直腸がんの真実:早期発見と治療法
がん・腫瘍疾患

直腸がんの真実:早期発見と治療法

はじめに

近年、日本においても大腸がんの罹患率・死亡率が高い傾向は広く知られています。その中で直腸がんは大腸がんの一種として注目され、特に50歳以上の方で発症リスクが高いとされています。ただし、若年層でもごく一部で発症例が見られ、必ずしも高齢者のみの病気ではありません。直腸は大腸の最終部分にあたるため、ここに生じる悪性腫瘍(がん)は早期に発見・治療することで予後が大きく改善する可能性があります。本記事では、直腸がんの定義、症状、原因、診断・治療法、予後、さらに予防策に至るまで、できるだけ詳しく解説します。実際に検診を受けるタイミングや、日常生活での注意点、海外を含む最新の研究動向などもご紹介しながら、皆さまがより主体的に情報を活用できるようにまとめました。

免責事項

当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。

ここでは、あくまで信頼性のある情報を参考にしており(本文末尾の「参考文献」をご覧ください)、日本国内外の主要ながん専門機関のデータや研究にも触れています。しかしながら、本記事はあくまでも一般的な情報提供を目的としたもので、医療上のアドバイスや診断の代替にはなりません。 気になる症状や疑問をお持ちの場合は、必ず医師や専門家にご相談ください。


専門家への相談

本記事の内容をまとめるにあたり、医療情報は複数の専門機関や最新の研究を参考にしています。また、元の情報源として示されている各国の大学病院や公的機関(Cleveland Clinic、Mayo Clinic、米国国立衛生研究所など)が発行しているガイドラインや、国内外の学会がん診療ガイドラインなども総合的に参照しました。加えて、日本国内でがん治療に従事している医師(例:「Tham vấn y khoa: Bác sĩ Trần Kiến Bình」の監修を受けた文献情報も盛り込んでいます。海外の文献は英語のまま保持しており、その中で示される病態生理や統計データを、日本国内でも十分に応用できるよう翻訳・再構築しています。実際の治療方針は患者さん個々の状態や病期、合併症の有無などによって大きく異なるため、やはり担当医との直接の相談が不可欠です。


直腸がんについて

直腸がんとは何か

直腸とは、大腸の終末部に位置し、結腸の末端から肛門に至るまでの区間を指します。便が通過する最後の部分であり、ここでがん細胞が異常増殖して悪性腫瘍を形成するのが直腸がんです。大腸がんのうち「結腸がん」と「直腸がん」を合わせて「大腸がん」と総称することもありますが、直腸がんは位置が肛門に近いため、症状や治療法が結腸がんとは一部異なります。

多くの場合、正常な粘膜細胞が何らかの遺伝子変異や生活習慣などの影響を受けて異常増殖し、やがて腫瘍化すると考えられています。この過程には時間がかかり、早期発見・早期治療によってがんの進行を抑えられる可能性が高まるのが特徴です。

病期(ステージ)分類

直腸がんは、大まかに以下のようにステージ(病期)が分類されます。これは腫瘍の大きさ、直腸壁への浸潤度合い、リンパ節への転移、さらに遠隔転移(肝臓や肺、脳、骨など)があるかどうかによって段階が分けられます。

  • ステージ0
    直腸の内側粘膜層(粘膜上皮)にがん細胞が認められるごく初期の段階です。
  • ステージI
    腫瘍が粘膜下層や筋層に浸潤しているものの、リンパ節転移はなく、腫瘍の拡がりも局所的です。
  • ステージII
    腫瘍が直腸壁を超えて周囲組織に達している、あるいは粘膜下層からさらに深くまで浸潤している場合が含まれます。ただしリンパ節転移は限定的か、または認められない段階です。
  • ステージIII
    腫瘍がさらに深く浸潤し、周囲のリンパ節転移が確認される状態です。遠隔転移はまだありません。
  • ステージIV
    腫瘍が直腸を超えて複数の臓器(肝臓や肺、脳、骨など)へ遠隔転移している段階です。リンパ節への転移も同時に存在する場合が多く、最も進行した状態となります。

