厚生労働省の報告では、日本の国民の約2人に1人が何らかのアレルギー疾患を抱えているとされています1。花粉やハウスダストだけでなく、ドライアイやマイボーム腺機能不全(MGD)、まぶたや結膜の感染症など、複数の眼表面のトラブルが重なって「かゆみ」という形で現れることも多くあります。
この記事では、日本眼科アレルギー学会、ドライアイ研究会、日本眼科学会、日本角膜学会などが公開している診療ガイドラインや、公的機関・専門学会の資料に基づき、しつこい目のかゆみの多様な原因を科学的根拠に沿って整理します23456。ご自身でできるセルフケアのコツから、眼科で行われる検査・治療までを、日本の生活環境に即してわかりやすく解説していきます。
「とりあえず市販の目薬をさして様子を見る」だけで済ませてしまうと、病気の種類によっては悪化させてしまうこともあります。この記事を読みながら、原因の候補を整理し、「いつまでセルフケアで様子を見てよいのか」「どのタイミングで眼科を受診すべきか」の目安も一緒に確認していきましょう。
この記事の科学的根拠
本記事は、本文中で明示した引用元に基づき、公的機関・医学会・専門家グループ・査読付き論文などの信頼できる医学的根拠のみを採用しています。各情報源と記事中の説明との対応関係を、以下のように整理しています。
- 日本眼科アレルギー学会:本記事におけるアレルギー性結膜炎の分類、診断、および治療法に関する記述は、同学会が発行した「アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第3版)」に基づいています2。
- ドライアイ研究会:ドライアイの定義、日本の診断基準、および治療選択肢に関する解説は、同研究会が公開する「ドライアイ診療ガイドライン」および関連文献を根拠としています31516。
- 日本眼科学会、日本角膜学会、ドライアイ研究会:ドライアイの主因であるマイボーム腺機能不全(MGD)の定義、診断、および温罨法やIPL治療を含む治療法に関する解説は、これらの学会が共同で策定した「マイボーム腺機能不全診療ガイドライン」に基づいています41920。
- Tear Film & Ocular Surface Society (TFOS):ドライアイの病態の核心概念である「悪循環(Vicious Circle)」に関する解説は、この国際的な専門家組織によるTFOS DEWS IIレポートなどを引用しています51314。
- 環境省:花粉症対策など、日本における生活環境に即した予防法に関する推奨事項は、同省が発行する「花粉症環境保健マニュアル2022」に基づいています632。
また、本記事は、厚生労働省や日本の専門学会、世界保健機関(WHO)などの公的情報・査読付き論文をもとに、JHO(JapaneseHealth.org)編集委員会が日本の生活者向けにわかりやすく再構成したものです。文献検索や構成案の作成にはAIツールも補助的に活用していますが、最終的な内容の確認・更新はすべてJHO編集部が責任を持って行っています。
日本眼科学会や関連団体は、専門医制度や啓発活動を通じて質の高い眼科医療の普及に取り組んでいます73031。本記事も、そうした公的な取り組みと整合する内容となるよう配慮しています。
要点まとめ
- 目のかゆみの原因は単一ではなく、アレルギー性結膜疾患、ドライアイ、マイボーム腺機能不全(MGD)、眼瞼炎や感染症などが複雑に関与します23428。
- アレルギーが主因の場合は「冷やす」ことが有効ですが、ドライアイやMGDが関与する場合は「温める」ことが推奨されるなど、原因によって対処法が正反対になるため、自己判断は危険です3422。
- 治療法は、日本眼科アレルギー学会やドライアイ研究会、日本眼科学会などが定める診療ガイドラインに基づき、原因と重症度に応じて選択されるべきです234。
- 市販薬を1週間程度使用しても改善しない場合や、激しい痛み・急な視力低下・著しい腫れ・光の輪が見えるなどの症状を伴う場合は、失明につながる疾患の可能性もあるため、直ちに眼科を受診する必要があります2829。
