糖尿病患者のための運動ガイド | よくある質問とその回答
糖尿病

糖尿病患者のための運動ガイド | よくある質問とその回答

はじめに

近年、血糖値のコントロールと全身の健康維持を目的として、糖尿病の方々が定期的に運動を行うことの重要性が改めて注目されています。実際に運動を取り入れることで血糖値が安定しやすくなり、体力や心肺機能の向上、体重コントロールにも役立つとされています。しかし、運動のタイミングや強度、血糖値をいつ測るべきかなど、疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。本稿では、糖尿病の方が安心して運動を行うために役立つ知識を幅広く紹介し、血糖値の変動をどう理解すればよいか、運動の安全性を高める方法、さらに運動を行う理想的な時間帯などを分かりやすくまとめます。

免責事項

当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。

糖尿病にはさまざまなタイプが存在しますが、ここではとくに血糖値管理が鍵となる方々(2型糖尿病を中心とした方、インスリン治療を行っている方など)を念頭に解説します。なお、個々の病状や生活習慣は人によって異なるため、何か新たに運動を始める場合や、運動強度を上げたい場合には、主治医に相談することが大切です。

専門家への相談

本記事では、主に内科領域の医師である Nguyen Thuong Hanh 氏(Nội khoa – Nội tổng quát · Bệnh Viện Đa Khoa Tỉnh Bắc Ninh)のアドバイス内容や医学的な知見を参考にしています。この医師は糖尿病を含む内科一般の診療経験を持ち、患者の血糖値管理や運動指導に長年携わってきたとされています。さらに、以下で紹介する情報は海外の糖尿病学会などの権威ある機関、専門誌などからも引用しており、根拠に基づいた内容を目指しています。ただし、あくまで一般的な解説であり、実際の診断・治療方針を決定する際には個別の医師の指導を受けることが必須となります。

運動を始めると血糖値が一時的に上がる理由

運動を始めた直後に、かえって血糖値が上昇してしまうという声を聞くことがあります。これは、運動によって筋肉が大量に動き始めると、体がストレスホルモン(アドレナリンやコルチゾールなど)を分泌し、短時間ではあるものの一時的に血糖値を上昇させることがあるためです。さらに、朝方に血糖値が高めになる「暁現象」と呼ばれる生理的変動が重なると、運動開始時の血糖値が高く出やすくなる場合もあります。

一方、適切なタイミングと適切な強度で運動を続けることで、結果的に血糖値は徐々に下がりやすくなり、長期的には血糖コントロールの改善につながるとされています。とくにインスリン治療中や血糖降下薬を使用中の方は、運動前後の血糖値が高すぎたり低すぎたりしないよう、運動の前に値を確認し、必要に応じて補食や休息時間を調整することが大切です。もし運動後数時間経ってから低血糖症状(ふらつき、手の震え、冷や汗、倦怠感など)が出るようであれば、医師に相談し、薬の量や食事タイミングの見直しが必要となる場合があります。

さらに2022年に学術誌「Diabetes Care」で発表されたアメリカ糖尿病学会(ADA)とヨーロッパ糖尿病学会(EASD)の共同コンセンサスレポート(Buse JB, Davies MJ, et al., 45(11):2753-2786, doi:10.2337/dci22-0034)によれば、運動の開始時点で血糖値が非常に高い状態(たとえば250mg/dLを超える)であったり、ケトン体が出現している場合は、無理に運動をするよりも先にインスリン投与の再確認などを行い、血糖値の安定を優先すべきとされています。これは糖尿病ケトアシドーシスなど重篤な合併症を予防するためにも重要です。