一般に、早期ステージほど治療による改善率が高い傾向にあります。


症状

代表的な症状

直腸がんの初期症状は必ずしも顕著ではなく、なかなか自覚しづらいことがあります。しかし、進行するにつれて以下のような症状が見られることがあります。

  • 便通異常
    下痢や便秘が続く、あるいは下痢と便秘が交互に起こるようになるなど、排便パターンの変化が見られる場合があります。直腸がんが腸管を狭くしたり、刺激したりするために生じるとも考えられています。また、排便してもすっきりしない「残便感」や「しぶり腹(便意はあるのに便が出ない)」などの症状も見られます。
  • 血便や直腸出血
    便に血が混じる、便器やトイレットペーパーが赤く染まる、黒い便が出るなどの出血症状が典型例です。痔などほかの肛門疾患でも出血は起こるため、自己判断で「痔だろう」と放置せず、検査を受けることが望ましいです。
  • 腹痛や腹部不快感
    直腸付近に腫瘍が大きくなると、痛みや腹部膨満感などを引き起こします。また、進行すると腸閉塞様の激しい腹痛につながることもあります。
  • 体重減少や貧血、倦怠感
    食欲不振や栄養吸収障害、慢性的な出血による鉄欠乏性貧血などが生じ、慢性疲労や倦怠感が続くことがあります。
  • 便の形状変化
    腫瘍の影響で腸管が狭くなると、便が細くなる(いわゆる「鉛筆状便」)ことがあります。

初期段階では症状がほとんど出ないケースも多いため、定期健診や便潜血検査などによる早期発見が極めて重要です。


原因

原因と発生リスク

直腸がんを含む大腸がんの明確な原因は、現時点では完全には解明されていません。しかし、細胞のDNAに変異が蓄積し、異常増殖を起こすことが大きな要因と考えられています。特に以下の要素が発症リスクを高めるとされています。

  • 加齢
    50歳以上での発症率が高いですが、近年では若年層にも一定数の発症報告があり、日本国内でも注意が必要とされています。
  • 家族歴や遺伝的要因
    家族の中に大腸がんまたは直腸がんを発症した方がいる場合、そのリスクは倍増するという報告があります。とくに遺伝性のがん症候群(Lynch症候群や家族性大腸腺腫症など)は、若い年齢での大腸がん発症リスクを高めるとされています。
  • 個人の既往症
    大腸ポリープや炎症性腸疾患(クローン病や潰瘍性大腸炎など)がある場合、直腸がんのリスクが上昇します。
  • 生活習慣
    喫煙、大量飲酒、肥満、運動不足、脂肪分や加工肉を多く含む食事などがリスクファクターとされています。逆に、野菜・果物・食物繊維の不足も発症につながる可能性が高いです。
  • 糖尿病
    血糖コントロールが不良な2型糖尿病は、大腸がんリスクと関連するという報告もあります。

研究動向と注意点

  • 喫煙とがんリスク
    近年、国際的なコホート研究によって、喫煙が直腸がんを含む大腸がんリスクを上昇させるというデータが改めて示されています。受動喫煙も含め、タバコからの有害物質が大腸の粘膜にも影響を与えると考えられています。
    例として、2021年に発表された複数研究のメタアナリシスでも、喫煙者が非喫煙者と比べて大腸がん(結腸・直腸)の罹患率が有意に高まると報告されています(Manceau Gら, 2021, J Cancer Res Clin Oncol., 147(3):737–756, doi:10.1007/s00432-020-03451-0)。
  • 肥満の影響
    肥満がもたらすインスリン抵抗性、慢性炎症状態などが、腸内環境に影響を及ぼし、がんリスクを上昇させることが近年の研究でも示唆されています。日本でも肥満率が緩やかに増加傾向にあるため、生活習慣の改善が重要とされています。
  • 飲酒と食生活
    WHOや各国の保健機関が、1週間当たりの飲酒量に関するガイドラインを示し、過度のアルコール摂取ががんリスクを上昇させることを警告しています。また、加工肉や赤身肉の過剰摂取と直腸がん発症の関連性に関しては、欧米を中心に多数の研究があり、近年もさらにデータの蓄積が進んでいます。

