知っておきたい白内障治療法のすべて
眼の病気

知っておきたい白内障治療法のすべて

はじめに

日本において加齢にともなう視力障害は、多くの人が経験する身近な問題です。そのなかでも白内障は非常に多くの方に影響を与える代表的な疾患の一つといえます。白内障とは、本来透明である水晶体が濁ってしまう状態を指し、放置すると視野のぼやけやかすみなどが進行し、最悪の場合は失明に至るリスクもあります。近年は医療技術の進歩により、手術を中心としたさまざまな治療法が確立されています。しかし一方で、初期の白内障であればライフスタイルの工夫や点眼薬の使用、メガネによる視力補正など、早期に取り組むことで症状進行を抑えられる可能性もあります。

免責事項

当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。

本記事では、白内障の治療全般について詳しく解説していきます。たとえば手術にはどのような種類があるのか、点眼薬やメガネでの補正はどの段階まで有効なのか、生活習慣の工夫により進行を抑えられるのかなど、幅広くお伝えします。また、実際に手術に踏み切る場合の注意点や、術後の合併症のリスク、さらに日本の医療現場での一般的な流れについても併せてお話しします。

多くの方は「視力が落ちたら手術するしかない」と短絡的に考えがちですが、症状が軽度な段階では別の対策で日常生活に支障が出ないようにできるケースもあります。とはいえ、白内障が進行してしまった場合は手術が唯一の有効な対策となることも事実です。本記事が、これから治療を検討される方やご家族に向けた総合的な「知識のガイド」となることを目指しています。

専門家への相談

本記事の医学的な観点や情報の一部は、実際の臨床現場で患者さんを診療しているBác sĩ Nguyễn Thường Hanh(内科・総合内科、Bệnh Viện Đa Khoa Tỉnh Bắc Ninh)によるアドバイスや、以下のような信頼できる医療機関・学術機関の情報に基づいています。

これらの医療機関は、白内障をはじめとする眼疾患の診断や治療に関して世界的にも権威のある情報を提供しています。ただし、最終的な治療方針や手術の適応などは個々の病状や患者さんの状態によって異なるため、必ず専門家(眼科医)に直接ご相談ください。

白内障とは何か

白内障(しろないしょう)は、水晶体という目の中のレンズにあたる部分が濁ることで、光が十分に網膜へ到達せず、視力が低下してしまう病気です。加齢に伴うものが一般的ですが、糖尿病やステロイド薬の長期使用、外傷などによっても起こる場合があります。視界がかすんだり、まぶしさを強く感じたり、二重に見える現象(複視)が生じたりといった症状があらわれます。

白内障を引き起こす主な原因

  • 加齢(老人性白内障)
    日本では65歳以上の人の多くが何らかの程度で白内障を持っているといわれています。
  • 糖尿病などの全身疾患
    高血糖状態が続くと白内障が進行しやすくなります。
  • 外傷性白内障
    目に強い衝撃やケガを受けた場合、急速に水晶体が濁ることがあります。
  • ステロイド薬の長期使用
    喘息やリウマチなど、慢性疾患でステロイド薬を使い続けている場合に発症リスクが高まります。
  • 先天性白内障
    先天的に水晶体が濁っているケース。出生時から見られる場合や、幼少期に進行する場合もあります。

なお、高齢化が進む日本において白内障の患者数は年々増加傾向にあります。加齢によって誰もがある程度は水晶体が硬化・混濁していくため、「年齢を重ねれば多少なりとも白内障になる」と言っても過言ではありません。しかし、それが日常生活に支障をきたすレベルかどうかは個人差があります。

白内障の主な治療法

白内障の治療として最もよく知られているのは手術です。実際、進行した白内障に対しては手術が唯一の根本的治療となることが多いです。一方、初期段階や軽度の場合は、点眼薬やメガネによる視力矯正、ライフスタイルの改善なども有効とされています。以下では、一般的に行われる治療法を詳しくみていきましょう。

1. 手術療法

重度の白内障で視力が大きく低下し、日常生活に支障が出る場合は手術が検討されます。手術の基本的な考え方は「濁った水晶体を取り除き、人工水晶体(眼内レンズ)を挿入する」という点で共通しています。日本国内で広く行われる代表的な手術法は以下の2種類です。