血糖値を測定するタイミング:運動前・運動中・運動後

運動による効果を最大限に得るだけでなく、低血糖や高血糖の危険を避けるために、以下のようなタイミングで血糖値をチェックするとよいでしょう。

  • 運動前
    インスリン注射や血糖降下薬を使用している場合は、運動開始15〜30分前をめどに血糖値を測ります。

    • もし血糖値が100〜250mg/dL程度であれば、安全に運動を始められる可能性が高いと考えられます。
    • 100mg/dL未満であれば、果汁100%ジュースやブドウ糖タブレット、バナナなど15g程度の糖質を補給してから運動を始めたほうが、低血糖リスクが軽減しやすいです。
    • 250mg/dLを超えるような高血糖の場合は、尿中ケトン体が陽性かをチェックし、陽性であれば運動は控え、先に血糖値やインスリン量の調整を検討します。
  • 運動中
    新しい運動メニューを始めたり、運動強度を上げたりした場合には、30分おきなど一定間隔で血糖値を測定し、自分の体がどのように反応するかを把握するのが望ましいです。万が一、血糖値が70mg/dLを下回ったり、手の震えや冷や汗など低血糖を疑う症状が出た場合は、ただちに運動を中止します。ブドウ糖を補給し、15分程度待って再度測定し、血糖値が70mg/dL以上に戻れば運動を続けてもよいでしょう。
  • 運動後
    運動後すぐに血糖値を測定しておくと、その時点での値を把握できます。インスリン治療中の方は、運動終了後数時間経ってから低血糖が起こるケースもあり、これは運動による筋肉のブドウ糖消費が長時間続くためです。特に激しい運動や長時間の有酸素運動を行った際には、就寝前や運動後4〜8時間後の血糖値も確認し、低血糖症状がないか気をつけることが求められます。

糖尿病患者にとって運動は本当に安全か

運動が「安全」かどうかは、個々の病状や血糖値の安定度、合併症の有無などによって変わってきます。結論からいうと、適正な血糖値を保ちながら行う運動は、糖尿病管理においてとても大きなメリットをもたらすと考えられています。

  • エネルギー消費の増加
    運動中は筋肉が活動を活発に行い、エネルギーを消費します。このとき、血中のブドウ糖が利用されるほか、筋肉や肝臓に蓄えられたグリコーゲンも分解されます。その結果、運動後から数時間は血糖値が安定しやすくなる可能性があります。
  • インスリン感受性の向上
    有酸素運動やレジスタンス運動(筋力トレーニング)を行うと、筋細胞がインスリンに反応しやすくなるといわれています。インスリン抵抗性が高い(インスリンが効きにくい)状態の2型糖尿病の方は、定期的な運動でインスリン感受性が改善し、HbA1cが下がりやすくなる可能性があります。
  • 心血管リスクの軽減
    運動によって善玉コレステロール(HDL)の増加が期待でき、心臓病のリスクを下げる一助となります。また、長期的に血糖コントロールが良好になると、高血圧や脂質異常症などの合併症の予防にもつながると考えられます。
  • 体重管理と筋力維持
    運動によるエネルギー消費は、肥満や過体重の改善を助けるほか、筋力維持や骨密度の低下予防にも効果的です。特に中高年の糖尿病患者の場合、適度な運動は筋肉量を保ち、体力や日常生活の活動度を維持する上でも重要といえます。
  • 精神面への好影響
    適度な運動習慣はストレス軽減や睡眠の質向上に寄与することが多く、日々の気分が安定しやすくなると報告されています。

アメリカ糖尿病学会(American Diabetes Association)によれば、1週間に合計150分程度の中等度の有酸素運動、または75分程度の高強度運動を行うと、2型糖尿病の予防およびコントロールにメリットが期待できるという見解を示しています。ただし、実際の運動強度は個々の体力や年齢、合併症状況によって変わりますので、無理なく始めることが原則です。

食後に運動を行う意義

食後は血糖値がもっとも上がりやすいタイミングであり、この時期に運動を行うことで、ブドウ糖が筋肉活動に利用され、食後高血糖のピークを抑えやすくなります。結果として、血管合併症のリスク低減やHbA1cの改善にもつながるといわれています。とくに糖尿病の方は、激しい空腹時に運動を開始すると低血糖を起こすリスクが高まるため、食後1〜3時間程度のタイミングで、血糖値の上昇をある程度見込んだうえで運動をするのが良いと考えられます。

実際に、米国の医療機関が行った研究(2021年にCleveland Clinicのウェブサイトで紹介)でも、食後の軽いウォーキングが血糖変動を安定させ、長期的に心血管系の合併症を減らす可能性が示されています。この研究は2型糖尿病の成人患者を対象としたもので、食後1時間以内に15分から30分程度のウォーキングを毎日続けると、食後血糖が緩やかに下がり、空腹時血糖やHbA1cにも好影響を与えたという報告があり、実生活にも応用しやすい内容だとされています。

