はじめに
心臓の手術は、動脈硬化による血管の閉塞、弁膜症、先天性の構造異常など、さまざまな心疾患に対して行われる外科的治療の一つです。病状によっては生活習慣の改善や薬物療法のみでは十分な効果が得られない場合があり、こうしたときに手術が選択肢となることがあります。心臓手術は複雑かつ高度な技術を要するため、多くの場合は心臓外科の専門医によって大きな病院で実施されます。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
本記事では、心臓手術の基本的な種類やリスク、そして術後の経過などについて、できる限り詳しく解説します。さらに近年の研究報告を含め、より新しい知見や専門家の推奨事項も踏まえて説明し、心臓手術を検討している方やご家族の方に役立つ情報をお伝えします。
専門家への相談
本記事は、医療機関での実際の診察や検査の代わりになるものではなく、あくまでも情報提供を目的としています。したがって、手術の可否や術式の選択、退院後の過ごし方など、個々の状況に合わせた判断には必ず担当医や専門家にご相談ください。
なお、本記事の内容には、医師であるBác sĩ Nguyễn Thường Hanhからの医学的見解も含まれています。これは総合病院などで内科・内科総合診療を担当し、多くの患者を診察してきた経験に基づいており、信頼性の高い情報の提供を目指しています。ただし、詳細な適応や処置方法については、必ず主治医と話し合うようにしてください。
心臓手術とは
心臓手術の概要
心臓手術は、心臓やそれに隣接する血管系に生じた問題を外科的に修復または置換する行為を指します。たとえば、以下のような目的で行われることが多いです。
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冠動脈バイパス術
動脈硬化やプラーク(粥腫)によって詰まりかけている冠動脈を迂回するために、ほかの血管を移植して新たな血液の通り道を作る手術です。これによって心筋への血流を改善します。 -
弁膜症の修復・置換
働きの悪くなった心臓弁(逆流や狭窄など)を修理あるいは人工弁に置き換えて、血液が逆流しないように、あるいは流れが滞らないようにする手術です。 -
ペースメーカーやICD(植込み型除細動器)の埋め込み
不整脈(心房細動や心室性不整脈など)により生命の危険がある場合、ペースメーカーやICDを胸部に埋め込んで心拍リズムを管理・制御する方法です。 -
補助人工心臓の装着
重度の心不全で心臓のポンプ機能が著しく低下している場合に、機械的に血液を送り出す装置を心臓に補助的につけることがあります。 -
心臓の奇形・損傷した部分の修復
先天性心疾患など、生まれつき心臓の構造に異常がある場合、その箇所を修復する手術が行われます。 -
心臓移植
末期的に機能が失われた心臓を、ドナー(提供者)の健康な心臓と置き換える方法です。
これらの中からどの手術を実施するかは、疾患の種類、重症度、全身状態や合併症の有無、年齢などを総合的に判断して決定されます。
心臓手術が検討される代表的な病態
心臓手術が考慮される主な病態には、次のようなものがあります。
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冠動脈疾患(冠動脈性心疾患)
心臓の筋肉(心筋)に血液を運ぶ冠動脈が狭窄・閉塞を起こし、狭心症や心筋梗塞を引き起こす状態です。バイパス術などが適応になる場合があります。 -
弁膜症(僧帽弁、大動脈弁など)
弁が狭くなる(狭窄)、逆流する(閉鎖不全)、あるいは両方生じている状態です。症状が進行した場合は外科的修復や置換が検討されます。 -
不整脈(心房細動、心室頻拍など)
不規則な心拍が原因で血栓形成や心不全リスクが高まる場合に、デバイス植込みを含めた手術が行われることがあります。 -
先天性心疾患
心室中隔欠損(VSD)や心房中隔欠損(ASD)など、生まれつき心臓の壁に穴があったり、大血管に異常があったりする場合、乳幼児期から成人期にかけて外科的治療が必要になります。 -
