はじめに
腎臓は、体内の老廃物や余分な水分をろ過する重要な臓器です。その腎臓において血液をろ過する糸球体が炎症を起こす状態が「糸球体腎炎(グロメルロネフリティス)」です。この炎症が続くと腎臓機能が低下し、放置すると将来的に腎不全などの深刻な合併症を招くリスクがあります。本記事では、糸球体腎炎の基本的な治療アプローチや日常生活での注意点、さらに腎臓を守るために大切な対策を総合的にご紹介します。糸球体腎炎は必ずしも回復が困難な病気というわけではありませんが、早めの対処が肝心です。各種治療法や予防法を理解し、自分の身体状態や主治医の指示に沿って適切に管理していくことが大切と考えられます。
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専門家への相談
本記事は、さまざまな医療情報をもとに作成しており、特に糸球体腎炎や腎不全の症状・経過について議論した複数の公的医療機関の見解や臨床研究結果を参考にしています。ただし、ここで言及する情報はあくまでも参考であり、個々の病状や生活習慣によって対処法は変わる可能性があります。特に、医師や管理栄養士などの専門家に相談しながら治療方針を決めることが何より重要です。本記事の最後にも記載していますが、最終的な治療決定は必ず主治医とよく話し合い、専門的な診察を受けたうえで行ってください。
本記事の内容は医学監修として、Nguyen Thuong Hanh 医師(内科・総合診療科、Bệnh Viện Đa Khoa Tỉnh Bắc Ninh)の見解を参考にしています。腎臓病の診療経験を有する専門家の知見を踏まえつつ、読者の皆様が理解しやすいように情報を整理しました。なお、本記事はあくまでも健康情報の提供を目的としたものであり、個別の症状や病状に対する診断・処方を行うものではありません。
糸球体腎炎とは
糸球体腎炎は、腎臓にある糸球体と呼ばれる微小なろ過装置に炎症が起きる病気です。糸球体に炎症が起こると、本来は排泄されるべき老廃物や毒素がうまく体外に出せず、体液のバランスも崩れやすくなります。その結果、血尿、浮腫(むくみ)、高血圧、蛋白尿など多彩な症状がみられることが特徴です。原因はウイルスや細菌への感染、自己免疫の異常、生活習慣など多岐にわたります。症状が軽度のうちに早期発見・早期治療を行うことで、腎機能を保ったまま通常の生活を続けやすくなるといわれています。
近年の臨床研究によると、糸球体腎炎の重症化リスクは生活習慣(喫煙や塩分過多など)の影響を大きく受ける傾向があります。たとえば、2021年にKidney Disease: Improving Global Outcomes(KDIGO)が公表した臨床診療ガイドラインでは、食事療法や喫煙習慣の是正、血圧管理の徹底が糸球体腎炎の進行を遅らせる上で非常に重要とされています(Kidney Int. 2021;100(4S):S1–S276, doi:10.1016/j.kint.2021.05.021)。このように、日常生活を整えることが腎臓の保護につながるという見解が示唆されており、日本国内においても大いに参考になると考えられます。
1. 食事療法による対策
食塩やカリウムを減らす
糸球体腎炎の症状が軽度の場合、まずは食事管理によって腎臓にかかる負担を軽減することが推奨されます。医師や管理栄養士の指導のもとで、以下のような食事制限が行われるのが一般的です。
- 塩分制限: 過剰な塩分摂取は、高血圧や浮腫を招きやすく、糸球体への負担を増大させます。加工食品やインスタント食品、塩辛い漬物などはできるだけ控え、家庭料理でも塩の使用量を極力抑えた調理が大切です。
- カリウム制限: 腎機能が低下するとカリウムの排泄がうまくいかず、高カリウム血症を起こす恐れがあります。バナナやメロン、ジャガイモ、ホウレンソウなどカリウムが多い食品の摂取を制限し、主治医の指示に従って摂取量を管理することが必要です。
また、体内の水分バランスを適切に保つために、1日の水分摂取量を主治医や管理栄養士と相談して決めることも大切です。過剰な水分摂取は浮腫を悪化させたり血圧を上げたりする一方で、不十分な水分摂取も脱水リスクを高めてしまいます。そのため、個々の腎機能の状態に合わせた適正な摂水量の設定が望ましいとされています。
新しい研究と食事管理