(1) フェイコ手術(Phaco法)

  • 特徴・手順
    角膜に数ミリ程度のごく小さな切開を入れ、超音波で白濁した水晶体を砕いて吸引除去します。その後、折りたたんだ人工水晶体(眼内レンズ)を挿入して広げ、固定します。
  • メリット
    • 切開が非常に小さいため、術後の回復が早い
    • 合併症のリスクが少ない
    • 近年の日本では最も普及している
  • デメリット
    • 眼内レンズの種類によっては遠近両用が難しい場合もある
    • 角膜の状態や白内障の進行度によっては適応できないこともある

(2) 水晶体摘出(Extracapsular cataract extraction)

  • 特徴・手順
    白内障が非常に進行している場合や、水晶体が硬く分割しづらい場合などには大きめの切開を行って水晶体を一塊で取り除き、代わりに眼内レンズを挿入します。
  • メリット
    • 白内障が極度に進行している症例でも対応できる
  • デメリット
    • 切開創が大きいため、術後の回復に時間がかかる
    • 縫合が必要になるケースも多く、術後の乱視が出やすい

これらの手術は日本各地の病院やクリニックで行われており、日帰り手術が可能な施設も増えています。実際の術式や麻酔の種類は、患者さんの全身状態や目の状態、医療機関の設備・方針などによって異なります。

2. 点眼薬・メガネによる矯正

白内障の進行度が軽度で視力障害がそれほど深刻でない場合は、必ずしもすぐに手術を行う必要はありません。点眼薬(「白内障進行抑制点眼薬」と呼ばれるもの)や、適切な度数・設計のメガネを使うことで視力を補正し、ある程度日常生活が問題なく送れるケースがあります。

  • 点眼薬の使用
    白内障が初期段階の場合、医師の処方に従って白内障用の点眼薬(進行抑制を目的としたもの)を用いることがあります。ただし、進行を「遅らせる」可能性はあるものの、完全に止めたり、濁りを「消失」させる作用は期待しにくいです。使用時期や使用方法を誤ると、効果が十分に得られません。
  • メガネによる矯正
    見え方の低下が軽微であれば、新しくメガネを作り直すだけでも視力面の不便が軽減する場合があります。とくに初期の白内障では、光の屈折率の変化によって近視や乱視が進行しやすいため、こまめな視力検査で度数を調整することが大切です。

3. ライフスタイルの改善

手術のタイミングを遅らせたり、進行を抑えるための生活習慣の見直しも有効です。白内障を軽減あるいは予防するうえで、以下の点がしばしば推奨されます。

  • 紫外線対策
    紫外線は水晶体タンパクの変性を促進する要因の一つと考えられています。外出時に帽子やサングラスを活用することで、紫外線から目を守ることができます。夜間運転時のまぶしさが気になる方は、反射防止コーティングの施されたレンズの使用を検討するのも有効です。
  • 禁煙
    喫煙は、さまざまな疾患リスクを高めるだけでなく、白内障の進行にも悪影響を与えます。
  • 栄養バランスの整った食事
    抗酸化作用をもつビタミンA、C、Eなどを多く含む野菜や果物は、白内障の進行リスクを低減させる可能性があります。また、ルテインやゼアキサンチンといったカロテノイド類を含む食品(ケール、ホウレンソウ、トウモロコシなど)も注目されています。
  • 定期的な眼科検診
    年齢が上がるにつれ、定期的に目の健康状態をチェックする習慣をつけると、初期の段階で白内障やほかの眼病変を発見することができます。とくに65歳以上の場合は、年2回程度の受診が望ましいとされることがあります。

白内障の症状と進行度に応じた対処

白内障は症状がゆるやかに進行することが多いため、本人は「見えにくいけれど年のせいだろう」と思って放置してしまうケースが少なくありません。進行度に応じた大まかな対策をまとめると、以下のようになります。