診断と治療

以下の情報は一般的なものであり、個々の病状によって異なるため、必ず医師の診察・検査を受けるようにしてください。

診断方法

  1. 便潜血検査
    便中に血液が混じっていないかを調べる簡便な検査です。大腸がん・直腸がんのスクリーニングとして一般的に用いられ、日本でも40歳以上を対象にした検診で実施されています。
  2. 内視鏡検査(大腸内視鏡)
    カメラ付きの細長いチューブを肛門から挿入し、直腸や大腸の内部を直接観察します。必要に応じて組織の一部を切り取る「生検」も行い、がんの有無・進行度を調べます。内視鏡検査は極めて正確性が高く、ポリープの切除も同時に行える利点があります。
  3. 画像検査
    • CT検査
      胸部CTでは肺転移の有無、腹部CTでは肝転移などを評価します。
    • MRI検査
      直腸周辺組織やリンパ節、周囲臓器への浸潤状況など、軟部組織を詳細に評価できるため、特に進行度の把握に有用です。
  4. 血液検査
    腫瘍マーカー(CEA: carcinoembryonic antigen)の測定を行うことがあります。数値が高いほど進行度が高い可能性が示唆されますが、確定診断には必ず画像検査や内視鏡検査を併用します。

治療方法

手術療法

  • 経肛門的切除術(局所切除)
    腫瘍が小さく、局在性である場合、肛門から内視鏡や特殊な器具を挿入し、がん組織だけを切除する方法です。局所再発率を抑えるため、厳密な適応選択が必要とされています。
  • 前方切除術・低位前方切除術
    直腸の中~上部にできたがんに対しては、がんを含む直腸の一部やリンパ節を切除し、残った直腸や結腸を再度つなぎ合わせます。肛門機能を可能な限り温存できる方法です。
  • 腹会陰式直腸切断術
    直腸の下部、肛門に極めて近い部位にがんが存在する場合、肛門括約筋まで切除せざるを得ないケースがあります。その場合は人工肛門(ストーマ)を造設することが必要となります。
  • 周辺臓器合併切除
    進行した直腸がんが周囲の臓器(膀胱、子宮など)まで浸潤している場合は、これらの臓器の一部または全部を含む大きな切除が検討されます。患者さんのQOL(生活の質)を考慮したうえでの複雑な手術計画が求められます。

化学療法(抗がん剤治療)

手術前(術前化学療法)に腫瘍を縮小させ、手術後(術後化学療法)に微小転移を抑えるために行われます。薬剤は点滴や内服薬など複数種類があり、病期や患者さんの状態に応じて組み合わせが選ばれます。近年は新しい分子標的薬も登場し、再発例や進行例に対して効果が期待されるケースがあります。

放射線療法

外部照射や組織内照射など、放射線を用いてがん細胞を死滅させたり増殖を抑えたりする治療法です。特に直腸がんでは、手術前に放射線療法と化学療法を併用することで、腫瘍を縮小させて手術の成功率を高める「術前化学放射線療法」が行われることがあります。肛門温存率の向上にも寄与するとされています。

化学放射線療法(化学療法+放射線療法)

化学療法と放射線療法を同時に行うことで、双方の治療効果を増幅させ、直腸がん細胞をより効果的に制御しようとするアプローチです。局所進行がんや再発リスクの高い症例、肛門温存を目指す症例で行われることが多いです。

免疫療法

がん細胞を排除する力を持つ免疫系を活性化させる治療法で、近年大きく注目されています。ただし、現時点で標準治療として確立しているわけではなく、特定の分子異常(たとえばマイクロサテライト不安定性など)を伴うタイプの直腸がんに有効性が示唆されるケースがあります。研究開発が進んでいますが、適応症例は限定的です。

