膚炎はその代表的な原因の一つです。特に、フケが黄色っぽくベタベタしている、頭皮に赤みやかゆみを伴う、といった場合は脂漏性皮膚炎の可能性が高いと考えられます16。市販のフケ用シャンプーで改善しない場合は、皮膚科を受診することをお勧めします。抗真菌薬の塗り薬などで効果的に治療できる場合があります。

結論

皮膚炎は、かゆみや見た目の問題から、患者さんの心身に大きな負担をかける疾患です。しかし、本記事で解説したように、その病態の理解は大きく進み、治療法も目覚ましく進歩しています。重要なのは、皮膚炎を「体質だから仕方ない」と諦めたり、不確かな情報に惑わされたりせず、正しい知識を持つことです。皮膚のバリア機能を守るための日々のスキンケアを基本とし、症状に応じて適切な薬物療法を行うこと。そして、コントロールが難しい場合は、ためらわずに皮膚科専門医に相談すること。この三つの柱を実践することで、多くの皮膚炎は良好な状態にコントロールでき、より快適な日常生活を取り戻すことが可能です564。 この三つの柱を実践することで、多くの皮膚炎は良好な状態にコントロールでき、より快適な日常生活を取り戻すことが可能です2。この記事が、皮膚の悩みを抱えるあなたにとって、その第一歩を踏み出すための一助となれば幸いです。

免責事項
この記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスに代わるものではありません。健康上の問題や症状がある場合は、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

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