夜間の運動は避けるべきか

夜にハードな運動を行うと、交感神経が高ぶり、寝付きが悪くなることがあります。さらに、インスリンを使っている方が夜遅くに高強度の運動をすると、その晩から翌朝にかけて低血糖になりやすくなる可能性があります。したがって、就寝直前の過度な運動は避け、夕食後1〜2時間を目安に、軽めのストレッチやウォーキングなど適度な強度の活動を行うのが望ましいです。

もし夜間に運動を行う場合は、次の点に留意するとよいでしょう。

  • 夕食後、ある程度時間を空けてから始める(消化を考慮)。
  • 血糖値を測定し、極端な高血糖・低血糖でないことを確認。
  • ハードなトレーニングはできるだけ避け、ウォーキングや軽い筋トレ程度にとどめる。
  • 運動後は血糖値を再度チェックし、低血糖の兆候がないかを確認する。

おすすめの運動例と注意点

糖尿病の方が取り組みやすい運動としては、ウォーキング、スイミング、軽めのジョギング、室内自転車、ヨガ、太極拳などが挙げられます。いずれも関節への負担が比較的少なく、有酸素運動として継続しやすいものが多いのが特徴です。

  • ウォーキング
    負担が少なく、誰でも始めやすい有酸素運動です。30分程度の早歩きを週に5回行うだけでも、血糖管理や心肺機能向上に良い影響が期待できます。
  • 筋力トレーニング
    自重トレーニング(スクワット、プランクなど)や軽めのダンベル運動で筋力を維持・向上させると、インスリン感受性が高まりやすくなります。週2〜3回程度、適度に筋トレを取り入れることが推奨されています。
  • ストレッチ・ヨガ
    血行促進や筋肉の柔軟性を高める効果があり、血圧コントロールにもプラスに働く可能性があります。ハードな動きが少ないため、初心者でも始めやすい運動といえるでしょう。

運動時には、低血糖時の補食として糖質をすぐに摂れるもの(ブドウ糖タブレットや小パックのジュースなど)を持ち歩き、安全対策を行っておくことが重要です。とくにインスリン注射を行っている場合、低血糖のリスクがゼロにはならないため、自己管理が求められます。

追加で示唆される最新研究

2023年にアメリカ糖尿病学会(ADA)が発表したガイドライン(Standards of Medical Care in Diabetes—2023, Diabetes Care, 46(Supplement_1): S1-S290, doi:10.2337/dc23-SINT)でも、2型糖尿病の患者に対して運動療法の有用性が強調されました。特に中等度の有酸素運動を定期的に続けることで、食後血糖を含む一日の血糖変動が安定しやすくなること、さらに習慣化した筋力トレーニングが長期的な心血管合併症や腎機能低下のリスクを抑える一因になりうると報告されています。日本国内でも同様の知見が蓄積されており、運動内容を個々の症状に合わせつつ、無理のない範囲で継続することが効果の鍵と考えられています。

結論と提言

糖尿病管理において運動は大きな役割を担っています。適切な方法で行えば、血糖値の改善やインスリン感受性向上、心血管リスクの低下、体重管理など、多方面にわたる恩恵を得られます。ただし、自己判断で急にハードな運動を始めると、低血糖や高血糖のリスクを伴うため、次の点を意識すると安全性が高まるでしょう。

  • 運動前に血糖値を測定し、極端に高い・低い場合はまず調整が必要。
  • 長時間または激しい運動を行うときは、30分おきなどに血糖値を確認する。
  • 運動後も低血糖リスクに備え、数時間後の血糖値を再チェックする。
  • 食後1〜3時間に軽めのウォーキングや有酸素運動を行うと、食後血糖を抑えやすい。
  • 夜遅い時間の過度な運動は避け、就寝前に低血糖を起こさないよう注意する。

もし運動後に何度も低血糖症状が起こるようであれば、インスリンや血糖降下薬の用量調整を含め、医師に相談することが望ましいです。また合併症の有無や体力レベルに応じて、運動内容や頻度は変わりますので、一人ひとりの状況に合わせた計画を立てましょう。

最後に、ここで紹介してきた情報はあくまで一般的な知見であり、個別の診断や治療方針を保証するものではありません。安全に運動を続けるためには、定期的に医療機関を受診し、検査や問診を通じて適切なアドバイスを受けることが大切です。

※本記事の内容は参考情報であり、自己判断による治療や薬剤調整は推奨されません。必ず主治医や医療専門家と相談のうえで行動してください。

参考文献

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