- コンタクトレンズの使用8や長時間のVDT作業(パソコン・スマートフォン作業)9、マスクの長時間着用は、ドライアイやMGDを悪化させ、かゆみを増強させる主要な要因となり得ます。
- 「かゆいからこする」という行動は、角膜障害や症状の長期化の原因になるため厳禁であり、冷罨法や人工涙液など、眼科で推奨される安全な対処法を選ぶことが重要です226。
- 生活環境の調整(花粉対策、室内環境の整備、まばたきの意識、栄養・睡眠・ストレス管理など)と、眼科での治療を組み合わせることで、つらいかゆみのコントロールと再発予防がしやすくなります61022。
止まらない目のかゆみを根本解決するために
目をこすっても治まらず、仕事や生活に集中できないつらいかゆみ。市販の目薬をさしても一時的で、すぐにぶり返してしまう不快感に、多くの方がストレスを抱えています。
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目のかゆみは単なる表面的な問題ではなく、目の健康全体に関わるサインである可能性があります。まずは眼の病気の全体像を把握し、かゆみの背後に隠れているかもしれない根本的な原因を理解することが大切です。
かゆみの最も一般的な原因の一つに、結膜炎があります。特にウイルス性のものやアレルギー性のものは、適切な対応をしないと長引くことがあります。結膜炎の正しい治療と予防法を知ることで、症状の悪化や周囲への感染拡大を防ぐことができます。
また、意外に見落とされがちなのが「乾燥」によるかゆみです。涙の質や量が低下すると、目の表面が敏感になり、かゆみを引き起こします。このようなドライアイが原因のかゆみには、通常の痒み止めではなく、涙の質を整えるための保湿ケアや生活習慣の見直しが重要になります。
さらに、かゆみが「まぶたの縁」に集中している場合は、マイボーム腺機能不全などのまぶたのトラブルが関係しているかもしれません。放置するとものもらい等の原因にもなるため、まぶたのかゆみに特化したケアを行うことが、症状改善への近道です。
かゆみの改善には、点眼薬だけでなく体の中から整えることも有効です。目に良い栄養素を摂取するなど、生活習慣からのアプローチも取り入れてみましょう。自己判断で長期間市販薬を使い続けることは避け、原因に合った対策を選んでください。
つらいかゆみから解放されるためには、その原因を正しく見極めることが第一歩です。この記事をガイドにしながら、必要に応じて眼科での検査・治療を受け、快適な視界と日常生活を取り戻しましょう。
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緊急受診を!危険な目のかゆみのサイン
多くの目のかゆみは、適切なセルフケアと眼科での治療によりコントロール可能ですが、中には放置すると失明や重篤な全身疾患につながるケースもあります。次のような症状を伴う場合は、「様子を見る」のではなく、できるだけ早く眼科(必要に応じて救急外来)を受診してください。
- 激しい目の痛み:単なるかゆみとは明らかに異なる、耐えがたい痛み。特に片目だけ強い痛みがある場合は注意が必要です。
- 急激な視力低下:かすんで見えるレベルを超え、「急に視界が暗くなった」「片目だけぼやけて読めない」といった変化を感じる場合。
- 光輪視:電灯や信号などの光の周りに虹のような輪が見える。急性緑内障発作などの兆候である可能性があります。
- 著しい腫れ:目やまぶただけでなく、唇や顔全体が腫れる場合。これはアナフィラキシーと呼ばれる重篤なアレルギー反応の可能性があり、救急受診が必要です。
- 発熱や強い頭痛・吐き気を伴う:眼球の奥の炎症や全身感染症が関わっていることがあり、早急な診断と治療が必要です。
- 外傷後のかゆみ・痛み:ボールが当たった、転倒してぶつけたなど、外傷のあとにかゆみや痛み、見えにくさが出てきた場合。