心不全
さまざまな原因で心筋のポンプ機能が著しく低下し、全身へ十分な血液を送れなくなった状態です。補助人工心臓や移植などの手術が選択される可能性があります。 -
大動脈瘤や大動脈解離
大動脈壁にこぶ(瘤)が生じたり、壁が裂けたりする病態で、破裂すると致命的になるため、外科手術が行われる場合があります。
こうした心疾患は日常生活に大きな支障を来たすだけでなく、生命の危険に直結するおそれがあります。近年の研究では、外科的治療を早めに導入することで寿命や生活の質(QOL)が向上するケースもあると報告されています。たとえば、2022年にNew England Journal of Medicine (NEJM)で発表されたPARTNER 3試験の5年追跡結果では、低リスクの大動脈弁狭窄症患者に対して経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)と従来の開胸手術を比較したところ、ある条件下では最終的な成績に大差がないというデータも提示されています(Mack MJ, Leon MB ら, 2022, doi:10.1056/NEJMoa2203104)。ただし、TAVRはすべての症例に適用可能なわけではなく、病態や合併症に応じて開胸手術が依然として推奨されることも多いので、担当医としっかり相談することが大切です。
さらに、左主幹部病変など重症冠動脈疾患を抱えている場合は、ステント留置よりもバイパス術が予後を改善するかどうかを検討する臨床研究が続けられています。2022年のNEJM掲載のEXCEL試験拡大追跡調査(Stone GW, Sabik JF 3rd, Serruys PW ら, doi:10.1056/NEJMoa2201735)では、5年を超える長期追跡での成績が解析されました。結果として、ステント治療とバイパス手術の成績に大きな差異があるかどうかは議論が続いており、個々の合併症状や病変部位によって最適な治療方針が異なると報告されています。日本国内でも似たような傾向があり、症例に応じたオーダーメイドの判断が重要とされています。
手術の種類
心臓手術の主な方法
心臓手術は大きく「開胸手術」と「低侵襲手術」に分類されます。以下、それぞれの特徴を解説します。
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開胸手術(心臓を停止させる場合)
胸骨を縦に切開し、機械的に心臓の拍動を止めたうえで人工心肺装置(心肺バイパス)を使用しながら行われます。心臓を止めることで精密な操作が可能となり、複雑な症例や冠動脈バイパス術、弁置換などによく用いられます。一方で、侵襲が大きいため術後の回復期間が比較的長くなります。 -
オフポンプ手術(拍動下での開胸手術)
胸骨を切開して開胸する点は同じですが、人工心肺を使わず、心臓を拍動させたまま行う手術です。心臓の特定部分を局所的に安定化させる装置を使用し、冠動脈バイパス術を行うことが多いです。人工心肺による合併症のリスクを減らせる一方、術者の高度な技量が必要になります。 -
低侵襲手術(小切開や胸腔鏡・ロボット支援)
胸の側面に数センチの小さな切開を入れ、カメラ付き器具やロボットアームを用いて行う手術です。開胸に比べて傷跡が小さく、術後の痛みが少ない、回復が早いといったメリットがあります。主に僧帽弁形成術や簡易な冠動脈バイパス術など、一部の手術に適用されます。ロボットを用いる場合、微細な動きを正確に制御できるため、従来難しかった部位にもアプローチが可能になります。
手術を選択する際の考慮点
- 病変の種類と重症度
弁膜症なのか、冠動脈がどの程度閉塞しているのか、先天性の構造異常かなどによって必要な手技は異なります。 - 年齢と全身状態
高齢者や糖尿病、腎機能障害、肺疾患を併発している場合などは、侵襲がより小さい方法が優先される傾向があります。 - 外科医の経験・医療機関の設備
