この記事の科学的根拠
この記事は、引用元として明記された最高品質の医学的根拠にのみ基づいて作成されています。以下は、本記事で提示される医学的指導の根拠となる主要な情報源とその関連性です。
- 日本呼吸器学会: 本記事における睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診断基準、重症度分類、および治療法(CPAP療法、口腔内装置、外科手術など)に関する解説は、同学会が発行する「睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020」に全面的に準拠しています3。
- 厚生労働省: 日本国内のSASリスク因子(肥満、高血圧など)に関する統計データは、同省が実施する「国民健康・栄養調査」4を、また治療に関する保険適用の情報は「診療報酬情報提供サービス」8を根拠としています。
- The Lancet Respiratory Medicine誌掲載論文: 世界におけるSASの有病者数に関する記述は、Benjafield氏らの研究チームによる2019年の論文に基づいています2。
- Chest誌およびSleep誌掲載論文: SASと心血管イベント6、および認知症7との関連性に関する解説は、それぞれの専門誌に掲載された査読付きの学術研究論文を科学的根拠としています。
要点まとめ
- 睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、単なる「いびき」ではなく、睡眠中に呼吸が繰り返し止まることで、心筋梗塞や脳卒中、さらには認知症のリスクを高める深刻な病気です。
- 主な原因は肥満ですが、痩せている人でも顎の骨格などによって発症することがあります。日中の強い眠気や起床時の頭痛は、見逃してはならないサインです。
- 診断は専門の医療機関で行われ、自宅での簡易検査や入院による精密検査(PSG検査)があります。
- 最も効果的な治療法はCPAP(シーパップ)療法であり、保険適用で治療を受けることが可能です。その他にもマウスピースや外科手術、生活習慣の改善も重要です。
- SASは治療可能な病気です。放置せずに専門医に相談することが、ご自身の健康と未来を守るための第一歩となります。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは?- 睡眠中にあなたの気道で起きていること
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、文字通り「睡眠中に呼吸が止まる」病気です。しかし、その医学的な定義はより厳密です。本セクションでは、SASの基本的な定義と、なぜ呼吸が止まってしまうのか、その仕組みについて解説します。
SASの医学的定義と重症度
日本呼吸器学会の診療ガイドラインによると、SASは「10秒以上の呼吸停止(無呼吸)または呼吸量の著しい低下(低呼吸)が、睡眠1時間あたり5回以上繰り返される状態」と定義されています3。この1時間あたりの無呼吸と低呼吸の合計回数を「無呼吸低呼吸指数(AHI: Apnea Hypopnea Index)」と呼び、この数値によって重症度が分類されます。
- 軽症: AHI 5回以上15回未満
- 中等症: AHI 15回以上30回未満
- 重症: AHI 30回以上
例えば、AHIが30回の場合、睡眠中に1時間あたり30回、つまり平均して2分に1回のペースで呼吸が止まっているか、それに近い状態になっていることを意味します。これが毎晩続くことで、身体は深刻な酸素不足(低酸素血症)に陥り、様々な合併症を引き起こす原因となります。
SASの3つのタイプ:なぜ呼吸が止まるのか?
SASには、その原因によって主に3つのタイプが存在します。それぞれのメカニズムを理解することが、適切な治療への第一歩となります。
- 閉塞性睡眠時無呼吸(OSA: Obstructive Sleep Apnea):
最も一般的なタイプで、SAS患者の90%以上を占めます。睡眠中にのどの筋肉が弛緩し、舌の付け根(舌根)や軟口蓋(のどちんこの周辺)が気道に落ち込むことで、空気の通り道が物理的に塞がれてしまいます。呼吸をしようとする努力(胸や腹の動き)は見られますが、気道が閉塞しているために空気が肺に入っていきません。 - 中枢性睡眠時無呼吸(CSA: Central Sleep Apnea):
脳の呼吸中枢(呼吸をコントロールする司令塔)からの指令が一時的に停止してしまうタイプです。このため、呼吸しようとする努力そのものがなくなってしまいます。心不全などの心臓病を持つ患者さんに見られることがあります。 - 混合性睡眠時無呼吸(Mixed Sleep Apnea):