これらに当てはまらなくても、「かゆみが強くて眠れない」「片目だけ症状が続く」「数週間単位で良くなったり悪くなったりを繰り返している」など、不安が強い場合は一度眼科で相談することをおすすめします2829。
【第1部】アレルギーが主因の場合:アレルギー性結膜疾患
花粉やハウスダスト、動物の毛、カビなどのアレルゲンが原因となる目のかゆみは、「アレルギー性結膜疾患」と総称され、日本では非常に頻度の高い病気です2。同じ「かゆい目」でも、季節性・通年性のアレルギー性結膜炎から、角膜にまで強い炎症が及ぶ重症型まで、病型や重症度はさまざまです。
日本眼科アレルギー学会の「アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第3版)」では、アレルギー性結膜疾患をいくつかの病型に分類し、それぞれに対する治療方針を詳しく示しています2。ここでは、目のかゆみと関係が深い代表的な病型を見ていきましょう。
1.1. 季節性・通年性アレルギー性結膜炎(花粉・ハウスダスト)
最も一般的なタイプのアレルギーで、特定の季節に症状が現れる「季節性(主に花粉症)」と、一年中症状が続く「通年性(主にハウスダストなど)」に分けられます。代表的な症状は、強いかゆみ、充血、涙目、そして水のように透明な目やにです。くしゃみや鼻水などのアレルギー性鼻炎の症状を伴うことも多く、「目と鼻のアレルギー」が同時に悪化するケースもよく見られます。
原因となるアレルゲンは、日本では春のスギやヒノキの花粉6、ハウスダストに含まれるダニの死骸やフンなどが代表的です。最近では、シラカンバやブタクサなど、地域や生活環境によってさまざまな花粉が問題となっています。
治療の基本方針:
- アレルゲン回避:花粉情報のチェック、マスクや花粉対策メガネの使用、室内環境の整備など、原因となる物質をできるだけ避ける工夫が第一歩です626。
- 抗ヒスタミン薬・メディエーター遊離抑制薬の点眼:ガイドラインでは、季節性・通年性アレルギー性結膜炎に対して、抗ヒスタミン薬やメディエーター遊離抑制薬の点眼が第一選択薬として推奨されています2。かゆみを引き起こすヒスタミンなどの化学伝達物質の作用や放出を抑えることで症状を軽減します。
- ステロイド点眼薬:症状が中等度以上で、第一選択薬だけでは十分な効果が得られない場合に、短期間・限定的に使用されます。ガイドラインでは、一般的な病型に対するステロイド点眼薬の使用は「条件付きで弱く推奨」とされており、安易な長期使用は避けるべきとされています2。必ず眼科で処方を受け、指示どおりに使用しましょう。
症状が軽い時期から予防的に点眼を開始する「初期療法」が有効な場合もあります。毎年決まった時期に症状が出る方は、花粉シーズンが本格化する前に眼科で相談しておくと安心です6。
1.2. 重症型:春季カタルとアトピー角結膜炎(AKC)
春季カタルやアトピー角結膜炎(AKC)は、アトピー素因(アレルギーを起こしやすい体質)を持つ人に多く見られる重症型のアレルギー性結膜疾患です。単なるかゆみだけでなく、角膜(黒目の部分)に傷や潰瘍(シールド潰瘍など)を生じさせ、視力低下を引き起こす危険性があります2。
まぶたの裏側にゼリー状の大きなブツブツ(巨大乳頭)ができる、まぶたや眼の周りの皮膚がただれる、強い光をまぶしく感じる(羞明)など、日常生活に大きな支障をきたす症状が出ることも少なくありません。
重症型に対する治療戦略:
- ステロイド点眼薬:アトピー角結膜炎(AKC)などの重症型では、角膜障害や強い炎症を抑えるためにステロイド点眼薬が「実施することを強く推奨」されています2。ただし、副作用(眼圧上昇や白内障など)のリスクもあるため、必ず眼科での定期的な診察と眼圧チェックを受けながら使用します。
- 免疫抑制点眼薬(タクロリムス、シクロスポリン):ガイドラインでは、タクロリムス点眼薬などの免疫抑制薬は、春季カタルやAKCに対してステロイドへの長期的な依存を減らし、副作用を回避する目的で「強く推奨」されています2。症例によっては、ステロイドよりも優先して使用されることもあります。