  1. ごく初期段階
    • 点眼薬の使用開始(医師が必要と判断した場合)
    • メガネ処方の見直し
    • ライフスタイル改善(紫外線対策、禁煙、栄養バランス管理)
  2. 中期段階(やや見えづらさが増してきた)
    • 点眼薬だけでは日常生活に支障が出る場合は、メガネの度数調整や拡大鏡の活用
    • 明るい照明の使用、コントラストを高める色使いなどの工夫
    • 必要に応じて家族や周囲のサポートを得る
  3. 進行期(日常生活に大きな支障が生じ始める)
    • 手術の検討
    • 眼科医からの説明を受け、どのタイミングで手術を行うかを判断
  4. 重度(手術が必須レベル)
    • 視力が極度に低下している場合や、水晶体が硬くなっている場合は大きな切開が必要になることもある
    • 術後のケアや合併症リスクについて十分な説明・準備が必要

日本の医療現場では、患者さん自身が「生活に不便を感じているか」が手術の大きな判断基準になることが多いです。たとえば、視力検査の数値だけでなく「文字が読みにくい」「運転がしにくい」「家事が難しくなった」などの自覚症状を参考に、医師と相談しながら治療方針を決めていくケースが一般的です。

手術を受ける際の流れと注意点

白内障手術は一般的に日帰りで行うところが増えてきていますが、患者さんの状態によっては数日間の入院が必要な場合もあります。手術は局所麻酔下(目薬麻酔+部分麻酔など)で行われることが多く、痛みはほとんどありません。ここでは代表的な手術(フェイコ手術)を例に挙げて、ざっとした流れと注意点を紹介します。

  1. 術前検査
    • 視力検査、眼圧測定、角膜形状や網膜の状態確認など
    • 全身状態を把握するための血液検査・心電図など
    • どのようなタイプの眼内レンズを挿入するかを医師と相談
  2. 手術当日
    • 点眼麻酔や局所麻酔を行い、目が完全に麻痺した状態にしてから切開
    • 超音波で濁った水晶体を砕き、吸引除去
    • 人工水晶体(眼内レンズ)を挿入
    • 手術時間は通常10~30分程度と比較的短い
  3. 術後の休憩・診察
    • 手術直後は医師が経過を確認。視力が安定しないので、しばらくは医療機関内で休憩する
    • 日帰りの場合はその後帰宅可能だが、運転は危険なので家族などの付き添いが望ましい
  4. 術後の点眼薬・通院
    • 抗生物質や炎症を抑えるための点眼薬を一定期間使用
    • 視力が落ち着くまで2~4週間程度かかることが一般的
    • 術後1日目、1週間目、1か月目などに定期的に受診し、炎症や感染症の有無をチェック

手術後の合併症リスク

白内障手術は比較的安全性が高いとされますが、以下のような合併症がまれに報告されています。

  • 術後の感染(眼内炎)
    きわめてまれですが、発症すると強い痛みや視力低下が急激に進行します。
  • 角膜障害
    手術時の超音波エネルギーや機械的刺激によって角膜にダメージが及ぶことがあります。
  • 後嚢下白内障(こうのうかはくないしょう)
    人工レンズを入れる「嚢」自体が術後に再び濁ること。YAGレーザーによって簡単に対応できる場合が多い。
  • 網膜剥離
    白内障手術とは直接関係ないように見えても、眼球内部に大きな変化が生じるため、個人の眼の状態によってはまれに発症リスクが高まる場合があります。

日本国内における白内障手術の成功率は非常に高く、適切な術前検査と術後ケアを行えば深刻な合併症が起こる確率はごくわずかといわれています。とはいえ、万が一異常を感じたらすぐに受診するようにしましょう。

食事・栄養と白内障の関係

白内障には、加齢や紫外線、糖尿病など複合的な要因が関連しています。そのうち栄養面については抗酸化作用をもつビタミン類やカロテノイドの摂取が白内障の進行予防に寄与する可能性があります。下記の栄養素を積極的に取り入れることが勧められます。

  • ビタミンA、C、E
    ブロッコリー、ピーマン、ニンジン、カボチャ、柑橘類などに多く含まれる。
  • ルテイン、ゼアキサンチン
    ケール、ホウレンソウ、トウモロコシ、パプリカ、マンゴーなど。眼の黄斑部に蓄積され、光ストレスから目を守る働きがあるとされる。
  • 亜鉛
    魚介類、肉類、ナッツ類などに含まれる。ビタミンAの代謝を助ける役割がある。

