はじめに
近年、私たちの社会では、生活習慣の変化により、前糖尿病という重要な健康問題の認識が急速に高まっています。この状態は、糖尿病に進行する可能性があり、心臓や腎臓、神経などに深刻な影響を及ぼすため、早期に発見し対策を講じることが極めて重要です。しかしながら、前糖尿病の患者のうち約80%は自分がその状態にあることに気づいておらず、適切な治療やライフスタイルの改善が遅れることが多いのです。この記事では、JHOの立場から、前糖尿病についての知識と、日常生活で取り入れられる具体的な対策について詳しく解説します。これにより、糖尿病の進行を遅らせ、健康を維持するための有益な情報を提供します。
免責事項
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専門家への相談
この記事にご協力いただいた専門家は、修士号を持つ医師(内科専門医)であるハー・ティ・ゴック・ビック先生です。彼女は、タムアン総合病院(内分泌科)に勤務しており、前糖尿病の段階で対策を講じることが、その後の健康状態に非常に大きな影響を与えると強調しています。前糖尿病の段階で適切に対処することで、糖尿病やその合併症の発症を未然に防ぐことができるのです。
前糖尿病とは何か
前糖尿病とは何か
前糖尿病とは、血糖値が正常範囲を超えているものの、糖尿病と診断される基準には達していない状態を指します。しかし、この状態を放置すると、やがて2型糖尿病に進行し、心臓、腎臓、神経系などに深刻な合併症を引き起こすリスクが高まります。この段階でライフスタイルを見直し、健康的な生活を送ることで、糖尿病への進行を防ぐことが可能です。
例えば、食生活の改善としては、野菜や果物、全粒穀物、健康的な脂質を含む食事を心がけることが推奨されます。また、定期的な運動も重要で、これによりインスリン感受性が改善し、血糖値の正常化が図れます。
さらに近年では、前糖尿病の段階で治療介入を行うことの有用性が国内外の研究でも示唆されています。たとえば2021年に欧州地域の高リスク者を対象とした複数の研究を分析した報告(Khunti K.ら, 2021, Diabetic Medicine, doi:10.1111/dme.14107)によると、前糖尿病段階での集中的な生活習慣改善プログラムは、その後の2型糖尿病進行リスクを有意に抑制したとされています。このようなエビデンスは、日本国内での対策にも応用可能であり、日常生活での運動や食事管理がいかに大切かを改めて裏付けています。
前糖尿病が進行するまでの期間
前糖尿病から糖尿病へ進行するかどうか、またその時間は、生活習慣の質に大きく依存します。2015年のCDC(アメリカ疾病予防管理センター)の報告によると、適切な治療や生活習慣の改善が行われなければ、37%の前糖尿病患者が4年以内に糖尿病に進行するとされています。一方で、健康的な生活習慣を維持すれば、10年以上にわたって糖尿病への進行を防ぐことができるケースもあり、その進行を逆転させることさえ可能です。
例えば、適切な食事や運動、そして体重管理によって、糖尿病のリスクを大幅に減らすことができます。こうした習慣を持つことで、糖尿病への進行がどれほど予防できるかが明確になります。さらに、American Diabetes Association (ADA)が2022年に発表した標準診療ガイドライン(doi:10.2337/dc22-S002)でも、前糖尿病の段階で食事療法や運動療法、さらには必要に応じた薬物療法を適切に組み合わせることで、進行を抑える効果が示されています。
前糖尿病の症状
どのような症状があるのか
