はじめに
のどの奥に白や黄色の小さな塊ができて、口臭やのどの違和感の原因となることがあります。これらは一般的に「扁桃石(へんとうせき)」あるいは「アーモンド状のバイオフィルム」として知られ、実際には扁桃の組織内に存在する多くのくぼみやすき間(陰窩・くうか)に、膿や細菌、食べかす、粘液、剥がれ落ちた上皮細胞などが蓄積・固化して形成されたものです。ときには「しこり」や「かたまり」と感じられる場合もありますが、小さな扁桃石であればほとんど自覚症状がなく経過することも珍しくありません。しかし、扁桃石があると口臭・のどの不快感・飲み込みづらさ・炎症や痛みを引き起こすリスクが高まります。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
本記事では、扁桃石がどのようなメカニズムで形成されるのか、また、日常生活で試せる6つの簡単な対策(自宅での取り方)と、症状が重い場合に受けられる代表的な医療処置(4つの方法)について解説します。さらに、もしこうした対策を行っても違和感や炎症が改善されず、飲み込みづらさや痛みが強い、もしくは口臭がどうしても治まらないような場合には、放置せず耳鼻咽喉科などの専門外来で相談することをおすすめします。
専門家への相談
本記事で紹介する情報は、医療機関の受診や医師による診断・治療の代替となるものではありません。のどに強い痛みや腫れを感じている場合、あるいは発熱や飲み込み困難、呼吸困難といった症状がある場合は、できるだけ早く耳鼻咽喉科などで医師の診察を受けましょう。特に、扁桃石が長期間にわたって消失せず、繰り返し炎症や感染を起こしてしまう方は、専門的な治療を含めた総合的な対策が必要となります。本記事で取り上げる知見の一部は、Bệnh viện Nhân dân 115(ベトナム)に勤務しているBác sĩ CKII Vũ Hải Long(※医師本人の氏名は元の記事に記載があったものとして、そのままお示ししています)の見解にもとづくものであり、あくまでも参考情報です。治療方針を決定する際には、ご自身の主治医や耳鼻咽喉科専門医とよく相談してください。
扁桃石とは何か
扁桃石は、医学的にはアーモンド形をした扁桃組織内のくぼみ(陰窩・くうか)に生じる固い塊で、白色や黄白色を帯びたものが多いとされています。元々、扁桃には免疫機能をサポートするために複数のくぼみがあり、ここで免疫細胞や粘液が病原体(細菌、ウイルスなど)と戦ったあとの老廃物がうまく排出されないまま蓄積してしまうと、石灰化を起こして固まることがあります。扁桃石は英語で“Tonsil stone”とも呼ばれ、サイズも1mmほどの小さいものから数mmを超える大きなものまでさまざまです。複数個できる場合もあり、ときには口蓋扁桃の表面の窪みにひとつだけ存在しているときもあれば、何箇所かにわたって点在していることもあります。
この扁桃石自体は良性であり、必ずしも重大な病気につながるわけではありません。ただし、大きく育ってしまい扁桃に強い炎症が生じたり、のどの痛みや口臭がひどくなったり、あるいは繰り返し感染症を起こしたりする場合は、治療の対象となることが多いです。また、扁桃石はその特有のにおいから、慢性的な口臭の原因になりやすい点も見逃せません。特に、口臭が対人関係で大きな悩みになることもあり、生活の質(QOL)を低下させることがあります。
ここから先は、まず自宅でも比較的簡単に取り組める6つの方法(扁桃石を取り除く、あるいは再形成を防ぎやすくする方法)について解説し、続けて医療機関で実施されることのある4つの一般的な処置方法を紹介します。
自宅で試せる6つの方法
以下の6つの方法は、のどに大きな痛みや発熱などがない場合に「試してみる価値がある」とされるシンプルな取り組みです。ただし、どの方法も、のどの状態や個人差によっては「石が取れない」「強い嘔吐反射を引き起こす」「出血してしまう」というリスクがある点は理解しておきましょう。とりわけ小さなお子さんや、慢性的な扁桃炎が疑われる方は、自己判断をせずに専門医に相談することを強くおすすめします。
1. 低圧の口腔洗浄器(家庭用ジェット洗浄)を利用する
歯や歯間をきれいに保つために使われる家庭用の口腔洗浄器(いわゆる「デンタルフロスウォータージェット」など)を、扁桃石に向かってやさしく噴射すると、表面に浮き出ている石が取れやすくなる可能性があります。ただし、水圧が強すぎると出血や痛みを伴う恐れがあるため、必ず「低圧モード」や「ソフトモード」を選び、鏡で扁桃石の位置を確認しながら行いましょう。噴射した扁桃石がのどの奥へ落下すると、気管に入りかけてむせることがあるので注意が必要です。小さな子どもには原則として行わないほうが無難です。