ロボット手術やオフポンプ手術は高度な設備と技能が必要です。医療機関によって対応可能な術式が異なることがあります。
こうした要素を総合的に検討し、主治医が患者や家族と十分に話し合って決定することが重要です。
手術前の注意点とリスク
手術前の検査と準備
心臓手術を行う前には、術後の合併症リスクや手術方法の適応を正確に把握するために、次のような検査が実施されることがあります。
- 心臓カテーテル検査
- 冠動脈造影
- 心エコー(超音波検査)
- 心電図(ECGまたはEKG)
- CT撮影、MRI撮影、X線撮影など
- ホルター心電図(24時間心電図)
- 運動負荷検査
検査結果を総合して、どのタイプの手術が適切か、他に注意すべき合併症はないかを確認します。また、手術直前には絶飲食の指示や、内服薬の中断や変更の指示がなされる場合があります。
合併症や副作用の可能性
どのような手術にもリスクが伴いますが、心臓手術は生命維持に直結する臓器を扱うため、以下のような合併症が起こる可能性があります。
- 出血や血腫の形成
- 血栓による脳梗塞や静脈血栓塞栓症(VTE)
- 心筋・肝臓・腎臓・肺など臓器へのダメージ
- 感染症(創部感染、肺炎など)
- 認知機能の一時的低下(せん妄、記憶障害など)
- 不整脈の発生
- 心不全や呼吸不全
- 最悪の場合、死亡リスク
とくに、すでに糖尿病や慢性腎臓病、慢性閉塞性肺疾患などを抱えている方は、合併症のリスクが高まります。近年では麻酔や人工心肺装置、集中治療技術などの進歩により、全体的な術後死亡率は低下し続けていますが、担当医との十分なリスク・ベネフィットの検討が必要です。
手術当日の流れ
手術前の最終確認
- 絶飲食の時間厳守
麻酔の安全確保のため、指定された時間以降は水分・食物を口にしないように指示されることが多いです。 - 体毛処理や消毒
胸部の毛を剃るなど、切開部位を清潔にしやすくするための準備が行われる場合があります。 - 点滴ラインの確保
血管から栄養剤、抗生物質、輸液などを投与できるよう、あらかじめ腕や鎖骨付近にラインを確保します。
手術室での手順
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全身麻酔の導入
点滴やガス麻酔により、意識が完全になくなるまで麻酔が行われます。麻酔科医が心拍や呼吸状態を監視しながら進めます。 -
切開と心肺バイパス(必要に応じて)
開胸手術の場合は胸骨を切開し、必要に応じて人工心肺装置を使用します。低侵襲手術では、小さな切開創からロボットアームや内視鏡を挿入します。 -
病変部の修復や置換
冠動脈バイパス術の場合は、脚や胸の動脈・静脈を移植して冠動脈の迂回路を作る作業を行います。弁膜症の場合は弁を修復または人工弁に置き換えます。 -
止血と閉創
出血がないことを確認し、切開した胸骨をワイヤーなどで固定して皮膚を縫合します。術後は集中治療室(ICU)に移動して経過を観察します。
術後の経過・リハビリ
ICUから一般病棟へ
心臓手術後は通常、ICUに移され、次のような点を集中的に管理されます。
- バイタルサインのモニタリング
心電図、血圧、血中酸素飽和度、呼吸数などを24時間監視します。 - 人工呼吸器の使用(必要な場合)
術後、短時間だけ人工呼吸器のサポートを受ける場合があります。 - 疼痛管理
胸部を開いた場合は術後の痛みが続きやすいので、鎮痛薬の投与や鎮痛ポンプなどが使用されます。 - 創部の観察と感染対策
創部が腫れていないか、赤みや熱感、排膿がないかなどのチェックを行います。
状態が安定すれば一般病棟へ移動し、術後数日から1週間程度は入院して経過を見守ります。低侵襲手術であっても、合併症が起きないかどうかは注意深く観察する必要があります。
術後に起こりうる症状
- 便秘
痛み止めや運動量の減少により起こりやすくなります。 - 食欲不振
麻酔や手術のストレスで胃腸機能が鈍くなることがあります。 - 睡眠障害
痛みや環境の変化により、一時的に不眠が起こりやすいです。 - 気分の落ち込み、抑うつ傾向
心臓手術を経て気分が不安定になる人もいます。 - 記憶力や集中力の低下