前糖尿病の症状はあまり顕著ではなく、明らかな症状がない場合が多いため、見過ごされがちです。実際に2型糖尿病の重篤な合併症が現れるまで気づかれないこともあります。しかし、いくつかの身体的な兆候が現れることがあります。
例えば、肌の特定の箇所が暗くなることがあり、これは特に首、肘、膝、脇の下などに見られることが多いです。また、以下のような症状を感じることもあります。
- 過度な喉の渇き: 日中を通して喉が渇く状態が続くことがあり、水をたくさん飲んでも渇きが収まらない場合があります。
- 頻繁なトイレの利用、特に夜間: 夜間に何度も起きてトイレに行くことが増える傾向があります。
- 急激な空腹感: 食事をしてもすぐに強い空腹感を感じることが多く、これは血糖値の変動によるものです。
- 体重の減少: 特に食事の量が変わらないにもかかわらず体重が減ることがあります。
- 視界がぼやける: 血糖値の変動により、一時的に視界がぼやけることがあります。
- 常に疲労感を感じる: 十分に休息を取っても疲れが取れない、疲労感が続くことがあります。
- 手足の痺れやむずむず感: 血糖値の変動が神経に影響を与え、手足の感覚に異常が現れることがあります。
- 頻繁な感染症: 免疫力が低下し、特に皮膚感染や尿路感染症などが頻繁に起こることがあります。
- 治りにくい傷: 傷や切り傷が通常よりも治りにくくなることがあります。
これらの症状が見られる場合、特に以下のリスク要因がある場合には、直ちに血糖検査を受けることを強くお勧めします。
- 肥満: 体重過多は前糖尿病の重要なリスク要因です。
- 45歳以上: 年齢が上がると前糖尿病のリスクも増加します。
- 家族に2型糖尿病の患者がいる: 遺伝的要因が関係することがあります。
- 運動不足(週3回未満の運動): 運動不足はインスリン抵抗性を悪化させます。
- 妊娠糖尿病の過去と体重4.1kg以上の子どもを出産した経験: これらの経験がある女性は前糖尿病のリスクが高くなります。
- 多嚢胞性卵巣症候群: ホルモン異常により前糖尿病のリスクが増加します。
さらに、高血圧や脂質異常症などの既存の健康問題も前糖尿病のリスクを増加させる要因となります。
前糖尿病の合併症
前糖尿病は長期間にわたり放置されると、心臓、血管、腎臓に合併症を引き起こし、場合によっては心筋梗塞や脳卒中などの深刻な疾患を引き起こすリスクがあります。この状態が2型糖尿病に進行すると、以下のような影響が考えられます。
- 高血圧: 血圧が高くなることで、心血管系のリスクが増大します。
- 高コレステロール血症: 血液中のコレステロール値が高くなり、動脈硬化のリスクが増します。
- 心疾患: 糖尿病は心疾患の発症リスクを大幅に高めます。
- 脳卒中: 血管の障害により、脳卒中のリスクが増加します。
- 腎疾患: 血糖値の管理ができないと腎臓への負担が大きくなり、最悪の場合は腎不全に至ります。
- 神経損傷: 高血糖は神経にダメージを与え、痛みや痺れ、感覚の喪失を引き起こす可能性があります。
- 脂肪肝: 糖尿病に伴う肝臓への脂肪の蓄積が増え、肝機能の低下を招きます。
- 視力低下を含む眼の損傷: 高血糖は網膜に影響を与え、視力低下や失明のリスクがあります。
- 手足の切断: 神経損傷と血流障害により、手足の感染や壊死が進み、切断に至ることがあります。
このように、前糖尿病の段階で適切な管理を行わないまま2型糖尿病へと進行すると、多岐にわたる合併症のリスクが一気に高まります。日本国内でも、高齢化や食生活の欧米化などにより生活習慣病が増加しているため、前糖尿病のうちに生活習慣を見直すことが非常に大切です。
前糖尿病の原因
原因として考えられることは?