2. ノンアルコールのうがい薬でうがいする
扁桃石は、口腔内の細菌数が多いほど形成・悪化しやすいと考えられています。そこで、アルコールを含まないうがい薬を適度に利用すると、口内を清潔に保つ手助けになり得ます。実際に、ノンアルコールのうがい薬でうがいをすると、粘液や一部の食べかすを洗い流す効果が期待できるため、扁桃石が小さい場合には比較的簡単に落ちたり、自然に排出されたりします。アルコール入りのうがい薬を使うと刺激が強くて粘膜が荒れる可能性があるため、まずは刺激の少ない種類を選ぶことがおすすめです。
3. 塩水でこまめにうがいをする
塩水(生理食塩水に近い濃度)でうがいすることも、扁桃石除去やのどの健康維持にとって効果的です。一般的にはコップ1杯(およそ240ml)のぬるま湯に対して小さじ半分の塩を溶かし、1回あたり10〜15秒ほど口をゆすいで吐き出す方法が推奨されています。塩水によるうがいは、以下のようなメリットがあります。
- 口の中・のどの細菌をある程度洗い流す
- 扁桃石による不快感や口臭を和らげる
- 炎症が軽度の場合は痛みが軽減する可能性がある
近年の細胞実験(2016年発表)では、生理食塩水によるうがいが歯肉線維芽細胞の創傷治癒に寄与する可能性が示唆されています(参考文献末尾参照)。日本人の日常生活においても、手軽に取り入れやすい方法でしょう。
4. リンゴ酢(アップルビネガー)を薄めてうがいする
リンゴ酢を水で十分に希釈してうがいすると、わずかながら酸の働きで石灰化した扁桃石が分解されやすくなるという説があります。ただし、リンゴ酢を高頻度で使用すると歯のエナメル質に負担をかけたり、胃腸が弱い方には刺激が強すぎたりするおそれがあります。試す場合は、コップ1杯のぬるま湯に大さじ1杯程度のリンゴ酢を混ぜ、1日2〜3回程度に留めるのが望ましいです。また、りんご酢以外にも自然由来の食材で口腔環境に良い影響を与える例としては、りんごそのものの摂取(抗菌作用が期待される有機酸を含む)、にんじんをよく噛んで食べる(唾液量増加による口腔内洗浄効果)、ヨーグルト(プロバイオティクスによる善玉菌補給)や玉ねぎ(硫化物系の抗菌成分を含む)の摂取などが挙げられます。ただし、これらはあくまで間接的に口臭や扁桃石を軽減しやすい可能性があるという程度であり、扁桃石を直接削るわけではありません。
5. 綿棒(コットンスワブ)を使って取り除く
鏡を見ながら、扁桃に付着している扁桃石を綿棒でそっと押し出す方法も広く知られています。しかし、扁桃の表面には非常に細かい血管が多く、少し強くこすったり、奥のほうを刺激しすぎたりすると出血や嘔吐反射が起こりやすいので注意が必要です。実際に出血を伴うと感染リスクが上がる可能性があり、痛みや腫れを悪化させる要因になる場合もあります。そのため、やむを得ず綿棒で押し出す方法を試すなら、角度や圧力の加え方に十分気を配り、少しでも痛みや出血があればすぐに中止しましょう。子どもには誤って奥まで綿棒を入れ、のどを傷つけるリスクが高いので基本的に推奨されません。
6. 歯ブラシでのケア
毎日の歯磨きに加えて、舌苔(舌の汚れ)を丁寧に除去することは口臭対策として大切です。舌苔を減らすことで、細菌の増殖を抑え、扁桃石が形成されにくくなる可能性があります。また、歯ブラシの裏面にある突起部分や舌ブラシを使ってごく軽い力で扁桃の表面を刺激すると、石が外れやすくなる場合もあります。ただし、のどの奥まで歯ブラシを突っ込みすぎると嘔吐反射が起きる恐れがあるほか、子どもの場合は喉を傷つけかねないので要注意です。
以上のような自宅ケアをこまめに行っても、扁桃石が大きくてなかなか取れない、あるいはすぐに再発してしまうような場合には、専門医による診察・治療を検討するタイミングでしょう。
病院で行われる代表的な4つの治療・処置
扁桃石が小さくて日常的なケアで対処できるうちは良いのですが、大きく育って口臭や痛み、のどのつかえ感が強い場合、または繰り返し感染を起こして扁桃炎が慢性化している場合などには、医師が以下のような処置を提案することがあります。
1. レーザー治療
レーザー光線を使用して、扁桃の表面や陰窩部分を一部焼灼し、くぼみを浅くして石がたまりにくい状態にする方法です。局所麻酔下で行われることが多く、出血や痛みが最小限に抑えられるよう工夫されています。施術後は1週間程度で通常の食事や日常生活に復帰できるケースが一般的ですが、個人差があるため医師からの指示をよく守ることが大切です。