- 全身治療やアレルギー専門科との連携:皮膚のアトピーや気管支喘息など、全身のアレルギー疾患と併存している場合には、皮膚科・アレルギー科と連携した全身管理が重要です。
これらの重症型は、自己判断や市販薬だけでコントロールしようとすると視力に大きな影響を残す可能性があるため、「少し様子を見る」のではなく、早期から専門的な治療を受けることが大切です25。
1.3. 巨大乳頭結膜炎(コンタクトレンズ関連のかゆみ)
ソフトコンタクトレンズを長期間使用している方に多いのが、「巨大乳頭結膜炎」と呼ばれるタイプです。まぶたの裏側にブツブツした乳頭が多数でき、レンズがゴロゴロする感じや強いかゆみ、目やにの増加などが特徴です828。
レンズの汚れやタンパク質沈着、装用時間の長さ、レンズケアの不十分さなどが関係しており、コンタクトレンズ自体がアレルゲンや汚れの「のりしろ」になってしまうイメージです。
- コンタクトレンズの装用を一時的に中断し、メガネに切り替える。
- レンズの種類や装用時間、ケア方法を見直す。
- 必要に応じて抗アレルギー点眼薬やステロイド点眼薬を併用する(眼科医の指示のもと)。
「レンズを外すと仕事にならない」と無理を続けると、ドライアイや角膜障害も重なって症状が長期化しやすくなります。コンタクトレンズ使用中にかゆみや違和感が続く場合は、早めに眼科で相談しましょう89。
1.4. アレルギー性結膜炎と全身のアレルギー疾患
アレルギー性結膜炎は、しばしばアレルギー性鼻炎、気管支喘息、アトピー性皮膚炎など、全身のアレルギー疾患と組み合わさって現れます132。目だけに注目していると、「目薬さえさしていれば大丈夫」と考えがちですが、全身のアレルギーコントロールが不十分だと目の症状も再燃しやすくなります。
かゆみが強く、皮膚や鼻の症状も気になる場合は、眼科だけでなくアレルギー科や皮膚科と連携しながら、全身的な治療や生活指導を受けることが望ましいとされています32。
1.5. アレルギー性結膜疾患のセルフケアと予防
アレルギー性結膜炎では、薬物療法だけでなく、日常生活の工夫も症状コントロールに大きく影響します62627。
- 目をこすらない:かゆいとついこすりたくなりますが、角膜の傷や炎症の悪化、まぶたの皮膚炎、円錐角膜のリスク増加などにつながるため厳禁です。
- 冷罨法(冷やす):清潔なタオルを冷水で冷やして軽く絞り、まぶたの上から数分間当てることで、かゆみや腫れが和らぐことがあります。氷を直接まぶたに当てるのは避けましょう。
- 花粉・ハウスダスト対策:花粉シーズンにはマスクや花粉対策メガネを使用する、帰宅時に衣類や髪をよく払ってから室内に入る、室内をこまめに掃除するなど、環境省マニュアルに沿った対策が有効です6。
- コンタクトレンズの見直し:アレルギーが強い時期はメガネに切り替える、1dayタイプへの変更を検討するなど、レンズとの付き合い方を見直すことも大切です8。
これらのセルフケアを行っても症状が続く場合や、毎年悪化していると感じる場合は、眼科で原因や病型を詳しく評価してもらいましょう。
【第2部】乾きと油分不足が主因の場合:ドライアイとマイボーム腺機能不全(MGD)
「目がかゆい」という症状は、実はドライアイの典型的な症状の一つでもあります3。日本の疫学調査では、オフィスワーカーの多くがドライアイ症状を自覚しており、VDT作業(パソコンやスマートフォンなどの画面を見る作業)時間が長い人ほどドライアイの頻度が高いことが報告されています1016。
ドライアイは単なる「涙の量の不足」ではなく、涙の質・量・分布のアンバランスによって眼表面が不安定になり、炎症が持続する病気です。日本眼科学会やドライアイ研究会の研究でも、その病態解明が進められています3101112。
2.1. ドライアイの悪循環(Vicious Circle)とは?