ただし「この食材を食べれば白内障が治る」という単純なものではなく、バランスの良い食生活全体が重要です。また、糖分や脂肪分の過剰摂取、アルコールの過剰摂取などは、白内障に限らずさまざまな生活習慣病のリスクを高めますので注意が必要です。

日本における白内障の現状と検診の重要性

日本は世界でも有数の高齢化社会であり、白内障患者の数も増加しています。視力低下が深刻になれば要介護状態につながり、日常生活の質(QOL)を大きく損なう可能性があります。そのため、早期発見・早期治療を推進するために定期的な眼科検診が推奨されています。特に以下のような方は、年に1~2回は眼科で検査を受けるのが望ましいとされています。

  • 65歳以上の方
    加齢に伴う白内障発症のリスクが高い。
  • 糖尿病やステロイド薬を使用している方
    白内障の進行が早まりやすい。
  • 普段から強い紫外線にさらされる環境で働いている方
    屋外での作業が多い、趣味で長時間日光に当たる機会が多いなど。
  • 視野のぼやけやまぶしさを最近感じ始めた方
    早期受診で白内障以外の疾患も併発していないか確認。

日本の眼科医療は非常に高い水準にあり、地域のクリニックでも精密な検査機器や手術設備が充実している場合が多く、医師と患者がよくコミュニケーションをとって治療方針を決めやすい環境が整っています。

最新の研究動向とアップデート

白内障の治療において、手術手技や眼内レンズの材質・デザインの進歩は年々めざましく、いくつかのトピックが注目を集めています。最近(ここ4~5年)では、以下のような分野の研究や革新技術が報告され、日本国内でも導入が進んでいます。

  • 眼内レンズの多焦点化・連続焦点型
    遠近両用や中間距離の見え方を改善するタイプのレンズが近年急速に進化しており、術後の生活の質を高める可能性があります。
  • 乱視矯正用眼内レンズ
    乱視が強い患者さんでも、白内障手術時に乱視矯正レンズを入れることで視力の質が向上しやすくなります。
  • 低侵襲手術技術の更なる進歩
    切開創を極限まで小さくするマイクロインシジョンや、フェムトセカンドレーザーを用いた高精度の角膜切開など、新しいテクノロジーを積極的に導入する施設が増えています。

なお、2022年にJAMA Ophthalmologyで発表されたDhakalらの研究(doi:10.1001/jamaophthalmol.2022.4001)では、両眼の白内障を同日に手術する「同時両眼手術」と片眼ずつ日を分けて行う「段階的両眼手術」を比較し、患者満足度や視力回復の速度、合併症リスクなどを検討しています。報告では大規模コホートを用い、患者数約2000例の研究データに基づく結果として、同時両眼手術でも安全性が高く、早期の両眼視機能獲得にメリットがある一方、感染症対策などの慎重な管理が要されると結論づけました。このように手術術式の選択についても近年多角的に評価されており、日本でも患者さんや医師の希望・施設の設備に応じて選択肢が広がっています。

さらに、2023年にInternational Ophthalmology誌に掲載されたBiroらの研究(doi:10.1007/s10792-022-02494-3)では、新型コロナウイルス感染症の流行による白内障手術数の変化や術後経過への影響が検証されました。ハンガリー全国規模のデータでは、感染対策などで白内障手術が遅れたケースが増え、中には視力回復がより難しくなった例も報告されたとのことです。日本でも同様に、感染症拡大期に手術を先延ばしにした患者が多く、結果的に進行した状態で受診する例が見受けられたとされます。よって、パンデミック下であっても、適切な時期に検査を受け、手術が必要なら延期しすぎないことが目の健康維持に重要だと再確認されています。