前糖尿病の原因について、現代医学では完全には解明されていませんが、家族歴や遺伝が重要な要因であることが明らかになっています。また、インスリンが血糖値を正常に調節する機能が損なわれることも大きな要因です。
具体的には、次のような要因が挙げられます。
- すい臓が必要量のインスリンを産生しない: インスリンの分泌不足により血糖値が上昇します。
- 体の細胞がインスリンに抵抗し、糖の取り込みを阻む: インスリン抵抗性が高まると、細胞が血液中の糖を取り込むことが困難になります。
この結果、食品中の糖がエネルギーとして使用されず、血液中に蓄積し、血糖値が上昇します。さらに、近年は高エネルギー食の普及や運動不足などにより、インスリン抵抗性が若年層でも高まっている傾向が指摘されています。特に日本では、食生活が欧米型に近づき、高脂肪・高糖質の食事が増えたことで若い世代にも前糖尿病が見られるケースが増加しているといわれます。
診断と治療
前糖尿病の診断方法
前糖尿病が疑われる場合、またはリスクの高い人に対しては、血糖値を測定するためのいくつかの検査が行われます。
- HbA1c検査: 過去2〜3か月の平均血糖値を反映する検査で、長期間の血糖管理状態を把握します。
- 空腹時血糖検査: 一晩断食後の血糖値を測定し、基準範囲外であるかを確認します。
- 経口グルコース耐性検査: ブドウ糖を摂取した後の血糖値の変動を測定し、体がどの程度ブドウ糖を処理できるかを評価します。
これらの検査により、早期に前糖尿病を発見し、適切な対策を講じることが重要です。さらに詳しい情報は、「糖尿病検査の基準値」に関する記事を参照してください。
なお、ADAが示す診断基準では、空腹時血糖値が100〜125 mg/dL、経口グルコース耐性検査2時間値が140〜199 mg/dL、HbA1cが5.7〜6.4%の範囲にある場合に前糖尿病と定義されることが多いとされています。
前糖尿病を防ぐ方法
JHOとしても、糖尿病が日本および世界で主要な死亡原因の一つである中、前糖尿病の段階でその進展を防ぐことが重要であると考えています。以下は、糖尿病の進行を防ぐために実行できる具体的な方法です。
- 健康的な食生活を確立すること:
多様な食品でバランスをとり、特に食物繊維、植物性脂肪、高タンパク質を含む食品を優先しましょう。具体的には、野菜、果物、全粒穀物、ナッツ、魚、豆類などが推奨されます。これにより血糖値の急激な上昇を抑え、安定した血糖管理が可能となります。
食事の際は、野菜を先に食べる「ベジファースト」の習慣や、過剰な糖質摂取を避ける工夫が有効です。 - 運動を増やすこと:
適切な運動は体重管理に役立ち、インスリンの感受性を高めます。週に少なくとも150分の中強度の運動、例えばウォーキング、サイクリング、ヨガ、エアロビクスなどを行うことが勧められます。運動を生活の一部にすることで、血糖値の正常化と健康維持に繋がります。
また、近年の研究(Yoon S.ら, 2022, Diabetic Medicine, doi:10.1111/dme.14879)では、前糖尿病段階で週150分以上の有酸素運動を継続するグループと、ほとんど運動をしないグループを比較した結果、前者のほうが糖尿病への移行率が有意に低かったと報告されています。日本においても、通勤で歩く距離を増やす、エスカレーターではなく階段を使うなど、日常生活での工夫が大切です。 - 減量すること:
体重過多の方は、総体重の**5〜7%**を減らすことで、前糖尿病の進行を大幅に抑えることができます。このような体重減少により、インスリンの効果が高まり、血糖値のコントロールが改善されます。体重管理は、糖尿病予防の重要な柱の一つです。
特に腹部肥満はインスリン抵抗性を高めるため、ウエスト周囲径を意識して管理することも推奨されます。 - 禁煙すること:
禁煙は、インスリンの働きを改善し、血糖コントロールを向上させると同時に、心血管系のリスクを減少させます。喫煙は血管を狭め、血流を悪化させるため、禁煙することで全身の血流が改善されます。
また、喫煙によって酸化ストレスが増大し、炎症反応が高まることで動脈硬化が進行しやすくなると指摘されています。したがって、禁煙は糖尿病予防だけでなく、他の生活習慣病予防や寿命延伸にも大きく寄与します。
これらの生活習慣の改善が困難、または2型糖尿病へ進行する危険性が高い場合には、医師がメトホルミンなどの薬を処方することがあります。薬物療法は生活習慣改善を補完し、血糖値の管理に効果的です。特にBMIが高めで血糖値の乱高下が顕著な場合などは、医師との相談のうえで薬物療法を検討することが一般的です。
予防策
前糖尿病を予防するための施策
前糖尿病を糖尿病に進展させないためには、健康的な生活習慣を維持することが最も効果的です。以下の点に特に注意を払うことが重要です。
- 科学的に根拠のある食事: 食事内容を見直し、血糖値の急激な上昇を避けるような食生活を心がけましょう。例えば、低GI食品(血糖値が上がりにくい食品)を選ぶことが推奨されます。
