はじめに
男性にとって精巣(以下、便宜的に「睾丸」と表記)や陰嚢(いんのう)のトラブルは、日常生活や健康に大きく影響する場合があります。そのなかでも、陰嚢が腫れ上がる「陰嚢腫脹(いんのうしゅちょう)」は見過ごせない症状です。実際に腫れが痛みを伴う場合もあり、原因によっては重大な病状に進行するおそれがあります。本記事では、睾丸や陰嚢が腫れる状態の定義や原因、具体的な症状、リスク要因、治療法、予防策などを多角的に解説します。さらに、近年の国内外の医療研究を踏まえ、日本の読者が理解しやすいように補足情報を盛り込みました。日常生活の中でどのような点に注意するとよいのかもあわせて解説します。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
専門家への相談
本記事は多くの医療文献やガイドラインを参考にしていますが、具体的な治療や検査については、必ず医師の診察を受けることが大切です。症状が進行してしまうと、取り返しのつかないトラブルになる可能性もあるため、迷ったときには早めに専門家へ相談してください。
陰嚢腫脹(睾丸が腫れる)とは
定義
陰嚢腫脹とは、睾丸が収まっている陰嚢(精巣や精巣上体などを包む袋状の皮膚)が通常より腫れ、異常に大きくなる状態を指します。多くは、液体のたまりや炎症、腫瘍、血液の鬱積(うっせき)など、さまざまな要因で陰嚢が膨張することで起こります。痛みを伴わないケースもあれば、急激に痛みが増すケースもあります。痛みが強い場合は、救急対応が必要になることもあります。
近年、日本国内でも泌尿器科や男性専用外来を受診する患者数が増加しており、原因としては外傷(打撲など)やウイルス感染(流行性耳下腺炎=おたふくかぜ等)、腫瘍、静脈のうっ滞などが見られます。腫脹が続くと、最悪の場合は精巣の機能が失われる恐れもあるため、早期の受診・診断が重要です。
睾丸が腫れる症状を引き起こす主な要因
- 水腫(すいしゅ):精巣や精巣上体周辺に液体がたまる状態
- 精巣上体炎:感染や細菌侵入による炎症
- 精索静脈瘤:精巣に流れ込んだ血液がうっ滞し、静脈が拡張する
- 鼠径ヘルニア:腹部の一部が陰嚢に脱出する
- 精巣捻転(ねんてん):精巣が捻じれて血行が遮断される救急疾患
- 精巣腫瘍:悪性腫瘍の場合、初期症状として陰嚢の腫れが認められることがある
主な症状・特徴
代表的な症状
- 陰嚢の腫れ:見た目に明らかな腫大、触ったときの違和感
- 痛み:圧痛やズキズキとした鈍痛、激しい急性痛など、原因によりさまざま
- しこり(腫瘤):触診で明確なしこりがある場合は、精巣腫瘍などの可能性
- 重だるさ:歩行や立ち仕事中に陰嚢が重く感じる
- 発熱・悪寒:感染症を伴う場合は全身症状が出ることもある
これらの症状は原因疾患によって大きく変わります。とくに痛みが強い、赤みや熱感を伴う場合、あるいはしこりが疑われる場合は、速やかに受診してください。
具体的な原因ごとの特徴
以下は、代表的な原因とその症状・特徴です。
-
水腫(たまった液体による陰嚢腫脹)
- 通常は痛みが軽いか、まったくないこともある
- 陰嚢の皮膚は炎症が少ないため、変色や著しい熱感が見られない場合が多い
-
精巣上体炎・精巣炎
- 発熱や局所の熱感・腫れ・痛みを伴う
- 細菌感染やおたふくかぜ(流行性耳下腺炎)のウイルスなどが原因になる場合がある
-
精巣捻転
- 突然、激しい痛みが生じる急性状態
- 数時間以内に治療しないと血流が途絶して精巣が壊死するリスクが非常に高い
- 10代の若年者に多いとされるが、成人にも発生し得る
-
精索静脈瘤
- 血液が逆流・うっ滞して静脈が拡張し、片側の睾丸(特に左側)が腫れやすい
- だるさや痛みは軽度のことが多いが、不妊の原因になる可能性も指摘される
-
鼠径ヘルニア(脱腸)
- 腹圧が高まる状態(咳や排便時など)で、腸の一部が陰嚢に落ち込み、腫れが大きくなる
- 触れると腸管の形を感じることがある
- 激しい痛みがある場合は「嵌頓(かんとん)ヘルニア」を疑い要注意
-
精巣腫瘍
- 初期の痛みが軽度または無痛のまま腫瘤が大きくなり得る
- 睾丸そのものが硬く腫れる感じがある
- 放置すると腫瘍が進行し転移リスクが高まる
いつ医師の診察が必要か
- 陰嚢が明らかに腫れてきた、あるいは短期間で急にサイズが変化
- 痛みを伴う腫脹(夜間に目が覚めるほどの痛み、歩行が困難になるような激痛など)
- 触診でしこりを感じる:大きさを問わず気になる硬い部分がある
- 発熱などの全身症状を伴う
- 排尿障害や尿に血が混ざる(尿道炎や性感染症の合併が疑われる場合も)
これらに当てはまる場合は、放置せず速やかに医療機関へ相談するのが望ましいです。
発症リスクを高める要因
- 性感染症(STI)
- 性交渉により細菌・ウイルスが感染するリスク