白内障以外の眼疾患への配慮

白内障は単独で起こるとは限りません。加齢に伴い、緑内障や黄斑変性、糖尿病網膜症などの合併がしばしば見られます。特に糖尿病を持つ方では糖尿病網膜症も同時に進行している可能性があり、白内障手術の進行手順や術後管理に注意が必要です。緑内障を合併している場合は、眼圧管理に加え、複合手術(白内障手術と緑内障手術を同時に行うなど)が検討されるケースもあります。いずれにしても、他の眼疾患の有無や進行度を総合的に判断し、最適な手術や治療計画を立てることが重要です。

術後の視力回復とフォローアップ

白内障手術を受けた後、多くの方は徐々に視力が改善していきますが、個人差があります。通常、術後1日~数日はクリアな見え方にはまだなりにくく、1週間から1か月程度かけて視力が安定していく流れが多いです。遠近両用の眼内レンズを挿入した場合や、乱視矯正レンズを用いた場合は、とくに術後の視力の変化や順応に関して医師から十分な説明を受ける必要があります。

  • 点眼薬の使用
    抗菌薬やステロイド点眼薬など、医師から処方された薬を指示どおりに使うことが、感染リスクや炎症を抑えるうえで極めて大切です。
  • 定期的な診察
    術後1日目、1週間目、1か月目、3か月目など、段階的に受診し、眼内レンズの位置、角膜の状態、網膜の状態などを確認します。
  • 生活上の注意
    強い衝撃を目に与えないようにし、洗髪や洗顔、入浴時に石けんや水が直接目に入らないよう気をつけるなど、医師の説明に従ったケアが必要です。

白内障手術後のQOL向上

白内障手術後に視力が回復し、日常生活が快適になることは多くの調査で明らかになっています。とくに高齢者の場合、転倒リスクの軽減や外出時の安心感向上、趣味活動(読書や手芸、スポーツなど)の継続が容易になるといったメリットがあります。また、術後の視力回復が良好であれば、免許更新時の視力検査をパスしやすくなるなど、生活全般にわたって大きな影響があります。

よくある疑問

ここでは、患者さんから多く寄せられる質問や不安について、簡単に回答します。

  1. 「手術で必ず視力は回復しますか?」
    一般的には、多くの方が手術によって大きく視力が改善しますが、黄斑変性や緑内障など他の目の病気の影響がある場合、期待したほど視力が出ないケースもあります。
  2. 「点眼薬で本当に白内障は治りますか?」
    点眼薬はあくまで進行を遅らせたり、初期段階で症状を和らげる補助的な役割と考えるのが一般的です。完全に治す力はありません。
  3. 「白内障手術は痛いですか?」
    点眼麻酔や局所麻酔を行うため、痛みはほぼ感じません。手術後に軽い違和感がある程度です。
  4. 「メガネは要らなくなりますか?」
    挿入する眼内レンズの種類や個人の視力目標によって異なります。遠くがよく見えるレンズを選べば近くを見るときに老眼鏡が必要になることが多く、多焦点レンズを選べばある程度の距離までメガネなしで見えやすくなるケースもあります。
  5. 「入院が必要な場合はどのくらいですか?」
    日帰りが可能な施設もありますが、患者さんの全身状態や合併症のリスクなどによっては1泊から数日入院することもあります。

白内障手術の費用と保険

日本では、白内障手術は健康保険が適用されます。自己負担割合は保険の種類や年齢によって変わりますが、70歳以上の高齢者の多くは1割または2割負担となるケースが多いです。また、乱視矯正用や多焦点眼内レンズは、すべてが保険適用になるわけではありません。厚生労働省が定める先進医療や選定療養として扱われるレンズの種類もあるため、事前に医療機関で確認しておきましょう。

予防・進行抑制のためのポイント

白内障を100%完全に防ぐ方法はありませんが、日頃から以下のポイントを意識することで発症や進行を遅らせる可能性があります。

  • 紫外線対策を徹底する
    サングラスや帽子を活用し、長時間強い太陽光を浴びないよう注意する。
  • バランスの良い食事を心がける
    ビタミンや抗酸化物質、ルテイン、ゼアキサンチンなどを豊富に含む食材を摂取する。
  • 禁煙や過度の飲酒を避ける
    喫煙は全身の血流を悪化させるとともに、酸化ストレスを増大させる。
  • 定期的な眼科検診
    早期発見・早期治療により、必要以上に進行させない。