国際的な専門家集団であるTFOS(Tear Film & Ocular Surface Society)は、その報告書「DEWS II」の中で、ドライアイの病態を「悪循環(Vicious Circle)」という概念で説明しています51314。一度涙の状態が乱れると、その異常が次々と別の異常を引き起こし、悪循環が続くという考え方です。
ドライアイの悪循環サイクルの一例
- 涙液層の不安定化(涙がすぐに乾く)
- 涙液の高浸透圧化(涙が濃くなり、細胞に負担がかかる)
- 眼表面の炎症(炎症性サイトカインの増加など)
- 角膜・結膜の上皮障害(涙の成分を出す細胞の減少、知覚異常など)
- さらなる涙液層の不安定化(1に戻る)
この悪循環を断ち切ることが、ドライアイ治療の大きな目標です。人工涙液で水分を補うだけでなく、油分やムチン、炎症、生活習慣など、複数の要素に働きかける必要があります。
2.2. あなたはどのタイプ?日本のドライアイ診断基準
ドライアイ研究会が定める日本の診断基準では、以下の2つの条件を両方満たした場合にドライアイと診断されます315。
- 目の不快感や見え方の異常といった自覚症状がある(かゆみ、乾き、疲れやすさ、まぶしさ、見えにくさなど)。
- 涙液層破壊時間(BUT: Break-Up Time)の検査で、涙の膜が5秒以下で壊れてしまう。
その他にも、シルマー試験(涙の量を測る検査)や、角膜・結膜の障害を調べる染色検査などが行われ、病型(蒸発亢進型、水層減少型など)や重症度が評価されます。
代表世話人である横井則彦教授らの研究により、ドライアイには様々な病型があることも分かってきています1617。また、シェーグレン症候群のような自己免疫疾患が原因で、涙の水分が極端に減少する「水層減少型」も存在し、内科やリウマチ科との連携が必要になることもあります18。
2.3. ドライアイ最大の原因:マイボーム腺機能不全(MGD)
マイボーム腺はまぶたの縁に並ぶ皮脂腺で、涙の蒸発を防ぐ油分(マイバム)を分泌しています。この腺が詰まったり、分泌される油の質が変化することで、涙の油層が不安定になり、涙がすぐに蒸発してしまう状態が「マイボーム腺機能不全(MGD)」です421。
2023年に発表された「マイボーム腺機能不全(MGD)診療ガイドライン」によると、蒸発亢進型ドライアイの多くにMGDが関与しているとされ、ドライアイ診療において非常に重要な位置づけとなっています41920。加齢、アジア人であること、女性、コンタクトレンズ使用、VDT作業時間の長さなどがリスク因子として挙げられています41021。
MGDの治療法:
- 自宅でのセルフケア:温罨法(おんあんぽう)とリッドハイジーン(まぶたの清拭)が基本です。温罨法は、詰まった脂を溶かすために「40℃前後の温度で5分以上」まぶたを温めることが重要です。濡れタオルを電子レンジで温め、ビニール袋やラップで包むと手軽に実践できますが、やけどを防ぐため必ず温度を確認してから使用しましょう222324。
- クリニックでの専門的治療:マイボーム腺を圧迫して中身を絞り出す処置や、温度と圧力を組み合わせて腺内の油を柔らかくする医療機器など、さまざまな方法があります。近年、エビデンスに基づき有力な選択肢の一つとされているのがIPL(Intense Pulsed Light)治療です。MGD診療ガイドラインでは、IPL治療はエビデンスレベルAと評価され、MGDに対する治療選択肢として「弱く推奨」されていますが4、多くは自費診療であり、適応や費用について眼科で相談することが大切です。
MGDは、「涙の量はそこまで減っていないのに目が乾く・かゆい・疲れる」といった症状の背景に隠れていることが多く、自分では気づきにくい病態です。まぶたの縁が赤い・脂っぽい・フケのような汚れが付いている場合は、一度MGDの可能性も含めて評価してもらうと安心です。
2.4. ドライアイと現代生活(PC・スマートフォン・マスク・コンタクトレンズ)