2. コブレーション(Coblation)治療
コブレーション治療は、高周波エネルギー(ラジオ波)と電解質液(生理食塩水など)を組み合わせてプラズマ場を作り、対象の組織を蒸散・切除する技術です。レーザーよりも熱による損傷が少なく、痛みや出血が抑えられるとされます。扁桃石を生じやすい陰窩を縮小する目的で用いられることが多く、切除範囲が比較的狭い場合は入院不要となるケースもあります。
3. 扁桃摘出術(アデノイド切除を伴うことも)
慢性扁桃炎を繰り返したり、扁桃周囲膿瘍を何度も起こす場合、医師が根本的な再発防止策として扁桃摘出術を提案することがあります。これは扁桃組織そのものを切除し、石がたまる空間を物理的になくしてしまう治療です。従来の外科的切除(剥離)以外にも、レーザー法やコブレーション法など、近年はさまざまな手術手技が存在します。手術後はある程度の痛みや出血リスクがあるため、実施の要否は患者本人と主治医がしっかり話し合ったうえで決定されます。
4. 抗生物質(抗菌薬)の使用
扁桃石そのものは抗菌薬で溶けたり消えたりするわけではありません。ただし、扁桃石が原因で強い細菌感染を起こして腫れや痛みが生じている場合、医師は一時的に抗生物質を処方することがあります。しかしこれは症状を抑えるための対症療法であって、扁桃石の根本的解決策ではありません。特に長期の抗生物質使用には耐性菌形成の懸念など副作用もあるため、漫然と続けることは推奨されません。
受診すべきタイミング
自宅ケアや簡易的な対処法を試しても改善が見られず、以下のような症状を伴う場合には、できるだけ早めに耳鼻咽喉科などを受診しましょう。
- 強いのどの痛み、飲み込みづらさ(嚥下困難)
- 扁桃が大きく腫れて呼吸がしづらい
- 持続的な発熱や悪寒
- 耳にまで放散する痛み
- 扁桃から膿や分泌物が出ている
- 扁桃周辺から出血がある
- 睡眠時無呼吸や就寝時のひどいいびき
これらの症状は、扁桃石だけでなく重篤な扁桃周囲膿瘍や慢性的な扁桃炎などを疑うサインでもあります。放置してしまうと、のど周辺の感染が広がり、より複雑な治療が必要になる可能性があるため注意が必要です。
研究・専門家の見解(2021年以降の最新知見より)
近年(2021年以降)発表された研究の中には、扁桃石が口臭と深く関連していることや、口腔内衛生の改善が扁桃石の形成予防に有用であることを示したものがあります。たとえば2021年にCureusに掲載された「Tonsil Stones – An Overlooked Entity」(Khattri S, Kc S, Shah A, Dahal S, 2021, Cureus, doi: 10.7759/cureus.15523)は、扁桃石の臨床的特徴や口臭との関係について詳細に報告し、地理的・人種的背景を問わず口腔内衛生の向上が重要であると結論づけています。また、同じ2021年にBraz J Otorhinolaryngolで報告された研究(Acar T, Yilmaz S, 2021, doi: 10.1016/j.bjorl.2019.12.010)は、扁桃石の有無と口臭の強さを比較検討し、やはり扁桃石を有する群では口臭が顕著に強まる傾向があることを示唆しています。これらの知見は、日本国内でも参考になり得るものであり、日々の歯みがきやうがい習慣の徹底が、扁桃石の改善・予防の一助となる可能性を示すと言えるでしょう。
まとめと推奨事項
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扁桃石(へんとうせき)とは
扁桃のくぼみに細菌や粘液、食べかすなどが溜まって固まった塊のことで、口臭やのどの違和感を引き起こすことがあります。必ずしも深刻な病状ではありませんが、石が大きくなれば扁桃周囲に炎症や強い痛みを招く場合もあります。 -
自宅での6つの取り除き方
1) 低圧モードの口腔洗浄器を使う
2) ノンアルコールのうがい薬でうがいする
3) 塩水(生理食塩水に近い濃度)でこまめにうがいする
4) 薄めたリンゴ酢でうがいする(ただし長期・高頻度は歯や胃に負担)
5) 綿棒でそっと押し出す(出血に注意)
6) 舌磨きややさしい歯ブラシでのどの奥をケア
これらはあくまで軽度の場合や自己ケアが可能な場合に限られ、痛みや腫れ、出血がある場合は専門医への相談が望ましいです。 -
医療機関での4つの処置
1) レーザー焼灼
2) コブレーション法
3) 扁桃摘出手術