白内障治療とエビデンス

日本国内外において、白内障治療のガイドラインは多くの臨床研究やメタアナリシスによってアップデートされています。以下に、世界的にも権威のある機関や学術誌の情報源をいくつか示します。

  • Mayo Clinic(米国)
    白内障に関する基礎情報から術後ケアまで、実臨床に即した内容がまとめられています。
  • American Academy of Ophthalmology (AAO)
    白内障手術のガイドラインや眼内レンズ選択に関する最新情報が公開されています。
  • National Eye Institute (NEI)
    白内障を含む各種眼疾患の疫学調査や研究動向を網羅的に紹介。

また、論文としては先述した2022年のDhakalらの研究(JAMA Ophthalmol, doi:10.1001/jamaophthalmol.2022.4001)や、2023年のBiroらの研究(Int Ophthalmol, doi:10.1007/s10792-022-02494-3)など、近年の国際学術誌にも多数のエビデンスが蓄積されています。こうした大規模研究の結果は日本の眼科ガイドラインにも少しずつ反映され、医療現場で実践されるようになっています。

結論と提言

本記事では、白内障の基礎から進行度別の対処法、代表的な手術(フェイコ手術・水晶体摘出術)の概要、点眼薬やメガネによる矯正、ライフスタイルの改善ポイント、さらに最新の研究動向や眼内レンズ技術、術後の合併症リスクなどを総合的に解説してきました。加齢とともに多くの人が悩まされる白内障ですが、医療技術の進歩により安全で効果的な手術が確立され、初期段階であれば進行を遅らせる手段もあるのが現状です。

  • 自分の生活スタイルに合った治療選択を
    白内障手術は、あくまで生活の質を改善するための手段です。視力低下により困っていること、具体的にできなくなったことを医師に伝え、手術のタイミングを相談しましょう。
  • 早期発見が肝心
    白内障が軽度のうちは点眼薬やメガネ、ライフスタイル改善などで様子を見られるケースが多いです。定期検診を怠らず、自覚症状が出た段階でも放置しないようにしましょう。
  • ライフスタイルと栄養管理も大切
    ルテインやゼアキサンチンをはじめ、抗酸化物質の豊富な食品を意識的に摂取し、紫外線対策を行い、禁煙を徹底することで進行を遅らせる可能性があります。
  • 手術後のケアも抜かりなく
    術後の点眼薬や定期検診は視力の安定化に大きく関わります。少しでも異常を感じた場合は早めに眼科を受診し、トラブルを未然に防ぎましょう。

日本では高齢化が進む中で、白内障を抱える患者さんが増えています。しかし早期のケアと適切な治療を行えば、日常生活の質を大きく損なわずに過ごすことが十分に可能です。本記事が白内障やその治療に関する理解を深める一助となれば幸いです。

ご注意ください
この記事で提供している情報は一般的な参考情報であり、個々の症状・病態に対して最適な判断を下すためには医師の診察が必要です。自己判断による治療中断・変更は危険を伴います。必ず専門家である眼科医にご相談ください。

参考文献

  • Cataracts. Mayo Clinic. アクセス日: 2021年5月14日
  • What Are Cataracts? American Academy of Ophthalmology (AAO). アクセス日: 2021年5月14日
  • Cataracts. National Eye Institute (NEI). アクセス日: 2021年5月14日
  • Cataracts. Mayo Clinic. アクセス日: 2021年5月14日
  • Cataract. American Optometric Association (AOA). アクセス日: 2021年5月14日
  • Dhakal R, Goud A, Raj P, et al. “Comparison of Visual and Refractive Outcomes of Immediate Sequential Bilateral Cataract Surgery and Delayed Sequential Bilateral Cataract Surgery.” JAMA Ophthalmol. 2022;140(11):1134-1142. doi:10.1001/jamaophthalmol.2022.4001
  • Biro Z, Schvöller M, Sándor GL, et al. “Effect of COVID-19 pandemic on cataract surgery: a Hungarian nationwide population-based study.” Int Ophthalmol. 2023;43(1):219-226. doi:10.1007/s10792-022-02494-3
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