現代の日本では、PCやスマートフォンを使う時間が長く、リモートワークやオンライン授業も一般的になりました。これらの生活スタイルの変化は、ドライアイや目のかゆみを悪化させる大きな要因になっています91016。
- VDT作業(画面を見る作業):画面に集中するとまばたきの回数が減り、涙がすぐに蒸発してしまいます。1時間に1回は休憩をとり、遠くを見る、意識的にゆっくりとまばたきをするなどの工夫が有効です310。
- 長時間のマスク着用:マスクの上から漏れる息が常に目に当たることで、涙の蒸発が促進される「マスク関連ドライアイ」が報告されています6。マスクの上部をフィットさせる、メガネが曇りにくい工夫をすることで、目への風当たりを減らすことができます。
- コンタクトレンズ:レンズが涙の膜を二重に分けてしまい、もともとの涙の層より不安定になることが知られています9。ドライアイが疑われる場合は、防腐剤無添加の人工涙液を使用したり、装用時間を短くする、メガネに切り替えるなどの対応が必要です。
- 空調・室内環境:エアコンの風が直接当たる環境や湿度の低い部屋は、涙の蒸発を加速させます。加湿器の利用や風向きの調整、ドライアイ用の保湿メガネの使用も一案です321。
2.5. 眼科で行われるドライアイ治療の選択肢
ドライアイの治療は、病型や重症度に応じてさまざまな選択肢があります31012。
- 人工涙液・ヒアルロン酸点眼:涙に近い成分を補うことで、乾きやゴロゴロ感を和らげます。防腐剤無添加の製剤が推奨されることが多く、症状やレンズ装用の有無に応じて選択されます。
- ムチン・水分分泌を促す点眼薬:ジクアホソルナトリウムやレバミピドなど、涙の質を整える点眼薬が使用されることがあります。これらは医師の処方が必要です。
- 涙点プラグ:涙の出口である涙点を小さなプラグで塞ぎ、涙が眼の表面にとどまる時間を長くする治療です。重症のドライアイに対して行われます10。
- 自己血清点眼などの専門的治療:重症例では、自分の血清を利用した点眼や、その他の高度な治療が検討されることもありますが、専門施設での対応となります。
ドライアイの治療は「この1本で完治」というものではなく、生活習慣の見直しやまぶたのケアと組み合わせて、少しずつ悪循環を断ち切っていくイメージが大切です。
【第3部】その他の炎症・感染症
アレルギーやドライアイ以外にも、まぶたや結膜、角膜の炎症・感染が原因でかゆみが生じることがあります。特に、細菌やウイルスによる感染症では、かゆみだけでなく痛みや目やに、充血などが目立つことが多く、放置すると症状が悪化してしまうこともあります2528。
3.1. 眼瞼炎(まぶたの炎症)と麦粒腫(ものもらい)
まぶたの縁に起こる炎症を「眼瞼炎」と言い、主に次の2つに分けられます。
- 前部眼瞼炎:まつ毛の根元(まぶたの外側)に細菌が感染して起こるタイプ。フケのような皮脂汚れやかさぶた、かゆみ、ヒリヒリ感などが見られます。
- 後部眼瞼炎:マイボーム腺機能不全(MGD)に関連して、まぶたの縁(マイボーム腺の出口)に炎症が起こるタイプ。脂っぽい汚れや白い塊が付着し、ドライアイ症状やかゆみを伴います422。
これらが急性的に化膿したものが、一般に「ものもらい」と呼ばれる麦粒腫です。まぶたの一部が赤く腫れ、押すと痛みを感じるのが特徴です。細菌感染が関係するため、温め方や触り方を誤るとかえって悪化することもあります。
眼瞼炎・麦粒腫に対しては、まぶたの清潔を保つこと(リッドハイジーン)、必要に応じた抗菌薬の点眼や軟膏治療が中心となります。繰り返す場合は、MGDや皮膚の病気(脂漏性皮膚炎など)が関わっていないか、眼科で評価してもらうことが大切です2324。
3.2. ウイルス性・細菌性結膜炎
アレルギー性結膜炎と紛らわしいのが、ウイルス性・細菌性結膜炎です。いわゆる「はやり目(流行性角結膜炎など)」はウイルスが原因で、強い充血や目やに、まぶたの腫れ、耳の前のリンパ節の腫れなどを伴うことがあります6。