- コンドームなどの使用を怠る場合に上昇する
- 鼠径ヘルニア(脱腸)の既往歴
- ヘルニア手術後に再発の可能性があるケースも含む
- 慢性疾患
- 心不全、肝機能障害、腎機能障害などで体液バランスが崩れると、水腫を引き起こしやすい
- 外傷・打撲
- 激しいスポーツや事故などで陰嚢を強打する
- 免疫低下状態
- 長期間のステロイド治療、糖尿病などがあると感染リスクが高まる
陰嚢腫脹の原因と代表的な疾患
1. 外傷
激しい運動や衝撃、事故などで陰嚢を強く打撲すると、内部に出血が起き、腫れを引き起こすことがあります。軽度であれば自然治癒するケースもありますが、強い痛みや内出血が疑われる場合は医療機関の受診が望ましいです。
2. 心不全(うっ血性心不全)
心臓が血液を十分に送り出せないため、体の各所でうっ血が起こり、陰嚢にも過剰な体液が溜まることがあります。腫れは痛みを伴わないことが多いですが、原因となる心不全の治療が不可欠です。
3. 精巣上体炎
細菌やウイルスが精巣上体(精巣の後ろ側に付着している管)に感染し、炎症を起こすものです。痛み、腫れ、熱感を伴うことが多く、性感染症(たとえば淋菌感染症やクラミジア感染など)が背景にあることもしばしば報告されます。
最近の研究データ
2021年以降、日本の泌尿器科領域では性感染症による精巣上体炎が増加傾向にあると報告されるケースがあります。特にクラミジア感染症は若年層で増えており、精巣上体炎の原因として注意喚起されています(国内学会発表より)。
4. 精巣捻転
精巣自体が捻じれて血流が途絶する状態です。捻じれた部分が戻らない限り血行が遮断され、数時間以内に治療しなければ精巣が壊死(えし)するリスクが非常に高い緊急疾患です。突然の激痛に加え、陰嚢が赤く腫脹するケースも少なくありません。
近年の臨床知見
日本国内の救急医療体制では、夜間に急な精巣捻転で来院する患者も報告されています。捻転の時間経過が長いほど手術で救済できる確率が下がるため、できるだけ早い受診が推奨されています。
5. 精巣腫瘍
初期に痛みを感じにくい腫瘍が多く、腫れやしこりを自覚しにくいまま進行する場合があります。腫瘍が陰嚢全体を大きくすることもあり、進行すると転移のリスクが高まります。
6. 鼠径ヘルニア
腹腔内の腸や脂肪組織が陰嚢内へ脱出することで腫れが生じます。立ったり座ったりするときに腫れが大きくなりやすく、腸が挟まって血流が途絶する「嵌頓ヘルニア」になると激痛を伴い、緊急手術が必要です。
7. そのほか(術後の合併症など)
過去に陰嚢や下腹部の手術歴があると、リンパの流れや血流が変化し、陰嚢が腫れやすくなる場合があります。術後に腫れや痛みが続く場合は再診を受けましょう。
治療方法
1. 薬物療法
- 抗生物質:感染症が原因の場合
- 消炎鎮痛薬:炎症や痛みの軽減
- 利尿薬:心不全など体液過多の場合、むくみ軽減目的
2. 手術療法
- 精巣捻転:緊急手術で捻転を元に戻し、血行を再開
- ヘルニア根治術:腸の脱出部位を補強し、再発を防ぐ
- 精巣腫瘍:腫瘍の切除や化学療法、放射線療法を組み合わせる
- 水腫・精索静脈瘤:状態によっては外科的処置で液体や血液の鬱滞を除去
3. 自宅ケア・生活管理
- 陰嚢の冷却:打撲や軽度の炎症時、24時間以内であれば氷などで患部を冷やすと腫れを軽減
- 局所安静:運動や長時間の歩行を控える
- サポーター着用:陰嚢を安定させ、痛みを緩和
- 鎮痛薬の使用:市販の鎮痛薬で軽減可能な痛みなら適宜服用し様子を見る(ただし長引く場合は医師へ)
臨床での考え方
医療機関での治療と自宅ケアを組み合わせることで、炎症や腫れの程度を抑えられます。ただし、自己判断のみで症状が改善しない場合は、深刻な疾患を見落としている可能性もあるため受診が欠かせません。
診断方法
1. 問診・視診・触診
- 発症時期・発症様式:急性(数時間で悪化)か慢性か
- 痛みの性質:刺すような痛み、重い痛み、拍動性の痛み
- 熱感や発赤の有無
- その他の症状:排尿障害、全身倦怠感、発熱など
2. 画像診断(超音波検査)
陰嚢の超音波検査は、腫れの内部構造を確認し、水腫・捻転・腫瘍などを見分けるうえで非常に有効です。ドップラー機能によって血流の有無を評価でき、精巣捻転の緊急診断にも役立ちます。
予防策
1. 性感染症の予防
コンドームの適切な使用などにより、淋菌やクラミジア感染を防ぎ、精巣上体炎のリスクを下げられます。
2. ヘルニア予防
腹圧が急激に上がる動作(重い物を持ち上げるなど)を避け、体幹を強化することで鼠径ヘルニアのリスクを低減できます。すでに軽度のヘルニアがある場合は、こまめに医師の診察を受け悪化を防ぎましょう。
3. おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)のワクチン接種
