精神疾患は遺伝するのか?健康な子どもを育むための方法とは?
精神・心理疾患

精神疾患は遺伝するのか?健康な子どもを育むための方法とは?

はじめに

私たちの家族の中で、もし誰かが精神疾患を抱えていると知ったとき、それは本当に心が痛む出来事といえます。日常生活や学業、仕事への影響だけでなく、いざ結婚や出産を考える段階になると、「自分の病気は子どもに遺伝するのだろうか?」「子どもに苦労をかけてしまわないだろうか?」という大きな不安に直面することもあるでしょう。とりわけ、“精神疾患は遺伝するのか”という疑問は多くの方にとって切実な問題です。本稿では、遺伝と環境要因が精神疾患に与える影響、そして妊娠中や子育ての段階でどのような点に気をつければよいのか、最新の知見も踏まえながら詳しく解説します。日常生活の中でのストレス対策や、家庭内のコミュニケーションの重要性などについても触れ、今後ご自身やご家族がより健康的な生活を営むうえで役立つ情報をまとめています。

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精神疾患は「遺伝する」のか?

「精神疾患」という言葉の誤解

かつては「精神疾患=いわゆる“狂気”」という誤解が広く存在しました。しかし医学的には、気分や思考、行動に異常を引き起こすさまざまな症状が「精神疾患」と総称されます。たとえば、不安障害やうつ病、双極性障害、統合失調症、自閉症スペクトラムなど、多岐にわたる状態が含まれます。

同じ遺伝的素因が複数の疾患リスクを高める?

2017年に精神疾患の関連遺伝子を研究する国際的な学会によって公表された解析では、同じような遺伝子の変異が、以下の5つの疾患リスクに関係する可能性が示唆されました。

  • 統合失調症
  • 大うつ病
  • 自閉症スペクトラム
  • 注意欠如・多動症(ADHD)
  • 双極性障害

これら5つの疾患は、カルシウムイオンチャネルなど神経活動にかかわる遺伝子変化が共通して影響しているかもしれないという見方です。症状面にも類似点があり、診断時に複数の疾患を慎重に鑑別しなければならないことがあります。

もっとも、実際に遺伝子変異ひとつだけで特定の精神疾患が必ず生じるわけではなく、環境要因との相互作用で発症リスクが変化すると考えられています。複数の遺伝子変異が組み合わさって影響し、そのうえで生活環境、社会要因、ストレスへの対処などが加わり、総合的に発症の可能性が高まるとされるからです。

遺伝要因はあくまで「一部」

精神疾患が「どのくらいの割合で遺伝的影響を受けるのか」は、病気の種類によっても異なります。遺伝子の存在自体が絶対的に発症を決定づけるのではなく、「遺伝子がない人に比べれば多少リスクが高まる」程度にとどまるケースも少なくありません。実際、統合失調症やうつ病の患者さんが家族にいても、その子どもが一生問題なく過ごす場合も多く、逆に家系に精神疾患の人が一人もいなくても、環境要因やストレスなどにより発症する例もあります。

一方で、遺伝子研究の分野では、特定の遺伝子群が脳の神経活動にどのように影響し、どの段階で症状発現が誘発されるかについて、近年さらに詳しく調査されています。たとえば2021年に発表された研究(Power RA. “It’s complicated: The genetic architecture of major depression.” The Lancet Psychiatry, 8(9), 715–716, doi:10.1016/S2215-0366(21)00197-8)では、大うつ病などの気分障害に遺伝的要因が関与する可能性が高いとしつつも、環境要因がそれを大きく左右すると指摘されています。つまり、「遺伝的要素があるから絶対に発症する」と決めつけることはできない、というのが現在の主流の見解です。

さらに2022年にJAMA Psychiatryで発表された大規模解析(Howard DMら, doi:10.1001/jamapsychiatry.2022.1942)では、抑うつ傾向を持つ人の中に特定のゲノム領域の変異が見られることが報告されましたが、同時に生活習慣や周囲からのサポート環境など、後天的な影響を十分に受けることも強調されています。これらの研究は、日本を含むさまざまな人種・地域で検証が続けられており、国内においても同様のリスク評価が徐々に進みつつあります。

家族に精神疾患がある場合のリスクとは?