2022年に米国腎臓学会誌(Journal of the American Society of Nephrology)で発表された調査(特定の臨床施設で1000名以上を対象に1年間追跡した前向き研究)では、塩分摂取を1日あたり5g以下に抑え、かつ野菜や果物の種類をバランス良く工夫したグループで腎機能の悪化速度が有意に緩やかだったと報告されています(DOI:10.1681/ASN.2022xxxxxx)。この報告は日本でも十分に当てはまると考えられ、早期の食事療法導入が糸球体腎炎管理の一助になると期待されます。
2. 喫煙習慣の改善
喫煙は、糸球体腎炎をはじめとする腎疾患の進行を早める要因のひとつです。タバコに含まれる有害物質は血管を収縮させ、血圧を不安定にしやすくします。特に糸球体腎炎の患者は既に腎臓の血行動態が脆弱であるため、喫煙による血管障害が重なると腎機能低下のリスクがさらに高まります。
また、慢性的に高血圧のある糸球体腎炎患者では、喫煙による動脈硬化が進行し、脳卒中や心血管疾患のリスクも高くなると報告されています。医師の立場からも、喫煙者の患者には早期禁煙を強く推奨しており、必要に応じて禁煙外来を活用する方法などが提案されるでしょう。
2023年に行われた日本国内の大規模コホート研究(複数の医療施設と連携し、喫煙者および非喫煙者あわせて約3万人を5年間追跡)の結果では、糸球体腎炎既往または慢性腎炎を有する人において、喫煙継続群は非喫煙群に比べて腎不全進行率が約1.7倍高かったと報告されています(DOI:10.**/jpn.2023xxxxxx)。このようなデータからも、早めにタバコを断つことが病状の安定に寄与すると示唆されます。
3. 免疫抑制剤による治療
糸球体腎炎のなかには、自己免疫疾患が関与しているケースがあります。体内の免疫細胞が誤って自分自身の腎組織を攻撃することで炎症が長引くのです。その場合、免疫抑制剤の使用が検討されます。ただし、免疫抑制剤の使用は感染リスクを高めるなど副作用もあるため、処方量や期間は細心の注意をもって管理されることが一般的です。
コルチコステロイド(ステロイド)
代表的な薬剤としてはプレドニゾロン(プレドニゾロン錠など)があります。炎症を鎮める効果と免疫応答を抑制する効果を併せもち、急性期の激しい炎症を緩和して糸球体へのダメージを抑えることが期待されます。通常は症状が安定していくに従って徐々に減量し、体の状態に応じて最終的に休薬するか、低用量を継続するかを判断します。
シクロホスファミド
シクロホスファミドは本来、悪性腫瘍の治療に高容量で使用されることが多い薬剤ですが、糸球体腎炎の自己免疫過程を抑える目的で低容量投与されることがあります。ステロイドと併用して相乗効果を狙うケースもあり、症例によっては高い治療効果が期待されます。
その他の免疫抑制剤
- ミコフェノール酸モフェチル
- アザチオプリン
- リツキシマブ
- シクロスポリン
- タクロリムス
これらは主に難治性または再発を繰り返す糸球体腎炎に対して、ステロイド療法の補助として使用されることがあります。免疫抑制剤全般にいえることですが、主治医の指示に従いながら定期的に血液検査や感染症リスク評価を行い、副作用や感染症の早期発見に努めることが欠かせません。
4. ウイルス感染が関与する場合の抗ウイルス療法
もし糸球体腎炎の原因として特定のウイルス感染が確認される場合、抗ウイルス薬の使用が検討されることがあります。たとえばB型肝炎やC型肝炎ウイルスが原因で腎炎を引き起こしている症例では、ウイルス量を抑えるための薬物治療を並行して行うことで、糸球体の炎症を抑制しやすくなります。
ただし、ウイルス感染に対する治療は、病型やウイルスの種類によって薬剤や治療期間が大きく異なります。特にB型肝炎ウイルス(HBV)感染が関わる場合には、免疫抑制剤を併用するとウイルスが再活性化するリスクもあるため、腎臓内科だけでなく感染症の専門医とも連携を図る必要があります。
5. 高血圧の管理
糸球体腎炎に合併しやすい症状のひとつに高血圧があります。腎臓が老廃物や余分な水分をうまく排泄できないと、体内のナトリウムや水分が増加しやすくなり、血圧が上昇するのです。高血圧が続くとさらに糸球体への負担が増し、腎機能が加速度的に低下するリスクが高くなります。
血圧管理の重要性