閉塞性と中枢性の両方の特徴を併せ持つタイプです。睡眠の開始時には中枢性が見られ、その後、閉塞性に移行することが多いとされています。
あなたは大丈夫?SASを見逃さないための危険なサインとセルフチェック
SASの最も厄介な点は、睡眠中に起こるため本人に自覚がないケースが多いことです。しかし、身体は必ず何らかのサインを発しています。ここでは、ご自身で気づける症状と、ご家族だからこそ気づける重要なサインについて解説します。
本人が気づきやすい症状
以下のような症状に心当たりはありませんか。これらはSASが原因で起こっている可能性があります。
- 大きないびき: 狭くなった気道を空気が通る際の振動音です。いびきが途中で止まり、しばらくして「ガガッ!」という大きないびきとともに呼吸が再開するのは、無呼吸の典型的なパターンです。
- 日中の耐えがたい眠気や疲労感: 夜間に呼吸が止まるたびに、脳は覚醒(目が覚める)して呼吸を再開させようとします。この「微小覚醒」が何度も繰り返されるため、睡眠が細切れになり、深く眠ることができません。その結果、日中に強烈な眠気に襲われます。
- 起床時の頭痛や口の渇き: 睡眠中の低酸素状態や、口呼吸になることが原因で起こります。
- 夜間の頻尿: 低酸素状態になると、心臓に負担がかかり、利尿を促すホルモンが分泌されるため、夜中に何度もトイレに起きることがあります。
- 集中力・記憶力の低下: 質の良い睡眠がとれないため、日中の認知機能が低下し、仕事や学業に支障をきたすことがあります。
家族やパートナーだけが気づく「無呼吸」のサイン
ご本人が無自覚でも、隣で寝ているご家族やパートナーは最も重要な「目撃者」です。「いびきが止まっている」「息苦しそう」といった指摘は、受診のきっかけとして極めて重要です。具体的には、以下のような点を観察してみてください。
- 睡眠中にいびきが突然静かになり、10秒以上呼吸が止まっている。
- 呼吸が止まった後、あえぐような、または窒息するような激しい呼吸で再開する。
- 睡眠中に何度も寝返りをうったり、手足を動かしたりしている。
これらのサインに気づいたら、ぜひご本人に伝え、専門医への相談を勧めてください。
【簡単セルフチェック】エプワース眠気尺度(ESS)日本語版
日中の眠気の程度を客観的に評価するための、世界共通の質問票です。以下の8つの状況で、うとうとしてしまう(眠ってしまう)可能性を点数で評価してみてください。
0点:決して眠くならない
1点:まれに眠くなる
2点:ときどき眠くなる
3点:よく眠くなる
- 座って何かを読んでいる時
- テレビを見ている時
- 会議や劇場などで、何もせずに座っている時
- 乗客として1時間以上、休憩なしで車に乗っている時
- 午後に横になって休息をとっている時
- 座って誰かと話している時
- 昼食後(飲酒なし)に静かに座っている時
- 車を運転中に、信号や渋滞で数分間止まっている時
合計点数が11点以上の場合、病的な眠気があると判断され、睡眠時無呼吸症候群の可能性があります。専門の医療機関への受診を強くお勧めします。
なぜ起こる?SASの主な原因とリスクを高める要因
SAS、特に最も多い閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)は、様々な要因が複合的に絡み合って発症します。ここでは、その主な原因とリスク因子について詳しく見ていきましょう。
最大のリスク因子「肥満」のメカニズム
SASの最も重要なリスク因子は肥満です。厚生労働省の「国民健康・栄養調査」によると、日本でも成人男性の約3人に1人が肥満であり、SASの潜在的な危険性が高いことが示唆されています4。体重が増加すると、首周りやのどの内部(舌の付け根など)にも脂肪が沈着します。この脂肪が、睡眠中に筋肉が弛緩した際に気道を内側から圧迫し、狭窄や閉塞を引き起こすのです。特に、日本の労働者を対象とした研究では、肥満度を示す指数(BMI)が高いほど、SASの有病率が著しく上昇することが報告されています5。
肥満以外の要因:骨格、加齢、生活習慣
SASは太っている人だけの病気ではありません。以下のような要因も大きく関わっています。
- 骨格的な特徴: 欧米人と比較して、アジア人はもともと顎が小さい(小顎症)、下顎が後退している、下顎が小さいといった骨格的特徴を持つ人が多く、痩せていても気道が狭くなりやすい傾向があります。
- 加齢: 年齢を重ねるとともに、のどの周りの筋力が低下し、気道が塞がりやすくなります。