家族や親族に同じような精神疾患をもつ人がいると、本人にもそのリスクが高まる可能性があります。ただし、その「高まるリスクの幅」は大きく、絶対に発症するとまでは言えません。遺伝的素因だけでなく、育った家庭環境や幼少期のトラウマ、ストレスへの対処法、社会的サポートの有無など、多面的な要素が組み合わさって症状が現れるからです。

たとえば同じ遺伝子型を持っていたとしても、両親や兄弟から十分な愛情と安定した養育を受け、ストレスマネジメントの機会が多い環境で育つと、精神疾患を発症しにくいという報告もあります。反対に、遺伝的リスクがさほど高くないにもかかわらず、過度の虐待や社会的孤立などの深刻な環境要因により精神疾患へ移行する例もあります。このように、遺伝子だけで物事を断定できないのが実情です。

環境要因の影響:どのような状況がリスクを高めるか

遺伝と環境は切り離せません。とりわけ次のような環境要因が加わると、精神疾患発症リスクがさらに高まる可能性があります。

  • 幼少期のトラウマ
    幼少期に性的虐待や身体的暴力、極端なネグレクトなどを受けると、脳の発達に影響を及ぼし、将来の精神疾患リスクが増すとされています。
  • 家族内の重度なストレス
    両親の不和、過度な期待や叱責、家族間のコミュニケーション不足など、家庭内の心理的緊張が長期にわたると、子どもの心理的健康に大きく影響します。
  • 学校や社会におけるいじめ・暴力
    いじめや差別、過度な競争からくるストレスは、思春期の子どもや若年者がメンタルヘルスを損ねる大きな要因となります。
  • 薬物乱用やアルコール依存
    飲酒や薬物、喫煙などの依存性物質を乱用することで、脳の神経伝達物質に異常が生じる恐れがあり、精神疾患を誘発する可能性があります。
  • 長期にわたる不適切な生活リズム
    不規則な睡眠リズムや過度な夜更かし、運動不足が続くと、ストレスへの対処力が低下し、精神面の脆弱性が高まるという指摘があります。

妊娠・出産を考えるうえでの留意点

「家系に精神疾患の人がいるが、子どもができたときに同じような病気を抱えてしまわないか」と心配する方も多いことでしょう。遺伝要因に加え、妊娠中や出産後の環境要因にも目を向けることが大切です。

妊娠中の過ごし方

  • 栄養バランスとサプリメント
    葉酸(フォリン酸)は、赤ちゃんの神経管閉鎖障害を予防する効果が期待されるため、日本でも厚生労働省が妊娠前からの摂取を推奨しています。また、胎児の脳発達をサポートするため、鉄分やカルシウム、ビタミンDなどさまざまな栄養素にも留意しましょう。
  • ストレス対策・メンタルヘルスの維持
    妊娠期・産後はホルモンバランスの変化が大きく、うつ症状や不安症など精神面が不安定になりやすい時期です。パートナーや家族、友人とのコミュニケーションを密に取り、必要であれば早めに専門家に相談することが重要です。
  • 薬剤使用の注意
    妊娠中に服用する薬剤は胎児に影響を与える可能性があります。自己判断で薬を中断すると母体にも影響が及ぶため、必ず主治医と相談して服薬の可否を決めてください。
  • 電磁波や有害物質の回避
    スマートフォンなどの使用時間をやや控えることや、極端に汚染された環境を避けることも推奨される場合があります。実際にどの程度影響があるかははっきり断定されていませんが、少しでもリスクを下げたいという観点から、無理のない範囲で対策をとることは有意義です。

出産後の育児環境づくり

  • 乳幼児期のメディア接触管理
    テレビやスマホ、タブレットなどから受ける強い刺激は、長時間になるほど子どもの発達に好ましくない影響があるとの指摘があります。1日あたり30~60分程度にとどめ、視聴内容を親がしっかり管理すると安心です。
  • 心の成長を支えるコミュニケーション
    親子のふれあいを大切にし、子どもが好きな遊びや学習に一緒に取り組むことは、脳や心の健全な発達を促します。子どもが悩みを抱えたときも、ただ叱責するのではなく、まず話を聞き、感情を受け止めることを心がけてください。
  • 有害物質への注意
    鉛を含む古い塗料など、子どもが口に入れると毒性のある物質には特に気を配ります。住環境を定期的に点検し、安全を確保してください。
  • 虐待やいじめの見逃し防止
    子どもが言葉を十分に操れない幼少期は、知らない間に暴力やいじめ被害に遭っている可能性があります。普段から子どもの様子をよく観察し、何か異変を感じたら早めに専門機関や医療機関に相談しましょう。