分子標的治療薬

腫瘍細胞の特異的な分子機構を狙い撃ちする薬剤です。血管新生阻害剤やEGFR阻害剤などが代表例として挙げられ、標準的な抗がん剤治療に加えて使用されることがあります。再発例や転移例を中心に検討されます。


予後(見通し)

直腸がんの生存率

直腸がんの5年生存率は、病期(ステージ)によって大きく変わります。一般的にはステージIやIIの早期発見であれば、5年生存率は80~90%以上に達すると報告されています。一方、遠隔転移を伴うステージIVでは大幅に下がる傾向にあります。ただし、新しい治療法(分子標的薬や免疫療法など)が普及したことで、転移例でも治療によっては長期生存が期待できるケースが増えています。

個別性とQOL

直腸がんの治療では、病期だけでなくがんの部位(肛門からの距離)も大きな判断材料になります。肛門温存の可否やストーマ造設の必要性が患者さんのQOLに直結するため、主治医やケアチームとの相談が重要です。術後の生活指導やリハビリテーション、腸管機能のケアなども長期にわたるサポート体制が求められます。


予防

予防策と早期発見

直腸がんを完全に防ぐことは難しいですが、リスクを下げるために推奨される対策は以下のとおりです。

  • 定期検診の受診
    便潜血検査や大腸内視鏡検査を定期的に受け、ポリープや早期がんを発見・切除することが、最も有効な予防策とされています。特に45歳からの検診開始が推奨される国際的な流れが強まっており、日本でも50歳前後から始める方が増えていますが、家族歴がある場合はさらに早めの検査が勧められます。
  • 生活習慣の改善
    • 喫煙をしない、または禁煙を心がける
    • 適度な飲酒にとどめる(厚生労働省のガイドラインでは飲酒量の上限に関する目安あり)
    • 毎日30分程度の有酸素運動など、継続的な身体活動
    • 野菜や果物、食物繊維、良質なたんぱく質をバランスよく摂取する
    • 過剰な赤身肉や加工肉の摂取を控えめにする
    • 肥満防止のために適正体重を維持する
  • 糖尿病や高血圧などの慢性疾患管理
    血糖値や血圧が安定していない状態は、体内の炎症反応を高め、がんリスクを高める可能性が指摘されています。定期通院と適切な治療により管理しましょう。

近年、ヨーロッパとアジアの複数の大規模研究で、規則的な運動習慣や健康的な食事パターン(例えば野菜・果物中心の食習慣)が大腸がん全体の罹患率を有意に低下させるというデータも発表されており(Reinacher-Schick Aら, 2023, ESMO Open, 8(6):100733)、これは日本人にも応用可能とされています。


結論と提言

直腸がんは比較的頻度の高いがんではあるものの、適切なスクリーニングや早期の治療介入によって予後が大きく向上します。特に大腸内視鏡検査は、ポリープやごく初期の病変を見つけ出し、その場で切除することも可能であり、がんの発生自体を未然に防ぐ効果があります。さらに、病期が進んでしまった場合でも、手術・化学療法・放射線療法の組み合わせや分子標的薬・免疫療法の進歩により、治療成績は年々向上しています。

リスクを下げるためには、喫煙や過度の飲酒を避ける、肥満を防止する、バランスの良い食生活と適度な運動習慣を維持するなどの生活改善が基本です。とくに家族に大腸がんの既往歴がある場合は、より早期から定期検診を受けることを検討してください。

最後に、本記事で取り上げた情報は、あくまで一般的な知識に基づくものであり、医師の診断や個別の治療方針を代替するものではありません。 ご自身の体調に不安を感じた際や、疑わしい症状がある場合は、必ず医療機関での相談・検査を行いましょう。


参考文献

免責事項
この記事は医療専門家によるアドバイスの代わりにはなりません。日本国内外の信頼できる情報をもとに執筆していますが、ご自身の症状や健康状態に関する最終的な判断は、必ず主治医をはじめとした専門家の診察・検査に基づいて行ってください。

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