細菌性結膜炎では、黄色や緑色のネバネバした目やにが多く、朝起きたときにまぶたがくっついて開けにくいといった症状が目立ちます。かゆみよりも「ゴロゴロ感」や痛みを強く感じることも少なくありません28。
これらの感染性結膜炎は、市販薬だけでの対応では不十分なことが多く、原因に応じた抗菌薬や抗ウイルス薬、感染拡大を防ぐための生活指導が重要です。家族や職場・学校での感染予防の観点からも、早めに眼科を受診することが勧められます。
3.3. 逆さまつげや皮膚の病気に伴う目のかゆみ
まつ毛が内側に向かって生えて角膜や結膜を刺激する「逆さまつげ(睫毛内反)」や、まぶた周囲の皮膚炎(アトピー性皮膚炎、脂漏性皮膚炎など)が原因で、目の周りのかゆみやヒリヒリ感が現れることもあります252829。
この場合、目薬だけでは根本的な改善が難しく、まつ毛の抜去や手術、皮膚科での外用薬治療などが必要になることがあります。かゆみの場所が「目の中」なのか「まぶた・目頭・目尻」なのかを意識して観察し、診察時に医師に詳しく伝えると原因の絞り込みに役立ちます。
温める?冷やす?症状から選ぶ正しいセルフケア
「温めたほうがいいのか、冷やしたほうがいいのか分からない」という声は非常に多く聞かれます。実は、科学的な観点から見ると、原因や症状に応じて適した方法が大きく異なります。誤った対処は症状を悪化させる可能性があるため、以下のような目安を押さえておきましょう23422。
| 対処法 | 適した症状・原因 | 科学的根拠 |
|---|---|---|
| 冷やす | アレルギーによる強いかゆみ、充血、腫れ | 血管を収縮させることで、かゆみの原因となる炎症メディエーター(ヒスタミンなど)の放出や作用を抑制し、炎症反応を鎮静化させます。 |
| 温める | ドライアイやMGDによる目の疲れ、乾き、ゴロゴロ感 | マイボーム腺に詰まった脂(マイバム)を溶かし、涙の油層を安定させることで、涙の蒸発を防ぎ、眼表面を保護します422。 |
いずれの場合も、「強くこする」「長時間やりすぎる」ことは避け、清潔なタオルや市販のホットアイマスクなどを用いて、10分前後を目安に行うとよいとされています。痛みや視力低下を伴う場合、感染症が疑われる場合には、自己判断で温めたり冷やしたりせず、まず眼科を受診しましょう。
日本の生活に合わせた予防法:環境省マニュアルより
日本政府(環境省)が公式に推奨する「花粉症環境保健マニュアル2022」には、日常生活で実践できる効果的な予防策が示されています6。花粉やハウスダストなどのアレルゲン対策は、目のかゆみだけでなく、鼻や喉の症状の軽減にもつながります。
- 花粉の防御:花粉飛散シーズンには、顔にフィットするマスク、防御カバーの付いたメガネやゴーグルを着用することが有効です。コンタクトレンズよりもメガネを優先することで、目に付着する花粉量を減らせます。
- 衣類の選択:帰宅時には、玄関前で衣類や髪についた花粉をよく払い落とします。表面がツルツルした素材の衣類は、花粉が付着しにくいとされています。
- 室内の環境:花粉の飛散が多い日は窓や戸を閉め、換気は飛散の少ない時間帯に短時間行います。こまめな清掃、特に濡れ雑巾やモップでの拭き掃除が花粉の除去に効果的です。空気清浄機の使用も推奨されます。
- 目を守る生活習慣:エアコンの風が直接目に当たらないようにする、加湿器で室内の湿度を保つ、仕事や勉強の合間にこまめに休憩をとるといった工夫も、ドライアイやかゆみの予防に役立ちます921。
- 全身のアレルギー対策:鼻炎やぜんそく、皮膚炎など全身のアレルギー疾患を適切にコントロールすることも、目のかゆみの軽減につながります132。
これらの予防策は、「症状が出てから」よりも、「症状が出る前」から始めることがポイントです。毎年決まった時期にかゆみが出る方は、花粉シーズンの少し前から生活環境を整え、市販薬や処方薬の準備を進めておくと安心です。
よくある質問
市販の目薬を使っても良いですか?