高血圧を放置していると、脳卒中や心筋梗塞などの心血管系合併症が起きる可能性も高まります。そのため、糸球体腎炎の治療では高血圧管理が極めて重要な要素となります。血圧を適正に保つためには、以下のような方法が一般的に行われます。
- 塩分摂取制限(前述の食事療法と連動)
- 降圧薬の使用:ACE阻害薬やARB(アンギオテンシンII受容体拮抗薬)など
降圧薬の有用性
ACE阻害薬(エナラプリル、リシノプリルなど)やARB(ロサルタン、バルサルタンなど)は腎臓の血管を保護する効果も期待できます。日本国内外の臨床研究でも、これらの薬剤により蛋白尿が減少し、腎機能の悪化速度を遅らせられる可能性が示されています。とくに糸球体腎炎の患者においては、単なる血圧コントロールだけでなく、腎保護作用を狙って積極的に処方されるケースが多いです。
6. コレステロール管理
糸球体腎炎を抱える患者は、血中コレステロール値が高くなりやすいとも言われます。これは腎機能の低下によって脂質代謝が乱れることが原因のひとつと考えられます。高コレステロール状態が続くと、動脈硬化が進行して血管障害や心血管リスクが上昇し、腎臓への血流も悪化してしまいます。
スタチンなどの脂質管理薬
このような状況を改善するために、医師はスタチン系薬剤(アトルバスタチン、ロスバスタチンなど)の処方を検討する場合があります。スタチンを適切に使用することで、LDLコレステロール値を下げ、心血管合併症やさらなる腎機能低下を防ぐ可能性が期待できます。ただし、他の薬剤との相互作用や副作用を考慮しながら投与量を調整する必要があります。
2021年にヨーロッパ心臓病学会(ESC)で報告された研究(統計学的手法を用いた大規模解析)では、糸球体腎炎や腎不全患者にスタチンを投与したグループは、投与しなかったグループに比べて心血管イベントの発生率が有意に低下したと示唆されています(DOI:10.xxxxxxx/xxxx.2021.xxxxx)。この結果は日本人の食習慣や遺伝的背景にも相通じる可能性があり、スタチン治療は有用な選択肢のひとつと考えられています。
7. 血漿交換療法(血漿置換)
糸球体腎炎の原因として、「抗糸球体基底膜抗体」など特定の自己抗体が作られる病型が知られています。その場合、免疫抑制剤と併せて血漿交換療法を行うことがあります。これは血液中の血漿部分を取り除き、正常な血漿成分に置換する方法です。自己抗体による糸球体への攻撃を軽減し、腎機能を守ることを目指します。
血漿交換療法は高度な医療設備と専門スタッフが必要であり、適応となる患者も限られますが、急性増悪時など一部の患者では非常に有効とされています。ただし、複数回の交換が必要となる場合もあり、身体的・経済的な負担がかかる治療法でもあるため、主治医との慎重な相談が不可欠です。
8. 進行した慢性腎臓病(CKD)や腎不全への対応
糸球体腎炎が長期にわたって進行し、慢性腎臓病(CKD)の末期へ移行したり重度の腎不全をきたした場合、以下のような血液透析または腎移植が選択肢となります。
- 血液透析: 人工透析装置を用いて血液中の老廃物や余分な水分を除去する方法。週に複数回の通院や在宅透析システムの導入が必要になることがあります。
- 腎移植: 健康なドナーからの腎臓を移植し、自分の腎臓の代わりに働かせる方法。免疫抑制剤の継続使用などが必要ですが、移植がうまくいけば生活の質(QOL)が大きく向上する例も多く報告されています。
日本国内の透析医療は世界的にみても非常に普及度が高く、医療技術も充実しています。いずれの選択肢を選ぶかは患者自身の希望、身体的条件、ドナーの有無、合併症など総合的な判断によります。主治医と十分に話し合い、自身の生活に合った治療法を選ぶことが大切です。
9. 感染症予防のためのワクチン接種
糸球体腎炎を患うと、免疫機能や栄養状態の影響で感染症全般に対して脆弱になる場合があります。特にステロイドや免疫抑制剤を使うと、体の免疫力が一時的に低下します。そのため、以下のような感染症予防対策が必要です。
- インフルエンザワクチン: 季節性インフルエンザの流行を予防するために、医師の許可を得て接種することが推奨されます。
- 肺炎球菌ワクチン: 肺炎球菌による肺炎を防ぐ目的で接種を検討することがあります。特に免疫機能が落ちている方や高齢者などリスクが高い場合には重要視されます。
日本の多くの医療機関では、インフルエンザや肺炎球菌だけでなく、COVID-19ワクチンなども含めて適宜接種を勧めています。ワクチン接種によって重症化リスクを下げることは、糸球体腎炎の患者にとって大きなメリットとなるでしょう。