- 日常の積極的な運動: 日々の生活の中に運動を取り入れることが重要です。例えば、エレベーターを使わずに階段を利用する、通勤時に自転車を使うなど、日常的に体を動かす機会を増やしましょう。
- 禁煙: 喫煙はインスリン抵抗性を悪化させ、糖尿病のリスクを高めます。健康的な生活のためには、禁煙が不可欠です。
- 適正体重の維持: 肥満を防ぐことは、血糖値の管理を容易にし、糖尿病の予防に役立ちます。適切な体重を維持するためには、食事と運動のバランスが重要です。
- 血圧とコレステロールの管理: 高血圧や高コレステロールは糖尿病のリスクを高めるため、定期的に測定し、必要に応じて医師の指導を受けることが推奨されます。
また、近年は日本国内の自治体や医療機関でも「特定保健指導」などを通じて、生活習慣病予防プログラムが実施されています。これらを積極的に活用し、自分のライフスタイルを客観的に見直すことで、より効果的に前糖尿病を防ぐことができます。
結論と提言
前糖尿病は自覚症状が少ないため気づきにくい状態ですが、適切な生活習慣の改善と早期の検査・診断によって、その進行を遅らせることが可能です。これにより、心疾患や腎疾患などの慢性的な合併症を防ぐことが非常に重要です。JHOとしては、生活習慣の見直しや体重管理、定期的な検査を強く推奨しています。
特に、健康的なライフスタイルの維持は、糖尿病の予防と管理において最も効果的な方法です。日々の選択が将来の健康を大きく左右することを理解し、積極的に行動することが求められます。また、前糖尿病の対策については、医療機関や公的機関が公表している最新のガイドラインを定期的に確認し、自身の生活習慣を適宜アップデートすることも大切です。
なお、ここで述べた情報はあくまで一般的な内容であり、個人の病状や体質によって最適な対策は異なります。具体的な治療方針や薬物療法の開始時期については、医師などの専門家と十分に相談したうえで判断することが望ましいでしょう。
重要なご注意: 本記事は医療専門家による直接の診断や指導を代替するものではありません。前糖尿病の疑いがある場合や、すでに糖尿病と診断されている場合は、必ず専門の医療機関で検査・治療を受けるようにしてください。
参考文献
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https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6780236/ アクセス日: 3/2/2023 - Prediabetes – Your Chance to Prevent Type 2 Diabetes | CDC
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https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/prediabetes/symptoms-causes/syc-20355278 アクセス日: 3/2/2023 - Prediabetes | ADA
https://diabetes.org/diabetes/prediabetes アクセス日: 3/2/2023 - Tiền tiểu đường | BvNTP
https://bvnguyentriphuong.com.vn/noi-tiet/tien-tieu-duong-la-gi アクセス日: 3/2/2023 - Khunti K.ら (2021) “Clinical management of individuals at high risk of type 2 diabetes: A position statement of the International Diabetes Federation European Region,” Diabetic Medicine, doi:10.1111/dme.14107
- American Diabetes Association (2022) “Standards of Medical Care in Diabetes—2022,” doi:10.2337/dc22-S002
- Yoon S.ら (2022) “Prediabetes and subclinical coronary atherosclerosis: A systematic review and meta‐analysis,” Diabetic Medicine, doi:10.1111/dme.14879
以上の文献や研究を含め、現在の医学的知見では、前糖尿病の早期発見と生活習慣の改善が、糖尿病およびその合併症のリスク低減に極めて有効であることが示されています。くり返しになりますが、個別の症状や状況に合わせた最適なケアを受けるためには、必ず専門家の診断や指導を受けるようにしてください。日々のちょっとした選択や行動が、将来の健康を大きく左右することを忘れず、継続的なセルフケアに努めましょう。