- アルコール: 飲酒は、のどの筋肉を弛緩させる作用があるため、いびきや無呼吸を著しく悪化させます。特に寝る前の飲酒は危険です。
- 喫煙: 喫煙は、のどの粘膜に慢性的な炎症を引き起こし、気道を狭くする原因となります。
- 睡眠薬: 一部の睡眠薬や精神安定剤には、筋弛緩作用があり、SASを悪化させる可能性があります。
- 扁桃肥大・アデノイド: 特に小児のSASでは、扁桃やアデノイド(鼻の奥にあるリンパ組織)が大きいことが物理的な原因となっている場合があります。
放置の恐怖:SASが引き起こす深刻な合併症【本記事の最重要セクション】
SASを「たかがいびき」と侮ってはいけません。治療せずに放置すると、身体は毎晩のように酸欠と覚醒を繰り返し、全身に深刻なダメージが蓄積していきます。ここでは、科学的根拠に基づき、SASが引き起こす3大リスクについて詳述します。
心筋梗塞・脳卒中:突然死につながる血管へのダメージ
SASがもたらす最も恐ろしい合併症が、心筋梗塞や脳卒中といった心血管系の疾患です。そのメカニズムは以下の通りです。
- 呼吸が止まることで、血液中の酸素濃度が低下します(低酸素血症)。
- 脳は生命の危機を察知し、目を覚まさせて(微小覚醒)、呼吸を再開させようとします。
- この時、身体は緊急事態に対応するため、交感神経を急激に活性化させ、血圧や心拍数を上昇させます。
- この「低酸素」と「交感神経の興奮」というストレスが毎晩何百回も繰り返されることで、血管は常に緊張状態に置かれ、高血圧や不整脈が引き起こされます。
- さらに、慢性的な炎症と酸化ストレスが血管の内壁を傷つけ、動脈硬化を急速に進行させます。
その結果、血管が詰まったり破れたりする危険性が著しく高まります。実際、SAS患者、特に高齢者では心血管イベントの発症リスクが健常者と比較して有意に高いことが、複数の研究で示されています6。夜間や早朝の突然死の一因とも考えられています。
2型糖尿病との密接な関係
SASは2型糖尿病の発症や悪化にも深く関わっています。睡眠の断片化と低酸素状態は、血糖値をコントロールするホルモンである「インスリン」の効きを悪くする「インスリン抵抗性」という状態を引き起こします。そのため、SASを持つ人は糖尿病になりやすく、すでに糖尿病の人がSASを合併すると、血糖コントロールが著しく困難になります。逆に、SASの治療を行うことで、インスリン抵抗性が改善し、糖尿病の管理がしやすくなることも報告されています。
認知症リスクの上昇:脳への静かなる脅威
近年、SASが認知機能に与える影響が注目されています。慢性的な脳への酸素供給不足は、記憶を司る海馬をはじめとする脳の神経細胞に直接的なダメージを与え、機能を低下させる可能性があります。複数の研究を統合したメタアナリシス(複数の研究データを統計的に統合・解析する手法)では、SASが認知症、特にアルツハイマー病の発症リスクを高める可能性が指摘されています7。大切な記憶や判断力を守るためにも、SASの早期発見・治療は極めて重要です。世界的権威である筑波大学の柳沢正史教授も、睡眠の質の重要性を強調しており、SASが脳の健康に与える悪影響は看過できません10。
診断と検査:専門医による正確な評価プロセス
SASの疑いがある場合、自己判断で放置せず、専門の医療機関で正確な診断を受けることが不可欠です。ここでは、受診から診断までの流れを解説します。
何科を受診すればいい?
いびきや無呼吸を主訴とする場合、まずは耳鼻咽喉科や呼吸器内科が専門となります。また、高血圧や心臓病などの合併症がある場合は循環器内科、日中の強い眠気が主な悩みであれば精神科・心療内科でも対応していることがあります。最近では、これらの診療科が連携して治療にあたる「睡眠専門外来」や「睡眠センター」を設けている病院も増えています。どこに相談すればよいか分からない場合は、まずかかりつけ医に相談し、適切な専門医を紹介してもらうのも良いでしょう。
簡易検査と精密検査(PSG)の違い
SASの診断には、主に2種類の検査が行われます。
検査項目 | 簡易アプノモニター検査 | 終夜睡眠ポリグラフ(PSG)検査 |
---|---|---|
場所 | 自宅 | 病院に1泊入院 |
方法 | 手の指や鼻、胸にセンサーを装着して就寝。 | 頭や顔、胸、足などに多数の電極・センサーを装着して就寝。 |
わかること | 呼吸の状態、血中酸素飽和度、いびき音など。 | 簡易検査の項目に加え、脳波(睡眠の深さ・質)、心電図、眼球の動き、筋電図など、睡眠に関するあらゆるデータを詳細に測定。 |
目的 | SASのスクリーニング(ふるい分け)。 | SASの確定診断、重症度評価、および他の睡眠障害との鑑別。診断の「ゴールドスタンダード(最も信頼性の高い基準)」とされる。 |