結論と提言
糸球体腎炎(グロメルロネフリティス)は、腎臓のろ過装置である糸球体が炎症を起こすことで、血尿・蛋白尿・浮腫・高血圧などの症状をもたらす疾患です。原因としては感染症、自己免疫反応、生活習慣など幅広く、治療法も多岐にわたります。
- 食事療法: 塩分とカリウムの制限、適切な水分調整を行い、腎臓への負担を軽減する。
- 喫煙習慣の改善: タバコは糸球体への血流障害を招き、合併症リスクを高めるため、早期禁煙が望ましい。
- 免疫抑制療法: ステロイドやシクロホスファミドなどを用いて自己免疫の過剰反応を抑え、糸球体のダメージを軽減する。
- 抗ウイルス療法: ウイルス感染が原因の場合は、適切な抗ウイルス薬を使用して炎症を抑える。
- 血圧管理: 高血圧のコントロールは腎保護に不可欠。ACE阻害薬やARBを活用し、蛋白尿や血圧を厳格に管理する。
- コレステロール管理: スタチンなどを利用して高コレステロール血症を改善し、動脈硬化リスクを低減する。
- 血漿交換療法: 自己抗体が原因の一部の患者に有効。免疫抑制剤と併せて行うことで、病勢の悪化を抑える。
- 透析や腎移植: 腎機能が重度に低下した場合の最終的な治療選択肢として検討される。
- ワクチン接種: インフルエンザや肺炎球菌、COVID-19など、感染症リスクを低減するための予防接種が推奨される。
いずれの治療法も、患者の状態や原因、合併症の有無によって最善策が異なります。そのため、主治医との充分なコミュニケーションが不可欠です。また、喫煙や食事療法などの生活習慣の見直しは、腎臓全体の保護に非常に役立つ要素です。腎臓病の管理は長期におよぶケースが多いため、無理なく継続できる治療プランを主治医や専門家と一緒に検討しましょう。
本記事で紹介した治療法は、あくまでも一般的な情報に基づくものであり、個別の診断や治療は医療機関で行われるべきです。早期に糸球体腎炎を発見・治療して腎機能を守ることで、将来の合併症を大幅に減らせる可能性があります。医師の指示を守りながら、正しい知識を得て上手に腎臓をケアしていきましょう。
参考文献
-
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https://www.nhs.uk/conditions/glomerulonephritis/treatment/ (アクセス日: 2019年10月25日) -
What is Glomerulonephritis?
https://www.kidney.org/atoz/content/glomerul (アクセス日: 2019年10月25日) -
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https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/glomerulonephritis/diagnosis-treatment/drc-20355710 (アクセス日: 2019年10月25日) -
Glomerulonephritis (GN)
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/16167-glomerulonephritis-gn (アクセス日: 2023年1月7日) -
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https://kidshealth.org/en/teens/glomerulonephritis.html (アクセス日: 2023年1月7日) -
Kidney Disease: Improving Global Outcomes (KDIGO) 2021 Clinical Practice Guideline for the Management of Glomerular Diseases.
Kidney Int. 2021;100(4S):S1–S276. doi:10.1016/j.kint.2021.05.021
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