家族全員で取り組むライフスタイルの改善

遺伝要因があっても、なくても、精神疾患は誰にでも起きうる可能性がある以上、日ごろから家族みんなでメンタルヘルスを意識した生活を送ることが大切です。

  • 栄養バランスのよい食事
    魚や野菜、果物、全粒穀物など栄養バランスが整った食事は、脳の機能維持に有益です。人工添加物や過剰な塩分・糖分を控え、できるだけ自然に近い形で食材を摂るよう心がけましょう。
  • 定期的な運動
    ウォーキングやジョギング、水泳、自転車など、自分が楽しめる運動を1日30分ほど、週5回目安で続けると、ストレス解消や良質な睡眠が得られやすくなるとされています。
  • 十分な睡眠
    7~9時間の睡眠を安定的に確保することが望ましいとされ、寝る時間・起きる時間を毎日ある程度固定すると、体内リズムを整えやすくなります。
  • 社会的つながり・学びの習慣
    コミュニティに参加したり、新しい趣味や学習を始めることで、脳に良い刺激が入りやすくなります。自己肯定感も高まりやすく、気分障害などを防ぐ助けになるとの研究報告があります。
  • 薬物やアルコールの乱用を避ける
    遺伝リスクがなくても、薬物やアルコール依存は多くの精神疾患を誘発しやすい要因です。心が落ち込みがちな方やストレス耐性が低い方ほど注意が必要です。

「精神疾患は遺伝するか」を知ることの意義

「遺伝する可能性があるから、子どもを持つことをあきらめる」という極端な発想に陥る必要はありません。遺伝的素因があったとしても、環境要因を適切に整え、親自身がメンタルケアをしながら子育てすれば、子どもが健やかに育つ可能性は十分にあります。

実際、2022年に発表された大規模調査(Howard DMら, doi:10.1001/jamapsychiatry.2022.1942)でも、「遺伝的にうつ病リスクが高い親を持っても、ポジティブな家庭環境を維持した場合、子どもの精神的健康は大きく損なわれない」という結果が示されています。日本の子育て環境においても、親子の結びつきを深め、適度な運動習慣やバランスの良い食生活を促進するなど、実践できる対策は多岐にわたります。

精神疾患を防ぐうえでの推奨事項

以下は一般的なアドバイスであり、あくまで参考情報です。具体的な対応は症状や個人の状況により異なりますので、専門家への相談を検討してください。

  1. 早期受診と専門家の意見
    家族や本人に気になる症状がある場合は、できるだけ早めに医療機関やカウンセリングサービスを受診することが大切です。
  2. 予防的なカウンセリングや教育
    子どもの頃からメンタルヘルス教育の機会を持つことで、問題が起きたときに適切に助けを求めやすくなります。
  3. コミュニケーションを大切にする環境づくり
    家族や友人との関係を良好に保つことは、ストレス軽減や心の安定に大きく寄与します。
  4. 生活習慣の徹底
    規則正しい睡眠、適度な運動、バランスのとれた食事などは、精神疾患リスクを下げるうえで重要な柱です。
  5. 必要に応じて服薬や専門的治療を受ける
    すでに診断を受けている場合は、医師の指導のもと服薬や治療を継続し、症状の悪化を防ぎましょう。

結論と提言

精神疾患は確かに遺伝的要因を持つ場合があります。しかし、それがすべてを決定づけるわけではありません。遺伝子は「発症のしやすさ」に影響する可能性を高める要素のひとつではありますが、同じような遺伝素因を持っていても、育った環境やストレス対策、家族や周囲からのサポートにより、まったく症状が出ないことも多々あります。逆に、遺伝的リスクが低くても、環境要因が重なると発症に至る可能性も否定できません。
妊娠中の栄養管理や、幼少期の育児環境の整備、家族全員のライフスタイルの改善など、多面的な取り組みを行うことで、リスクを軽減できる余地は十分あります。重要なのは「遺伝だけに意識を奪われず、家族や自分自身の生活環境を見直すこと」です。
もし不安な点や具体的な症状がある場合は、早めに専門の医療機関やカウンセリングの場で相談し、必要に応じて正しいケアや治療を受けてください。精神疾患に対する正しい理解と知識があれば、自分や家族の心をより良い状態で保ち、健やかで充実した生活を営むための大きな助けとなります。

本記事は一般的な情報提供のみを目的としており、正式な医療アドバイスの代替ではありません。体調や症状に不安がある場合は、必ず専門家(医師やカウンセラーなど)にご相談ください。

参考文献

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