費用(3割負担) | 約3,000円程度 | 約15,000円~30,000円程度(施設により異なる) |
一般的には、まず自宅で手軽に行える簡易検査でAHIを測定し、その結果に応じて、より詳細な評価が必要な場合に精密検査であるPSG検査が行われます。
SASの最新治療法:あなたに合った選択肢を見つける
SASは、適切な治療を行うことで症状をコントロールし、合併症のリスクを大幅に減らすことができる病気です。ここでは、主要な治療法について解説します。
標準治療「CPAP(シーパップ)療法」
中等症から重症のSASに対して、現在最も有効で広く行われている標準治療がCPAP(Continuous Positive Airway Pressure)療法です。これは、鼻に装着したマスクから、設定した圧力の空気を送り込み、その風圧で気道が塞がるのを防ぐという治療法です。薬物治療ではなく、物理的に気道を開存させるため、絶大な効果が期待できます。多くの患者さんが、治療を始めたその日からいびきや無呼吸がなくなり、翌朝の爽快な目覚めと日中の眠気の劇的な改善を実感します。患者団体などのウェブサイトでは、多くの体験談が共有されています9。
【体験談コラム】45歳・営業職Aさんの場合
長年、妻からいびきと無呼吸を指摘されていましたが、「疲れているだけ」と放置していました。しかし、日中の会議での居眠りが増え、営業車の運転中にヒヤリとする経験をしたことで、ようやく受診を決意。検査の結果、重症のSASと診断され、CPAP療法を開始しました。最初はマスクに違和感がありましたが、数日で慣れ、今ではCPAPなしの睡眠は考えられません。日中の眠気は嘘のようになくなり、仕事のパフォーマンスが向上。何より「呼吸が止まらなくなって安心した」という妻の言葉が一番嬉しかったです。
ただし、毎晩マスクを装着して眠る必要があり、日々の機器の手入れや、旅行・出張時の持ち運びといった側面もあります。治療を継続するためには、医師と相談しながら自分に合ったマスクを選び、圧力を調整していくことが重要です。
口腔内装置(マウスピース)
軽症から中等症の患者さんや、CPAP療法がどうしても合わない場合に選択されるのが、口腔内装置(スリープスプリント)です。これは、睡眠中に装着することで下顎を前方に少し突き出させた状態に保ち、舌の根元が気道に落ち込むのを防ぐ装置です。歯科で個人の歯型に合わせて作成し、保険適用も可能です。CPAPに比べて持ち運びが簡便という利点があります。
外科手術という選択肢
扁桃肥大やアデノイド、鼻の構造的な問題など、気道が狭くなっている物理的な原因が明らかな場合には、外科手術が根治的な治療法となることがあります。代表的な手術には、のどちんこやその周辺の組織を切除して気道を広げるUPPP(口蓋垂軟口蓋咽頭形成術)などがあります。手術の適応となるかは、専門医による慎重な判断が必要です。
生活習慣の改善【すべての治療の土台】
どの治療法を選択するにせよ、その効果を最大限に高め、根本的な原因にアプローチするためには、生活習慣の改善が不可欠です。
- 減量: 肥満が原因の場合、減量が最も効果的です。研究によれば、10%の体重減少でAHIが約26%改善するとも言われています。特に「夜遅くのラーメンや飲み会後の締めの食事」といった、日本のビジネスパーソンにありがちな食習慣の見直しが重要です。
- 禁酒・禁煙: 特に就寝前の飲酒は避けることが強く推奨されます。禁煙も、のどの炎症を抑え、症状を改善します。
- 睡眠時の姿勢: 仰向けで寝ると重力で舌が落ち込みやすいため、横向きで寝る「側臥位睡眠」が推奨されます。抱き枕などを利用するのも効果的です。
気になる費用は?治療の保険適用と自己負担額
SASの治療、特にCPAP療法は継続が必要なため、経済的な負担を心配される方も少なくありません。しかし、SASの治療は健康保険が適用されます。
厚生労働省の定める診療報酬制度に基づき、簡易検査またはPSG検査の結果、AHIが20回以上と診断された場合、CPAP療法は保険適用の対象となります8。保険が適用されると、患者さんの自己負担は通常3割です。CPAP装置本体は医療機関からのレンタルとなり、そのレンタル料と、定期的な診察料(月1回程度)を合わせて、自己負担額は月額で約4,500円程度が目安となります。
この費用で、日中の眠気による生産性の低下や、将来の深刻な合併症のリスクを大幅に軽減できることを考えれば、非常に価値のある投資と言えるでしょう。
よくある質問
Q1. CPAPは一生使い続けないといけないのですか?