小児期に適切なワクチンを接種することで、ウイルスによる睾丸炎の発症リスクが下がり、将来的な不妊リスクや重症化を防ぐ効果も期待できます。
4. 日常的なセルフチェック
陰嚢を優しく触って腫瘤や左右差を確認する習慣をつけると、腫れやしこりを早期に発見できます。お風呂上がりなど、体が温まっているときに行うと触覚が敏感になり、違和感を察知しやすくなります。
5. 生活習慣の改善
- 禁煙・節酒:喫煙は血流障害を招くおそれがあり、各種疾患のリスクファクター
- バランスの良い食事:ビタミンCなど免疫力アップに寄与する栄養素を意識
- 過度なストレス回避・適度な運動:免疫力維持と血流改善に有用
研究動向と注意点
最新研究による知見
-
2021年以降の性感染症増加報告
クラミジアや淋菌などの感染症が日本国内で若年層を中心に増加しているとの報告があり、精巣炎・精巣上体炎の発症例が増えている可能性が指摘されています。適切な予防策と早期診断が大切です。 -
精巣捻転の救急対応
国内外の泌尿器科学会のガイドラインでは、急性痛と腫脹がある場合、数時間以内に手術で整復しないと精巣壊死のリスクが著しく上がると警鐘を鳴らしています。時間が勝負の病態であるため、痛みを我慢しないことが重要です。 -
精索静脈瘤と不妊との関連
日本の生殖医療領域では、精索静脈瘤が男性不妊の要因になるケースも少なくないとしており、腫れや痛みが軽度でも検査を行うことで将来的な不妊リスクを回避できる可能性を示唆しています。
個人差への配慮
同じ疾患でも、年齢や体質、既往歴によって症状の出方や治療経過が変わるため、「自分は大丈夫」と安易に判断しないようにしましょう。また、当てはまる症状がないからといって完全に安心できるわけでもありません。気になる違和感があれば病院へ行くことをおすすめします。
推奨される受診科
陰嚢腫脹の主な診療科は泌尿器科です。ただし、原因が心臓疾患や全身性の疾患に及ぶ場合は、循環器科や消化器科など横断的な診療が必要になることもあります。初めて受診する際は泌尿器科を選択するのが無難です。
注意点と総合的なアドバイス
- 自己判断を避ける
「痛みが軽いから大丈夫」と放置すると、重症化する恐れがあります。 - セルフチェックの習慣化
入浴時に触診し、左右の差やいつもと違うハリ感がないか確認しましょう。 - 予防接種・性感染症対策
ワクチンや安全な性交渉の心がけは、陰嚢腫脹の大きな原因を抑えることにつながります。 - 生活習慣の見直し
禁煙や適度な運動、栄養バランスは全身の血流や免疫を整え、陰嚢腫脹の予防にも有効です。
結論と提言
陰嚢が腫れる症状は、単なる打撲から重大な疾患まで幅広い原因があり得ます。軽度なものでも放置すると悪化し、精巣機能に影響が及ぶ可能性があります。急に強い痛みを感じたり、しこりや腫れに気づいたりした場合は、早急に病院へ向かい、必要な検査と治療を受けることが大切です。日常生活でもセルフチェックや生活習慣の改善、性感染症の予防、定期的な健康診断などを通じて、男性特有のトラブルを未然に防ぎましょう。
※本記事は医療上のアドバイスを代替するものではなく、参考情報を提供する目的で作成されています。自己判断による治療は避け、必ず医師や薬剤師などの専門家に相談してください。
参考文献
- Porter, R. S., Kaplan, J. L., Homeier, B. P., & Albert, R. K. (2009). The Merck manual home health handbook. Whitehouse Station, NJ, Merck Research Laboratories. (印刷版・p.1472・Scrotal Swellingに関する記述)
- Scrotal Swelling(MedlinePlus)アクセス日: 26/7/2022
- Scrotal masses(Mayo Clinic)アクセス日: 26/7/2022
- Scrotal Swelling in Children(Stanford Children’s Health)アクセス日: 26/7/2022
- Acute scrotal pain or swelling(The Royal Children’s Hospital Melbourne)アクセス日: 26/7/2022
- What are swollen testicles?(Cleveland Clinic)アクセス日: 26/7/2022
医師への相談をおすすめします
本記事の内容は一般的な参考情報を提供するものであり、医学的アドバイスを完全に代替するものではありません。症状や体質は人によって異なり、個別の診断や処方は医師のみが行えます。気になる症状があれば、早めに医療機関を受診してください。もし診断や治療法に疑問がある場合、セカンドオピニオンを取得することも検討すると安心です。