コンタクトレンズはかゆみを悪化させますか?
どのような場合に眼科を受診すべきですか?
冒頭の「危険な目のかゆみのサイン」で挙げた症状(激しい痛み、急な視力低下、著しい腫れなど)がある場合は、時間を置かずに直ちに受診してください。それに加え、次のような場合も眼科専門医の診断が必要です。
- 市販薬を1週間程度使用しても、症状が改善しない、または悪化する場合。
- かゆみが非常に強く、仕事や勉強など日常生活に支障をきたしている場合。
- かゆみだけでなく、視界のかすみや見え方の異常を感じる場合。
- コンタクトレンズ装用中に痛みやかすみ、充血が急に強くなった場合。
「受診するほどではないかもしれない」と迷うときこそ、早めに相談しておくことで重症化を防げるケースが多くあります28。
目をこするとどうなりますか?
子どもの目のかゆみは大人と同じように考えて良いですか?
子どもの場合、大人と同じようなアレルギー性結膜炎や感染症が原因のこともありますが、自分で症状をうまく説明できず、「目を頻繁にこする」「テレビや本を覗き込むように見る」といった行動の変化として現れることがあります28。
特に注意したいのは、以下のような場合です。
- 片方の目だけ強くこする、充血している。
- 光をまぶしがる、目を細めて見ることが増えた。
- 発熱やだるさを伴い、目が赤く腫れている。
子どもの視力は成長途中であり、放置すると弱視などにつながる可能性もあるため、「何となくおかしい」と感じた時点で早めに眼科で相談することが大切です。
仕事や勉強で一日中パソコンを使っています。かゆみと乾きを和らげるコツは?
花粉シーズン前からできる対策はありますか?
結論
止まらない目のかゆみは、単なる不快な症状ではなく、アレルギー性結膜疾患、ドライアイ、マイボーム腺機能不全(MGD)、眼瞼炎、感染性結膜炎など、眼表面の複数の疾患が複雑に絡み合って生じる健康問題のシグナルです。その対処法は、原因によって「冷やす」べきか「温める」べきか、コンタクトレンズを休むべきか、感染対策を優先すべきかなど、正反対になることも少なくありません。
日本には、アレルギー性結膜疾患やドライアイ、MGDなどに関する信頼性の高い診療ガイドラインが整備されており、それに基づいた科学的根拠のある診断法と治療法が存在します234。本記事で紹介した基礎知識やセルフケアのポイントを参考にしつつも、「市販薬で何とかしよう」と一人で抱え込まず、必要なタイミングで眼科を受診し、あなた自身の生活や体質に合った治療方針を一緒に考えてもらうことが大切です。
正しい知識と早めの対応が、つらいかゆみから解放され、安心して日常生活を送るための第一歩になります。気になる症状があるときは、本記事をきっかけに、ぜひ専門家との対話の場を持ってみてください。
免責事項 本記事は、日本および国際的な公的機関・専門学会の情報に基づき、Japanese Health(JHO)編集部が一般の読者向けにわかりやすく整理したものであり、個々の診断や治療方針を直接決定するためのものではありません。健康上の懸念がある場合や、ご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。本記事の情報のみをもとに自己判断で治療を始めたり中止したりすることはお控えください。
参考文献
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