A1. 必ずしも一生ではありませんが、高血圧の治療薬と同様に、根本原因が解消されない限りは継続が必要な治療と考えるのが一般的です。例えば、肥満が主な原因である場合、大幅な減量に成功し、無呼吸が改善されれば、医師の判断のもとでCPAP療法を終了(離脱)できる可能性があります。しかし、自己判断で中断すると、すぐに元の無呼吸の状態に戻ってしまいます。治療方針については、必ず主治医と定期的に相談しながら進めることが重要です。
Q2. 旅行や出張の時はどうすればいいですか?
A2. CPAP療法を継続している多くの方が、旅行や出張にも装置を携行しています。最近では、持ち運びを想定した小型・軽量のトラベル用CPAP装置もあります。国内であれば、宿泊先に事前に連絡して電源の確保をお願いしておくとスムーズです。海外渡航の際は、渡航先のコンセント形状に合わせた変換プラグや、航空会社によっては機内での使用許可が必要な場合もあるため、事前の準備が大切です。また、万一の際に備え、英文の診断書を携帯することも推奨されます。
Q3. 子どもや女性でもなりますか?
A3. はい、年齢や性別を問わず発症します。小児の場合、主な原因は扁桃肥大やアデノイドであり、いびきだけでなく、お口をぽかんと開けている、寝相が悪い、日中の落ち着きのなさや学業成績の低下といった形で症状が現れることがあります。女性の場合、女性ホルモン(プロゲステロン)に気道の開存性を保つ働きがあるため、閉経前は男性に比べて発症しにくいとされています。しかし、閉経後にホルモンバランスが変化すると、SASのリスクが著しく上昇することが知られています。
結論
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、単なる睡眠の問題ではなく、放置すれば高血圧、心筋梗塞、脳卒中、糖尿病、そして認知症といった、生命と生活の質を根底から揺るがす深刻な疾患につながる静かなる脅威です。しかし、同時にSASは「治療可能な病気」でもあります。本記事で解説したように、CPAP療法をはじめとする効果的な治療法が存在し、それらは健康保険のもとで受けることが可能です。治療によって、日中の活動性が向上し、将来の健康リスクを回避できるだけでなく、隣で眠るご家族の安心にもつながります。もし、あなたご自身や大切な人に、本記事で挙げたようなサインが見られるのであれば、どうか放置せず、勇気を出して専門の医療機関の扉を叩いてください。その一歩が、あなたの輝かしい未来と、大切な人の笑顔を守るための、最も確実な一歩となるはずです。
参考文献
- 国土交通省. 自動車運送事業者のための睡眠時無呼吸症候群対策マニュアル [インターネット]. [引用日: 2025年7月21日]. Available from: https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/sas/
- Benjafield AV, Ayas NT, Eastwood PR, et al. Estimation of the global prevalence and burden of obstructive sleep apnoea: a literature-based analysis. Lancet Respir Med. 2019;7(8):687-698. doi:10.1016/S2213-2600(19)30198-5.
- 日本呼吸器学会. 睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020 [インターネット]. 2020. [引用日: 2025年7月21日]. Available from: https://www.jrs.or.jp/modules/guidelines/index.php?content_id=94
- 厚生労働省. 令和元年 国民健康・栄養調査報告 [インターネット]. [引用日: 2025年7月21日]. Available from: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/eiyou/r1-houkoku_00002.html
- Suka M, Ueno M, Koyama H, et al. Prevalence and correlates of sleep-disordered breathing among Japanese workers. Sleep Breath. 2014;18(4):867-874. doi:10.1007/s11325-014-0955-4.
- Martinez-Garcia MA, Campos-Rodriguez F, Catalan-Serra P, et al. Increased risk of cardiovascular events in elderly patients with sleep apnea. Chest. 2013;143(6):1624-1631. doi:10.1378/chest.12-1988.
- Bubu OM, Andrade AG, Umasabor-Bubu OQ, et al. Obstructive Sleep Apnea and the Risk of Dementia: A Systematic Review and Meta-Analysis of 2.5 Million Participants. Sleep. 2020;43(8):zsz304. doi:10.1093/sleep/zsz304.
- 厚生労働省. 診療報酬情報提供サービス [インターネット]. [引用日: 2025年7月21日]. Available from: https://www.mhlw.go.jp/shinryohoshu/iryohoken-youran/
- NPO法人 睡眠時無呼吸症候群ネットワーク. [インターネット]. [引用日: 2025年7月21日]. Available from: http://www.sas-net.jp/
- 筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構 (WPI-IIIS). 柳沢 正史 教授 [インターネット]. [引用日: 2025年7月21日]. Available from: https://wpi-iiis.tsukuba.ac.jp/research/researcher/masashi-yanagisawa/