4) 必要に応じた抗生物質(ただし根本治療ではない)
いずれの処置も症状や再発リスクに応じて検討されます。のどの状態が悪化している、もしくは重度の繰り返し感染がある場合には、手術を含め総合的な治療が考慮されます。 -
受診の目安
自宅ケアを行っても改善しない、あるいは嚥下困難、強い痛み、口臭の持続、扁桃の大きな腫れや出血を伴うときは医師の診察を受けましょう。ほかの病気が隠れている可能性も否定できないため、自己流で治そうとするよりも早期受診が安全です。 -
口腔内衛生の徹底が予防につながる
日々の歯みがき、舌磨き、塩水やノンアルコールうがい薬などによるうがいは口内細菌を減らし、扁桃石の形成を抑える上で効果が期待できます。また、扁桃石ができやすい人は、唾液の分泌を促すようにこまめな水分補給やキシリトールガムの利用なども検討すると良いでしょう。
重要な注意点
本記事の内容は、日本国内に住む方々が日常的に参考にしやすい視点をもとにまとめていますが、 個々の体調や疾患の経過によって有効性や安全性が異なる 場合があります。特に、小児や高齢者、基礎疾患をお持ちの方は、些細な刺激でものどを傷つけたり感染を広げたりするリスクがあるため、独断のケアは控えましょう。いずれの方法についても「強い痛みや出血が起こった」「改善せずに悪化する」などの兆候が見られたら、必ず専門医にご相談ください。
免責事項
この記事はあくまでも一般的な健康情報の提供を目的としており、医師の診断や治療を置き換えるものではありません。のどの症状に不安を感じる場合は、速やかに耳鼻咽喉科など専門の医療機関を受診し、適切な検査と治療方針についてご相談ください。
参考文献
- Tonsil Stones (American Family Physician) アクセス日 2023/03/23
- Tuesday Q and A: Self-care steps may help prevent tonsil stones from returning (Mayo Clinic) アクセス日 2023/03/23
- Tonsil stones – symptoms, causes and removal (Allina Health) アクセス日 2023/03/23
- Tonsil Stones (Cleveland Clinic) アクセス日 2021/06/18
- Rinsing with Saline Promotes Human Gingival Fibroblast Wound Healing In Vitro (PLOS ONE) アクセス日 2021/06/18
- Tonsil stones (Healthdirect) アクセス日 2021/06/29
- 6 Natural Remedies for Tonsil Stones (Healthgrades) アクセス日 2021/06/18
- How to get rid of tonsil stones (Medical News Today) アクセス日 2021/06/18
- Everything You Need to Know to Remove and Prevent Tonsil Stones at Home (Healthline) アクセス日 2021/06/18
- Khattri S, Kc S, Shah A, Dahal S. “Tonsil Stones – An Overlooked Entity.” Cureus. 2021;13(6): e15523. doi:10.7759/cureus.15523
- Acar T, Yilmaz S. “Evaluation of halitosis in patients with or without tonsil stones: a prospective controlled study.” Braz J Otorhinolaryngol. 2021;87(1):84-89. doi:10.1016/j.bjorl.2019.12.010
本記事は健康に関する一般的な情報をまとめたもので、最終的な判断や治療は医療従事者との相談を前提としてください。特に扁桃石による症状が慢性的に続く場合は、適切な診察と治療により合併症のリスクを軽減できます。疑問や不安を感じた際には、遠慮せず専門の医師にご相談ください。ここに記載した情報は参考を目的としたものであり、すべての方に当てはまるわけではありません。早めの医療機関受診がより安全かつ確実です。どうぞお大事にしてお過ごしください。