一過性のせん妄や軽度の認知機能低下がみられる場合があります。
ほとんどは時間の経過とともに改善するか、適切な対処によって軽減できますが、症状が重い場合は医療スタッフに早めに相談することが大事です。
術後のリハビリと生活管理
回復の目安
大胸骨を切開するような開胸手術の場合、術後6~12週間程度かけてゆっくり回復するのが一般的です。低侵襲手術では回復が比較的早いとされますが、個人差や合併症の有無によって異なります。担当医やリハビリスタッフの指導に沿って少しずつ日常生活に戻すようにしましょう。
退院後のアドバイス
退院前に、以下のような点について医師や看護師から説明を受けるはずです。しっかり確認し、疑問があれば遠慮なく質問しましょう。
- 創部のケア
傷口を清潔に保ち、異常な赤みや分泌物があれば受診する。 - 合併症の徴候
発熱、息切れ、脈の乱れ、むくみなどが出た場合の対応。 - 仕事復帰や運転の目安
重い物を持つ仕事や長時間の運転は、回復程度を踏まえて主治医と相談。 - 薬物療法の継続
抗凝固薬や抗生物質などを処方された場合、自己判断で中断しない。 - 生活習慣の改善
禁煙や節酒、塩分制限、バランスの良い食生活などが心臓の負担を減らす。 - 心臓リハビリテーション
適度な運動や呼吸トレーニング、栄養指導、精神面のフォローを総合的に行うプログラムに参加すると、回復が早まり、再発リスクを減らせると報告されています。
また、米国クリーブランド・クリニックの報告(2021年更新)によれば、手術後の傷口を清潔に保つことで重篤な感染症を予防できることが示されています(下記「参考文献」参照)。日本国内でも、早期の感染対策や適切な傷口ケアを徹底すれば手術後のリスクを大きく減らせると考えられています。
結論と提言
心臓手術は、薬物療法やカテーテル治療では対処が難しい重篤な心臓疾患にとって、重要かつ有効な選択肢となり得ます。近年は低侵襲手術やロボット支援手術の普及に伴い、術後の回復期間が短縮されるケースも増えていますが、従来の開胸手術が最適な場合や長期的なデータがまだ十分に蓄積されていない術式も存在します。結局はそれぞれの患者さんの病態や体力、合併症、生活背景を総合的に鑑みながら、担当医と相談して最適な方法を選ぶことが大切です。
また、術後のリハビリテーションや生活習慣の見直しが回復と再発予防には大変重要なポイントです。禁煙、食事管理、適度な運動など、日常生活の改善が心臓を保護し、将来的な合併症を予防するうえでも欠かせません。近年の研究やガイドラインでも、患者自身の積極的な行動が予後を左右することが明らかになっています。
最終的に、心臓手術を受けるかどうか、どのタイミングで実施するかは患者それぞれの状態によって異なり、専門家の判断と慎重な検討が必要です。不安な点や疑問点があれば、遠慮なく医師や医療スタッフに質問し、納得のいく説明を受けるようにしましょう。
参考文献
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Stone GW, Sabik JF 3rd, Serruys PW ら. Everolimus-Eluting Stents or Bypass Surgery for Left Main Coronary Artery Disease: Extended Follow-Up of the EXCEL Trial.
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免責事項
本記事の内容は、あくまでも一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の診断や治療方針を決定するものではありません。実際に医療上の判断が必要な場合は、必ず専門家(医師・薬剤師など)の診察や助言を受けてください。心臓手術や治療法に関して疑問がある場合は、主治医と十分に相談し、自身の病状やライフスタイルに合った適切なケアを受けるようにしてください。